説明

射出成形における、ガス抜きピン

【課題】従来のエジェクタピンのガス抜き方法は、外周部を経路とした排出の為に、ガスから発生した気化した分解物や添加剤の付着や、ガスベントが大きい場合に生じるバリの為に、摺動部のクリアランスを塞いでしまう事による、作動不良の問題があった。
【解決手段】ガス抜きの経路を摺動部とは近接しないエジェクタピンの内側にする事で、作動不良の問題を引き起こす事なく、ガスの排出を可能にできた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融させたプラスチック成形材料(以降、樹脂と表記)を金型に充填させて製品を製造する、射出成形におけるガス抜きピンである。
【背景技術】
【0002】
従来のガス抜き方法は、金型部品の分割部やパーティング面にガスベント及び、ガスニゲと呼ばれる隙間を設けて、金型内に存在している空気及び、成形材料を溶融させた際に発生したガス(以降、総称としてガスと表記)を金型外に排出させている。
また、エジェクタピンの外周とそれを組み込む孔との間にガスベント及び、ガスニゲと呼ばれる隙間を設けてガスを金型外に排出させている。
【0003】
一方、スプルーロックピンとして使用しているZピンに於いては、先端部に段差がある事により、ガスニゲ加工をしても効果が発揮できない為、ガスニゲ加工をしていない。
【0004】
以下、図1〜3により従来のガス抜き方法を説明する。図において、樹脂注入口1から注入された樹脂は、スプルー2、スプルーロック3、ランナー4、ゲート5を通り製品部6に充填される。その際に、ガスを金型外に排出させないと、製品部6に完全に充填されずショートショット(充填不足による不完全形状)やガスヤケ(ガス抜き箇所の不足、または、集中した事によりガスベント7の手前でガスが圧縮され高温になって成形材料が焦げる現象)等の不良に繋がってしまう。
【0005】
ガス抜き不足による問題を解決する為、図2のパーティング(金型の開閉面)11に設けたガスベント7を通りガスニゲ8に、分割部12に設けたガスベント9を通りガスニゲ10にガスが滞留し、順次樹脂が充填される度に各ガスベントからガスニゲにガスが押し出され、金型外に排出させる。(図1の矢印部)
【0006】
前述の方法でも不足する場合や容易に分割できない場合は、図3のエジェクタピン(樹脂の充填後に製品を矢印方向に突き出すピン)13に設けたガスベント14を通りガスニゲ15にガスが滞留し、順次樹脂が充填される度にガスベントからガスニゲにガスが押し出され、金型外に排出させる。(図1の矢印部)
【0007】
但し、ガスベント7、9、14の寸法が小さい場合は、ガス抜きの効果が出なかったり、逆に大きい場合は、樹脂が流れてしまいバリ(金型の隙間に樹脂が流れる事によってできる薄肉状の余肉)が生じてしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献1】「プラスチック金型用部品カタログ2007」、パンチ工業株式会社、2007年、P.96「プラ型用標準部品カタログ2008」、株式会社ミスミ、2008年、P.60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エジェクタピンからのガス抜きは、ガスの排出経路とエジェクタピン13の摺動面が近接してしまう。樹脂から発生するガスには、気化した分解物や添加剤(樹脂の流動性を促進する為に入れられているもの)が含まれており、図3のガスベント14、ガスニゲ15を通って金型外に排出される際に、エジェクタピン13に接触し冷却され、エジェクタピン13の外周に付着し、摺動部のクリアランスを少なくしてしまう為に、エジェクタピン13の作動不良が生じてしまう。
【0009】
また、バリが生じた場合も、摺動部のクリアランスを塞いでしまうので、作動不良が生じてしまう。
【0010】
本発明は、エジェクタピン13からのガス抜きによる問題を解決しようとするものであり、従来通りガス抜きができる上で、作動不良が生じないものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明は上記目的を達成する為に、図4のガス抜きエジェクタピン16の先端部を彫り込み、そこにガスベントを設けたガスベントピース17、18を埋め込む事によって、内側にガス抜きの経路を設けたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス抜きエジェクタピンは、内側にガス抜きの経路を設けた事により、作動不良を引き起こす問題を解決する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】 本発明の背景技術を示す金型の部分断面図
【図2】 パーティング及び、分割部のガス抜き部分の拡大図([図1]のA部詳細図)
【図3】 分割部のガス抜きの代わりにエジェクタピンを使用した際の部分断面図
【図4】 本発明の実施形態を示す部分断面図
【図5】 ガス抜きエジェクタピンの図面
【図6】 ガスベントピース17(ガスベントが2箇所)の図面
【図7】 ガスベントピース18(ガスベントが1箇所)の図面
【図8】 ガスベントピースの構造の詳細図面
【図9】 ガス抜きエジェクタピンにガスベントピースを埋め込む様子を示す断面図
【図10】 ガス抜きエジェクタピンにガスベントピースを埋め込んだ後の平面図
【図11】 ガス抜きエジェクタピンの実施形態を示す断面拡大図([図4]のC部詳細図)
【図12】 ガス抜きZピンの図面
【図13】 ガス抜きZピンにガスベントピースを埋め込む様子を示す断面図
【図14】 ガス抜きZピンにガスベントピースを埋め込んだ後の平面図
【図15】 ガス抜きZピンの実施形態を示す断面拡大図([図12]のD部詳細図)
【図16】 微細穴タイプのガス抜きエジェクタピン先端部の断面図
【図17】 微細穴タイプのガス抜きエジェクタピンの平面図
【図18】 細溝タイプのガス抜きエジェクタピンの平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図5〜18に基づいて説明する。
【0015】
図5のように、ガス抜きエジェクタピン16の先端部を、放電加工機により2.4mm×2.5mm深さ3mmの彫り込み加工19を行なう。
【0016】
その後、細穴加工機によりガスニゲ孔20を加工する。
【0017】
次に、図6に示すガスベントが2箇所あるガスベントピース17を2個、図7に示すガスベントが1箇所あるガスベントピース18を1個製作する。
【0018】
ガスベントピース17、18の幅2.5mmの側面部に耐熱用の接着剤を塗布し、図9、図10のように、ガスベントピース17を中央に、ガスベントピース18のガスベントが外側に向くよう両端に配置して、4箇所のガスベントができるように彫り込み加工19に埋め込んで接着する。
【0019】
このガス抜きエジェクタピン16を金型に組み込み樹脂を充填すると、樹脂注入口1から注入された樹脂は、スプルー2、スプルーロック3、ランナー4、ゲート5を通り製品部6へと充填され、ガスは、製品部6の奥側へと押し込まれて行く。
【0020】
製品部6の奥側へと押し込まれたガスは、図11に示すガス抜きエジェクタピン16に埋め込まれたガスベントピース17、18に設けたガスベント21、ガスニゲ22、底部ガスニゲ23を通り、ガスニゲ孔20にガスが滞留し、順次樹脂が充填される度にガスベントからガスニゲにガスが押し出され、底面又はガスニゲ孔20に連通する孔20から図1に示す金型空間部より金型外に排出させる。
【0021】
ガス抜きZピンに於いては、図12のように、ガス抜きZピン24の先端部を放電加工機により1.6mm×2.5mm深さ3mmの彫り込み加工19を行なう。
【0022】
その後、細穴加工機によりガスニゲ孔20を加工する。
【0023】
次に、図6に示すガスベントが2箇所あるガスベントピース17を1個、図7に示すガスベントが1箇所あるガスベントピース18を1個製作する。
【0024】
ガスベントピース17、18の幅2.5mmの側面部に耐熱用の接着剤を塗布し、図13、図14に示すように、ガスベントピース17のガスベントが外側に向くよう配置して、3箇所のガスベントができるように彫り込み加工19に埋め込んで接着する。
【0025】
最後に、彫り込み加工を行なった際に加工されてしまった溝25をレーザー溶接で埋めた後、研削加工にて彫り込み加工前の状態に復元させる。
【0026】
このガス抜きZピン24を金型に組み込み樹脂を充填すると、樹脂注入口1から注入された樹脂は、スプルー2、スプルーロック3へと充填され、スプルーロック部に溜まったガスは、図15に示すガス抜きZピン24に埋め込まれたガスベントピース17、18に設けたガスベント21、ガスニゲ22、底部ガスニゲ23を通り、ガスニゲ孔20にガスが滞留し、順次樹脂が充填される度にガスベントからガスニゲにガスが押し出され、底面又はガスニゲ孔20に連通する孔20から図1に示す金型空間部より金型外に排出させる。
【0027】
ガスベントの加工方法に於いては、図16、17に示すように、ガス抜きエジェクタピン26のガス抜き孔20を貫通させずに放電加工をし、残された板状の部分にφ0.04mmの孔を多数開けた、微細孔タイプのガス抜きエジェクタピンも可能である。
【0028】
また、図18に示すように、微細孔の代わりに細穴加工機にてφ0.2mm程度の孔(ワイヤーカット加工のスタート穴)28を開け、ワイヤーカット加工機を利用して幅0.04mmの溝29を加工し、最後にスタート孔28をレーザー溶接で埋めてから上面を研削加工して平滑に仕上げた、細溝タイプのガス抜きエジェクタピンも可能である。
【0030】
図16〜18で説明した方法は、ガス抜きZピン24にも応用が可能であり、微細孔及び微細溝の形状や加工方法は一例であり、これに限定しない。
【0031】
樹脂の種類により、流動性が良くガスベント寸法を小さくしなければバリが発生してしまう場合にはガスベント寸法を自由に設定できるガスベントピースタイプを使用し、流動性が悪くバリの心配がない場合には、微細孔や微細溝タイプを使用すると良い。
【符号の説明】
【0032】
1 樹脂注入口
2 スプルー
3 スプルーロック
4 ランナー
5 ゲート
6 製品部
7 パーティングに設けたガスベント
8 パーティングに設けたガスニゲ
9 分割部に設けたガスベント
10 分割部に設けたガスニゲ
11 パーティング
12 分割部
13 エジェクタピン
14 エジェクタピンに設けたガスベント
15 エジェクタピンに設けたガスニゲ
16 ガス抜きエジェクタピン
17 ガスベントピース
18 ガスベントピース
19 ガスベントピースを埋め込む彫り込み加工部
20 ガス抜きエジェクタピンに設けたガスニゲ孔
21 ガスベントピースに設けたガスベント
22 ガスベントピースに設けたガスニゲ
23 ガスベントピースの底部に設けたガスニゲ
24 ガス抜きZピン
25 彫り込み加工を行なった際に加工されてしまい復元された溝
26 微細孔タイプのガス抜きエジェクタピン
27 微細孔タイプのガス抜きエジェクタピンに設けたガスベント孔
28 細溝タイプのガス抜きエジェクタピンに設けたワイヤーカット加工のスタート孔
29 細溝タイプのガス抜きエジェクタピンに設けたガスベント溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により発生するガスを外部に排出するためのガス抜きピンにおいて、
長さ方向に延びる円柱部分を有し、
前記円柱部分の上面から長さ方向の所定位置まで延びる少なくとも一つの微細孔であるガスベントが設けられ、
前記ガスベントと連通し、前記ガスベントの断面積よりも大きい断面積を有し、前記所定位置から前記円柱部分の底面又は前記所定位置より下の外周面まで延びる孔であるガスニゲが設けられ、
ガスが前記上面側から前記ガスベントを通じて前記ガスニゲへ導入されて前記底面又は前記ガスニゲ孔と連通する孔から排出されることを特徴とするガス抜きピン。
【請求項2】
請求項1において、
前記上面から前記所定位置まで延び且つ前記孔と連通する凹部が設けられ、前記凹部に前記ガスベントを形成するガスベント形成部品が埋め込まれることを特徴とするガス抜きピン。
【請求項3】
請求項2において、
前記ガスベント形成部は複数のピースにより構成されることを特徴とするガス抜きピン。
【請求項4】
請求項1において、
前記ガスベントとして、前記上面から前記所定位置までの長さ部分に微細孔が加工されることを特徴とするガス抜きピン。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
射出成形により製造される製品を突き出すためのエジェクタピン、又は射出成形におけるスプルーロックのためのゼットピンであることを特徴とするガス抜きピン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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