説明

射出成形機のログイン履歴管理方法および射出成形機

【課題】
特定の操作者に関して、いつ、どの射出成形機にログインしたのかを容易に確認することができるログインの履歴の管理方法を提供する。
【解決手段】
射出成形機(1)において操作者の認証は、無線通信装置(11)を介してIDカード(14)から読み取った識別番号(16)によって行う。認証に成功したら、ログインの履歴をIDカード(14)内のログイン履歴ファイル(17)に記録する。ログインの履歴は、ログインした日時と、射出成形機(1)を特定する号機番号とからなる。従って、IDカード(14)内のログイン履歴ファイル(17)を閲覧すると、当該操作者がいつ、どの射出成形機にログインしたのかについて履歴を確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ログインして認証を受けると操作が許可されるようになっている射出成形機において、ログインの履歴を管理するログイン履歴管理方法、および射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、従来周知のように、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置、一対の金型、これらの金型を型締する型締装置、成形品を突き出すエジェクタ装置、等から構成され、これらの装置はコントローラによって制御されるようになっている。つまりコントローラにおいて操作すると、射出成形機を運転することができる。またコントローラには、成形品を成形するための成形条件が設定されており、コントローラから成形条件を変更できるようになっている。このようにコントローラにおいては、射出成形機を運転したり成形条件を変更することが自由にできるので、セキュリティを確保するために操作可能な操作者を制限する必要がある。従って射出成形機においては、操作者の認証が行われている。例えば、従来の射出成形機においては、キーボード、または表示装置に設けられているタッチパネルから、操作者を識別する番号とパスワードが入力される。そうすると操作者はコントローラにログインすることができ、操作者に応じて許可されている各種の操作を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2620152号公報
【特許文献2】特許第4364147号公報
【0004】
本発明の直接的な文献ではないが、特許文献1には、射出成形機において作業者毎に操作可能な内容を規定してセキュリティを確保する方法が記載されている。特許文献1によると、作業者のそれぞれにセキュリティに関する情報が記載されたICカードが配布される。これらのカードには、射出成形機の操作のうち許可されている操作範囲、あるいは表示画面において表示可能なデータの範囲が定義されている。射出成形機を操作するときはICカードをカードリーダに挿入して操作する必要があり、許可された範囲でのみ射出成形機を操作したり、許可されたデータのみ表示できるようになっている。
【0005】
特許文献2も本発明の直接的な文献ではないが、この文献には、射出成形機において操作した履歴は、作業者の情報と共に保存され、操作した履歴を射出成形機のコントローラの画面に表示するときには、作業者の情報と共に表示して、作業者を特定できるようにする方法が記載されている。特許文献2には、作業者を特定するために、IDカードによって作業者を識別する点も記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、操作者を識別する番号とパスワードを入力して操作者を認証する方法によってもセキュリティは確保されている。また、特許文献1や特許文献2に記載の方法によっても、ICカードあるいはIDカードによってログインできるのでセキュリティは確保されている。このようにセキュリティが確保されているという点に関しては問題はない。しかしながら他の点に関して、具体的にはログインの履歴の管理に関して、使い勝手が悪いという問題が見受けられる。この問題について説明する。通常、工場には多数の射出成形機が設置されている。このような工場において、例えば技術上の必要から、特定の樹脂材料を使用している射出成形機に関して溶融樹脂温度を変更する等の成形条件の変更の必要が生じたとする。そうすると、操作者は該当する樹脂材料が使用されている射出成形機をリストアップする。そしてリストアップされた複数台の射出成形機に関して、順次ログインして成形条件を変更する。射出成形機の台数は多いので、成形条件の変更をし忘れてしまう場合も考えられ、該当する全ての射出成形機において必要な操作を確実に実施したか否かを確認する必要がある。また操作者を管理する管理者にとっても、操作者の操作の履歴を確認したい。このような確認は、射出成形機においてこの操作者がログインしたか否かを調べることによって行う。つまり、該当する全ての射出成形機についてログインの履歴を調べる必要があり、確認が大変である。従来の認証方法、あるいは特許文献1、2に記載の方法は、この確認の作業を容易にするものではない。つまり、ログインの履歴の管理に関して、使い勝手に問題が見受けられる。全ての射出成形機のコントローラを、ネットワークに接続してログイン管理用のホストコンピュータによってログインの履歴を集中的に管理するという方法も考えられる。そうするとホストコンピュータにアクセスすれば、作業のし忘れを簡単に確認することができる。しかしながら、ノイズの多い工場環境で安定した通信品質を確保したネットワーク接続を行うためには、多くの設備投資を必要とし、さらに高度な知識を有するネットワーク管理者を配置する必要があり、誰もが容易にネットワークを利用できるわけではない。
【0007】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、射出成形機のログインの履歴の管理方法、および射出成形機を提供することを目的としており、具体的には、特定の操作者について射出成形機のコントローラにログインした履歴を確認するとき、確認の対象となる射出成形機が複数台であっても容易に確認することができるログインの履歴の管理方法、およびそのようなログインの履歴の管理方法を実施することができる射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、射出成形機において操作者の認証は、IDカードによって行うようにする。このIDカードには、上書きが禁止された保護メモリ領域と、記録可能なユーザーメモリ領域とを設ける。保護メモリ領域には操作者を特定するユニークな番号である識別番号が記録されており、IDカードをIDカード読み取り機にかざして非接触で識別番号を読み取らせる。射出成形機のコントローラは、コントローラ内に定義されている操作者情報を照会して、この識別番号が登録されているか否かをチェックする。このようにして認証されると、IDカードのユーザーメモリ領域に当該射出成形機にログインした履歴が記録される。IDカードのユーザーメモリ領域を調べると、複数台の射出成形機において、過去にログインした履歴を一括で確認することができる。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、IDカード内に記録されている操作者の識別番号を、IDカード送受信機によって非接触で読み込んで、操作者を認証する射出成形機において、操作者を認証すると、認証した日時と前記射出成形機を特定する号機番号とを含む認証履歴を、前記IDカード送受信機を介して前記IDカードに転送し、該IDカード内の書き込み可能なメモリ領域に記録することを特徴とする射出成形機のログイン履歴管理方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記操作者の識別番号は前記IDカードの製造番号であるように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法によりログインの履歴を管理するようになっている射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によると、IDカード内に記録されている操作者の識別番号を、IDカード送受信機によって非接触で読み込んで、操作者を認証する射出成形機において、操作者を認証すると、認証した日時と射出成形機を特定する号機番号とを含む認証履歴を、IDカード送受信機を介してIDカードに転送し、該IDカード内の書き込み可能なメモリ領域に記録するように構成されている。つまりログイン履歴はIDカード内に記録されているので、特定の操作者について、どの射出成形機にいつログインしたのかを容易に確認することができる。そうすると工場において特定の操作者が複数台の射出成形機に対して同じような成形条件の変更をしなければならないときに、変更のし忘れをチェックすることができるし、操作者を管理する管理者にとっても操作者の管理がし易い。また、IDカードによってログインするように構成されているので、ログインはシンプルであり安全性が高い。また、他の発明によると識別番号はIDカードの製造番号からなる。IDカードには書換可能なメモリが搭載されているタイプもあるが、製造番号は通常上書き出来ないメモリ領域に記録されており、製造時にユニークな番号が付与されるようになっている。従って、製造番号を書き換える偽造をすることができず、高いセキュリティが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機のコントローラを模式的に示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る射出成形機における操作者のログイン履歴管理方法、および操作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る射出成形機1は、従来周知のように、加熱シリンダとスクリュとからなる射出装置と、この射出装置から溶融樹脂が射出される型装置とから構成されている。このような射出成形機には射出成形機1を制御するコントローラ2が設けられている。コントローラ2は、図1に示されているように、CPU3、このCPU3とバス4によって接続された各装置、すなわち内部メモリからなる1次記憶装置5、ハードディスク等からなる2次記憶装置6、タッチパネルを備え入力操作が可能なディスプレイからなる表示装置7、射出成形機1との間でデータの入出力を行う入出力インターフェース9等から構成されている。
【0013】
本実施の形態に係る射出成形機1においては、IDカード14と無線通信をすることができるIDカード送受信機、すなわち無線通信装置11が設けられ、無線通信装置11はコントローラ2のバス4に接続されている。本実施の形態に係る射出成形機1においては、認証した操作者しか操作が許可されないようになっており、操作者は所持しているIDカード14をこの無線通信装置11にかざして読み取らせ、それによってログインするようになっている。
【0014】
全ての操作者は、それぞれ自分のIDカード14を所持しており、IDカード14には操作者を特定するユニークな番号である識別番号が登録されている。操作者はこの識別番号によって認証されることになる。IDカード内の上書きが禁止されているメモリ領域には製造番号が書き込まれており、本実施の形態においてはこの製造番号が識別番号として利用されている。識別番号を製造番号とは別に定義するようにしても良いが、本実施の形態のように製造番号を採用すると、識別番号がユニークであることが保障されているので有利である。このIDカード14には、書き込み可能なメモリ領域、すなわちユーザーメモリ領域14aが設けられており、この領域14a内にログイン履歴ファイル17が設けられている。ログインの履歴はこのログイン履歴ファイル17に記録されるようになっている。
【0015】
本実施の形態においては2次記憶装置6に操作者定義ファイル12と射出成形機定義ファイル13が格納されている。操作者定義ファイル12は操作者を認証するためのファイルであると共に、操作者毎に操作可能な操作内容を定義するためのファイルである。操作者定義ファイル12には、例えば次のような情報が、複数人の操作者について定義されている。
・操作者の識別番号
・操作者に許可されている操作内容のリスト
射出成形機定義ファイル13には、射出成形機を特定するユニークな識別番号、すなわち号機番号が保存されている。ログインの履歴には号機番号が付加されることになるが、これによって操作者がログインした射出成形機が特定できるようになっている。
【0016】
以下、図2も参照しながら射出成形機1におけるログイン方法、およびログインの履歴の管理方法について説明する。操作者は、射出成形機1において所持しているIDカード14を無線通信装置11にかざす。そうするとIDカード14内の無線通信部15と無線通信装置11が無線通信し、無線通信装置11はIDカード14内に保存されている識別番号16を読み取る(ステップS1)。コントローラ2は、識別番号16が存在するか否かについてコントローラ2内の操作者情報を照会する。すなわち、コントローラ2は操作者定義ファイル12を読み込んで、定義されている複数人の操作者の識別番号の中に、IDカードから読み取った識別番号16が存在するか否かを確認する(ステップS2)。識別番号16が存在すれば操作者のログインを許可し、存在しなければ再度IDカードの読み取りに戻る(ステップS3)。
【0017】
ログインを許可した場合には、ログインの履歴をIDカード14内のログイン履歴ファイル17に書き込む(ステップS4)。詳しく説明すると、ログインの履歴はログインした日時と射出成形機の号機番号とからなる。ログインした日時は現在時刻とし、号機番号は射出成形機定義ファイル13から読み取る。このログインの履歴を無線通信装置11を介してIDカード14に送信して、ログイン履歴ファイル17に記録するようにする。ログイン履歴ファイル17は、色々なフォーマットから構成することができるが、例えば1レコードにつき1個のログインの履歴が記録され、複数レコードからなるレコード部と、次に上書きすべきレコード番号を保存しているレコード管理部とから構成することができる。このように構成されている場合には、次に上書きすべきレコード番号をレコード管理部から読み取って、このレコードにログインの履歴を書き込み、同時にレコード番号をインクリメントしてレコード管理部のレコード番号を更新すればよい。そうすると、過去のログインの履歴を残した状態で、新しいログインの履歴を記録することができる。また、記録可能なレコード数の最大個数が定義されている場合には、レコード管理部に格納するレコード番号をインクリメントするときに、最大個数を超えたら初期値に戻すようにすればよい。そうするとログイン履歴ファイル17のファイルサイズは一定に維持することができる。以下、コントローラ2は操作者の操作の要求を受け付けることができる。コントローラ2は要求された操作が、操作者に許可された操作か否かを判断して、操作可能であれば実行する(ステップS5)。ログアウト要求があれば、ログアウトする(ステップS6)。
【0018】
IDカード14内に記録されているログインの履歴は、例えばパーソナルコンピュータによって閲覧が可能である。パーソナルコンピュータにIDカード送受信機を接続してログイン履歴ファイル17を読み取るようにすればよい。このようにすると、IDカード14を所持している操作者が、いつ、どの射出成形機にログインしたのかを確認することができる。
【0019】
本実施の形態は色々な変形が可能である。例えば、操作者定義ファイル12には操作者に応じて操作可能な内容が定義されているように説明したが、認証された全ての操作者に対して、操作内容を制限しないようにしてもよい。また、ログインの履歴はIDカード14内にのみ記録されるように説明したが、コントローラ2内にも記録するようにしてもよい。そうするとログインの履歴は二重に記録されることになり、安全度は高い。ログインの履歴の確認方法についても変形が可能である。ログインの履歴については、上記したようにパーソナルコンピュータで確認してもよいが、コントローラ2にIDカード14から無線通信装置11を介してログイン履歴ファイル17を読み取らせ、表示装置7にログインの履歴を表示する所定の画面を表示させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 射出成形機 2 コントローラ
3 CPU 5 1次記憶装置
6 2次記憶装置 7 表示装置
9 入出力インターフェース 11 無線通信装置
12 操作者定義ファイル 13 射出成形機定義ファイル
14 IDカード 15 無線通信部
16 識別番号 17 ログイン履歴ファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDカード内に記録されている操作者の識別番号を、IDカード送受信機によって非接触で読み込んで、操作者を認証する射出成形機において、
操作者を認証すると、認証した日時と前記射出成形機を特定する号機番号とを含む認証履歴を、前記IDカード送受信機を介して前記IDカードに転送し、該IDカード内の書き込み可能なメモリ領域に記録することを特徴とする射出成形機のログイン履歴管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記操作者の識別番号は前記IDカードの製造番号であることを特徴とする射出成形機のログイン履歴管理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によりログインの履歴を管理するようになっている射出成形機。

【図1】
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【図2】
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