説明

射出成形用金型装置

【課題】 簡単な操作で成形キャビティの切換ができる射出成形用金型装置を提供する。
【解決手段】 入れ子11の表面側には1段低くなった扇状乃至円弧状の流路15、16を形成し、これら流路15、16間に同じく1段低くなった通路17を形成している。ここで、流路15はスプール5とランナ7を、流路16はスプール5とランナ8を連通するものである。また、入れ子11の裏面側には前記貫通穴13を囲むような1段低くなった扇状の流路18を形成している。この流路18はスプール5とランナ7または8を選択的に連通するものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は例えば樹脂製品を複数個同時に成形可能とした射出成形用金型装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から成形効率を高めるため、複数のキャビティを備えた金型装置によって樹脂製品を複数個同時に成形している。また、形状が異なる製品を同時に成形するために、キャビティ形状を異ならせることも周知である。
【0003】異なる製品、例えば自動車のフロントスカートとリヤスカートを同時に成形する場合、フロントスカートの方が需要数が多いため、同数成形したのでは無駄が生じてしまう。そこで、実開平1−89849号公報に提案される成形装置では、各キャビティへつながる湯道(ランナ)ごとに係合部を形成し、このこの係合部に湯道をオン・オフするブロック状の制御部材を設け、必要な湯道のみをオン状態にするようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の成形装置にあっては、各キャビティにつながる個々のランナを連通・遮断するために、各ランナの一部にブロック状の制御部材を着脱可能に取り付ける係合部を設けなければならない。また、ランナ切換の操作も各制御部材ごとに行わなければならないなど、金型の製作および切換操作のいずれにおいても手間がかかってしまう。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本発明に係る射出成形用金型装置は、材料を供給するスプールと各キャビティに連通するランナとの間に入れ子を設け、この入れ子は金型に形成されたセット穴に表裏反転可能に取り付けられ、この入れ子の表面側および裏面側には前記スプールとランナとを連通せしめる流路が形成され、しかも表面側と裏面側に形成された流路パターンが異なる構成とした。
【0006】例えば、キャビティが2つある場合には、入れ子の一方の面側(表面側)にはスプールと2つのランナ(キャビティ)とを連通する流路(切欠き)が形成され、他方の面側(裏面側)にはスプールと1つのランナとを連通する流路が形成される。
【0007】尚、本発明においては、キャビティ数は2つに限定されず任意であり、また、一方の面側に全てのランナに連通する流路を、他方の面側に1つのランナに連通する流路を形成する場合に限定されない。
【0008】前記入れ子の材料は金型材料よりも線膨張率が大きいものを選定することが好ましい。例えば金型材料として線膨張率が13.5×10-6/℃のダクタイル鋳鉄を用いた場合には、入れ子材料として線膨張率が23.3×10-6/℃のアルミニウムを用いる。このように、入れ子材料の線膨張率を金型材料のそれよりも大きくすることで、成形時の材料の差し込みを防止しつつ入れ子の着脱を容易に行うことができる。
【0009】また、前記入れ子は円柱状をなし、この入れ子のセット穴は円筒上をなし、入れ子はセット穴内にて所定角度回転した位置でも固定可能とすることで、例えば、キャビティが2つの場合には、2つのキャビティのうちの任意のキャビティに材料を供給することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明にかかる射出成形用金型装置の断面図、図2は入れ子の平面図、図3は入れ子の裏面図、図4は図2のA−A線断面図、図5は図2のB−B線断面図である。
【0011】射出成形用金型装置は固定型1と可動型2からなり、これら固定型1と可動型2はダクタイル鋳鉄製で、型合わせすることで2つのキャビティ3、4が形成される。実施例では一方のキャビティ3をフロントスカート成形用とし、他方のキャビティ4をリヤスカート成形用としている。
【0012】前記固定型1にはスプール5が形成され、前記可動型2には各キャビティ3、4へのランナ7、8が形成されている。そして、可動型2の前記スプール5に対向する箇所には円筒状のセット穴9が形成され、このセット穴9内にボルト10にてアルミニウム製の円柱状入れ子11が取り付けられている。
【0013】セット穴9と入れ子11との嵌め合いは、常温(20℃)で、セット穴径が例えば100+0.02〜0.05mmであれば、入れ子径が100−0.05〜−0.02mmとなるようにしている。このような嵌め合い加工を行うことで、成形時は熱により入れ子が金型よりも膨張するので、セット穴9と入れ子11との隙間が小さくなり、材料の差し込みが防止でき、非成形時は隙間の存在により入れ子の着脱が容易になる。
【0014】前記入れ子11は中央に押し出し棒12が挿入される貫通穴13が形成され、この貫通穴13を中心として180°離間した位置にボルト挿通穴14、14が形成され、入れ子11を表裏反転させてセット穴9に取付け可能としている。
【0015】そして、入れ子11の表面側には1段低くなった扇状乃至円弧状の流路15、16を形成し、これら流路15、16間に同じく1段低くなった通路17を形成している。ここで、流路15はスプール5とランナ7を、流路16はスプール5とランナ8を連通するものである。
【0016】また、入れ子11の裏面側には前記貫通穴13を囲むような1段低くなった扇状の流路18を形成している。この流路18はスプール5とランナ7または8を選択的に連通するものである。
【0017】尚、入れ子11の表裏両面とも外周エッジ部は面取りを行わず、直角を維持した方が、成形時に材料の差し込みが防止できるので好ましい。
【0018】以上において、入れ子11の表面側をスプール5と対向するようにセット穴9に装着した状態で射出成形を行うと、流路15、16およびランナ7、8を介して各キャビティ3、4に溶融樹脂材料が供給され、異なる製品(フロントスカートとリヤスカート)が同時に成形される。また、入れ子11の裏面側をスプール5と対向するようにセット穴9に装着した状態で射出成形を行うと、流路18およびランナ7を介して各キャビティ3のみに溶融樹脂材料が供給され、一方の製品(フロントスカート)が成形される。
【0019】なお、入れ子11の裏面側をスプール5と対向するとともに180°回転させてセット穴9に装着した状態で射出成形を行うと、他方の製品のみを成形することが可能である。
【0020】
【発明の効果】以上に説明したように本発明によれば、入れ子を反転させるだけで、1つの金型装置で同時に複数の製品を成形することと、所定の製品を成形することの切換が簡単に行える。したがって、車両のフロントスカートとリヤスカートのようにそれぞれに対する需要数は異なるが、同時に成形した方が品質管理上および後工程において有利となる製品の射出成形に効果的である。また、前記入れ子の材料を金型材料よりも線膨張率が大きなものを選定することで、成形時には材料の差し込みがなく且つ入れ子の着脱を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる射出成形用金型装置の断面図
【図2】入れ子の平面図
【図3】入れ子の裏面図
【図4】図2のA−A線断面図
【図5】図2のB−B線断面図
【符号の説明】
1…固定型、2…可動型、3、4…キャビティ、5…スプール、7,8…ランナ、9…セット穴、10…ボルト、11…入れ子、12…押し出し棒、13…貫通穴、14…ボルト挿通穴、15,16,18…流路、17…通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 型合わせした状態で複数の成形用キャビティが形成され、これら各成形用キャビティにスプール及びランナを介して材料を供給するようにした射出成形用金型装置において、前記スプールとランナとの間には入れ子が設けられ、この入れ子は金型に形成されたセット穴に表裏反転可能に取り付けられ、この入れ子の表面側および裏面側には前記スプールとランナとを連通せしめる流路が形成され、しかも表面側と裏面側に形成された流路パターンが異なることを特徴とする射出成形用金型装置。
【請求項2】 請求項1に記載の射出成形用金型装置において、前記入れ子の材料は金型材料よりも線膨張率が大きいことを特徴とする射出成形用金型装置。
【請求項3】 請求項1に記載の射出成形用金型装置において、前記入れ子は円柱状をなし、この入れ子のセット穴は円筒状をなし、入れ子はセット穴内にて所定角度回転した位置でも固定可能とされることを特徴とする射出成形用金型装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate