説明

射出成形用金型

【課題】大幅な設計変更が不要であるうえ、製品機能や意匠変更を伴うことなく、ショートモールドを抑制しながら所望の形状に成形品を精度良く成形すること。
【解決手段】一対の型板のうちの一方の型板2には、キャビティCに連通するピンゲート10が形成され、他方の型板3には、先端面23がキャビティ内に露出した状態でピンゲートのゲート開口10aに対して向かい合うピン部材20が離脱自在に組み合わされ、ピン部材の先端面が、傾斜部分を少なくとも一部に有し、ゲート開口を通じて射出される溶融樹脂Wの流れを射出方向とは異なった所望する方向に変化させながらキャビティ内に流動させる射出成形用金型1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の部品を成形する方法の1つとして、例えばピンゲート方式の射出成形法が知られている(特許文献1参照)。この方法は、成形用金型に形成されたキャビティ内にピンゲートを通じて溶融樹脂を射出させ、該溶融樹脂をキャビティ内に充填させることで各種形状の部品を成形する方法である。
【0003】
ところで、射出成形を行う場合、キャビティ内に射出された溶融樹脂の流動方向を制御したい場合が多々ある。例えば、微細で複雑な形状の成形品を成形する場合には、キャビティ自身も微細で複雑な形状となっているので、溶融樹脂が行き渡り易い箇所と、行き渡り難い箇所とがキャビティ内に生じ易い。このような場合、ショートモールド等を防止するために、溶融樹脂の流動方向を制御して、キャビティ内における上記行き渡り難い箇所に溶融樹脂を積極的に流動させたい要求があるためである。
【0004】
流動方向を制御するための方法としては、従来から例えば下記の方法が一般的に用いられている。
第1の方法は、溶融樹脂を早く充填させたい箇所、即ち上記行き渡り難い箇所の近くにゲートを設け、積極的に溶融樹脂をその箇所に流動させる方法である。また、第2の方法は、ゲートを複数設け、特定のゲートのゲート径を変化させることで、溶融樹脂の流動方向を制御する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−301742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した第1の方法の場合では、成形用金型の大幅な設計変更が必要になり易く、それに伴う改造費用が多大になり易かった。この点、第2の方法も同様である。それに加え、成形品の製品機能や意匠によっては複数個所にゲートを設けることが難しい場合があり、そのような場合には第2の方法を用いることが難しかった。
また、それ以外の方法として、ゲートに連通するランナーやスプルの形状を変化させる方法や、キャビティの形状や大きさ自体を変更する方法等もあるが、成形品自体の設計変更が必要となってしまい易く、有効な方法ではない。
【0007】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、大幅な設計変更が不要であるうえ、製品機能や意匠変更を伴うことなく、ショートモールドを抑制しながら所望の形状に成形品を精度良く成形することができる射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係る射出成形用金型は、重ね合わせた一対の型板の間に成形品を成形するためのキャビティが形成される射出成形用金型であって、前記一対の型板のうちの一方の型板には、前記キャビティに連通するピンゲートが形成され、前記一対の型板のうちの他方の型板には、先端面が前記キャビティ内に露出した状態で前記ピンゲートのゲート開口に対して向かい合うピン部材が離脱自在に組み合わされ、前記ピン部材の前記先端面が、傾斜部分を少なくとも一部に有し、前記ゲート開口を通じて射出される溶融樹脂の流れを射出方向とは異なった所望する方向に変化させながら前記キャビティ内に流動させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る射出成形用金型によれば、ピンゲートからキャビティ内に溶融樹脂を射出すると、該溶融樹脂はゲート開口に対して向かい合うピン部材の先端面に当たって流れの方向が変化する。つまり、ピン部材の軸線に直交する直交面に対して傾斜する傾斜部分によって射出方向とは異なる方向に流動方向が変化する。この際、傾斜部分によって流れの方向性が意図する方向となるように制御される。そのため、意図する方向に向けて溶融樹脂を積極的(優先的)に流動させながら、キャビティ内に充填させることができる。
特に、溶融樹脂の流動方向を制御することができるので、キャビティ内における溶融樹脂の行き渡り難い箇所に積極的に流動させることができ、キャビティ内の隅々に亘って溶融樹脂を十分に充填させることができる。従って、ショートモールドの発生を抑制しながら、所望の形状に成形品を精度良く成形することができる。
【0010】
しかも、意図する方向に向けて溶融樹脂を積極的に流動させることで流動速度を増加させることができるので、大きなせん断熱を発生させて樹脂温度を高めることができる。そのため、溶融樹脂の流動性を向上させることができ、ショートモールドの発生をより効果的に抑制して、成形品の成形精度の向上化に繋げることができる。
加えて、意図する方向に向けて溶融樹脂を積極的に流動させるので、溶融樹脂の流れを整い易くすることができ、乱流になり難い。従って、充填時におけるエア(気体)巻き込みに起因する気泡の発生を抑制し易く、この点においても成形品の成形精度の向上化に繋げることができる。
【0011】
また、既存のピンゲートの位置や数等を変更する必要がないうえ、ピンゲートに向かい合うようにピン部材を設けるだけであるので、金型自体の大幅な設計変更が不要であり、コスト高を招き難い。また、成形品への影響が出難いので、製品機能や意匠変更を伴うことがない。
【0012】
また、ピン部材は他方の型板から離脱自在とされているので、先端面の傾斜部分を微細且つ正確に作り込むことが可能であるうえ、他方の型板に邪魔されることなく自由に設計でき、複雑な形状であっても容易に作り込むことが可能である。そのため、溶融樹脂の流動方向を正確に制御し易い。更に、ピン部材の先端面が溶融樹脂の侵食によって仮に摩耗してしまったとしても、ピン部材のみを交換することが可能であるので、コスト高を招き難い。さらにまた、他方の型板に対するピン部材の姿勢を変更することもできるので、先端面の向きを変化させて溶融樹脂の流動方向を微調整したり、意図的に変更したりすることも可能である。
【0013】
(2)また、上記本発明に係る射出成形用金型において、前記ピン部材が、前記先端面が前記キャビティの内壁部よりも該キャビティの内部側に位置するように、キャビティ内に突き出た状態で前記他方の型板に組み合わされていても良い。
【0014】
この場合には、例えばピンゲートから射出された溶融樹脂によって先端面が侵食して窪み、その窪み部分に溶融樹脂が充填されることで成形品に突起部が形成されてしまったとしても、この突起部が成形品の表面から突出してしまうことを防止し易い。従って、成形品の成形精度を高い精度に維持することができる。
【0015】
(3)また、上記本発明に係る射出成形用金型において、前記ピン部材が、前記ピンゲートと同軸とされ、その直径が前記ゲート開口の直径よりも拡径していても良い。
【0016】
この場合には、例えばピンゲートから射出された溶融樹脂が射出後に放射状に拡がったとしても、該溶融樹脂をピン部材の先端面に当てることができ、意図する方向に向けて確実に溶融樹脂を流動させることができる。
また、ピン部材がピンゲートと同軸であるので、ピン部材を軸線回りに回転させるだけで、ゲート開口に対して向かい合った状態を維持したまま先端面の向きを容易に変化させることができ、溶融樹脂の流動方向の微調整等をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る射出成形用金型によれば、大幅な設計変更が不要であるうえ、製品機能や意匠変更を伴うことなく、ショートモールドを抑制しながら所望の形状に成形品を精度良く成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る射出成形用金型の断面図である。
【図2】図1に示す射出成形用金型で成形された成形品である輪列受を表面側から見た平面図である。
【図3】図2に示すA−A線に沿った輪列受の断面図である。
【図4】図1に示す射出成形用金型のピン部材の変形例を示す半縦断面図である。
【図5】図1に示す射出成形用金型のピン部材の別の変形例を示す側面図である。
【図6】図1に示す射出成形用金型のピン部材のさらに別の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(射出成形用金型)
以下、本発明に係る射出成形用金型の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示す射出成形用金型1は、図2に示す成形品である輪列受50を射出成形するための金型であり、固定側型板(一方の型板)2及び可動側型板(他方の型板)3を備えている。
【0020】
ここで、上記輪列受50について簡単に説明する。
この輪列受50は、図2に示すように、例えば機械式時計やクオーツ時計等に組み込まれ、輪列群の位置決めや支持を行うための板状部品である。なお、図示の例では、軸受孔や取付孔等の図示を省略した簡略図としている。
そして、この輪列受50は外形形状が複雑に形成されているうえ、厚みが一様ではなく適宜変化するように形成されている。また、輪列受50の一部には開口部51が形成され、この開口部51内に突き出るように針状の微小板52が形成されている。
【0021】
微小板52は、根元部52aが開口部51の内縁部に接続され、平面視円形状の先端部52bが開口部51の略中心に位置した片持ち状の板材であり、例えば先端部52bで図示しない他部品を押さえ付けることが可能な板ばね等のような役割を果す。
【0022】
続いて、上記射出成形用金型1について説明する。
図1に示すように、固定側型板2及び可動側型板3は、固定側型板2を上方とし、可動側型板3を下方として上下に配設されており、これら両型板2、3が重ね合わされることで両型板2、3の間に溶融樹脂Wが充填されるキャビティCが形成される。また、図示しない昇降機構によって可動側型板3を上下に昇降させることで、固定側型板2と可動側型板3とは上下方向に相対的に接近離間可能とされている。
【0023】
上記キャビティCは、図2に示す輪列受50を成形するための空間であり、可動側型板3の上面(合わせ面)3aに形成された凹部4と、固定側型板2の下面(合わせ面)2aとで画成されている。このキャビティCは、輪列受50の形状及び厚みに倣って形成されるが、図示の例では簡略的に図示している。
キャビティCの一部は、上述した微小板52を形成するための微小キャビティ部C1とされている。そのため、この微小キャビティ部C1は、キャビティCにおける他の部分に比べて厚みが薄い等の微小空間とされており、溶融樹脂Wが流れ込み難い空間とされている。
【0024】
固定側型板2には、上面2bから下面2aに亘って上下方向に貫通したピンゲート10が形成されており、キャビティCに連通している。
一方、可動側型板3には、先端面23がキャビティC内に露出した状態でピンゲート10のゲート開口10aに対して向かい合うようにピン部材20が離脱自在に組み合わされている。
【0025】
このピン部材20は、ピンゲート10の軸線Oと同軸になるように配設された円柱状部材であり、可動側型板3の下面3b側に引き抜くことで、可動側型板3に対して相対的に離間させることが可能とされている。また、組み合わせ時には、ピン部材20は軸線O回りに回転規制された状態で可動側型板3に組み合わされている。
なお、可動側型板3の下面3b側には受板5が着脱自在に固定されており、これによりピン部材20は抜け止めがなされている。
【0026】
また、本実施形態のピン部材20は、先端面23が形成された先端部21と根元部22とで径が異なる段付き状に形成されており、先端部21の直径はゲート開口10aの直径よりも拡径している。なお、根元部22の直径は先端部21の直径よりもさらに拡径している。
また、先端面23がキャビティCの内壁部、即ち、凹部4の底面よりもキャビティCの内部側に位置するように、先端部21がキャビティC内に突き出た状態で可動側型板3に組み合わされている。
【0027】
ところで、ピン部材20の先端面23は、全面に亘って軸線Oに直交する直交面に対して傾斜角度θで傾斜する傾斜面とされている。この先端面23は、上述した微小キャビティ部C1に面が向いており、ピンゲート10のゲート開口10aを通じて射出される溶融樹脂Wの流れを射出方向とは異なる方向である微小キャビティ部C1に向かう方向に変化させながらキャビティC内に流動させることが可能とされている。
【0028】
(輪列受の成形方法)
次に、上記のように構成された射出成形用金型1を利用して、輪列受50を射出成形する場合の成形方法について説明する。
【0029】
はじめに、図示しない昇降機構によって可動側型板3を上昇させ、可動側型板3の上面3aを固定側型板2の下面2aに対して当接させ、射出成形用金型1を閉じておく。続いて、図1に示すように、図示しない射出装置によって溶融樹脂Wをピンゲート10内に射出する。ピンゲート10内に射出された溶融樹脂Wは、ゲート開口10aを通じてキャビティC内に射出される。すると、キャビティC内に射出された溶融樹脂Wは、ゲート開口10aに対して向かい合うピン部材20の先端面23に当たった後、該先端面23の傾斜によって射出方向とは異なる方向、即ち、微小キャビティ部C1に向かう方向(意図する方向)に流動方向が主に変化する。そのため、微小キャビティ部C1に向けて溶融樹脂Wを積極的(優先的)に流動させながら、キャビティC内に充填させることができる。
なお、キャビティC内の気体(エア)は、溶融樹脂Wの射出に伴って図示しないガス抜き溝を通って射出成形用金型1の外部に排出される。
【0030】
そして、充填した溶融樹脂Wが固化した後、固定側型板2と可動側型板3とを相対的に離間させる離型を行う。つまり、可動側型板3を図示しない昇降機構によって下降させ、可動側型板3を固定側型板2から離間させる。その後、例えば図示しないエジェクターピンによる突き出し等によって、輪列受50を可動側型板3から取り外すことで、図2に示す輪列受50を得ることができる。
【0031】
なお、上記射出成形用金型1で成形された輪列受50には、図2及び図3に示すように、微小板52の根元部52aの近くにおける表面側にピンゲート10のゲート跡53が形成され、裏面側にゲート跡53に向かい合うようにピン部材20の先端面23の形状に倣ったピン跡54が形成されることとなる。
【0032】
特に、本実施形態の射出成形用金型1によれば、溶融樹脂Wの流動方向を制御することができるので、キャビティC内における溶融樹脂Wの行き渡り難い箇所である微小キャビティ部C1に積極的に流動させることが可能である。従って、キャビティC内の隅々に亘って溶融樹脂Wを十分に充填させることができ、ショートモールドの発生を抑制しながら輪列受50を精度良く成形することができる。つまり、微小板52が確実に形成され、且つ複雑な外形形状を有する輪列受50を精度良く成形することができる。
【0033】
しかも、意図する方向に向けて溶融樹脂Wを積極的に流動させることで流動速度を増加させることができるので、大きなせん断熱を発生させることができ、樹脂温度を高めることができる。そのため、溶融樹脂Wの流動性を向上させることができ、ショートモールドの発生をより効果的に抑制して、輪列受50の成形精度の向上化に繋げることができる。
加えて、意図する方向に向けて溶融樹脂Wを積極的に流動させるので、溶融樹脂Wの流れを整い易くすることができ、乱流になり難い。従って、充填時における気体巻き込みに起因する気泡の発生を抑制し易い。この点においても、輪列受50の成形精度の向上化に繋げることができる。
【0034】
また、ピンゲート10の位置や数等を変更する必要がないうえ、ピンゲート10に向かい合うようにピン部材20を設けるだけであるので、金型自体の大幅な設計変更が不要であり、コスト高を招き難い。また、輪列受50への影響が出難いので、製品機能や意匠変更を伴うことがない。
【0035】
また、ピン部材20は可動側型板3から離脱自在とされているので、傾斜面である先端面23を微細且つ正確に作り込むことが可能であるうえ、可動側型板3に邪魔されることなく傾斜角度θを所望する角度に自由に設計することが可能である。そのため、溶融樹脂Wの流動方向を正確に制御し易い。
【0036】
更に、ピン部材20の先端面23が溶融樹脂Wの侵食によって仮に摩耗してしまったとしても、ピン部材20のみを交換することが可能であるので、コスト高を招き難い。特に、可動側型板3を一般的なダイス鋼等で形成し、ピン部材20のみを耐摩耗性に優れた高価な超鋼合金等で形成することもできるので、極力コストをかけずに必要最少限の部分だけの耐摩耗性を高めることが可能である。
【0037】
また、ピン部材20は、先端部21がキャビティC内に突き出ており、先端面23がキャビティCの内壁部よりもキャビティCの内部側に位置しているので、例えばピンゲート10から射出された溶融樹脂Wによって先端面23が侵食して窪み(図1示す点線S)、その窪み部分に溶融樹脂Wが充填されることで輪列受50に突起部が形成されてしまったとしても、この突起部が輪列受50の表面から突出してしまうことを防止できる。従って、輪列受50の成形精度を高い精度に維持することができる。
【0038】
また、ピン部材20はピンゲート10と同軸とされ、先端部21の直径がゲート開口10aの直径よりも拡径しているので、例えばピンゲート10から射出された溶融樹脂Wが射出後に放射状に拡がったとしても、溶融樹脂Wをピン部材20の先端面23に当てることができ、意図する方向に向けて確実に溶融樹脂Wを流動させることができる。
また、ピン部材20を可動側型板3から一旦離脱させ、軸線O回りに回転させた後に再度組み合わせるだけの簡単な方法で、ゲート開口10aに対して向かい合った状態を維持したまま先端面23の向きを容易に変化させることも可能なので、溶融樹脂Wの流動方向を微調整したり意図的に変更したりすることも可能である。
【0039】
上述したように、本実施形態の射出成形用金型1によれば、大幅な設計変更が不要であるうえ、製品機能や意匠変更を伴うことなく、ショートモールドを抑制しながら所望の形状に輪列受50を精度良く成形することができる。
【0040】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、成形品の一例として輪列受50を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく適宜変更可能である。例えば、輪列受50以外の時計用部品等であっても構わない。
特に、本発明によれば、溶融樹脂WをキャビティC内において意図する方向に積極的に流動させることが可能であるので、ショートモールドの発生を抑制しながら複雑且つ微細な外形形状の成形品であっても精度良く成形でき、時計用部品等のような微細な成形品の成形に好適である。
【0042】
また、上記実施形態において、ピン部材20の先端面23の傾斜角度θは、ピン部材20と微小キャビティ部C1との位置関係、溶融樹脂Wの粘度や流動速度等、各種の諸条件に応じて設定すれば良い。例えば、射出された溶融樹脂Wをより積極的に意図する方向に流動させたい場合には、傾斜角度θを大きくすれば良い。
【0043】
また、上記実施形態では、ピン部材20の先端面23全体を傾斜させた場合を例に挙げたが、例えば先端面23を軸線Oに直交する直交面に対して平行に形成すると共に、その一部だけを傾斜させても構わない。この場合、意図する方向に流れる溶融樹脂Wの流動量は減るものの、射出された溶融樹脂Wを意図する方向に向けて積極的に流動させる点については同じであるので、同様の作用効果を奏効することができる。
【0044】
また、ピン部材20の先端面23の全体を傾斜させる場合、例えば図4に示すように凹曲面状に形成(窪んだカーブ状)したうえで傾斜させても構わない。この場合であっても、同様の作用効果を奏効させることができるうえ、溶融樹脂Wの流れをよりスムーズに受け流すことができ、意図する方向に向けてより正確に流動させ易い。
なお、凹曲面状とは逆に凸曲面状に形成(膨らんだカーブ状)したうえで傾斜させても構わない。
【0045】
更には、ピン部材20の先端面23を図5に示すように、2つの傾斜面30が互いに内側に向いた谷型状に形成しても構わない。この場合には、2つの傾斜面30が接する稜線方向L1に向けて溶融樹脂Wを積極的に流動させることができる。
また、図6に示すように、ピン部材20の先端面23を2つの傾斜面31が互いに外側に向いた山形状に形成しても構わない。この場合には、2つの傾斜面31を下る方向に向けて溶融樹脂Wを積極的に流動させることができる。
【0046】
上記したように、ピン部材20の先端面23の形状は少なくとも傾斜部分を一部に有していれば良く、状況に応じて自由に設計して構わない。
【符号の説明】
【0047】
C…キャビティ
W…溶融樹脂
1…射出成形用金型
2…固定側型板(一方の型板)
3…可動側型板(他方の型板)
10…ピンゲート
10a…ゲート開口
20…ピン部材
23…ピン部材の先端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた一対の型板の間に成形品を成形するためのキャビティが形成される射出成形用金型であって、
前記一対の型板のうちの一方の型板には、前記キャビティに連通するピンゲートが形成され、
前記一対の型板のうちの他方の型板には、先端面が前記キャビティ内に露出した状態で前記ピンゲートのゲート開口に対して向かい合うピン部材が離脱自在に組み合わされ、
前記ピン部材の前記先端面は、傾斜部分を少なくとも一部に有し、前記ゲート開口を通じて射出される溶融樹脂の流れを射出方向とは異なった所望する方向に変化させながら前記キャビティ内に流動させることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形用金型において、
前記ピン部材は、前記先端面が前記キャビティの内壁部よりも該キャビティの内部側に位置するように、キャビティ内に突き出た状態で前記他方の型板に組み合わされていることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出成形用金型において、
前記ピン部材は、前記ピンゲートと同軸とされ、その直径が前記ゲート開口の直径よりも拡径していることを特徴とする射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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