説明

導体線

【課題】剥離強度の高い溶接部を形成する導体線を提供する。
【解決手段】導体線10は、銅又は銅合金からなると共に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されている。導体線10は、引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である。導体線10は、外径が0.08〜0.26mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体線及びその製造方法、並びにそれを用いた撚線導体、絶縁電線、溶接構造及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に配索されるワイヤーハーネスでは、一対の絶縁電線のそれぞれについて中間部分または端末部の被覆を剥いで撚線導体を露出させ、それらを超音波溶接により溶接してスプライス部を形成することが行われる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−1167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排ガス低減や燃費向上を目的とした自動車の軽量化が進められており、そのため自動車に搭載される各部品に対して軽量化及び小型化が求められている。その中でワイヤーハーネスも例外ではなく、軽量化のための電線の細径化が進んできている。
【0005】
ところで、従来、自動車用の電線では、主に軟銅からなる導体線を同心撚りした撚線導体が用いられていたが、電線の細径化に伴う強度不足による車載時や配索時の断線が懸念されることから、現在では、銅合金等の硬質材(強度向上材を含む)からなる導体線が採用されている。
【0006】
ところが、ワイヤーハーネスの組立においてはスプライス部を形成する中間ジョイントが採用されているが、硬質材からなる導体線を用いた細径化した電線を、軟銅からなる導体線を用いた一般電線に超音波溶接でジョイントする場合、溶接強度が不十分であり、また、バラツキが大きいという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、高く且つ安定な溶接強度を得ることができる導体線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導体線は、銅又は銅合金からなると共に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されており、引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である外径0.08〜0.26mmのものである。
【0009】
本発明の導体線の製造方法は、導体線材料の表面層を除去する表面層除去加工を施すものである。
【0010】
本発明の撚線導体は、本発明の導体線を含む複数本の導体線を集めて撚って構成されたものである。
【0011】
本発明の絶縁電線は、本発明の撚線導体を絶縁層で被覆して構成されたものである。
【0012】
本発明の溶接構造は、本発明の絶縁電線の絶縁層を部分的に剥がして露出した撚線導体を他の金属材に溶接して構成されたものである。
【0013】
本発明の溶接方法は、本発明の絶縁電線の絶縁層を部分的に剥がして露出した撚線導体を他の金属材に溶接するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外径0.08〜0.26mmの細径の導体線であるものの、それが、銅又は銅合金からなると共に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されており、しかも、引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下であることにより、十分に高く且つバラツキが小さい溶接強度を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る導体線を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係る導体線の製造方法の説明図である。
【図3】実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図4】変形例の絶縁電線の断面図である。
【図5】実施形態に係る溶接構造を示す平面図である。
【図6】溶接強度の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施形態に係る導体線10を示す。
【0018】
本実施形態に係る導体線10は、硬質材(強度向上材を含む)である銅又は銅合金からなり、断面円形に形成されている。銅としては、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅等が挙げられる。銅合金としては、例えば、Cu−0.3%Sn合金、Cu−2.5%Ni−0.6%Si−0.35%Cr合金(C18000)等が挙げられる。導体線10の外径は0.08〜0.26mmであり、0.08〜0.22mmであることが好ましく、0.08〜0.18mmであることがより好ましい。導体線10の断面形状は、真円であることが好ましいが、必ずしも真円である必要はなく、偏平した円形であってもよい。なお、その場合の外径は、導体線10の断面の最大外径である。
【0019】
導体線10は、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されている。酸化膜の厚さは15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。酸化膜の厚さは、電解液に0.1NのKCl水溶液及び対極電極に白金をそれぞれ用い、曝露面積を1.5cm2及び電流密度を0.5A/dm2としたカソード還元法によって測定される。導体線10の表面の酸化膜は、実際にはCuO及びCu2Oを含み、また、銅合金の場合には他の元素の酸化物をも含むが、上記の酸化膜の厚さの測定方法では、全てがCu2Oであるとみなすものとする。従って、本願における酸化膜の厚さはCu2O換算での酸化膜の厚さを意味する。
【0020】
導体線10は、引張強さが350MPa以上であり、400MPa以上であることが好ましく、450MPa以上であることがより好ましい。この導体線10の引張強さは、JIS Z2241に基づいて測定される。
【0021】
導体線10は、表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である。その比は1.04以下であることが好ましく、1.03以下であることがより好ましい。
【0022】
外層部及び内層部のビッカース硬さは、JIS K2244に基づき、外層部の場合には試験荷重5mN及び内層部の場合には試験荷重50mNとして測定される。
【0023】
次に、本実施形態に係る導体線10の製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態に係る導体線10の製造方法は、図2(a)に示すように、導体線材料の表面層を除去する表面層除去加工と、その後、表面層を除去した導体線材料を円形断面に伸線する表面層除去後伸線加工(表面層除去後冷間伸線加工)とを含む。表面層除去加工では、導体線材料の外径の3〜8%の表面層を除去することが好ましく、5〜8%の表面層を除去することがより好ましい。この表面層除去加工を施すことにより、最終的に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成され、また、引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下で、さらに、外径が0.08〜0.26mmであることを特徴とする上記導体線10を得ることができる。表面層除去加工としては、例えば、導体線材料を皮剥ダイスに通す皮剥加工、導体線材料の表面を研磨する研磨加工、導体線材料を酸に浸漬して表面層をエッチングする酸洗浄加工が挙げられる。これらのうち、均一且つ簡単に導体線材料の表面層を除去することができるという観点から皮剥加工が好ましい。
【0025】
本実施形態に係る導体線10の製造方法は、表面層除去代の均一化を図る観点から、図2(b)に示すように、表面層除去加工の前に、導体線材料の初期形態である荒引線を円形断面に伸線する表面層除去前伸線加工(表面層除去前冷間伸線加工)をさらに含むことが望ましい。導体線材料の初期形態である荒引銅線の外径は例えば8〜13mmである。表面層除去前伸線加工では、続く表面層除去加工による断線を防止する観点から、導体線材料の外径を例えば3〜7mmに細径化することが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る導体線10の製造方法は、図2(c)に示すように、必要に応じて、前記伸線加工中の、或いは、前記伸線加工後の熱処理工程をさらに含んでいてもよい。熱処理工程での熱処理方法、並びにその熱処理温度及び熱処理時間の条件は適宜設定すればよいが、熱処理温度は例えば100〜600℃とし、熱処理時間は例えば0.5〜10時間とする。熱処理雰囲気はCOガスやH2ガス等の還元ガスを含む雰囲気とする。つまり、この熱処理は還元処理である。
【0027】
表面層除去後伸線加工では、導体線材料を伸線ダイスに通して、最終的な外径を有する導体線10に仕上げる。
【0028】
以上の導体線の製造方法は、連続して行ってもよく、また、それぞれ独立して行ってもよいが、生産性を高める観点からは、連続して行うことが好ましい。その場合の線速度は例えば100〜2000m/minである。
【0029】
次に、本実施形態に係る絶縁電線20について説明する。
【0030】
図3は本実施形態に係る絶縁電線20を示す。この絶縁電線20は、例えば、自動車内のワイヤーハーネスを構成するのに用いられるものである。
【0031】
本実施形態に係る絶縁電線20は、本実施形態に係る導体線10を含む複数本の導体線10を集めて撚って構成された撚線導体21を絶縁層22で被覆して構成されている。
【0032】
撚線導体21を構成する導体線10の本数は例えば7〜37本である。撚線導体21には本実施形態に係る導体線10が少なくとも1本含まれていればよいが、撚線導体21を構成する全ての導体線10が本実施形態に係る導体線10であることが好ましい。
【0033】
撚線導体21の撚形態は、集合撚りであってもよく、また、同心撚りであってもよい。集合撚りは、導体線10を集めて撚り合わせただけのものであり、製造コストが安いというメリットがある。同心撚りは、導体線10を同心円状に配設し、断面が正多角形や円形に近似した形状となるように撚り合わせたものである。複数本の導体線10の外径が同一である場合には、低張力で安定して撚ることができるという観点から、集合撚りよりも、中心線である1本の導体線10の周りに他の導体線10を撚る同心撚りが好ましい。また、同心撚りにおいても、絶縁電線20の細径化を図る観点からは、導体線10を隙間無く最密充填状に配設することが好ましく、具体的には、例えば、図3に示すような1本の中心の導体線10の周りに6本の導体線10を最密充填状に1層配設した7(=1+6)本同心撚り、1本の中心の導体線10の周りに6本の導体線10及びその周りに12本の導体線10を最密充填状に配設した19(=1+6+12)本同心撚り、並びに、1本の中心の導体線10の周りに6本の導体線10、その周りに12本の導体線10、及びその周りに18本の導体線10を最密充填状に配設した37(=1+6+12+18)本同心撚りが好ましい。なお、導体線10の本数が多くなると1本の導体線10の断面積が小さくなって断線し易くなり、また、2層以上の撚りの場合に製造工程が煩雑になることから、7本同心撚りが特に好ましい。
【0034】
撚線導体21は、図2(c)に示すように、撚線後に最終熱処理が施されていてもよい。最終熱処理の熱処理温度は例えば100〜600℃とし、熱処理時間は例えば0.5〜10時間とする。熱処理雰囲気はCOガスやH2ガス等の還元ガスを含む雰囲気とする。つまり、この最終熱処理は還元処理である。
【0035】
撚線導体21は、図4に示すように、複数本の導体線10或いは導体線材料を集めて撚った撚線に圧縮成型を施して導体線10(特に最外層)の断面が変形していてもよく、そうすることにより断面における導体占有率が高められる。また、絶縁層22の厚さを薄くすることができるという効果もある。
【0036】
なお、撚線導体21は、各々、表面層除去加工を施していない複数本の導体線材料集めて撚った撚り線を酸に浸漬して各導体線材料の表面層をエッチングすることによっても製造することができる。この場合、撚線後に導体線材料の表面層を除去する表面層除去加工が施されることとなる。
【0037】
絶縁層22を形成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物、ポリエチレン、ポリプロピレン、α−オレフィンなどのポリオレフィン系樹脂組成物等が挙げられる。絶縁層22の厚さは例えば0.2〜0.3mmである。
【0038】
本実施形態に係る絶縁電線20は、押出成形により、撚線導体21を被覆するように絶縁層22を形成して製造することができる。
【0039】
ところで、排ガス低減や燃費向上を目的とした自動車の軽量化が進められており、そのため自動車に搭載される各部品に対して軽量化及び小型化が求められている。その中でワイヤーハーネスも例外ではなく、軽量化のための電線の細径化が進んできている。そして、従来、自動車用の電線では、主に軟銅からなる導体線を同心撚りした撚線導体が用いられていたが、電線の細径化に伴う強度不足による配索時の断線が懸念されることから、現在では、銅合金等の硬質材(強度向上材を含む)からなる導体線が採用されている。
【0040】
ところが、ワイヤーハーネスの組立においてはスプライス部を形成する中間ジョイントが採用されているが、硬質材からなる導体線を用いた細径化した電線を、軟銅からなる導体線を用いた一般電線に超音波溶接でジョイントする場合、溶接強度が不十分であり、また、バラツキが大きいという問題がある。
【0041】
しかしながら、本実施形態では、外径0.08〜0.26mmの細径の導体線10を用いているものの、それが、銅又は銅合金からなると共に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されており、しかも、引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下であることにより、十分に高く且つバラツキが小さい溶接強度を得ることができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る溶接構造30について説明する。
【0043】
図5は本実施形態に係る溶接構造30を示す。この溶接構造30は、上記絶縁電線20の中間部および端末部の絶縁層22を部分的に剥がして露出した撚線導体21を、同様に加工した他の絶縁電線20’の中間部の露出した撚線導体21’に、それらが重ね合わされた溶接部31で溶接してスプライス部に構成されたものであり、例えば、自動車内に搭載されるワイヤーハーネスを構成するものである。
【0044】
他の絶縁電線20’としては、例えば、外径が0.08〜0.32mmの銅又は銅合金からなる導体線10’を7〜65本集めて撚り合わせた撚線導体21’を絶縁層22’で被覆したものを複数本組み合わせたものが挙げられる。従来と比較して溶接強度が十分に高く、しかもバラツキが小さいという作用効果が奏されるという観点からは、他の絶縁電線20’は、引張強さが350MPa未満の軟銅からなる導体線10’で構成されていることが好ましい。なお、他の絶縁電線20’は本実施形態に係る絶縁電線20と同一構成であってもよい。また、溶接対象は、電線に限定されず、電極等の他の金属材であってもよい。
【0045】
溶接手段としては、例えば、超音波溶接、抵抗溶接、レーザ溶接等が挙げられる。これらのうち細径化された電線間接続には超音波溶接が好ましい。超音波溶接の条件は、例えば、圧力が2〜6bar、幅が1〜7mm、振幅が50〜100%、及びエネルギーが100〜2000Wsである。
【実施例】
【0046】
(導体線)
<実施例1>
タフピッチ銅からなる荒引銅線を伸線ダイスに通して円形断面に伸線し(表面層除去前伸線加工、φ8.0mm→φ2.6mm)、次いで、皮剥ダイスに通して皮剥加工を施し(表面層除去加工)、続いて、伸線ダイスに通して伸線した後(表面層除去後伸線加工、φ2.6mm→φ1.0mm)、さらに、伸線ダイスに通して最終外径に伸線することにより導体線を得た(φ1.0mm→φ0.16mm)。そして、この導体線を7本集めて同心撚りして撚線導体とした後、押出成形により撚線導体を被覆するように絶縁層を形成して絶縁電線を作製した。この絶縁電線を実施例1とした。なお、撚線後の最終熱処理は施さなかった。
【0047】
<実施例2>
撚線後の撚線導体に熱処理温度を100℃及び熱処理時間を1時間とした最終熱処理を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例2とした。
【0048】
<実施例3>
撚線後の撚線導体に熱処理温度を120℃及び熱処理時間を1時間とした最終熱処理を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例2とした。
【0049】
<比較例1>
表面層除去加工を施していないことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを比較例1とした。
【0050】
<比較例2>
表面層除去加工を施していないことを除いて実施例3と同様にして絶縁電線を作製し、それを比較例2とした。
【0051】
<参考例1>
撚線後の撚線導体に熱処理温度を140℃及び熱処理時間を1時間とした最終熱処理を施したことを除いて比較例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを参考例1とした。
【0052】
<参考例2>
撚線後の撚線導体に熱処理温度を200℃及び熱処理時間を1時間とした最終熱処理を施したことを除いて比較例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを参考例2とした。
【0053】
<実施例4>
Cu−0.3%Sn合金からなる荒引銅線を用いたことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例4とした。
【0054】
<実施例5>
表面層除去加工として、皮剥加工に代えて、導体線材料の表面にサンドペーパーを当てる研磨加工を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例5とした。
【0055】
<実施例6>
表面層除去加工として、皮剥加工に代えて、導体線材料に酸水溶液(濃度10%の塩酸)に浸漬する酸洗浄加工を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例6とした。
【0056】
<実施例7>
皮剥加工による表面層除去加工を施さず、同心撚り後の撚線導体に、酸水溶液(濃度10%の塩酸)に浸漬する酸洗浄加工を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例7とした。
【0057】
<比較例3>
表面層除去加工を施していないことを除いて実施例4と同様にして絶縁電線を作製し、それを比較例3とした。
【0058】
<実施例8>
Cu−2.5%Ni−0.6%Si−0.35%Cr合金からなる荒引銅線を用い、撚線後の撚線導体に熱処理温度を500℃及び熱処理時間を1時間とした最終熱処理を施したことを除いて実施例1と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例8とした。
【0059】
<実施例9>
最終熱処理における熱処理温度を550℃としたことを除いて実施例8と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例9とした。
【0060】
<実施例10>
最終熱処理における熱処理温度を600℃としたことを除いて実施例8と同様にして絶縁電線を作製し、それを実施例10とした。
【0061】
<比較例4>
表面層除去加工を施していないことを除いて実施例9と同様にして絶縁電線を作製し、それを比較例4とした。
【0062】
<参考例3>
最終熱処理における熱処理温度を650℃としたことを除いて比較例4と同様にして絶縁電線を作製し、それを参考例1とした。
【0063】
(試験評価方法)
<引張り強さ>
実施例1〜10、比較例1〜4、及び参考例1〜3のそれぞれについて、導体線を引き出して試験片とし、その引張り強さをJIS Z2241に基づいて測定した。
【0064】
<酸化膜の厚さ>
実施例1〜10、比較例1〜4、及び参考例1〜3のそれぞれについて、導体線を引き出して試験片とし、表面の酸化膜の厚さを、電解液に0.1NのKCl水溶液及び対極電極に白金をそれぞれ用い、曝露面積を1.5cm2及び電流密度を0.5A/dm2としたカソード還元法によって測定した。
【0065】
<ビッカース硬さ比>
実施例1〜10、比較例1〜4、及び参考例1〜3のそれぞれについて、導体線を引き出して試験片とし、その断面において表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部及び表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のそれぞれのビッカース硬さをJIS K2244に基づいて測定した。なお、外層部の測定では試験荷重を5mNとし、内層部の測定では試験荷重を50mNとした。
【0066】
<溶接強度>
実施例1〜10、比較例1〜4、及び参考例1〜3のそれぞれについて、中間部の絶縁層を部分的に剥がして撚線導体を露出させた。また、外径が0.32mmの銅からなる導体線を7本集めて同心撚りした撚線導体を絶縁層で被覆した被着側絶縁電線を3本準備し、それぞれについて、中間部の絶縁層を部分的に剥がして撚線導体を露出させた。そして、図6に示すように、試験対象の絶縁電線61の露出した撚線導体を、3本の被着側絶縁電線62の露出した撚線導体に超音波溶接して溶接部63を形成し、試験対象の絶縁電線61の180°剥離試験を行い、その溶接部63での剥離強度を溶接強度として測定した。測定を30回実施し、その平均値が20N以上の場合をA判定、及び20N未満の場合をB判定とした。
【0067】
(試験評価結果)
表1は試験結果を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
引張り強さは、実施例1が550MPa、実施例2が450MPa、実施例3が350MPa、比較例1が600MPa、比較例2が350MPa、参考例1が300MPa、及び参考例2が250MPaであり、また、実施例4が800MPa、実施例5が800MPa、実施例6が800MPa、実施例7が800MPa、比較例3が800MPaであり、さらに、実施例8が700MPa、実施例9が550MPa、実施例10が400MPa、比較例4が550MPa、及び参考例3が300MPaであった。
【0070】
酸化膜の平均厚さは、実施例1が13nm、実施例2が13nm、実施例3が14nm、比較例1が22nm、比較例2が22nm、参考例1が18nm、及び参考例2が28nmであり、また、実施例4が15nm、実施例5が18nm、実施例6が20nm、実施例7が20nm、比較例3が25nmであり、さらに、実施例8が10nm、実施例9が10nm、実施例10が10nm、比較例4が22nm、及び参考例3が22nmであった。
【0071】
ビッカース硬さ比は、実施例1が1.01、実施例2が1.01、実施例3が1.04、比較例1が1.04、比較例2が1.07、参考例1が1.06、及び参考例2が1.04であり、また、実施例4が1.02、実施例5が1.03、実施例6が1.04、実施例7が1.04、比較例3が1.04であり、さらに、実施例8が1.02、実施例9が1.02、実施例10が1.03、比較例4が1.03、及び参考例3が1.07であった。
【0072】
剥離強度は、実施例1〜10がA、及び比較例1〜4がBであり、また、参考例1〜3がAであった。なお、引張り強さの低い参考例1〜3では、酸化膜の平均厚さが20nmよりも厚く、或いは、ビッカース硬さ比が1.05より大きくても、溶接強度が高く且つそのバラツキが小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、導体線及びその製造方法、並びにそれを用いた撚線導体、絶縁電線、溶接構造及び溶接方法について有用である。
【符号の説明】
【0074】
10 導体線
20 絶縁電線
21 撚線導体
22 絶縁層
30 溶接構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなると共に、表面に平均厚さが20nm以下である酸化膜が形成されており、
引張強さが350MPa以上で、且つ表面から中心に向かって2.0μm以下の外層部のビッカース硬さの表面から中心に向かって5.0μm以上の内層部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である外径0.08〜0.26mmの導体線。
【請求項2】
請求項1に記載された導体線において、
タフピッチ銅又は無酸素銅からなる導体線。
【請求項3】
請求項1に記載された導体線において、
Cu−0.3%Sn合金又はCu−2.5%Ni−0.6%Si合金からなる導体線。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された導体線において、
自動車用途に用いられる導体線。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された導体線の製造方法であって、
導体線材料の表面層を除去する表面層除去加工を施す導体線の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された導体線の製造方法において、
導体線材料に冷間加工を施す冷間加工工程、及び該冷間加工工程で冷間加工した導体線材料に熱処理を施す熱処理工程を有し、
上記表面層除去加工は上記冷間加工工程における冷間加工に含まれると共に、該冷間加工工程における冷間加工は、該表面層除去加工の後に、導体線材料を伸線する表面層除去後伸線加工を含む導体線の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された導体線の製造方法において、
上記冷間加工工程における冷間加工は、表面層除去加工の前に、導体線材料を円形断面に伸線する表面層除去前伸線加工をさらに含む導体線の製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載された導体線の製造方法において、
上記表面層除去加工は、導体線材料の表面層を皮剥ぎして除去する皮剥加工である導体線の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかに記載された導体線を含む複数本の導体線を集めて撚って構成された撚線導体。
【請求項10】
請求項9に記載された撚線導体において、
上記複数本の導体線を集めて撚った後に圧縮成型されて構成された撚線導体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載された撚線導体において、
上記複数本の導体線の全てが請求項1乃至4のいずれかに記載された導体線である撚線導体。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれかに記載された撚線導体において、
同心撚りに構成されている撚線導体。
【請求項13】
請求項12に記載された撚線導体において、
上記複数本の導体線の本数が7本である撚線導体。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれかに記載された撚線導体を絶縁層で被覆して構成された絶縁電線。
【請求項15】
請求項14に記載された絶縁電線の絶縁層を部分的に剥がして露出した撚線導体を他の金属材に溶接して構成された溶接構造。
【請求項16】
請求項14に記載された絶縁電線の絶縁層を部分的に剥がして露出した撚線導体を他の金属材に溶接する溶接方法。
【請求項17】
請求項16に記載された溶接方法において、
溶接手段が超音波溶接である溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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