説明

導波管型帯域通過フィルタ

【課題】 共振領域のサセプタンスを連続的に、かつ、容易に調整することができる導波管型帯域通過フィルタを提供する。
【解決手段】
管内に共振領域が形成される導波管本体10と、共振領域のサセプタンスを調整するための調整機構とを有する。調整機構は、導波管本体10の管内においてその軸部が電磁波の通過方向と垂直でかつ軸部回りに回転するように導波管本体10に取り付けられた、断面非円形の導体棒14を含む。各導体棒14を回転させることにより、隣り合う導体棒14との間隔が変化して、共振領域の共振周波数が変化する。この結果、共振領域のサセプタンスを調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を用いたレーダシステムや通信装置などに用いられる導波管型の帯域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステム等において、特定の周波数の高周波信号を通過させるための帯域通過フィルタが使用されている。この種の帯域通過フィルタには様々な構成のものがあるが、良好な通過特性を有するものとして、矩形導波管を用いた帯域通過フィルタがある。矩形導波管の内壁には、それぞれ一対の幅広面(辺の長さが大きい方の面)と高さ面(辺の長さが小さい方の面)とが形成されている。矩形導波管の一般的な伝搬モードでは、各幅広面は、磁界(H)と平行となるため、本明細書では「H面」と呼ぶ。また、各高さ面は、電界(E)と平行となるため、本明細書では「E面」と呼ぶ。H面からは、E面と平行に、複数の導体が所定間隔で配備される。これらの導体は、サセプタンスを調整するためのもので、一般的には、その断面が円形の金属棒が用いられる。
このような帯域通過フィルタにおいて、導波管内を伝送してきた電磁波は、各導体で反射されるが、電磁波の周波数が、隣り合う導体同士の電磁的な結合によって形成される共振領域の周波数(共振周波数)と一致した場合には、その共振領域にエネルギーが流入する。これにより、共振周波数と一致する周波数の電磁波のみが共振領域を通過する帯域通過フィルタを実現することができる。
【0003】
このような構造の帯域通過フィルタにおいて、サセプタンスを調整するためには、導体(金属棒)を外径の異なるものに入れ替えている。導体は、通常、H面に形成された孔部に取り付けられているため、外径の異なるものを取り付けるためには、孔部の内径を加工しなければならない。そのため、半田付けや入れ替えのための作業が非常に煩雑であった。また、金属部材を入れ替えると、サセプタンスの値が不連続的で段階的な値になり、微調整が困難になるという問題があった。
【0004】
このような問題を解消すべく、サセプタンスの調整を容易にした導波管型の帯域通過フィルタとして、特許文献1に記載された導波管型フィルタがある。この導波管型フィルタは、サセプタンスを調整するための導体を円錐形のものにし、導波管の外壁から内壁方向に挿入される量に応じて、管内における外径が変わり、これによって、管内の導体同士の間隔が変化するようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平4−291801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された帯域通過フィルタでは、サセプタンスの不連続性の問題を解消できる利点がある。しかしながら、円錐形の導体の導波管内への挿入位置を変えるためには、依然として導波管外壁への半田付けなどの作業が必要になる。しかも、サセプタンスの微調整が困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は、サセプタンスを連続的に調整することができ、かつ、その調整作業を軽減させることができる導波管型帯域通過フィルタを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導波管型帯域通過フィルタは、管内に共振領域が形成される導波管本体と、前記共振領域のサセプタンスを調整するための調整機構とを有し、前記調整機構は、前記導波管本体の管内においてその軸部が電磁波の通過方向と垂直でかつ軸部回りに回転するように前記導波管本体に取り付けられた、断面非円形の導体棒を含んで構成される。
このような構成の導波管型帯域通過フィルタでは、導体棒が回転することにより、管内の共振領域でのサセプタンスが連続的に変化する。また、サセプタンスを変化させる際に導体棒を取り替える必要がないので、調整作業も軽減される。
【0009】
前記調整機構は、具体的には、前記導波管本体の管壁に孔部を形成しておき、前記導体棒は、その軸部が前記孔部に回転可能に支持されるようにして構成する。
ある実施の態様では、前記孔部を、例えば円形に成形し、前記導体棒は、前記孔部に支持される部分が前記孔部の内径とほぼ同じサイズとする。このような実施の態様では、導体棒が均一な力で滑らかに回転可能なので、サセプタンスの連続的な調整が容易になる。また、気密性が確保される。
【0010】
他の実施の態様では、前記孔部に、導体棒を軸部回りに回転可能にする軸受けが設けられるようにする。この場合、孔部は円形でも非円形でも良い。そして、前記導体棒が、前記軸受けを介して前記孔部に支持されるようにする。このような実施の態様では、導体棒を回転させるときの力が小さくて済み、サセプタンスの微調整が容易になる。
【0011】
なお、前記導体棒は、少なくとも管内における断面形状が、楕円形であっても良く、あるいは、少なくとも管内における断面形状が、厚みと幅とが異なる長方形であっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれは、調整機構の導体棒を回転させるだけで、管内の共振領域におけるサセプタンスを連続的に調整することができる。また、導体棒の取付態様を変化させることなくサセプタンスを調整できるので、調整作業を軽減させることができる。これにより、従来の課題を一気に解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を矩形導波管を用いた帯域通過フィルタに適用した場合の実施の形態例を説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態による帯域通過フィルタの構造例を示す上面図である。
この帯域通過フィルタ1は、断面矩形状の導波管本体10を有する。導波管本体10は、H面外壁11及びE面外壁12、並びに、一対のフランジ10A,10Bを含むものである。一方のフランジ10Aから他方のフランジ10Bに向かって電磁波が伝搬する方向を管軸方向とすると、E面外壁12には、管軸方向に複数の周波数調整機構13が所定の間隔で配設されている。この周波数調整機構13は、E面内壁からH面内壁と平行となる方向に、金属ネジの先端部がねじ込まれ、ねじ込み量に応じて共振周波数を変化させるものである。
【0014】
H面外壁11には、サセプタンス調整機構の一例となる複数の導体棒14が、例えば円形に開孔された孔部により、その軸部回りに回転自在に取り付けられる。各導体棒14は、電磁波が伝搬する管軸方向と直交する幅広方向の2つを1組として、管軸方向に複数組(図1の例では10組)取り付けられる。導体棒14の幅広方向の間隔は、開口面に近い部分は広く、それ以外の組については開口面の組よりもやや狭くなっている。導体棒14の管軸方向の間隔は、管内波長(λg)の2分の1未満の間隔d(d<λg/2)である。なお、導波管本体10の下面側は、図1に示す上面側の構成と対称である。
【0015】
本実施形態による帯域通過フィルタ1は、導体棒14の形状及びその取付構造に主たる特徴がある。そこで、これらについて、以下詳述する。
図2は、導体棒14の形状を示す外観斜視図である。導体棒14は、断面楕円状の調整部14Aと、この調整部14Aの両端部に一体に設けられる断面円形の支持部14Bとを有する。支持部14Bは、外径が孔部の内壁に嵌合するサイズであり、その端部の一部は、管壁から突出している。作業者は、この突出している支持部14Bの端部を操作して、導体棒14をその軸部回りに回転させることができる。なお、支持部14Bの端部にネジ溝を形成し、工具を用いて操作可能にしても良い。
【0016】
導体棒14は、図1において破線で示した部分領域20の断面図を示した図3のように、H面外壁11に開孔された孔部(図示省略)から挿入され、電磁波が通過する管軸方向と垂直で、その端部が管壁から一部突出し、かつ、軸部回りに回転可能な態様で、取り付けられる。
【0017】
使用時には、この導体棒14をその軸部回りに回転させる。これにより、導波管本体10の管軸に垂直な断面内に占める導体棒(調整部14A)の面積が変化し、隣り合う導体棒14との間隔が変化し、周波数調整機構13とともに形成される共振領域の共振周波数が変化する。この結果、共振領域のサセプタンスを調整することができる。なお、個々の導体棒14は、他の導体棒14とは独立に、調整することができる。
【0018】
図4は、図3に示す状態において、個々の導体棒14を回転させたときの、隣り合う導体棒14との間隔が変化する様子を示した図である。(a)は2つの導体棒14をともに上記面積が最大となるように調整した状態、(b)は一方の導体棒14は上記面積が最大、他方の導体棒14は上記面積が最小となるように調整した状態、(c)は2つの導体棒14をともに上記面積が最小となるように調整した状態をそれぞれ表している。(a)〜(c)において、2つの導体棒14の間隔は、g1〜g3のように変化する。実際には、個々の導体棒14を任意に調整することができるので、2つの導体棒14の間隔は、g1〜g3の範囲で任意な値となる。
【0019】
図5は、本実施形態の導波管型帯域通過フィルタ1におけるすべての導体棒14の状態を示している。導波管本体10を伝送してきた電磁波は、各導体棒14で反射されるが、電磁波の周波数が、隣り合う導体棒14並びに周波数調整機構13との結合によって形成される共振領域の共振周波数と一致した場合には、その共振領域にエネルギーが流入する。これにより、共振周波数と一致する周波数の電磁波のみが共振領域を通過する帯域通過フィルタを実現することができる。
【0020】
[第2実施形態]
導体棒14は、管内における断面形状が非円形であれば、楕円以外の形状であっても良い。第2実施形態では、管内における断面形状が、厚みと幅とが異なる長方形である場合の例を説明する。
【0021】
図6は、第2実施形態における導体棒の形状を示した図である。この導体棒24は、断面が長方形の調整部24Aと、その両端部の断面が円形となる支持部24Bとにより構成される。支持部24Bのサイズは、第1実施形態で説明した導体棒14の支持部14Bと同じである。
この導体棒24は、図3に対応する図7に示されるように、H面外壁11に開孔された孔部(図示省略)から挿入され、電磁波が通過する管軸方向と垂直で、その端部が管壁から一部突出し、かつ、軸部回りに回転可能な態様で、取り付けられる。導体棒24が、その軸部回りに回転すると、導波管本体10の管軸に垂直な断面内に占める調整部24Aの面積が変化することは、第1実施形態の場合と同様である。この実施態様による利点は、導体棒24の調整部が長方形の板状なので、加工が比較的容易であること、最小となる上記面積を第1実施形態の導体棒14よりもさらに小さくできることである。
【0022】
なお、本発明の実施の形態は、上述した例に限定されるものではない。例えば、第1及び第2実施形態では、H面外壁11に設けた孔部に導体棒14,24をそのまま挿入した場合の例を示したが、導体棒を回転自在に支持する軸受けを設け、この軸受けを回転させることにより、結果的にその導体棒が管内で回転するような構成にすることも可能である。この場合、軸受けに支持される導体棒は、上述した導体棒14,24のように、調整部14Aと支持部14Bのように、断面形状及びサイズを異なるものにする必要がなく、断面が楕円形又は長方形のものをそのまま用いることができる。このようにすれば、導体棒の加工がより簡易となり、帯域通過フィルタの製造コストを低減させることができる。
【0023】
また、第1及び第2実施形態では、導体棒14,24を、電磁波が伝搬する管軸方向と直交する幅広方向の2つを1組として、管軸方向に複数組取り付ける場合の例を示したが、電磁波が伝搬する管軸方向と直交する幅広方向に取り付ける導体棒14,24の数は、必ずしも2つに限定されず、1つあるいは3つ以上であっても良い。
さらに、第1及び第2実施形態では、矩形導波管を導波管本体として用いた場合の例を示したが、導波管本体は、円形導波管であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の導波管型帯域通過フィルタの構造を示す上面図。
【図2】導体棒の構造を示す外観斜視図。
【図3】導体棒の取付構造を示す部分説明図。
【図4】(a)〜(c)は、導体棒の間隔変化を示した図。
【図5】図1に示した帯域通過フィルタにおけるすべての導体棒の状態を示した図。
【図6】第2実施形態による導体棒の構造を示す外観斜視図。
【図7】第2実施形態による導体棒の取付構造を示す部分説明図。
【符号の説明】
【0025】
1 帯域通過フィルタ
10 導波管本体
11 H面外壁
12 E面外壁
13 周波数調整機構
14,24 導体棒
14A,24A 導体棒の調整部
14B,24B 導体棒の支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内に共振領域が形成される導波管本体と、
前記共振領域のサセプタンスを調整するための調整機構とを有し、
前記調整機構は、前記導波管本体の管内においてその軸部が電磁波の通過方向と垂直でかつ軸部回りに回転するように前記導波管本体に取り付けられた、断面非円形の導体棒を含んで構成される、
導波管型帯域通過フィルタ。
【請求項2】
前記導波管本体の管壁に孔部が形成されており、
前記導体棒は、その軸部が前記孔部に回転可能に支持されている、
請求項1記載の導波管型帯域通過フィルタ。
【請求項3】
前記孔部は円形に成形されており、
前記導体棒は、前記孔部に支持される部分が、当該孔部の内径とほぼ同じサイズである、
請求項2記載の導波管型帯域通過フィルタ。
【請求項4】
前記孔部に、導体棒を軸部回りに回転可能にする軸受けが設けられており、
前記導体棒は、前記軸受けを介して前記孔部に支持される、
請求項2記載の導波管型帯域通過フィルタ。
【請求項5】
前記導体棒は、少なくとも管内における断面形状が、楕円形である、
請求項1ないし4のいずれかの項記載の導波管型帯域通過フィルタ。
【請求項6】
前記導体棒は、少なくとも管内における断面形状が、厚みと幅とが異なる長方形である、
請求項1ないし4のいずれかの項記載の導波管型帯域通過フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−244631(P2008−244631A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79678(P2007−79678)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】