説明

導電性エラストマー材料、該材料からなる導電性シートおよび導電性シームレスベルト

【課題】良好な導電性を有しかつ耐屈曲性に優れた成形物が得ることができ、シート状の成形物の面内における電気抵抗のばらつきを小さくすることができる導電性エラストマー材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマーのみからなるベース成分にカーボンナノチューブが分散されており、該カーボンナノチューブは直径30〜300nmで且つアスペクト比が10〜1000であり、前記ベース成分100質量部に対してカーボンナノチューブ、0.01〜10質量部の割合で配合されていることを特徴とする導電性エラストマー材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性エラストマー材料、該材料からなる導電性シートおよび導電性シームレスベルトからなり、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを含むものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂に導電性を付与する方法としては、例えば、金属酸化物や導電性カーボンブラックなどの導電性フィラーを樹脂に配合する方法が提供されている。
この方法で良好な導電性を得るためには、導電性フィラーを比較的多く配合する必要があったことから、ベース樹脂本来の物性が変化するなど種々の問題が生じていた。
そこで、導電性フィラーの配合量を少なくしても良好な導電性を発揮できる樹脂材料が検討されてきている。
例えば、特開2005−54095号公報(特許文献1)には、カーボンを2種以上の樹脂混合物中に分散させてなることを特徴とする導電性樹脂材料が提案されている。
特に、カーボンとしては直径1μm以下のカーボンナノチューブまたは気相成長カーボン繊維に代表される繊維状カーボンを用いることが好ましい旨記載されている。かつ、該特許文献1では、カーボンの配合量が材料全体の0.01〜10質量%という少量であっても体積抵抗率が1010Ω・cm以下の良好な導電性が得られることが記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載のように、導電性フィラーの配合量を少なくしても、フィルム等のシート状物に成形したときに、導電性フィラーの分散状態によりシート面内における電気抵抗のばらつきが大きくなったり、シートの耐屈曲性が悪くなったりするという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−54095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、カーボンナノチューブを導電性フィラーとして配合し、シート状に成形した場合に、分散状態が均一となり、電気抵抗のバラツキが少なく、かつ耐屈曲性に優れたものとすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために、熱可塑性エラストマーのみからなるベース成分にカーボンナノチューブが分散されており、該カーボンナノチューブは直径30〜300nmで且つアスペクト比が10〜1000であり、前記ベース成分100質量部に対してカーボンナノチューブが0.01〜10質量部の割合で配合されていることを特徴とする導電性エラストマー材料を提供している。
【0007】
本発明では、カーボンナノチューブを分散させるベース成分として、熱可塑性エラストマーのみを用いている。
熱可塑性エラストマーはゴムのような耐久性、弾性、柔軟性と樹脂のような成形性を併せ持つため、シート状物とした場合に耐屈曲性に優れたものとすることができる。
前記ベース成分となる熱可塑性エラストマーとしては、公知の熱可塑性エラストマーを使用でき、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0008】
前記した熱可塑性エラストマーのなかでも、特に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのみを用いることが好ましい。
これは、本発明者が熱可塑性エラストマーの種類を変えて実験を繰り返した結果、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの1種のみをベース成分とした場合、カーボンナノチューブが均一に分散し、かつ、カーボンナノチューブを分散させて作成したシートの耐屈曲性が良好となることを知見したことに基づく。
【0009】
また、熱可塑性エラストマー、特に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに、導電性フィラーとして分散させるカーボンナノチューブについては、その太さが電気抵抗のばらつきやシートの耐屈曲性に大きな影響を与えていることを見出し、配合するカーボンナノチューブを、その直径が30〜300nmで、アスペクト比が10以上であるのものに限定することにより前記問題点を解決できることを知見した。
なお、カーボンナノチューブとして多層カーボンナノチューブを用いる場合、その直径は最も外側のカーボンナノチューブの直径を指す。
【0010】
よって、本発明で用いるカーボンナノチューブは直径を30〜300nmとしている。カーボンナノチューブの直径が30nmより小さいと、本発明の導電性エラストマー材料を押出成形して得たシート状成形物において、面内の体積抵抗率のばらつきが大きくなる。一方、カーボンナノチューブの直径が300nmより大きいと、シート状成形物の耐屈曲性が悪くなる。
カーボンナノチューブは直径は、より好ましくは、30〜200nm、特に、30〜100nmが好ましい。
【0011】
また、カーボンナノチューブは、そのアスペクト比(長さL/直径D)を10〜1000としている。これはアスペクト比が10より小さくなると少量の添加で十分な導電パスを形成することが難しくなる恐れがあり、アスペクト比が1000より大きくなると本発明の導電性エラストマー材料からなるシート状成形物の耐屈曲性が悪くなるからである。
カーボンナノチューブのアスペクト比は、より好ましくは10〜500、特に、10〜100が好ましい。
【0012】
カーボンナノチューブとしては、蜂の巣状に結合した炭素原子が平面状に広がってなるグラフェンシート1層が筒状になった単層カーボンナノチューブ、2層以上が同心円状に筒状になった多層カーボンナノチューブおよびこれらがコイル状になったものが挙げられる。本発明においては、カーボンナノチューブにおいて単層構造と多層構造が混在していても構わない。
また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。
さらに、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーン、その頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質、両側に穴があいたカーボンナノチューブなども用いることができる。
【0013】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、市場で入手可能なものを用いてもよいし、当該分野で公知の任意の方法によって製造されたものであってもよい。
カーボンナノチューブの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、気相成長法、二酸化炭素の接触水素還元法、CVD法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法などが挙げられる。
【0014】
カーボンナノチューブの配合量は、前記のように、熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.01〜10質量部としている。これは、カーボンナノチューブの配合量が0.01質量部より少ないと所望の導電性を得ることが困難である一方、カーボンナノチューブの配合量が10質量部より多いとシート状成形物とした際に、その耐屈曲性が悪くなりやすいことに因る。
前記カーボンナノチューブの配合量は、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0015】
本発明の導電性エラストマー材料においては、前記成分以外に本発明の目的に反しない限り他の成分が配合されていてもよい。例えば、充填剤、軟化剤、相容化剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、難燃剤、中和剤、造核剤または気泡防止剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0016】
本発明の導電性エラストマー材料は公知の方法で製造することができる。
具体的には、例えば、熱可塑性エラストマーとカーボンナノチューブ(所望により他の添加剤)を1軸もしくは2軸押出機またはニーダー等に投入し、熱可塑性エラストマーの種類に応じた温度、例えば150〜250℃に加熱しながら熱可塑性エラストマー中にカーボンナノチューブを分散させる。ヘンシェルミキサー、スーパーミキサーまたはタンブラー型ミキサー等の混練機を用いて、一部の成分またはすべての成分を予め混練しておいてもよい。
【0017】
本発明の導電性エラストマー材料を種々の形状に成形することにより導電性エラストマー成形物を得ることができる。
成型方法としては特に限定されず、例えば押出成形、圧縮成形、真空成形、ブロー成形、射出成形またはインフレーション成形等の公知の成形方法を用いてよい。なかでも、押出成形を行うことが好ましい。押出成形を用いれば連続成形することができるため量産性に優れているからである。
特に、押出成形した導電性シートまたはシームレスの導電性ベルトとすることが好ましい。
【0018】
よって、本発明は、前記導電性エラストマー材料がシート状に押出成形されたものであり、体積抵抗率が1011Ω・cm以下、シート面における体積抵抗率のバラツキが10Ω・cm以内である導電性シートを提供している。該導電性シートは、静電防止フィルム等として好適に用いられる。
【0019】
また、本発明は、前記導電性エラストマー材料がシームレスベルトとして押出成形されたものであり、体積抵抗率が1011Ω・cm以下で且つシート面における体積抵抗率のバラツキが10Ω・cm以内である導電性シームレスベルトを提供している。
該導電性シームレスベルトは、電子写真方式または静電印刷方式にて画像形成を行う画像形成装置、例えば複写機、ファクシミリまたはプリンタ等を構成する部材として用いられることが好ましい。該導電性シームレスベルトとしは、搬送ベルト、転写ベルト、中間転写ベルト、定着ベルト、現像ベルトまたは感光体基体用ベルト等が挙げられる。
【0020】
前記のように、本発明の導電性エラストマー材料は、カーボンナノチューブの配合量を熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.01〜10質量部としているため、該熱可塑性エラストマー材料からなる成形物は、その体積抵抗率を1011Ω・cm以下とすることができる。
下限値は応用される用途などにより異なるため一概には言えないが、前記カーボンナノチューブの配合量から10Ω・cm以上程度となる。
前記シート状の成形物の体積抵抗率は、より好ましくは10〜1010Ω・cmである。
【0021】
前記本発明の導電性シートおよび導電性シームレスベルトでは、その面内における体積抵抗率のバラツキを10Ω・cm以内に抑えることができる。該体積抵抗率のバラツキとは、成形物の面内において複数箇所で測定した体積抵抗率のうち最大の体積抵抗率と最小の体積抵抗率の差を指す。
このように、面内における体積抵抗率のバラツキを10Ω・cm以内に抑えることが出来るのは、カーボンナノチューブとして、直径30〜300nmで且つアスペクト比が10〜1000のものを用い、ベース成分として熱可塑性エラストマーのみを用いることにより、該熱可塑性エラストマー中に前記カーボンナノチューブを均一に分散されることが出来ることに因る。
前記面内の体積抵抗率のバラツキは、より好ましくは3.5Ω・cm以内である。
【0022】
また、本発明の導電性シームレスベルトでは、ベース成分として熱可塑性エラストマーのみを用いると共に、前記直径およびアスペクト比を有するカーボンナノチューブを均一に配合しているため、その耐屈曲性を高めることができる。
具体的には、幅15mm、長さ150mm、厚さ100μmの導電性シートでは,(株)安田精機製作所製のMIT耐折度試験機にて、雰囲気温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下で、荷重1/2 lb、屈曲角度135度、屈曲速度175cpmの条件で繰返し屈曲させ、破断するまでの回数を計測した結果、破断までの屈曲回数が30000回以上である耐屈曲性を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の導電性エラストマー材料では直径30〜300nm、アスペクト比が10〜1000であるカーボンナノチューブという特定の導電性フィラーを用い、かつ、ベース材料は熱可塑性エラストマーのみとしていることにより、耐屈曲性に優れた成形物が得られ、かつ成形物の面内における電気抵抗のばらつきを抑えることができる。
かつ、カーボンナノチューブの配合量を熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.01〜10質量部と少量としているため、体積抵抗率を1011Ω・cm以下という良好な導電性を得ることができる。そのため、ベースとなる熱可塑性樹脂の物性を変化させることがなく、また無色透明な成形物を製造することも可能となる。
されに、本発明の導電性エラストマー料は押出成形することができるので、連続的な成形が可能であり、量産にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を説明する。
導電性エラストマー材料は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに直径30〜300nmのカーボンナノチューブが分散されている。
カーボンナノチューブの配合量は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲で配合すれば良いが、本実施形態では0.5〜5質量部の割合で配合している。
前記のように、カーボンナノチューブの直径は30〜300nmの範囲であれば良いが、本実施形態では直径30〜100nmとしている。
該カーボンナノチューブは、そのアスペクト比が10〜1000の範囲であれば良いが、本実施形態では10〜100としている。
【0025】
ベース材料として、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの1種のみを用いている。
該ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、導電性エラストマー材料に対して要求される特性に応じて、硬度、弾性率、成形性など適当なグレードのものを使用することができる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマーまたはポリエステルポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、複数種を混合しても良い。
なかでも、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、高融点ポリエステル構成成分と低融点ソフトセグメント構成成分とからなる熱可塑性エラストマーが好ましい。
より具体的には、高融点ポリエステル構成成分だけで重合体を形成した場合の融点が150℃以上であり、低融点ソフトセグメント構成成分のみで測定した場合の融点ないし軟化点が80℃以下であるポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましい。
とくに、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントとポリエーテルおよび/またはポリエステルからなるソフトセグメントとから構成される共重合体が好ましい。
【0026】
芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントの構成成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステルと炭素数が1〜25のグリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを用いることができる。
前記酸性成分としてはテレフタル酸を用いることが好ましい。このテレフタル酸を単独で用いることがより好ましいが、その他の酸成分と必要に応じて組み合わせることもできる。テレフタル酸とその他の酸成分を組み合わせて用いる場合、テレフタル酸が全酸成分の70モル%以上、好ましくは75モル%以上占めることが好適である。
前記炭素数が1〜25のグリコールとしてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。
なかでも、芳香環を有するポリエステルからなるハードセグメントの構成成分としてはポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0027】
前記ポリエーテルからなるソフトセグメントとしては、例えばポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコールが挙げられる。アルキレン部分の炭素数は、前記例示化合物における2および4に限らず、2〜20であれば好ましく、2〜10であればより好ましい。
ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマーにおいて、ポリエーテルからなるソフトセグメントは全質量の15質量%〜75質量%を占めることが好ましい。
ポリエステルポリエーテル系熱可塑性エラストマーにおいてはソフトセグメントである分子鎖の弾性率が低温低湿状態と高温高湿状態との間で変化しにくく安定しているため、本発明の導電性樹脂材料における抵抗値の環境依存性がより小さくなるという利点がある。
【0028】
前記ポリエステルからなるソフトセグメントとしてはラクトン類を用いることが好ましい。ラクトン類のなかでもカプロラクトンが最も好ましいが、その他としてエナンラクトンまたはカプリロラクトン等も使用することができ、これらのラクトン類の2種以上を併用することもできる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーにおいて、芳香族ポリエステルとラクトン類との共重合割合は用途に応じて選定され得るが、標準的な比率としては質量比で芳香族ポリエステル/ラクトン類が97/3〜5/95、より一般的には95/5〜30/70の範囲である。
【0029】
また、前記導電性エラストマー材料には、本発明の目的に反しない限り、前記熱可塑性エラストマーとカーボンナノチューブ以外に添加剤が配合してもよい。
例えば、機械的強度を改善するために充填剤等を配合することができる。充填剤としては、例えば、シリカ,カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ等の粉体を挙げることができる。
充填剤は導電性エラストマー材料全質量の15質量%以下で配合するのが好ましい。これは充填剤の配合は導電性エラストマー材料の引張強度および引裂強度等の改善には有効であるものの、余り多く配合すると導電性エラストマー材料の柔軟性が低下するためである。
【0030】
また、例えば適度な柔軟性と弾性を与えるために軟化剤を配合してもよい。
軟化剤としてはオイルや可塑剤が挙げられる。オイルとしては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油や炭化水素系オリゴマーからなるそれ自体公知の合成油、またはプロセスオイルを用いることができる。合成油としては、例えばα−オレフィンとのオリゴマー、ブテンのオリゴマー、エチレンとα−オレフィンとの非晶質オリゴマーが好ましい。可塑剤としては、フタレート系、アジペート系、セパケート系、ホスフェート系、ポリエーテル系、ポリエステル系等の可塑剤が挙げられ、より具体的には例えばジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルセパケート(DOS)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。
【0031】
前記軟化剤の配合量は特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部に対し50〜400質量部が好ましく、50〜200質量部がさらに好ましい。軟化剤の配合量が前記範囲よりも少ないと軟化剤を添加した効果が得られ難く、一方で軟化剤を前記範囲より多く配合すると成形物にしたときに軟化剤がブリードしやすくなるためである。
【0032】
本発明の導電性エラストマー材料は、例えば、以下の方法で製造している。
ポリエステル系熱可塑性エラストマー、カーボンナノチューブ、所望により他の添加剤を2軸押出機に投入し、200〜250℃に加熱しながら熱可塑性樹脂中にカーボンナノチューブを分散させる。得られた導電性エラストマー材料は後からの成形工程を考えてペレット状にしておくのがよい。
【0033】
得られた本発明の導電性エラストマー材料を単軸押出機を用いて200〜250℃で例えばシート状またはシームレスベルト状に押出すことにより、導電性シームレスベルトとしている。
前記導電性シームレスベルトは、その体積抵抗率が1011Ω・cm以下であり、面内における体積抵抗率のバラツキが10Ω・cm以内である。さらに、後述する実施例に記載した耐屈曲性試験において、破断までの屈曲回数が30,000回を超えるものである。
【0034】
以下、実施例を用いて本発明を詳述する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
「実施例1,2、比較例2,3」
ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよびカーボンナノチューブを下記表に記載の割合(表中の数値は質量部を示す。)で配合し、2軸押出機を用いて250℃の温度で溶解・混練し、分散させながら押出した後、ペレット状にし、導電性エラストマー材料を得た。
作成したペレット状の導電性エラストマー材料を150mm幅のTダイを取り付けた単軸押出機を用いて250℃で押出して、厚み100μmのシートを作成した。
【0035】
「比較例1」
カーボンナノチューブを配合せず、熱可塑性エラストマーを2軸押出機を用いて250℃の温度で溶解して押出した後、ペレット状にした。
作成したペレットを150mm幅のTダイを取り付けた単軸押出機を用いて250℃で押出して、厚み100μmのシートを作成した。
【0036】
「比較例4」
熱可塑性エラストマーの代わりに熱可塑性樹脂であるポリブチレンナフタレートを用いた以外は実施例1と同様の方法で厚み100μmのシートを作成した。
【0037】
【表1】

【0038】
表中の各成分としては、下記のものを用いた。
・熱可塑性エラストマー:ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン(株)製「ハイトレル2781(商品名)」)
・熱可塑性樹脂:ポリブチレンナフタレート(東洋紡績(株)製「ペルプレンP560(商品名)」
・カーボンナノチューブA:直径=10nm、アスペクト比50
・カーボンナノチューブB:直径=50nm、アスペクト比40
・カーボンナノチューブC:直径=100nm、アスペクト比20
・カーボンナノチューブD:直径=400nm、アスペクト比20
【0039】
実施例1,2および比較例1〜4で作成したシートについて下記物性の測定を行った。結果は表1に示す。
(1)体積抵抗率の測定
体積抵抗率は、三菱化学(株)製Hiresta-up(MCP-HT450)、URプローブを用いて、雰囲気温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下、電圧100Vで測定した。
作成したシートの押出方向に対して垂直方向で2点、押出方向に10cm間隔で7点の計14点を測定し、それらの平均値を体積抵抗率とし、その値を以下の基準に従って判定した。
○:体積抵抗率≦1011Ω・cm
×:体積抵抗率>1011Ω・cm
【0040】
(2)体積抵抗率の面内バラツキ
(1)で測定した体積抵抗率14点の最大値と最小値の差をとって面内バラツキとし、その値を以下の基準に従って判定した。
○:最大値−最小値≦10
×:最大値−最小値>10
なお、比較例1については、熱可塑性エラストマーのみから構成され、カーボンナノチューブを含まないので体積抵抗率が1011Ω・cmを超えることから、「−」と記載した。
【0041】
(3)耐屈曲性
シートを押出方向に幅15mm、長さ150mmの短冊状に打抜きサンプルを作成した。
このサンプルを(株)安田精機製作所製のMIT耐折度試験機にて、雰囲気温度23℃、相対湿度55%の恒温恒湿条件下で、荷重1/2 lb、屈曲角度135度、屈曲速度175cpmの条件で繰返し屈曲させ、破断するまでの回数を計測した。破断までの屈曲回数により、以下の基準に従って判定した。
○:破断までの屈曲回数>30,000回
×:破断までの屈曲回数≦30,000回
【0042】
カーボンナノチューブの直径が10nmと30nmより小さい比較例2では、成形物における面内の体積抵抗率のばらつきが大きくなることが確認できた。
カーボンナノチューブの直径が400nmと300nmより大きい比較例3では、成形物の耐屈曲性が悪くなることが確認できた。
熱可塑性エラストマーの代わりに熱可塑性樹脂を用いた比較例4では、成形物の耐屈曲性が悪くなることが確認できた。
それに対し、カーボンナノチューブの直径が30〜300nmの範囲にある実施例1及び実施例2では、成形物は耐屈曲性に優れ、かつ面内における電気抵抗のばらつきが小さいことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーのみからなるベース成分にカーボンナノチューブが分散されており、該カーボンナノチューブは直径30〜300nmで且つアスペクト比が10〜1000であり、前記ベース成分100質量部に対してカーボンナノチューブが0.01〜10質量部の割合で配合されていることを特徴とする導電性エラストマー材料。
【請求項2】
前記ベース成分の熱可塑性エラストマーはポリエステル系熱可塑性エラストマーのみからなる請求項1に記載の導電性エラストマー材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性エラストマー材料がシート状に押出成形されたものであり、体積抵抗率が1011Ω・cm以下、シート面における体積抵抗率のバラツキが10Ω・cm以内である導電性シート。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の導電性エラストマー材料がシームレスベルトとして押出成形されたものであり、体積抵抗率が1011Ω・cm以下で且つシート面における体積抵抗率のバラツキが10Ω・cm以内である導電性シームレスベルト。
【請求項5】
荷重1/2 1b、屈曲角度135度、屈曲速度175cpmでの屈曲試験において、破断までの屈曲回数が30000回以上である耐屈曲性を有する請求項4に記載の導電性シームレスベルト。

【公開番号】特開2009−155506(P2009−155506A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336194(P2007−336194)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】