説明

導電性グラスライニング、導電性グラスライニング製構造物及び導電性グラスライニングの施工方法

【課題】静電気が帯電しにくく、製造コストが安く、しかも最表層の導電性GL層の色調を薄色とした導電性GL及びその施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 金属基材の上に、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引き通常グラスライニング(GL)層と、ガラスフリットに薄色導電性物質を添加して焼成した上引き導電性GL層の少なくとも二層のGL層を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工業、医薬品工業、食品工業等で使用される耐食性を有し、かつ、最表層が薄色である導電性グラスライニング、該導電性グラスライニングから構成されるグラスライニング製構造物、及び導電性グラスライニングの施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ質(SiO2)とアルミナ質(Al2O3)からなるガラス層を金属表面に強固に焼成結合したものが琺瑯で、そのうち、特に耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れているものをグラスライニング(GL)と呼ぶ。GL機器等に用いられるGLは、低炭素鋼板又はステンレス鋼板等の金属基材に下引き釉薬を焼き付けた後、高耐食性の上引き釉薬を焼き付けて製造される。
【0003】
GL素材は、表面抵抗率が1×1013〜1014Ω/sq.程度の絶縁材料であるため、GL機器等の内部で非水系有機溶媒等を撹拌すると、ときには高電圧の静電気が帯電し、GL機器等にアースを施していても静電気によるGLの絶縁破壊が起こりうるという問題が顕在していた。
【0004】
この問題を解決する手段として、導電性物質をガラスフリットに添加して焼成し、導電性GL層を形成させることが知られている。例えば、特許文献1には、組成物であって、直径0.01〜0.5ミクロン、長さ0.5〜1500ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を、前記フリット100重量部に対して0.001〜0.05重量部含有することを特徴とし、体積方向(金属基材方向)へ帯電荷を逃がす上引きGL層及び下引きGL層からなる二層構造の導電性GLが開示されている。
【0005】
また、フリットを含むGL組成物であって、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上のセラミックス繊維を前記フリット100重量部に対して0.05〜1.5重量部含有することを特徴とし、体積方向へ帯電荷を逃がす上引きGL層及び下引きGL層からなる二層構造の導電性GLが特許文献2に開示されている。
【0006】
また、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きGL層及び上引きGL層と、ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した上引き導電性GL層の少なくとも三層のGL層から構成され、上引き導電性GL層が最表層である導電性GLが特許文献3に開示されている。
【0007】
さらに、針状導電性アンチモン含有酸化スズ粉末をガラスフリットに添加したGL組成物が、特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特開平11−116273号公報
【特許文献2】特開平11−189431号公報
【特許文献3】特開2005−314791号公報
【特許文献4】特開2005−314194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1及び特許文献2に開示される導電性GLには、実際に高電圧静電気放電が発生した場合には、高電圧の帯電荷がGL層を通過して金属基材へと流れるためにGL層が絶縁破壊されやすいという問題点があった。また、GL層全体に導電性物質を含有しているために放電試験によるノーピンホール確認試験が実施できないという品質管理上の問題点、さらに導電性物質の使用量が多く、高価な導電性物質を使用すると製造コストが高くなるという経済上の問題点も存在した。
【0009】
一方、特許文献3に開示されている導電性GLは、表面方向(沿面方向)に帯電荷を逃がすことを特徴としているため、導電性の高い貴金属又は貴金属化合物等をガラスフリットに添加する必要がある。しかし、貴金属又は貴金属化合物は非常に高価であるため、GLの耐久性を向上させるために最表層の上引き導電性GL層の厚みを増すと、製造コストが高くなるという問題があった。
【0010】
また、特許文献4に開示されている導電性GLでは、導電性物質であるアンチモン含有酸化スズの含有量が低いため、十分な帯電防止効果を得ることは困難である。また、全層に導電性物質を添加するため、特許文献1及び特許文献2に開示されている導電性GLと同様の欠点を有している。
【0011】
さらに、貴金属又は貴金属化合物、あるいはステンレス等の粉末をガラスフリットに添加して焼成すると、GL層が黒色に近い暗色となってしまう。このため、より明るい色で構造物内部を点検しやすい導電性グラスライニング構造物が求められていた。
【0012】
そこで本発明は、コストを抑えながらGL表面の導電性を維持し、かつ、導電性GL層の色調を薄色とした導電性GL及びGL製構造物を提供することを目的とする。また、そのような導電性GLの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下引きGL層と、導電性物質としてアンチモン含有酸化スズを含有する上引き導電性GL層とを備えることを特徴とする導電性GLに関する。また、本発明は、前記導電性GLから構成されるGL製機器、GL製容器等のGL製構造物、及びその施工方法に関する。
【0014】
具体的に、本発明は、
金属基材上に、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引き通常GL層と、
ガラスフリットに導電性物質として酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)、酸化スズ、リン含有酸化スズ又は酸化スズをコートした硫酸バリウムのいずれかを添加して焼成した上引き導電性GL層と、
を備えることを特徴とする導電性GLに関する(請求項1)。
【0015】
前記上引き導電性GL層と前記下引き通常GL層との間に、上引き通常GL層を施工してもよい(請求項2,7)。
【0016】
導電性物質が酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)である場合、ガラスフリットに対する添加量が11重量%以上20重量%以下であることが好ましい(請求項3,8)。
【0017】
導電性物質がアンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)である場合、ガラスフリットに対する添加量が18重量%以上30重量%以下であることが好ましい(請求項4,9)。
【0018】
また、本発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性GLから構成され、上引き導電性GL層が最表層となっている導電性GL製構造物に関する(請求項5)。
【0019】
また、本発明は、
ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引き通常GL層と、
ガラスフリットに導電性物質として酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)、酸化スズ、リン含有酸化スズ又は酸化スズをコートした硫酸バリウムのいずれかを添加して焼成した上引き導電性GL層と
を金属基材上に順に施工する導電性GLの施工方法に関する(請求項6)。
【0020】
ガラスフリットに添加する酸化スズ含有酸化インジウム又はアンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタンの平均粒子径は、0.2μm以下であることが好ましい(請求項10)。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性GLは、貴金属又は貴金属化合物と比較して安価な酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)等を導電性物質として上引きGL層のガラスフリットに添加するため、上引き導電性GL層の厚みを、耐久性を向上する目的で十分に厚くしても製造コストを抑制できる。
【0022】
また、本発明の導電性GLは、上引き導電性GL層の色調が薄色(例えば、白色、薄色(特に薄青色)、薄灰色)であるため、GL製構造物の内部を目視で点検しやすいという、従来の導電性GLにない特徴を有する。
【0023】
また、本発明の導電性GLは、従来の全層導電性GLと比較して耐絶縁破壊性が高く、帯電防止効果も同等である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【0025】
本発明の導電性GLの断面図を、図1(a)及び図1(b)に示す。本発明の導電性GLは、図1(a)に示すように、金属基材の上に、導電性物質を含まない下引きGL層(下引き通常GL層)及び導電性物質として酸化スズ含有酸化インジウム等を含む上引き導電性GL層を順に積層した構造を有する。
【0026】
ここで、酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)とは、CAS No.50926-11-9で規定された物質をいい、アンチモン含有酸化スズ(ATO)とはSnO2:88〜97%、Sb2O5:3〜12%の組成のものをいい、アンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)とはTiO2:70〜90%、SnO2:5〜29.9%、Sb2O5:0.1〜5%の組成のものをいう。
【0027】
また、図1(b)に示すように、下引き通常GL層と上引き導電性GL層との間に、導電性物質を含まない上引きGL層(上引き通常GL層)を有してもよい。
【0028】
本発明の導電性GLは、最表層を導電性GL層としているため、特許文献3に開示されている導電性GLと同様、表面方向(沿面方向)に帯電荷を逃がすことができる。そして、貴金属又は貴金属化合物と比較して安価な酸化スズ含有酸化インジウム等を、導電性物質として最表層となる上引きGL層のガラスフリットに添加するため、GLの耐久性を向上させるために導電性上引きGL層を厚く焼成しても、製造コストを抑制することができる。
【0029】
なお、図1(a)及び図1(b)に示したGL例において、上引き導電性GL層の厚みは、0.1mm以上0.6mm以下であることが好ましい。0.1mm未満では耐腐食性及び耐摩耗性が十分ではなく、一方、0.6mm超ではコストが高くなり、また、万が一、放電が発生した時に、ピンホールが発生するおそれがあるためである。これはGLにおいては施工できる限界厚みがあるため、上引き導電性GL層を厚くすると、それに応じて下層(下引きGL層+上引き通常GL層)を薄くする必要があり、これによって、下層が薄くなると耐放電破壊電圧が低下してしまうためである。
【0030】
上引き導電性GL層は、薄色であれば色は特に限定されないが、マンセル表色系で色相が赤(R)、黄(Y)、緑(G)、紫(P)、黄赤(YR)、黄緑(GY)、青緑(BG)、青紫(PB)、赤紫(PR)の場合には明度7〜9.5であることが好ましい。また、色相が青(B)の場合には明度6〜9.5であり、かつ、彩度0〜6であることが好ましい。なお、色調の測定は市販の色彩色差計を用いて測定することができる。
【0031】
<導電性物質の添加量>
はじめに、金属基材(軟鋼)上に、導電性物質を含有しない下引き通常GL層及び上引き通常GL層、及び導電性物質を含む上引き導電性GL層を焼成した三層構造の導電性GL(図1(b)の構造)を作製し、導電性物質である酸化スズ含有酸化インジウム(以下、「ITO」)又はアンチモン含有酸化スズでコートした酸化チタン(以下、「ATO-TiO2」)の上引きGL用ガラスフリットへの添加量と、導電性GLの表面抵抗率の変化について調べた。以下、図1(b)を参照しながら、製造工程の順を追って説明する。
【0032】
(スリップ作製)
導電性GLの製造に使用したガラスフリットの組成を、表1に示した。本発明の導電性GLの下引き通常GL層及び上引き導電性GL層の製造に使用できるガラスフリットは、表1に限定されるものではなく、慣用的に使用されている任意のものを使用可能である。そして、上引きGL用ガラスフリットに導電性物質として、ITO(富士チタン工業社製B-N)又はATO-TiO2(石原産業製ET-300W)を添加した。
【0033】
【表1】

【0034】
上記ガラスフリット(及び導電性物質)をポットミルに投入した後、さらに水を投入し、施釉ができる状態になるまでフリットを粉砕した。粉砕終了後、ガラス粒子の粒度分布を、日機装製マイクロトラック粒度計Micro Track Series 9200 FRAを用いて測定し、ガラス粒子の平均粒子径(重量累積粒度分布の50%径)が20〜40μmであることを確認した。そして、粒度分布が上記範囲内であればスリップ完成とした。
【0035】
スリップ中のガラス粒子の平均粒子径は、1〜100μm、特に10〜60μmであることがスリップ吹き付け作業及び焼成後のGLの品質の観点から好ましい。
【0036】
上引き導電性GL層中に導電性物質を均等に分散させ、また上引き導電性GL層の表面を平滑にするためには、ガラスフリットと混合する導電性物質は、微細な粉末状であることが好ましい。具体的には、粉末状の導電性物質(ITO又はATO-TiO2)の平均粒子径(重量累積粒度分布の50%径)は、0.2μm以下であることが好ましい。
【0037】
また、粉末状の導電性物質(ITO又はATO-TiO2)の比表面積は、10m2/g以上、好ましくは18m2/g以上、さらに好ましくは30m2/g以上である。また、上引き導電性GL層の表面を平滑にすることにより、上引き導電性GL層表面への処理物の付着を低減できる。上引き導電性GL層の表面は、平均粗度(Ra)を0.05〜0.09μm程度とすることが好ましい。
【0038】
なお、表面平滑度を問題としない用途においては、導電性物質が繊維状又は針状であってもよい。
【0039】
(金属基材への施釉と焼成)
金属基材としては、低炭素鋼やステンレス鋼のような慣用される金属基材を用いることが可能であるが、ここでは、1辺100mmの正方形の軟鋼を用いた。なお、スプレーを用いるという周知の方法で下引きGL層及び上引きGL層のスリップを、金属基材上に順に施釉し、焼成した。
【0040】
まず、金属基材に下引き通常GL層を0.2mmの厚みでスプレーを用いて施釉し、920℃で焼成した。
【0041】
次に、下引き通常GL層の上に、0.4〜0.9mmの上引き通常GL層を設けるべく、スプレーによる施釉及び850℃の焼成を複数回繰り返し行った。なお、本発明の導電性GLにおいては、下引き通常GL層+上引き通常GL層の厚みを0.6〜1.1mmとすることが望ましい。
【0042】
ここで、非導電性GLは、直流又は交流の高電圧を印加したブラシや針状電極を被験試料に当て、短絡や放電の集中によってGL層のピンホールの有無を検査するノンピンホール確認試験により、製品の品質管理を行うことができた。しかし、従来の全層導電性GLでは、上引きGL層及び下引きGL層のいずれもが導電性物質を含有していたため、GL層を施釉・焼成した後は、放電によるノンピンホール性確認試験によりピンホールの有無を検査することができなかった。このため、ノンピンホール性の確認は肉眼による検査で行っており、現実的に目視検査等でGL層全面の検査を行うのは不可能といってよく、品質管理上の大きな問題となっていた。
【0043】
一方、図1(b)に示す本発明の導電性GLでは、下引き通常GL層及び上引き通常GL層は導電性物質を含有しないため、これら二層の通常GL層を金属基材の上に施釉及び焼成した後であっても、ピンホールの有無を放電によるノンピンホール性確認試験により検査することが可能である。
【0044】
このように、上引き導電性GL層を施釉・焼成する前の段階で、製品(仕掛品)の一次検査としてピンホールの発生をチェックすることができるため、万一、最終製品の上引き導電性GL層にピンホールが存在していても、金属基材と上引き導電性GL層との間に、ピンホールのない下引き通常GL層及び上引き通常GL層が存在するため、最表層の上引き導電性GL層に存在するピンホールからの浸食により、金属基材が腐食・溶出することを効果的に防止することができる。
【0045】
さらに、図1(b)に示す導電性GLにおいては、上引き通常GL層を濃い色相のGL(例えば、青色又は紺色)として施工し、上引き導電性GL層は白色、薄色又はこれに近い灰色であることから、上引き導電性GL層にピンホールが発生した場合や腐食が進んだ場合でも、目視による早期発見が容易となる。
【0046】
次に、上引き通常GL層の上に、上引き導電性GL層を0.1〜0.6mmの厚みでスプレーを用いて施釉し、850℃で焼成した。ここでは、上引き導電性GL層の厚みを0.2mmとした。また、GL層を焼成する度に厚みを測定し、各GL層の厚みが規定内にあることを確認した。
【0047】
(表面抵抗率の測定)
上引き導電性GL層は、端部でアースすることによって帯電荷を逃がすことが可能な状態とし、湿度4.7〜5.6%、気温22.1〜22.2℃の条件下、トレックジャパン製Model-152を用いて表面抵抗率を測定した。上引きGL層用のガラスフリットへの導電性物質の添加量と、表面抵抗率の測定値を、表2及び図2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
また、一般的な静電気の帯電圧と表面抵抗率(Ω/sq.)の関係を表3に示す。表面抵抗率が1.0E+10(Ω/sq.)以下であれば、帯電がほとんど起こらないことは、このように経験的に知られている。
【0050】
【表3】

【0051】
ここで、表2及び図2を見ると、導電性物質がITOの場合、ガラスフリットへの添加量を11重量%以上とすれば表面抵抗率は1.0E+7以下となり、GLがほとんど帯電しなかった。また、13重量%以上とすれば1.0E+8、15重量%以上とすれば1.0E+7にまで表面抵抗率を低減できるが、それ以上添加量を増やしても表面抵抗率はあまり変わらなかった。
【0052】
しかし、20重量%を超えると、焼成後にガラスフリットがガラス状とならないため、上引き導電性GL層として形成することができなかった。従って、導電性物質がITOの場合、ガラスフリットへの添加量は、11重量%以上20重量%以下であることが好ましく、13重量%以上20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以上20重量%以下であることがさらにより好ましかった。
【0053】
20重量%を越えた際にガラスフリットがガラス状とならない理由としては、ITOを20重量%以上添加することでITOの結晶化が起こってしまうと、十分にガラス化しないためである。
【0054】
一方、導電性物質がATO-TiO2の場合、表面抵抗率を1.0E+10以下に低減するためには、添加量を18重量%以上としなければならなかった。そして、ITOの場合と同様、30重量%を超えると、焼成後にガラスフリットがガラス状とならないため、上引き導電性GL層として形成することができなかった。なお、ATO-TiO2のガラスフリットへの添加量は、20重量%以上25重量%以下とすることがより好ましかった。
【0055】
なお、導電性物質として二酸化ルテニウム(RuO2)を添加する場合には、同じガラスフリットに対して5重量%添加すれば導電性GLの表面抵抗率を1.0E+6(Ω/sq.)以下、10重量%添加すれば2.5E+4(Ω/sq.)にまで減少させることが確認されたが、実用的には1.0E+10(Ω/sq.)以下であれば足りると考えられる。
【0056】
[実施例1]
本発明の実施例1として、上記施工方法によって製造した導電性GL(1辺100mmの正方形)のうち、上引きGL層用ガラスフリットにITOを15重量%添加して焼成したGLを選択した。
【0057】
[実施例2]
本発明の実施例2として、上記施工方法によって製造した導電性GL(1辺100mmの正方形)のうち、上引きGL層用ガラスフリットにATO-TiO2を25重量%添加して焼成したGLを選択した。
【0058】
[比較例]
本発明の比較例として、上引き導電性GL層を施工しないこと以外、実施例1及び実施例2と同様に、下引き通常GL層及び上引き通常GL層を金属基材上に施工し、導電性のない通常GL(1辺100mmの正方形)を施工した。
【0059】
(帯電圧半減時間)
比較例、実施例1及び実施例2の三種類のGL試料について、帯電圧半減時間を測定した。各GL試料には金属基材部分にアースを施し、さらに最表面層端部から断面を介して金属基材にアースを施した状態で、湿度10%以下の雰囲気に12時間以上保持した後、その雰囲気中で針電極に15kVを印加してコロナ放電を起こし、30秒間帯電させた。そして、帯電圧が半分になるのに要する時間(秒)を、静電気電位測定装置(春日電機製KSD-0109)を用いて測定した。その測定結果を表4に示す。なお、測定時の気温は20℃であった。
【0060】
【表4】

【0061】
比較例は、上引きGL層に導電性物質が含有されていないために、半減時間が約250秒と非常に長かったが、上引きGL層に導電性物質を含有する実施例1及び実施例2は、どちらも短時間で帯電圧が半減した。このように、実施例1及び実施例2は、帯電しにくく、静電気放電が発生しにくいGLであることが確認された。
【0062】
次に、比較例、実施例1及び実施例2のGLを用いて、GL製構造物として内容積100Lの一般的形状の反応タンクを作製し、帯電圧半減時間を測定した。反応タンクには、GLの金属基材部分にアースを施し、さらに最表面層端部から断面を介してGLの金属基材にアースを施した状態で、針電極に20kVを印加してコロナ放電を起こし、30秒間帯電させた。そして、帯電圧が半分になるのに要する時間(秒)を、湿度5%以下の条件で、静電気電位測定装置を用いて測定した。その測定結果を表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
GL製構造物では、GL表面積が大きいため、表面抵抗率は1辺100mmの正方形試験片よりも低くなるが、帯電部位とアースまでの距離が大きいために、帯電圧半減時間は長くなった。比較例のGLを用いた反応タンクでは、帯電圧半減時間が約720秒(約12分)であったが、実施例1及び実施例2のGLを用いた反応タンクでは、その20分の1以下であった。
【0065】
このように、実施例1及び実施例2のGLは、GL製構造物に使用した場合でも、試験片と同様、優れた帯電防止効果が認められた。
【0066】
次に、実施例1、実施例2及び比較例の各GL試料表面を撮影した写真を、図3に示す。比較例は濃紺色であるため、GL構造物を作成した際に、構造物内部が暗くなり、洗浄性の確認やGL層の破損状況など点検しにくいものとなった。
【0067】
これに対し実施例1及び実施例2はGL層が白に近い薄色であるため、GL構造物を作成した際に、構造物内部は明るく、洗浄性の確認やGL層の破損状況の点検がし易いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上述したように、本発明の導電性GLは、特許文献3に開示されている導電性GLと同様、帯電しにくく、表面が薄色であるためにGL製構造物に用いた場合に、機器内部の視認性がよいため、付着物等を発見したり、機器内での点検等し易いという特徴を有する。また、本発明の導電性GLは、最表層の上引き導電性GL層を厚く施工すれば、製造コストを抑制しつつ、GLの耐久性及び耐摩耗性を向上させることができる。
【0069】
本発明の導電性GLは、GL機器、GL容器等のGL製構造物に施工することにより、経済性及び安全性の高い製品のGL製造に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の導電性GLの断面図であり、図1(a)は二層構造GLの一例、図1(b)は三層構造GLの一例を示す。
【図2】上引きGL用ガラスフリットへの導電性物質の添加量と、導電性GLの表面抵抗率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1、実施例2及び比較例のGL試料表面を撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引き通常グラスライニング層と、
ガラスフリットに導電性物質として酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)、酸化スズ、リン含有酸化スズ又は酸化スズをコートした硫酸バリウムのいずれかを添加して焼成した上引き導電性グラスライニング層と、
を備えることを特徴とする導電性グラスライニング。
【請求項2】
前記上引き導電性グラスライニング層と前記下引き通常グラスライニング層との間に上引き通常グラスライニング層を備える請求項1に記載の導電性グラスライニング。
【請求項3】
導電性物質が酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)であり、ガラスフリットに対する添加量が11重量%以上20重量%以下である請求項1又は2に記載の導電性グラスライニング。
【請求項4】
導電性物質がアンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)であり、ガラスフリットに対する添加量が18重量%以上30重量%以下である請求項1又は2に記載の導電性グラスライニング。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性グラスライニングから構成され、前記上引き導電性グラスライニング層が最表層となっている導電性グラスライニング製構造物。
【請求項6】
ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引き通常グラスライニング層と、
ガラスフリットに導電性物質として酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、アンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタン(ATO-TiO2)、酸化スズ、リン含有酸化スズ又は酸化スズをコートした硫酸バリウムのいずれかを添加して焼成した上引き導電性グラスライニング層と
を金属基材上に順に施工する導電性グラスライニングの施工方法。
【請求項7】
前記上引き導電性グラスライニング層と前記下引き通常グラスライニング層との間に上引き通常グラスライニング層を施工する請求項6に記載の導電性グラスライニングの施工方法。
【請求項8】
導電性物質が酸化スズ含有酸化インジウム(ITO)であり、ガラスフリットに対する添加量が11重量%以上20重量%以下である請求項6又は7に記載の導電性グラスライニングの施工方法。
【請求項9】
導電性物質がアンチモン含有酸化スズ(ATO-TiO2)をコートした酸化チタンであり、ガラスフリットに対する添加量が25重量%以上30重量%以下である請求項6又は7に記載の導電性グラスライニングの施工方法。
【請求項10】
ガラスフリットに添加する酸化スズ含有酸化インジウム又はアンチモン含有酸化スズをコートした酸化チタンの平均粒子径が、0.2μm以下である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の導電性グラスライニングの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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