説明

導電性フッ素樹脂組成物及びその製法

【課題】 熱溶融性フッ素樹脂粉末と導電性カーボンブラックの組成物で、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態が平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、OA機器のロールやチューブに好適な導電性フッ素樹脂組成物及びその製法を提供する。
【解決手段】 アセチレンブラックである導電性カーボンブラックと乳化重合法テトラフルオロエチレン−パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である熱溶融性フッ素樹脂粉末の組成物であり、DSC装置で該熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度から12℃/分の降温速度で結晶化させたときに二つの結晶化ピークを有し、結晶化ピークの高さの比(高温側ピーク/低温側ピーク)が0.65以上であるか、高温側結晶化ピーク面積の割合[高温側面積/(高温側面積+低温側面積)]が0.18以上である導電性フッ素樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された導電性フッ素樹脂組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、成形品の電気抵抗が安定し、その表面状態がより平滑で精度もよく、半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用されても導電性カーボンブラック粒子が装置の液中に遊離して装置を汚染させることがない導電性フッ素樹脂組成物、及び該組成物を導電性微粒子とフッ素樹脂微粉を高速回転する混合機で混合することによって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などの熱溶融性フッ素樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、非粘着性などを有している。これらフッ素樹脂はまた優れた絶縁材料であるが、IC及び半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、あるいは複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブまたはベルト用材として使用する場合には導電性が要求されている。
【0003】
フッ素樹脂に導電性あるいは静電防止性を付与する方法としては、一般に導電性繊維、導電性カーボンブラック、あるいは黒鉛などを添加する方法がよく知られている。またフラーレン(C60)やカーボンナノチューブを添加する方法も知られている。特に、PFAに導電性カーボンブラックとして不純物が極めて少ないアセチレンブラックをヘンシエルミキサーで混合したもの(特開平2−60954号公報)、末端をフッ素化させたPFAに導電性カーボンブラックを入れて溶融混合し、電気抵抗が低く、溶融粘度の増加を小さくしたもの(特開平6−1902号公報、特公平3−38302号公報)などが提案されている。
【0004】
しかしながらこれら提案に係るフッ素樹脂組成物を上記導電性が要求される半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途で使用するには満足すべき性能を示すものではなかった。
【0005】
すなわち導電性フッ素樹脂組成物の電気抵抗は、混合した導電性カーボンブラックなどの導電性微粒子の種類や量だけではなく、導電性微粒子の分散状態によっても大きく変動することが知られている(Journal of Applied Polymer Science、Vol.69、P193 (1998))。しかるに前述の各公報に記載の混合では、PFA粒子と導電性カーボンブラックをヘンシエルミキサーで混合してから溶融押出機で混合するか、PFAペレットと導電性カーボンブラックを押出機のせん断力で強制的に溶融混合するため、混合された導電性カーボンブラック微粉を均一にPFA樹脂中に分散させるのは困難であった。
【0006】
特に、導電性カーボンブラックと熱溶融性フッ素樹脂を押出機で溶融混合する従来の方法では、溶融混合過程で導電性カーボンブラックの分散とストラクチャの破壊が同時に起こるため、安定した導電性を制御するのは極めて難しい。また導電性カーボンブラックが不均一に分散されるため、製造バッチ内あるいはバッチ間の導電性や物性の変動が大きく、均一に分散されてないカーボンブラックの固まり(agglomerate)や未分散フッ素樹脂の固まりが発生する。このため半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用され、表面状態が平滑で、導電性カーボンブラック粒子が装置の液中に遊離しない成形体を得ることはできなかった。とくに導電性カーボンブラック混合量が少ない高電気抵抗領域(表面抵抗10Ω/□以上)の導電性フッ素樹脂組成物では、カーボンブラックが不均一に分散されると成形体の電気抵抗が安定せず、また半導電性領域から絶縁領域に外れる危険性がある。
【0007】
【特許文献1】特開平2−60954号公報
【特許文献2】特開平6−1902号公報
【特許文献3】特公平3−38302号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science、Vol.69、P193 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明者らは、導電性粒子をフッ素樹脂中により均一に分散させることで、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態がより平滑で精度もよく、半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用されても導電性粒子が装置の液中に遊離して装置を汚染させることがない導電性フッ素樹脂組成物及びその製造方法について検討を行った。
【0009】
その結果、不純物が極めて少ない微粉状のアセチレンブラックとフッ素樹脂微粉を、高速回転するブレードによる混合機で混合すると、導電性カーボンブラックをフッ素樹脂中に非常に均一に分散させることが可能であり、かかる方法で得られた組成物又は成形体が特定の結晶化パターンを示すことあるいは特定のガラス転移温度範囲を示すこと、また成形体の電気抵抗が安定することが見出された。さらにこのような組成物から得られる成形体は、表面状態が平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機やプリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途で使用するするときに、満足すべき性能を有していることを見出すに至り、本発明に到達した。
【0010】
一般に導電性フッ素樹脂中の導電性カーボンブラックが均一に分散されているかその分散状態を調べることは極めて難しい。走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で直接導電性フッ素樹脂組成物中に分散されているカーボンブラックを観察することは可能であるが、観察倍率が高いため非常に局所的な部分しか観察できず、試料全体のカーボンブラックの分散状態を調べるのは困難である。
【0011】
しかし本発明者らは、アセチレンブラックと熱溶融性フッ素樹脂微粉を高速回転するブレードによる混合機で混合した導電性フッ素樹脂組成物では、フッ素樹脂中に細かく均一に分散されたアセチレンブラック微粉がフッ素樹脂の結晶化の際に核剤として働き、核生成による結晶化と核からの結晶成長による結晶化の割合を比較することで導電性フッ素樹脂中の導電性カーボンブラックの分散状態が容易に評価できることを見出した。またフッ素樹脂中に細かく均一に分散されたアセチレンブラック微粉のため、フッ素樹脂非晶領域の分子鎖が動きやすくなり(ガラス転移温度が低くなる)、導電性フッ素樹脂混合物のガラス転移温度と純粋なフッ素樹脂のガラス転移温度を比較することでも、導電性フッ素樹脂中の導電性カーボンブラックの分散状態が容易に評価できることを見出した
【0012】
従って本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解決し、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態がより平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途使用するときに満足すべき性能を示す導電性フッ素樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、アセチレンブラックである導電性カーボンブラックと乳化重合によって得られるテトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体である熱溶融性フッ素樹脂粉末からなる組成物であって、DSC装置において該熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度から12℃/分の降温速度で結晶化させたときに二つの結晶化ピークを有し、結晶化ピークの高さの比(高温側ピーク/低温側ピーク)が0.65以上であるか及び/又は高温側結晶化ピーク面積の割合[高温側ピーク面積/(高温側ピーク面積+低温側ピーク面積)]が0.18以上であることを特徴とする導電性フッ素樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態がより平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途使用するときに満足すべき性能を示す導電性フッ素樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の導電性フッ素樹脂組成物は、導電性カーボンブラックと熱溶融性フッ素樹脂粉末からなり、DSC装置において特定の結晶化パターンを示すものあるいは動的粘弾性測定装置によるガラス転移温度が特定の範囲を示すものである。
【0016】
ここに熱溶融性フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン・パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)である。テトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体においては、パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)含量が1〜10重量%、とくに3〜8重量%程度の共重合体の使用が好ましく、またパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、特に1〜3のものが好ましい。
【0017】
これらの熱溶融性フッ素樹脂の溶融粘度あるいは分子量には特に制限がないが、導電性カーボンブラックを混合することで混合物の粘度が高くなるため、射出成形の目的では、372℃、5000g荷重におけるメルトインデックスで表わすと10〜50g/10分程度のものを使用するのが好ましい。
【0018】
本発明で使用される導電性カーボンブラックは、アセチレンブラックであり、不純物が極めて少ない微粉状のアセチレンブラックが好ましい。微粉状のアセチレンブラックは平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と一緒に高速回転するブレードによる混合機で混合すると、より均一にアセチレンブラック粒子が熱溶融性フッ素樹脂微粉中に細かくて均一に分散される。そのため得られる成形体の表面状態が他の導電性カーボンブラックを混合したものより平滑で精度もよく、半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用されても導電性粒子が装置の液中に遊離しないことで装置を汚染させない導電性フッ素樹脂組成物が得られる。また非常に滑らかな表面が要求されるプリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途に適した導電性フッ素樹脂組成物が得られる。
【0019】
導電性カーボンブラックの配合量は目的とする導電性のレベルによっても異なるが、組成物中、1〜15重量%、とくに5〜10重量%程度とするのが好ましい。
【0020】
本発明の導電性フッ素樹脂組成物においては、DSC装置において該熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度から12℃/分の降温速度で結晶化させたときに二つの結晶化ピークを有し、結晶化ピークの高さの比(高温側ピーク/低温側ピーク)が0.65以上、好ましくは0.70〜1.20であるか及び/又は高温側結晶化ピーク面積の割合[高温側ピーク面積/(高温側ピーク面積+低温側ピーク面積)]が0.18以上、好ましくは0.20〜0.35の範囲にあるものである。かかる結晶化パターンを示す本発明の導電性フッ素樹脂組成物は、導電性カーボンブラックが極めて均一に熱溶融性フッ素樹脂中に分散されているため、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態がより平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途に使用することができる。
【0021】
ここに高温側結晶化ピークは、導電性カーボンブラック微粉の核剤効果に基づく核生成に伴う結晶化ピークであり、低温側結晶化ピークは通常の結晶成長のピークであって、導電性カーボンブラックが均一に分散された場合、二つのピークが現れる。
【0022】
本発明の導電性フッ素樹脂組成物においてはまた、動的粘弾性測定装置で測定したガラス転移温度(Tg(composite))は、導電性カーボンブラックを混合していない純粋なフッ素樹脂のそれ(Tg(neat))より3℃以上、好ましくは3〜10℃低い。かかるガラス転移温度範囲を示すものもまた、同様に、導電性カーボンブラックが極めて均一に熱溶融性フッ素樹脂中に分散されているため、電気抵抗が安定し、得られる成形体の表面状態がより平滑で精度もよく、半導体用の製造装置に用いられる保持治具やチューブ、また複写機、プリンターなどの定着ロールに代表されるOA機器ロールやチューブなどの用途に使用することができる。
【0023】
ここでガラス転移温度(α−転移温度)は、動的粘弾性測定装置(Rheometric Scientific社、ARES)で測定したtanδのピーク温度であり、熱溶融性フッ素樹脂では、フッ素樹脂の非晶領域にある分子鎖の部分的な運動(Micro-Brown運動)が始まる温度である(Polymer Vol.42、P5453 (2001))。
【0024】
上記結晶化パターンを有する導電性フッ素樹脂組成物あるいは上記ガラス転移温度範囲内の導電性フッ素樹脂組成物は、平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と導電性カーボンブラックとを高速回転するブレードによる混合機において、周速度35m/秒以上の条件で混合することによって得ることができる。上記粒径の熱溶融性フッ素樹脂微粉は、好ましくは熱溶融性フッ素樹脂水性分散液に電解性物質を加えてフッ素樹脂微粒子を凝集させた後、機械的攪拌で水性媒体と分離し乾燥させることにより得られる
【0025】
上記熱溶融性フッ素樹脂水性分散液としては、乳化重合によって得られる水性分散液が好ましく、通常、平均粒径が0.2μm程度の熱溶融性フッ素樹脂のコロイド粒子を、水中に1〜75重量%程度が含有するものが好適に使用される。
【0026】
熱溶融性フッ素樹脂水性分散液のコロイド状微粒子を凝集させる目的で使用される電解性物質としては、水に可溶なHCl、HSO,HNO,HPO,NaSO,MgCl,CaCl,ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸アンモニウム、HCOなどの無機又は有機の化合物を例示することができる。これらの中では,後の熱溶融性フッ素樹脂微粉の乾燥工程で揮発可能な化合物、例えばHCl,HNO,HCOなどを使用するのが好ましい。
【0027】
これらの電解性物質は、熱溶融性フッ素樹脂の重量に対し1〜15重量%、特に1.5〜10重量%の割合で使用することが好ましく、また熱溶融性フッ素樹脂の水性分散液に水溶液の形で添加するのが好ましい。電解性物質の使用量が少なすぎる場合には、熱溶融性フッ素樹脂の凝集粒子を形成するのに長時間を要するため生産性が低下する。またその使用量を必要以上に多くしても熱溶融性フッ素樹脂の凝集粒子を形成するのに影響はないが、経済的でなく、また洗浄工程に時間を要するため好ましくない。
【0028】
熱溶融性フッ素樹脂の凝集粒子を形成させる装置は、特に限定されるものではないが、周速度で約4m/秒以上を維持できる攪拌手段、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、かい型翼、馬蹄形型翼、螺旋翼などと排水手段を備えた装置であることが好ましい。
【0029】
このような装置中に熱溶融性フッ素樹脂水性分散液と電解質の所定量を加え、攪拌することにより、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子が凝集して凝集粒子となり、水性媒体から分離して浮上、浮揚する。この際、攪拌速度を約4m/秒以上に維持することが好ましい。すなわち攪拌速度が遅すぎる場合は、熱溶融性フッ素樹脂が凝集するのに長時間を必要とするのに加え、熱溶融性フッ素樹脂凝集粒子から水分が排出され難くなるためである。攪拌は凝集粒子が水性媒体から分離するまで行われる。
【0030】
熱溶融性フッ素樹脂凝集粒子は、水性媒体を排出し必要に応じ水洗された後、熱溶融性フッ素樹脂の融点以下の温度で乾燥される。このようにして得られる熱溶融性フッ素樹脂微粉の平均粒径は、通常10μm以下である。また、各フッ素樹脂微粉は粒子間の凝集力が小さいため、解砕・粉砕するのに適している。
【0031】
本発明においては、このようにして得られる熱溶融性フッ素樹脂微粉と導電性カーボンブラック、好ましくはアセチレンブラックを、高速で回転するブレードによって微粒子同士を混合させる。このようなフッ素樹脂微粉と導電性カーボンブラックを混合する高速回転ブレードによる混合機としては、市販品としては、例えば愛工舎製作所製「カッターミキサー」あるいは日本アイリッヒ社製「アイリッヒ・インテンシブ・ミキサー」がある。この高速回転混合機は、カッターナイフあるいはブレードが3000rpm以上の高速で回転しながら熱溶融性フッ素樹脂微粉と導電性カーボンブラック粒子を粉砕・混合する点で、単なるブレードで速くても1500rpmの回転で混合する通常のヘンシェルミキサとは混合能力あるいは導電性カーボンブラックの分散状態が異なる。従って、高速回転混合機での混合条件は、カッターナイフ又はブレードが1500rpm以上あるいは周速度35m/秒以上、特に3000〜20000rpmあるいは周速度70〜115m/秒の範囲にあることが好ましい。また上記混合は、得られる粉末組成物の平均粒径が0.5〜8μm、好ましくは1〜6μm程度になるように行うことが好ましい。
【0032】
上記高速回転式混合機、とくにカッターミキサーで混合されたアセチレンブラックを充填した熱溶融性フッ素樹脂組成物の特徴は、アセチレンブラック粒子が熱溶融性フッ素樹脂微粉中に均一に分散されること以外に、熱溶融性フッ素樹脂微粉中に細かく分散されたアセチレンブラック微粉がフッ素樹脂の結晶化の際に核剤になることである。結晶性高分子が溶融体から結晶化するためには、まず核が生成し、その核から結晶(あるいは球晶)が成長することが知られている。フッ素樹脂においても結晶を微細化する目的として、ポリクロロトリフルオロエチレンにおいては硫酸金属塩(特開昭49−5153)が、ポリフッ化ビニリデンにおいてはアルカリ金属塩(特開昭49−17015)等の無機物や有機環状化合物(特開昭48−33983)等がある。しかし、本発明で混合するのにとくに好適なアセチレンブラックはその核生成効果が前記公報に記載の核剤より大きいため、示差走査型熱量計(DSC)による結晶化過程測定でも核生成と結晶成長の結晶化ピークが別れるほど核生成過程の結晶化熱が大きい。
【0033】
熱溶融性フッ素樹脂中に分散されたアセチレンブラック微粉は、熱溶融性フッ素樹脂、例えばPFAの核剤になるため、アセチレンブラック微粉が均一に分散される程、核生成の頻度が増えるため、アセチレンブラックの分散状態と核生成による結晶化熱の間には相関がある。核生成による結晶化熱が多い程、アセチレンブラックの分散状態が良く、結果として、得られる成形体の表面状態が他の導電性カーボンブラックを混合したものより平滑で精度もよく、半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用されても導電性粒子が装置の液中に遊離しないことで装置を汚染させない導電性フッ素樹脂粉末組成物ができる。また、アセチレンブラックがより均一に分散された導電性フッ素樹脂粉末組成物から得られる成形体は、成形体内あるいは成形体間の電気抵抗の変化が少ないため、DSCで求めた核生成による結晶化熱の全結晶化熱に対する割合(図1における面積の比A/(A+B))あるいは2つの結晶化ピークの高さの比で(図1の2つの結晶化ピークの高さH1とH2の比)、アセチレンブラックの分散状態及び電気抵抗安定性を評価することが可能である。
【0034】
DSCによる核生成過程の結晶化熱の測定では、溶融体からの結晶化速度(冷却速度)が重要である。結晶化速度が速すぎると核生成(高温側のピーク、図1のA)と結晶成長(低温側のピークで、通常のフッ素樹脂の結晶化ピーク温度付近で現れる、図1のB)のピークが一部重なって分離できず、遅すぎると核生成ピークと結晶成長ピークの間が平坦になり、ピーク間の境界を区別する事が難しくなる。従って、熱溶融性フッ素樹脂粉末組成物中の導電性カーボンブラックの分散状態を評価するためには、熱溶融性フッ素樹脂の結晶性あるいは結晶化度にもよるが、結晶化速度は核生成と結晶成長の2つのピークが分離できる8〜25℃/分であることが必要で、10〜15℃/分の範囲が好ましい。
【0035】
アセチレンブラックは熱溶融性フッ素樹脂の結晶化の初期段階では、核剤の役割をするため、純粋な熱溶融性フッ素樹脂より高い温度で結晶化が起こるが(図1のA)、一旦核生成が終わると、アセチレンブラックは熱溶融性フッ素樹脂の結晶成長過程では逆に邪魔になるため、導電性フッ素樹脂組成物の結晶成長速度は純粋な熱溶融性フッ素樹脂より遅くなる(結晶成長が広い温度範囲で起こり、結晶成長による結晶化曲線の幅が広くなる)。従って、アセチレンブラックが熱溶融性フッ素樹脂中に均一に分散されてないと、アセチレンブラックに邪魔されない純粋な熱溶融性フッ素樹脂の割合が多くなるため、結晶成長過程での結晶化ピークの高さ(図1BのH2)も高くなる(結晶成長が狭い温度範囲で起こり、結晶成長による結晶化曲線の幅が狭くなる)。同じ量混合した場合には、アセチレンブラックが他の導電性カーボンブラックよりも導電性フッ素樹脂の核生成による結晶化熱が大きく、結晶成長による結晶化ピークの高さが低くなるため、導電性カーボンブラックの分散性の観点からもアセチレンブラックが好ましい。
【0036】
上記高速回転式混合機、とくにカッターミキサーで混合された導電性カーボンブラックを充填した導電性フッ素樹脂組成物の特徴はまた、導電性カーボンブラック粒子が熱溶融性フッ素樹脂微粉中に均一に分散されているため、導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度が導電性カーボンブラックを入れていない純粋なフッ素樹脂よりも低くなることである。フッ素樹脂のガラス転移温度は、すでに述べたように非晶領域における部分的な分子運動が始まる温度を表すが、従来技術による導電性フッ素樹脂組成物では、導電性カーボンブラックが均一に分散されていないため、導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度は純粋なフッ素樹脂のガラス転移温度とほとんど変わらない。しかしながら本発明の導電性フッ素樹脂組成物では、導電性カーボンブラックが細かくて極めて均一に分散されているため、非晶領域におけるフッ素樹脂の分子運動が導電性カーボンブラックを入れていない純粋な樹脂に比べてより低い温度で起こる(ガラス転移温度が低くなる)と思われる。したがって導電性フッ素樹脂組成物中の分散された導電性カーボンブラック、とくにアセチレンブラック微粉の分散状態とガラス転移温度の間に相関がある。アセチレンブラック微粉が均一に分散される程、導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度が低くなる(より低い温度領域でフッ素樹脂鎖の分子運動が始まる)。
【0037】
本発明の導電性フッ素樹脂粉末組成物においては、任意に添加剤を配合することができる。添加剤の配合は、上記混合機で混合するに際し行うことができる。このような添加剤として、ガラス、グラファイト、アルミナ、マイカ、炭化珪素、窒化硼素、酸化チタン、酸化ビスマス、酸化鉄、ブロンズ、金、銀、銅、ニッケル、ステンレス、二硫化モリブデンなどの粉末または繊維状粉末などを例示することができる。また最近量産ができ、市販されるようになったフラーレン(C60)やカーボンナノチューブなどのナノ材料も添加剤として配合することができる。
【0038】
また、特定の条件下で高速回転ブレードによる混合機で混合して得られる本発明の導電性フッ素樹脂粉末組成物は、通常の溶融押出機を通してペレットにしてから押出成形、射出成形、トランスファー成形、溶融紡糸などの溶融成形をすることができる。勿論、前記のようにペレット化しない導電性フッ素樹脂粉末組成物を直接成形原料とするか、あるいは成形機ホッパーで粉末組成物の食い込みをよくするためコンパクターで粉末組成物を固めて溶融成形することもできる。更に、本発明で得られる導電性フッ素樹脂粉末組成物を造粒して粉末成形やコーティング用材料としても用いることができる。
【0039】
最終的に製造する成形体の種類は、静電防止が必要な可燃性物質の運搬用のホース、チューブ、容器や導電性のコントロールが必要なコピー機の定着ロール表面など各種成形体の成形材料として利用することができる。さらに導電性を必要とする一切の成形体を対象とするので、特に本発明で限定するようなことはないが、例えば、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、半導体製造関連導電性治具などがある。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピルビニルエーテル(アルキル基の炭素数3、PPVE)共重合体(以下、PFA−C3という)及びテトラフルオロエチレン・パーフルオロエチルビニルエーテル(アルキル基の炭素数2、PEVE)共重合体(以下、PFA−C2という)を使用し、導電性フッ素樹脂粉末組成物の結晶化温度、結晶化熱、カーボンブラックの分散状態、平均粒子径、圧縮成形シートのガラス転移温度及び押出成形によって押し出した薄肉チューブの表面抵抗、表面平滑性、カーボンブラック遊離性(脱着性)の測定は下記の方法によった。
【0041】
(a)結晶化温度、結晶化熱:パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC7型を用いた。試料を360℃まで10℃/分で昇温して360℃で5分間保持し完全に結晶を融解させた後、一定の速度(12℃/分)で200℃まで降温し、そのとき得られる結晶化曲線から低温側の結晶化ピーク温度を結晶化温度として求め、そのピーク面積から結晶化熱を求めた(J/g)。フッ素樹脂単体あるいはアセチレンブラック以外の導電性カーボンブラックを混合した試料では1つの結晶化ピークが現れるが、アセチレンブラックを混合した試料では、アセチレンブラックがPFAの核剤として働き、核生成による高温側のピーク(図1のA)と結晶成長による低温側のピーク(図1のB,通常のフッ素樹脂の結晶化ピーク温度付近で現れる)の2つの結晶化ピークが現れる。
【0042】
(b)カーボンブラックの分散状態:アセチレンブラックの分散状態と核生成による結晶化熱の間には相関があるため、DSCで求めた核生成による結晶化熱(図1の面積A)の全結晶化熱(図1の面積A+面積B)に対する割合及び核生成による結晶化ピークの高さ(図1の高さH1)と結晶成長によるピークの高さ(図1の高さH2)の割合でアセチレンブラックの分散状態及を評価した。カーボンブラックの分散状態評価では、試料をDSCで12℃/分で結晶化したときの結晶化ピークから求めた結晶化熱と結晶化ピークの高さを用いた。DSCによる結晶化曲線の結晶化ピークが2つにならない場合は、約294℃前後で現れる変曲点を基準に、右側を核生成による結晶化、左側を結晶成長によると見なした(この場合、ベースラインから変曲点までの距離をH1と見なした)。
【0043】
(c)平均粒子径:フッ素樹脂水性分散液を凝集・造粒して得られたPFA微粉及び衝撃せん断式混合機(カッターミキサー)で粉砕・混合した導電性フッ素樹脂粉末組成物の平均粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定器(Sympatec GmbH. HEROS & RODOS)で測定した。
【0044】
(d)ガラス転移温度:Rheometric Scientific社製動的粘弾性測定装置(ARES)を用いた。導電性フッ素樹脂粉末組成物から2軸押出機によりペレット化し、これより圧縮成形により長さ45mm、幅12.5mm、厚さ1.3mmの試験片を作成した。この試験片を用いて、動的粘弾性測定装置(ARES)のねじれモード(Tortion Rectangular Kit)にて周波数1Hz及び昇温速度5℃/分の条件で−50℃から+150℃までtanδの温度依存性を測定した。ガラス転移温度は、tanδ曲線のピーク温度から求めた。
【0045】
(e)表面抵抗:上記ペレットを30mmφ1軸押出機で厚さ50μm又は100μm、内径40mmのチューブを作製し、得られたチューブ表面に三菱油化製表面抵抗測定機(HIRESTA IP)によりHR100ブローブを当接して10V(DC)、10秒間印加した場合の指示計に表示された値を表面抵抗値(Ω/□)にした(JIS K6911準拠)。この測定限界は9×1012Ω/□であり、9×1012Ω/□を越えて測定不可能になった場合は「>1013」と表示した。測定は、任意の5個所を測定し、その平均値を測定値にした(表2)。また表面抵抗が高い試料については(表3)、抵抗値が測定限界を超える場合があるので、最大値、最小値及びその平均値を測定値にした(測定不能になった場合はその値を除いて平均値を計算した)。
【0046】
(f)表面平滑性: 上記チューブ試料表面を蝕針式表面粗さ形状測定器(TOKYO SEIMITU製、SURFCOM 575A−3D)で測定した。測定値は、任意の5個所を測定し、その平均値を測定値にした。
【0047】
(g)カーボンブラック遊離性(脱着性):上記チューブ試料を塩酸液に24時間入れた後、水洗いした試料の表面に白い濾紙をあて、濾紙の上から指先で表面をこすりつけ、カーボンブラックが黒く濾紙に転写する程度を比較し、カーボンブラック遊離性を評価した。カーボンブラックが濾紙に僅かに付着しない場合を○印で示し、白い濾紙にカーボンブラックが僅かに転写して付着した場合を△印で示し、付着が目視によって認められた場合を×で示した。
【0048】
[実施例1]
乳化重合によって得られた30重量%PFA−C3水性分散液(平均粒径0.2μm、融点309℃、PPVE=3.5重量%)60kgを、ダウンフロータイプのプロペラ型6枚羽根付き攪拌シャフトと排水手段を有する攪拌槽(100L)に入れ、300rpmで攪拌しながら60%硝酸500gを加えた。さらに300rpmで10分間攪拌し、水性分散液が凝集した後、450rpmで20分間攪拌することによりPFA−C3凝集粒子を水層上に浮上、浮揚させ、水層と分離した。
【0049】
その水層を攪拌槽から排出し、次いて攪拌槽に水を入れてPFA−C3凝集粒子を水洗した後、ステンレス製スクリーン(目開き100〜150μm)を通過させた。スクリーン上に残ったPFA−C3凝集粒子を160℃で24時間乾燥させ、PFA−C3微粉を得た。得られたPFA−C3微粉の平均粒径は2〜6μmであった。
【0050】
このPFA−C3微粉14kgと、アセチレンブラック(電気化学工業(株)製)1.05kgとを高速回転するブレードがカッタ状になっている衝撃せん断式混合機(カッターミキサー、愛工舎製作所製、AC−200S)に投入し、3600rpm(周速度75.3m/秒)で10分間粉砕・混合して導電性フッ素樹脂粉末組成物を得た。得られた導電性フッ素樹脂粉末組成物の平均粒径は5μmであった。また、得られた導電性フッ素樹脂粉末組成物のDSCによる結晶化過程測定結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
カッターミキサーでの粉砕・混合時間を20分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。結果を表1に示す。また、粉末組成物のDSCによる結晶化測定結果を表1に示す。また、導電性フッ素樹脂粉末組成物のDSC結晶化曲線を図1に示す。
【0052】
[実施例3]
カッターミキサーでの粉砕・混合時間を30分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。結果を表1に示す。また、粉末組成物のDSCによる結晶化測定結果を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
カッターミキサーでの粉砕・混合時間を40分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。結果を表1に示す。また、導電性フッ素樹脂粉末組成物のDSCによる測定結果を表1に示す。
【0054】
[比較例1]
カッターミキサーでの粉砕・混合時間を5分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。結果を表1に示す。また、粉末組成物のDSCによる結晶化測定結果を表1に示す。
【0055】
[比較例2]
上記PFA−C3微粉の代わりに乳化重合により得られた30重量%PFA−C3水性分散液60kgを、ダウンフロータイプのプロペラ型6枚羽根付き攪拌シャフトと排水手段を有する攪拌槽(100リットル)に入れ、300rpm(周速度4.7m/秒)で攪拌しながら60%硝酸500gを加えた後、さらに300rpmで10分間攪拌し、水性分散液が凝集した後、水溶性のハイドロフルオロカーボンHFC43−10を入れて20分間攪拌して溶剤造粒して得られた平均粒径200μmのPFA−C3凝集粒子を使って、カッターミキサーでの粉砕・混合時間を20分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。粉末組成物のDSC測定結果及び結晶化曲線を表1及び図1に示す。
【0056】
[比較例3]
アセチレンブラックの代わりにケッチェンブラック(ケッチェンブラックEC)を0.49kg使用して、カッターミキサーでの粉砕・混合時間を20分にした以外は実施例1と同じ手順で導電性フッ素樹脂粉末組成物を作製した。ケッチェンブラックは、アセチレンブラックよりもっとストラクチャが発達しているため、混合量を0.49kgに減らした。結果を表1及び図1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示された結果より、カッターミキサーでの粉砕・混合時間が長いほどDSCで求めた核生成による結晶化熱(図1の面積A)あるいは核生成による結晶化熱の全結晶化熱(図1の面積A+面積B)対する割合が大きくなり、核生成による結晶化ピークの高さと結晶成長によるピークの高さの割合(H1/H2)も大きくなる。従って、アセチレンブラックの分散状態とDSCで求めた核生成による結晶化熱には相関があり、核生成による結晶化熱の全結晶化熱(図1の面積A+面積B)対する割合が大きい程又は核生成による結晶化ピークと結晶成長によるピークの高さの割合(H1/H2)が大きい程、アセチレンブラックがPFA−C3微粉中により均一で細かく分散されている(実施例1〜4)。
【0059】
表1及び図1に示された結果より、高速攪拌による無溶剤造粒で得られた平均粒径2〜6μmのPFA−C3微粉の代わりに、溶剤造粒して得られた平均粒径200μmのPFA−C3凝集粒子を使った(比較例2)試料は、アセチレンブラックの分散状態が悪いため、核生成による結晶化熱と核生成による結晶化ピークと結晶成長によるピークの高さの割合(H1/H2)が小さくなる。
【0060】
また、アセチレンブラックの代わりにケッチェンブラック(比較例3)を使った試料では、ケッチェンブラックは核生成効果がないため、核生成による結晶化ピークは現れない。また、何れの試料でも、結晶成長による結晶化のピーク温度(図1の面積Bのピーク)は殆ど変らないことから、図1の面積Aは核生成による結晶化であることを示唆している。
【0061】
実施例及び比較例で得られた導電性フッ素樹脂粉末組成物を2軸押出機(東洋精機製作所、ラボプラトミル30C150)で370℃、20rpmで押し出し、ペレットを作成した後、30mm 1軸押出機で厚さ50μm、内径40mmのチューブを作成した。得られたチューブの評価結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示された結果より、本発明の導電性フッ素樹脂粉末組成物を用いて成形した導電性フッ素樹脂チューブは、他の導電性フッ素樹脂粉末組成物を用いた導電性フッ素樹脂チューブ(比較例1〜3)に比べて、導電性カーボンブラックが均一に分散されているため、表面抵抗の変化が小さく、表面平滑性に優れている。また、導電性粒子が溶液中に遊離しないことで装置を汚染させない導電性フッ素樹脂組成物ができる。
【0064】
[実施例5〜7、比較例4、参考例1]
実施例1と同様にして得たPFA−C3微粉とアセチレンブラックを表3に示す混合比及び混合時間で、実施例1と同じカッターミキサーを使用し、3600rpmで混合して導電性フッ素樹脂粉末組成物を得た。得られた導電性フッ素樹脂粉末組成物をラボプラストミルを用いてペレット化した後、圧縮成形してシート状試験片を作成し、ガラス転移温度を測定した。また比較対象のためPFA−C3から同様に圧縮成形してシート状試験片を作成し、そのガラス転移温度を求めた。また上記ペレットから、30mm1軸押出機を用い、厚さ100μm、内径40mmの押出しチューブを成形し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0065】
[比較例5]
カッターミキサーの代わりにヘンシェルミキサーを用いた以外は実施例7と同じ手順(混合時間30分)で導電性フッ素樹脂組成物のペレットを調製したのち、シート状試験片及びチューブを作成し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
[比較例6]
実施例5〜7で使用したPFA−C3乾燥微粉の代わりに、これら実施例で使用した30重量%PFA−C3水性分散液60kgを、ダウンフロータイプのプロペラ型6枚羽根付き攪拌シャフトと排水手段を有する攪拌槽(100L)に入れ、300rpmで攪拌しながら60%硝酸500gを加えた。さらに300rpmで10分間攪拌し、水性分散液が凝集した後、水溶性のハイドロフルオロカーボンHFC43−10を入れて溶剤造粒することにより得られた平均粒径200μmのPFA−C3凝集粒子を使用した以外は実施例6と同じ手順(混合時間は20分)で導電性フッ素樹脂組成物のペレットを調製したのち、シート状試験片及びチューブを作成し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
[実施例8、参考例2]
PFA−C3水性分散液の代わりに30重量%PFA−C2水性分散液(平均粒径0.2μm、融点290℃、PEVE=7.1重量%)を用いた以外は実施例6と同じ手順(混合時間は20分)で導電性フッ素樹脂組成物のペレットを調製したのち、シート状試験片及びチューブを作成し、その評価を行った。また比較対象のためPFA−C2から同様に圧縮成形してシート状試験片を作成し、そのガラス転移温度を求めた。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に示された結果より、熱溶融性フッ素樹脂粉末とアセチレンブラックをカッターミキサーで長く混合する程導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度がPFA単品に比べて低くなる。したがってアセチレンブラックの分散状態と動的粘弾性測定装置で求めたガラス転移温度には相関があり、導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度が低くなる程、アセチレンブラックがPFA中に均一で細かく分散されている(実施例5〜7)。PFA−C3の代わりにPFA−C2を使用した例(実施例8)においても、導電性フッ素樹脂組成物のガラス転移温度は、アセチレンブラックを加えない場合のそれより5℃も低くなった。
【0070】
一方、カッターミキサーの代わりにヘンシェルミキサーを用いて混合した試料(比較例5)は、アセチレンブラックの分散状態が悪いため、ガラス転移温度はアセチレンブラックを加えない場合とほとんど変わらない。
【0071】
また、平均粒径の小さいフッ素樹脂乾燥微粉を使用する代わりに、溶剤造粒法で得られた平均粒径200μmのPFA−C3凝集粒子を用いてカッターミキサーで混合した試料(比較例6)は、PFA−C3凝集粒子の粒子径が大きいため、カッターミキサーで混合してもアセチレンブラックの分散状態が悪いため、ガラス転移温度はアセチレンブラックを加えない場合と同じである。
【0072】
表3に示されたチューブ物性より、本発明の導電性フッ素樹脂組成物を用いて成形した導電性フッ素樹脂チューブ(実施例5〜8)は、他の導電性フッ素樹脂組成物を用いて成形した導電性フッ素樹脂チューブ(比較例5〜6)に比べてアセチレンブラックがより均一に分散されているため、チューブ成形体の表面抵抗のばらつきが小さく、また表面平滑性も優れている。
【0073】
比較例4のものは、混合時間が短いため、ガラス転移温度の低下が2℃にすぎず、チューブの表面抵抗のばらつきが大きく、また表面平滑性も実施例5〜8のものに比べて悪い。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の導電性フッ素樹脂組成物は、熱溶融性フッ素樹脂中に導電性カーボンブラックがより均一に分散されているため、これから得られる成形体はこれまで困難とされてきた高い電気抵抗領域でも安定した電気抵抗を示し、成形体の表面状態がより平滑で精度もよい導電性フッ素樹脂組成物品を製造することができる。また半導体製造装置に用いられるウエハ保持治具や溶剤ラインに使用されても導電性粒子が装置の液中に遊離しないことで装置を汚染させない導電性フッ素樹脂組成物品を製造することができる。さらに、導電性カーボンブラックの分散状態とDSCで求めた結晶化曲線には相関があるため、本発明で提案されてDSC分析方法を用いると、導電性カーボンブラックの分散状態を容易に評価することができる。また導電性カーボンブラックの分散状態と動的粘弾性測定装置で求めたガラス転移温度には相関があるため、導電性フッ素樹脂組成物とフッ素樹脂単品のそれぞれのガラス転移温度を比較すると、導電性カーボンブラックの分散状態を容易に評価することができる
【0075】
さらに、本発明で用いた高速回転するブレードによる混合機は、導電性カーボンブラックとフッ素樹脂微粉同士をよく混合するため、熱溶融性フッ素樹脂の溶融粘度に関係なく、導電性カーボンブラックと熱溶融性フッ素樹脂微粉が均一に分散された導電性フッ素樹脂組成物を製造することができる。
【0076】
また、本発明の組成物は、押出成形、射出成形、トランスファー成形、溶融紡糸などの溶融成形をすることができ、最終的に製造する成形体の種類は、導電性を必要とする一切の成形体が製造可能で、特に本発明で限定するようなことはないが、例えば、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、半導体製造関連導電性治具などがある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】導電性フッ素樹脂組成物のDSC結晶化ピークである。
【符号の説明】
【0078】
A:フッ素樹脂の核生成に伴う結晶化ピーク
B:フッ素樹脂の結晶成長の伴う結晶化ピーク
H1:フッ素樹脂の核生成に伴う結晶化ピークの高さ
H2:フッ素樹脂の結晶成長の伴う結晶化ピークの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレンブラックである導電性カーボンブラックと乳化重合によって得られるテトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合体である熱溶融性フッ素樹脂粉末からなる組成物であって、DSC装置において該熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度から12℃/分の降温速度で結晶化させたときに二つの結晶化ピークを有し、結晶化ピークの高さの比(高温側ピーク/低温側ピーク)が0.65以上であるか及び/又は高温側結晶化ピーク面積の割合[高温側ピーク面積/(高温側ピーク面積+低温側ピーク面積)]が0.18以上であることを特徴とする導電性フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
高温側結晶化ピークが核生成に伴う結晶化ピークであり、低温側結晶化ピークが通常の結晶成長のピークである請求項1に記載の導電性フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
導電性カーボンブラックを5〜10重量%の割合で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の導電性フッ素樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106285(P2008−106285A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341530(P2007−341530)
【出願日】平成19年12月29日(2007.12.29)
【分割の表示】特願2002−187359(P2002−187359)の分割
【原出願日】平成14年6月27日(2002.6.27)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】