説明

導電性ベアテザー

【課題】取り扱いが容易であり且つ放熱特性に優れた軽量高強度の導電性ベアテザーを提供する。
【解決手段】アルミワイヤ1を複数本束ねて芯線10とし、その芯線10の外周面に沿って炭素繊維束2とアルミワイヤ3とから成る複合紐20を組紐状に編んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ベアテザー、特に、導電性および放熱特性に優れながら取り扱いが容易であり且つ微少隕石やデブリ等に対し耐性を有する導電性ベアテザーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性テザーは、地球を周回する宇宙機から伸展され、地磁場を横切ることにより誘導起電力を発生し、そして周辺プラズマとの間で閉回路を形成しながら誘導電流を流し、その電流と地磁場との相互誘導作用により電磁力(ローレンツ力)を発生する。近年、その電磁力を故障衛星や衛星残滓の軌道変換用の制動力として利用したスペースデブリ軌道変換用テザー装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
導電性ベアテザーは、導電性テザーの一種であり、周辺プラズマとの間で電子の授受を行うことにより電流を流すため、外周面に対し被覆がなされていない。この導電性ベアテザーは、宇宙空間において数kmという長さで使用されることから、軽量かつ高強度の他に高導電性であることが求められる。特に、周辺プラズマから電子を収集するため、導電性ベアテザーの表面は導体で構成されていることが求められる。従って、テザーを金属で構成し、テザーの導電性を高めることが容易に考えられる。しかし、金属は熱放射率が小さいため、宇宙空間で太陽光を受けると高温になり易く、その結果、テザーの導電率や強度が低下すると言った問題が起こり得る。それに対し、図2に示すように、繊維束と金属ワイヤを組紐状に編むことにより、外周面において繊維束FBと金属ワイヤMWが交互に露出する構成とし、導電率を低下させずに放熱特性を向上させるということも考え付く。しかし、導電性ベアテザーは高電位で使用されることから、非導電性の部位が存在すると導電体(金属ワイヤ)と非導電体(高抵抗の繊維束)の間で放電が起き、電子収集を妨げる可能性がある。さらに、テザーは導電性ベアテザーに限らず、宇宙空間の微少隕石やデブリに対し脆く、特にテザーが細い場合は、宇宙空間の微小隕石やデブリとの衝突により、容易に切断される可能性がある。
その一方で、米国において、非導電性の高強度繊維を内側に配して金属のみを外表面に露出させると共に、その金属に対して熱光学特性を改善する導電性コーティングを塗布して、金属部が高温とならないための処理が施されたテザーが開発されているという。しかし、導電性と熱光学特性に優れたコーティングの開発は非常に難しく、その上、コーティングは脆く取り扱いが難しいと言う間題がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−98959号公報
【非特許文献1】「Expected deployment dynamics of ProSEDS」 by E.C. Lorenzini, M.L.Cosmo and K.Welzyn, AIAA-2003-5095, Joint Propulsion Conference,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した通り、導電性ベアテザーは軽量、高強度かつ高導電性であることが必要である。その一方で、周辺プラズマから電子を収集するためにテザー表面に導体が存在する必要があるが、金属は熱放射率が低いため、金属ワイヤを高強度繊維の周囲に配置すると宇宙空問で太陽光を受けた時に高温になり易く、テザーの導電率や強度が低下すると言った可能性がある。そのため、導電性のアルミワイヤと放熱特性に優れた炭素繊維とを組紐状に編むことによって、放熱特性と導電性とを両立させることが可能である。また、炭素繊維は導電性を有するため、高電位下における放電の問題も生じない。
しかし、炭素繊維は毛羽立ちが起こるため、取り扱いが難しく結果として、製作することが難しいという問題がある。また、テザーは微少隕石やデブリ等の外乱に対し脆いという問題もある。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み創案されたものであって、導電性および放熱特性に優れながら取り扱いが容易であり且つ微少隕石やデブリ等に対し耐性を有する導電性ベアテザーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の導電性ベアテザーは、繊維素材から成る繊維束に対して導体を巻き付けて複合紐とし、該複合紐が組紐状に編まれて構成されていることを特徴とする。
上記導電性ベアテザーでは、繊維素材から成る繊維束に対して導体が巻き付けられた複合紐とすることにより、繊維束を導体で被覆したことと同様の効果を持たせた。これにより、繊維の毛羽立ちが起こりにくくなり、その結果、取り扱いが容易となると共に製作することも容易となる。また、その複合紐を組紐状に編むことにより、表面において導体および繊維素材の双方が露出し、周辺のプラズマから電子を好適に収集すると共に熱を好適に放射してテザーの高温化を抑制する。結果として、導電性ベアテザーの強度および導電率が低下することがなくなる。更に、繊維束は導体で巻かれた上に組紐状に編まれて構成されているため、繊維束と繊維束との間隔は導体の径に相当する分だけ拡がることになり、その結果、テザー全体の断面係数は大きくなり、結果として微少隕石やデブリ等の外乱に対し耐性を有するようになる。
【0006】
請求項2に記載の導電性ベアテザーでは、導体または強化材を芯線としながら前記複合紐が組紐状に編まれて構成されていることとした。
上記導電性ベアテザーでは、導体を芯線とすることにより、導電性を更に高めることが可能となる。これにより、周辺のプラズマから電子をよりスムーズに収集するようになり、それに伴い電流値も増大して、結果として地磁気との相互誘導作用により発生する電磁力も増大し、大きな推進力を得ることが出来るようになる。他方、強化材を芯線とすることにより、機械的強度を更に高めることが可能となる。これにより、例えばテザーが伸展を終了する際に、テザーが反作用として受ける回転リールからの衝撃力がテザーに印加したとしても、テザーは切断されにくくなる。
【0007】
請求項3に記載の導電性ベアテザーでは、前記繊維素材または強化材は炭素繊維であることとした。
上記導電性ベアテザーでは、繊維素材または強化材として炭素繊維を使用することにより、放熱特性を好適に高めると共に、テザーの軽量化および強度の向上に寄与することとなる。
【0008】
請求項4に記載の導電性ベアテザーでは、前記導体はアルミニウム又はその合金から成ることとした。
上記導電性ベアテザーでは、導体としてアルミニウム又はその合金を使用することにより、導電性を好適に高めると共に、テザーの軽量化および強度ならびに微少隕石やデブリ等の外乱に対する耐性の向上に寄与することとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性ベアテザーによれば、繊維素材から成る繊維束に対して導体を巻き付けて複合紐としたため、繊維束が導体で被覆されたことと同様な効果をもたらし、繊維の毛羽立ちが起こりにくくなり、その結果、取り扱いが容易となると共に製作することも容易となる。また、複合紐が組紐状に編まれているため、表面において繊維素材および導体の双方が好適に露出し、周辺のプラズマから電子を好適に収集すると共に熱を好適に放射してテザーの高温化を抑制する。結果として、導電性ベアテザーの強度および導電率が低下することがなくなる。更に、繊維束は導体で巻かれた上に組紐状に編まれて構成されているため、繊維束と繊維束との間隔は導体の径に相当する分だけ拡がることになり、その結果、テザー全体の断面係数は大きくなり、結果として微少隕石やデブリ等の外乱に対し耐性を有するようになる。更に、導体を芯線としながら複合紐を組紐状に編む場合は、テザーに流れる電流値が増大し、結果として地磁気との相互誘導作用により発生する電磁力も増大し、大きな推進力を得ることが出来る。他方、強化材を芯線とすることにより、機械的強度を更に高めることが可能となる。これにより、例えばテザーが伸展を終了する際に、テザーが反作用として受ける回転リールからの衝撃力がテザーに印加したとしても、テザーは切断されにくくなる。
そして、繊維素材または強化材として炭素繊維を、導体としてアルミニウム又はその合金を使用する場合は、熱放射率を好適に高め且つ導電率を好適に高めると共に、テザーの軽量化および強度の向上ならびに微少隕石やデブリ等の外乱に対する耐性の向上に寄与することが出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明に係る導電性ベアテザー100を示す要部説明図である。
この導電性ベアテザー100は、アルミワイヤ1を複数本束ねて芯線10とし、その芯線10の外周面に沿って炭素繊維束2とアルミワイヤ3とから成る複合紐20を組紐状に編んで構成されたものである。
【0012】
また、アルミワイヤ1およびアルミワイヤ3の外径は、例えば0.15[mm]である。
【0013】
炭素繊維束2は、例えば1000本の炭素繊維フィラメントに対して撚りが掛けられて構成されている。
【0014】
芯線10は、例えばアルミワイヤ1を16本束ねて構成されたものである。また、アルミワイヤ以外に、アルミニウム合金のワイヤを使用することも可能である。
【0015】
なお、芯線10は導電率を上げるためのものであり、テザーに大電流を流す必要のない場合は、省略することも可能である。
【0016】
また、本実施形態では、炭素繊維束2に対して1本のアルミワイヤ3を巻き付けて複合紐20が構成されているが、これに限らず、複数本例えば2本のアルミワイヤ3,3を巻き付けて複合紐20を構成しても良い。
【0017】
本発明の導電性ベアテザー100によれば、炭素繊維から成る炭素繊維束2に対してアルミワイヤ3を巻き付けて複合紐20としたため、炭素繊維束2がアルミで被覆されたことと同様な効果をもたらし、炭素繊維の毛羽立ちが起こりにくくなり、その結果、取り扱いが容易となると共に製作することも容易となる。また、複合紐20が組紐状に編まれているため、表面において炭素繊維およびアルミの双方が好適に露出し、周辺のプラズマから電子を好適に収集すると共に熱を好適に放射してテザーの高温化を抑制する。結果として、導電性ベアテザー100の強度および導電率が低下することがなくなる。更に、炭素繊維束2はアルミワイヤ3で巻かれた上に組紐状に編まれて構成されているため、炭素繊維束2と炭素繊維束2との間隔はアルミワイヤ3の径に相当する分だけ拡がることになり、その結果、テザー全体の断面係数は大きくなり、結果として微少隕石やデブリ等の外乱に対し耐性を有するようになる。更に、アルミワイヤ1を複数本束ねて芯線10としながら複合紐20を組紐状に編む場合は、テザーに流れる電流値が増大し、結果として地磁気との相互誘導作用により発生する電磁力も増大し、大きな推進力を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の導電性ベアテザーは、デブリまたはロケット上段部を減速する推進装置あるいはデブリを回収するテザー衛星を増速する推進装置に対して好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る導電性ベアテザー100を示す要部説明図である。
【図2】従来の導電性ベアテザーを示す要部説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1,3 アルミワイヤ
2 炭素繊維束
10 アルミ芯線
20 複合紐
100 導電性ベアテザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維素材から成る繊維束に対して導体を巻き付けて複合紐とし、該複合紐が組紐状に編まれて構成されていることを特徴とする導電性ベアテザー。
【請求項2】
導体または強化材を芯線としながら前記複合紐が組紐状に編まれて構成されている請求項1に記載の導電性ベアテザー。
【請求項3】
前記繊維素材または強化材は炭素繊維である請求項1又は2に記載の導電性ベアテザー。
【請求項4】
前記導体はアルミニウム又はその合金から成る請求項1又は2に記載の導電性ベアテザー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−106242(P2007−106242A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298793(P2005−298793)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(591051874)サカセ・アドテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】