説明

導電性ペースト

【課題】 保存性やコーティング性を損なうことなしに低温かつ短時間での焼成で良好な導電性を有する導電膜を形成することを可能とした導電性ペーストを提供する。
【解決手段】 本発明の導電性ペーストは、導電性微粒子1と、前記導電性微粒子1の凝集を抑制するための保護剤2(および/または分散剤)と、有機物除去剤3と、溶剤4と、を含有する導電性ペーストであって、前記有機物除去剤3の表面が、前記保護剤2(および/または分散剤)に対して直接に接触して化学的に結合および/または反応することを抑制ないしは阻止する被覆層5によって、覆われていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線板における回路形成用、はんだ材料用、電線シールド材料用などに好適な導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストとは、一般に、導電性微粒子と、その導電性微粒子の表面を被覆する保護剤または分散剤と、溶剤とを、その主要な構成要素として含有してなるペースト状の組成物であり、焼成することによって高導電性を発現する導電膜を形成することができるように設定されている。
【0003】
導電性ペースト中に含有される導電性微粒子としては、金属微粒子が用いられている。
金属微粒子とは、一般に、粒径100nm以下の金属粒子を意味している。そのように微細な金属微粒子では、体積に対する表面積の増加の割合が極めて高いものとなるので、融点が大幅に降下する現象が生じる。このため、金属微粒子は、バルク金属の融点よりも低い温度で粒子界面における拡散が生じて融着が進行し、金属結合が形成される。
【0004】
金属微粒子は、それ単体では極めて不安定であり、室温付近においてもその金属微粒子同士の凝集や融着が進行する。このため、金属微粒子の表面を保護剤と呼ばれる有機物等で覆ってやることで、凝集や融着を抑制することが、実質的に必須となっている。これは、導電性ペーストに用いられる金属微粒子についても同様であって、その金属微粒子の表面を、上記のような保護剤で覆うようにしている(非特許文献1)。
【0005】
保護剤で覆われた金属微粒子と、溶剤とを、主成分として含有してなる導電性ペーストは、前述のような金属微粒子の融点降下現象によって、低温で導電膜の形成が可能であると言われている。
しかし、低温でバルク金属に近い高導電性を得るためには、焼成時間を長くする必要がある。
実際のコマーシャルベースに対応した工業的ラインにおいては、製造コストの低廉化や製造能率向上(換言すれば、製造時間短縮、スループット向上等)の観点から、低温かつ短時間で高導電性を発現することが可能な導電性ペーストが求められているが、従来技術に係る導電性ペーストでは、そのような低温かつ短時間の焼成で高導電性を得ることは困難である。
【0006】
上記のような従来技術に係る導電性ペーストにおいて、低温かつ短時間の焼成で高導電性を発現させることを困難なものとしている主な要因は、焼成して得られた金属膜(導電膜)中に溶剤や保護剤が残存することにあるものと考えられる。
そこで、焼成して得られる金属膜の導電性を向上させるための有効な手法として、導電性ペースト中に、保護剤に対する化学的反応性を有する化合物を添加しておき、焼成後はその保護剤を積極的に除去する、という技術が提案されている(特許文献1)。
【0007】
このように、従来技術に係る導電性ペーストは、保存性が低い傾向にあり、また低温短時間の焼成では必ずしも十分な高導電性が得られない虞がある。保存性が低くなるのは、導電性ペースト中の金属微粒子が凝集しやすいということ、および導電性ペースト中の構成要素に不均一化や固化が生じやすいことに因るものであった。
そしてさらには、保護剤を積極的に除去するために、有機物除去剤を加えるという手法が有効なものとして用いられるが、その加えた有機物除去剤が、導電性ペーストの保存中においても、徐々に保護剤と反応してしまい、金属微粒子の表面から保護剤が脱離する。
そうすると、保護剤が脱離した金属微粒子は、容易に凝集してしまうため、導電性ペーストに不均一化や固化が生じることとなる。
また、低温短時間での焼成で十分な高導電性を得ることを困難なものとしている主な要因としては、導電性ペーストを焼成してなる導電膜中から保護剤が十分には除去され切っていないためであると考えられる。
【0008】
そこで、保護剤を確実に除去するために、強力な有機物除去剤を使用することや、有機物除去剤の添加量を増加することなどが有効であるものと考えられる。そうすることで、低温短時間の焼成でも高導電性の発現が可能となるものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】再公表特許WO2002/035554号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】菅沼克昭ら、金属ナノ粒子ペーストのインクジェット微細配線、シーエムシー出版、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のような強力な有機物除去剤を使用するという手法や、有機物除去剤の添加量を増加するという手法を採用した場合、その強力な、もしくは多量の有機物除去剤が、保護剤と反応したり結合したりするという、新たな不都合が生じてしまう。
あるいは、そのような不都合の発生を回避するためには、導電性ペースト自体の保存性やコーティング性などの特性を著しく犠牲にしなければならなくなってしまう。もしくは、導電性ペーストに添加する有機物除去剤の種類や添加量が著しく制約されてしまう。
本発明は、このような従来技術の不都合な点や問題点に鑑みて成されたもので、その目的は、保存性やコーティング性を損なうことなしに低温かつ短時間での焼成で良好な導電性を有する導電膜を形成することを可能とした導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の導電性ペーストは、導電性微粒子と、前記導電性微粒子の凝集を抑制するための保護剤および/または分散剤と、有機物除去剤と、溶剤と、を含有する導電性ペーストであって、前記有機物除去剤の表面が、前記保護剤および/または分散剤に対して前記導電性微粒子の表面が直接に接触して化学的に結合および/または反応することを抑制ないしは阻止する被覆層によって覆われていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存性やコーティング性を損なうことなしに低温かつ短時間での焼成を可能とした導電性ペーストが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る導電性ペーストの主要な構成要素およびその分散状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る導電性ペーストについて、図面を参照して説明する。
この導電性ペーストは、導電性微粒子1と、保護剤2と、有機物除去剤3と、溶剤4と、被覆層5とを、その主要な構成要素として備えている。
【0016】
導電性微粒子1は、平均粒子径が1nm以上10μm以下、より望ましくは1nm以上10nm以下の、金属微粒子である。これは、平均粒径が1nm以上10μm以下、より望ましくは1nm以上10nm以下であれば、融点降下現象がより顕著に発揮されることとなって、この導電性微粒子1を含有してなる導電性ペーストの、より低温での確実な焼成が可能となるからである。
導電性微粒子1の金属の種類としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、マンガン(Mn)のうちの少なくとも1種類の金属から選択可能である。もしくは、それらの金属を複数種類組み合わせて用いることなども可能である。
導電性微粒子1の含有量は、この導電性微粒子1を含有してなる導電性ペースト全体に対して1.0質量%以上99質量%以下とすることが可能である。より望ましくは、70質量%以上とする。これは、このように高い含有率に設定することによって、焼成の際の体積収縮率が小さくなるので、焼成して得られた導電膜における割れや空孔の発生を低減することができ、その結果、さらに高い導電性を確実に発現せしめることが可能となるからである。
【0017】
保護剤2は、導電性微粒子1の凝集を抑制するためのもので、導電性微粒子1の表面全面を覆うように設けられる。
この保護剤2の材質としては、導電性微粒子1の表面に対して配位的な結合が可能な、窒素(N)または硫黄(S)もしくは酸素(O)などのような非共有結合電子対を有する原子を含む化合物が好適である。より具体的には、チオール基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アミン基(−NH)などの官能基を有する化合物などである。この保護剤2で表面を覆われた導電性微粒子1は、この保護剤2の疎水的作用によって、特に非極性溶媒中において均一な分散液を形成しやすくなる。
ここで、この保護剤2の代りに、いわゆる分散剤を用いることも可能であることは勿論である。
【0018】
有機物除去剤3は、焼成の際に保護剤2と化学的に反応して、その保護剤2を積極的に導電性微粒子1から除去し、延いてはこの導電性ペーストを焼成してなる導電膜から除去するためのものである。
この有機物除去剤3としては、導電性ペーストの焼成の際に、導電性微粒子1の表面に付着している保護剤2と化学的反応を起こす、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖炭化水素類、芳香族類、有機酸無水物またはその誘導体もしくは有機酸を主剤として含むものを用いることが可能である。
例えば、保護剤2がカルボキシル基(−COOH)を有する化合物の場合には、アルコール類や有機酸をこの有機物除去剤3として用い、エステル化反応を生じさせて、保護剤2を効果的に除去することができる。
または、保護剤2がアミン基(−NH)を有する化合物の場合には、有機酸無水物や有機酸をこの有機物除去剤3として用い、アミド化反応を生じさせて、保護剤2を効果的に除去することができる。
もしくは、保護剤2がチオール基(−SH)を有する化合物の場合には、有機酸をこの有機物除去剤3として用い、チオエステル化反応を生じさせて、保護剤2を効果的に除去することができる。
この有機物除去剤3の添加量としては、導電性微粒子1の表面に付着している保護剤2の全量に対して化学反応を生じさせるに十分な量を加えること、あるいはさらに所定の安全率を見込んで、敢えて過剰気味の量を加えることが望ましい。逆に、そのような必要量に満たない添加量とした場合には、保護剤2が十分には除去されず、焼成後に得られる導
電膜中に保護剤2が残存してしまうこととなる虞もある。
【0019】
溶剤4は、導電性ペースト中で、導電性微粒子1や有機物除去剤3等を流動的に分散して包容する、いわゆるバインダまたはビヒクルとして機能する液体状または粘性流体状のものである。
この溶剤4としては、室温で容易に蒸発しない、比較的高沸点な、低極性溶剤あるいは非極性溶剤であることが望ましい。より具体的には、炭素数10〜14個のノルマルの炭化水素や、トルエン、キシレンなどを好適に用いることが可能である。
この溶剤4の種類(材質あるいは化学的特性)としては、導電性微粒子1の表面を覆っている保護剤2に対して親和性を有するものであることが望ましい。
また、この溶剤4として極性が高過ぎるものを用いると、導電性微粒子1の表面に付着している保護剤2が、焼成前の段階で、この溶剤4によって溶解され、延いては導電性微粒子1と溶剤4とが分離してしまう虞がある。このため、溶剤4として極性が高過ぎるものを用いることは好ましくない。
この溶剤4の粘性は、導電性微粒子1を高濃度で含有する導電性ペーストのコーティング性を良好なものとすることができるような、適正な値に調節することが望ましい。
この溶剤4の含有量は、導電性ペースト全量に対して1.0質量%以上99質量%以下とすることが可能である。
【0020】
被覆層5は、有機物除去剤3が保護剤2に対して直接的に接触して化学的に結合したり反応したりすることを抑制または阻止もしくは回避するために、有機物除去剤3の各粒子や分子(あるいはその外周)をカプセル状またはミセル状に覆うようにしたものである。
【0021】
有機物除去剤3が保護剤2と直接に接触して化学的に結合してしまうことのないように、有機物除去剤3の表面上またはその外周に被覆層5を設ける手法としては、ミセル化(ミセル構造状に設ける手法)と、カプセル化(カプセル構造状に設ける手法)とが挙げられる。
ミセル化とは、有機物除去剤3が添加されている溶剤4に界面活性剤や表面修飾剤などを混入して、それらの薬剤の化学的作用によって、有機物除去剤3の周囲にいわゆるミセル構造を形成し、有機物除去剤3を化学的に安定して分散した状態とすることで、有機物除去剤3が保護剤2と直接的には接触しないようにする、という手法である。
このミセル化の場合、有機物除去剤3は、その表面または外周が界面活性剤や表面修飾剤からなる被覆層5を介して溶剤4中で一様に分散している状態となるので、特にコーティング性の良い導電性ペーストが得られる。
【0022】
カプセル化とは、有機物除去剤3の表面を、化学組成物からなるソリッドな(固体状、あるいはそれに近似した粘性体状などの)、いわゆるカプセル構造状の被覆剤5によって覆う、という手法である。
このカプセル化の場合、被覆層5は、導電性ペーストの焼成時に壊れて速やかに有機物除去剤3から離脱するものであることが望ましい。
このカプセル構造を形成する場合の被覆層5の材質としては、ポリマー材料を中心として適宜に選択することが可能である。より具体的には、一般的なポリマー材料のうち、特に、エチルセルロース、セルロースアセテート、ポリメタクリレート、ナイロン、ポリエチレン、ニトロセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、デンプン、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、パラフィン、ステアリン酸、ステアリルアルコール、グリセリルステアレート、シェラック、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレートなどが好適である。
また、導電性ペースト焼成時における、有機物除去剤3の放出性を考慮して、ガラス転移温度や融点が高過ぎない熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
その具体例としては、ポリエチレン、ポリフロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられる。
また、被覆層5のカプセル自体の粒径は、基本的に、100nm以上10μm以下が望ましい。さらには、導電性ペーストのコーティング性を考慮すると、その上限値としては5μm以下であることが、より望ましい。
また、被覆層5のカプセルの厚みは、出来るだけ薄い方が、そのカプセルの内部容積が大きくなるので望ましい。具体的には、被覆層5のカプセルの直径部分の寸法の1/20以下であることが望ましい。
【0023】
このような本発明の実施の形態に係る導電性ペーストの焼成(〜導電膜の形成)は、次に述べるような過程に沿って進行するものと考えられる。
この導電性ペーストの焼成工程では、それまで有機物除去剤3を覆ってミセル構造やカプセル構造を成していた被覆層5が破壊されて、有機物除去剤3が露出し、導電性微粒子1の表面の保護剤2と接触する。
有機物除去剤3が保護剤2に接触すると、両者の間で化学反応が進行して、保護剤2は導電性微粒子1の表面から脱離する。
【0024】
保護剤2が脱離した導電性微粒子1は、活性であるため、速やかに凝集して接触や融着を生じ、導電膜が形成される。
そして、それと並行して、およびそれに続いて、ミセル構造の被覆層5の場合には、そのミセル構造を成していた界面活性剤や表面修飾剤が溶剤4と共に導電膜内から除去されて、高導電性の導電膜が形成されることとなる。また、カプセル構造の被覆層5の場合には、カプセル構造が破壊される。このとき、カプセル構造を成していた被覆層5の残渣等が導電膜内に残存する虞を完全に否定することはできないが、被覆層5の量は、導電性ペースト全量に対して極めて少量で済むため、仮に残存したとしても、出来上がった導電膜の導電性に与える悪影響は、実質的に無視できるほど極めて小さくなる。また、このとき、導電性微粒子1の表面の保護剤2が、十分な添加量の有機物除去剤3によって確実に除去されることとなる。
従って、出来上がった導電膜中で導通を阻害する要因となる虞があるのは、カプセル構造の壁膜を成していた被覆層5の、残存部分(つまり残渣等)のみとなるが、前述のようにその残存量は極めて僅かなものであるのだから、出来上がりの導電膜における電流の導通経路を確保することが可能となる。その結果、出来上がりの導電膜の導電性が十分に高いものとなる。
【0025】
上記のような本発明の実施の形態に係る導電性ペーストとは対照的に、従来技術に係る導電性ペーストの場合には、焼成後の導電膜中には、保護剤2の付着していない導電性微粒子1と保護剤2の残渣等が付着している導電性微粒子1とが混在した状態となっており、しかも保護剤2の残渣等が付着している導電性微粒子1の量(つまり保護剤2の残存量)も無視できない量となっていた。このため、出来上がりの導電膜における電流の導通経路の確保が、確率的に困難となり、延いては低い導電性しか得られないこととなっていたのであった。
【0026】
以上のように、本発明の実施の形態に係る導電性ペーストによれば、有機物除去剤3の各粒子の表面を被覆層5によって覆うことで、有機物除去剤3が保護剤2に対して直接に接触して化学的に結合することを抑制ないしは阻止するようにしたので、導電性微粒子1の凝集を防ぐために添加された保護剤2を確実に除去するのに十分な量の(あるいは場合によっては過多なほどの添加量の)有機物除去剤3を添加してなる導電性ペーストにおいても、焼成以前の保存中などに、その有機物除去剤3が保護剤2と化学的に反応したり結合したりすることを回避することが可能となる。
そして、そのように有機物除去剤3が保護剤2と反応したり結合したりする虞がなくな
るので、十分な量の有機物除去剤3を添加することが可能となり、その結果、導電性ペーストとしての保存性やコーティング性を損なうことなしに、低温かつ短時間での焼成が可能であり、かつ高い導電性を発現可能である導電性ペーストを実現することができる。
また、使用可能な有機物除去剤3の種類や添加量の選択肢が広がることとなるというメリットもある。
【実施例】
【0027】
上記の実施の形態で説明したような被覆層5を備えた構成の導電性ペーストを作製し、未焼成の状態で1か月間の保存試験を行って、保存後の状態や品質について確認した。また、作製した導電性ペーストを用いて所定のテストパターンの導電膜を焼成し、抵抗率を測定する実験を行って、その導電膜の導電性を確認した。また、1か月間の保存試験を行った後の導電性ペーストについても、同様の導電膜の焼成実験を行った。
【0028】
ここで、本実施例の実験における各物性値の測定は、下記のようにして行った。
(1)定性分析
導電性微粒子1の相同定は、粉末X線回折装置「RINT2000J」(株式会社リガク製)を用いて実施した。
(2)被覆層の平均粒径(カプセル構造の外形寸法)の測定
FE−SEM(日立製S−5000)を用いた観察によって測定した。
(3)導電性ペースト全体における保護剤の含有量
示差熱熱重量同時測定装置「TG8120」(株式会社リガク製)を用い、TG−DTA分析することによって求めた。
(4)出来上がった導電膜の膜厚および体積抵抗率
焼成によって出来上がった導電膜の膜厚は、FE−SEMを用いて測定した。また、金属膜の抵抗率は、4探針電気抵抗測定装置を用いて測定した。
【0029】
[実施例1]
60gのトルエン溶媒中に、AgOを10g、オレイン酸を1.5g、保護剤2および還元剤としてトリエチルアミンを、トリエチルアミン/Ag=5mol%となるように、それぞれ加えた。
このようにしてトルエン溶媒中にAgO等を混入させた溶液を、マグネチックスティアラーで撹伴し、温度100℃で60分間還流することで、AgOを還元させて、粒径7.8nmのAgナノ粒子をトルエン溶媒中に分散してなる溶液を合成した。
この溶液を、1μmの濾紙を用いて濾過し、濾過後の溶液にメタノール溶媒を100g加えて、Agナノ粒子を沈殿させた。そして、メタノール溶媒を除去し、25℃の室温中で乾燥することにより、トリエチルアミンからなる保護剤2によって表面が保護されたAgナノ粒子の粉末を得た。この状態でのAgナノ粒子の粉末中のAg含有率は、99質量%であった。
【0030】
ノネニル無水コハク酸を内包する平均粒径約5μmのポリエチレン粒子0.2g(各粒子における壁膜の厚さ約100nm)と、Agナノ粒子の粉末10gと、テトラデカン2gと、トルエン20gと、トリエチルアミン10gとを混合し、Alのボール(直径5mm、重量50g)を用いた湿式ボールミルにより、回転数650rpmで、15時間に亘って混合した。
その後、減圧蒸留(8mmHg、25℃)により、トルエン溶媒および過剰なトリエチルアミンを除去することで、Agナノ粒子とノネニル無水コハク酸内包ポリエチレン組成物とをテトラデカン溶剤中に分散してなる導電性ペーストを得た。
【0031】
ここで、この導電性ペーストにおいては、Agナノ粒子が導電性微粒子1であり、ノネニル無水コハク酸内包ポリエチレン組成物のうちの、ポリエチレン組成物が被覆層5であ
り、そのポリエチレン組成物に内包されているノネニル無水コハク酸が有機物除去剤3であり、テトラデカン溶剤が溶剤4であり、トリエチルアミンが保護剤2である。
【0032】
この導電性ペーストを、ガラス基板上にアプリケータによって塗布し、その膜を焼成することでAgの導電膜を作製して、その抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
この実施例1で得られた結果(表1)と、後述する比較例での結果(表3)とを比較すると、同じ焼成条件では、実施例1の導電膜の方が、抵抗率が低く、従って導電性に優れていることが確認された。
また、作製した導電性ペーストを冷蔵庫に安置して10℃で1ヶ月間に亘って保存した後の、Agナノ粒子の粒径や品質について調べた。その結果、1ヶ月経過後のペースト内に含まれるAgナノ粒子の粒径には有意な変化は全く生じておらず、この実施例1に係る導電性ペースト自体のコーティング性や焼成後の導電性についても実質的な悪化は全く生じていないことが確認された。
【0035】
[比較例]
60gのトルエン溶媒中に、AgOを10g、オレイン酸を1.5g、保護剤2および還元剤としてトリエチルアミンを、トリエチルアミン/Ag=5mol%となるように、それぞれ加えた。
このようにしてトルエン溶媒中にAgO等を混入させた溶液を、マグネチックスティアラーで撹伴し、温度100℃で60分間還流することで、AgOを還元させて、粒径7.8nmのAgナノ粒子をトルエン溶媒中に分散してなる溶液を合成した。
この溶液を、1μmの濾紙を用いて濾過し、濾過後の溶液にメタノール溶媒を100g加えて、Agナノ粒子を沈殿させた。そしてメタノール溶媒を除去し、25℃の室温中で乾燥することにより、トリエチルアミンからなる保護剤2によって表面が保護されたAgナノ粒子の粉末を得た。この状態でのAgナノ粒子の粉末中のAg含有率は、99質量%であった。
【0036】
続いて、Agナノ粒の粉末10gと、テトラデカン2gと、トルエン20gと、トリエチルアミン10gとを混合し、Alのボール(直径5mm、重量50g)を用いた湿式ボールミルにより、回転数650rpmで、15時間に亘って混合した。
その後、減圧蒸留(8mmHg、25℃)により、トルエン溶媒および過剰なトリエチルアミンを除去し、ノネニル無水コハク酸0.2gを加えて、比較例に係る導電性ペーストを得た。
【0037】
ここで、この比較例に係る導電性ペーストにおいては、Agナノ粒子が導電性微粒子1
であり、トリエチルアミンが保護剤2であり、ノネニル無水コハク酸が有機物除去剤3であり、テトラデカン溶剤が溶剤4である。そして、この比較例に係る導電性ペーストでは、実施例1とは異なり、実質的に被覆層5に該当するものは設けられていない。
【0038】
この導電性ペーストを、ガラス基板上にアプリケータによって塗布し、その膜を焼成することでAgの導電膜を作製して、その抵抗率を測定した。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この比較例の結果(表2)と、既述の実施例1で得られた結果(表1)とを比較すると、同じ焼成条件では、この比較例に係る導電膜の方が、実施例1の場合のそれよりも抵抗率が約2倍以上と明らかに高く、従って導電性が劣っていることが確認された。
また、作製した導電性ペーストを冷蔵庫に安置して10℃で1ヶ月間に亘って保存した後の、Agナノ粒子の粒径や品質について調べた。その結果、1ヶ月経過後のペースト内に含まれるAgナノ粒子の平均粒径は、保存前の7.8nmと比べて約8倍の、約60nmとなっており、顕著な粗大化が生じることが確認された。
また、この比較例に係る導電性ペーストをガラス基板上にコーティングした際に、いわゆる弾き現象が生じて、形成された膜は明らかに不均一なものとなった。
【0041】
この保存後の導電性ペーストについても、ガラス基板上にアプリケータによって塗布し、その膜を実施例1の場合と同様のプロセス条件設定で焼成することでAgの導電膜を作製して、抵抗率を測定した。その測定結果は、表3に示したようなものとなった。
【0042】
【表3】

【0043】
この表3に示す結果と、保存前の導電性ペーストを用いた焼成の場合の表2に示した結果とを比較すると、焼成して得られる導電膜の抵抗率は、保存前の場合よりも保存後の場合の方が明らかに高く、従って導電性は、保存後の導電性ペーストの場合の方が明らかに悪化することが確認された。
【0044】
上記のような実施例1および比較例に係る実験の結果から、本発明の実施例1に係る導電性ペーストを焼成して得られる導電膜の導電性は、従来技術に係る導電性ペーストの場合の2倍以上のような極めて優れたものとなることが確認できた。
また、1ヶ月間のような永い保存期間の経過後であっても、本発明の実施例1に係る導
電性ペーストでは、その中に含まれているAgナノ粒子(導電性微粒子1)の粒径には有意な変化は全く生じることがなく、またその導電性ペースト自体のコーティング性や焼成後の導電性についても実質的な悪化は全く生じないことが確認できた。
【0045】
[実施例2]
60gのトルエン溶媒中に、AgOを10g、オレイン酸を1.5g、保護剤2および還元剤としてトリエチルアミンを、トリエチルアミン/Ag=5mol%となるように、それぞれ加えた。
このようにしてトルエン溶媒中にAgO等を混入させた溶液を、マグネチックスティアラーで撹伴し、温度100℃で60分間還流することで、AgOを還元させて、粒径7.8nmのAgナノ粒子をトルエン溶媒中に分散してなる溶液を合成した。
この溶液を、1μmの濾紙を用いて濾過し、濾過後の溶液にメタノール溶媒を100g加えて、Agナノ粒子を沈殿させた。そして、メタノール溶媒を除去し、25℃の室温中で乾燥することにより、トリエチルアミンからなる保護剤2によって表面が保護されたAgナノ粒子の粉末を得た。この状態でのAgナノ粒子の粉末中のAg含有率は、96.5質量%であった。
【0046】
そして、尿素240gと、37%ホルマリンにpH8.0となるようにトリエタノールアミンとを加えて、70℃で1時間反応させ、さらに蒸留水を100ml加えることで、プレポリマー溶液を調製した。このプレポリマー溶液の1/10容量を計り取って、10質量%のクエン酸水溶液を、pH7となるように加えた。続いて、オレイン酸を65g加え、さらに10質量%のクエン酸水溶液を徐々に加えて行くことで、pHを少しずつ酸性側に移動させて、最終的にpH3.5の溶液を得た。この溶液を40〜45℃で40分間に亘って保持し、温水を50ml加え、さらに3時間に亘って反応させた。
その後、冷水を加えることで、オレイン酸が尿素−ホルマリン樹脂によって覆われたオレイン酸内包カプセル組成物を得た。そのカプセル組成物の平均粒径は、1〜10μmであった。
【0047】
続いて、オレイン酸内包カプセル組成物0.4gと、Agナノ粒子の粉末10gと、テトラデカン2gと、トルエン20gと、トリエチルアミン10gとを混合し、Alのボール(直径5mm、重量50g)を用いた湿式ボールミルにより、回転数650rpmで、15時間に亘って混合した。
その後、減圧蒸留(8mmHg、25℃)により、トルエン溶媒および過剰なトリエチルアミンを除去することで、Agナノ粒子とオレイン酸内包カプセル組成物とをテトラデカン溶剤中に分散してなる導電性ペーストを得た。
【0048】
ここで、この導電性ペーストにおいては、Agナノ粒子が導電性微粒子1であり、オレイン酸内包カプセル組成物のうちの、カプセル構造を成している尿素−ホルマリン樹脂が被覆層5であり、その尿素−ホルマリン樹脂に内包されているオレイン酸が有機物除去剤3であり、テトラデカン溶剤が溶剤4であり、トリエチルアミンが保護剤2である。
この導電性ペーストを、ガラス基板上にアプリケータによって塗布し、その膜を焼成することでAgの導電膜を作製して、その抵抗率を測定した。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
この実施例2に係る導電性ペーストを焼成することによって形成された導電膜にあっても、上記比較例と同様に、有機物除去剤(オレイン酸)をそのまま加え、実質的に被覆層5が設けられていない導電性ペーストによって形成された導電膜に比べて、抵抗率が低く、導電性に優れていることが確認された。
【0051】
また、作製した導電性ペーストを冷蔵庫に安置して10℃で1ヶ月間に亘って保存した後の、Agナノ粒子の粒径や品質について調べた。その結果、1ヶ月経過後のペースト内に含まれるAgナノ粒子の粒径には有意な変化は全く生じておらず、この実施例2に係る導電性ペースト自体のコーティング性や焼成後の導電性についても実質的な悪化は全く生じていないことが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 導電性微粒子
2 保護剤
3 有機物除去剤
4 溶剤
5 被覆剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子と、前記導電性微粒子の凝集を抑制するための保護剤および/または分散剤と、有機物除去剤と、溶剤と、を含有する導電性ペーストであって、
前記有機物除去剤の表面が、前記保護剤および/または分散剤に対して直接に接触して化学的に結合および/または反応することを抑制ないしは阻止する被覆層によって覆われている
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
請求項1記載の導電性ペーストにおいて、
前記被覆層が、前記有機物除去剤の各粒子の外周を、カプセル状またはミセル状に覆っている
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1または2記載の導電性ペーストにおいて、
前記導電性微粒子の表面が、当該導電性微粒子に対して配位的な結合が可能な窒素(N)または硫黄(S)もしくは酸素(O)を含む化合物からなる保護剤によって被覆されている
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の導電性ペーストにおいて、
前記導電性微粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、マンガン(Mn)のうちの少なくとも1種類の金属から形成された金属微粒子である
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の導電性ペーストにおいて、
前記導電性微粒子の平均粒子径が、1nm以上10μm以下である
ことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載の導電性ペーストにおいて、
前記有機物除去剤が、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖炭化水素類、芳香族類、有機酸無水物またはその誘導体もしくは有機酸を含むものであることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1つの項に記載の導電性ペーストにおいて、
前記導電性微粒子の含有量が、当該導電性ペースト全体に対して1.0質量%以上99質量%以下である
ことを特徴とする導電性ペースト。

【図1】
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