説明

導電性ポリエステル繊維およびその製法

【課題】導電性、環境安定性に優れ単糸繊度ばらつきの小さい導電性ポリエステル繊維およびその製法を提供する。
【解決手段】カーボンブラックを20〜30重量%を含有し、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルを鞘部に、繊維形成能に優れたCB非含有ポリエステルを芯部に配し、芯鞘複合比80/20〜50/50(芯/鞘)の同心円状の芯鞘複合繊維であって、平均抵抗率10〜10Ω/cm以下、単糸繊度CVが5%以下である導電性ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたポリエステル繊維およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで高機能性繊維の開発は盛んに行われてきているが、中でも「導電性」は、最も重要な機能の一つである。導電性を有した繊維は、クリーンルーム用の衣料繊維やカーペットへの混繊繊維として、また装置内に組み込まれる部品に使用される繊維として、静電気を除去する目的や装置内で電荷を付与する目的で使用され、衣料用や各種産業用など幅広い分野において大きな需要が期待される。
【0003】
繊維への導電性付与の方法としてカーボンブラックを添加する技術がいくつか提案されている。ナイロンを初めとするポリアミド繊維はカーボンブラックの分散性が良いことから、これまで導電成分にカーボンブラックを混練したナイロンを用いた導電性繊維が多くあるが、季節や気候の変動、温湿変化といった外部の影響により導電性能が変化することが問題であった。一方ポリエステルを用いた場合、導電性は外部環境に依らず安定であるが、ナイロンと比較するとカーボンブラックの分散性が悪く、多量に添加すると著しく増粘し紡糸性が悪化することが問題であった。これらの問題を解決するため、導電成分に主たる繰り返し構造がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル「ポリトリメチレンテレフタレート」にカーボンブラックを混練したポリエステルを用いる発明が開示されている(特許文献1)。カーボンブラック混練ポリトリメチレンテレフタレートを導電成分に用いると、温度、湿度などの変化によらず導電性能は安定であり、また紡糸性もカーボンブラックを混練したポリエチレンテレフタレートやポリテトラメチレンテレフタレートなどの従来ポリエステル対比良好である。
【0004】
電子写真装置用ブラシなどの用途では、均一かつ高い導電性が求められることから導電性ポリエステル繊維を使用することで、高温条件下でも安定した導電性が得られるとして注目されている。しかし、カーボンブラックをポリトリメチレンテレフタレートに混練した場合でも、カーボンブラックを混練していない従来ポリエステル対比溶融粘度が増大するため、カーボンブラック混練ポリエチレンテレフタレートを単成分で紡糸すると、得られる繊維の単糸繊度斑が大きくなるため、電子写真装置用ブラシとして加工した場合、導電性が不均一になり鮮明な画像が得られないという問題があった。
【0005】
単繊維の電気抵抗値ばらつきを低減するため、紡糸後の熱処理によって制御する方法を提供している(特許文献2)が、この方法では紡糸段階にて生じた繊度ばらつきを抑制することができず、結果として単糸毎の電気抵抗値ばらつきを制御することができず、均一かつ高い導電性を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開2007−191843号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2004―11047号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決するため、導電性および環境安定性に優れ単糸繊度の均一性が高い導電性ポリエステル繊維およびその製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明は、カーボンブラックを20〜30重量%を含有し、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルを鞘部に、繊維形成能に優れたCB非含有ポリエステルを芯部に配し、芯鞘複合比80/20〜50/50(芯/鞘)の同心円状の芯鞘複合繊維であって、平均抵抗率10〜10Ω/cm以下、単糸繊度CVが5%以下であることを特徴とする導電性ポリエステル繊維を得ることで解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明において得られた導電性ポリエステル繊維は、外部影響に依らず導電性が安定であり、単糸繊度ばらつきが小さいことから、精密な印刷が要求される電子写真装置用ブラシの原糸などに適した素材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、繊維中にカーボンブラック(以下CB)を含有する、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル「ポリトリメチレンテレフタレート(以下PTT)」を少なくとも構成単位の一部として含む。このCB含有PTTが本発明の繊維において主たる導電性を担う。
【0011】
通常、一般的に用いられるポリエステル「ポリエチレンテレフタレート(以下PET)」、「ポリテトラメチレンテレフタレート(以下PBT)」では、CBを20重量%程度含有させると、溶融粘度が著しく増大し、溶融紡糸中の糸切れが多発し全く引き取りが出来ない。一方PTTでは、CBを20重量%以上含有させた場合であっても溶融紡糸が可能である。また特許文献2のように導電成分としてCBを混練するポリマがナイロン6である場合、ポリエステル対比CB混練による溶融粘度の増大は小さいため、紡糸性はほとんど変わらないが、外部環境により導電性が変化する問題がある。
【0012】
本発明の導電性ポリエステル繊維に用いるPTTは、カルボン酸であるテレフタル酸とアルコールであるトリメチレングリコールのエステル化反応により形成される、主たる繰り返し構造がトリメチレンテレフタレートからなるポリマである。主たる繰り返し構造とは、トリメチレンテレフタレート単位が50モル%以上であることを意味する。
【0013】
また本発明の要旨を損ねない範囲で共重合成分などが含有されていてもよい。例えばジカルボン酸化合物、ジオール系化合物、ヒドロキシカルボン酸などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などを1種類単独で用いても、また本発明の趣旨を損ねない範囲であれば、それらを二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の導電性ポリエステル繊維に用いるPTTに含有されるCBは、PTTに含有せしめた際、繊維物性を損ねず、また凝集しないことが重要であるから、ファーネス法により得られるファーネスブラック、ケッチェン法により得られるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とするアセチレンブラックが好ましい。また紡糸時の濾圧上昇や糸切れ、また繊維強度の低下がないことから、CB粒子径は1〜500nmの範囲が好ましく、5〜400nmがより好ましい。さらにPTTのCB含有量は20〜30重量%であり、さらに好ましくはCB含有量23〜27重量%である。CB濃度20〜30重量%とすることで十分な導電性を維持しつつ、溶融粘度の増大による紡糸性の低下、単糸繊度CVの増大を抑制できる。
【0015】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、繊維形成能に優れるCB非含有ポリエステル系ポリマを芯部に、CB含有PTTを鞘部に配列した芯鞘複合糸である。芯部をCB非含有ポリエステル系ポリマとすることで、鞘部のCB含有PTTの伸張変形を補助するので、紡糸性に優れ、かつ単糸繊度CVの小さい導電性ポリエステル繊維が得られる。芯部のポリマの組成は、例えばPET、PBTおよびそれらを主とした共重合ポリエステルを好ましく用いることができる。
【0016】
本発明の導電性ポリエステル繊維において、すべての任意の箇所における断面形状はCB含有PTTが繊維表面に同心円状に配列した形態であり、繊維表面から中心点に向かうCB含有PTTの厚さが均等である。これにより得られた導電性繊維の抵抗率は繊維全体で均一となり、電子写真装置用ブラシに該繊維を用いると、ブラシ全体の導電性も均一にする事ができる。また芯と鞘の断面積比は80/20〜50/50(芯/鞘)であることが必要であり、さらには75/25〜55/45(芯/鞘)であることが最も好ましい。芯鞘複合比80/20〜50/50(芯/鞘)とすることで、紡糸時の伸長変形挙動が良好であり、優れた導電性を有するポリエステル繊維が得られる。
【0017】
本発明の導電性ポリエステル繊維の抵抗率は10〜10Ω/cmの範囲であることが必要であり、さらに好ましくは10〜10Ω/cmである。これにより該繊維は導電性が高く、また導電性ばらつきも小さくなるため、電子写真装置用ブラシに用いた場合、優れた効果を得ることができる。
【0018】
本発明の導電性ポリエステル繊維は、単糸繊度CVが5%以下であることが必要であり、さらに好ましくは4%以下である。電子写真装置用ブラシなどとして導電性繊維を使用した場合、感光ドラム等に接触する際の導電性が均一であることが大変重要であり、マルチフィラメントにおける各単糸1つ1つが感光ドラムに接触する際の単糸断面積を均一に制御することで精細な画像を得ることができる。これまで導電性を決める上で重要なパラメータとして考えられてきた長手方向の導電性ばらつきを制御するだけでは不十分であり、用途に適った優れた導電性を得ることはできない。
【0019】
本発明の導電性ポリエステル繊維を電子写真装置用ブラシなどとして使用する場合、単糸繊度が細いほど感光ドラムとの接触状態が密で均一となり、良好かつ安定な静電潜像が得られるため、単糸繊度は5dtex以下であることが好ましく、また単糸繊度CVが小さくなる領域として単糸繊度2〜5dtexがより好ましい。
【0020】
しかし上記した特徴を有する導電性ポリエステル繊維は、特に単糸繊度が5dtex以下と細繊度である場合、PET対比CB混練による溶融粘度増加が小さいPTTがCB含有ポリマであっても、口金直下のCB含有PTTの伸張変形に追随できなくなるため紡糸性は低下し、たとえ紡糸可能であっても単糸繊度CVは増大し、そのため電子写真装置用ブラシとして加工した際、導電性にばらつきが生じる懸念がある。特許文献2では、単繊維の電気抵抗値ばらつきを低減するため、紡糸後の熱処理によって制御する方法を提供しているが、この方法では紡糸段階にて生じた繊度ばらつきを抑制することができず、結果として単糸毎の導電性ばらつきの抑制が不十分であるため、均一かつ高い導電性を得ることはできなかった。しかし本発明のように口金直下の雰囲気温度を制御し、吐出糸条の伸張変形を均一にすることで、5dtex以下の細繊度であっても、本発明の導電性ポリエステル繊維を得ることが出来る。すなわち、CB含有PTTを導電成分とする導電性ポリエステル繊維を複合溶融紡糸する際、口金下10〜30mmの雰囲気温度を150〜200℃かつ口金下50〜100mmの雰囲気温度を50〜150℃に制御する製造方法である。口金下10〜30mmの雰囲気温度を150〜200℃とすれば口金面温度の低下、吐出糸条の温度低下を抑制できることから、溶融粘度が高く、単糸繊度が細くとも吐出糸条の伸長均一性に優れ、またさらに口金下50〜100mmを50〜150℃に制御することで、糸条の変形速度が極大となる区間での過冷却や冷却不足を抑制できる。
【0021】
本発明の導電性ポリエステル繊維の製造方法として、例えば別々の溶融押出機にてCB含有PTTをと繊維形成能の優れたポリエステルを溶融せしめ、CB含有PTTが鞘に、繊維形成能の優れたポリエステルが芯になるよう複合紡糸口金より吐出せしめ、冷却、給油し、500〜2000m/minで一旦巻き取り、未延伸糸マルチフィラメントが得た後、これを50〜100℃の熱ローラーを介し、残留伸度が20〜70%になるよう延伸し、さらに110〜180℃のヒートプレート上で熱処理を行って巻き取る方法等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下実施例より本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何等限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は以下の方法を用いて測定した。
【0023】
1.繊度[dtex]および単糸繊度[dtex]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量[g]を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値をその繊維の繊度とした。前述の繊度を、フィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単糸繊度[dtex]とした。
【0024】
2.カーボンブラックの平均粒径の確認
繊維、又は樹脂を包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施した後、ウルトラミクロトームにて切削することで、厚さ60〜100nmの超薄切片を作成した。これを透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を(株)三谷商事製WinROOFにて、白黒にデジタル化し、該写真上黒く見えるCBのすべての面積をそれぞれ計算し、CBを略円形として計算して得られた直径の平均値とした。
【0025】
3.単糸繊度CVの測定および繊維中におけるCB含有PTTの割合の算出
繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックをミクロトームにて、繊維軸方向に垂直な、繊維横断面方向に切削して薄切片を作製し光学顕微鏡200倍、透過光で観察・撮影した後、得られた繊維横断面写真について(株)三谷商事製WinROOFにて、同一繊維において、およそ3センチ間隔をおいた任意の5点における断面の画像を解析することで、全フィラメント数の単繊維直径を観察、測定し、単糸繊度CVを算出した。同様の方法でCB含有PTT部分とそれ以外の部分の画像を解析することで、CB含有PTTの割合を算出した。
【0026】
4.平均抵抗率[Ω/cm]の測定
温度23℃湿度55%で、試料を少なくとも1時間該雰囲気中に保持した後測定した。送糸ローラーと巻き取りローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させ、ローラー間に東亜DKK製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに、走行糸が接するように設置した状態で、棒端子の太さφ2mm、棒端子で接する糸の距離20mm、印可電圧100V、送糸速度700mm/分、ローラー間の糸張力が0.05〜0.1cN/dtexの範囲になるように調整し(この範囲であれば測定値に差はない)、絶縁抵抗計を用いてサンプリングレート0.2秒で1200mmの長さ分抵抗値を測定し、得られた値の平均(Ω)を棒端子間で接する糸の距離(20mm)で割った値を平均抵抗率[Ω/cm]とした。
【0027】
5.固有粘度(IV)の測定
試料濃度が6.0重量%になるようオルソクロロフェノール溶液で希釈し、オストワルド粘度計を用い、25℃で測定した。
【0028】
6.加熱筒内雰囲気温度の測定
(株)カスタム製デジタル温度計CT−1200Dと高温測定用センサープローブIK―1200(測定範囲−160〜+1200℃)を用いて、口金下20mmおよび75mmの位置において、それぞれ任意の4点で測定した雰囲気温度の平均値を口金下10〜30mm加熱筒内雰囲気温度、口金下50〜100mm加熱筒内雰囲気温度とした。
【0029】
実施例1
(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下PET/I)の調整)
テレフタル酸150重量部、イソフタル酸16重量部およびエチレングリコール75重量部から通常のエステル化反応によって得た低重量体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.06重量部、着色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加し重縮合反応を行い、IV0.65、融点(Tm)222℃のPET/Iペレットを得た。これを溶融紡糸する際は、130℃で24時間真空乾燥して用いた。
(PTTの製法およびCBを添加したPTT成分の調製)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことで得た低重量体に、トリメチルフォスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して1,プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行いチップ状のプレポリマを得た。得られたプレポリマを更に220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15、融点(Tm)229℃のPTTペレットを得た。
【0030】
このPTTペレットを150℃で10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とし、これを窒素雰囲気下、CBの一種であるファーネスブラック(以下FCB、平均粒径31nm)と粉体同士で混ぜ合わせた後、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=45)を用いて溶融混練した。ここでFCBは混練終了時に得られるPTTとFCBの樹脂組成物においてFCBが25%になるよう調整し280℃で混練した。混練後吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の水道水で冷却した後、カッターで切断し、PTTとFCBの樹脂組成物(以下PTT−FCB)のペレットを得た。これを溶融紡糸する際は、150℃で10時間真空乾燥して用いた。
(芯鞘複合繊維の製造)
エクストルーダ型溶融押出機(軸長L/軸径D=35)にて、鞘成分にPTT−FCBを、芯成分にPET/Iをそれぞれ別々に溶融せしめ、紡糸温度260℃で、口径0.3mm、孔数が48個の丸形の孔形状の口金から糸条を吐出させ、複合溶融紡糸を行った。吐出直後、加熱長30mmと70mmの加熱筒を用いて口金下雰囲気温度を制御した後冷却し、実効成分として糸に対し1重量%の付着量となるよう、油剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1000m/分の引き取り速度で巻き取り、未延伸糸を得た。紡糸性に問題はなく12時間の連続紡糸においても全く断糸が無かった。
【0031】
得られた未延伸糸は50℃の熱ローラーを介し、残留伸度が60%になるよう延伸し、さらに150℃のヒートプレート上で熱処理を行って巻き取り、総繊度220dtex、フィラメント数48本の延伸糸を巻き取った。延伸中、全く問題なく延伸できた。また得られた繊維の平均抵抗率、単糸繊度CVは目標値を達成した。
(画像品位の評価)
得られた繊維を密度60000本/cmパイル状に製織し、ベルベット状に加工した布帛を、バイアスに巻き付け、クリーナーブラシを得た。これを乾式複写機に搭載し、テストチャート紙を用いて印字評価を行った。得られた印刷物には一切の汚れがなく、印刷精度は非常に優れていた。表1に使用した繊維の糸物性と画像品位の査定結果について示す。また画像品位に関する指標は以下の通りであり、○○、○、△を合格と評価した。
○○:印刷物に汚れがない。
○:印刷物に1〜10点の微少な筋状の汚れがあるものの、ほとんどわからない。
△:印刷回数11〜20点の微少な筋状の汚れがあるものの、あまり目立たない。
×:印刷物に21点以上の筋状の汚れがあり、目立って見える。
表1に実施例1〜7までの結果をまとめて示す。
【0032】
実施例2
単糸繊度を7.0dtexとした以外は実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比単糸繊度CV、平均抵抗率とも良好であり、規定の目標値を達成した。また画像品位の評価において得られた印刷物に、微弱な筋状の汚れを12点確認したが、問題のない程度であった。
【0033】
実施例3
単糸繊度を1.5dtexとした以外は実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比単糸繊度CV、平均抵抗率ともに増大したが、規定の目標値を達成した。画像品位の評価において得られた印刷物に、微弱な筋状の汚れを14点確認したが、問題のない程度であった。
【0034】
実施例4
含有CB濃度を22重量%とした以外は実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比平均抵抗率が高かったが、単糸繊度CVともに規定の目標値を達成し、紡糸、延伸においても問題なかった。また画像品位の評価を行った際、微弱な筋状の汚れを16点確認したものの、問題ない程度であった。
【0035】
実施例5
含有CB濃度を30重量%とした以外は、実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比単糸繊度CVが高かったが、平均抵抗率ともに規定の目標値を達成し、紡糸、延伸においても問題なかった。また画像品位の評価を行った際、微弱な筋状の汚れを9点確認したものの、ほとんど問題ない程度であった。
【0036】
実施例6
繊維の形状を芯鞘複合比8対2とした以外は、実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比平均抵抗率が高かったが、単糸繊度CVともに規定の目標値を達成し、紡糸、延伸共についても問題なかった。画像品位の評価を行った際、微弱な筋状の汚れを15点確認したものの、問題ない程度であった。
【0037】
実施例7
繊維の形状を芯鞘複合比5対5とした以外は実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行い、画像品位の評価も行った。実施例1対比単糸繊度CVが高かったが、平均抵抗率ともに規定の目標値を達成し、紡糸、延伸においても問題なかった。画像品位の評価を行った際、微弱な筋状の汚れを7点確認したが、画像品位には問題ない程度であった。
【0038】
比較例1
CB含有ポリマをPBTとして紡糸した以外は実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行った。またその後、実施例1と同様の方法で画像品位の評価を行った。PTTを使用した実施例1対比溶融粘度が大きく増大し、巻き取りはできたものの、紡糸、延伸ともに糸切れが多発し、また得られた繊維の単糸繊度CVが大きく規定の目標値を達成することができなかった。画像品位の評価では、印刷物の各所に筋状の大きな汚れが目立ち印刷精度は非常に低くかった。表2に比較例1〜4の結果を示す。
【0039】
比較例2
含有CB濃度を40重量%とした以外は、実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行った。またその後、実施例1と同様の方法で画像品位の評価を行った。巻き取りはできたものの紡糸、延伸ともに糸切れが多発し、得られた導電性繊維は非常に高い導電性を有していたが、単糸繊度CVが大きく目標値未達であった。画像品位の評価では印刷物上に斑が多く、目立って見えた。
【0040】
比較例3
PTT−FCBを芯成分とし、PET/Iを鞘成分とした以外は、実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行った。またその後、実施例1と同様の方法で画像品位の評価を行った。紡糸、延伸共に全く問題なく、単糸繊度CVも非常に良好であったが、平均抵抗率が非常に高く目標値未達であった。画像品位の評価では、印刷物全体に無数の筋状の汚れがあり、画像精度は非常に低かった。
【0041】
比較例4
PTT−FCBのみを用いて溶融紡糸を行った以外は、実施例1と同様の製糸条件、延伸条件で行った。またその後、実施例1と同様の方法で画像品位の評価を行った。巻き取りはできたものの紡糸、延伸ともに糸切れが多発し、得られた導電性繊維は導電性に優れていたが、単糸繊度CVが大きく目標値未達であった。画像品位の評価では、印刷物の各所に大きな筋状の汚れが目立った。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを20〜30重量%含有し、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルを鞘部に、繊維形成能に優れたCB非含有ポリエステルを芯部に配し、芯鞘複合比80/20〜50/50(芯/鞘)の同心円状の芯鞘複合繊維であって、平均抵抗率10〜10Ω/cm、単糸繊度変動係数(CV)が5%以下であることを特徴とする導電性ポリエステル繊維。
【請求項2】
単糸繊度が5dtex以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ポリエステル繊維。
【請求項3】
カーボンブラックを20〜30重量%含有し、主たる繰り返し構造単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステルが鞘部に、繊維形成能に優れたCB非含有ポリエステルが芯部になるように複合溶融紡糸する際、口金下10〜30mmの雰囲気温度を150〜200℃、かつ口金下50〜100mmの雰囲気温度を50〜150℃に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2010−37703(P2010−37703A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205400(P2008−205400)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】