説明

導電性ポリマーの導電性向上方法

【課題】ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られて成る導電性ポリマーを始めとする各種の導電性ポリマーの導電性をさらに向上させることのできる方法の提供。
【解決手段】耐圧容器内に、導電性ポリマーと水と前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤と二酸化炭素とを収容し、前記二酸化炭素が超臨界状態となるように、前記耐圧容器内を加熱加圧することを特徴とする導電性ポリマーの導電性向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は導電性ポリマーの導電性向上方法に関し、さらに詳しくは、ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られて成る導電性ポリマーの導電性を更に向上させることのできる導電性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合するとポリスチレンとポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンとの混合物である導電性ポリマーを得ることができる。
【0003】
この導電性ポリマーはBaytronなる登録商標にて市販されている(非特許文献1及び2)。この導電性ポリマーの中でもBaytron Pなる登録商標にて市販されているものそれ自体の導電率が1S/cmであるとされているところ、5%DMSOをこの導電性ポリマーに添加すると添加後の導電性ポリマーの導電率が80S/cmに向上することが知られている(非特許文献1及び2)。
【0004】
この導電性ポリマーは、ITOの代替品になるものと考えられている(非特許文献3)。しかしながら、市場においてこの導電性ポリマーがITOに取って代わるものとして認知されるには、この導電性ポリマーが前記ITOよりも優れた特性を有することが望まれる。すなわち、この導電性ポリマーの導電性を更に向上させる技術が望まれている。
【0005】
【非特許文献1】純正化学株式会社のホームページ、導電性ポリマーBaytron[平成20年2月12日検索](URL:http://www.junsei.co.jp/Baytron_fig1.html)
【非特許文献2】ティーエーケミカル株式会社のホームページ、導電性ポリマー(導電性高分子)Baytron(PEDOT)[平成20年2月12日検索](URL:http://www.ta-chemi.co.jp/PEDOT.html)
【非特許文献3】橋本定待、「Baytron(登録商標)、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)の開発とその応用」[平成20年2月12日検索](URL:http://www.kanagawa-iri.go.jp/kitri/kouhou/program/H17/pdf171019/1204.pdf)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られて成る導電性ポリマーを始めとする各種の導電性ポリマーの導電性をさらに向上させることのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、
耐圧容器内に、導電性ポリマーと水と前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤と二酸化炭素とを収容し、前記二酸化炭素が超臨界状態となるように、前記耐圧容器内を加熱加圧することを特徴とする導電性ポリマーの導電性向上方法であり、
請求項2は、
前記導電性ポリマーが、ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られる生成物及び/又はポリアニリンである前記請求項1に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法であり、
請求項3は、
前記有機溶剤が、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、N−メチルピロリドン、及びN,N−ジメチルホルムアミドよりなる群から選択される少なくとも一種である前記請求項1又は2に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法であり、
請求項4は、
前記加熱加圧が、7〜25MPaに加圧しつつ、85〜110℃に加熱し、その温度及び圧力を0.5〜4時間にわたって維持することである前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法である。
【発明の効果】
【0008】
この発明によると、導電性ポリマー、特にポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られる重合体及びポリアニリンを始めとする導電性ポリマーそれ自身の導電率を更に向上させることのできる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明に係る導電性向上方法では、導電性ポリマー、特にポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られる重合体及び/又はポリアニリンと水と前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤と二酸化炭素とを収容し、前記二酸化炭素が超臨界状態となるように、前記耐圧容器内を加熱加圧する。
【0010】
前記導電性ポリマーは、ポリスチレンスルホン酸とポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンとを含む。この導電性ポリマーは、ポリスチレンスルホン酸とポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンとの単なるポリマーブレンドではなく、ポリスチレンスルホン酸における−SOがポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンに配位してなる構造を有すると考えられている。
【0011】
この導電性ポリマーは、「Baytron」の商品名で市販されている。この発明の方法に使用可能な導電性ポリマーとして、「Baytron(登録商標)P」、「Baytron(登録商標)PAG」、「Baytron(登録商標)PH」、「Baytron(登録商標)PTP」、「Baytron(登録商標)PLS」、「Baytron(登録商標)PHS」、「Baytron(登録商標)PHCV4」などを挙げることができる。これらの導電性ポリマーのほかに、一般的な導電性ポリマーとして、例えば、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリアセンなどがこの発明における導電性ポリマーとして例示することができる。これら導電性ポリマーを、この発明の導電性向上方法で処理すると、処理後の導電性ポリマーの粒子径が処理前の導電性ポリマーの粒子径よりも小さくなっている。確実な理論的根拠は未だ確かめられていないが、この発明の方法で処理された導電性ポリマーはその粒子径が小さくなることにより、分子鎖内の伝導、分子鎖間の伝導、粒子間の伝導における、導電性の原因である電子の移動距離が短縮されているものとも思われる。
【0012】
前記導電性ポリマーと混合する水としては、イオン交換水及び超純水などを挙げることができる。
【0013】
水と導電性ポリマーとの耐圧容器内における混合割合は、通常の場合、前記導電性ポリマー1質量部に対して水50〜10000質量部、好ましくは水20〜2000質量部である。前記導電性ポリマーに対する水の量が前記範囲を外れて多すぎると容器上部に導電性ポリマーが浮かんで反応しなかったり、少なすぎると十分反応しなかったりすることがあって好ましくないことがある。また、前記水の混合割合が前記範囲を下回ると、分散・微粒子化操作時に水分が失われて乾燥するので、導電性ポリマーが萎縮してしまうといった不都合を生じることがあり、前記配合割合を上回ると、処理物の水分散濃度が薄くなってそのまま利用することができず、利用するのに濃度調整を行わなければならないといった不都合を生じることもある。
【0014】
前記導電性ポリマーとして前記Baytronを採用する場合、このBaytronは導電性ポリマーを1〜1.3質量%の割合で含有する水ディスパーション、つまり水分散液であるから、Baytronを使用する場合には、水とBaytronとの配合量比は、Baytronの単位容積に対して水を0.5〜3容積比、好ましくは1〜2容積比を挙げることができる。
【0015】
前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤としては、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドンなどを好適例として挙げることができる。
【0016】
前記導電性ポリマーに対する前記有機溶剤の配合量としては、通常の場合、水と前記導電性ポリマーとを混合して得られる混合物に対して1〜10質量%となるように、好ましくは3〜6質量%となるように調製して決定するのが良い。前記有機溶剤の配合量が前記範囲を下回ると、導電性の向上が期待されないといった不都合を生じることがあり、前記範囲を上回ると、処理物を目的用途に利用しようとする際に、余剰の添加剤の影響が現われて膜を形成することができないことがあり、又は、コーティング時に膜が不均一になったりコーティングを円滑に行えなくなったりといった不都合を生じることがある。
【0017】
耐圧容器内における水と二酸化炭素との混合割合は、通常の場合、水10mlに対して二酸化炭素80〜500g、好ましくは95〜400gである。
【0018】
この発明の方法においては、耐圧容器内に二酸化炭素と水と前記導電性ポリマーと前記有機溶剤とを存在させる。耐圧容器内に、二酸化炭素と水と前記導電性ポリマーと前記有機溶剤とを投入する順序に制限がない。また、耐圧容器内に投入する以前に、前記導電性ポリマーと前記有機溶剤と水とを混合しておき、得られる混合物を耐圧容器に投入するようにしてもよい。
【0019】
多くの場合は、耐圧容器内に水、前記導電性ポリマー、及び前記有機溶剤を装填し、二酸化炭素が圧入される。耐圧容器内が、二酸化炭素が超臨界状態となる条件に維持される。通常の場合、耐圧容器内の圧力を7〜25MPa、好ましくは9〜15MPaにし、耐圧容器内の温度が85〜110℃、好ましくは95〜105℃に維持される。また、耐圧容器内の二酸化炭素を超臨界状態に維持する時間は、通常の場合、0.5〜3時間であり、好ましくは1〜2時間である。なお、耐圧容器の形状については、前記二酸化炭素が超臨界状態となり得る前記条件を満たす限り特に制限がなく、例えばタンク、並びに直管及び蛇管などのチューブ等を例示することができる。
【0020】
この発明の方法では、耐圧容器内を二酸化炭素の超臨界状態に維持した後に、耐圧容器内を常圧に戻す。通常の場合、耐圧容器内の二酸化炭素を大気中に放出する。すると、耐圧容器内には、水と導電性ポリマーと有機溶媒との混合物が残留する。用途によってはこの混合物を使用することができ、また、用途によっては単離した導電性ポリマーを使用する必要があるときには、前記混合物を通常の公知の分離手段例えば濾過手段に供して導電性ポリマーを分離することもある。
【0021】
この発明の方法により得られる導電性ポリマーは、耐圧容器に投入する以前の導電性ポリマーの形態が塊状物、破砕物、顆粒状、粒状等の大形状を有する物である場合、微粒子状に変化している。この発明の方法により微粒子状になっている導電性ポリマーの平均粒子径は、通常の場合、0.02〜0.05μmになっている。なお、対象物の平均粒子径は、粒度分布測定装置例えば日機装株式会社製の「マイクロトラック」で測定されることができる。
【0022】
また、この発明の方法を適用する対象物である導電性ポリマーが、ポリスチレンスルホン酸とポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンとの混合物である場合、この導電性ポリマー中に含まれるポリスチレンスルホン酸の分子内に存在する−SOがポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンにイオン結合しているので、この導電性ポリマーは水により膨潤して水膨潤性ポリマーを形成する。この水膨潤性ポリマーは分子中にイオン性の官能基−SOを備えるので、この発明の方法における耐圧容器に投入される以前の導電性ポリマーが水により膨潤するのは、導電性ポリマー中のイオン性の官能基と水分子とが結合することによると考えられる。この導電性ポリマーを耐圧容器に投入してこの発明の方法を適用して、耐圧容器内で、導電性ポリマーと水分子との存在下で二酸化炭素を超臨界状態にすると、超臨界二酸化炭素の密度は、液体の性質を保ちつつ、気体の密度に近づくためポリマーなどを透過し易い状態となる。よって、導電性ポリマーにおける高分子間に二酸化炭素が透過し、通過する際に水分子も一緒に浸入し、次いで耐圧容器内を常圧に戻すと、二酸化炭素が瞬時に気体となり、しかも水の容積が増大することにより二酸化炭素が気体となって抜け出た後ポリマーの分子内に水が残っているので、導電性ポリマー中の高分子における主鎖切断が発生し、その結果として微粒子状の導電性ポリマーが形成されるものと推察される。主鎖切断の発生が、耐圧容器内に投入された導電性ポリマーの微粒子化に寄与するものと推察される。
【0023】
この発明の方法において興味深いのは、この発明の方法により処理された導電性ポリマーは、処理前の導電性ポリマーに比べて導電性が格段に向上している。具体的には、この発明の方法により処理された導電性ポリマーは、その抵抗値が、処理前の導電性ポリマーの抵抗値よりも、1/10以上も低下している。このように、超臨界状態にある二酸化炭素と水とこの導電性ポリマーと特定の有機溶剤とを接触させると、処理後の導電性ポリマーの抵抗値が低下する理由は、以下のようであると推測される。この発明においては、例えばBaytronなどの導電性ポリマーを超臨界二酸化炭素条件下で微粒子とし、かつ、相溶性のある有機溶剤を加えることにより、Baytronなどの導電性ポリマーの微粒子が気体及び液体の性質を有する超臨界状態の二酸化炭素と有機溶剤とに接触すると、前記微粒子内に前記超臨界状態の二酸化炭素と有機溶剤とが通過し、浸透するので、微粒子の内部の奥深くまで二酸化炭素及び有機溶剤が到達することになる。その結果、Baytronを始めとする導電性ポリマーの導電性がさらに向上するものと推測される。
【0024】
次に図面を参照しながら、この発明の方法を概説する。
【0025】
図1は、この発明を実施するのに好適な一例である高導電性化処理装置の概略図を示している。図1に示されるように、高導電性化処理装置1は、耐圧容器2と、二酸化炭素ボンベ3と、水貯留タンク4と、バルブ5とを備えて成る。
【0026】
耐圧容器2は、ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られて成る導電性ポリマーと水と前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤と二酸化炭素とを収容し、二酸化炭素を超臨界状態にすることが可能であればよい。耐圧容器2は、耐圧容器2内を攪拌する攪拌器2Aを備えていることが好ましい。なお、耐圧容器2の後段には、バルブ5が接続されている。
【0027】
二酸化炭素ボンベ3は、二酸化炭素ガスを貯留し、前記耐圧容器2に二酸化炭素ガスを供給する。二酸化炭素ボンベ3は、耐圧容器2の前段に接続されている。二酸化炭素ボンベ3及び耐圧容器2の間には、ポンプ3Aと、バルブ3Bとがこの順に接続されている。
【0028】
水貯留タンク4は、純水を貯留し、前記耐圧容器に前記純水を供給する。水貯留タンク4は、耐圧容器2の前段に接続されている。水貯留タンク4及び耐圧容器2の間には、ポンプ4Aと、バルブ4Bとがこの順に接続されている。
【0029】
前記高導電性化処理装置1を使用した際の導電性向上方法を図1及び図2を参照して、説明する。
【0030】
まず、耐圧容器2内に所定量の導電性ポリマーが投入される(図2(A)参照)。
【0031】
次に、ポンプ3A及びバルブ3Bを作動させて、二酸化炭素ボンベ3から前記耐圧容器2に超臨界状態となる二酸化炭素を供給する(図2(B)参照)。
【0032】
さらに、ポンプ4A及びバルブ4Bを作動させて、水貯留タンク4から前記耐圧容器2に純水を供給する(図2(C)参照)。なお、耐圧容器内に供給する純水と二酸化炭素とについてはいずれを先にしても後にしても、或いは同時であってもよい。
【0033】
次に、耐圧容器2内を昇圧及び昇温することにより、耐圧容器2内に供給された二酸化炭素が超臨界状態にされる。必要に応じて耐圧容器内2内に更に二酸化炭素が圧入される。この際、攪拌器2Aを適宜、作動させて、超臨界状態となる二酸化炭素及び純水を混合する(図2(D)参照)。その後、二酸化炭素を超臨界状態で所定時間保持する(図2(E)参照)。
【0034】
バルブ5を作動させて、耐圧容器2内を減圧して常圧に戻す。減圧後、常圧に戻された耐圧容器2内から二酸化炭素ガスがバルブ5を通じて大気に放出される。耐圧容器2内に水と有機溶剤と処理後の導電性ポリマーとが残留する。耐圧容器2内の水と有機溶剤と処理後の導電性ポリマーとの混合物から、適宜の分離手段により処理後の導電性ポリマーを回収する。
【0035】
上記したように、導電性ポリマーと前記二酸化炭素及び純水とを混合させた後、前記二酸化炭素を超臨界状態とすると、純水自体も超臨界状態に近い状態になると推測される。超臨界状態を実現する高圧から常圧に戻すことにより、二酸化炭素は、超臨界状態から通常のガス状の二酸化炭素に戻る。
【0036】
なお、図1に示される高導電性化処理装置1の代わりに、別の装置構成を有する高導電性化処理装置を採用し、その一例を図3に示すことができる。
【0037】
図1に示される部材乃至装置と図3に示される部材乃至装置が同じであるものについては同じ数字を付してその説明を省略する。図3に示される高導電性化処理装置1が示す高導電性化処理装置1が図1に示される高導電性化処理装置1と相違するところは、バルブ3Aの下流側にパイプを介して第2耐圧容器6が設けられ、この第2耐圧容器6の内部は、バルブ7を有するパイプを通じて耐圧容器2に連通されており、耐圧容器2の下流側にはコイル状に巻回されたコイル状反応器8が結合され、この耐圧容器2の内容物を前記コイル状反応器8に供給することができるようにこの耐圧容器2と前記コイル状反応器8とを結合する配管に、バルブ4Bから延在するパイプに接続されていることである。
【0038】
図3に示される高導電性化処理装置1にあっては、二酸化炭素ボンベ3から二酸化炭素を第2耐圧容器6に供給して、第2耐圧容器6内を所定温度に加熱することによりこの第2耐圧容器2内で二酸化炭素を超臨界状態にしておく。一方、前記耐圧容器2内に所定量の導電性ポリマー及び有機溶剤を装填しておく。次いで、この耐圧容器2内に第2耐圧容器6から超臨界状態の二酸化炭素を供給することにより、耐圧容器2内で導電性ポリマーに超臨界状態の二酸化炭素、及び有機溶剤を接触させる。次いで、この耐圧容器2内に存在する超臨界状態の二酸化炭素、導電性ポリマー及び有機溶剤との混合物をコイル状反応器8に送り出すとともに、前記水貯留タンク4内の水をポンプ4Aにより開放状態のバルブ4Bを通じてコイル状反応器8に送り込む。コイル状反応器8内を、超臨界状態の二酸化炭素、導電性ポリマー、水、及び有機溶剤が混合状態となって通過していき、このコイル状反応器8内を通過する間に、導電性ポリマーの微粒子化と高導電性化とを達成することができる。このコイル状反応器8は、前記導電性ポリマーの微粒子化と高導電性化を達成するのに必要な滞留時間を確保できるように、そのコイルの長さ、コイルの内径などが決定され、また、コイル中を流通する流体の流速が適宜に決定される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を挙げて、この発明をより具体的に説明する。なお、この発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図1に示すように、まず、内容積500mLの耐圧容器2内に、処理前の平均粒径が0.4μmである導電性ポリマー(商品名:Baytron P)1w/oの水ディスパーション液10mLと純水9gとDMSO 1.1gとを装入した。
【0041】
次に、耐圧容器2内を100℃に加熱すると共に二酸化炭素ガス308gを圧入して10MPaの圧力にし、耐圧容器2内に供給された二酸化炭素ガスを超臨界状態にした。この際、攪拌器2Aを適宜、作動させて、超臨界状態となる二酸化炭素及び純水を混合した。その後、二酸化炭素ガスを超臨界状態で、1時間保持した。
【0042】
1時間の経過後にバルブ5を作動させて、耐圧容器2内を常圧に戻した。耐圧容器2内が常圧に戻ると、耐圧容器2内には水とDMSOと処理後の導電性ポリマーとの混合物が残留した。耐圧容器2内の混合物を取り出し、水ディスパーションで利用する場合はそのままとし、粒子として利用する場合、濾過操作により処理後の導電性ポリマーを回収した。
【0043】
耐圧容器2に装入される以前のこの導電性ポリマーの粒度分布を粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装株式会社製)で測定した。
【0044】
回収された導電性ポリマーつまり処理後の導電性ポリマーの平均粒径を粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装株式会社製)で測定したところ、平均粒径が0.05μmであった。この回収された導電性ポリマーの粒径は0.02〜0.05μmの狭い範囲に分布していた。
【0045】
回収された導電性ポリマーの導電性を評価するために、その抵抗値を表面抵抗率計により測定したところ、0.607×10Ω/□であった。また、処理前の導電性ポリマーの抵抗値は、10Ω/□であった。
【0046】
(比較例1)
実施例1で使用された導電性ポリマー(商品名:Baytron P)1w/o水ディスパーション液10mLとDMSO 1.1gとを混合して50〜100℃で乾燥し、その後、製膜操作を実施した。この導電性ポリマーの抵抗値を前記実施例1と同様にして測定したところ、10Ω/□であった。
【0047】
これら実施例1及び比較例1の結果から、この発明に係る導電性向上方法によると、劇的に抵抗値を低下させることができ、換言すると導電性を向上させることができる。しかもこの発明にかかる導電性向上方法で処理された導電性ポリマーは微粒子化されているので、製膜時の膜表面の平滑度の向上という利点があり、その利点を発揮して導電性高分子型コンデンサーの電極や、有機エレクトロルミネッセンスといった用途に好適に供されることができる。
【0048】
(実施例2、3)
実施例2においては、実施例1におけるDMSO 1.1gの代わりにNMP(N−メチルピロリドン)1.03gを用い、実施例3においては、実施例1におけるDMSO 1.1gの代わりにエチレングリコール1.11gを用いた外は前記実施例1と同様に実施した。
【0049】
その結果、実施例2として溶媒としてNMPを用いた場合の導電性ポリマーの導電率は0.741×10Ω/□、実施例3として溶媒としてエチレングリコールを用いた場合の導電性ポリマーの導電率は0.965×10Ω/□であった。実施例1、2、3の結果からすると、溶媒としてDMSOを用いるのが好ましいと言える。
【0050】
(実施例4)
前記実施例1における導電性ポリマー(商品名:Baytron P)を導電性ポリマー(商品名:Baytron PHCV4)に代えた他は前記実施例1と同様にして実施した。
【0051】
前記実施例1と同様にして処理後の導電性ポリマー(商品名:Baytron PHCV4)の抵抗値を測定したところ、その抵抗値は200Ω/□であった。また、処理前の導電性ポリマーの抵抗値は0.227×10Ω/□であった。
【0052】
(比較例2)
前記比較例1における導電性ポリマー(商品名:Baytron P)を導電性ポリマー(商品名:Baytron PHCV4)に代えた他は前記比較例1と同様にして実施した。
【0053】
前記実施例1と同様にして処理後の導電性ポリマー(商品名:Baytron PHCV4)の抵抗値を測定したところ、その抵抗値は10Ω/□であった。
【0054】
(実施例5、6)
実施例5においては、実施例4におけるDMSO 1.1gの代わりにNMP(N−メチルピロリドン)1.03gを用い、実施例6においては、実施例4におけるDMSO 1.1gの代わりにエチレングリコール1.11gを用いた外は前記実施例1と同様に実施した。
【0055】
その結果、実施例5として溶媒としてNMPを用いた場合の導電性ポリマーの導電率は0.830×10Ω/□、実施例6として溶媒としてエチレングリコールを用いた場合の導電性ポリマーの導電率は1.093×10Ω/□であった。実施例4〜6の結果からすると、溶媒としてDMSOを用いるのが好ましいと言える。
【0056】
(実施例7〜9)
実施例7〜9においては、実施例1における導電性ポリマー(商品名:Baytron P)1w/oの水ディスパーション液10mLの代わりにポリアニリン4〜8w/oの水ディスパーション液10mLを使用した外は前記実施例1〜3と同様に実施した。
【0057】
その結果、有機溶媒としてDMSOを採用する実施例7では導電性ポリマーの導電率は0.363×10Ω/□、有機溶媒としてNMPを採用する実施例8では導電性ポリマーの導電率は0.988×10Ω/□、有機溶媒としてエチレングリコールを採用する実施例9では導電性ポリマーの導電率は1.147×10Ω/□であった。
【0058】
これらの結果からすると、溶媒としてDMSOを用いるのが好ましく、また、ポリアニリンについても導電率の向上効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、この発明に係る高導電性化処理装置の概略図である。
【図2】図2は、耐圧容器内の状態を示す概略図である。
【図3】図3は、この発明に係る高導電性化処理装置の他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0060】
1 高導電性化処理装置
2 耐圧容器
2A 攪拌器
3 二酸化炭素ボンベ
3A ポンプ
3B バルブ
4 水貯留タンク
4A ポンプ
4B バルブ
5 バルブ
6 第2耐圧容器
7 バルブ
8 コイル状反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧容器内に、導電性ポリマーと水と前記導電性ポリマーに対する相溶性を有する有機溶剤と二酸化炭素とを収容し、前記二酸化炭素が超臨界状態となるように、前記耐圧容器内を加熱加圧することを特徴とする導電性ポリマーの導電性向上方法。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが、ポリスチレンスルホン酸の水溶液中で3,4−エチレンジオキシチオフェンを重合することにより得られる生成物及び/又はポリアニリンである前記請求項1に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、N−メチルピロリドン、及びN,N−ジメチルホルムアミドよりなる群から選択される少なくとも一種である前記請求項1又は2に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法。
【請求項4】
前記加熱加圧が、7〜25MPaに加圧しつつ、85〜110℃に加熱し、その温度及び圧力を0.5〜4時間にわたって維持することである前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性ポリマーの導電性向上方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−215422(P2009−215422A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60106(P2008−60106)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】