説明

導電性ポリマーの高仕事関数および高導電率組成物

高導電率および高仕事関数を有する組成物が提供される。本発明の組成物は、導電性ポリマーと過フッ素化ポリマー酸との水性分散液または水溶液を含む。本発明の導電性ポリマーは、共役モノマーまたはコモノマーと非フッ素化ポリマー酸とから製造することができ、これらの過フッ素化ポリマー酸は、パーフルオロエーテルスルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィン類から誘導することができる。このような組成物を具体化するデバイスもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に高導電率、高仕事関数の組成物に関し、より具体的には、このような組成物および電子デバイスにおけるそれらの使用に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本件出願は、米国特許法第119条(e)項の下、その全体が本明細書に参照により援用される、2006年12月29日出願の米国仮特許出願第60/878,033号の優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
有機電子デバイスは、活性層を含む製品のカテゴリーに定義される。このようなデバイスは、電気エネルギーを放射線に変換したり、電子的方法を介して信号を検出したり、放射線を電気エネルギーに変換したり、あるいは、1つまたは複数の有機半導体層を含んだりする。
【0004】
有機発光ダイオード(OLED)は、エレクトロルミネッセンスが可能な有機層を含む有機電子デバイスである。OLEDは、以下の構成を有することができる:
アノード/緩衝層/EL材料/カソード
通常、アノードは、たとえば、インジウム/スズ酸化物(ITO)などの、透明でありEL材料中に正孔を注入する能力を有するあらゆる材料である。場合により、アノードは、ガラスまたはプラスチックの基体上に支持されている。EL材料としては、蛍光性化合物、蛍光性およびリン光性の金属錯体、共役ポリマー、ならびにそれらの混合物が挙げられる。通常、カソードは、EL材料中に電子を注入する能力を有するあらゆる材料(たとえばCaまたはBaなど)である。緩衝層は、典型的には導電性ポリマーであり、アノードからEL材料層中への正孔の注入を促進する。緩衝層は、デバイス性能を促進する他の性質を有することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
改善された特性の緩衝材料が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、高沸点溶剤または高沸点溶剤と水との混合物に溶解された過フッ素化ポリマーを加えることによって製造された水性の導電性ポリマー分散体の導電率および仕事関数の同時増大を記載する。導電性ポリマーは、水中での共役モノマーと非フッ素化ポリマー酸との酸化重合によって製造される。高導電率および高仕事関数の導電性ポリマーは、他の用途の中でも、アノード、光電池、透明な導電性コーティング、キャパシタ、TaおよびAlのカソードとしてOLEDに有用である。
【0007】
導電性ポリマーと過フッ素化ポリマー酸とを含む水性分散液または水溶液を含む高導電率および高仕事関数の組成物が開示される。
【0008】
ある実施形態においては、本発明の導電性ポリマーは、共役モノマーまたはコモノマーと、少なくとも1つの非フッ素化ポリマー酸とから製造されたポリマーを含む。あるもっと特殊な実施形態においては、共役モノマーは、チオフェン類、セレノフェン類、チエノチオフェン類、およびチエノセレノフェン類から選択される。
【0009】
一実施形態においては、本発明の導電性ポリマーは、共役モノマーまたはコモノマーと、少なくとも1つの非フッ素化ポリマー酸とから製造されたポリマーを含む。共役モノマーは、3,4−エチレンジオキシチオフェンおよび3.4−エチレンジオキシセレノフェンからなる群から選択することができる。
【0010】
ある実施形態においては、本発明の過フッ素化ポリマー酸は、パーフルオロエーテルスルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィン類から選択される。さらなる実施形態においては、過フッ素化ポリマー酸は高分子量の過フッ素化スルホンアミド類から選択される。その上さらなる実施形態においては、過フッ素化ポリマー酸は、TFE(テトラフルオロエチレン)とPSEPVE(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸)とのコポリマーである。もっとさらなる実施形態においては、本発明の組成物は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸を含む。
【0011】
少なくとも100S/cmの導電率を有する組成物が提供される。
【0012】
少なくとも5.1eVの仕事関数を有する組成物が提供される。
【0013】
本開示において提示される組成物を含むデバイス部品およびデバイスもまた提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
水性の導電性ポリマー分散体は、一般に非フッ素化ポリマー酸の存在下での共役モノマーの酸化重合によって製造される。導電性ポリマーは低導電率および低仕事関数を有し、それは、多数の用途向けのそれらの使用を制限する。
【0015】
本開示は、高導電率および高仕事関数を達成するための、水性ポリマー分散体への過フッ素化ポリマー酸(PFA)の添加技術を提示する。PFAは先ず、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノンなどの、高沸点の極性溶剤に溶解させるかまたは分酸させることができる。高沸点溶剤の沸点は好ましくは120℃より上である。PFAはまた先ず、高沸点の極性溶剤の混合物に溶解させるかまたは分酸させることができる。この添加はまた、先ず高沸点溶剤を水性ポリマー分散体に加え、続いて水中のPFA溶液または分散液を加えることによって、あるいは逆の順番の添加によって行うことができる。
【0016】
水性の導電性ポリマー分散体の最初の導電率は、PFAポリマーの添加後に100S/cm超の導電率および5.1eV超の仕事関数を達成するために少なくとも0.1S(ジーメンス)/cmであるべきである。本開示において伝達される情報の目的のためには、PFAの非フッ素化ポリマー酸に対する酸当量比は、1以下であるべきである。
【0017】
本開示においては、共役モノマーとしては、チオフェン、セレノフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシセレノフェン、チエノチオフェン、チエノセレノフェンなど、ピロール類、およびそれらのコモノマーが挙げられる。ポリマー酸は過フッ素化されている。パーフルオロポリマー酸(PFA)は好ましくはパーフルオロエーテルスルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィンである。水中のこれらの酸のpKaは好ましくは−5未満である。パーフルオロポリマー酸としては、Nafion(登録商標)ポリマー、TFE(テトラフルオロエチレン)とPSEPVE(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸)とのコポリマーに対する、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,Delaware)の登録商標が挙げられる。この酸としてはまた、高分子量の過フッ素化スルホンイミドが挙げられる。
【0018】
本開示の実施形態の例示のためには、水性のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、PEDOT/PSSA導電性ポリマー分散体にNafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)が加えられる。例示されてきたように、100S/cm超の導電率および5.1eV超の仕事関数。
【0019】
高導電率および高仕事関数の導電性ポリマー組成物は、ITOなしのアノードとして単独で使用することができる。それはまた、タンタルおよびアルミニウムキャパシタにおけるポリマー固体カソードとしても有用である。それはまた、光電池用の透明なコンダクタおよび透明なコーティングとしても有用であるはずである。
【0020】
A)試料作製および仕事関数測定の一般手順
実施例および比較例に例示される材料を、30mm×30mmのガラス/インジウム/スズ半導性酸化物(ITO)基体上に2,000rpmの回転速度で1分間スピンコーティングした。ITO/ガラス基体は、100〜150nmのITO厚さを有する中心部における15mm×20mmのITO領域からなる。15mm×20mmのITO領域の1つのコーナーにおいて、ガラス/ITOの縁端部に延在するITOフィルム表面は、2つのケルビンプローブ電極のうちの1つとの電気接点として機能する。スピンコーティングの前に、ITO/ガラス基体を清浄にし、続いてそのITO側を酸素/プラズマで15分間処理した。水性の試料分散体でスピンコーティングした後、延在するITOフィルムのコーナー上に堆積した層を、水でぬらした綿帯状物チップで除去した。露出したITOパッドを、ケルビンプローブの2つの電極のうちの1つと接触を形成するために使用した。次に、堆積したフィルムを空気中で200℃にセットしたホットプレートで10分間乾燥させた。次に、およそ30nm厚さの範囲の乾燥フィルム試料を、窒素で満たされたガラス容器中に入れ、その後測定まで蓋をしたままにした。
【0021】
エネルギーポテンシャル測定については、試料の測定前に、基準として周囲雰囲気でエージングした金フィルムを先ず測定した。同じ大きさのガラス上の金フィルムを、正方形の鋼製容器の底部に切り取られた空洞の中に入れた。この空洞の側面には、試料片を適所にしっかりと保持するための4つの保持クリップが存在する。1つの保持クリップには、電線が取り付けられる。電線を取り付けられた保持クリップを、ケルビンプローブの2つの電極のうちの1つと接触を形成するためにコーナーでITO上に固定した。金フィルムを上向きに配置し、鋼製蓋の中央から突出するケルビンプローブチップを、金フィルム表面の中央の若干上まで下げた。次に、4つのコーナーにおいて、正方形の鋼製容器上へ蓋をしっかりとネジで締めた。正方形の鋼製容器の側面の孔に、ケルビンプローブセルに窒素を通過させるためのチューブを接続し、窒素出口には、周囲圧力を維持するための鋼製針が挿入されている隔壁で蓋をした。次に、プローブの設定をそのプローブに最適なものにし、チップの高さだけを測定中に調節した。ケルビンチューブチップは、以下のパラメータを有するMcAllister KP6500 Kelvin Probeメータにまた接続された第2の電極の一部であった:1)振動数(Hz):230;2)振幅(任意):20;3)DCオフセット(ボルト):試料ごとに変動;4)バッキング電位(backing potential)上限(ボルト):2;5)バッキング電位下限(ボルト):−2;6)走査ステップ:1;7)トリガー遅延(フルサイクル当たりの度):0;8)取得(A)/データ(D)点:1024;9)A/D比率(Hz):19.0サイクルにおいて12405;10)D/A:遅延(ミリ秒):200;11)セットポイント勾配(単位なし):0.2;12)ステップサイズ(ボルト):0.001;13)最大勾配偏移(maximum gradient deviation)(ボルト):0.001。トラッキング勾配(tracking gradient)が安定した直後に、金フィルムとプローブチップとの間の接触電位差またはCPD(ボルト単位で表現)を記録した。試料のエネルギーポテンシャルの計算のための信頼性のある基準を確実にするために金とプローブチップとのCPDを定期的にチェックした。プローブチップでの試料のCPD測定のために、金フィルム試料と同じ方法で各試料を空洞中に取り付けた。試料と電気接触を形成する保持クリップについて、露出したITOパッドと良好な電気接触が形成されることを確実にするように十分に注意を払った。CPD測定の間ずっと、プローブチップを乱さないようにしながら少量の窒素をセル内に流した。試料のCPDを記録した後、試料のCPDを4.7eVと金のCPDとの差に加えることによって試料の仕事関数を計算した。4.7eVは、周囲雰囲気でエージングした金フィルムの仕事関数である[Surface Science、316、(1994)、P380]。材料の測定された仕事関数は、したがって、この材料の表面から電子を除去するために必要なエネルギーとして測定される。
【0022】
B)フィルム試料作製、4プローブ電気抵抗測定および導電率の計算の一般手順
各分散体試料の1滴を、3インチ×1インチ顕微鏡スライド上に広げてスライドの2/3を被覆した。過剰の液体を、スライドの1つの縁端部に向けて傾けてティシューによって吸い上げた。液体の滑らかな均一の層を確保した後、室温での初期乾燥のために平らな表面上にスライドを置いた。次に、スライドを200℃にセットされたホットプレート上に置いた。ホットプレートが表面温度計でモニターされるこの温度に達した後、それをこの温度に追加の5分間保った。全体の操作は空気中で行った。スライドをホットプレートから取り除き、フィルムをかみそりの刃で長いストリップに切り取った。このストリップの幅は0.2cm〜0.7cmの範囲であり、長さは約3cmであった。次に、銀ペーストをストリップの長さに垂直に塗装して4つの電極を形成した。2つの内部の平行電極は約0.3cm〜0.5cm離れており、Keithleyモデル225電流源(Current Source)によって供給される既知の電流が2つの他の平行電極に印加された場合の電圧の測定のためのKeithleyモデル616電位計に接続された。室温で得られた一連の相当する電流/電圧データを、オームの法則に従うかどうかを見るために記録した。実施例および比較例における試料はすべてオームの法則に従い、相当する電流/電圧データについて多かれ少なかれ同一の抵抗を与えた。測定を行った後、2つの内部電極における面積を厚さに対してプロフィルメータで測定した。抵抗、厚さ、2つの内部電極の分離長さおよびフィルムストリップの幅は既知であるので、次に、導電率を計算する。導電率の単位はS(ジーメンス)/cmとして表される。
【実施例】
【0023】
比較例1
本比較例は、導電性のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、PEDOT/ポリ(スチレンスルホン酸)、PSSAの導電率および仕事関数を例示する。
【0024】
PEDOT−PSSAは周知の導電性ポリマーである。水に分散されたこのポリマーは、Baytron(登録商標)−P(H.C.Starckの登録商標)の商品名の下に幾つかの銘柄でH.C.Starck GmbH(Leverkuson、Germany)から商業的に入手可能である。Starck社から購入した、市販の水性分散体製品の1つであるBaytron(登録商標)−P HCV4を導電率および仕事関数のベースラインを確定するために使用した。水中のPEDOT/PSSAであるはずである、Baytron(登録商標)−P HCV4試料を、1.01%(w/w)固体分を有するように重量測定法で測定した。製品カタログによれば、PEDOT:PSSAの重量比は1:2.5である。
【0025】
PEDOT−PSSAの粘度は非常に高く、それ故、均一なフィルムを作製する便宜上脱イオン水を使用して粘度を下げた。2.5026gのBaytron(登録商標)−P HCV4に2.5106gの脱イオン水をゆっくり加えた。この希釈は、PEDOT−PSSA固形分を約0.50%(w/w)に下げた。次に、この混合物を振盪機で2時間撹拌して十分な混合を確実にした。導電率および仕事関数測定のためのフィルム試料作製およびフィルム焼き付けは、両方の一般手順に記載されている。仕事関数は4.97eVであると測定された。4つのフィルム試料の導電率は6.9、13.4、5.3、および14.4S/cmであると測定された。仕事関数は非常に低く、約0.5〜0.6eV高い仕事関数を示す、実施例におけるものに匹敵する。
【0026】
比較例2
本比較例は、Baytron(登録商標)−P HCV4の導電率の増加へのエチレングリコール、高沸点溶剤の影響を例示するが、仕事関数には影響しないことを例示する。
【0027】
水のみを使用する比較例1とは違って、本比較例は、水中のエチレングリコールのおよそ10%溶液を使用した。この10%溶液は、0.9996gのエチレングリコールを9.0098gの水に加えることによって作製した。2.53gのこのエチレングリコール/水溶液を2.5424gのHCV4にゆっくり加えた。この量の溶液はまた、PEDOT−PSSAを約0.51%に下げた。十分な混合を確実にするためにこの混合物を振盪機で2時間撹拌した。エチレングリコール/水溶液のこの量は、希釈されたHCV4中の5.0%(w/w)のエチレングリコールを表す。導電率測定のためのフィルム作製は、一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は303.14S/cm、および223.0S/cmであると測定された。この導電率データは、H.C.Starck GmbHによって同社のウェブサイトに引用されているデータと一致しており、そのサイトで彼らは、高沸点溶剤である5%のジメチルスルホキシド(DMSO)を加えることによって200S/cmの最小導電率を報告している。より直接的な比較は、DMSOを使用した比較例3に示される。エチレングリコール、ジメチルスルホキシドなどの高沸点溶剤がPEDOT−PSSAの導電率を大きく高め得ることは公開技術分野では周知である。
【0028】
同じ量の各成分および同じレシピに従って調製した類似の混合物を仕事関数測定のために使用した。それは4.95eVの仕事関数を有すると測定された。導電率は、水のみの添加と比較した場合に10〜20倍増加したが、仕事関数は、水のみが稀釈のために使用された比較例1におけるそれと同じもののままである。仕事関数は非常に低く、約0.5eV〜0.6eV高い仕事関数を示す、実施例におけるものに匹敵する。
【0029】
比較例3
本比較例は、導電率の増加へのジメチルスルホキシド、高沸点溶剤の影響を例示するが、Baytron(登録商標)−P HCV4の仕事関数には影響しないことを例示する。
【0030】
水のみを使用する比較例1とは違って、本比較例は、水中のジメチルスルホキシド(DMSO)のおよそ10%溶液を使用した。この10%溶液は、1.0034gのDMSOを9.0033gの水に加えることによって作製した。3.0097gのこの溶液を3.0196gのHCV4にゆっくり加えた。この量の溶液はまた、PEDOT−PSSAを約0.51%に下げた。十分な混合を確実にするためにこの混合物を振盪機で2時間撹拌した。DMSO/水溶液のこの量は、希釈されたHCV4中の5.0%(w/w)のDMSOを表す。導電率測定のためのフィルム作製は、一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は、それぞれ、219.2S/cm、および307.0S/cmであると測定された。この導電率データは、H.C.Starck GmbHによって同社のウェブサイトに引用されているデータと一致しており、そのサイトで彼らは、5%のジメチルスルホキシド(DMSO)を加えることによって200S/cmの最小導電率を報告している。
【0031】
上に示されたものと同じ量の各成分および同じレシピに従って調製した類似の混合物を仕事関数測定のために使用した。それは4.97eVの仕事関数を有すると測定された。導電率は、水のみの添加と比較した場合に10〜20倍増加したが、仕事関数は同じもののままである。仕事関数は非常に低く、約0.5eV〜0.6eV高い仕事関数を示す、実施例におけるものに匹敵する。
【0032】
実施例1
本実施例は、エチレングリコール中に含有されるNafion(登録商標)ポリマーをBaytron(登録商標)−P HCV4に加えることによる、高導電率を失わない仕事関数の増大を例示する。
【0033】
Nafion(登録商標)ポリマー、パーフルオロポリマー酸、TFE(テトラフルオロエチレン)とPSEPVE(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホン酸)とのコポリマーについて。本実施例において使用される、Nafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)は、10℃より下の温度で真空中Nafion(登録商標)の水性分散体から水をゆっくり除去することによって得られた。Nafion(登録商標)の水性分散体は、1050のEW(当量:1個のスルホン酸基当たりのポリマーの重量)を有するP−(TFE/PSEPVE)を水だけの中でおよそ270℃に加熱することによって調製した。水性Nafion(登録商標)分散体は、水中に25%(w/w)のP−(TFE/PSEPVE)を有し、P−(TFE/PSEPVE)を集めるために水を除去する前に脱イオン水でおよそ12%に稀釈された。集めたP−(TFE−PSEPVE)固形分は、多くの高極性溶剤またはこの溶媒と水との混合物に可溶性であるかまたは分散性である。あらゆるパーフルオロポリマー酸(PFA)は、PFAの「凝集温度」未満の温度で水性または非水性の分散液または溶液から液体媒体を除去することによって得ることができることが指摘されるべきである。「凝集温度」とは、水、他の極性溶剤または極性溶剤の混合物に再分散できない安定な固体にPFAの乾燥固体が硬化する温度を意味する。
【0034】
Baytron(登録商標)−P HCV4と混合する前に、Nafion(登録商標)ポリマー/エチレングリコール溶液およびエチレングリコール/水溶液を先ず調製した。後者の溶液は、先の比較例において行ったようにHCV4のPEDOT−PSSA固形分%を下げる、それ故その粘度を下げるためのものであった。ガラスバイアル中で1050のEWを有する0.7541gのP−(TFE−PSEPVE)を9.2534gの水に加えた。この混合物を、P−(TFE−PSEPVE)固形分がすべて溶解するまでおよそ120℃に加熱した。エチレングリコール溶液中のP−(TFE−PSEPVE)の重量%(w/w)は7.51%である。水中のおよそ10%(w/w)のエチレングリコールは、0.9996gのエチレングリコールを9.0098gの水に加えることによって作製した。先ず5.0833gのBaytron(登録商標)−P HCV4に0.5872gのポリ(TFE−PSEPVE)/エチレングリコール溶液をゆっくり加えた。この混合物に、5.5310gのエチレングリコール/水溶液を加えてPEDOT−PSSAポリマー固形分%を下げ、それは0.46%になった。水/エチレングリコール溶液とP−(TFE−PSEPVE)/エチレングリコールとの総計量は、HCV4の最終調合物中の9.8%(w/w)のエチレングリコールを表す。PEDOT−PSSAおよびP−(TFE−PSEPVE)の量に基づいて、P−(TFE−PSEPVE)のPSSAに対する酸当量比は0.21である。この比は、所望の導電率および仕事関数の全体的な考察のためにPSSAに対してP−(TFE−PSEPVE)の最適濃度を特定するために使用される。
【0035】
導電率測定のためのフィルム作製は一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は357.8S/cm、および291.1S/cmであると測定された。上に示されたものと同じ量の各成分および同じレシピに従って調製した類似の混合物を仕事関数測定のために使用した。それは5.54eVの仕事関数を有すると測定された。この仕事関数は、比較例1、2および3におけるものより約0.5eV高い。導電率は比較例2および3におけるものとほぼ同じもののままであることもまた指摘されるべきである。
【0036】
実施例2
本実施例は、ジメチルスルホキシド中に含有されるより多い量のNafion(登録商標)ポリマーをBaytron(登録商標)−P HCV4に加えることによる、高導電率を失わない仕事関数の増大を例示する。
【0037】
実施例1に使用したNafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)をここで使用した。Baytron(登録商標)−P HCV4と混合する前に、先ずNafion(登録商標)ポリマー/ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液およびDMSO/水溶液を調製した。後者の溶液は、先の比較例および実施例において行ったようにHCV4のPEDOT−PSSA固形分%を下げる、それ故その粘度を下げるためのものであった。ガラスバイアル中で1050のEWを有する1.0510gのP−(TFE−PSEPVE)を8.9686gの水に加えた。この混合物を、P−(TFE−PSEPVE)固形分がすべて溶解するまでおよそ120℃に加熱した。DMSO溶液中のP−(TFE−PSEPVE)の重量%(w/w)は10.49%である。水中のおよそ10%(w/w)のDMSOは、1.0034gのDMSOを9.0035gの水に加えることによって作製した。先ず2.5048gのBaytron−P HCV4に2.5192gのDMS/水溶液をゆっくり加えてPEDOT−PSSA固形分%を下げ、それは0.48%になった。この混合物に、0.2023gのDMSO/P−(TFE−PSEPVE)溶液を加えた。水/DMSO溶液とP−(TFE−PSEPVE)/DMSOとの総計量は、HCV4の最終調合物中の8.3%(w/w)のDMSOを表す。PEDOT−PSSAおよびP−(TFE−PSEPVE)の量に基づいて、P−(TFE−PSEPVE)のPSSAに対する酸当量比は0.21である。この比は、所望の導電率および仕事関数の全体的な考察のためにPSSAに対してP−(TFE−PSEPVE)の最適濃度を特定するために使用される。
【0038】
導電率測定のためのフィルム作製は一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は267.3S/cm、および231.3S/cmであると測定された。このデータは、P−(TFE−PSEPVE)ポリマーをHCV4に加えても依然としてその導電率を保持することを示す。この材料の仕事関数は測定しなかったが、実施例1に提示された5.54eVに似た値が予期されるはずであり、実施例3におけるそれ(5.64eV)より若干低いだろう。
【0039】
実施例3
本実施例は、より多い(実施例1および2のそれと比べて)量のNafion(登録商標)ポリマーをBaytron(登録商標)−P HCV4に加えることによる、高導電率を失わない仕事関数の増大を例示する。
【0040】
実施例1に使用したNafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)をここで使用した。Baytron(登録商標)−P HCV4と混合する前に、先ずNafion(登録商標)ポリマー/エチレングリコール溶液およびDMSO/水溶液を調製した。後者の溶液は、先の比較例および実施例において行ったようにHCV4のPEDOT−PSSA固形分%を下げる、それ故その粘度を下げるためのものであった。ガラスバイアル中で1050のEWを有する0.7541gのP−(TFE−PSEPVE)を9.2534gの水に加えた。この混合物を、P−(TFE−PSEPVE)固形分がすべて溶解するまでおよそ120℃に加熱した。DMSO溶液中のP−(TFE−PSEPVE)の重量%(w/w)は7.51%である。水中のおよそ10%(w/w)のDMSOは、1.0034gのDMSOを9.0035gの水に加えることによって作製した。先ず2.5066gのBaytron−P HCV4に3.0132gのDMS/水溶液をゆっくり加えてPEDOT−PSSA固形分%を下げ、それは0.48%になった。この混合物に、0.5666gのP−(TFE−PSEPVE)/エチレングリコール溶液を加えた。水/DMSO溶液とP−(TFE−PSEPVE)/エチレングリコールとの総計量は、HCV4の最終調合物中の14.2%(w/w)の合わせたDMSOとエチレングリコールとを表す。PEDOT−PSSAおよびP−(TFE−PSEPVE)の量に基づいて、P−(TFE−PSEPVE)のPSSAに対する酸当量比は0.41である。この比は、所望の導電率および仕事関数の全体的な考察のためにPSSAに対してP−(TFE−PSEPVE)の最適濃度を特定するために使用される。
【0041】
導電率測定のためのフィルム作製は一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は153.9S/cm、および191.7S/cmであると測定された。このデータは、P−(TFE−PSEPVE)ポリマーをHCV4に加えても依然としてその導電率を有することを示すが、P−(TFE−PSEPVE)のPSSAに対する当量比が0.41よりはるかに高くなる場合には地歩を失い始めるかもしれない。上に示されたものと同じ量の各成分および同じレシピに従って調製した類似の混合物を仕事関数測定のために使用した。それは5.64eVの仕事関数を有すると測定された。この仕事関数は、比較例1、2および3におけるものより約0.6eV高く、P−(TFE−PSSA)のPSSAに対する0.41の当量比が、0.21の当量比より若干高い仕事関数を与えることを示す。これは再び、当量比を1より下に、好ましくは0.6より下に保つべきであることを指摘している。
【0042】
比較例4
本比較例は、高沸点溶剤の添加での導電率増大のための導電性ポリマーの最小導電率を例示する。
【0043】
本比較例においては、Baytron(登録商標)−P PH500、H.C.Starck GmbH(Leverkuson,Germany)製のPEDOT−PSSAの水性分散体を、高沸点溶剤で100S/cmより高い導電率に達するための最小導電率要件を確定するために使用した。水中のPEDOT/PSSAであるはずである、Baytron(登録商標)−P HCV4試料を、1.0%(w/w)固体分を有するように重量測定法で測定した。製品カタログによれば、PEDOT:PSSAの重量比は1:2.5である。
【0044】
Baytron(登録商標)−P PH500の粘度はBaytron(登録商標)−P HCV4のそれよりはるかに低く、それ故、導電率測定のための薄いフィルムを作製するために稀釈する必要はない。2つのフィルム試料の導電率は0.85および0.53S/cmであると測定された。この導電率はまた、Baytron(登録商標)−P HCV4のそれよりもはるかに低い。しかしながら、下に示される実施例4は、エチレングリコールに溶解したNafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)を加えることによる導電率の増加を実証する。
【0045】
実施例4
本実施例は、エチレングリコール中に含有されるNafion(登録商標)ポリマーを加えることによるBaytron(登録商標)−P PH500の導電率の増大を例示する。
【0046】
実施例1に使用したNafion(登録商標)ポリマー、P−(TFE−PSEPVE)をここで使用した。Baytron(登録商標)−P PH500と混合する前に、先ずNafion(登録商標)ポリマー/エチレングリコール溶液を調製した。ガラスバイアル中で1050のEWを有する1.0512gのP−(TFE−PSEPVE)を8.9517gのエチレングリコールに加えた。この混合物を、P−(TFE−PSEPVE)固形分がすべて溶解するまでおよそ120℃に加熱した。エチレングリコール溶液中のP−(TFE−PSEPVE)の重量%(w/w)は10.51%である。先ず5.0012gのBaytron(登録商標)−P PH500に0.3680gのP−(TFE−PSEPVE)/エチレングリコール溶液をゆっくり加えた。P−(TFE−PSEPVE)/エチレングリコールのこの量は、PH500の最終調合物中の6.13%(w/w)のエチレングリコールを表す。PEDOT−PSSAおよびP−(TFE−PSEPVE)の量に基づいて、P−(TFE−PSEPVE)のPSSAに対する酸当量比は0.19である。
【0047】
導電率測定のためのフィルム作製は一般手順に記載されている。2つのフィルム試料の導電率は288.7S/cm、および449.4S/cmであると測定された。このデータは、P−(TFE−PSEPVE)ポリマーをPH500に加えるとPH500の導電率が大きく増大したことを示す。このデータは、100S/cmより大きいまでの導電率増大のための最小導電率が0.1S/cmより大きいものであるべきであることを示す。この材料の仕事関数は測定しなかったが、実施例1に提示された5.54eVに似た値が予期されるはずであり、実施例3におけるそれ(5.64eV)より若干低いだろう。
【0048】
概要または実施例において前述したすべての行為が必要なわけではなく、特定の行為の一部は不要である場合があり、1つまたは複数のさらに別の行為が、前述の行為に加えて実施される場合があることに留意されたい。さらに、行為が列挙されている順序は、必ずしもそれらが実施される順序ではない。
【0049】
以上の明細書において、具体的な実施形態を参照しながら本発明の概念を説明してきた。しかし、当業者であれば、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱せずに種々の修正および変更を行えることが理解できよう。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく説明的なものであると見なすべきであり、すべてのこのような修正は本発明の範囲内に含まれることを意図している。
【0050】
特定の実施形態に関して、利益、その他の利点、および問題に対する解決法を以上に記載してきた。しかし、これらの利益、利点、問題の解決法、ならびに、なんらかの利益、利点、または解決法を発生させたり、より顕著にしたりすることがある、あらゆる特徴が、特許請求の範囲のいずれかまたはすべての重要、必要、または本質的な特徴であるとして解釈すべきではない。
【0051】
明確にするために、別々の実施形態の状況において本明細書に記載されている特定の特徴は、1つの実施形態の中で組み合わせても提供できることを理解されたい。逆に、簡潔にするために、1つの実施形態の状況において記載される種々の特徴も、別々に提供したり、あらゆる副次的な組み合わせで提供したりすることができる。さらに、範囲で述べられる値に関しての言及は、当該範囲内の各値およびあらゆる値を含む。
【0052】
ある実施形態においては、本明細書における本発明は、本発明の組成物または方法の基本的なおよび新規な特性に実質的に影響を及ぼさないあらゆる要素またはプロセス工程を除外するとして解釈することができる。さらに、ある実施形態においては、本発明は、本明細書に明記されないあらゆる要素またはプロセス工程を除外するとして解釈することができる。
【0053】
本明細書において明記される種々の範囲内の数値が使用される場合、記載の範囲内の最小値および最大値の両方の前に単語「約」が付けられているかのように近似値として記載されている。この方法では、記載の範囲よりもわずかに上およびわずかに下のばらつきを使用して、その範囲内の値の場合と実質的に同じ結果を得ることができる。また、これらの範囲の開示は、ある値の一部の成分を異なる値の一部の成分と混合した場合に生じうる分数値を含めて、最小平均値と最大平均値との間のすべての値を含む連続した範囲であることを意図している。さらに、より広い範囲およびより狭い範囲が開示される場合、ある範囲の最小値を別の範囲の最大値と一致させること、およびその逆のことが本発明の意図の範囲内となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーと過フッ素化ポリマー酸とを含む水性分散液または水溶液を含む高導電率および高仕事関数の組成物。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが共役モノマーまたはコモノマーと、少なくとも1つの非フッ素化ポリマー酸とから製造されたポリマーを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記共役モノマーがチオフェン類、セレノフェン類、チエノチオフェン類、およびチエノセレノフェン類から選択される請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記共役モノマーが3,4−エチレンジオキシチオフェンおよび3,4−エチレンジオキシセレノフェンからなる群から選択される請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記過フッ素化ポリマー酸がパーフルオロエーテルスルホン酸側鎖を有するパーフルオロオレフィン類から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記過フッ素化ポリマー酸が高分子量の過フッ素化スルホンアミド類から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記導電率が少なくとも100S/cmである請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記仕事関数が少なくとも5.1eVである請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記過フッ素化ポリマー酸がTFE(テトラフルオロエチレン)とPSEPVE(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン)スルホン酸とのコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸を含む請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。
【請求項12】
請求項6に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。
【請求項13】
請求項7に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。
【請求項14】
請求項8に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。
【請求項15】
請求項9に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。
【請求項16】
請求項10に記載の組成物を含む少なくとも1つの層を含むデバイス。

【公表番号】特表2010−514904(P2010−514904A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544121(P2009−544121)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/026512
【国際公開番号】WO2008/082663
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】