説明

導電性ローラ

【課題】被覆層にクラックのない導電性ローラを提供する。
【解決手段】導電性支持体と、その外周面上に弾性層と、該弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して形成した被覆層を有する導電性ローラにおいて、前記塗工液を塗布する直前のローラ前駆体の弾性層が、水分を0.8質量%以上5.0質量%以下含有し、かつ、下記式(1)の関係を満たす温度T2での加熱処理による、下記式(2)で示される外径変化率DR(%)が0.2%以上2.0%以下であることを特徴とする導電性ローラ。
5℃≦T1<T2≦200℃ (1);DR=100×[(φT2−φT1)/φT2] (2)
φT1は、塗工液塗布直前のローラ前駆体の温度T1における外径を、φT2は、温度T2で加熱処理した直後のローラ前駆体の外径を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、ファクシミリ及び複写機等の電子写真方式を採用した画像形成装置における導電性ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を採用した画像形成装置の帯電装置としてはコロナ帯電器が使用されてきたが、近年、これに代って接触帯電装置が実用化されている。これは、低オゾン、低電力を目的としており、中でも特に帯電部材として導電性ローラを用いたローラ帯電方式の接触帯電装置が、帯電の安定性という点で好ましく、広く用いられている。
【0003】
ローラ帯電方式の接触帯電装置では、導電性を有する弾性ローラを被帯電体に加圧当接させ、これに電圧を印加することによって放電により被帯電体への帯電を行う。ローラ帯電方式の接触帯電装置には、DC電圧を印加することで帯電を行うDC帯電方式と、DC電圧にAC成分を重畳した電圧を印加することで帯電を行うAC帯電方式とがある。具体的には、DC帯電方式の接触帯電装置では、放電開始電圧(有機感光体(OPC感光体と表す)に対して導電性ローラを加圧当接させた場合には、約550V)に、必要とされる感光体表面電位Vdを足したDC電圧を印加する。一方、AC帯電方式の接触帯電装置では、環境・耐久変動等による電位の変動を改善する目的で、必要とされる感光体表面電位Vdに相当するDC電圧に放電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を持つAC成分を重畳した電圧を印加する(例えば、特許文献1参照。)。これは、AC電圧による電位の均し効果を目的としたものであり、被帯電体の電位はAC電圧のピークの中央である電位Vdに収束し、環境等の外乱に影響されることはなく、接触帯電方式として優れた方法である。
【0004】
しかしながら、AC帯電方式では直流電圧印加時における放電開始電圧(VTHと表す)の2倍以上のピーク間電圧である高圧の交流電圧を重畳させるため、直流電源とは別に交流電源が必要となり、装置自体のコストアップを招く。更には、交流電流を多量に消費することにより、導電性ローラ及び感光体の耐久性が低下し易いという問題点があった。
【0005】
これらの問題点は、導電性ローラに直流電圧のみを印加して帯電を行うDC帯電方式により解消されるものの、導電性ローラに直流電圧のみを印加する方式においては、導電性ローラの帯電均一性向上やトナー付着性の更なるレベルアップが要求される。つまりDC帯電方式は被覆層の膜厚ムラや表面の微細なクラック等がAC帯電方式に比べ、画像不良として非常に現れやすい傾向にある。特に微細なクラック等の表面欠陥は0.1mm程度の大きさでも画像欠陥として現れる場合があり、その対策として、被覆層の結着樹脂の柔軟性、硬度等の調整によりクラックの発生を抑える手法が主に採られている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【0006】
クラック抑制の目的で、結着樹脂の架橋密度を上げる等の手段を用いて被覆層の強度を上げると、導電性ローラの汚れ付着は増大する傾向にある。このように、両者を満足させる被覆層の処方は限られてくるというのが実状であり、被覆層の処方以外のクラックまたは汚れ付着を抑制する手段が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開昭57− 5048号公報
【特許文献2】特開平 9−211934号公報
【特許文献3】特開平10−186835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して被覆層を形成する際の、弾性層の熱膨張による被覆層のクラックの発生がない導電性ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、導電性支持体と、その外周面上に弾性層と、該弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して形成した被覆層とを有する導電性ローラにおいて、
前記塗工液を塗布する直前の、前記導電性支持体及び前記弾性層を有するローラ前駆体の弾性層が、水分を0.8質量%以上5.0質量%以下含有し、かつ、前記ローラ前駆体の、下記式(1)の関係を満たす温度T2での加熱処理による、下記式(2)で示される外径変化率DR(%)が、0.2%以上2.0%以下であることを特徴とする導電性ローラによりその目的を達成する。
5℃≦T1<T2≦200℃ (1)
DR=100×[(φT2−φT1)/φT2] (2)
(式(1)中、T1は、前記塗工液を塗布する直前の前記ローラ前駆体の温度を示し、T2は、前記ローラ前駆体の前記加熱処理時の温度を示し、該温度T2は、前記被覆層を形成するときの前記加熱硬化温度と等しい。式(2)中、φT1は、前記塗工液を塗布する直前の温度T1における前記ローラ前駆体の外径を示し、φT2は、前記温度T2での加熱処理直後の前記ローラ前駆体の外径を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、上述したように、被塗工物である前記ローラ前駆体に塗工液を塗布する直前の弾性層の水分の含有量を0.8質量%以上5.0質量%以下とする。かつ、前記式(2)で示される外径変化率DR(%)を0.2%以上2.0%以下とする。このようにすることで、加熱硬化して被覆層を形成する際の弾性層の熱膨張に起因する被覆層のクラックの発生がない導電性ローラを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)導電性ローラ
上記本発明における導電性支持体と、該導電性支持体の外周面上に形成された弾性層を有するローラ前駆体の一般的な構成を図1に示す。該ローラ前駆体は、導電性支持体1aと、該導電性支持体1aの外周面上に形成された弾性層1bから構成されている。
【0012】
本発明の導電性ローラの実施形態について例を挙げて説明する。図2に本発明の導電性ローラの実施形態例における概略断面図を示す。図2(a)に示したように導電性ローラは、導電性支持体1a、該導電性支持体1aの外周面上に形成された弾性層1bと該弾性層1bの外周面上に形成された被覆層1cからなる2層を有する構成であってもよい。また、図2(b)に示すように、導電性支持体1a上に、弾性層1b、抵抗層1d及び被覆層1cからなる3層を有する構成としてもよい。また図2(c)に示すように、導電性支持体1a上に、弾性層1b、抵抗層1d、第2の抵抗層1e及び被覆層1cの4層を設けた構成としてもよい。さらに、導電性支持体1a上に、4層以上の層を形成した構成としてもよい。
【0013】
本発明に用いられる導電性支持体1aは、導電性を有する材料からなるものであればよく、具体的には、例えば、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム及びニッケル等の導電性金属材料の丸棒又は円筒管を用いることが好ましい。更に、これらの金属材料の丸棒又は円筒管の表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わないが、導電性を損なわないことが必要である。
【0014】
本発明の導電性ローラにおいては、弾性層1bは被帯電体としての電子写真感光体に対する給電や、電子写真感光体に対する良好な均一密着性を確保するために適当な導電性と弾性を持たせる。また、導電性ローラと電子写真感光体との均一密着性を確保するために、弾性層1bは、弾性層1bを研磨によって中央部を太く、両端部に行くほど細くなる形状、いわゆるクラウン形状に形成することが好ましい。一般に、導電性ローラは、導電性支持体1aの両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されているので、中央部の押圧力が小さく、両端部ほど大きくなっている。導電性支持体の真直度が十分であれば問題ないが、十分でない場合には中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じてしまう場合がある。一般に使用されている導電性ローラの形状がクラウン形状であるのは、これを防止するためである。
【0015】
本発明における弾性層1bは、導電性を有する。本発明における弾性層1bの導電性は、ゴム等の弾性材料中に導電剤を添加することによって調整することができる。本発明に使用することのできる導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト及び導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤、アルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を挙げることができる。弾性層1bの導電性は、これら導電剤を適宜添加することにより、1010Ωcm未満の体積抵抗率に調整されるのがよい。
【0016】
弾性層1bを構成する弾性材料としては、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDMと表す)、スチレンブタジエンゴム(SBRと表す)、シリコンーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IRと表す)、ブタジエンゴム(BRと表す)、ニトリルブタジエンゴム(NBRと表す)及びクロロプレンゴム(CRと表す)等の合成ゴム、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等も挙げられる。
【0017】
弾性層1bの形成方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて形成することができる。例えば、上記の弾性材料、導電剤等の原材料を混合して、押出成形や射出成形、圧縮成形等の公知の方法で弾性層1bを形成することができる。また、弾性層1bは、導電性支持体の外周面上に直接形成してもよいし、弾性層1bをチューブ形状に成形しこれに導電性支持体を圧入して被覆させてもよい。導電性支持体上に弾性層1bを形成して作製したローラ前駆体は、作製後に弾性層1b表面を研磨して形状を整えてもよい。
【0018】
被覆層1cは、通常、弾性層1bに接した位置に形成される。被覆層1cは、通常、弾性層1b中に含有される軟化油や可塑剤等が導電性ローラ表面へブリードアウトするのを防止する目的で、又は導電性ローラ全体の電気抵抗を調整する目的で設けられる。また、被覆層1cは、導電性ローラの表面を構成し、被帯電体である電子写真感光体と接触するため電子写真感光体を汚染してしまう材料構成であってはならない。
【0019】
本発明における被覆層1c又は抵抗層1d若しくは第2の抵抗層1eは、導電性又は半導電性を有している必要がある。導電性又は半導電性の発現のために、導電材として、各種電子伝導機構を有する導電剤(導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)を使用することができる。
【0020】
本発明の特性を発揮させるため被覆層1cを構成する結着樹脂としては、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBCと表す)及びオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBCと表す)等が挙げられる。
【0021】
また、被覆層1cの、適宜目的に応じた表面粗さを確保するための絶縁性粒子としては、ウレタン、ポリメタクリル酸メチル(PMMAと表す)等からなる絶縁性樹脂粒子を用いることができる。被覆層1cの体積抵抗率は、通常、104〜1015Ωcmであることが好ましい。また、被覆層1cの厚さは通常10〜100μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明の導電性ローラは、上記導電性支持体とその外周面上に形成された弾性層を有するローラ前駆体を作製し、このローラ前駆体の弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して被覆層を形成して作製することができる。
【0023】
被覆層を形成するための塗工液は、上記結着樹脂、導電剤、絶縁性粒子等の原材料を用いて調製する。この他、塗工液には必要に応じて、レベリング剤や消泡剤等を添加することも可能である。また、塗工液の濃度、粘度、粘弾性等を調整するため等の目的で溶剤やその他の添加剤を用いてもよい。
【0024】
塗工液の調製方法については、特に限定されないが、サンドミル、ペイントシェーカ、ダイノミル及びパールミル等のビーズを利用した分散装置で、上記原材料を混合し分散して調製することが好ましい。すなわち、結着樹脂、導電剤、絶縁性粒子、その他の添加剤を溶剤に添加して、上記分散装置で混合し調製すればよい。分散強度、及び時間に関しては、上記原材料が均一に分散され、得られた塗工液を用いて形成された導電性ローラの被覆層の抵抗値が均一で、所望の値とになるように調整すればよい。
【0025】
また前記塗工液を塗布する方法についても、特に限定されないが、ディッピング法、スプレーコート法、ロールコート法を用いることが好ましい。
【0026】
(2)被覆層のクラック
結着樹脂や導電剤を溶剤に分散させた塗工液を、上記塗工方法等により弾性層の外周面上に塗布して塗工膜を形成する場合、塗布後、硬化反応を進行させるため、結着樹脂の硬化温度以上の温度で加熱硬化して被覆層を形成させる工程が通常採択される。
【0027】
しかしながら、本発明者等の検討の結果、被覆層の硬化が進んでいるとき、あるいは硬化がほぼ終了した段階においても、被塗工物であるローラ前駆体の弾性層の熱膨張が進行しているために形成される被覆層にクラックが発生することがわかった。上述したように、弾性層は電子写真感光体に対する良好な均一密着性を確保するために適当な弾性を持たせることが大前提となる。このため、弾性層の処方により熱膨張を抑えるとしても自ずと限界がある。また、クラック防止のためには被覆層の強度や膜厚を変えることが通常行われているが、そのために処方や膜厚のマージンを広げられないといった問題があった。
【0028】
上記の問題を解決するため、本発明者等が検討を進めた結果、次のことが明らかになった。すなわち、塗工液を塗布する前のローラ前駆体の外径を、被覆層の加熱硬化温度と同一の温度におけるローラ前駆体の外径に近づけて塗布を行うことにより、クラックの発生を抑えることができることが明らかとなった。
【0029】
具体的な手段としては、導電性支持体と、その外周面上に弾性層と、該弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して形成した被覆層とを有する導電性ローラにおいて、次の条件を満たすことによりクラックの発生を抑えることができる。
すなわち、前記塗工液を塗布する直前の、前記導電性支持体及び前記弾性層を有するローラ前駆体の弾性層が、水分を0.8〜5.0質量%含有することである。かつ、前記ローラ前駆体の、下記式(1)の関係を満たす温度T2での加熱処理による、下記式(2)で示される外径変化率DR(%)が0.2〜2.0%であることである。
5℃≦T1<T2≦200℃ (1)
DR(%)=100×[(φT2−φT1)/φT2] (2)
【0030】
上記式(1)におけるT1は、前記塗工液を塗布する直前の前記ローラ前駆体の温度を示す。また、温度T2は、前記ローラ前駆体の前記加熱処理時の温度を示し、該温度T2は、前記被覆層を形成するときの前記加熱硬化温度と等しい。また、上記式(2)中のφT1は、前記塗工液を塗布する直前の前記温度T1における前記ローラ前駆体の外径を示す。さらに、前記φT2は、前記温度T2での加熱処理直後の前記ローラ前駆体の外径を示す。
【0031】
前記ローラ前駆体の弾性層が、水分を0.8〜5.0質量%含有するものであれば、次に述べる塗工前処理をすることなく、このローラ前駆体の弾性層の外周面上に塗工液を塗布すればよい。通常、本発明においては、前記ローラ前駆体の弾性層の外周面上に塗工液を塗布する前に塗工前処理を行い弾性層に含まれる水分の量を調整することが好ましい。弾性層に含まれる水分は0.8〜5.0質量%であることが好ましく、1.3〜3.4質量%であることがより好ましい。この塗工前処理は、エージング温度22〜25℃で、相対湿度63〜90%RHの環境下で、1〜3時間エージングすることにより行うことが好ましい。
【0032】
また被覆層形成前のローラ前駆体の温度T2(被覆層を加熱硬化するときの加熱硬化温度と等しい)における加熱処理による上記式(2)で示される外径変化率DRは、上述したように、0.2%以上、2.0%以下とする。この外径変化率DRは、0.3%以上、0.9%以下とすることが好ましい。上記式(2)で示される外径変化率DRを0.2%以上、2.0%以下とすると、クラックの影響による画像不良のない導電性ローラを得ることができる。
【0033】
また、上記塗工前処理条件の環境から塗工環境であるN/N環境(23℃、52%)下にローラ前駆体を移した時には、該ローラ前駆体の外径が小さくなる方向での経時変化があるため、外径の経時変化が無視できる時間範囲内で塗工を行うことが好ましい。前記塗工前処理後、塗工環境であるN/N環境(23℃、52%)下にローラ前駆体を移した時には、通常、N/N環境移行後30分〜1時間以内にローラ前駆体の弾性層の外周面上に塗工液を塗布することが好ましい。前記塗工前処理を施したローラ前駆体は、水分を含んで外径が増大しているため、被覆層の加熱硬化の際、クラックの原因である弾性体の熱膨張による外径の増大と同時に、水分が揮発することによる外径の縮小も起こっているため、塗工膜にかかるストレスを軽減することができる。
【0034】
上記ローラ前駆体には、通常、前記前処理後に、弾性層の外周面上に塗工液を塗布し、これを加熱硬化して導電性ローラを調製する。加熱硬化温度は、通常130〜200℃とすればよく、140〜170℃とすることがより好ましい。また加熱硬化時間は、通常0.5〜3時間とすればよく、1〜2時間とすることがより好ましい。
【0035】
本発明の導電性ローラは、電子写真装置の導電性ローラ、たとえば、帯電ローラ、転写ローラ、現像ローラ、クリーニングローラ等として用いることができる。特に、電子写真装置の帯電装置、たとえば、接触帯電装置に、帯電ローラとして搭載され、好ましく用いられる。また、上述した各種用途のローラとして用いるときは、それぞれの使用条件へ適合させるための処方を付加した構成の本発明の導電性ローラを使用すればよい。
以下、帯電ローラとしての説明を行うが、他のローラ部材もそれぞれ実験的に適合条件が得られる事は言うまでもない。
【実施例】
【0036】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は質量部を示す。
【0037】
<実施例1>
下記の要領で本発明の帯電ローラを作成した。
(弾性層)
・エピクロルヒドリンゴム 100部
(商品名:エピクロマーCG102、ダイソー株式会社製)
・炭酸カルシウム 30部
(商品名:シルバーW、白石工業株式会社製)
・酸化亜鉛 5部
(商品名:酸化亜鉛2種、ハクスイテック株式会社製)
・脂肪酸 5部
(商品名:ステアリン酸S、花王株式会社製)
以上の材料を密閉型ミキサーにて混練し原料コンパウンドを調製した。この原料コンパウンドに、さらに、前記エピクロルヒドリンゴム100部に対し加硫剤の硫黄1部、加硫促進剤のノクセラーDM(商品名、大内新興化学工業(株)製)1部及びノクセラーTS(商品名、大内新興化学工業(株)製)0.5部を加えた。これを、2本ロール機にて混練した。得られたコンパウンドを、押出成型機にて押出すと同時に、連続的にφ6mmのステンレス製支持体を押出成型機のクロスヘッドダイを通過させて該ステンレス製支持体の外周面上に該コンパウンドを配置させて弾性層を形成した。これを熱風炉にて170℃、1時間加熱し加硫した後に、外径φ12mmになるように研磨処理し、ローラを得た。
【0038】
次に、上記研磨処理したローラを、塗工前処理した。塗工前処理は、温度23℃、相対湿度90%の環境下で2時間エージングすることによって行った。この塗工前処理後、ローラを温度23℃、相対湿度52%の環境(N/N環境と表す)に移した。また、塗工液を塗布する直前にN/N環境下で前記塗工前処理したローラの中央部外径を測定し、また弾性層の水分を測定した。前記ローラの中央部外径を、塗工液を塗布する直前の温度T1(=23℃)におけるローラ外径(φT1)とした。
【0039】
また、別途上記塗工前処理したローラを外径変化率(DR)測定用としてサンプリングし、熱風乾燥機を用い下記被覆層の硬化処理条件と同一の条件下(160℃、1時間加熱)で加熱処理した。このときの加熱処理時の温度をローラの加熱処理温度(T2)とした。この加熱処理終了直後(熱風乾燥機から取り出して1分後)にローラ中央部の外径を測定し、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)とした。
【0040】
上記ローラの、塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラの外径(φT1)は12.050mmであった。また、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.089mmであった。また、下記式(2)
DR=100×[φT2−φT1)/φT2] (2)
で求めた外径変化率(DR)は0.3%であった。エージング処理終了から2時間程度迄前記ローラ外径値に変化はなかった。また、上記塗工液を塗布する直前のローラの弾性層の水分含有量は、3.4質量%であった。
【0041】
(被覆層)
上記ローラの弾性層の外周面上に被覆層を形成するための塗工液を以下のようにして作製した。
・アクリルポリオール溶液 100部
(商品名:PLACCEL DC2016、ダイセル化学社製;有効成分70質量%、希釈溶剤としてキシレン30質量%)
・イソシアネートA 40部
(イソホロンジイソシアネート(IPDIと表す)、商品名:VESTANAT B1370、デグサ社製;有効成分60質量%、希釈溶剤としてn−酢酸ブチルを15質量%、キシレン25質量%)
・イソシアネートB 30部
(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDIと表す)、商品名:DURANATE TPA-B80E、旭化成ケミカルズ社製;有効成分80質量%、希釈剤として酢酸エチル20%含有)
・導電性微粒子 80部
(商品名:CS−Bk100Y、戸田工業社製)
・ポリメチルメタクリレート粒子 35部
(商品名:MBX−8、積水化成品工業社製;平均粒子径8μm)
・メチルイソブチルケトン 340部
以上の原材料を準備し、ミキサーを用いて撹拌し混合液を作成した。ついで、この混合液を循環式のビーズミル分散機を用いて分散処理(処理速度600ml/min)し、被覆層の形成のための塗工液を得た。
【0042】
次に、上記塗工前処理を施したローラのステンレス製支持体が前記塗工液の表面に対して垂直になるように保持して、ローラの弾性層を塗工液中に浸漬した。前記塗工前処理終了から塗工までの時間は30分及び1時間とした。浸漬塗工時の引き上げ速度は8mm/sとした。このとき塗工液に浸漬される側のローラのステンレス製支持体末端部にポリアセタール製のマスキング用キャップを被せた。その後、バッチ式の熱風乾燥機にて160℃で1時間加熱硬化させて、被覆層を形成し帯電ローラを得た。
【0043】
以上のようにして得られた帯電性ローラの外観目視検査及び顕微鏡観察を行い、クラックの発生の有無を調べ、下記基準に基づき評価した。得られた結果を表1に示した。
A:外観目視、顕微鏡観察ともにクラックの発生が全く見られなかった
B:顕微鏡観察でのみ極僅かに発生しているものの外観目視検査では全くクラックの発生が見られなかった
C:外観目視においてもクラックの発生が認められた
上記評価基準において、A及びBランクの帯電ローラは、これを用いて画出ししたとき画像として問題のないものが得られ実用上使用しうるものであるが、Cランクの帯電ローラは、実用上の使用に適さない。
【0044】
また、ローラの弾性層の水分含有量は、水分含有量測定用サンプルとして、上記塗工前処理を施したローラ前駆体を別に用意し、弾性層部分を切り出して、水分測定装置(商品名:AQ7、平沼産業株式会社製)を用いカールフィッシャー法で測定した。
【0045】
<実施例2>
相対湿度を85%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラ外径(φT1)は12.030mmであり、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.090mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は0.5%であった。また、前記塗工前処理終了から2時間程度迄ローラの外径値に変化はなかった。上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は2.2質量%であった。得られた結果を纏め表1に示した。
【0046】
<実施例3>
相対湿度を75%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラ外径(φT1)は11.980mmであり、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.089mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は0.9%であった。また、前記塗工前処理終了から4時間程度迄ローラの外径値に変化はなかった。上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は1.3質量%であった。得られた結果を纏め表1に示した。
【0047】
<実施例4>
相対湿度を95%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラ外径(φT1)は12.060mmであり、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.089mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は0.2%であった。また、前記塗工前処理終了から2時間程度迄ローラの外径値に変化はなかった。上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は5.0質量%であった。得られた結果を纏め表1に示した。
【0048】
<実施例5>
相対湿度を63%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラの外径(φT1)は11.850mmであり、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.089mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は2.0%であった。また、前記塗工前処理終了から4時間程度迄ローラの外径値に変化はなかった。上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は0.8質量%であった。得られた結果を纏め表1に示した。
【0049】
<比較例1>
温度を28℃、相対湿度を95%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラ外径(φT1)は12.080mmであり、温度T2(=160℃)での加熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.092mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は0.1%と良好であった。しかしながら前記塗工前処理終了から1時間後のローラの外径は11.840mmと急激に減少していた。また、上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は9.4質量%であった。さらに、前記塗工前処理終了時から30分後に塗工して作製した帯電ローラにはクラックの発生は見られなかったが、前記塗工前処理終了時から1時間後に塗工して作製した帯電ローラにはクラックの発生が見られた。得られた結果を纏め表1に示した。
【0050】
<比較例2>
相対湿度を52%にして塗工前処理を行った以外は実施例1と同様にして帯電ローラを作製し、評価した。塗工液を塗布する直前の、温度T1(=23℃)におけるローラの外径(φT1)は11.810mmであり、温度T2(=160℃)での熱処理直後のローラ外径(φT2)は12.091mmであり、上記式(2)で求めた外径変化率(RD)は2.3%であった。また、前記塗工前処理終了後に外径値の経時変化は見られなかった。上記塗工液を塗布する直前の弾性層の水分含有量は0.5質量%であった。得られた結果を纏め表1に示した。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ローラ前駆体の導電性支持体に垂直な面での断面概略図である。
【図2】本発明の導電性ローラの実施形態の例における導電性支持体に垂直な面での断面概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1a 導電性支持体
1b 弾性層
1c 被覆層
1d 抵抗層
1e 第2の抵抗層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、その外周面上に弾性層と、該弾性層の外周面上に塗工液を塗布し加熱硬化して形成した被覆層とを有する導電性ローラにおいて、
前記塗工液を塗布する直前の、前記導電性支持体及び前記弾性層を有するローラ前駆体の弾性層が、水分を0.8質量%以上5.0質量%以下含有し、かつ、
前記ローラ前駆体の、下記式(1)の関係を満たす温度T2での加熱処理による、下記式(2)で示される外径変化率DR(%)が、0.2%以上2.0%以下であることを特徴とする導電性ローラ。
5℃≦T1<T2≦200℃ (1)
DR=100×[(φT2−φT1)/φT2] (2)
(式(1)中、T1は、前記塗工液を塗布する直前の前記ローラ前駆体の温度を示し、T2は、前記ローラ前駆体の前記加熱処理時の温度を示し、該温度T2は、前記被覆層を形成するときの前記加熱硬化温度と等しい。式(2)中、φT1は、前記塗工液を塗布する直前の前記温度T1における前記ローラ前駆体の外径を示し、φT2は、前記温度T2での加熱処理直後の前記ローラ前駆体の外径を示す。)
【請求項2】
電子写真装置の帯電装置に帯電ローラとして搭載されるものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
電子写真装置の接触帯電装置に帯電ローラとして搭載されるものである事を特徴とする請求項1に記載の導電性ローラ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−293107(P2007−293107A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122086(P2006−122086)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】