説明

導電性担体、触媒担持担体および電極触媒の製造方法

【課題】触媒金属の活性向上と耐久向上を図ることのできる触媒担持担体とその製造方法、および電極触媒とその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素系の導電性担体1の表面に金属前駆体2を担持させ、還元処理と熱処理を同時におこなうことにより、金属前駆体2を還元して金属を形成し、該金属を炭化して金属カーバイド粒子2Aを形成し、該金属カーバイド粒子2Aを該導電性担体1の表面に修飾する、導電性担体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極触媒を形成する導電性担体の製造方法、この導電性担体から形成される触媒担持担体の製造方法と、この触媒担持担体から形成される電極触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の各電極触媒層(電極触媒)と、から膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を成し、各電極触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて燃料電池セルが形成されている。実際には、これらの燃料電池セルが発電性能に応じた基数だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
【0003】
上記する従来の触媒層の形成方法は、たとえば、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、触媒を担持した触媒担持担体、高分子電解質(アイオノマ)、分散溶媒を含んだ触媒溶液(触媒インク)を塗工し、次いで該触媒溶液表面をホットプレート等で乾燥させること(湿式塗工法)で、触媒層が形成されている。なお、この塗工作業においては、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。
【0004】
ところで、燃料電池の発電性能向上の重要な要素の一つとして、電極触媒の効率もしくは活性の向上が挙げられる。また、それと同時に、燃料電池の発電経過における導電性担体の酸化劣化の抑制が電極触媒の耐久向上にも繋がることから、この酸化劣化対策も重要な要素である。
【0005】
ここで、特許文献1には、炭素触媒担体の腐食を防止するべく、炭素触媒担体表面がタングステンやチタン、モリブデン等で金属表面処理された触媒担持担体を有する燃料電池が開示されている。そして、この金属表面処理方法は、まず、モリブデン等の金属前駆体を還元処理し、次いで加熱処理する方法でおこなわれるものである。
【0006】
しかし、本発明者等によれば、上記する金属表面処理方法にてカーボン担体表面上に形成される金属炭化物層は、カーボン担体表面上に均一に形成され難く、したがって、さらにこの金属炭化物に担持される触媒金属との間での相互作用効果が大きく期待できず、もって効果的な電極触媒の活性向上が得られ難いとの結論が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−503869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、燃料電池の発電経過における触媒担持担体の酸化劣化を抑制することに加えて、触媒金属の活性向上と耐久向上を図ることのできる導電性担体の製造方法、触媒担持担体の製造方法と電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による導電性担体の製造方法は、炭素系の導電性担体の表面に金属前駆体を担持させ、還元処理と熱処理を同時におこなうことにより、金属前駆体を還元して金属を形成し、該金属を炭化して金属カーバイド粒子を形成し、該金属カーバイド粒子を該導電性担体表面に修飾するものである。
【0010】
本発明の導電性担体の製造方法は、カーボン粒子等の導電性担体の表面に金属前駆体を担持させておき、次いで還元雰囲気下にて熱処理をおこなうこと、すなわち、還元処理と熱処理を同時におこなうことで、導電性担体表面に金属カーバイド粒子を均一に形成することのできる製造方法である。なお、使用される金属前駆体の量により、導電性担体表面に形成される金属カーバイド粒子は、担体表面に金属カーバイド粒子が均一に分散した修飾形態や、担体表面に金属カーバイド粒子が密に配されて層を成す修飾形態などがある。
【0011】
金属前駆体は、金属炭化塩や金属酸化物などの還元可能な化合物であり、この金属前駆体を形成する金属素材としては、タングステン、モリブデン、チタンのいずれか一種が使用され、これらの金属素材が炭化(固溶)されることにより、タングステンカーバイド(WCx)、モリブデンカーバイド(MoCx)、チタンカーバイド(TiCx)等の金属カーバイドが形成される。中でも、白金やカーボン素材の導電性担体との間の相互作用の高いタングステンカーバイドが好適である。
【0012】
ここで、「導電性担体表面に金属カーバイド粒子が修飾される」における「修飾」とは、化学結合もしくは付着等を意味するものである。
【0013】
従来一般の触媒担持担体、すなわち、カーボン素材の導電性担体表面に白金等の触媒金属が担持された触媒担持担体は、触媒金属自体の有する触媒活性に期待するものである。しかし、カーボン素材の導電性担体と白金触媒との電子の授受(相互作用ともいう)がほとんどなく、白金触媒自体が有する触媒活性効果以上の活性効果を期待することはできない。これに対して、本発明の製造方法で得られた導電性担体からなる触媒担持担体においては、触媒金属自体の触媒活性に加えて、触媒金属と金属カーバイド粒子の間の相互作用によって触媒金属の活性をさらに高めることが可能となる。しかも、この金属カーバイド粒子が導電性担体表面に可及的均一に担持されていることで、触媒活性効果は極めて高い。
【0014】
また、上記する相互作用によって触媒の耐久も向上し、さらには、金属カーバイド粒子が導電性担体表面に可及的均一に担持されていることで導電性担体の酸化劣化の抑制にも繋がる。
【0015】
また、本発明者等による検証と経験則によれば、金属前駆体の還元と同時におこなわれる熱処理時の温度は700℃以上であるのがよい。これは、還元反応と炭化反応の双方を実現するための温度条件であり、熱処理時の温度が700℃を下回ると、還元反応はおこなわれるものの、十分な炭化反応がおこなわれないためである。
【0016】
さらに本発明者等の検証によれば、上記製造方法にて製造された触媒担持担体を使用して最終的に電極触媒を製造し、この電極触媒を有する燃料電池セルの発電性能(I−V特性)を検証したところ、従来の製造方法で得られた電極触媒を有する燃料電池セルの発電性能に比して、高い発電性能が奏されることが実証されている。
【0017】
上記方法で得られた触媒担持担体を使用し、触媒担持担体と、高分子電解質を分散溶媒に投入し、攪拌して触媒溶液(触媒インク)を生成する。そして、生成された触媒溶液は、電解質膜やガス拡散層等の基材にたとえば塗工ブレードにて層状に引き伸ばされて塗膜が形成され、温風乾燥炉等で熱処理および乾燥されることで、アノード側およびカソード側の触媒層(電極触媒)が形成される。
【0018】
既述するように、本発明の製造方法にて得られた触媒担持担体を使用して触媒インクを生成し、これを使用して製造された電極触媒を有する燃料電池セルは、従来製法による電極触媒を有する燃料電池セルに比してその発電性能が高い。このことは、発電に寄与する触媒の活性が高められていることを示すものである。
本発明の製造方法で得られた触媒担持担体からなる電極触媒を有する燃料電池は、発電性能に優れてしかも高耐久であることから、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能および高耐久を要求している電気自動車やハイブリッド車用の燃料電池に好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から理解できるように、本発明の製造方法で得られた導電性担体、この導電性担体を使用して得られた触媒担持担体によれば、導電性担体の表面に金属カーバイド粒子が可及的均一に修飾され、この表面に触媒金属粒子が担持された構造の触媒担持担体であることから、触媒金属と金属カーバイド粒子の間の相互作用によって触媒活性を一層高めることができ、もって、発電性能に優れた燃料電池に供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の導電性担体の製造方法を説明した模式図であり、(b)、(c)はともに金属前駆体が担持された導電性担体を示す模式図である。
【図2】(a)は、図1aに続いて導電性担体の製造方法を説明した模式図であり、(b)は、金属カーバイド粒子が修飾された導電性担体を示す模式図である。
【図3】(a)は、製造された導電性担体を使用する本発明の触媒担持担体の製造方法を説明した模式図であり、(b)は触媒金属が担持された触媒担持担体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1〜3を参照して、本発明の導電性担体の製造方法と触媒担持担体の製造方法を概説する。
【0022】
図1aは、本発明の導電性担体の製造方法を説明した模式図であり、図1b、cはともに、金属前駆体が担持された導電性担体を示す模式図である。また、図2aは、図1aに続いて導電性担体の製造方法を説明した模式図であり、図2bは、金属カーバイド粒子が修飾された導電性担体を示す模式図である。
【0023】
まず、容器Y内に収容された水等からなる分散溶媒Wへ、カーボン素材の導電性担体1(カーボン担体)と、水溶性のタングステン酸アンモニウム2’を投入し、十分に攪拌して溶解させる。ここで、上記する導電性担体1としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。
【0024】
次に、溶液を加熱処理して分散溶媒を蒸発させることにより、図1bで示すタングステン前駆体2がカーボン担体1の表面に担持された導電性担体10が得られる。
また、タングステン酸アンモニウム2’の投入量を増加させることで、タングステン前駆体2が密に担持されて層を成す図1cで示すような導電性担体10Aを得ることもできる。
【0025】
上記する溶液を加熱し、乾燥させながら溶媒を蒸発除去して導電性担体10の粉末が得られる。
【0026】
次いで、図2に示すように、この導電性担体10を加熱炉R内に収容し、この加熱炉R内に連通する配管系Kを介して還元ガスであるHガス、もしくはCOガスを炉内に提供し(X1方向)、これと同時に炉R内を高温雰囲気として熱処理をおこなう。なお、HガスやCOガスの濃度設定は任意であるが、還元ガスの濃度バランスを調整する場合には、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスをさらに炉内に提供すればよい。
【0027】
上記熱処理により、図2bで示すごとく、カーボン担体1の表面に、タングステン前駆体2が還元され、かつ炭化(もしくは固溶)されてできるタングステンカーバイド粒子2A(WCx粒子)が修飾されてなる導電性担体20が得られる。なお、上記熱処理時の温度は、タングステン前駆体の還元反応と炭化反応の双方を可能とする温度である、700℃以上の温度が適用される。
【0028】
タングステン前駆体の還元と炭化を同時におこなう上記方法により、カーボン担体1の表面に、均一にタングステンカーバイド粒子2Aを修飾させることができる。
【0029】
カーボン担体1を修飾する金属カーバイドとしては、タングステン以外にもモリブデンやチタンを挙げることができ、これらを使用する場合には、モリブデンカーバイド粒子やチタンカーバイド粒子がカーボン担体表面を修飾することになる。
【0030】
タングステンカーバイド粒子にて修飾された導電性担体20が得られたら、図3aで示すごとく、水等の分散溶媒W内に、導電性担体20と、触媒金属塩3’を投入し、十分に混合攪拌し、触媒金属塩3’から触媒金属3をタングステンカーバイド粒子2Aの表面、さらにはカーボン担体1の表面に還元担持させることにより、図3bで示すような触媒担持担体30が得られる。
【0031】
ここで、触媒金属塩3’を形成する触媒金属としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0032】
さらに、分散溶媒Wとしては、水のほか、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
【0033】
図3bで示す触媒担持担体30では、白金等の触媒金属3自体の触媒活性に加えて、触媒金属3とタングステンカーバイド粒子2Aの間の相互作用により、触媒金属の活性をさらに高めることが可能となるものである。
【0034】
製造された触媒担持担体30を分散溶媒内に投入し、さらに高分子電解質を投入して、超音波ホモジナイザーやビーズミル、ボールミルなどを使用して攪拌等することにより、触媒溶液(触媒インク)が生成される。
【0035】
この高分子電解質としては、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを使用することができる。
【0036】
生成された触媒溶液は、基材である電解質膜、ガス拡散層、支持フィルムのいずれか一種に塗工等され、温風乾燥、ホットプレス等されることによって基材表面に触媒層(電極触媒)が形成される。ここで、この電解質膜は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成されるものである。また、ガス拡散層は、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等から形成されるものである。さらに、支持フィルムは、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体フィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを挙げることができ、これらの素材からなるシートを2層以上積層して基材としてもよい。なお、市販素材としては、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)などから形成されるものである。
【0037】
[発電性能実験とその結果]
本発明者等は、本発明の製造方法で得られた触媒担持担体を使用して触媒溶液を生成し、これを使用して形成された電極触媒(触媒層)を具備する燃料電池セル(実施例1,2)と、従来の製造方法にて製造された電極触媒を具備する燃料電池セル(比較例1,2)を試作し、双方の発電性能比較をおこなった。
【0038】
[実施例1の製造方法]
市販の導電性担体であるケッチェンEC(ケッチェンブラックインターナショナル製)5.0gを純水1.2L(リットル)に加えて分散させ、ここにタングステン酸アンモニウムを加えて攪拌し、純水に溶解させた。室温で1時間攪拌した後に溶液を加熱し、純水を蒸発除去した。次いで、100℃で乾燥して得られた粉末を石英製の反応容器に収容し、還元ガスである4%Hガスを容器内に提供しながら700℃まで昇温して同温度にて2時間残置した。その後、容器内へのガス提供を窒素ガスに切換えて降温し、熱処理を終了した。
【0039】
上記方法にて得られた、タングステンカーバイド粒子にて表面が修飾されたカーボン粉末を純水1.2Lに加えて分散させた。この分散液に白金量:5.0gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸(白金塩、触媒金属塩)の溶液を滴下し、十分に攪拌した。そして、この溶液に0.1Nアンモニア約100mLを添加し、溶液pHを約10として水酸化物を形成し、カーボン表面に析出させ、さらに、エタノールを用いて90℃でヘキサヒドロキソ白金硝酸から白金を還元して分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度は、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0040】
[実施例2の製造方法]
実施例2の製造方法は原則として実施例1と同様であるが、熱処理時の温度条件を800℃としている点が実施例1(700℃)と相違する。実施例2においても、実施例1のものと同様に、得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度は、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0041】
[比較例1の製造方法]
ケッチェンEC5.0gを純水1.2Lに加えて分散させ、この分散液に、白金5.0gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸の溶液を滴下し、十分に攪拌した。そして、この溶液に0.1Nアンモニア約100mLを添加し、溶液pHを約10として水酸化物を形成し、カーボン表面に析出させ、さらに、エタノールを用いて90℃でヘキサヒドロキソ白金硝酸から白金を還元して分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度も実施例1,2のものと同様、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0042】
[比較例2の製造方法]
ケッチェンEC5.0gを純水1.2L(リットル)に加えて分散させ、ここにタングステン酸アンモニウムを加えて攪拌し、純水に溶解させた。室温で1時間攪拌した後に、純水に溶解した水素化ホウ素ナトリウム溶液を投入し、タングステンの還元反応をおこなった。次いで、室温で30分溶液を攪拌し、濾過と純水洗浄をおこなった。次いで、100℃で乾燥して得られた粉末を石英製の反応容器に収容し、Nガスを容器内に提供しながら800℃まで昇温して同温度にて2時間残置した。その後、容器内へのガス提供を窒素ガスに切換えて降温し、熱処理を終了した。すなわち、比較例2では、その製造過程で還元処理と炭化処理が同時に実施されていない。
【0043】
上記方法にて得られた、炭化が不十分なタングステンカーバイド粒子にて表面が修飾されたカーボン粉末を純水1.2Lに加えて分散させた。この分散液に白金量:5.0gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸(白金塩、触媒金属塩)の溶液を滴下し、十分に攪拌した。そして、この溶液に0.1Nアンモニア約100mLを添加し、溶液pHを約10として水酸化物を形成し、カーボン表面に析出させ、さらに、エタノールを用いて90℃でヘキサヒドロキソ白金硝酸から白金を還元して分散液を濾過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。この方法で得られた触媒担持担体粉末の白金担持密度は、廃液分析の結果、白金50質量%であった。
【0044】
[電極触媒(触媒層)の製作方法]
上記する実施例1,2、比較例1,2それぞれの触媒担持担体を使用して、以下、同様の方法で電極触媒を製造した。具体的には、それぞれ調整された触媒担持担体を蒸留水に加え、さらに、エタノールやエチレングリコールもしくはプロピレングリコールなどを加え、高分子電解質であるナフィオンをさらに加えた。そして、上記溶液を十分に攪拌し、超音波照射やビーズミルなどによる分散処理をおこない、実施例1,2、比較例1,2それぞれの触媒溶液(触媒インク)を生成した。
【0045】
生成された触媒インクをテフロン等の基材上に塗布し、乾燥させて触媒層を得、これを電解質膜(ナフィオン)のアノード、カソードの両極にホットプレスによって熱圧着し、テフロンを剥がして膜電極接合体を得、これを用いて実施例および比較例双方の燃料電池セルを試作した。
【0046】
[実験結果]
初期段階での触媒性能を比較するべく、初期電圧測定を次のように実施した。まず、燃料電池セルのセル温度を80℃に設定し、カソード側電極に加温バブラを通過させた加湿空気をRH40%、ストイキ比7.5で提供するとともに、アノード側電極に加温バブラを通過させた加湿水素をRH40%、ストイキ比7.5で提供し、電子負荷を用いて電流電圧特性(I−V特性)を測定した。なお、各電極の白金量は、ともに0.3mg/cmとしている。
【0047】
実験の結果、比較例1,2の燃料電池セルの発電性能はそれぞれ、0.780(V/(0.2A/cm))、0.788(V/(0.2A/cm))であったのに対して、実施例1,2の発電性能はそれぞれ、0.793(V/(0.2A/cm))、0.802(V/(0.2A/cm))であり、1〜3%程度もの発電性能の向上が確認された。なお、比較例1,2双方を比較すると、比較例2では、金属前駆体の炭化が不十分であるものの、金属カーバイド粒子が形成されているために比較例1よりも高い活性が得られている。
この実験結果より、導電性担体の製造に際し、金属前駆体の還元反応と炭化反応を同時に実施して金属カーバイド粒子を修飾させることで、カーボン担体等の表面に金属カーバイド粒子が均一に修飾され、この金属カーバイド粒子の表面に触媒金属を担持させることで、触媒活性の高い触媒担持担体が得られ、これが燃料電池セルの発電性能向上に繋がることが実証された。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1…導電性担体(カーボン担体)、2…タングステン前駆体、2’…タングステン酸アンモニウム、2A…タングステンカーバイド粒子、3…触媒金属、3’… 触媒金属塩、10…タングステン前駆体が担持された導電性担体、20…タングステンカーバイド粒子で修飾された導電性担体、30…触媒担持担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系の導電性担体の表面に金属前駆体を担持させ、還元処理と熱処理を同時におこなうことにより、金属前駆体を還元して金属を形成し、該金属を炭化して金属カーバイド粒子を形成し、該金属カーバイド粒子を該導電性担体表面に修飾する導電性担体の製造方法。
【請求項2】
前記金属が、タングステン、モリブデン、チタンのいずれか一種からなり、前記金属カーバイドが、タングステンカーバイド、モリブデンカーバイド、チタンカーバイドのいずれか一種からなる、請求項1に記載の導電性担体の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が700℃以上の高温雰囲気下でおこなわれる、請求項1または2に記載の導電性担体の製造方法。
【請求項4】
前記還元処理は、HガスもしくはCOガスのいずれか一種を導電性担体に提供することである、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性担体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られた導電性担体のうち、少なくとも金属カーバイド粒子に触媒金属を担持させる触媒担持担体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法で得られた触媒担持担体と高分子電解質と分散溶媒とから触媒溶液を生成し、
基材表面上で前記触媒溶液からなる層を形成し、熱処理して電極触媒を得る電極触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200834(P2011−200834A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72666(P2010−72666)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】