説明

導電性樹脂分散液、その製造方法及び導電性膜

【構成】
分散相中に酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と分散液中で50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有することを特徴とする導電性樹脂分散液。
【効果】本発明により得られる導電性樹脂分散液を使用することによって導電性に優れる導電性塗料、導電性接着剤、導電性粘着剤、電極材料、電磁波シールド材料、有機発光材料、アクチュエーター等を提供できる。また、導電性に優れる膜を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導電性樹脂分散液、その製造方法及び導電性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
π電子共役により導電性を有する導電性高分子は近年さまざまな用途、例えば帯電防止、電磁波シールド、固体電解質コンデンサー、二次電池電極、透明導電膜等に応用が図られている。
【0003】
これらの用途では、導電性高分子が膜あるいは塗膜の形態として使用されることが多いが、電解酸化重合により電極表面に導電性高分子膜を形成する場合は電極の表面積に相当する面積および電極の形状に相応した膜しか得られず、また得られた膜を溶媒に分散あるいは溶解させることは導電性高分子自身の溶解度の低さ、親水性の低さから極めて困難である。そのため、導電性高分子を重合する時点でバインダー機能および分散安定化機能を有する樹脂と複合化させることで、膜や塗膜としての面積、形状、柔軟性、密着性、膜強度等の性状を向上させることを目的としてさまざまな検討が行われている。
【0004】
例えば、シード微粒子表面にポリピロール層が設けられた導電性樹脂分散液およびその製造法について報告されているが、シード微粒子の材質として酸変性ポリオレフィンについては何ら記載されておらず、また、示唆もされていない(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
単量体を乳化懸濁状態で重合した重合体をコアとし、コアの重合時に特定の酸またはその塩を用いて重合し、アニリン、ピロール等の環状アミン類を反応系中に添加し粒子表面に局在化している酸官能基と塩を形成させた後、アミン類を重合させることにより制御されたコア/シェル構造を有した粒子が得られると報告されているが、その導電性も十分なものではない(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
強酸基を含むポリマー分散液の粒子コアと、コア表面に付着したポリアニリンとバインダーを含むコーティング組成物が提案されているが上記コーティング組成物はポリアニリンの持つ凝集性により経時的な分散液の粒子の破壊が起こり易かった(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
水または水を含む高極性の液体並びに界面活性剤を含む水溶液中に、基体材料を均一に分散、含浸させた後、基体材料表面に導電性高分子の乾燥皮膜を形成させる導電性複合体の製造方法が報告されている。しかしながら、基体材料としての酸変性ポリオレフィンの使用については何ら言及されていない(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2004−241132号公報
【特許文献2】特開2004−189796号公報
【特許文献3】特開2002−356654号公報
【特許文献4】特開平11−166049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れた導電性能を有して、均一で柔軟性があってムラのない膜を容易かつ簡便に形成することができ、重合においては反応容器の洗浄が容易にできるとともに、保存安定性にも優れる導電性樹脂分散液を得ることである。また、導電性に優れる膜を得ることである。
【0009】
本発明により得られる導電性樹脂分散液は帯電防止剤、電磁波シールド剤、導電性塗料、電極材料、導電性接着剤、有機半導体等に用いた場合、優れた導電性を示すことから有用である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、本発明の導電性樹脂分散液を基体材料に塗工するにあたって、導電性樹脂が固形物の状態のような場合における溶解等の操作を必要とせずそのまま塗工が可能であるため容易かつ簡便に塗工が行え、また、本発明の導電性樹脂分散液を用いて、均一で柔軟性がありムラのない導電性能の優れた膜を形成することができることを見出し、加えて、導電性有機物質の重合において反応容器の洗浄が容易にできるとともに、保存安定性にも優れる導電性樹脂分散液の製造方法を見出し本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は
(1)分散相中に酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と分散液中で50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有することを特徴とする導電性樹脂分散液、
(2)酸変性ポリオレフィンの酸価が10〜100である前記(1)の導電性樹脂分散液、
(3)導電性有機物質が硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体の重合物である前記(1)又は(2)の導電性樹脂分散液、
(4)硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体がチオフェン類であることを特徴とする前記(3)の導電性樹脂分散液、
(5)酸変性ポリオレフィンを含む樹脂分散液中で硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体を重合する前記(3)又は(4)の導電性樹脂分散液の製造方法、
(6)酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有する導電性膜、
(7)酸変性ポリオレフィンの酸価が10〜100であることを特徴とする前記(6)の導電性膜、
(8)硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体がチオフェン類である前記(7)の導電性膜
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導電性樹脂分散液を基体材料に塗工するにあたって、導電性樹脂が固形物の状態のような場合における溶解等の操作を必要とせずそのまま塗工が可能であるため、容易かつ簡便に塗工ができ導電性膜を製造できる。また、本発明の導電性樹脂分散液を用いることにより優れた導電性能を有し、均一で柔軟性がありムラのない膜を形成することができる。加えて、導電性有機物質の重合において反応容器の洗浄が容易にできるとともに、保存安定性にも優れる導電性樹脂分散液の製造方法を提供できる。また、導電性に優れる膜を提供できる。
【0013】
また、本発明により得られる導電性樹脂分散液を使用することによって、導電性に優れる導電性塗料、導電性接着剤、導電性粘着剤、電極材料、電磁波シールド材料、有機発光材料、アクチュエーター等を提供できる。さらに、導電性に優れる膜を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の導電性樹脂分散液は、少なくとも分散相中に酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と分散液中で50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有している分散液であればよい。酸変性ポリオレフィンを予め分散剤を用いて乳化分散させ、その分散液の存在下で導電性有機物質を構成する単量体を重合することが好ましい。
【0015】
[酸変性ポリオレフィン]
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有していればよく、オレフィン系モノマーに不飽和カルボン酸又はその誘導体を重合成分の一部として含有させることで変性したものでもポリオレフィン系樹脂をグラフト変性により酸変性したものであってもよい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂を挙げることができ、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等を1種あるいはそれ以上を重合することにより得ることができる。この中でもプロピレンを主成分とするポリオレフィンが好ましい。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂を酸変性するために用いる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸等が挙げられる。また、その不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、金属塩等があり、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノアミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸及びその誘導体が好ましく、特に無水マレイン酸が好適である。
【0017】
[酸変性ポリオレフィンの酸価]
酸変性ポリオレフィンの酸価は10〜100であることが好ましく、10〜70であることがさらに好ましい。酸価が10未満であると分散剤を使用して分散液とする際の分散性が乏しいために粒子径の大きな分散液しか得られず、沈殿や浮遊が生じて分散液の保存安定性が悪化するおそれがある。逆に酸価が100を越えると高湿度の環境において皮膜の耐水性が低下する場合がある。
【0018】
本発明における酸変性ポリオレフィンの酸価は、酸変性ポリオレフィン1gに含まれる酸を全て中和するのに必要な水酸化カリウムの重量(mg)とする。酸変性ポリオレフィンの酸価は、酸変性に使用した不飽和カルボン酸のカルボキシル基当量に相当する水酸化カリウムの重量から酸変性後に残存した不飽和カルボン酸のカルボキシル基当量に相当する水酸化カリウムの重量を差し引くことで求めることができる。なお、酸無水物の酸価を求める場合は、酸無水物に水を加えて加熱するなどして加水分解させ、二塩基酸とした後に上記の方法で酸価を測定するものとする。
【0019】
[酸変性ポリオレフィンの軟化点]
本発明で使用する酸変性ポリオレフィンの軟化点は60〜160℃であることが好ましく、さらに80〜140℃であることが好ましい。軟化点が60℃未満であると室温で乾燥皮膜の強度が低下したり、乾燥皮膜が接する部分でブロッキングを生じる場合がある。逆に軟化点が160℃を越える場合は酸変性ポリオレフィンを溶融して水性分散液とする際に高温高圧の装置が必要となり、エネルギー、経済性の点で不利となる場合がある。
【0020】
[酸変性ポリオレフィン分散液の粒子径]
本発明で使用する酸変性ポリオレフィン分散液粒子のメジアン径は0.001〜10μmが好ましい。メジアン径が10μmを越えると安定性が劣り、分散相の沈殿、浮遊が生じる場合がある。また、乾燥皮膜中の導電性有機物質の分布が不均一となり、乾燥皮膜の導電性が本来期待される値より低下する場合がある。逆にメジアン径が0.001μm未満である場合は、分散液の粘度が増大し、流送の際に手間がかかりより多くのエネルギーが必要となる場合がある。
【0021】
[酸変性ポリオレフィン分散液の製造方法]
酸変性ポリオレフィン分散液の製造方法については上記のメジアン径が得られる方法であれば特に制限は無い。例えば、溶融した酸変性ポリオレフィンに分散剤を加え、徐々に水を加えることで油中水型分散液から水中油型分散液に転相させる方法、溶融した酸変性ポリオレフィンと分散剤水溶液を高速高圧で衝突させる方法、溶融した酸変性ポリオレフィンと分散剤を含む粗分散液に剪断力を加えて微細な分散液を得る方法等が挙げられる。
【0022】
[酸変性ポリオレフィン分散液への添加剤など]
酸変性ポリオレフィン分散液には、導電性樹脂としての性質を低下させない範囲で消泡剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、滑剤、防滑剤、難燃剤、無機質充填材等の物質を混合することが可能である。混合の方法としては、酸変性ポリオレフィンに上記物質を混合した後に界面活性剤と水を加えて分散液とする方法や、酸変性ポリオレフィン分散液に上記物質を混合する方法等が使用できる。
【0023】
[スルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤]
本発明におけるスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤としては、スルホン酸基及び/又はカルボン酸基と疎水基とを共に有する界面活性剤などが挙げられる。
【0024】
具体的には、スルホン酸基と疎水基とを有する界面活性剤として、スチレンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ステアリルベンゼンスルホン酸等のアルキル及びアルケニルベンゼンスルホン酸化合物、オクチルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸等のアルキル及びアルケニルナフタレンスルホン酸化合物、ラウリルスルホン酸、ステアリルスルホン酸等のアルキル及びアルケニルスルホン酸類、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホン酸等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸類、スルホコハク酸モノステアリル、スルホコハク酸モノラウリル、スルホコハク酸ジステアリル、スルホコハク酸ジラウリル等のスルホコハク酸エステル類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキレンジスルホン酸等のジスルホン酸類、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族スルホン酸ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0025】
スルホン酸基を有する界面活性剤としてスルホン酸基を含有するモノマーとその他のモノマーとの共重合物が挙げられる。
スルホン酸基含有モノマーとしては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0026】
また、カルボン酸基と疎水基とを有する界面活性剤としては、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の飽和及び不飽和脂肪酸類、ドデシル安息香酸等のアルキル安息香酸類等のモノカルボン酸基と疎水基とを有する界面活性剤、さらに、ステアリルコハク酸等のジカルボン酸化合物等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニル安息香酸等の共重合体、または、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートコハク酸ハーフエステル等、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート環状酸無水物ハーフエステル類の共重合体等が挙げられる。
【0027】
さらに、ジプロピレングリコール−4−ノニルフェニルホスフェート等のようなリン酸基と疎水基とを有する界面活性剤を含んでいてもよい。
【0028】
これらのスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤はドーパントとして作用させるために、界面活性剤のスルホン酸基及び/又はカルボン酸基は分散液中で50%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上が少なくとも塩を形成していないことが本発明の効果を奏するのには必要となる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等の1価金属塩や、鉄塩、銅塩等の多価金属塩、あるいは、アンモニウム塩、アミン塩等、いずれの形の塩でもよい。
【0029】
本発明において用いられる界面活性剤のスルホン酸基及び/又はカルボン酸基としては、アニリン、ピロール及びこれらの誘導体のアミンと強い相互作用を示す強酸基であるスルホン酸基が最も好ましく、さらにπ−π相互作用でアニリン、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体と強い相互作用を示すと考えられる芳香族化合物が好ましい。これらの条件を満たす界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸化合物、アルキルナフタレンスルホン酸化合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸化合物、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリスチレンスルホン酸化合物、スチレンスルホン酸と他の共重合可能な単量体との共重合物が挙げられる。
【0030】
[導電性有機物質]
導電性有機物質は導電性を有する有機物質であればよく、アニリン類、ピロール類、チオフェン類などを重合することによって得られるものをいう。アニリン類、ピロール類、チオフェン類などの単量体を導電性有機物質を構成する単量体と称することがある。
【0031】
上記のアニリン類とは、アニリン及びアニリン誘導体をいい、アニリン誘導体は、アニリンの2位または3位あるいはN位を炭素数1〜18のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、スルホン酸基等で置換した化合物であり、例えば、2−メチルアニリン、3−メチルアニリン、2−エチルアニリン、3−エチルアニリン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、2−エトキシアニリン、3−エトキシアニリン、N−メチルアニリン、N−プロピルアニリン、N−フェニル−1−ナフチルアニリン、8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−アミノベンゼンスルホン酸、7−アニリノ−4−ヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0032】
また、ピロール類とは、ピロール及びピロール誘導体をいい、ピロール誘導体は、ピロールの1位または3位、4位を炭素数1〜18のアルキル基またはアルコキシ基等で置換した化合物であり、例えば、1−メチルピロール、3−メチルピロール、1−エチルピロール、3−エチルピロール、1−メトキシピロール、3−メトキシピロール、1−エトキシピロール、3−エトキシピロール等が挙げられる。
【0033】
チオフェン類とは、チオフェン及びチオフェン誘導体をいい、チオフェン誘導体は、チオフェンの3位または4位を炭素数1〜18のアルキル基またはアルコキシ基等で置換した化合物であり、例えば、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
【0034】
アニリン類、ピロール類、チオフェン類の中でもチオフェンとその誘導体を用いた導電性有機物質が塗膜の透明性から好適である。
【0035】
導電性有機物質を構成する単量体の酸変性ポリオレフィンへの導入率は酸変性ポリオレフィン100重量部に対して0.01〜80重量部が適しており、0.01重量部未満では有効な導電性が得られない場合があり、80重量部を越えると単量体重合時に酸変性ポリオレフィン微粒子同士が合一し易く、沈殿物の発生量が多くなる場合がある。
【0036】
導電性有機物質を構成する単量体の重合は酸化重合として公知の方法で行える。例えば酸変性ポリオレフィンの分散液に導電性有機物質を構成する単量体を添加し、所定の温度に保持した後、開始剤を添加して重合を開始する方法が挙げられる。
【0037】
開始剤としてはペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素等の過酸化物、塩化第二鉄などの遷移金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0038】
また、過酸化物と、塩化銅、塩化鉄、硫酸鉄、硫酸銅等の遷移金属化合物を併用する方法も挙げられる。
特に過酸化物の中でも過酸化水素は水素引き抜き後、水になるため、他の過酸化物に比べて無機塩等の不純物が生成しないことや酸化力も適正であることから好ましい。
【0039】
酸化重合の温度は通常酸化重合を行う温度域で凍結温度以上であれば特に限定されないが、副反応等が起こりにくいという点から低温下で行うことが好ましく、具体的には、−5〜30℃が好ましい。
【0040】
導電性有機物質構成する単量体を重合する際には、酸変性ポリオレフィンの分散液の存在下で行うことが好ましい。酸性雰囲気の酸変性ポリオレフィン分散液中で導電性有機物質を構成する単量体の酸化重合を行うと、アニリンやピロールの塩は水に溶けるため最初は水中で重合が進行するが、重合進行に伴って反応生成物の分子量が増大し、導電性有機物質が水に溶けなくなり、酸変性ポリオレフィンの粒子表面に吸着して、粒子表面が導電性有機物質で覆われたような形態の組成物が得られるものと推測される。
【0041】
このような形態の組成物であると、導電性有機物質で表面を覆われた粒子が皮膜化するときに、粒子表面に導電性有機物質が局在化するため、これらの導電性有機物質は連続相を形成し易くなり、乾燥皮膜の導電性が高まり、さらには、少量の導電性有機物質で連続相を形成できるものと考えられる。
【0042】
[塗工膜]
導電性の膜を形成させるのにはどのような方式であってもよいが、基材を導電性樹脂分散液に浸漬して乾燥させる方式であっても、基材に導電性樹脂分散液をスプレーなどの塗工機を用いて塗工してもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下特に断りが無い限り「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を示すものとする。
【0044】
分散液の調製
製造例1
攪拌装置、温度計を備えたセパラブルフラスコに酸価60の酸変性ポリオレフィン(MPP−012、星光ポリマー株式会社製)を16部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸を4部仕込み120℃に加熱して溶融させた。そこへ90℃のイオン交換水80部を加熱しながら徐々に滴下し転相乳化させた。その後加熱をやめ攪拌しつつ放冷し、固形分20%、メジアン径0.09μmの分散液1を得た。
【0045】
製造例2
製造例1において、ドデシルベンゼンスルホン酸の仕込み量を8部、イオン交換水の仕込み量を76部とした以外は製造例1と同様にして固形分24%、メジアン径0.11μmの分散液2を得た。
【0046】
製造例3
製造例1において、酸価60の酸変性ポリオレフィンの代わりに酸価30の酸変性ポリオレフィン(MPP−010、星光ポリマー株式会社製)を16部仕込んだ以外は製造例1と同様にして固形分20%、メジアン径0.23μmの分散液3を得た。
【0047】
製造例4
製造例1において、ドデシルベンゼンスルホン酸4部の代わりにドデシルベンゼンスルホン酸2部とドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムを2部仕込んだ以外は製造例1と同様にして固形分20%、メジアン径0.10μmの分散液4を得た。
【0048】
製造例5
製造例1において、ドデシルベンゼンスルホン酸4部の代わりにドデシルベンゼンスルホン酸2部とポリオキシエチレンラウリルエーテル2部を仕込んだ以外は製造例1と同様にして固形分20%、メジアン径0.09μmの分散液5を得た。
【0049】
比較例用製造例1
製造例2において、酸価60のマレイン化ポリプロピレンの代わりに酸価0のポリプロピレンを16部仕込んだ以外は製造例1と同様にして固形分24%、メジアン径0.32μmの比較例用分散液1を得た。
【0050】
比較例用製造例2
製造例1において、ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムを4部仕込んだ以外は製造例1と同様にして固形分20%、メジアン径0.09μmの比較例用分散液2を得た。
【0051】
比較例用製造例3
メタクリル酸エステル乳化重合体の調製
攪拌装置、温度計、窒素導入装置を備えたセパラブルフラスコにメタクリル酸メチルを16部、ドデシルベンゼンスルホン酸を8部、イオン交換水を76部仕込みホモミキサーにてプレ乳化を行った。しかる後70℃に昇温しつつ30分間攪拌下で窒素置換を行った。その後和光純薬株式会社製アゾ系重合開始剤のVA−086を0.1重量部加え重合を開始し、攪拌下83℃で4時間保持し反応を完結させた。その後加熱をやめ攪拌しつつ放冷し固形分24%、メジアン径0.16μmの比較例用分散液3を得た。
【0052】
比較例用製造例4
メタクリル酸エステル/アクリル酸エステル乳化共重合体の調製
攪拌装置、温度計、窒素導入装置を備えたセパラブルフラスコにメタクリル酸メチルを8部、アクリル酸ブチルを8部、ドデシルベンゼンスルホン酸を8部、イオン交換水を76部仕込みホモミキサーにて乳化を行った。しかる後70℃に昇温しつつ30分間攪拌下で窒素置換を行った。その後和光純薬株式会社製アゾ系重合開始剤のVA−086を0.1部加え重合を開始し、攪拌下83℃で4時間保持し反応を完結させた。その後加熱をやめ攪拌しつつ放冷し固形分24%、メジアン径0.08μmの比較例用分散液4を得た。
【0053】
なお、メジアン径はレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA−910(堀場製作所株式会社製)による測定値である。
【0054】
実施例1
分散液1を10部とイオン交換水73部を攪拌装置、温度計を備えたセパラブルフラスコに仕込み、冷水浴中で13℃に冷却した。そこへ導電性有機物質を構成するモノマーとして0.08重量部のチオフェンを添加し5分間攪拌した。そこへ17部のイオン交換水に溶解した0.22部(チオフェンに対して等モル)のペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後7時間攪拌して固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0055】
実施例2
実施例1において、分散液1の代わりに分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0056】
実施例3
実施例1において、分散液1の代わりに分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0057】
実施例4
実施例1において、チオフェンを0.33部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.9部(チオフェンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分3.2%の導電性樹脂分散液を得た。
【0058】
実施例5
実施例1において、チオフェンを0.03部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.09部(チオフェンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.1%の導電性樹脂分散液を得た。
【0059】
実施例6
実施例1において、分散液1の代わりに分散液4を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0060】
実施例7
実施例1において、分散液1の代わりに分散液5を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0061】
実施例8
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりにアニリン0.09部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(アニリンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0062】
実施例9
実施例8において、分散液1の代わりに分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0063】
実施例10
実施例8において、分散液1の代わりに分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0064】
実施例11
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりにピロール0.06部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(ピロールに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0065】
実施例12
実施例11において、分散液1の代わりに分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0066】
実施例13
実施例11において、分散液1の代わりに分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0067】
実施例14
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりにN−メチルアニリン0.1部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(N−メチルアニリンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0068】
実施例15
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりに2−アミノベンゼンスルホン酸0.17部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(2−アミノベンゼンスルホン酸に対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.5%の導電性樹脂分散液を得た。
【0069】
実施例16
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりに8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸0.29部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸に対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.5%の導電性樹脂分散液を得た。
【0070】
実施例17
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりにN−フェニル−1−ナフチルアミン0.21部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(N−フェニル−1−ナフチルアミンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.4%の導電性樹脂分散液を得た。
【0071】
実施例18
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりに1−メチルピロール0.08部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(1−メチルピロールに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0072】
実施例19
実施例1において、チオフェン0.08部の代わりに3−メチルチオフェン0.09部、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.22部(3−メチルチオフェンに対して等モル)使用した以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0073】
比較例1
実施例1において、分散液1の代わりに比較分散液1を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0074】
比較例2
実施例1において、分散液1の代わりに比較分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0075】
比較例3
実施例1において、分散液1の代わりに比較分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0076】
比較例4
実施例1において、分散液1の代わりに比較分散液4を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0077】
比較例5
実施例8において、分散液1の代わりに比較分散液1を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0078】
比較例6
実施例8において、分散液1の代わりに比較分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0079】
比較例7
実施例8において、分散液1の代わりに比較分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0080】
比較例8
実施例11において、分散液1の代わりに比較分散液1を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0081】
比較例9
実施例11において、分散液1の代わりに比較分散液2を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.3%の導電性樹脂分散液を得た。
【0082】
比較例10
実施例11において、分散液1の代わりに比較分散液3を用いた以外は実施例1と同様の方法で固形分2.7%の導電性樹脂分散液を得た。
【0083】
分散液の安定性の評価
実施例1〜19及び比較例1〜10で得られた分散液を25℃で5日間放置後の安定性を以下の基準で五段階評価した。評価結果を表1に示す。
A:分散液の凝集、沈殿がない、B:分散液の凝集、沈殿がわずかに認められる、C:分散液の凝集、沈殿が認められるが攪拌することで分散可能、D:分散液の凝集、沈殿が認められ、攪拌によっても分散不可能な沈殿が少量認められる、E: 分散液の凝集、沈殿が認められ、攪拌によっても分散不可能な沈殿が大量に認められる。
【0084】
導電性の測定方法
実施例1〜19及び比較例1〜10で得られた分散液を直径4.5cmのポリプロピレンの皿にとり、80℃の乾燥機で乾燥して膜厚50μmの塗膜を作成し表面抵抗率を測定して評価した。評価結果を表1に示す。なお、表面抵抗率の測定は株式会社ダイアインスツルメンツ製抵抗率計ロレスタGP MCP−T610を23℃で用い、10Ω/□以上の抵抗値を示したサンプルは、東亜電波工業株式会社製SM−10E型 極超絶縁計を23℃で用いた。
【0085】
乾燥皮膜強度の評価
実施例1〜19及び比較例1〜10で得られた分散液を直径4.5cmのポリプロピレンの皿にとり、80℃の乾燥機で乾燥して膜厚50μmの塗膜を作成し、その乾燥皮膜を指で強くこすり、以下の基準で四段階評価した。評価結果を表1に示す。
◎:剥離が認められない、○:少し剥離が認められる、△:かなりの剥離が認められる、×:簡単に剥離する
【0086】
【表1】

【0087】
以上より、本発明により得られる導電性樹脂分散液は、それにより得られる皮膜に高い導電性を付与することが可能であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散相中に酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と分散液中で50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有することを特徴とする導電性樹脂分散液。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィンの酸価が10〜100であることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂分散液。
【請求項3】
導電性有機物質が硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体の重合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性樹脂分散液。
【請求項4】
硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体がチオフェン類であることを特徴とする請求項3に記載の導電性樹脂分散液。
【請求項5】
酸変性ポリオレフィンを含む樹脂分散液中で硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体を重合することを特徴とする請求項3又は4に記載の導電性樹脂分散液の製造方法。
【請求項6】
酸変性ポリオレフィンと導電性有機物質と50%以上が少なくとも塩を形成していないスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する界面活性剤を含有する導電性膜。
【請求項7】
酸変性ポリオレフィンの酸価が10〜100であることを特徴とする請求項6に記載の導電性膜。
【請求項8】
硫黄原子または窒素原子を有する芳香族化合物類の単量体がチオフェン類であることを特徴とする請求項7に記載の導電性膜。

【公開番号】特開2007−138086(P2007−138086A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336360(P2005−336360)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】