説明

導電性樹脂組成物及び導電性樹脂材料

【課題】十分な流動性と機械的強度とを保持しながら、高い導電性を発現させることのできる導電性樹脂組成物とこの組成物を溶融混練して成る導電性樹脂材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂をベース樹脂とする樹脂をマトリックス樹脂11とし、この樹脂11に、MWNT−Ni複合体から成る導電性フィラーと、融点が70℃〜300℃である低融点合金とを分散させた導電性樹脂組成物を溶融混練して、上記マトリックス樹脂11中にて、導電性フィラー13が低融点合金12を結合部としたネットワークを形成した導電性樹脂材料10を製造するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、導電性樹脂組成形品の成形材料などに用いられる導電性樹脂組成物とこの組成物を溶融混練して成る導電性樹脂材料に関するもので、特に、樹脂マトリックスにカーボン系のフィラーと低融点金属または合金を分散させて成る導電性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性部材、帯電防止材、電磁シールド材として、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂に、金属粉やカーボン粉等の導電性粉体や、カーボン繊維、金属コートガラス繊維などの導電性フィラーを分散・混合した導電性樹脂組成物を射出成形等により成形した導電性樹脂成形品が用いられている。このような導電性樹脂組成物の導電性を高めるためには、上記導電性フィラーの添加量を多くしてやる必要があるが、導電性フィラーを多量に添加すると流動性が低下して成形性が悪化したり、成形品が脆弱となり機械的強度が低下するといった問題点があった。
そこで、導電性フィラーとしてカーボン系フィラーを用いるとともに、導電性を高める材料として、融点が300℃以下であるPb/Sn、Pb/Ag、Sn/Znなどの低融点金属を配合することにより、含有金属量を少なくしても高い導電性を有する導電性樹脂組成物を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。これは、含有金属量の低下に伴い、マトリックス樹脂中に分散されている金属のネットワークが切断されるが、含有金属が低融点金属である場合には、上記カーボン系フィラーの連鎖が上記切断された低融点合金のネットワークを補完するように機能するためで、これにより、高い導電性を維持しつつ低融点金属の含有量の低減を図ることができる。
一方、カーボン系フィラーとして、強度が高く柔軟であり、かつ、高い導電性を有するカーボンナノチューブ(CNT)が注目されており、様々な分野で利用されている。また、複数のチューブが同心円状に重なった構造の多層カーボンナノチューブ(MWNT)やこのMWNTにNi等の金属を付着させた金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体の研究も盛んに行われている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2002−212443号公報
【非特許文献1】照井教文,田中俊逸;カーボンナノチューブを利用した環境の分析と修復,ぶんせき 2004;3:158-159
【非特許文献2】Susumu Arai,Morinobu Endo,Norio Kaneko;Ni-deposited multi-walled carbon nanotubes by electrodeposition,Carbon 2004;42:641-644
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記樹脂マトリックスに低融点金属とカーボン系フィラーとを配合した導電性樹脂組成物では、導電性を高める構造としては、基本的には、低融点金属のネットワークであり、カーボン系フィラーはあくまでも切断された低融点合金のネットワークを補完するものであるので、導電性樹脂組成物の流動性と機械的強度とを保持するためには、上記低融点合金の添加量には制限があり、そのため、十分な導電性を発現させることは困難であるといった問題点があった。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、十分な流動性と機械的強度とを保持しながら、高い導電性を発現させることのできる導電性樹脂組成物とこの組成物を溶融混練して成る導電性樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、多層カーボンナノチューブが高い導電性を有すること、樹脂マトリックスに上記の金属・合金−多層カーボンナノチューブと低融点金属とを配合して混練温度にて溶融すれば、低融点金属が上記複合体の金属または合金と結合して上記金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体のネットワークを構成して導電性樹脂材料の導電性を高めることができるので、導電性を低下させることなく、上記低融点金属の添加量を低減できることを見出し本発明に至ったものである。
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、マトリックス樹脂中に導電性フィラーと融点が70℃〜300℃である低融点金属または低融点合金とを分散させて成る導電性樹脂組成物であって、上記導電性フィラーとして、少なくともその端部を含む表面に金属または合金が不連続に付着された金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体を用いたことを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導電性樹脂組成物を溶融混練して成る導電性樹脂材料であって、上記導電性フィラーが、上記フィラーに付着された金属または合金と結合した上記低融点金属または低融点合金を介して、フィラー網を形成していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、マトリックス樹脂中に導電性フィラーと融点が70℃〜300℃である低融点金属または低融点合金とを配合した導電性樹脂組成物を作製する際に、上記導電性フィラーとして、少なくともその端部を含む表面に金属または合金が不連続に付着された金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体から成る導電性フィラーを用いるようにしたので、導電性を低下させることなく、低融点金属の添加量を低減することができる。また、この導電性樹脂組成物を溶融混練すれば、流動性と機械的強度とに優れた、高い導電性を発現させることのできる導電性樹脂材料を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について説明する。
本例の樹導電性樹脂組成物はマトリックス樹脂に、金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体から成る導電性フィラーと、融点が70℃〜300℃である低融点合金とを分散させたものである。上記マトリックス樹脂としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂、あるいは、EVA、PVBなどの熱硬化性樹脂をベース樹脂とする樹脂が用いられるが、加工性を考慮するとベース樹脂としては熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
また、上記低融点合金としては、Pb/Sn、Pb/Ag、Sn/Znなどの2元合金、Pb/Sn/Ag、Pb/Sn/Biなどの3元合金を用いることができる。
一方、金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体としてはMWNT−Ni、MWNT−Cu、Nialloy−MWNTなどが用いられるが、本例では、直径が100〜200nm、長さが約10〜100μmである多層カーボンナノチューブ(MWNT)に電解メッキにてNiを付着させたMWNT−Niを用いた。
このMWNT−Niは、図1(a)〜(c)のモデルに示すように、電着時において、MWNTの端部に金属Niが付着し、この付着した金属NiにMWNTの端部が付着して成長するもので、これにより、少なくともその端部にNiが不連続に付着された構造を有するMWNT−Niを得ることができる。
【0008】
本例では、上記熱可塑性樹脂をベース樹脂とする樹脂に低融点合金とMWNT−Niとを配合した導電性樹脂組成物を混練機に投入し、所定の温度(例えば、250℃)で溶融混練することにより、成形品の材料となる導電性成樹脂材料を得る。なお、上記温度は配合した低融点合金が半溶融状態になる温度が好ましい。
上記溶融混練により、上記低融点合金は上記MWNT−NiのNiと結合して、上記導電性フィラー同士を結合するので、図2の模式図に示すように、導電性樹脂材料10のマトリックス樹脂11中には、上記のPb/Sn、Pb/Agなどの低融点合金12を結合部としたMWNT−Niから成る導電性フィラー13のネットワークが形成される。上記MWNT−Niから成る導電性フィラーは、従来のカーボン繊維に比較して高い導電性を有するとともに、上記ネットワークにより互いに結合されているので、導電性の高い導電性樹脂材料を得ることができる。このとき、上記低融点合金の添加量は、MWNT−Niの結合に必要な量だけあればよいので、低融点金属の添加量を大幅に低減することができる。また、上記MWNT−Niは強度が高く柔軟性もあるので、得られた導電性樹脂材料は高い導電性を有するとともに、上記流動性にも機械的強度にも優れていることがわかる。
【0009】
このように、本最良の形態によれば、熱可塑性樹脂をベース樹脂とする樹脂をマトリックス樹脂とし、この樹脂に、MWNT−Ni複合体から成る導電性フィラーと、融点が70℃〜300℃である低融点合金とを分散させた導電性樹脂組成物を溶融混練して、上記マトリックス樹脂11中にて、導電性フィラー13が低融点合金12を結合部としたネットワークを形成した導電性樹脂材料10を製造するようにしたので、高い導電性を有するとともに、上記流動性にも機械的強度にも優れた導電性樹脂材料を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明によれば、高い導電性を有するとともに、流動性及び機械的強度に優れた導電性樹脂材料を得ることができるので、これらを導電性部材、帯電防止材、電磁シールド材等に適用することにより、導電性樹脂成形品の特性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】MWNTへのNiの付着状況を示す模式図である。
【図2】本発明による導電性樹脂材料の組成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0012】
10 導電性樹脂材料、11 マトリックス樹脂、12 低融点合金、
13 導電性フィラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂中に導電性フィラーと融点が70℃〜300℃である低融点金属または低融点合金とを分散させて成る導電性組成物であって、上記導電性フィラーとして、少なくともその端部を含む表面に金属または合金が不連続に付着された金属・合金−多層カーボンナノチューブ複合体を用いたことを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性樹脂組成物を溶融混練して成る材料であって、上記導電性フィラーが、上記フィラーに付着された金属または合金と結合した上記低融点金属または低融点合金を介して、フィラー網を形成していることを特徴とする導電性樹脂材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−138026(P2007−138026A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334049(P2005−334049)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】