説明

導電性樹脂組成物

【課題】 切削や打ち抜き加工時にバリや切粉の発生が抑制された導電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)スチレン系樹脂100重量部に、(B)導電剤5〜50重量部及び(C)衝撃改良剤11〜44重量部を含み、MI3.5g/10分以上の導電性樹脂組成物を調製する。(C)衝撃改良剤は、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマー、(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマー、(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマー等であってもよい。(B)導電剤は導電性カーボンブラックであってもよい。前記樹脂組成物は、帯電防止性に優れ、表面固有抵抗が1×1011Ω/□以下であり、前記樹脂組成物で形成されたシート及び成形品は、電子部品の収容や搬送に用いる容器や包装用材料に適している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体や電子部品等を収容又は搬送するための容器や包装材料に適した導電性スチレン系樹脂組成物及びその組成物で形成されたシートに関する。
【0002】
【従来の技術】半導体や電子部品、特に集積回路(IC)やICを用いた電子部品のための包装形態として、トレー(インジェクショントレー、真空成形トレー等)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)等が使用されている。これらの包装材料を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用されているが、一般的に表面固有抵抗値が高く帯電し易い。
【0003】そこで、これらの包装材料には、静電気によるICの障害や破壊を避けるために、少なくとも帯電防止レベルまでの導電性を付与する必要がある。導電性の付与方法としては、例えば、導電性カーボンブラックなどの導電剤を樹脂に配合する方法が知られている。前記包装材料を構成する熱可塑性樹脂のうち、カーボンブラックを多量に配合しても、流動性や成形性の著しい低下がなく、かつコスト的にも優れる点から、ポリスチレン系樹脂が汎用されている。
【0004】特開平1−230655号公報には、ポリスチレン系樹脂中のポリスチレン成分100重量部に、ミネラルオイル1〜15重量部、ブタジエンゴム1〜10重量部、及びDBP吸油量100ml/100g以上のカーボンブラック10〜20重量部を配合したメルトインデックス(MI)が5g/10分以上の導電性樹脂組成物が開示されている。しかし、この樹脂組成物では、耐衝撃性や強度等の機械的特性が充分でなく、二次成形時にノッチや割れが発生する。
【0005】特開平8−283584号公報には、ポリスチレン系樹脂100重量部に、カーボンブラック5〜50重量部、オレフィン系樹脂1〜30重量部、スチレン−共役ジエンブロックコポリマー0.2〜10重量部を配合したIC包装用導電性樹脂組成物が開示され、特開平9−76423号公報には、ポリスチレン系樹脂からなるシート基材の両面に、前記導電性樹脂組成物が積層した導電性複合プラスチックシートが開示されている。これらの樹脂組成物のMIは0.1g/10分以上であり、実施例では3.5g/10分未満の樹脂組成物が使用されている。これらの樹脂組成物やシートでは、成形性が低いうえに、切削や打ち抜き加工時にバリや切粉が発生する。例えば、キャリアテープにおける送り穴打ち抜き時に、バリ及び切粉が発生、ICなどに付着する虞がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、切削や打ち抜き加工においてバリや切粉の発生が抑制された導電性樹脂組成物、シート及び成形品を提供することにある。
【0007】本発明の他の目的は、二次成形時にノッチや割れの発生が抑制された導電性樹脂組成物、シート及び成形品を提供することにある。
【0008】本発明の更に他の目的は、成形性に優れるとともに、耐衝撃性や強度等の機械的特性にも優れる導電性樹脂組成物、シート及び成形品を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、導電剤を含むスチレン系樹脂に特定量の衝撃改良剤を配合し、かつ特定のMIに調整した導電性樹脂組成物が、切削や打ち抜き加工時にバリや切粉の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明の導電性樹脂組成物は、(A)スチレン系樹脂、(B)導電剤及び(C)衝撃改良剤を含む樹脂組成物であって、(C)衝撃改良剤の割合が(A)スチレン系樹脂100重量部に対して11〜44重量部であり、メルトインデックス(MI)が3.5g/10分以上である。(C)衝撃改良剤は、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマー、(C2)オレフィン系エラストマー、(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマー等であってもよい。(B)導電剤は導電性カーボンブラックであってもよい。(B)導電剤の割合は、(A)スチレン系樹脂100重量部に対して5〜50重量部程度である。前記樹脂組成物は、帯電防止性に優れ、表面固有抵抗が1×1011Ω/□以下である。
【0011】本発明には、少なくとも導電層で構成されたシートであって、前記導電層が前記組成物で形成されたシートも含まれる。前記シートで形成された成形品は、電子部品の収容や搬送に用いてもよい。
【0012】
【発明の実施の形態】[(A)スチレン系樹脂]スチレン系樹脂には、ポリスチレン系樹脂及びゴム変性スチレン系樹脂が含まれる。ポリスチレン系樹脂を形成するための芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレン等)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなど)等が例示できる。これらの芳香族ビニル単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等、特にスチレンが使用される。
【0013】前記芳香族ビニル単量体は、共重合可能な単量体と組み合わせて使用してもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体(例えば、アクリロニトリルなど)、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物等)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N−アルキルマレイミド(例えば、N−C1-4アルキルマレイミド等)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミドなど)、N−アリールマレイミド(例えば、N−フェニルマレイミドなど)]、アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、 (メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル等]等が例示できる。これらの共重合可能な単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。全単量体中の共重合可能な単量体の使用量は、通常、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは8〜30重量%程度の範囲から選択できる。
【0014】ゴム変性スチレン系樹脂は、共重合(グラフト重合、ブロック重合等)等により、前記ポリスチレン系樹脂で構成されたマトリックス(硬質成分)中にゴム状重合体(軟質成分)が粒子状に分散した重合体であり、通常、ゴム状重合体の存在下、少なくとも芳香族ビニル単量体(例えば、前記芳香族ビニル単量体や、前記芳香族ビニル単量体と前記共重合性単量体とで構成された単量体)を、慣用の方法(塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合等)で重合することにより得られるグラフト共重合体である。
【0015】ゴム変性スチレン系樹脂のゴム状重合体としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン系共重合ゴム等]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2-8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体等)等が挙げられる。なお、上記共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体には、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型の構造を有する共重合体等が含まれる。これらのゴム状重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいゴム状重合体は、共役1,3−ジエン又はその誘導体の重合体、特にジエン系ゴム[ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体等]である。
【0016】ゴム変性スチレン系樹脂において、ゴム状重合体の含有量は、例えば、2〜80重量%、好ましくは3〜50重量%、特に好ましくは3〜20重量%(例えば5〜10重量%)程度である。
【0017】ポリスチレン系樹脂で構成されたマトリックス中に分散するゴム状重合体の形態は、特に制限されず、コア/シェル構造、オニオン構造、サラミ構造等であってもよい。分散相を構成するゴム状重合体の粒子径は、例えば、体積平均粒子径0.05〜30μm、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.2〜7μm(特に0.5〜5μm)程度の範囲から選択できる。また、ゴム変性スチレン系樹脂において、グラフト率は、5〜300%、好ましくは10〜250%程度である。
【0018】これらのスチレン系樹脂のうち、ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)等が好ましく、ゴム変性スチレン系樹脂としては、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、MBS樹脂等が好ましい。
【0019】また、スチレン系樹脂は、少なくとも、ゴム変性スチレン系樹脂で構成するのが好ましく、ゴム変性スチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂とを組み合わせて使用してもよい。ゴム変性スチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との割合(重量比)は、ゴム変性スチレン系樹脂/ポリスチレン系樹脂=100/0〜50/50(特に、100/0〜60/40)程度である。スチレン系樹脂において、ゴム状重合体(軟質成分)の含有量は、3〜40重量%、特に5〜20重量%程度が好ましい。
【0020】スチレン系樹脂(グラフト共重合体においてはマトリックスを構成するスチレン系樹脂)の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜500,000程度である。
【0021】スチレン系樹脂の溶融時のメルトインデックス(MI)は、200℃、荷重49N(5.0kgf)で1〜10g/10分、好ましくは1〜5g/10分の範囲から選択できる。
【0022】[(B)導電剤](B)成分としては、炭素粉末(慣用の人造黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、天然黒鉛粉末、コークス粉、導電性カーボンブラック等)、炭素繊維、金属粉末等が使用でき、これらの中でも導電性カーボンブラックが好ましく使用される。これらの導電剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】導電性カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ガスブラック、アセチレンブラック、アークブラック等が例示できる。これらの導電性カーボンブラックのうち、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が100ml/100g以上、好ましくは110〜200ml/100gのカーボンブラックが好ましく、例えば、導電性に優れたファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、特にファーネスブラックが好ましい。さらに、これらの導電性カーボンブラックを組合せた導電性複合カーボンブラックでもよい。導電性カーボンブラックの比表面積としては、20〜300m2/g、特に30〜50m2/g程度が好ましい。
【0024】導電性カーボンブラックの市販品としては、例えば、三菱化学(株)製“♯3050B”、“♯3150B”、“♯3750B”、“♯3950B”、米国キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製“VULCUN XC72”、“VULCAN P”、“BLACK PEARLS 3500”、“BLACK PEARLS 3700”、電気化学工業(株)製“アセチレンブラック”等が使用できる。
【0025】導電剤(特に導電性カーボンブラック)の平均粒径は、(A)成分の割合と密接な関係を有し、一概に規定できないが、通常、1nm〜1μm、好ましくは10〜100nm、さらに好ましくは40〜60nm程度である。
【0026】(B)成分の割合は、(A)成分の100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは20〜40重量部、さらに好ましくは25〜40重量部(特に30〜40重量部)程度である。
【0027】[(C)衝撃改良剤]衝撃改良剤としては、硬質成分と軟質成分とで構成された種々のエラストマーが使用でき、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。これらのエラストマーのうち、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマー、(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマー、(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが好ましく使用される。
【0028】(C1)スチレン系熱可塑性エラストマーには、硬質部分がスチレン系単位で構成され、軟質部分がジエン系単位で構成されるエラストマー、例えば、スチレン−ジエン系ブロック共重合体又はその水添物等が含まれる。スチレン−ジエン系ブロック共重合体又はその水添物としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体、水添スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水添スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が例示できる。ブロック共重合体において、末端ブロックは、スチレンブロック又はジエンブロックのいずれで構成してもよい。
【0029】(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィンと、(メタ)アクリル系単量体及びビニルエステル系単量体から選択された少なくとも一種の単量体との共重合体、熱可塑性エラストマー(硬質部分がポリエチレンやポリプロピレンで構成され、軟質部分がエチレン−プロピレンゴムやエチレン−プロピレン−ジエンゴムで構成されたエラストマー)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体等]等が挙げられる。これらのオレフィン系熱可塑性エラストマーのうち、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体、オレフィンとビニルエステル系単量体との共重合体が好ましい。
【0030】オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のC2-10オレフィン、好ましくはC2-4オレフィン(特にエチレン)が例示できる。アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル、好ましくはエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルが例示できる。ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが例示できる。具体的には、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が好ましく使用できる。
【0031】(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、硬質部分がアルキレンアリーレート単位で構成され、軟質相が脂肪族ポリエーテルやポリエステル単位で構成されたエラストマーなどが例示できる。軟質層を構成する脂肪族ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド等のポリC2-6アルキレンオキシド等が例示でき、脂肪族ポリエステルとしては、例えば、脂肪族C2-6ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸等)と脂肪族C2-6ジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)とのポリエステル等が例示できる。硬質相を構成するアルキレンアリーレートとしては、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート等のC2-4アルキレンテレフタレートや、エチレンナフタレートやブチレンナフタレート等のC2-4アルキレンナフタレート、好ましくはC2-4アルキレンテレフタレート(特にエチレンテレフタレート)が例示できる。
【0032】前記熱可塑性エラストマーの分子構造は、特に制限されず、トリブロック共重合体、星型ブロック共重合体、マルチブロック共重合体、グラフト共重合体、アイオノマー等であってもよい。
【0033】これらの衝撃改良剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。(C)成分として単一のエラストマーを用いる場合、(C)成分の割合は、(A)成分100重量部に対して11〜44重量部、好ましくは15〜40重量部、さらに好ましくは20〜30重量部程度である。(C)成分の割合が少なすぎると、シートを二次成形(真空、圧空、プレス成形等)しても寸法精度が悪く、特に容器の縁の部分が薄くなり、折り曲げた時に応力が集中し、折れやすくなる。一方、(C)成分の割合が多すぎると、切削加工や打ち抜き加工時にバリが発生し、内容物を汚染する虞がある。
【0034】本発明では、衝撃改良剤を組み合わせて使用するのが好ましく、例えば、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマーと(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマー及び/又は(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーとの組合せ、特に(C1)スチレン系熱可塑性エラストマーと(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマーとの組合わせが効果的である。これらの組み合わせでは、衝撃改良の効果に加えて、(C1)成分が(A)成分と共通する構成単位(又は構成ブロック、セグメント)を有し、(A)成分との相溶性を高めることができる。また、(C2)及び/又は(C3)成分(特に(C2)成分のエチレン系共重合体)が(B)成分との相溶性を高めることができる。(C2)成分及び(C3)成分の総量に対する(C1)成分の割合(重量比)は、(C1)/(C2+C3)=3/1〜1/10、好ましくは2/1〜1/5、さらに好ましくは1/1〜1/5程度である。(C)成分として複数のエラストマーを組み合わせて用いる場合、(C)成分の割合は、特に制限されず、(A)成分100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部(特に20〜30重量部)程度である。
【0035】本発明では、(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーを単独で使用するのも好ましい。(C)成分として(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーを単独で用いる場合、(C3)成分の割合は、特に制限されず、(A)成分100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部(特に20〜30重量部)程度である。
【0036】(A)及び(C)成分中の硬質成分と軟質成分との割合(重量比)は、硬質成分/軟質成分=95/5〜50/50、好ましくは90/10〜60/40、さらに好ましくは90/10〜70/30程度である。軟質成分と硬質成分との割合が前記範囲にあることにより、成形加工性及び機械的特性の両立が可能となる。
【0037】[導電性樹脂組成物]導電性樹脂組成物は、(A)〜(C)成分の粉粒体の混合物であってもよく、(A)〜(C)成分を混練して調製してもよい。混練には、慣用の方法を用いることができ、例えば、各成分をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで乾式混合し、単軸や2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の慣用の溶融混合機に供給して溶融混練することができる。導電性樹脂組成物は、ペレットの形態であってもよい。
【0038】導電性樹脂組成物には、必要に応じて、帯電防止剤(重量平均分子量3000以下の界面活性剤など)、着色剤、分散剤、離型剤、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤等)、難燃剤、アンチブロッキング剤、滑剤、充填剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤等を添加してもよい。これらの添加剤のうち、滑剤(例えば、ワックス類やC8-24高級脂肪酸エステル又はアミド等)を、(A)成分100重量部に対して1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部程度用いるのが好ましい。
【0039】本発明の導電性樹脂組成物のMIは、200℃、荷重49N(5.0kgf)で3.5g/10分以上、好ましくは3.5〜10g/10分、さらに好ましくは3.6〜8g/10分(特に3.7〜6g/10分)程度である。MIが低すぎる場合は、シート状に押し出すと表層部分の分子配向が大きくなり、打ち抜き加工時にバリが発生し易くなる。一方、MIが高すぎる場合は、二次成形すると厚みにムラが生じ易い。
【0040】本発明の導電性樹脂組成物は、表面固有抵抗が1×1011Ω/□以下(例えば、1×100〜1×1011Ω/□)、好ましくは1×101〜1×108Ω/□、さらに好ましくは1×102〜1×106Ω/□程度であり、導電性に非常に優れる。
【0041】[シートの製造方法]導電性樹脂シートの製造方法は、特に制限されず、前記樹脂組成物を、通常の押出機に供給し、溶融混練してダイ[フラット状、T状(Tダイ)、円筒状(サーキュラダイ)等]から押出して成形できる。シートは、延伸(一軸延伸や二軸延伸等)してもよいが、通常、押し出し方向にドロー(引取り)を作用させた未延伸シートである。また、必要により、発泡剤(化学発泡剤やガス)によって、発泡押出してもよい。
【0042】本発明のシートは、少なくとも前記樹脂組成物で形成された導電層で構成されたシートであり、単層シートであってもよく、複数の層で構成された積層シートであってもよい。積層シートは、基材シートの少なくとも一方の面に、前記導電性樹脂組成物で構成された導電層を形成した積層シートであり、用途によっては片面のみに導電層を積層すれば充分な場合もあるが、通常、基材シートの両面に導電層を積層するのが好ましい。基材シートの材質は、成形性、耐衝撃性を損なわない限り、特に限定されず、前記スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のホモポリエステル又はコポリエステル等)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等)、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)等の熱可塑性樹脂が使用できる。これらのうち、導電層を構成する樹脂と同種の熱可塑性樹脂、特にスチレン系樹脂が好ましい。
【0043】導電性樹脂組成物と基材シートを構成するスチレン系樹脂とのMIの比は、導電性樹脂組成物/基材シート=0.7〜5、好ましくは1〜4.5、さらに好ましくは1.2〜4.5程度である。両者のMIの比が低すぎると、シート表面に凹凸が生じ、両者のMIの比が高すぎると、両樹脂の流動性の差が大きくなりすぎるため、積層比が中央部分と両端部分で異なり、導電性及び機械的強度が不均一となる。
【0044】導電性シートの厚みは、0.01〜5mm、好ましくは0.05〜3mm、さらに好ましくは0.1〜1mm程度である。
【0045】積層シートの場合、基材シートと各導電層との厚みの比は、基材シート/導電層=30/1〜1/1、好ましくは20/1〜2/1、さらに好ましくは15/1〜5/1程度である。各導電層の厚みは、1〜500μm、好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜100μm程度である。基材シートの厚みは、10〜5000μm、好ましくは50〜3000μm、さらに好ましくは100〜1000μm程度である。
【0046】積層シートは、ヒートラミネーションやドライラミネーション等の方法により調製してもよいが、基材シートと導電層とを共押出法により調製するのが好ましい。尚、ラミネーション法においては、必ずしも接着剤を必要としない。
【0047】[二次成形品]このようにして得られたシートは、例えば、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、圧空成形、マッチモールド成形、熱板成形等の慣用の熱成形などで二次成形することができる。シートは、必要により発泡していてもよい。二次成形品としては、例えば、食品用容器、薬品用容器、トレー、エンボステープ、マガジン等が挙げられる。
【0048】シートや二次成形品の表面は、表面処理(例えば、コロナ放電やグロー放電等の放電処理、酸処理、焔処理等)を行ってもよい。シートや二次成形品の表面は、帯電防止するために、導電処理又は帯電防止処理(例えば、帯電防止剤、金属酸化物などの導電性付与剤の塗布や混練)や、導電性被膜又は帯電防止層(例えば、導電性インキによる被膜など)を形成してもよい。
【0049】本発明のシートは、優れた帯電防止性を有するとともに、成形性や機械的特性にも優れるので、前記二次成形品の中でも、半導体や電子部品、特にICやICを用いた電子部品を収容するための収容凹部を有する搬送用成形品[例えば、電子部品搬送用トレー(インジェクショントレー、真空成形トレー等)、マガジン、キャリアテープ(エンボスキャリアテープなど)等]に有用である。
【0050】
【発明の効果】本発明では、切削や打ち抜き加工時のバリや切粉の発生や、二次成形時のノッチや割れの発生が抑制された導電性樹脂組成物を得ることができる。この導電性樹脂組成物は、成形性に優れるとともに、耐衝撃性や強度等の機械的特性にも優れるため、半導体や電子部品等を収容又は搬送するための容器や包装材料として好適である。
【0051】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。なお、実施例における各評価項目の評価方法、及び用いた各成分の内容は以下の通りである。
【0052】[メルトインデックス]ストランドカットにより得られたペレットをメルトインデクサーL244(宝工業(株)製)を用いて測定した。ペレットを200℃で5kg重(49N)の荷重をかけ、内径2mmのノズルから所定時間排出される樹脂重量を測定し、これを10分間に排出される樹脂の重量に換算してMI値とした。
【0053】[表面固有抵抗]ペレット化した樹脂を直径25mmの押出機を用いて120mm幅のTダイにより、厚さ300μmのシート状に成形して測定した。ロレスター表面抵抗計(三菱化学(株)製)により内円の外径6mm、外円の内径11mmの環状電極を用いてサンプル中任意の10点を測定し、その対数平均値を表面固有抵抗値とした。
【0054】[成形品の耐折強度]エンボス加工したキャリアテープをエンボスの凸部が外側になるように手で180°折り曲げ、元に戻す操作を繰り返し、割れが発生するまでの回数を測定した。
【0055】[バリの発生頻度]フランジ部に開けた穴を任意に100点選び、顕微鏡観察により、幅が100μm以上のバリの発生件数を数えた。
【0056】[各成分の略号及び詳細]
HIPS−1:高衝撃ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、トーヨースチロールH610)
HIPS−2:高衝撃ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、トーヨースチロールH53C)
HIPS−3:高衝撃ポリスチレン(東洋スチレン(株)製、トーヨースチロールE640)
滑剤:ステアリルステアレート(理研ビタミン(株)製、リケマールSL−800)
CB:カーボンブラック(三菱化学(株)製、♯3030B)
EEA:エチレン−エチルアクリレート共重合体(日本ユニカー(株)製、NUC−6170)
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(住友化学(株)製、エバテートK4011)
SBS:スチレン−ブタジエンブロック共重合体(旭化成(株)製、タフプレン126)
SEBS:スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(旭化成(株)、タフテックH1051)
SBBS:スチレン−ブタジエン−ブチレン共重合体(旭化成(株)、タフテックJT82P)
SEPS−1:スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(クラレ(株)、セプトン2104)
SEPS−2:スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(クラレ(株)、セプトン2043)
PE・E:ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン(株)、ハイトレル4057)。
【0057】実施例1〜17及び比較例1〜7表1及び表2に示す割合で各成分をタンブラーを用いてドライブレンドした後、直径30mmの二軸押出機(L/D=32)によって、シリンダー温度210℃で溶融混練した後、ストランドカット法によりペレット化し、導電性樹脂組成物を得た。HIPS−3:90重量部とSB:10重量部とをタンブラーでドライブレンドして基材層を構成する樹脂組成物を得た(MI=3.1g/10分)。
【0058】多層押出機(二種三層押出機)を用いて、直径65mmの一軸押出機(L/D=32)に基材層を構成する樹脂組成物をシリンダー温度210℃で仕込み、直径50mmの一軸押出機(L/D=28)に前記導電性樹脂組成物をシリンダー温度210℃で仕込み、フィードブロック内で、基材層の両面に導電層を合流させて、積層し、Tダイキャスト法によりダイ温度210℃でシート状に押出した後、冷却ロールによって冷却して、総厚み300μm(厚み比:導電層/基材層/導電層=20μm/260μm/20μm)の積層シートを得た。このシートを幅24mmにスリットし、熱プレス成形により、片側に4mm幅、もう一方の側に1mm幅のフランジ部を設け、縦11mm、幅19mm、深さ3mmのエンボス加工を施し、キャリアテープを得た。4mm幅フランジ部に穴の中心から中心までの距離が4mmとなるように等間隔に直径1.5mmの送り穴を設けた。また、エンボス間の間隔を5mmとした。得られたシート及びキャリアテープの評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】


【0060】
【表2】


【0061】表1及び表2の結果より、実施例では、導電性に優れ、強度が高く、かつバリの発生も少ない。これに対して、比較例1では、強度が低く、比較例2〜7では、バリの発生が多い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)スチレン系樹脂、(B)導電剤及び(C)衝撃改良剤を含む樹脂組成物であって、(C)衝撃改良剤の割合が(A)スチレン系樹脂100重量部に対して11〜44重量部であり、メルトインデックス(MI)が3.5g/10分以上である導電性樹脂組成物。
【請求項2】 (C)衝撃改良剤が熱可塑性エラストマーである請求項1記載の組成物。
【請求項3】 (C)衝撃改良剤が、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマー、(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマー及び(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも一種である請求項1記載の組成物。
【請求項4】 (C1)スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン−ジエン系ブロック共重合体及び水添スチレン−ジエン系ブロック共重合体から選択された少なくとも一種である請求項3記載の組成物。
【請求項5】 (C2)オレフィン系熱可塑性エラストマーが、オレフィンと、(メタ)アクリル系単量体及びビニルエステル系単量体から選択された少なくとも一種の単量体との共重合体である請求項3記載の組成物。
【請求項6】 (A)スチレン系樹脂及び(C)衝撃改良剤中の硬質成分と軟質成分との割合(重量比)が、硬質成分/軟質成分=95/5〜50/50である請求項1記載の組成物。
【請求項7】 (C)衝撃改良剤が、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマーと、(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマー及び(C3)ポリエステル系熱可塑性エラストマーから選択された少なくとも一種とで構成され、(C2)成分及び(C3)成分の総量に対する(C1)成分の割合(重量比)が、(C1)/(C2+C3)=5/1〜1/20である請求項1記載の組成物。
【請求項8】 (B)導電剤が導電性カーボンブラックである請求項1記載の組成物。
【請求項9】 (B)成分の割合が、(A)成分100重量部に対して5〜50重量部である請求項1記載の組成物。
【請求項10】 表面固有抵抗が1×1011Ω/□以下である請求項1記載の組成物。
【請求項11】 (A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)導電性カーボンブラック及び(C)衝撃改良剤を含む樹脂組成物であって、(A)成分100重量部に対して(B)成分10〜40重量部及び(C)成分15〜40重量部の割合で含み、メルトインデックス(MI)が3.5〜10g/10分、表面固有抵抗が1×101〜1×108Ω/□である導電性樹脂組成物。
【請求項12】 (A)スチレン系樹脂、(B)導電剤及び(C)衝撃改良剤を含む樹脂組成物であって、(C)衝撃改良剤が、(C1)スチレン系熱可塑性エラストマー及び(C2)オレフィン系熱可塑性エラストマーの組合せ、又は(C3)ポリエステル系エラストマーで構成されている導電性樹脂組成物。
【請求項13】 少なくとも導電層で構成されたシートであって、前記導電層が請求項1記載の組成物で形成されたシート。
【請求項14】 スチレン系樹脂で構成された基材シートの両面に導電層が形成されている請求項13記載のシート。
【請求項15】 請求項13記載のシートで形成された成形品。
【請求項16】 電子部品の収容や搬送に用いられる請求項15記載の成形品。

【公開番号】特開2002−256125(P2002−256125A)
【公開日】平成14年9月11日(2002.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−54760(P2001−54760)
【出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】