説明

導電性熱可塑性樹脂組成物

【課題】 導電性と耐衝撃性のバランスに優れ、更には流動性、外観、塗装膜密着性にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関し、電機、電子、自動車をはじめとする広範囲の分野に利用できる導電性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】成分(A):ポリアミド樹脂、成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物及び/又はエチレン−α−オレフィン系共重合体、成分(C):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物に、不飽和酸及び/又はその誘導体を付加させた変性水素化ブロック共重合体、成分(D):導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリル、並びに成分(E):エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物、を含有してなる導電性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性と耐衝撃性のバランスに優れ、更には流動性、外観、塗装膜密着性にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、電機、電子、自動車をはじめとする広範囲の分野に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成形性、耐薬品性、引っ張り強さ、曲げ強さ等の機械的性質や、耐摩耗性等に優れているので、電気・電子部品、機械部品、自動車部品等広範な分野で使用されている。さらに、近年、電気・電子部品を中心とした静電気防止や電磁波シールドの用途、自動車外装材を中心とした静電塗装用途において、電気絶縁性であるポリアミド樹脂に導電性を付与することが求められ、自動車外装材の用途等においては高い耐衝撃性が必要とされている。
【0003】
一般的に熱可塑性樹脂に添加される導電性物質としては、イオン性界面活性剤、非イオン性の界面活性剤、ポリエチレングリコール単位やイオン性官能基を有する高分子帯電防止剤等の有機化合物の他に、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属粉未、金属酸化物等の無機物等が挙げられ、特に、少量の導電性物質の添加で高い導電性が発現し、良好な外観が得られることから、導電性カーボンブラックや中空炭素フィブリルが広く使用されている。
【0004】
一方、ポリアミド樹脂の耐衝撃性を向上させる手段として、ゴム状重合体を添加することが広く行われており、相溶性を高めるために不飽和カルボン酸又はその誘導体でゴム状重合体を変性することが公知の技術として知られている。例えば、ポリアミド樹脂と変性水素化ブロック共重合体からなる組成物が開示されており(特許文献1)、さらに(A)ポリアミド樹脂、(B)酸変性エラストマー、(C)導電性フィラーを含有する表面平滑性、靭性、押出成形性、制電性等に優れたポリアミド樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。しかしながら、前記のような従来技術では、導電性と耐衝撃性のバランスは十分とはいえず、高い導電性を発揮させるために導電性カーボンブラックを増量すると、その結果、耐衝撃性が著しく低下し、成形加工性(流動性)も低下する等の問題点があった。
【0005】
また、(a)ポリアミド樹脂、(b)ビニル芳香族化合物重合体ブロックAとオレフィン化合物重合体ブロックBとの水素化ブロック共重合体、(c)前記水素化ブロック共重合体にカルボン酸又はその誘導体基が付加した変性ブロック共重合体より成り、耐衝撃性に優れ、かつ弾性率、耐熱性、ウェルド部強度等の物性バランスが良好で、成形性及び成形品外観の改良されたポリアミド樹脂組成物(特許文献3)や、(A)特定の末端基のポリアミド樹脂、(B)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との水素化ブロック共重合体、(C)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との水素化ブロック共重合体にカルボン酸基又はその誘導体基が結合されている変性ブロック共重合体、(D)エチレン−α−オレフィン系共重合体、(E)末端のみに酸無水基を有するオレフィン系ポリマーからなる低温衝撃性の改良されたポリアミド樹脂組成物(特許文献4)の記載があり、これらの組成物に帯電防止剤等の添加剤を任意の成分として配合できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの発明は、前記成分の組み合わせによる効果を意図したものであり、実施例において導電剤を配合した例もなく、具体的な導電性と耐衝撃性のバランスの改善効果については全く言及されていない。また、特許文献2に変性エラストマー以外のエラストマーをエラストマー成分中の10〜90重量%の範囲で併用してもよいとの記載があるが、併用することによる具体的な導電性と耐衝撃性のバランスの改善効果については何ら言及されておらず、導電性と耐衝撃性のバランスに優れ、かつ流動性に優れたものが強く求められていた。
【0007】
さらに、特許文献5にはポリアミド樹脂(A)には、エチレン−アクリル酸共重合体およびエチレン−ビニルアルコール共重合体を代表とする、オレフィン類と不飽和基および極性基を併せ持つ化合物との共重合体(B)、および導電性物質(C)を配合してなる組成物が開示されており、該組成物は、機械的特性、流動性、および導電性などの電気的特性に優れると記載されている。
【0008】
これに対して本発明者らは、成形時の離型性を向上させ、離型不良痕の成形品表面への残留を抑制し、良好な外観の成形品を得るために更に検討を重ねた。
【0009】
【特許文献1】特公昭63−44784号公報
【特許文献2】特開平10−292106号公報
【特許文献3】特公平7−26019号公報
【特許文献4】特許第3330398号公報
【特許文献5】特開2003−64254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリアミド樹脂の導電性を改善し、かつ耐衝撃性に優れ、流動性、外観、塗装膜密着性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次の樹脂組成物は、導電性、耐衝撃性に優れ、流動性、外観および塗装膜密着性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
成分(A):ポリアミド樹脂、
成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物及び/又はエチレン−α−オレフィン系共重合体、
成分(C):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物に、不飽和酸及び/又はその誘導体をブロック重合体の水素添加物100重量部に対し、0.3〜2.5重量部付加させた変性水素化ブロック共重合体、
成分(D):ジブチルフタレート吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリル、並びに、
成分(E):エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物
を含有してなる組成物において、上記各成分を、成分(A)と成分(B)、(C)の重量比(A)/((B)+(C))が90/10〜50/50であり、成分(B)と成分(C)の重量比(B)/(C)が10/90〜90/10であり、かつ、
成分(D)を成分(A)100重量部に対して1〜15重量部、成分(E)を成分(A)、(B)、(C)および(D)の合計100重量部に対して0.5〜20重量部の比率で配合したものであることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、導電性と耐衝撃性のバランスに優れ、更には流動性、外観、塗装膜密着性にも優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、電機、電子、自動車をはじめとする広範囲の分野に利用できるものである。
【0014】
特に、成分(E):エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物を含有させることにより、組成物の溶融流動性や離型性を損なうことなく、該組成物からなる成形品表面の塗装膜密着性が著しく向上する。そのため、静電塗装を施す成形品において、特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ポリアミド樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(A)のポリアミド樹脂は、主鎖に−CONH−結合を有し、加熱溶融できる脂肪族ポリアミド樹脂である。その代表的なものとしては、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−6・6、ナイロン−4・6、ナイロン−12、ナイロン−6・10、その他公知のジアミン、ジカルボン酸等の単量体成分を含むポリアミド樹脂が挙げられる。好ましいポリアミド樹脂は、ナイロン−6およびナイロン−6・6である。
【0016】
ポリアミド樹脂は、温度23℃、98重量%濃硫酸中、ポリアミド樹脂濃度1重量%で測定した相対粘度が2.1〜3.5の範囲のものが好ましい。相対粘度が2.1未満であると剛性、寸法安定性、耐衝撃性、外観が劣り、3.5を超えると成形性が低下する傾向があり外観不良となる可能性がある。また、末端基の濃度としては、末端カルボキシル基含量が100μeq/g以下のものが好ましく、末端カルボキシル基含量と末端アミノ基含量の比(末端カルボキシル基含量/末端アミノ基含量)が0.8〜4の範囲のものが好ましい。この比が0.8未満では流動性が低下したり外観不良となるおそれがあり、4を超えると耐衝撃性が不足する場合がある。
<ブロック共重合体の水素添加物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(B)及び成分(C)のブロック共重合体の水素添加物とは、ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物で、主にブロックb中の脂肪族不飽和結合数が水素化により減少したブロック共重合体である。
【0017】
また、成分(B)及び成分(C)のブロック共重合体の水素添加物は同じであっても、異なっていてもよいが、成分(B)のブロック共重合体の水素添加物は、官能基で変性されていないものである。ブロックa及びブロックbの配列は、線状構造のもの、又は分岐構造(ラジアルテレブロック)のものを含む。また、これらの構造のうちで一部にビニル芳香族化合物と共役ジエン系化合物とのランダム共重合部分に由来するランダム鎖を含んでいてもよい。これら構造のうちでも線状構造のものが好ましく、a−b−a型のトリブロック構造のものが、耐衝撃性の点で特に好ましく、a−b型のジブロック構造のものを含んでいてもよい。
【0018】
成分(B)及び成分(C)のビニル芳香族化合物重合体ブロックaを構成する単量体、ビニル芳香族化合物は、好ましくはスチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等であり、更に好ましくは、スチレンである。また、共役ジエン系化合物重合体ブロックbを構成する単量体、すなわち共役ジエン系化合物は、好ましくは1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンである。
【0019】
これらブロック共重合体の水素添加物における、ビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位の占める割合は、10〜70重量%の範囲が好ましく、10〜40重量%の範囲がより好ましい。該ブロック共重合体の水素添加物が有する不飽和結合をみるに、共役ジエン系化合物に由来する脂肪族不飽和結合のうち、水素添加されずに残存している割合は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。また、ビニル芳香族化合物に由来する芳香族性不飽和結合の約25%以下が水素添加されていてもよい。
【0020】
このようなブロック共重合体の水素添加物としては、共役ジエン系化合物重合体ブロックbを構成する単量体、すなわち共役ジエン系化合物が、1,3−ブタジエンの場合は、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)と称され、また2−メチル−1,3−ブタジエンの場合は、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)と称され、種々のa−b−a型のトリブロック構造のものが市販されていて、容易に入手可能である。
【0021】
これら成分(B)及び成分(C)において、ブロック共重合体の水素添加物の数平均分子量は、180,000以下のものが好ましく、120,000のものがより好ましい。分子量が180,000を超えると、成形加工性が低下する傾向があり、外観が悪化する可能性がある。
<エチレン−α−オレフィン系共重合体>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(B)のエチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレン及びα−オレフィンを必須成分とするゴム状共重合体であり、官能基で変性されていないものをさす。エチレンとα−オレフィンの重量比は通常90:10〜20:80であり、好ましくは75:25〜40:60の範囲のものである。
【0022】
共重合に用いられるα−オレフィンは、炭素数3〜20個を有する不飽和炭化水素化合物であり、具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1等等が挙げられ、好ましくは炭素数3〜10の直鎖状のα−オレフィンであり、特に好ましいのはプロピレン、1−ブテン、1−オクテンである。
【0023】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(B)のエチレン−α−オレフィン系共重合体としては、エチレンと上記α−オレフィンの他にジエン化合物を共重合した重合体中に不飽和基を導入したものを用いることができる。用いられるジエン化合物の種類は、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類であり、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。
【0024】
これらエチレン−α−オレフィン系共重合体としては、メルトフローレート(MFR)(ASTM−D1238、230℃、荷重2.16kg)は、0.05〜150g/10分の範囲が好ましく、0.1〜50g/10分の範囲がより好ましい。MFRの値が0.05より低いと成形加工性が低下する傾向があり、150以上では耐衝撃性が不充分となるおそれがある。
<変性水素化ブロック共重合体>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(C)の変性水素化ブロック共重合体を得るためのグラフト変性剤、不飽和酸及び/又はその誘導体のうち、不飽和酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸等のα,β−不飽和カルボン酸が挙げられる。また、その誘導体としては、上記各種不飽和酸の酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、エステル等があり、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル等が挙げられる。
【0025】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物が好ましく、特にマレイン酸、イタコン酸又はこれらの酸無水物が好適である。これらの不飽和酸又はその誘導体は、1種又は2種以上で使用される。
【0026】
成分(C)において、変性ブロック共重合体に付加した不飽和酸及び/又はその誘導体の付加量は、ブロック共重合体の水素添加物100重量部に対し、0.3〜2.5重量部である。付加量が0.3重量部未満では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が劣り、2.5重量部を超えると導電性の改善効果が低くなるので好ましくない。
【0027】
前述の成分(C)のブロック共重合体の水素添加物に、上記のグラフト変性剤、不飽和酸及び/又はその誘導体を付加させて、効率的に変性水素化ブロック共重合体を得るには、ラジカル発生剤を使用することが好ましい。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等をあげることができる。
【0028】
具体的には、有機過酸化物としては、(イ)ハイドロパーオキサイド類:例えば、t−ブチル−ハイドロパーオキサイド、キュメン−ハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチル−ハイドロパーオキサイド、p−メンタン−ハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等;(ロ)ジ−アルキルパーオキサイド類:例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチル−パーオキサイド、t−ブチル−キュミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−キュミルパーオキサイド等;(ハ)パーオキシケタール類:例えば、2,2−ビス−t−ブチルパーオキシ−ブタン、2,2−ビス−t−ブチル−パーオキシ−オクタン、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−シクロヘキサン、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等;(ニ)パーオキシエステル類:例えば、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ−ベンゾイルパーオキシ−ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等;(ホ)ジアシルパーオキサイド類:例えば、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等がある。
【0029】
またアゾ化合物としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−〔(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ〕ホルムアミド、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)等がある。その他のラジカル発生剤としてジクミルを挙げることができる。
【0030】
これらのラジカル発生剤のうちでも特に好ましいのは、10時間での半減期温度が120℃以上のラジカル発生剤である。10時間での半減期温度が120℃未満のものでは、寸法安定性や耐衝撃性が不足する可能性がある。
<導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリル>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(D)として、ジブチルフタレー卜吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリルを選択する。これら両種の導電剤は、導電性と耐衝撃性のバランスの点で、好ましく用いられる。
【0031】
ジブチルフタレー卜吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラックとは、ASTM D2414に準拠して測定されるジブチルフタレー卜(DBP)吸油量が、200ml/100g以上のカーボンブラックであり、より好ましいのは400ml/100g以上である。この様な物性を備えたカーボンブラックとしては、ペイント等に着色目的で加える顔料用カーボンブラックとは違って、微細な粒子が連なった形態のものである。好ましい導電性カーボンブラックとしては、アセチレンガスを熱分解して得られるアセチレンブラック、原油を原料としファーネス式不完全燃焼によって製造されるケッチェンブラック等が挙げられる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(D)の中空炭素フィブリルとは、規則的に配列した炭素原子の本質的に連続的な多数層からなる外側領域と、内部中空領域とを有し、各層と中空領域とが実質的に同心に配置されている、本質的に円柱状のフィブリルである。さらに、上記外側領域の規則的に配列した炭素原子が黒鉛状であり、上記中空領域の直径が2〜20nmの範囲のものが好ましい。このような中空炭素フィブリルは、特表昭62−500943号公報や、米国特許第4,663,230号明細書等に詳細に記載されている。その製法は、後者の米国特許明細書に詳細に記載されているように、例えば、アルミナを支持体とする鉄、コバルト、ニッケル含有粒子等の遷移金属含有粒子を、一酸化炭素、炭化水素等の炭素含有ガスと、850〜1200℃の高温で接触させ、熱分解によって生じた炭素を、遷移金属を起点として、繊維状に成長させる方法が挙げられる。また、この種の中空炭素フィブリルは、ハイペリオン・カタルシス社が、グラファイト・フィブリルという商品名で販売しており、容易に入手することができる。
<エチレン−ビニルアルコール共重合体>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(E)のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、(E1)と称することがある)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物であって、該共重合体に含まれる酢酸ビニル残基のケン化度が97モル%以上のものを意味する。(E1)中のエチレン残基の含有率は、10〜98モル%の範囲が好ましく、20〜70モル%の範囲がより好ましい。エチレン残基含有率が98モル%を超えると、該共重合体(E1)を含む樹脂組成物から得られる成形品の塗装膜密着性が低下する場合があり、10モル%未満では、得られる樹脂組成物の熱安定性が不充分となるおそれがあり、また柔軟性が低下する可能性がある。
<エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(E)のエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物(以下、(E2)と称することがある)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル残基のケン化度が97モル%未満のものを意味する。ケン化度の下限値は、特に制限はないが、通常40モル%以上である。ケン化度が40モル%より低いと、得られる樹脂組成物の溶融時の熱安定性が低下する傾向がある。(E2)はのケン化度は、80モル%以上が好ましい。
【0033】
このような組成を有する(E2)は、これを含む樹脂組成物の溶融流動性および強度の観点から、JIS−K6730に準じて測定したMFR(メルトフローレート)が0.5〜300g/10分が好ましく、0.8〜250g/10分のものがより好ましい。
【0034】
成分(E1)のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および成分(E2)のエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物(以下、成分(E)と総称する)は、いずれも必要に応じて、他の単量体(化合物)が少量共重合していてもよい。共重合可能な単量体としては、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセンなどのα−オレフィン;不飽和カルボン酸、その塩、部分アルキルエステル、完全アルキルエステル、および酸無水物;アクリロニトリル;アクリルアミド;不飽和スルホン酸またはその塩などが挙げられる。成分(E)分子におけるこれら任意の単量体残基の割合は、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下程度である。
<導電性改良助剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、さらに導電性改良助剤(成分(F))を含有していても良い。導電性改良助剤(成分(F))と、具体的にはニグロシン(成分(F1))、半芳香族ポリアミド樹脂(成分(F2))、ノボラックフェノール樹脂、ハロゲン化リチウムなどが挙げられる。中でも、剛性、耐衝撃性のバランスの点から、ニグロシン(F1)、および半芳香族ポリアミド樹脂(F2)がより好ましい。
【0035】
ここで導電性改良助剤(F)の一例であるニグロシン(F1)とは、COLOR INDEXにC.I.SOLVENT BLACK5およびC.I.SOLVENT BLACK7として記載されているような、トリフェナジンオキサジン、フェナジンアジン系化合物の黒色アジン系縮合混合物である。市販はされているニグロシンの例としては、ヌビアンブラックEP−3、ヌビアンブラックPA−9800、ヌビアンブラックPA0800(いずれも、オリエント化学工業社製)が挙げられる。この中でもヌビアンブラックEP−3が、導電性改良効果がとりわけ大きいので好ましい。
【0036】
導電性改良助剤(F)としてのニグロシン(F1)の含有量は、成分(A)100重量部に対して0.05〜30重量部の範囲で選ぶのが好ましい。ニグロシン(F1)の配合量が0.05重量部より少ないと導電性改良効果が小さく、配合量が30重量部より多いと、最終樹脂組成物の熱安定性や耐熱性の低下、さらに溶融流動性の低下や離型性の低下などの原因となるおそれがある。ニグロシン(F1)のより好ましい配合量は、0.1〜20重量部である。
【0037】
また、導電性改良助剤(F)としての半芳香族ポリアミド樹脂(F2)としては、脂肪族2塩基酸類と芳香族ジアミン類、または芳香族2塩基酸類と脂肪族ジアミン類を原料として、これらの重縮合によって得られるポリアミド樹脂をいう。具体的には、原料の脂肪族2塩基酸類としては、アジピン酸、グルタール酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。芳香族ジアミン類としては、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミンが挙げられる。芳香族2塩基酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸が挙げられる。脂肪族ジアミン類としては、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(又は2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス−(4,4'アミノシクロヘキシル)メタンが挙げられる。
【0038】
これらの半芳香族ポリアミド樹脂のうち、テレフタル酸および/またはイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンを主成分とするポリアミド樹脂、すなわち、ポリアミド6T、ポリアミド6I、または6I/6T共重合ポリアミドなど、またメタキシレンジアミンおよび/またはパラキシレンジアミンとアジピン酸を主成分とするポリアミド樹脂が、導電性助長効果に併せて成形品の外観改良効果も大きいことから特に好ましい。
【0039】
導電性改良助剤(F)としての半芳香族ポリアミド樹脂(F2)の配合量は、成分(A)100重量部に対して1〜50重量部の範囲で選ぶのが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(F2)の配合量が1重量部より少ないと導電性改良効果が小さく、配合量が50重量部より多いと、最終樹脂組成物の耐熱性の低下、溶融流動性の低下、成形時の離型性低下などの原因となる場合がある。半芳香族ポリアミド樹脂(F2)のより好ましい配合量は、2〜30重量部である。
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物における、成分(A):ポリアミド樹脂、成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物、及び/又は、エチレン−α−オレフィン系共重合体、成分(C):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物に、不飽和酸及び/又はその誘導体をブロック重合体100重量部に対し、0.3〜2.5重量部付加させた変性水素化ブロック共重合体、並びに、成分(D):ジブチルフタレート吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリルは、各々、上記各成分を、成分(A)と成分(B)、(C)の重量比(A)/((B)+(C))が90/10〜50/50であり、成分(B)と成分(C)の重量比(B)/(C)が10/90〜90/10であり、かつ、成分(D)の量が成分(A)100重量部に対して1〜15重量部の比率で、組成物中に含有される。
【0040】
成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部中で、(A)が90重量部を超え、(B)+(C)が10重量部未満の場合、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が劣り、逆に、(A)が50重量部未満で(B)+(C)が50重量部を超えると熱可塑性樹脂組成物の外観や流動性が低下し、さらにマトリックス−ドメイン構造が逆転し導電性が低下するので好ましくない。
【0041】
成分(B)と(C)の合計100重量部中で、(B)が10重量部未満では導電性の改善効果が低く、(C)が10重量部未満では耐衝撃性に劣る。従って、成分(B)と(C)は重量比10/90〜90/10の範囲内で併用されることが必須であり、より好ましくは成分(B)と(C)は重量比50/50〜90/10の範囲である。
【0042】
次に、成分(D)については、成分(A)100重量部に対して1重量部未満では、導電性の改善効果が低く、成分(D)が15重量部を超えると流動性や外観、耐衝撃性が低下するので好ましくない。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる成分(E)の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)の合計量100重量部に対して0.5〜20重量部である。成分(E)の配合量が0.5重量部より少ないと、本発明に係るポリアミド樹脂組成物から得られる成形品の塗装装密着性の改善効果が少なく、20重量部より多いと、ポリアミド樹脂(A)や変性水素化ブロック共重合体(C)との反応が進み、最終樹脂組成物の溶融時流動性が低下する。成分(E)の好ましい配合量は1〜15重量部であり、より好ましいのは2〜10重量部である。
【0044】
さらに、塗装性密着性を付与するために、成分(E)として、エチレン−ビニルアルコール共重合体および/またはエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物を、成分(A)、(B)、(C)、および(D)成分の合計量100重量部に対して、0.5〜20重量部の比率で含有する。成分(E)の配合量が0.5重量部より少ないと、密着性の改善効果が発揮されないし、20重量部より多いと、流動性が悪く、溶融時の熱安定性も悪化する。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造は、溶融混合法が好ましく、溶融混合の代表的な方法として、熱可塑性樹脂について一般に実用化されている溶融混練機を使用する方法が挙げられる。溶融混練機としては、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0046】
混練押出機を使用する方法によるときは、成分(A)、(B)及び(C)を予め混合して、混練押出機の上流部分に一括投入し、溶融状態で反応させ、続けて混練押出機の中流部分で成分(D)を投入して溶融反応物と混合させる方法、あるいは、成分(A)の一部又は全量の溶融物と成分(D)を予め混合して、マスターバッチを作成し、このマスターバッチと成分(A)〜(C)とを混合して混練押出機に投入し、溶融状態で反応させ熱可塑性樹脂組成物のペレットとする方法が挙げられる。また、成分(A)、(B)、(C)及び(D)を予め混合して、混練押出機の上流部分に一括投入し、溶融状態で反応させ熱可塑性樹脂組成物のペレットとする方法も挙げられる。
【0047】
これらの方法の中で、導電性と耐衝撃性のバランスから、予め成分(A)、(B)及び(C)を溶融反応させ、その溶融反応物に成分(D)を配合し混練する方法や、予め成分(A)と成分(D)をマスターバッチ化し混練する方法が好ましい。
【0048】
また成分(E)および(F)は任意の段階で配合することが可能だが、好ましくは成分(F)は成分(B)と同じタイミングで配合し、溶融混練物とする事が、また成分(E)は、成分(A)〜成分(D){或いは更に成分(F)}の溶融混練であるペレットに、成分(E)のペレットをドライブレンドして配合する事が好ましい。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の成分以外に他の各種樹脂添加剤を含有させることができる。各種樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、造核剤、発泡剤、難燃剤、耐衝撃改良剤、滑剤、可塑剤、流動性改良剤、染料、有機充填剤、補強剤、分散剤等が挙げられる。なお、液晶ポリマーを含有させると、剛性、耐熱性、寸法精度等の向上に有効である。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形品を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法、すなわち射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等を採用することができる。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、電気機器部品、電子機器部品、自動車部品等の製造用原料として広範囲な分野に利用でき、特に自動車外装部品製造用原料として有用である。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を実施例によって、詳しく説明するが、本発明はこれらの範囲内に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、配合量は重量部を意味する。
【0053】
実施例及び比較例の各樹脂組成物を得るに当たり、次に示す原料を準備した。
1.成分(A):ポリアミド樹脂
ナイロン−6: 三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名−ノバミッド1010J、23℃98%濃硫酸中、樹脂濃度1重量%で測定したときの相対粘度が2.5、末端カルボキシル基含量/末端アミノ基含量比2.6(以下、PA6−1と略す)
2.成分(B):ブロック共重合体の水素添加物、エチレン−α−オレフィン系共重合体
スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS): クレイトンポリマー社製、製品名−クレイトンG1652、スチレン含量29wt%、数平均分子量49,000(以下、SEBSと略す)
エチレン−ブテン共重合体: 三井石油化学工業社製、製品名−タフマーA−4085、MFR(ASTM−D1238、温度=230℃、荷重=2.16kg)=6.7g/10分(以下、EBRと略す)
3.成分(C):変性水素化ブロック共重合体
[変性水素化ブロック共重合体の調製]
SEBSを100重量部、無水マレイン酸を2.5重量部、ラジカル発生剤を0.5重量部を瓶量して、ヘンシェルミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX−30XCT、スクリュウ径30mm、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融反応させ、変性水素化ブロック共重合体C−1を得た。なお、無水マレイン酸としては、三菱化学(株)製の無水マレイン酸を使用し、ラジカル発生剤としては、1,3−ビス(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(化薬アクゾ社製、製品名−パーカドックス14、10時間での半減期温度121℃)を使用した。
【0054】
このようにして得られた変性水素化ブロック共重合体を加熱減圧乾燥した後、ナトリウムメチラートによる滴定で無水マレイン酸の付加量を求めた結果、無水マレイン酸の付加量は1.2wt%であった。
4.成分(D):導電剤(ジブチルフタレート吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラック、中空炭素フィブリル)
導電性カーボンブラック: ライオン社製、製品名−ケッチェンブラックEC600JD、BET法表面積1270m/g、DBP吸油量495ml/100g(以下、CB1と略す)
中空炭素フィブリル: ハイペリオン・カタリシス社製、製品名−PA6/20BN、ナイロン−6を80重量%と中空炭素フィブリルを20重量%とを含有するマスターバッチ(以下、20BNと略す)
比較例用導電性カーボンブラック: 三菱化学社製、製品名−三菱カーボンブラック#3050B、窒素吸着比表面積50m2 /g、DBP吸油量175ml/100g(以下、CB2と略す)
5.成分(E):エチレン−ビニルアルコール樹脂
EVOH G156A:エチレン−ビニルアルコール樹脂(クラレ社製、商品名:エバールG156A、エチレンの共重合比率が47モル%)であって、密度が1.12、MFR(JIS―K6730、温度=190℃、荷重=2.16kg)が6g/10分のものである。(以下、E−1と略す)
EVOH C109:エチレン−ビニルアルコール樹脂(クラレ社製、商品名:エバールC109、エチレンの共重合比率が35モル%)であって、密度が1.17g/cm、MFR(上記E−1と同じ条件で測定)が8g/10分のものである。(以下、E−2と略す)
EVOH H6960:エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(東ソー社製、商品名:メルセンH6960)であって、密度が0.99g/cm、MFR(上記E−1と同じ条件で測定)が40g/10分、融点が113℃、酢酸ビニル含量が4.2重量%、ケン化度が90%のものである。(以下、E−3と略す)
6.成分(F):導電性改良助剤
ニグロシンEP−3:ニグロシン(黒色のアジン系染料、オリエント化学社製、商品名:ヌビアンブラックEP−3)である。(以下、F−1と略す)
X21F07:半芳香族ポリアミド樹脂(6I/6Tの共重合ポリアミド樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバミッドX21F07)である。(以下、F−2と略す)
7.その他
YD5013: ビスフェノール型エポキシ化合物(東都化成社製、商品名:エポトートYD5013)である。(以下、G−1と略す)
AC5120:エチレン・アクリル酸共重合体(ハネウェル社製、商品名:ACワックス5120、アクリル酸含量が9.2重量%)である。(以下、G−2と略す)
[試験片の作製]
熱可塑性樹脂組成物を、射出成形機(東芝IS150)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形して、ASTM試験片及び100mmφ×3mmtの円盤状成形品および塗装膜密着性評価用に100×100mm×3mmtの正方形成形品を作製した。
[評価方法]
(1)流動性(MFR)
JIS K7210に準拠し、温度280℃、荷重5kgの条件でMFR(単位:g/10分)を測定した。
(2)曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
(3)耐衝撃性(アイゾッド衝撃強度)
ASTM D256に準拠し、厚さ3.2mm、ノッチ付きの試験片でアイゾッド衝撃強度(単位:J/m)を測定した。
(4)導電性(体積抵抗率)
ASTM2号ダンベル試験片(厚さ3mm)の平行部分を長さ50mmとなるように両端を切断し、切断により生じた両端面に銀ペーストを全面塗布し、室温で乾燥した後に、テスターで該両端面間の抵抗値(RL:単位Ω)を測定し、体積抵抗率R(単位:Ωcm)を、次式より算出した。
【0055】
R=RL×AL/L
(式中、ALは、試験片の断面積(単位:cm)を、Lは、試験片の長さ(単位:cm)を意味する。)
(5)外観
円盤状成形品の表面外観を目視にて観察し、離型不良痕やシルバーストリークなどの外観不良がないかを評価し、それらの外観不良がある場合には×、ない場合には○として評価した。
(6)塗装膜密着性(%)
大きさが100mm×100mmで、厚さが3mmの正方形の板状試験片を準備し、まず、試験片の表面にアクリル・ウレタン系塗料(オリジン電気社製、OP−Z−NY)を塗布し、80℃の温度で60分間焼き付けた。ついで、焼き付けた後の塗装膜面に、一辺が1mm幅で碁盤目状のスリットを100マス刻設した。塗装膜面にセロハンテープを張り付け、このセロハンテープを剥がした際に塗装膜面が共に剥がれるか否かを目視観察した。塗装膜面がセロハンテープによって剥がされず、試験片の表面に残ったマスの残存率(%)で表した。この値が大きいほど、塗装膜密着性に優れている。
[実施例、比較例の組成物の製造方法]
[実施例1〜5]
まず、成分(A)、(B)、(C)を、タンブラーミキサーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX−30XCT、L/D=42、バレル数12)を用いて、当該混合物をバレル1より投入、成分(D)は、バレル5よりサイドフィードして、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて、溶融混練した。
【0056】
次いで、この成分(A)、(B)、(C)、(D)を溶融混練して得たペレットに成分(F)のペレットをタンブラーミキサーにて混合し、このドライブレンド物を用いて、成形及び評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例6、7]
成分(A)、(B)、(C)をタンブラーミキサーにて混合する際に、成分(F)も同時に配合した以外は、実施1と同じ方法にて製造した。結果をに示す。
[比較例1]
成分(E)を配合しなかった以外は、実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
[比較例2、3]
成分(A)を配合する時に、同時に成分(G)を配合し、成分(E)を配合しなかった以外は実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】


[実施例、比較例の品質評価結果]
上記手法により求められた組成物の評価結果は以下の通りであった。
[実施例1〜5と比較例1〜3]
実施例1〜5は成分(F)を配合しなかった比較例1或いは他の塗装性改良剤である成分(G)を配合した比較例2,3に比べ、耐衝撃、導電性を保持したまま、外観、塗装膜密着性に優れている事が分かる。
[実施例1と実施例6、7]
実施例1の組成物に成分(G)を配合した実施例6、7では、更に導電性も改良されていることが分かる
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、導電性を改善し、かつ耐衝撃性に優れ、流動性、外観、塗装膜密着性にも優れた熱可塑性樹脂組成物であり、電気・電子部品、機械部品、自動車部品等広範な分野で使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):ポリアミド樹脂、
成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物及び/又はエチレン−α−オレフィン系共重合体、
成分(C):ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体の水素添加物に、不飽和酸及び/又はその誘導体をブロック重合体の水素添加物100重量部に対し、0.3〜2.5重量部付加させた変性水素化ブロック共重合体、
成分(D):ジブチルフタレート吸油量が200ml/100g以上の導電性カーボンブラック及び/又は中空炭素フィブリル、並びに、
成分(E):エチレン−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物
を含有してなる組成物において、上記各成分を、成分(A)と成分(B)、(C)の重量比(A)/((B)+(C))が90/10〜50/50であり、成分(B)と成分(C)の重量比(B)/(C)が10/90〜90/10であり、かつ、
成分(D)を成分(A)100重量部に対して1〜15重量部、成分(E)を成分(A)、(B)、(C)および(D)の合計100重量部に対して0.5〜20重量部の比率で配合したものであることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(B)及び成分(C)のブロック共重合体の水素添加物は、いずれも、ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとで形成された、a−b−a型のトリブロック構造を有する、請求項1記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(C)が、ラジカル発生剤の存在下で不飽和酸及び/又はその誘導体を付加させた変性水素化ブロック共重合体である、請求項1または2記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(A)が、温度23℃、98重量%濃硫酸中、ポリアミド樹脂濃度1重量%で測定した相対粘度が2.1〜3.5であり、かつ、末端カルボキシル基含量と末端アミノ基含量の比(末端カルボキシル基含量/末端アミノ基含量)が0.8〜4のポリアミド樹脂である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、成分(F1):ニグロシン を、成分(A)100重量部に対して0.05〜30重量部配合してなる、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の導電性熱可塑性樹脂組
成物。
【請求項6】
さらに、成分(F2):半芳香族ポリアミド樹脂 を、成分(A)100重量部に対して1〜30重量部配合してなる、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−28222(P2006−28222A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204864(P2004−204864)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】