説明

導電性薄膜基板及びその製造方法

【課題】導電性パターンを形成する金属膜の膜厚を薄くしつつ、導電性及び基材と導電性パターンとの密着性に優れ、かつ容易に製造することができる導電性薄膜基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材上に、金属又は金属酸化物微粒子が焼結した二次焼結粒子が融着してなる融着薄膜を有し、該融着薄膜の厚さが20〜120nmである導電性薄膜基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板やエレクトロニクスの実装分野、IC回路などにおいて、基材上に導電性の配線(導電性パターン)を施した回路基板が用いられている。このような導電性パターンの製造には、基材上に金属膜をスパッタや蒸着により形成し、その上にフォトレジスト層を形成し、所望のパターンが形成されるマスクを用いた露光によりレジストをパターニング除去し、その後ケミカルエッチングやドライエッチングを行うことで金属膜へのパターニングを行うフォトリソグラフィという手法が行われている。フォトリソグラフィは、高性能かつ微細なパターンの作製が可能である一方、金属膜の形成工程が真空下で行われること、さらにレジスト塗布、露光、レジストパターン形成、金属膜のパターニング、洗浄など工程が煩雑になることなどから、スループットが低く、材料費や設備費用が高くなるといった問題があった。
【0003】
ところで近年、電子デバイス製品分野や光学分野においては小型化の要求が非常に強く、IC回路やTFT素子中に使用されるパターンはナノオーダーの領域にまで微細化が進んでおり、膜厚として100nm以下の金属膜で作製する導電性パターンが要望されるようになっている。また、金属のパターンを利用した光学機能部材として、フォトリソグラフィにより形成される膜厚数10nm程度のパターンが提案されている(例えば、特許文献4及び非特許文献2参照)。しかし、フォトリソグラフィの蒸着などにより膜厚100nm以下の金属膜を製膜する場合、非特許文献3にも説明されるように、金属膜を均一に製膜することは極めて困難であり、数十〜数百nm程度の粒が基材上に島状の構造となって形成されてしまい、金属同士の接触部分が減少し、導電性が著しく減少してしまう場合があった。
【0004】
さらに、導電性パターンの低コスト化や大面積化が要求されており、これを解決するために、印刷法による金属膜の形成手法、パターニング手法が注目されており、金属微粒子を含む印刷用導電性インキを用いて、スクリーン印刷やインクジェット印刷、反転オフセット印刷やマイクロコンタクトプリンティングなどによりパターニング形成を行う報告がなされている(例えば、特許文献1〜3及び非特許文献1参照)。しかし、これらの印刷手法を用いた場合、微細なパターン形成といっても、ミクロンオーダーでのパターン用途に供される程度のものであり、形成される金属膜の膜厚は100nm以上のものであった。
【0005】
また、導電性インキを利用した導電性パターン形成においては、低抵抗化を実現するために、i)膜厚を厚くすること、ii)金属微粒子間の不純物や空隙を減少させることの二点に着目し研究が行われていたため、導電性インキの印刷法による100nm以下の金属薄膜形成や導電率の向上に関する検討は極めて少ないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−282924号公報
【特許文献2】特開2008−150601号公報
【特許文献3】特開2006−278845号公報
【特許文献4】特表2008−522226号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】八瀬清志,外2名,「超フレキシブルディスプレイ材料」,工業材料,2009年1月号,p.58−59
【非特許文献2】K.Konishi,外4名,「Effect of surface plasmon resonannce on the optical activity of chiral metal nanogratings」,OPTICS EXPRESS,2007年7月23日,Vol.15,No.15,p.9575−9583
【非特許文献3】「金属物性基礎講座(14)薄膜・微粒子の構造と物性」,日本金属学界,p.139−149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、導電性パターンを形成する金属膜の膜厚を薄くしつつ、導電性及び基材と導電性パターンとの密着性に優れ、かつ容易に製造することができる導電性薄膜基板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、導電性薄膜基板を、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子が焼結して生成した二次焼結粒子を融着させて得られる金属膜(融着薄膜)を有する構造とすることで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0010】
1.基材上に、金属又は金属酸化物微粒子が焼結した二次焼結粒子が融着してなる融着薄膜を有し、該融着薄膜の厚さが20〜120nmである導電性薄膜基板。
2.該焼結粒子の80%以上の粒径が、70nm以下である上記1に記載の導電性薄膜基板。
3.金属又は金属酸化物が、金、銀、酸化銀、銅、酸化銅、表面に酸化層を有する銀及び表面に酸化層を有する銅から選ばれる少なくとも一種である上記1又は2に記載の導電性薄膜基板。
4.金属又は金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が、1〜50nmである上記1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜基板。
5.体積抵抗率が、5×10-4Ω・cm以下である上記1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜基板。
6.基材上に、金属又は金属酸化物微粒子と水及び/又は有機溶媒とを含む塗布液を印刷して印刷層を形成し、焼成処理して融着薄膜を形成する導電性薄膜基板の製造方法であって、該微粒子の平均一次粒子径が1〜50nmであり、該焼成処理がプラズマ雰囲気下で行われ、かつ融着薄膜の厚さが20〜120nm以下である導電性薄膜基板の製造方法。
7.金属又は金属酸化物微粒子が、金、銀、酸化銀、銅、酸化銅、表面に酸化層を有する銀及び表面に酸化層を有する銅から選ばれる少なくとも一種である上記6に記載の導電性薄膜基板の製造方法。
8.プラズマが、不活性ガス雰囲気下及び/又は還元性ガス雰囲気下で発生するものである上記6又は7に記載の導電性薄膜基板の製造方法。
9.プラズマが、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマである上記6〜8のいずれかに記載の導電性薄膜基板の製造方法。
10.上記6〜9のいずれかに記載の導電性薄膜基板の製造方法により得られる導電性薄膜基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性パターンを形成する金属膜の膜厚を薄くしつつ、導電性及び基材と導電性パターンとの密着性に優れ、かつ容易に製造することができる導電性薄膜基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1にかかる本発明の導電性薄膜基板の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1にかかる基板の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[導電性薄膜基板]
本発明の導電性薄膜基板は、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子(以下、単に微粒子ということがある。)が焼結した二次焼結粒子が融着してなる融着薄膜を有するものである。そして、該融着薄膜は、導電性を有する金属膜であり、その厚さが20〜120nmであることを特徴とし、該融着薄膜を基材上にパターン状に設けたものが、導電性パターンとなる。
【0014】
《基材》
本発明において用いる基材としては、通常導電性基板や光学部材に用いられるものであれば特に制限されず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラスなどのガラス基板、アルミナ、シリカなどのセラミックス基板などの無機材料の他、耐熱性を有する樹脂材料で形成された樹脂フィルムなどが挙げられる。
【0015】
樹脂フィルムを形成する樹脂材料としては、融点が200℃以上のものが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。これらのうち、導電性基板用途に関しては、耐熱性、機械強度、電気絶縁性、耐薬品性などの点からポリイミド樹脂が好ましい。また、光学部材用途に関しては、光の透過性、耐熱性、機械強度などの点から無機材料が好ましいが、高分子材料においてはポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0016】
基材の厚さに関しては特に制限はないが、通常無機材料に関しては0.1〜10mm程度、好ましくは0.5〜50mmである。また、樹脂材料に関しては、通常10〜300μmの範囲である。導電性基材用途としては、10μm以上であると導電性層を形成する際に基材の変形が抑制され、導電層の形状安定性の点で有効である。また300μm以下であると、巻き取り工程などを含む場合に、柔軟性などの点で有効であり、好ましい。
【0017】
《金属又は金属酸化物微粒子》
本発明で用いられる金属の種類としては、導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムなどの貴金属;銅、ニッケル、スズ、鉄、クロム、アルミニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、チタン、鉛などの卑金属が挙げられる。
これらのうち、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持できる点から、金、銀、銅、及びニッケルが好ましく、導電性のほか、耐マイグレーション性、広範囲において反射率を有する点などを加味すると、金、銀及び銅が好ましい。
【0018】
これらの金属は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して、又は合金化して使用してもよい。また、金属酸化物としては、酸化銀や、酸化第一銅、酸化第二銅などの酸化銅又はこれらの混合物などが好適に挙げられる。これらのうち、特に銅の化合物が好ましく、とりわけ、銅の酸化物(酸化第一銅、酸化第二銅などの酸化銅又はこれらの混合物)が好適である。
なお、ここで金属酸化物には、金属の表面に酸化層を有する態様も含み、本発明において、金属の表面に酸化層を有するものとしては、表面に酸化層を有する銀及び銅が好ましく挙げられる。
【0019】
上記金属微粒子及び金属酸化物微粒子の調製方法としては種々の方法があるが、メカノケミカル法などによる金属粉を粉砕して得る物理的な方法;CVD法や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法などによる化学的な湿式法と呼ばれる方法で作製できる。
得られた微粒子は、塗布液とするために、微粒子にポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子やグラフト共重合高分子のような保護剤、界面活性剤、金属と相互作用するようなチオール基やアミノ基、水酸基、カルボキシル基を有する化合物で被覆することが好ましい。また、合成法によっては、原料の熱分解物や金属酸化物が粒子表面を保護し、分散性に寄与する場合もある。熱分解法や化学還元法などの湿式法で作製した場合は、還元剤などがそのまま微粒子の保護剤として作用することがある。
また、塗布液の分散安定性を高めるために、微粒子の表面処理を行ったり、高分子、イオン性化合物、界面活性剤などからなる分散剤を添加してもよい。
【0020】
上記微粒子の平均一次粒子径は1〜50nmの範囲であることが好ましい。平均一次粒子径が1nm以上であると塗布液の分散安定性が良好であり、導電パターンを形成した際の導電性が良好となる。一方、平均一次粒子径が50nm以下であると融点が低く維持され、十分な焼結が可能であり、高い導電性が得られる。以上の観点から、微粒子の平均一次粒子径は1〜50nmの範囲が好ましく、1〜30nmの範囲がより好ましく、1〜10nmの範囲がさらに好ましく、特に2〜10nmの範囲が好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものである。なお、これらの微粒子は、単結晶からなる微粒子であっても、より小さい結晶子が複数集まった多結晶微粒子であってもよい。
【0021】
《融着薄膜》
本発明における融着薄膜は、上記の金属又は金属酸化物微粒子が焼結した二次焼結粒子が融着して形成する金属膜であり、その厚さは20〜120nmである薄膜である。当該融着薄膜は導電性を有しており、これをパターン状に形成したものが導電性パターンである。
ここで、微粒子の焼結とは微粒子同士が焼成処理などにより結合して二次粒子(二次焼結粒子)を形成することをいう。微粒子の焼結により形成した二次焼結粒子の粒径は、微粒子の平均一次粒子径にもよるが、好ましくは1〜70nmの範囲であり、2〜70nmの範囲がより好ましく、10〜70nmの範囲がさらに好ましい。また、二次焼結粒子の粒径は、その80%以上の粒径が70nm以下であることが好ましく、90%以上の粒径が70nm以下であることがより好ましい。二次焼結粒子の粒径がこの範囲内であると、得られる融着薄膜の厚さを薄くすることができ、後述する粒子の融着が生じやすいので、薄膜の厚さを薄くしつつ、優れた導電性を得ることが可能となる。なお、二次焼結粒子の形状は、円状、楕円状のほか、不規則な形状を呈しているが、二次焼結粒子の粒径は、これらの形状に対する外接円の径とする。
【0022】
粒子の融着とは、粒子同士が焼結、溶融などにより連続する膜を形成することをいう。すなわち、融着薄膜は、粒子が連なる構造を有しているので、均一な膜ではなく一定の凹凸あるいは起伏を有する膜であり、導電性を有する限り、その一部に穴があいて、基材を露出させるようなものであってもよい。
本発明における融着薄膜の厚さは、20〜120nmであり、好ましくは100nm以下である。ここで、融着薄膜の厚さは、図1に示されるように厳密にいえば均一ではないが、そのうち最も厚い部分の厚さのことを示すものである。例えば、本発明において融着薄膜の厚さが100nmであるとは、該融着薄膜の最大厚さが100nmであることをいう。なお、二次焼結粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧1kV、加速電流10μAの条件で、10万倍の倍率の表面観察により測定した値であり、融着薄膜の厚さは同じ条件で断面観察により測定した値である。
【0023】
本発明の導電性薄膜基板の体積抵抗率は、JIS K7194規格に準拠して測定した表面抵抗と、融着薄膜の厚さとにより算出した値であり、5×10-4Ω・cm以下と10-4Ω・cmのオーダーの値となる。本発明の導電性薄膜基板は、120nm以下という薄膜からなる導電性パターンによっても、優れた導電性を得ることができる。
【0024】
[導電性薄膜基板の製造方法]
本発明の導電性薄膜基板の製造方法は、基材上に、金属又は金属酸化物微粒子と水及び/又は有機溶媒とを含む塗布液を印刷して印刷層を形成し、焼成処理して融着薄膜を形成するものであり、該微粒子の平均一次粒子径が1〜50nmであり、該焼成処理がプラズマ雰囲気下で行われ、かつ融着薄膜の厚さが20〜120nm以下であることを特徴とするものである。そして、本発明の導電性薄膜基板は、本発明の製造方法により、好ましく製造することができる。
【0025】
《印刷層の形成》
本発明の製造方法においては、まず基材上に金属又は金属酸化物微粒子と水及び/又は有機溶媒とを含む塗布液を印刷して、印刷層を形成する。
【0026】
(塗布液)
本発明の製造方法で用いられる塗布液は、上記した金属又は金属酸化物微粒子と、分散媒としての水及び/又は有機溶媒とを含むものである。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などのエーテル類;ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素などが好ましく挙げられる。
【0027】
さらに、造膜性を高めること、印刷適性を付与すること、及び分散性を高めることを目的として、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、あるいはウレタン樹脂などを樹脂バインダーとして塗布液に添加してもよい。また、必要に応じて、粘度調整剤、表面張力調整剤、あるいは安定剤などを添加してもよい。ただし、本発明の製造方法においては、120nm以下という非常に薄い金属薄膜を、導電性を有する状態で形成する必要があるため、これらの添加剤の添加は最小限に抑えることが肝要である。
【0028】
本発明で用いられる塗布液は、固形分濃度が5〜60質量%の範囲が好ましい。固形分濃度が5質量%以上であると十分な導電性が得られ、60質量%以下であると、粘度が十分に低く、基材への塗布液の印刷が容易である。以上の観点から、塗付液中の固形分濃度は10〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0029】
(塗布液の印刷方法)
基材上に塗布液を印刷し、印刷層を形成する方法としては特に制限されず、グラビア印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、凸版反転オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、マイクロコンタクトプリンティングなどの方法を用いることができる。これらのうち、微細なパターニングを行うことができるという観点から、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、及びインクジェット印刷、凸版反転オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、マイクロコンタクトプリンティングなどの手法が好ましい。
【0030】
このように、本発明の製造方法は、基材上に塗布液を所望のパターンに直接印刷することができるので、容易にパターン状の融着薄膜(導電性パターン)を形成することが可能となり、従来のフォトレジストを用いた手法に比較して、著しく生産性を向上させることができるという優位性を有する。
【0031】
基材上の塗布液は印刷後、通常の方法で乾燥を行ってもよい。具体的には、例えば、通常のオーブンなどを用いて、80〜140℃程度の温度で、0.1〜20分程度加熱して乾燥させる。乾燥後の印刷部分の膜厚は用途などに応じ、適宜塗布量や微粒子の平均一次粒子径などを変化させて制御することができるが、通常、20〜150nmであり、好ましくは120nm以下であり、より好ましくは100nm以下の範囲である。
【0032】
《焼成処理》
上記のようにして得られた印刷層は、焼成処理を経て、融着薄膜となる。
本発明における焼成処理は、プラズマ雰囲気下で行われることを特徴とし、該プラズマは、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマ(以下「マイクロ波表面波プラズマ」ということがある。)であることが好ましい。プラズマ雰囲気下で焼成処理を行うことは、印刷層の表面側からエネルギーを加えて塗布液中の有機物に化学的エッチング処理を施すとともに、熱を加えることで、該有機物の除去と微粒子の焼成及び融着とを同時に行うことを可能とするので、金属の粒成長が抑えられ、微粒子の焼結・融着による金属薄膜の形成に好適である。金属の粒成長は、進行しすぎると、二次焼結粒子の粒径が100nmを超える大きな島状の粒となってしまうため、薄膜の厚さを120nm以下に抑えることができず、導電性を有する融着薄膜の形成もできなくなってしまうので、本発明においてはできるだけ抑えることが肝要である。
【0033】
本発明における融着薄膜は120nm以下という非常に薄い膜であり、これを形成する場合には、基材と塗布液との表面エネルギー差の影響がより顕著となる。すなわち塗布液により形成した印刷層に焼成処理を施す際に、塗布液がより球状に凝集し、島状の粒になりやすくなる。このような現象を低減させて、より均一な薄膜を形成する観点から、焼成処理にはマイクロ波表面波プラズマを用いることが特に好ましい。
また、プラズマ雰囲気下での焼成処理は、基材への熱ダメージを少なくすることができ、基材の表面が粗化することを防ぐことができる。さらに、マイクロ波表面波プラズマによる焼成処理は、大面積の処理が可能で、短時間の焼成処理が可能であるため、生産性が極めて高いので好ましい。
【0034】
マイクロ波表面波プラズマを用いた焼成は、融着薄膜の導電性を向上させる観点から、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
特に、本発明においては、マイクロ波表面波プラズマを、還元性ガスの雰囲気下で発生させることが好ましく、とりわけ水素ガス雰囲気下で発生させることが好ましい。これにより、微粒子表面に存在する絶縁性の酸化物が還元除去され、導電性能の良好な導電性パターンが形成される。
【0035】
上記のように、還元性気体の雰囲気下で、マイクロ波表面波プラズマを発生させ、前記印刷層を焼成処理することにより、微粒子表面に存在する酸化物が還元除去されるので、本発明においては、微粒子として、表面に酸化層を有する粒子や、内部まで酸化されている粒子を用いることができる。
なお、還元性雰囲気を形成する還元性気体としては、水素、一酸化炭素、アンモニアなどのガス、あるいはこれらの混合ガスが挙げられるが、特に、副生成物が少ない点で水素ガスが好ましい。
また、還元性気体には、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスを混合して用いれば、プラズマが発生しやすくなるなどの効果がある。
【0036】
また、本発明における焼成処理は、短時間に行われるのが好ましく、昇温速度は100℃/分以上、好ましくは200℃/分以上で行うのがよい。焼成反応にかかる時間は、5分以内、さらには2分以内とすることが好ましく、金属又は金属酸化物微粒子の粒成長を抑制することができる。
さらに、焼成工程において、基材の表面温度(最終到達温度)は、基材の融点以下の温度であり、ガラス転移温度以上であることが好ましい。基材表面の温度を、この範囲に制御することで、より一層、基材と導電パターンの密着性を向上させることができる。
なお、ガラス転移温度は、基材から短冊状のフィルムを作製し、動的粘弾性測定によって求めることができる。
【0037】
また、微粒子が卑金属又は酸化物を含む場合は、還元性を持つ活性種を発生させる方法が好ましい。さらに、基材の熱ダメージを防ぐために、微粒子を塗布層の表層から加熱する方法を用いるのが好ましい。
【0038】
なお、金属又は金属酸化物微粒子が銅、酸化銅あるいは表面に酸化層を有する銅の場合には、マイクロ波表面波プラズマ処理の前に、塗布液の印刷により形成した印刷層に含まれる分散剤等の有機物を除去するために、大気下又は酸素を含む雰囲気下、200〜500℃程度の温度で10分から2時間程度加熱することが好ましい。この加熱により、有機物が酸化分解除去され、マイクロ波表面波プラズマ処理において、金属又は金属酸化物微粒子の焼結・融着が促進される。
【0039】
(マイクロ波表面波プラズマの発生方法)
前記マイクロ波表面波プラズマの発生方法に特に制限はなく、例えば減圧状態の焼成処理室の照射窓からマイクロ波エネルギーを供給し、該焼成処理室内に照射窓に沿う表面波プラズマを発生させる無電極プラズマ発生手段を用いることができる。
【0040】
前記プラズマ発生手段としては、例えば焼成処理室の照射窓から周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給し、該処理室内に、電子温度が約1eV以下、電子密度が約1×1011〜1×1013cm-3のマイクロ波表面波プラズマを発生させることができる。
また、マイクロ波エネルギーは、一般に周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるが、例えば、2450MHzの電磁波が用いられる。この際、マイクロ波発振装置であるマグネトロンの精度誤差などのために2450MHz/±50MHzの周波数範囲を持っている。
【0041】
(マイクロ波表面波プラズマの効果)
このようなマイクロ波表面波プラズマは、プラズマ密度が高く、電子温度が低い特性を有し、前記印刷層を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な融着薄膜を形成することができる。マイクロ波表面波プラズマは、処理面に対して、面内で均一の密度のプラズマが照射される。その結果、他の焼成方式と比べて、面内で部分的に粒子の焼結が進行するなど、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、面内処理室内に電極を設ける必要がないので、電極由来の不純物のコンタミネーションを防ぐことができ、また処理材料に対して異常な放電によるダメージを防ぐことができる。さらに、基材として樹脂フィルムを採用する場合には、該基材のダメージを小さくすることができる。
【0042】
マイクロ波表面波プラズマは、上述のように、樹脂材料からなる基材に対する融着薄膜の密着性を高めるのに好適である。この理由としては、マイクロ波表面波プラズマは、融着薄膜との界面で水酸基やカルボキシル基などの極性官能基を発生させやすいためと推測される。特にポリエステルやポリイミドなどの樹脂材料に対して、還元性ガス雰囲気下で発生するプラズマを用いた場合には、基材の界面側に改質が起こり、極性の高い反応基が多く発生するために、融着薄膜と基材との界面での密着性が向上するものと推察している。
したがって、従来のように、基材表面をあらかじめプラズマ処理などにより粗化して、導電パターンとの密着性を向上させる方法に比較しても、本発明の方法は、基材と導電パターンの密着性が高い点で優れている。
【0043】
このように、本発明の製造方法によれば、導電性パターンを形成する金属膜である融着薄膜の膜厚を薄くしつつ、導電性及び基材と導電性パターンとの密着性に優れた導電性薄膜基板、例えば本発明の導電性薄膜基板を容易に製造することができる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
この例で得られた導電性薄膜基板について、以下の方法によって評価した。
1.導電性(表面抵抗)と体積抵抗率の測定
表面抵抗計((株)ダイアインスツルメンツ製「ロレスタGP」、PSPタイププローブ)を用いて、融着薄膜に4探針を接触させ、4探針法にて表面抵抗を測定した。ついで、融着薄膜の膜厚から、体積抵抗率を算出した。
2.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
(株)日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(SEM)「S−4800」を用い、加速電圧1kV、加速電流10μAで観察を行った。ミクロトームを用いて試料を切断し、10万倍の倍率で断面観察を行った。また、同時に二次焼結粒子の粒径、融着薄膜の膜厚の測定を行った。
3.密着性(碁盤目剥離試験)
融着薄膜の表面を、1mm間隔の縦横10区分の碁盤目状にカッターで切り、粘着性テープ(ニチバン(株)製「セロテープ(登録商標)」、幅24mm)を貼った後に剥がし、升目の剥がれの程度で評価した。剥がれの表記方法としては、100個の碁盤目の剥がれが全くない場合を100/100と表記し、90個が残り10個が剥がれた場合を90/100、100個の碁盤目のすべてが剥がれた場合は0/100と表記した。
【0045】
実施例1
ポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン(株)製「カプトン200H」)上に銀微粒子を含む塗付液(インクテック(株)製,固形分濃度12wt%,平均一次粒子径8nm)をスピンコート法により塗布し、自然乾燥させて印刷層を形成した。このときの印刷層の厚さは100〜150nmであった。
次に、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(ミクロ電子(株)製「MSP−1500」)を用いて焼成処理を行った。プラズマ雰囲気下での焼成処理は、水素ガスを用い、水素導入圧力20Pa、水素流量100sccm、マイクロ波出力1000Wの条件で、60秒間行った。焼成処理の開始後から昇温が確認され、約230℃付近まで温度上昇が確認されたことから、昇温速度は約200℃/minであった。得られた融着薄膜の膜厚は100nmであった。
得られた融着薄膜に関して、上記手法で表面抵抗を測定し体積抵抗率を測定したところ1.1×10-4Ω・cmであり、密着性の評価は95/100であった。また、SEMによる表面観察を図1に示す。
【0046】
実施例2
ポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン(株)製「カプトン200H」)上に銀微粒子を含む塗付液(インクテック(株)製,固形分濃度12wt%,平均一次粒子径8nm)をインクジェット法により線幅約100μmのラインからなる電極パターン部位とテスターの接触可能な1cm角の部位とを描画するように塗布し、自然乾燥させて印刷層を形成した。このときの印刷層の厚さは100〜150nmであった。
次に、マイクロ波表面波プラズマ処理装置(ミクロ電子(株)製「MSP−1500」)を用いて焼成処理を行った。プラズマ雰囲気下での焼成処理は、水素ガスを用い、水素導入圧力20Pa、水素流量100sccm、マイクロ波出力1000Wの条件で、60秒間行った。焼成処理の開始後から昇温が確認され、約230℃付近まで温度上昇が確認されたことから、昇温速度は約200℃/minであった。得られた融着薄膜の膜厚は100nmであった。
得られたパターン形成融着薄膜に関して、テスター接触用に大きく描画した部位(1cm角)にテスターを接触させ、得られた抵抗値と膜厚、面積から体積抵抗率を算出したところ、1.4×10-4Ω・cmであった。次に、密着性の評価は100μmのライン10本に対して垂直に1mm間隔にてカッターで切り、密着性の評価を行ったところ、90/100となった。
【0047】
比較例1
実施例1と同様にして銀微粒子インキの印刷層を形成した。次に、電気炉(アズワン(株)製「小型プログラム電気炉MMF−1」)により加熱焼結処理を行った。加熱処理は、大気雰囲気下で230℃まで加熱した炉内に、基材上に製膜した印刷層を入れ、45分間保持しその後自然冷却した。得られた膜の膜厚は約100nmであった。
得られた膜に関して、上記手法で表面抵抗を測定し体積抵抗率を測定したところ抵抗値が測定できず、導電性の確認はできなかった。密着性の評価は20/100であった。また、SEMによる表面観察を図2に示す。
【0048】
比較例2
実施例2と同様にして銀微粒子インキの印刷層を形成した。次に、電気炉(アズワン(株)製「小型プログラム電気炉MMF−1」)により加熱焼結処理を行った。加熱処理は、大気雰囲気下で230℃まで加熱した炉内に、基材上に製膜した印刷層を入れ、45分間保持しその後自然冷却した。得られた膜の膜厚は約100nmであった。
得られたパターン形成薄膜に関して、テスター接触用に大きく描画した部位(1cm角)にテスターを接触させたが、抵抗値は測定できず、導電性の確認はできなかった。次に、密着性の評価は100μmのライン10本に対して垂直に1mm間隔にてカッターで切り、密着性の評価を行ったところ、0/100であり、全てが剥がれてしまった。
【0049】
実施例1及び2で得られた導電性薄膜基板は、融着薄膜の厚さが100nmと非常に薄いものであるにもかかわらず、優れた体積抵抗率を示し、かつ基材と導電性パターンとの優れた密着性を示した。一方、比較例1及び2で得られた基板は、導電性の確認ができず、密着性も極めて悪いものとなった。
【0050】
図1は、実施例1で得られた導電性薄膜基板の表面の走査型電子顕微鏡写真である。図1の写真より、本発明の導電性薄膜基板が、金属微粒子が50〜70nmの粒径を有する二次焼結粒子を形成し、該二次焼結粒子同士が重なるように融着し、網目状の構造を有する薄膜を形成している様子が確認された。このような構造は、マイクロ波表面波プラズマによる印刷層の表面側からの均一なプラズマ照射が行われたことで、塗布液に含まれる微粒子を分散させるための有機物などの除去が、熱分解よりも低温下で可能となり、かつ金属微粒子の焼結・融着が均一に進行したためであると考えられる。また、図1において、ところどころに色が濃くなっている部分がみられるが、これらの部分は薄膜が極めて薄くなっているか、基材がみえている場所であると推測される。
【0051】
図2は、比較例1で得られた基板の表面の走査型電子顕微鏡写真である。図2の写真より、焼成処理において電気炉を用いた場合、金属微粒子の焼結による粒成長が100nm以上の粒径を有する島状の粒となるまで進行してしまい、該島状の粒同士の接触部分がほとんど見られないことが確認された。このような状態は、焼成処理において電気炉を用いるにあたり、薄膜を形成しようとしたために、基材と塗布液との表面エネルギー差の影響がより顕著となり、塗布液が球状に凝集しやすくなり、島状の粒になってしまったと考えられる。
これらのことから、本発明に係る導電性薄膜基板は、二次焼結粒子同士が融着し、接触することで、高い導電性が得られたところ、比較例で得られた基板は金属微粒子が粒成長して島状の粒となり、該粒同士がほとんど接触していないことから導電性が確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の導電性薄膜基板は、導電性パターンを形成する融着薄膜の膜厚を薄くしつつ、導電性及び基材と導電性パターンとの密着性に優れたものである。そして、本発明の導電性基板は、基材上に融着薄膜をパターン状に設けて導電性パターンを形成することにより、プリント配線基板やエレクトロニクスの実装分野、IC回路やTFT素子といった電子デバイス製品分野における回路基板などに好適に利用することができる。また、本発明の製造方法は、直接、基材に回路パターンを印刷法により形成することができるため、エッチング法などに比較して、極めて生産効率が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、金属又は金属酸化物微粒子が焼結した二次焼結粒子が融着してなる融着薄膜を有し、該融着薄膜の厚さが20〜120nmである導電性薄膜基板。
【請求項2】
該焼結粒子の80%以上の粒径が、70nm以下である請求項1に記載の導電性薄膜基板。
【請求項3】
金属又は金属酸化物が、金、銀、酸化銀、銅、酸化銅、表面に酸化層を有する銀及び表面に酸化層を有する銅から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の導電性薄膜基板。
【請求項4】
金属又は金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が、1〜50nmである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜基板。
【請求項5】
体積抵抗率が、5×10-4Ω・cm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜基板。
【請求項6】
基材上に、金属又は金属酸化物微粒子と水及び/又は有機溶媒とを含む塗布液を印刷して印刷層を形成し、焼成処理して融着薄膜を形成する導電性薄膜基板の製造方法であって、該微粒子の平均一次粒子径が1〜50nmであり、該焼成処理がプラズマ雰囲気下で行われ、かつ融着薄膜の厚さが20〜120nm以下である導電性薄膜基板の製造方法。
【請求項7】
金属又は金属酸化物微粒子が、金、銀、酸化銀、銅、酸化銅、表面に酸化層を有する銀及び表面に酸化層を有する銅から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の導電性薄膜基板の製造方法。
【請求項8】
プラズマが、不活性ガス雰囲気下及び/又は還元性ガス雰囲気下で発生するものである請求項6又は7に記載の導電性薄膜基板の製造方法。
【請求項9】
プラズマが、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマである請求項6〜8のいずれかに記載の導電性薄膜基板の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の導電性薄膜基板の製造方法により得られる導電性薄膜基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−277974(P2010−277974A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132459(P2009−132459)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集 I」(DVD−ROM)に発表
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】