説明

導電性透明被膜形成用塗布剤及び導電性透明被膜付基材並びに導電性透明被膜の形成方法

【課題】 透明被膜形成時に、クラックが生成することなく、導電層が形成されて、高硬度であると共に導電性を向上させる透明被膜を形成することが可能な導電性透明被膜形成用塗布剤及び該塗布剤を利用した導電性透明被膜付基材を提供する。
【解決手段】 本発明に係る導電性透明被膜形成用塗布剤は、(i)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその加水分解物と、(ii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステルと、(iii)ラジカル発生化合物を含有するマトリックス前駆体を含む組成物である。特に、マトリックス前駆体中の(i)と(ii)の割合が固形分として質量比10:90〜70:30の範囲にあることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明保護被膜を形成することが可能な導電性透明被膜形成用塗布剤及び該塗布剤を用いて形成された透明保護被膜を有する導電性透明被膜付基材並びに導電性透明被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、陰極線管、蛍光表示管、液晶表示板などの表示パネルのような透明基材の表面の帯電防止と反射防止を目的として、これらの表面に導電機能及び反射防止機能を有する透明保護被膜を形成することが行われていた。また、陰極線管などから電磁波が放出されることが知られており、従来の帯電防止、反射防止に加えて、これらの電磁波や電磁波の放出に伴って形成される電磁場を遮蔽することが望まれている。
【0003】
これらの電磁波を遮蔽する方法の一つとして、陰極線管などの表示パネルの表面に導電性被膜を形成する方法がある。
【0004】
この場合、帯電防止用導電性被膜であれば、通常、表面抵抗が108Ω/□程度の表面抵抗を、電磁遮蔽用の導電性被膜では104Ω/□以下の表面抵抗を有することが必要である。
【0005】
このような導電性透明被膜を、Sbドープ酸化錫又はSnドープ酸化インジウムのような導電性酸化物を含む塗布液を用いて形成しようとすると、従来の帯電防止性被膜の場合よりも膜厚を厚くする必要があった。
【0006】
しかしながら、導電性被膜の膜厚は、10〜200nm程度にしないと反射防止効果は発現しないため、従来のSbドープ酸化錫又はSnドープ酸化インジウムのような導電性酸化物では、低い表面抵抗による優れた電磁波遮断性と同時に反射防止にも優れた導電性透明被膜を得ることが困難であった。
【0007】
また、導電性透明被膜を形成する方法の一つとして、Agなどの金属微粒子を含む導電性被膜形成用塗布液を用いて基材の表面に金属微粒子含有被膜を形成することが行われていた。この方法では、金属微粒子含有被膜形成用塗布液として、コロイド状の金属微粒子が極性溶媒に分散したものが用いられ、コロイド状金属微粒子の分散性を向上させるために、金属微粒子表面がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はゼラチンなどの有機系安定剤で表面処理されている。
【0008】
しかしながら、金属微粒子は前記導電性酸化物と異なり、本来光を透過しないために、金属微粒子を用いて形成された導電性被膜は、導電性被膜中の金属微粒子の密度や膜厚等に依存して透明性が低下する問題があった。その上、こうした導電性透明被膜は、金属微粒子の影響で耐水性や耐酸化性が低く、金属が酸化されたりイオン化により粒子成長したり、また場合によっては腐食が発生することがあり、塗膜の導電性や光透過率が低下し、表面を被覆した装置が信頼性を欠くという問題があった。
【0009】
こうした問題に対して、無加湿条件でも高いイオン伝導性を示す電解質の開発が進められていた。例えば、アルコキシシランにリン酸化合物を反応させたホスホシリケートゲル等の無機系イオン伝導性の電解質を用いる手法が提案されている。
【0010】
とりわけ、ホスホシリケートゲル等のリン酸とケイ素を用いた無機系の導電性材料は、リン酸がプロトン伝導による導電性を担い、ケイ素が材料の強度を担っており、乾燥条件でも比較的高いイオン伝導性が得られる特徴があり、無加湿条件で使用できる導電性材料として注目されている。しかしながら、ケイ素成分が多いと、硬度が上がり、機械的強度は向上するが、導電性が十分でなく、リン酸成分が多いと導電性は向上するが、機械的強度が不十分で、リン酸成分がブリードアウトし易く、経時で導電性が低下するという問題点があった。更に、表面被覆材料として使用するには柔軟性に乏しく、クラックが起こり易く、また被覆操作中にゲル化が起こり易く、取り扱いが難しいという問題があった。
【0011】
固体電解質の分野では、こうしたリン酸のブリードアウトにより経時で導電性が低下することを改良するために、重合性酸性リン酸化合物とエポキシ基含有アルコキシシランの反応を用いた例が、特許文献1(特開2004−95255号公報)で提案されている。しかしながら、このようなリン酸化合物を十分な帯電防止能が得られる量で添加すると、保護被膜の耐水性が悪化してしまう。逆に、少量の添加では帯電防止能が不十分になるという問題があった。
【0012】
【特許文献1】特開2004−95255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、透明被膜形成時に、クラックが生成することなく、導電層が形成されて、高硬度であると共に、導電性を向上させる透明被膜を形成することが可能な導電性透明被膜形成用塗布剤及び該塗布剤を利用した導電性透明被膜付基材並びに導電性透明被膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、従来の被膜用組成物に指摘されるような種々の欠点を克服すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の重合性酸性リン酸エステルと特定のシラン化合物を用い、基材表面でラジカル重合と加水分解・縮重合による2種類の架橋を併用した製膜をすることにより、帯電防止性能、電磁波遮蔽性能等を向上させると共に、膜の強度(硬度)やスクラッチ強度、耐水性等の信頼性を向上させることができることを見出した。これにより、マトリックス前駆体が特定の官能基を有する有機ケイ素化合物の加水分解物を含む塗布剤を用いて、導電層表面に透明被膜を形成すると、透明被膜形成時にクラックが生成することなく、透明性と作業性と高硬度と導電性が両立して向上することを見出した。
【0015】
またこの場合、上記成分にポリ酸を配合することにより、透明性と高硬度を維持したままで、低湿度でも導電性が低下することのない導電層が形成されて、無加湿条件でも抵抗値の上昇が小さくなり、導電性が十分に発現すること、これにより、いかなる環境雰囲気下にあっても、透明性と膜強度と導電性が両立して向上し、かつ製膜の作業性も良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、(i)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその加水分解物と、(ii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステルと、(iii)ラジカル発生基を含有する化合物とを必須成分とするマトリックス前駆体を含むことを特徴とする導電性透明被膜形成用塗布剤を提供する。この場合、マトリックス前駆体中の(i)成分と(ii)成分の割合が固形分として質量比10:90〜70:30の範囲にあり、(iii)成分が(i)成分と(ii)成分の合計の量に対し、0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましい。また、前記マトリックス前駆体が、更に(iv)ケイ素、チタニウム又はアルミニウム等の金属アルコキシド化合物及び/又はその加水分解物を含んでなり、マトリックス前駆体中の(iv)成分の割合が固形分として0.1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記(i)〜(iii)成分、或いは(i)〜(iv)成分に加えて、(v)ポリ酸を配合してなる導電性透明被膜形成用塗布剤を提供する。この場合、ポリ酸としては、ヘテロポリ酸が好ましく、特にケイタングステン酸、リンタングステン酸が好ましく、ポリ酸の配合量は、上記(i)、(ii)成分の合計量に対して5〜50質量%の範囲にあることが好ましい。本発明は更にこのポリ酸含有導電性透明被膜形成用塗布剤を基材に塗布して形成した透明被膜を、60℃以上220℃以下の温度で加熱するか、又は可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射して不溶化することを特徴とする導電性透明被膜の形成方法を提供する。
【0018】
更に、本発明は、基材上を、少なくとも1層の透明被膜で被覆した物品であって、該透明被膜のうち1層以上が上記導電性透明被膜形成用塗布剤を用いて形成されたことを特徴とする導電性透明被膜付基材を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導電性透明被膜形成用塗布剤が、マトリックス前駆体として、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基から選ばれる官能基を有する有機ケイ素化合物及びリン酸化合物、或いはその加水分解物を含んでいるので、被膜形成時にクラックが無く、膜の硬度や導電性に優れ、更に耐水性、スクラッチ強度に優れる導電性透明被膜を形成できる。また、該塗布剤を用いて形成された透明被膜を有する導電性透明被膜付基材を提供することができる。更には、透明被膜は屈折率が低いので、反射防止性能に優れた導電性透明被膜付基材を提供することができる。
【0020】
またこの場合、ポリ酸を含有させれば、クラックが生成することなく高硬度の保護膜が形成されて、低湿度の環境下にあっても、高い導電性を保持できる透明被膜を形成することが可能である。
【0021】
更に、このような導電性透明被膜付基材を表示装置の前面板として用いれば、帯電防止性能、電磁遮蔽性能に優れると共に、反射防止性能等に優れ、更に耐久性、耐水性等に優れた表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る導電性透明被膜形成用塗布剤は、
(i)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその加水分解物、
(ii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステル、
(iii)ラジカル発生化合物
を必須成分とし、好ましくは更に、
(iv)金属アルコキシド化合物及び/又はその加水分解物
及び/又は
(v)ポリ酸
を含有してなるものである。
【0023】
この場合、(i)のメタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物としては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0024】
このようなアルコキシシランの加水分解物は、当該アルコキシシランを、例えば、水−アルコール混合溶媒中で酸触媒の存在下、加水分解することによって得ることができる。なお、加水分解物は部分加水分解物であっても、加水分解物の縮重合物であってもよい。このようなアルコキシシランの加水分解物としては、従来公知である。加水分解物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン基準の重量平均分子量は250〜20,000、更には250〜10,000の範囲にあることが好ましい。加水分解物の重量平均分子量が250未満の場合、収縮が大きく、クラックが入り易くなり、加水分解物の重量平均分子量が20,000を超えると、基材との密着生が悪く強度が不十分になることがある。
【0025】
本発明に用いる(ii)のメタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステルとしては、ホスマーシリーズ、即ちアシッドホスホキシエチルメタクリレート(商品名:ホスマーM)、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーCL)、アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーP)、アシッドホスホキシエチルアクリレート(商品名:ホスマーA)、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPE)、アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPP)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートモノエタノールアミンハーフソルト(商品名:ホスマーMH)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジメチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDM)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジエチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDE)などが挙げられる。この具体例としては、CH2=CHCOOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH(CH2Cl)OP(O)(OH)2、(CH2=CHCOOCH2CH2O)2P(O)OH、(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)2P(O)OH、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH24OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH25OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))5OP(O)(OH)2及びCH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))6OP(O)(OH)2等が挙げられ、これらは所望により2種類以上用いることができる。これらの中でも、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OP(O)(OH)2及びCH2=CHCOOCH2CH2OP(O)(OH)2が相溶性及び硬度の面で好ましい。
【0026】
ラジカルを発生させる化合物(iii)は、本発明の組成物を基材の表面に塗布し架橋硬化させて被膜を形成させるために添加するものである。この具体例としては、ベンゾイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられ、有機過酸化物が好ましい。
【0027】
本発明においては、(i)成分と(ii)成分の割合が固形分として質量比10:90〜70:30、特に20:80〜70:30の範囲にあり、(iii)成分が(i)成分と(ii)成分の合計の量に対し、0.1〜10質量%、特に0.5〜5質量%の範囲にあることが必要である。
【0028】
マトリックス前駆体中において、(i)成分の割合が固形分として(i)、(ii)成分の合計量中10〜70質量%、更には20〜70質量%、とりわけ20〜60質量%の範囲にあることが好ましく、マトリックス前駆体中において、(ii)成分の割合が固形分として(i)、(ii)成分の合計量中30〜90質量%、更には30〜80質量%、とりわけ40〜80質量%の範囲にあることが好ましい。
【0029】
(i)成分の割合が10質量%未満では、硬度、耐熱性及び耐水性が低下するおそれがある。また、(ii)成分の割合が30質量%未満では、当該被膜の導電性の低下により帯電防止等の機能が不足する傾向にあり、90質量%を超える量を添加すると、必然的に(i)成分の割合が10質量%未満となり、硬度、耐熱性及び耐水性が低下するおそれがある。
【0030】
また、(iii)成分の割合が0.1質量%未満では、十分な硬化が行われず、硬度及び耐水性が低下するおそれがあり、10質量%を超える量を添加すると、硬化に伴い着色が起き、透明性が低下する上、分解残渣により膜の密着性が低下するおそれがある。
【0031】
このような特性の組成物をマトリックス前駆体として含むと、クラック生成が少なく、また、透明被膜を形成したときに、導電性の高い被膜付基材を形成できる。この理由は定かではないものの、このようなマトリックス前駆体はラジカル反応性基とリン酸基を同時に有する化合物と、ラジカル反応性基と加水分解性基を同時に有するシラン化合物と、ラジカルを発生する化合物を含有する組成物からなっており、ラジカル重合反応とアルコキシ基の縮合反応を同時に行った硬化により得られたイオン導電性膜であることによって、高い硬度でありながらクラックが生成しにくくなると考えられる。
【0032】
更に、このような透明被膜は、同時加水分解物をマトリックス前駆体として用いると、個々に加水分解物を混合した場合に比べて、よりいっそう膜の収縮が均一に起こるので、膜硬度を高め、かつ導電性を高く維持することが可能である。
【0033】
また、前記マトリックス前駆体には、(iv)の金属アルコキシド化合物及び/又はその加水分解物を含んでいてもよい。上記金属アルコキシド化合物は、基材との密着性を向上し、同時に重合性酸性リン酸エステルを添加することによる耐水性の悪化を改善し、更に硬化塗膜の硬度を高くするためのものである。
【0034】
マトリックス前駆体中に(iv)成分を含む場合、そのマトリックス前駆体中の(iv)成分の割合が固形分として0.1〜30質量%の範囲、更には0.5〜20質量%の範囲にあることが好ましい。
【0035】
(iv)金属アルコキシド化合物としては、金属が、ケイ素、チタニウム、アルミニウムのアルコキシドであるテトラメトキシ化合物、テトラエトキシ化合物、テトラプロポキシ化合物、テトラブトキシ化合物であることが好ましい。より具体的には、テトラアルコキシシランとしてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラアルコキシチタニウムとしてはテトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラアルコキシアルミニウムとしてはテトラエトキシアルミニウム、テトラプロポキシアルミニウム、テトラブトキシアルミニウム、或いはそのモノエチルアセチルアセトナート錯体などが挙げられる。
【0036】
マトリックス前駆体中の(iv)成分の割合が固形分として前記下限未満の場合は、膜硬度(鉛筆硬度、スチールウール硬度)が低下することがある。また、マトリックス前駆体中の(iv)成分の割合が固形分として前記上限を超えると、導電性が低下することがある。
【0037】
このように(i)、(ii)、(iii)成分及び(iv)成分をいずれも含む場合、個別の混合物であっても加水分解物の混合物であっても、(i)、(ii)、(iii)成分の同時加水分解物と、(iv)成分の混合物或いは加水分解物の混合物であってもよく、また(i)成分と(ii)成分の同時加水分解物と(i)成分と(iv)成分の同時加水分解物と(iii)成分の混合物であっても、(i)成分と(iii)成分の混合物と(ii)成分及び(iv)成分の同時加水分解物との混合物であってもよい。
【0038】
このような同時加水分解物をマトリックス前駆体として用いると、膜の収縮が均一に起こり、高い導電性向上効果及び膜硬度向上効果が得られると共に、高い耐水性やスクラッチ強度を得ることができる。
【0039】
本発明においては、上記(i)、(ii)、(iii)成分、或いは(i)、(ii)、(iii)、(iv)成分に加えて、(v)ポリ酸を配合することが好ましい。ここで、(v)成分のポリ酸は、V族、VI族の元素(V,Nb,Ta,Mo,W)の酸素酸が縮合して生成した縮合酸素酸(陰イオン性の金属多核酸素錯体)の化合物群を示す。このようなポリ酸は、基本的に、骨格・ヘテロ原子を中心に、酸素原子を頂点にもつ八面体と四面体の組み合わせからできている。これらの金属(骨格原子、addenda原子)の酸素酸からできているポリ酸は「イソポリ酸」と呼ばれ、これ以外の、例えばケイ素のような元素(ヘテロ原子)の酸素酸も取り込んで出来ているものは「ヘテロポリ酸」と呼ばれている。特に、ヘテロポリ酸は、[XM1240n-で表されるKeggin型構造や、[X21862n-で表されるDawson型(又はWells−Dawson型)構造といった多くの異性体を持つことが知られている。
【0040】
より具体的には、リンモリブデン酸H3[PMo1240]・nH2O、ケイモリブデン酸H4[SiMo1240]・nH2O、リンタングステン酸H3[PW1240]・nH2O、ケイタングステン酸H4[SiW1240]・nH2Oなどが挙げられる。この場合、nは、24〜30の間の正数を取ることが知られている。特に、透明な膜を与える組成物としては、リンタングステン酸、ケイタングステン酸が好ましい。
【0041】
こうしたポリ酸は、陰イオン(anion)として存在し、その負電荷を補償するため、結晶中では対カチオンとしてプロトン(H+)などのカチオンが周囲を取り囲み、更に24〜30個という異常に多い水分子などの溶媒分子も格子中に存在し、固体の中で非常に速い運動をしていることがNMR等の研究から明らかにされている。また、この結晶水は、300℃に加熱すると一旦はすべて脱水するが、室温で高湿度下に放置すると、速やかに復水することが知られている。こうしたプロトンを持った結晶水水素結合ネットワークともいうべき性質が、ケイ酸・リン酸骨格の中に取り込まれることにより、低湿度においても高導電性を示すものと推定される。
【0042】
組成物中の(v)成分のポリ酸の割合は、固形分として5〜50質量%の範囲、更には10〜35質量%の範囲にあることが好ましい。5質量%より少ないと低湿度下での導電特性の発現が十分でなく、また50質量%を超えると、膜の強度が不十分となるので好ましくない。
【0043】
なお、このようにポリ酸を配合した場合、上記ラジカルを発生させる化合物(iii)としては、有機過酸化物、アゾ化合物のほかに、光重合開始剤として、BASF社製アシルホスフィンオキサイド(ルシリンTPO)、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製ダルキュアー1173(ヒドロキシケトン)、イルガキュアー907(アミノケトン)などを用いることができるが、その配合量は上述した通りである。
【0044】
上記ポリ酸を含有する組成物により、クラック生成が少なく、また、透明被膜を形成したときに、導電性の高い被膜付基材を形成できるが、この理由は、このような組成物がラジカル反応性基とリン酸基を同時に有する化合物と、ラジカル反応性基と加水分解性基を同時に有するシラン化合物と、高イオン導電性の化合物と、ラジカルを発生する化合物を含有する組成物からなっており、ラジカル重合反応とアルコキシ基の縮合反応を同時に行った硬化により得られた無機と有機のハイブリッドのイオン導電性膜であることによって、高い硬度でありながらクラックが生成しにくくなると推定される。
【0045】
このように(i)、(ii)、(iii)及び(v)成分を混合する場合、混合する順番は、個別の混合物であっても加水分解物の混合物であっても、(i)、(ii)、(v)成分の混合物と(iii)成分と溶剤の混合物との混合物であってもよく、また(i)と(ii)の混合物と(i)と(v)の混合物と(iii)との混合物であっても、(i)と(v)の混合物と(ii)と(iii)の混合物との混合物であってもよい。ただ、通常は、固体酸であるポリ酸(v)を液体酸である(ii)に混合溶解させ、次いで酸と反応する(i)を混合し、(iii)及びその他溶剤等を最後に添加するのが好ましい。こうした混合により、(i)のアルコキシ基の一部が加水分解・縮合を起こした組成物ができる。また、無水条件下で30〜80℃程度まで加温し、こうした反応を促進することができる。このような混合・反応物を組成物として用いると、膜の収縮が均一に起こり、高い導電性向上効果及び膜硬度向上効果が得られると共に、高い耐水性やスクラッチ強度を得ることができる。
【0046】
本発明の導電性透明被膜形成用塗布剤は、塗布性の改善、作業性の向上、保護被膜の膜厚調整のため、必要に応じて有機溶剤で希釈し、保護被膜の膜厚を薄く調整することが可能である。このような溶剤の具体例としては、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類が挙げられる。但し、基材の種類によっては、溶剤が基材を損傷するおそれがあるので、基材の種類によって適宜選択して使用することが望ましい。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
次に、本発明に係る導電性透明被膜付基材について具体的に説明する。
本発明に係る導電性透明被膜付基材では、ガラス、プラスチック、セラミックなどからなるフィルム、シート或いはその他の成形体などの基材上に1層以上の導電性透明被膜が形成されるが、該透明被膜の少なくとも1層が前記導電性透明被膜形成用塗布剤から形成されている。
【0048】
透明被膜は、前記導電性透明被膜形成用塗布剤をディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷法などの湿式薄膜形成方法により塗布し、必要に応じて乾燥することで形成される。このときの透明被膜の膜厚は、好ましくは0.05〜20μm、特に好ましくは0.1〜10μmの範囲である。
【0049】
透明被膜の膜厚が前記範囲の上限を超えると、膜にクラックが発生したり、膜の強度が低下したりすることがあり、また膜が厚すぎて反射防止性能が不十分となることがある。また、透明被膜の膜厚が前記範囲の下限未満の場合は、膜の硬度や反射防止性能が劣ることがある。
【0050】
このような導電性透明被膜形成用塗布剤を塗布して形成した透明被膜は、ポリ酸を含まない場合、乾燥時又は乾燥後に好ましくは150℃以上で加熱するか、未硬化の被膜に可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射するか、或いはアンモニアなどの活性ガス雰囲気中に晒してもよい。このようにすると、被膜形成成分の硬化が促進され、得られる透明被膜の硬度が高くなる。
【0051】
一方、ポリ酸含有組成物の場合、乾燥時又は乾燥後に、60℃以上220℃以下の温度で、より好ましくは80℃以上180℃以下の温度で加熱するか、未硬化の被膜に可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射することで不溶化することもよい。紫外線を照射する場合は、高圧水銀灯を用いることができ、照射エネルギーは、365nmの波長の紫外線量で、20〜20,000mJ/cm2、より望ましくは、50〜5,000mJ/cm2照射することができる。或いは、紫外線等の照射と熱処理を併用することもでき、このようにすると、被膜形成成分の硬化が促進され、得られる透明被膜の硬度が高くなることがある。
【0052】
本発明に係る導電性透明被膜付基材は、帯電防止、電磁遮蔽に必要な概ね104〜1010Ω/□の範囲の表面抵抗を有し、また透明性に優れると共に、可視光領域及び近赤外領域で十分な反射防止性能を有し、表示装置の前面板として好適に用いられる。従来の前面板を備えた表示装置を作動させると、導電性透明被膜の膜硬度、スクラッチ強度等が不十分であるために傷つき易く、ヘーズが発生し易いために画面が見にくくなることがあるが、本発明に係る導電性透明被膜付基材を前面板とした表示装置では、前面板に前記したクラックが無く、膜の強度に優れた導電性透明被膜付基材で構成されており、傷の発生もないので表示性能に優れると共に、帯電を防止したり、電磁波及びこの電磁波の放出に伴って生じる電磁場を効果的に遮蔽したりすることができる。また、表示装置の前面板で反射光が生じると、この反射光によって表示画像が見にくくなるが、本発明に係る導電性透明被膜付基材を前面板とした表示装置では、前面板が可視光領域及び近赤外領域で十分な反射防止性能を有する導電性透明被膜付基材で構成されているので、このような反射光を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量%を示す。
【0054】
導電性透明被膜形成用塗布剤の調製のための原料として、以下のものを用いた。
(i)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物として、信越化学工業(株)製のメタクリル系のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KMB−503)、アクリル系のγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KMB−5103)を用いた。
(ii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステルとして、ユニケミカル(株)製のホスマーM(メタクリル基含有リン酸)、ホスマーA(アクリル基含有リン酸)を用いた。
(iii)ラジカル発生基を含有する化合物として、日本油脂(株)製のメチルベンゾイルパーオキサイドの40%キシレン溶液(ナイパーBMT 40)、或いは光重合開始剤としてBASF社製アシルホスフィンオキサイド(ルシリンTPOと略記)を用いた。
(iv)金属アルコキシド化合物として、信越化学工業(株)製のテトラエトキシシラン(KBE−04)、日本曹達(株)製のTBT(テトラブトキシチタネート)、ホープ製薬(株)製のAL(アルミニウム ジブトキシ モノエチルアセチルアセトナート)を用いた。
(v)ポリ酸として、ケイタングステン酸(SiWと略記)、リンタングステン酸(PWと略記)を用いた。
その他、比較試験用に、和光純薬社製のリン酸、信越化学工業(株)製のメチルトリメトキシシラン(KBM−13)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403)を用いた。
【0055】
[実施例1]
(i)のシラン化合物としてKBM−503を60g、(ii)のリン酸化合物として、ホスマーM(メタクリル基含有リン酸)を40g、(iii)のラジカル発生基を含有する化合物としてナイパーBMT 40(純分40%のキシレン溶液)を1g用いて、回転器で1時間混合し、導電性透明被膜形成用塗布液を調製した。
【0056】
透明ガラスの表面に上記導電性透明被膜形成用塗布液を塗布し、スピンコート法で1,000rpmで5秒+3,000rpmで10秒の条件で製膜した。これを電気オーブン中に入れ、150℃で30分間熱架橋することで、ガラス表面に導電性透明被膜を形成した。
【0057】
このときの膜性状、特にリン酸等のブリード状態を目視で確認した。また、鉛筆硬度で被膜硬度を測定した。表面電気抵抗は、表面抵抗計(三菱化学(株)製:ハイレスターUP MCP−HT450)で測定した。また、150℃で12時間後の膜性状により耐熱性(割れ等)及び100℃の熱水に3時間浸漬した後の膜性状により耐水性を評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
[実施例2〜4及び比較例1〜5]
(i)、(ii)、(iii)成分を表1に示す配合組成に代え、実施例1と同様の操作によりガラス表面に導電性透明被膜を形成し、実施例1と同様に膜性状の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から、(i)のシラン化合物としてKBM−503,KBM−5103を用い、(ii)のリン酸化合物としてホスマーを用い、(iii)のラジカル発生基を含有する化合物としてパーオキサイドを用いて熱架橋することで、硬度が高く、導電性が1010Ω/□以下の透明な被膜を得ることができた。この膜は、リン酸のブリードがなく、耐熱性と耐水性が良好であった。
一方、ホスマーではなくリン酸を用いた場合は、リン酸のブリードが見られ、150℃,12時間後には膜全面にクラックが入った。また、100℃の熱水に3時間浸漬したものはすべて剥離が起こっていた。
また、KBM−503ではなくKBM−13やKBM−403を用いた場合は、硬度がHB以下と十分ではなく、100℃の熱水に3時間浸漬したものはすべて剥離が起こっていた。
【0061】
[実施例5〜9]
表2に示すように、(i)のシラン化合物としてKBM−503の使用量を20〜70g、(ii)のリン酸化合物としてホスマーMの使用量を80〜30g、(iii)のラジカル発生基を含有する化合物としてナイパーBMT 40(純分40%のキシレン溶液)を1g用いて、回転器で1時間混合し、導電性透明被膜形成用塗布液を調製した。実施例1と同様の操作によりガラス表面に導電性透明被膜を形成し、実施例1と同様に膜性状の評価を行った。その結果を表2に示す。
ホスマーMの使用量を80〜30%用い、シラン化合物としてKBM−503の使用量を20〜70%用い、パーオキサイドを使用することで、硬度、導電性、透明性、耐熱性、耐水性のバランスの取れた良好な被膜が得られた。なお、ホスマーMが10%のものはやや導電性が悪いものであった。
リン酸化合物とシラン化合物の組成比が、膜の導電性に大きく影響を与えており、ホスマーMが多ければ多いほど抵抗は下がるが、硬度が低くなり、耐水性もやや低下する傾向があった。
【0062】
[比較例6,7]
表2に示すように、ホスマーMの使用量を100g或いは10g、KBM−503の使用量を0g或いは90g、或いはホスマーMを70g、KBM−503を30gでナイパーの使用量0gを用いて、回転器で1時間混合し、導電性透明被膜形成用塗布液を調製した。実施例1と同様の操作によりガラス表面に導電性透明被膜を形成し、実施例1と同様に膜性状の評価を行った。その結果を表2に示す。
KBM−503がないもの、或いはパーオキサイドがないものは、膜強度が悪く、実用的に使用できるものにはならなかった。
【0063】
[実施例10〜12]
更に、ホスマーMを70g、KBM−503を30gでナイパーの使用量を1g使用し、更に、KBE−04の使用量を10g、或いはTBTの使用量を10g、或いはホスマーMを90g、KBM−503を10gでナイパー1gの使用に対し、ALの使用量を10g用いて導電性透明被膜形成用塗布液を調製し、実施例1と同様の操作によりガラス表面に導電性透明被膜を形成した。実施例1と同様に膜性状の評価を行い、特性を比較した。その結果を表2に示す。
KBE−04、TBT或いはALを使用しない場合に比較して、より硬度が高くなり、耐水性が改良されていた。
【0064】
【表2】

【0065】
[実施例13]
パーオキサイド架橋導電性透明被膜形成用塗布液(表3)の調製とその評価
ポリ酸として、ケイタングステン酸25gを、ホスマーA(アクリル基含有リン酸)78.4g(40mol%)と混合し、5時間かけて溶解させた。この混合物に、KBM−503の140.4g(60mol%)、ナイパーBMT 40(純分40%のキシレン溶液)の6.8gを添加し、回転器で1時間混合し、導電性透明被膜形成用塗布液を調製した。
【0066】
透明ガラスの表面に、上記導電性透明被膜形成用塗布液を塗布し、スピンコート法で1,000rpmで5秒+3,000rpmで10秒の条件で製膜した。これを電気オーブン中に入れ、150℃で30分間熱架橋することで、ガラス表面に導電性透明被膜を形成した。
【0067】
このときの膜性状、特にリン酸等のブリード状態を目視で確認した。また、鉛筆硬度で被膜硬度を測定した。表面電気抵抗は、表面抵抗計(三菱化学(株)製:ハイレスターUPMCP−HT450)で測定した。また、100℃の熱水に3時間浸漬した後の膜性状により耐水性を評価し、結果を表3に示した。
【0068】
また、湿度による導電性の変化を調べるために、電極間距離2mmの電極を持つガラス板上に同様な導電性透明被膜を形成し、湿度を70%、41%、25%と経時で低下させ、導電率の変化を追跡した。結果を図1に示す。
【0069】
[実施例14]
ポリ酸として、ケイタングステン酸をリンタングステン酸に代え、実施例13と同様の操作を行い、結果を表3に示した。
【0070】
[実施例15,16]
ホスマーA(アクリル基含有リン酸)78.4g(40mol%)をホスマーM(メタクリル基含有リン酸)126g(60mol%)に、KBM−503 140.4g(60mol%)をKBM−5103 99g(40mol%)に代え、実施例13と同様の操作を行い、導電性透明被膜形成用塗布液を調製し、実施例13と同様に膜性状の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
[実施例17,18]
紫外線架橋導電性透明被膜形成用塗布液(表4)の調製とその評価
ポリ酸として、ケイタングステン酸25gを、ホスマーA(アクリル基含有リン酸)78.4g(40mol%)と混合し、5時間かけて溶解させた。この混合物に、KBM−503の140.4g(60mol%)、ルシリンTPOの7.4g(3質量%)を添加し、回転器で1時間混合し、導電性透明被膜形成用塗布液を調製した。
【0073】
透明ガラスの表面に、上記導電性透明被膜形成用塗布液を塗布し、スピンコート法で1,000rpmで5秒+3,000rpmで10秒の条件で製膜した。これをアイグラフィック社製紫外線照射装置(高圧水銀灯)中に入れ、UVメーター(UVPF36)で測定した365nm領域の照射エネルギー200mJ/cm2で紫外線架橋した。これにより、ガラス表面に導電性透明被膜を形成した。
【0074】
このときの膜は、湿度25%の状態に一日放置し、表面抵抗等の物性を評価し、結果を表4に示した。
【0075】
[実施例19,20]
ホスマーA(アクリル基含有リン酸)78.4g(40mol%)をホスマーM(メタクリル基含有リン酸)126g(60mol%)に、KBM−503 140.4g(60mol%)をKBM−5103 99g(40mol%)に代え、実施例17と同様の操作を行い、導電性透明被膜形成用塗布液を調製し、同様に膜性状の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ポリ酸の配合の有無における、温度による導電率の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するシラン化合物及び/又はその加水分解物と、(ii)メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有する重合性酸性リン酸エステルと、(iii)ラジカル発生基を含有する化合物とを必須成分とするマトリックス前駆体を含むことを特徴とする導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項2】
前記マトリックス前駆体が、マトリックス前駆体中の(i)成分と(ii)成分の割合が固形分として質量比10:90〜70:30の範囲にあり、(iii)成分が(i)成分と(ii)成分の合計の量に対し、0.1〜10質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項3】
前記マトリックス前駆体が、更に(iv)金属アルコキシド化合物及び/又はその加水分解物を含んでなり、マトリックス前駆体中の(iv)成分の割合が固形分として0.1〜30質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項4】
前記金属アルコキシド化合物及び/又はその加水分解物が、ケイ素、チタニウム、又はアルミニウムのアルコキシドであることを特徴とする請求項3に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項5】
前記マトリックス前駆体が、更に(v)ポリ酸を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項6】
ポリ酸が、ケイタングステン酸及び/又はリンタングステン酸であることを特徴とする請求項5に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項7】
ポリ酸が、(i)成分と(ii)成分の合計の量に対し、5〜50質量%の範囲にあることを特徴とする請求項5又は6に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤。
【請求項8】
請求項5、6又は7に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤を基材に塗布して形成した透明被膜を、60℃以上220℃以下の温度で加熱するか、又は可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射して不溶化することを特徴とする導電性透明被膜の形成方法。
【請求項9】
基材上を、少なくとも1層の透明被膜で被覆した物品であって、該透明被膜のうち1層以上が請求項1乃至7のいずれか1項に記載の導電性透明被膜形成用塗布剤を用いて形成されたことを特徴とする導電性透明被膜付基材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−188647(P2006−188647A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91136(P2005−91136)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】