説明

導電性金属酸化物粉末、その製造方法、および、焼結体

【課題】簡単かつ安価なプロセスで得られ、導電性に優れた導電性金属酸化物粉末の提供。
【解決手段】導電性金属酸化物粉末の組成として、インジウムにゲルマニウムと錫を共存させるとともに、インジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計が0.02よりも大きく、0.4未満となる組成を適用することにより、より良好な導電性を有する導電性金属酸化物粉末を得ることができる。主たる原料を酸化物にしているので、溶液系を用いなくても、酸化物微粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱することにより、微小な粒径を有する良好な導電性金属酸化物粉末を得ることができ、廃水処理や還元処理を実施する必要がなく、プロセスの簡略化やコスト低減を容易に図ることができる。酸化物原料を用いるので、溶融法と比べて、容易に高結晶性で欠陥の少ない微粒子とすることができ、より高い電気伝導性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属酸化物粉末、その製造方法、および、それを用いた焼結体に関する。さらに詳しくは、ゲルマニウムと錫が共存したインジウム酸化物である。また、さらに詳しくは、主たる原料として酸化物を用いて機械的に混合しまたは粉砕して微粒子化し、その後に加熱処理する、好ましくは、還元ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を含む雰囲気中で加熱処理することを特徴とする導電性金属酸化物粉末、その製造方法、および、それを用いた焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インジウム−錫酸化物(ITO)を主とする導電性金属酸化物粉末(粒子)の透明導電性皮膜への利用が盛んになっている。
導電性金属酸化物粉末を用いて透明導電性皮膜を形成する方法として、以下のような方法が知られている。具体的には、一次粉径が約0.1μm以下の導電性金属酸化物粉末を、溶媒とバインダー樹脂からなる溶液中に分散させる。そして、これをガラス、プラスチックなどの基材に塗布、印刷、浸漬、スピンコートまたは噴霧などの手段で塗工し、乾燥する方法が知られている。
このようにして形成された透明導電膜は、ガラス、プラスチックなどの帯電防止や、ほこりの付着防止に有効であり、ディスプレイや計測器の窓ガラスの帯電防止やほこりの付着防止用として利用されている。
さらに、ICパッケージ回路形成、クリーンルーム内装材、各種ガラスやフィルムなどの帯電防止やほこりの付着防止、塗布型透明電極または赤外線遮蔽材料などの用途に利用もしくは検討が行われており、今後の需要の伸びが期待されている。
【0003】
また、各種薄膜ディスプレイの急速な普及により透明導電膜の需要が拡大している。さらに、熱線遮蔽などの省エネルギー材料としても、透明導電性酸化物の薄膜は、その重要性を増している。
【0004】
透明導電性酸化物としては、酸化インジウムに錫をドープしたITOが最も性能がよく、多用されている。酸化インジウムに様々な元素をドーピングして、電気伝導性を上げるための試みはいろいろなされており、Sn以外にも4価の元素が有効であるといわれている。このような4価の元素として、ゲルマニウムをドーピングした構成が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
また、導電性が良好なインジウム含有酸化物微粉末を得るためには、これまで一般的な製造方法として、以下のような方法が知られている。具体的には、2種以上の原料遷移金属イオンを含有する水溶液(例えば、ITO粉末の場合には、錫とインジウムを塩化物または硝酸塩として溶解した水溶液)をアルカリ水溶液と反応させて、原料金属の水酸化物を共沈させる。そして、この共沈水酸化物を出発原料として、これを大気中で加熱処理して酸化物に変換させる方法が知られている(例えば、特許文献3および特許文献4参照)。
【0006】
さらには、不活性ガスの加圧下、密閉して焼成するなどの工夫をして、低抵抗化を図ることも知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、従来技術として、さらに導電性を高めるために、焼成雰囲気の酸素分圧を制御したり、あるいは還元性の気流で焼成することも述べられている。
また、インジウムに、ゲルマニウムと錫を共存させた構成も知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】特許第3367149号公報
【特許文献2】特許第3483166号公報
【特許文献3】特開平7−188593号公報
【特許文献4】特開2002−68744号公報
【特許文献5】特開2003−327429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1および特許文献2では、ゲルマニウムを含んだ酸化インジウムについての具体的な開示がされておらず、このような酸化インジウムがITOを凌駕するような高性能を有さないおそれがある。さらに、ゲルマニウムと、錫とが共存した構成が開示されていない。
また、特許文献3および特許文献4のような溶液から製造するビルドアップ的な方法では、あるいは、特許文献1のような加圧や密閉状態で焼成する方法では、プロセスが複雑であり廃水処理などにもコストがかかるという大きな問題点がある。
さらに、特許文献5では、熱線遮蔽への応用のみが示されており、製造法や電気伝導性についは示されていない。熱線遮蔽性にはキャリヤーとしての電子数が多ければ性能がよいが、電気伝導性を高めるためにはキャリヤー数が多いことだけでは不十分であり、移動度が高いことが必要である。この移動度向上のためには結晶性がよく、キャリヤーの散乱を少なくするための製造方法が重要であるが、特許文献5にはなんらこの点に関しての開示がない。
【0009】
本発明の目的は、かかる問題を解決するためになされたものであり、簡単なかつ安価なプロセスで得られ、導電性に優れた導電性金属酸化物粉末、その製造方法、および、焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究したところ、酸化インジウムに酸化ゲルマニウムと酸化錫を共存させることにより、インジウムおよびゲルマニウム、あるいは、インジウムおよび錫からなる二元金属酸化物と比べて、良好な導電性が得られることを見出した。また、このように酸化ゲルマニウムと酸化錫を共存させた組成において、インジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計Xが0.02以下の場合、および、0.4以上の場合に、良好な導電性が得られなくなること、つまりモル合計Xが0.02より大きく、0.4未満の場合に、良好な導電性が得られることを見出した。さらに、主たる原料が酸化物なので、溶液系を用いなくても、酸化物粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱処理する、好ましくは、還元ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を含む雰囲気中で加熱処理することにより、微小な粒径を有する良好な導電性金属酸化物粉末を得られることを見出した。
これらの知見に基づいて、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の導電性金属酸化物粉末は、ゲルマニウム酸化物(主成分GeO2)と、錫酸化物(主成分SnO2)と、インジウム酸化物(In23)との三元金属酸化物からなる導電性金属酸化物粉末であって、溶融組成物中のゲルマニウム(Ge)のモル比Mge、錫(Sn)のモル比Msnが以下の式(1)を満たし、溶融組成物中のインジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計Xが以下の式(2)を満たすことを特徴とする。
【0012】
0<Mge/(Mge+Msn)<1 … (1)
【0013】
0.02<X<0.4 … (2)
【0014】
この発明によれば、導電性金属酸化物粉末を、ゲルマニウムのモル比Mge、錫のモル比Msnが、上記式(1)を満たす組成、つまり、ゲルマニウムおよび錫を共存させる組成とするので、二元金属酸化物と比べて、良好な導電性を有する導電性金属酸化物粉末を得られる。特に、インジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計Xが、上記式(2)を満たす組成とするので、より良好な導電性を有する導電性金属酸化物粉末を得られる。さらに、主たる原料が酸化物なので、溶液系を用いなくても、酸化物微粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱処理することにより、微小な粒径を有する良好な導電性金属酸化物粉末が得られる。よって、溶液を利用する構成のように廃水処理や還元処理を実施する必要がなく、プロセスの簡略化やコスト低減を容易に図れる。
また、溶液法では、水酸化物から熱処理するために結晶性が悪く移動度が上がらないために、電気伝導性が十分には高くならない問題があるが、本方法では、酸化物原料であるために容易に高結晶性で欠陥の少ない微粒子とすることができ、より高い電気伝導性が得られる。
【0015】
また、本発明の導電性金属酸化物粉末では、平均粒径が200nm以下であることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、導電性金属酸化物粉末の平均粒径を200nm以下にする。
ここで、平均粒径を200nmよりも大きくした場合、導電性金属酸化物粉末を用いた焼結体により導電性膜を形成すると、透明性が損なわれてしまうおそれがある。
このことにより、導電性膜などの良好な透明性および導電性が要求される用途に利用可能な導電性金属酸化物粉末を得られる。
【0017】
本発明の導電性金属酸化物粉末の製造方法は、上述した導電性金属酸化物粉末の製造方法であって、混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、不活性ガス雰囲気下で溶融焼成することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、混合したゲルマニウム酸化物、錫酸化物、および、インジウム酸化物を、不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する。
このことにより、大気雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて、より高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られる。
【0019】
本発明の導電性金属酸化物粉末の製造方法は、上述した導電性金属酸化物粉末の製造方法であって、混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、還元性ガスを含む不活性ガス雰囲気下で溶融焼成することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、混合したゲルマニウム酸化物、錫酸化物、および、インジウム酸化物を、還元性ガスを含む不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する。
このことにより、大気雰囲気下や、還元性ガスを含まない不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて、より低温焼成においては高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られる。
【0021】
本発明の導電性金属酸化物粉末の製造方法は、混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、還元性ガス雰囲気下にて300〜800℃で溶融焼成し、その後に不活性ガス雰囲気下で溶融焼成することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、混合したゲルマニウム酸化物、錫酸化物、および、インジウム酸化物を、還元性ガス雰囲気下にて300〜800℃で溶融焼成し、その後に不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する。
このことにより、大気雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて、より高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られる。
【0023】
本発明の焼結体は、上述した導電性金属酸化物粉末を焼結体原料として用いたことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、導電性に優れた導電性膜を形成できるとともに、製造プロセスの簡略化やコスト低減を容易に図れる焼結体を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
【0026】
本発明の導電性金属酸化物粉末は、透明導電性塗料、プラスチックの添加剤(白色フィラー、帯電防止、静電気防止、電磁シールドなど)、透明導電性薄膜材料、赤外線、紫外線遮蔽材料、機能性塗料材料(導電性塗料、熱線反射塗料)などに使用できる。
また、本発明の導電性金属酸化物粉末からなる焼結体は、透明導電性薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットなどに使用できる。
【0027】
〔導電性金属酸化物粉末の構成〕
本発明の導電性金属酸化物粉末またはこれを用いた焼結体は、ゲルマニウム、錫、インジウムを含む酸化物原料を加熱処理して得られる。
ゲルマニウム、錫、インジウムの各原子を含む原料としては、それぞれ酸化ゲルマニウム、酸化錫、酸化インジウムの粉末がある。これら酸化物を混合した物を、出発原料に用いることができる。
【0028】
本発明の導電性金属酸化物粉末を製造する際には、各原料酸化物を所定量秤量し混合した出発原料を、大気雰囲気下、好ましくは還元性ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を含む雰囲気下で加熱処理する。
加熱処理は、還元性ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を充填でき、炉内を還元性ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を含む雰囲気に維持できるものであれば、公知の電気炉を用いて実施できる。
還元ガスとしては水素が好適である。
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが使用できる。
【0029】
加熱処理は、高い温度であれば、粒成長が激しく短時間での加熱処理が好ましい。一方、低温であれば、粒成長が抑えられるが、より長時間の加熱処理をした方が、導電性が向上する。
加熱処理における加熱温度は、1000℃以下が好ましく、1000℃以上であれば特に粒成長が激しく微粒子の作製が困難になる。
また、加熱処理における加熱時間は、高温であれば数秒程度の非常に短い時間で十分であり、低温であれば一時間程度以下で十分であり、1000℃以上であるならば、10分以下が好適であり、500〜1000℃であれば、30分以下が好適であり、500℃以下であれば、数時間程度以下が好適である。
上記加熱温度は、大気雰囲気での温度であり、還元ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気でも同様であるが、還元ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気の方が、より高い導電性を得ることができる。
【0030】
加熱処理した後、そのままで導電性金属酸化物粉末を得られるが、ビーズミルなどにより湿式での解砕を行うことにより、超微粒子の分散液を作製可能であり、バインダー、可塑剤などとの混合により導電性塗料とすることもできる。
本発明の導電性金属酸化物粉末の平均粒径は、用途に合わせて調整すればよいが、例えば、ゴムやプラスチックなどへの白色導電性フィラーや、焼結体原料として用いる場合は0.1μm〜数μmが好ましく、透明導電性が要求される用途では、0.2μm(200nm)以下が好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
なお、平均粒径は比表面積を測定し、平均粒径=6/(比重×比表面積)の関係から算出した。
【0031】
本発明の導電性金属酸化物粉末では、酸素を除くゲルマニウムのモル比Mgeと錫のモル比Msnが以下の式(3)を満たし、酸化ゲルマニウムと酸化錫を含む酸化インジウム主体の酸化物である。
【0032】
0<Mge/(Mge+Msn)<1 … (3)
【0033】
特に、本発明の導電性金属酸化物粉末では、モル比Mge,Msnが以下の式(4)を満たすことが好ましい。
【0034】
0.01<Mge/(Mge+Msn)<0.75 … (4)
【0035】
Mge/(Mge+Msn)が0.01以下では、ゲルマニウムの添加効果が十分でなく、0.75以上では、電気伝導性が低下するだけでなく高価なゲルマニウムが多く必要となりコスト的に不利となるからである。
【0036】
このゲルマニウムと錫の共存効果は明確ではないが、以下のように考えられる。
すなわち、ゲルマニウムも錫も同様に酸化インジウムへのキャリヤードープの効果があるが、ゲルマニウムのイオン半径が錫のそれよりもインジウムのイオン半径との差が大きい。このため、キャリヤーが散乱されやすいために、酸化ゲルマニウム単独の置換では、酸化錫単独置換のITOよりも導電性が悪くなる。
一方、酸化ゲルマニウムの方が酸化インジウムとの反応性が高くより低温で固溶化が進むために、粒成長が抑えられる。このため、微粒子化には、酸化ゲルマニウムの方が好適である。
また、酸化ゲルマニウムが共存することにより錫の固溶もより促進されるために、低温での加熱で高導電性かつ微粒子が得られると考えられる。
【0037】
導電性金属酸化物粉末中の各原子の含有率は、出発原料の各原料粉末の配合量により調整することができる。
本発明の導電性金属酸化物粉末では、溶融組成物中のインジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計Xが以下の式(5)を満たすように、各原子の含有量を調整している。
【0038】
0.02<X<0.4 … (5)
【0039】
これは、モル合計Xが0.02以下、または、0.4以上では、良好な導電性が得られなくなるためである。
【0040】
さらに、第4の成分として、酸化マグネシウム(MgO)などの典型金属の酸化物を適量含有させることもできる。
第4成分は、導電性にはほとんど影響を及ぼさないが、同じ製造条件の場合には結晶成長を抑えることが可能なため、導電性を示す三元金属酸化物の微粒子化が可能になり、透明性などでより微粒子化が必要な場合に有用である。また、結晶格子距離が短くなるのでUV吸収が可能になる効果が期待できる。
【0041】
本発明の導電性金属酸化物および粉末は、優れた導電性を有する。
具体的には、粉末としては、0.1S(ジーメンス)/cm以上(100kg/cm2の加圧下)となる。焼結体としては、100S/cm以上となる。
この導電性金属酸化物粉末は、それ自体で機能を有し、帯電防止剤など、熱線遮蔽材料など各種用途に用いられる。また、この粉末を原料とし、公知の方法にて加圧成型し、大気または不活性ガス中で焼結して、焼結体とすることもできる。
本発明の導電性金属酸化物粉末を用いた焼結体は、導電性に優れているため、例えば、導電性膜を形成するときに使用されるスパッタリングターゲットとして好適に用いることができる。
【0042】
〔導電性金属酸化物粉末の作用効果〕
上述したように、上記実施形態では、導電性金属酸化物粉末の組成として、上述の式(3)および式(5)を満たす条件で、インジウムにゲルマニウムおよび錫を共存させる組成を適用しているので、二元金属酸化物と比べて、より良好な導電性を有する導電性金属酸化物粉末を得ることができる。さらに、主たる原料を酸化物にしているので、溶液系を用いなくても、酸化物微粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱処理することにより、微小な粒径を有する良好な導電性金属酸化物粉末を得ることができる。したがって、溶液を利用する構成のように廃水処理や還元処理を実施する必要がなく、導電性金属酸化物粉末や焼結体の製造時におけるプロセスの簡略化やコスト低減を容易に図ることができる。
また、溶液法では、水酸化物から熱処理するために結晶性が悪く移動度が上がらないために、電気伝導性が十分には高くならない問題があるが、本方法では、酸化物原料であるために容易に高結晶性で欠陥の少ない微粒子とすることができ、より高い電気伝導性を得ることができる。
【0043】
そして、導電性金属酸化物粉末の平均粒径を200nm以下にすることにより、導電性膜などの良好な透明性および導電性が要求される用途に利用可能な導電性金属酸化物粉末や焼結体を得ることができる。
【0044】
また、混合したゲルマニウム酸化物、錫酸化物、および、インジウム酸化物を、還元性ガスおよび不活性ガスのうち少なくともいずれか一方を含む雰囲気下で加熱処理、すなわち溶融焼成することにより、大気雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて、より高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得ることができる。特に、還元性ガスを含む不活性ガス雰囲気下で溶融焼成すれば、還元性ガスを含まない不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて低温焼成の条件であっても、さらに高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られる。
【0045】
〔実施形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
【0046】
すなわち、本発明の導電性金属酸化物粉末の用途としては、焼結体に限らず、透明導電性塗料、プラスチックの添加剤(白色フィラー、帯電防止、静電気防止、電磁シールドなど)、透明導電性薄膜材料、赤外線、紫外線遮蔽材料、機能性塗料材料(導電性塗料、熱線反射塗料)に適用してもよい。
そして、導電性金属酸化物粉末の平均粒径を、200nmよりも大きくしてもよい。
さらに、最終的に不活性ガス雰囲気で加熱処理するならば、はじめに導電性金属酸化物粉末の溶融焼成時の雰囲気として、大気雰囲気下を適用してもよい。
また、導電性金属酸化物粉末の加熱条件としては、還元ガス雰囲気下において高温で溶融焼成し、例えば300〜800℃で溶融焼成し、その後に不活性ガス雰囲気下で溶融焼成してもよい。
【実施例】
【0047】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
なお、本発明は、これらの実施例などの記載内容に何ら制限されるものではない。また、元素名を元素記号で示して説明する。
【0048】
[実施例1〜6、比較例1〜9の試料の作製方法]
実施例1の試料を、以下の条件で作製した。
すなわち、酸化インジウム粉末(フルウチ化学(株):純度99.99%、BET表面積:35.6m2)17.995g、酸化ゲルマニウム粉末(フルウチ化学(株):純度99.99%)0.377g、および、遊星ボールミルにてあらかじめ微粉砕した酸化第二錫(フルウチ化学(株):純度99.99%、BET表面積15m2)1.628gを秤量し、メノウ乳鉢で混合した後、ボールミルで12時間混合した。混合した粉体20gをアルミナボートに載せ、石英管にいれて管状炉に挿入した。窒素(99,999%)を0.5リットル/分で流しながら、焼成した。焼成条件は800℃まで約10分間で昇温させた後に5分間保持し、1時間かけて冷却し、石英管から取り出して試料を得た。
また、実施例2〜6、比較例1〜9の試料は、実施例1の作製方法における以下の点を変更して作製した。
実施例2、および、比較例1,2では、Ge、Snの配合比のみを変更した。
実施例3,4、および、比較例3では、In、Ge、Snの配合比と、焼成温度(600℃)と、を変更した。
実施例5では、Ge、Snの配合比と、焼成雰囲気(水素1%を含有した窒素を0.5リットル/分で流しながら焼成する)と、焼成保持時間(10分)と、を変更した。
比較例4,5では、Ge、Snの配合比と、焼成温度(500℃)と、を変更した。
比較例6〜8では、In、Ge、Snの配合比のみを変更した。
比較例9では、焼成雰囲気(大気雰囲気で焼成する)を変更した。
実施例6では、In、Ge、Snの配合比と、焼成温度(700℃)と、を変更するとともに、Mgをさらに添加した。
実施例1〜5、比較例1〜9の試料中の酸素原子を除いた全原子に占めるIn、Ge、Snのモル比を表1に示す。また、実施例6の試料中の酸素原子を除いた全原子に占めるIn、Ge、Sn、Mgのモル比を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
[性能試験方法]
実施例1〜6、比較例1〜9の試料を、加圧しながら、具体的には100kg/cm2の加重をかけながら、四端子法で電気抵抗を測定した。また、平均粒径をBET表面積に基づいて算出した。その結果を、表1および表2に示す。
【0052】
[性能評価結果]
表1に示すように、実施例1では、電気伝導度が18.7S/cmであり、良好な導電性を有することが確認できた。また、平均粒径は63nmであり、溶液系を用いなくても、酸化物微粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱処理することにより、超微粒子の導電性金属酸化物粉末を得られることが確認できた。
また、実施例1,2および比較例1,2の比較、実施例3および比較例4,5の比較から、In/Ge/Snからなる三元金属酸化物の微粉末は、In/Ge、あるいは、In/Snからなる二元金属酸化物の微粉末よりも、著しく導電性が高くなることが確認できた。
さらに、実施例1〜5および比較例6〜8の比較から、モル合計Xが0.02よりも大きく、0.4未満の場合に良好な導電性が得られ、これらの条件以外の場合に、導電性が悪くなることが確認できた。
つまり、導電性金属酸化物粉末を、上記式(3)、(5)を満たす組成にすることにより、より良好な導電性および微小な粒径を有するとともに、製造時におけるプロセスの簡略化やコスト低減を容易に図ることができることが確認できた。
【0053】
また、実施例3,5の比較から、還元性ガスを含む不活性ガス雰囲気下で溶融焼成することにより、還元性ガスを含まない不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する場合と比べてより低温度の加熱処理において、より高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られることが確認できた。
そして、実施例2,3の比較から、平均粒径が小さくなるほど、電気伝導度が小さくなることが確認できた。
また、実施例1および比較例9の比較から、不活性ガス雰囲気下で溶融焼成することにより、大気雰囲気下で溶融焼成する場合と比べて、より高い導電性の導電性金属酸化物粉末を得られることが確認できた。
さらに、実施例6から、所定の導電性を有するとともに、溶液系を用いなくても、酸化物微粒子を機械的に混合しまたは粉砕した原料を加熱処理することにより、超微粒子の導電性金属酸化物粉末を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の導電性金属酸化物粉末は、透明導電性塗料、プラスチックの添加剤(白色フィラー、帯電防止、静電気防止、電磁シールドなど)、透明導電性薄膜材料、赤外線、紫外線遮蔽材料、機能性塗料材料(導電性塗料、熱線反射塗料)などに使用できる。
また、本発明の導電性金属酸化物粉末からなる焼結体は、透明導電性薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットなどに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム酸化物(主成分GeO2)と、錫酸化物(主成分SnO2)と、インジウム酸化物(In23)との三元金属酸化物からなる導電性金属酸化物粉末であって、
溶融組成物中のゲルマニウム(Ge)のモル比Mge、錫(Sn)のモル比Msnが以下の式(1)を満たし、
0<Mge/(Mge+Msn)<1 … (1)
溶融組成物中のインジウム1モルに対するゲルマニウムと錫のモル合計Xが以下の式(2)を満たす
0.02<X<0.4 … (2)
ことを特徴とした導電性金属酸化物粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性金属酸化物粉末であって、
平均粒径が200nm以下である
ことを特徴とした導電性金属酸化物粉末。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性金属酸化物粉末の製造方法であって、
混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する
ことを特徴とする導電性金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の導電性金属酸化物粉末の製造方法であって、
混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、還元性ガスを含む不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する
ことを特徴とする導電性金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の導電性金属酸化物粉末の製造方法であって、
混合した前記ゲルマニウム酸化物、前記錫酸化物、および、前記インジウム酸化物を溶融焼成する際に、還元性ガス雰囲気下にて300〜800℃で溶融焼成し、
その後に不活性ガス雰囲気下で溶融焼成する
ことを特徴とする導電性金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の導電性金属酸化物粉末を焼結体原料として用いた
ことを特徴とした焼結体。