説明

導電性高分子からなる微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む機能素子。

【課題】本発明は、導電性高分子を3次元的な構造体として形成する新規な微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む新規な機能素子を提供することを目的とする。
【解決手段】光透過性の高分子膜の内部を、その膜厚方向をZ方向とした3次元的な反応場として規定し、当該反応場において導電性高分子の光重合を行なう。高分子膜に導電性高分子の酸化重合性モノマーと、酸化剤と、光増感分子とを含む光重合性組成物を含浸したのち、上記高分子膜の内部であって膜厚方向をZ方向として定義する3次元的な領域にフェムト秒レーザーによってレーザー光を集光照射する。その際、焦点を3次元的に移動させながら露光することによって、上記高分子膜の内部に所望の形状の導電性高分子からなる微小立体構造物を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子からなる微小立体構造物の製造方法に関し、より詳細には、光造形法を用いた導電性高分子からなる微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む機能素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシーンの構成部品や微小光学素子などの用途を企図した高分子からなるμmオーダーの微小立体構造物を、光造形法を用いて形成することが種々検討されている。この点につき、特開2003−1599号公報(特許文献1)は、アクリレート系、エポキシ系等の光硬化性樹脂を用いた微小立体構造物の製造方法において、多光子吸収による光重合を用いた製造方法を開示する。特許文献1は、光造形法において、多光子吸収特性を有する光硬化性樹脂に対してフェムト秒パルスレーザーを集光照射することによって、レーザー光の焦点位置においてのみ硬化反応を生じさせ、もって、光の回折限界以下のスケールの微細加工を可能にする方法を開示する。
【0003】
一方、導電性高分子については、その導電性はもちろんのこと、その酸化還元反応に伴うエレクトロクロミズムによる色変化、可逆的にアニオンがドープされることに伴う可逆的な体積変化(伸縮性)など、種々の有用な特性が知られており、機能性材料として、μmオーダーのスケールの分野への応用展開が期待されているが、特許文献1は、導電性高分子からなる微小立体構造物の製造方法については何ら開示するものではない。
【0004】
この点につき、特開平1−123228号公報(特許文献2)は、一光子吸収による光重合を用いた導電性高分子からなる微小パターンの形成方法において、一光子吸収過程で励起される光増感剤を酸化剤として利用した、光重合性モノマーの酸化重合方法を開示する。特許文献2は、導電性高分子からなる微小パターンについて、その3次元的な展開の可能性を示唆するものの、これを何ら実証するものではない。
【0005】
従来の光造形法においては、光重合性モノマーが溶解した重合液に浸漬した基板の表面に光を照射することによって光重合反応が開始され、当該基板表面を起点として重合した高分子が積層されることによって微小立体構造物が形成されていた。すなわち、従来法においては、光重合反応の反応場は、流動性の高い液体であったため、高分子の積層過程において振動などの影響を受けやすく、また、あくまで基板を支持体として、その上方向に重合した高分子を積層することによって構造体を形成していたため、重力の影響を考慮して必然的にその形状が限定され、あるいは、サポートと呼ばれる支持体を含んだ構造体を設計した上で、事後的に当該支持体を取り除くといったことが必要であった。
【特許文献1】特開2003−1599号公報(特許文献1)
【特許文献2】特開平1−123228号公報(特許文献2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、導電性高分子を3次元的な構造体として形成する新規な微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む新規な機能素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、導電性高分子の持つ、導電性、色変化、伸縮性などの各種特性を利用した機能性微小立体構造物の更なる応用展開の可能性に鑑みて、導電性高分子を3次元的な構造体として形成する方法につき鋭意検討した。その結果、光透過性の高分子膜の内部を、その膜厚方向をZ方向とした3次元的な反応場として規定し、当該反応場において導電性高分子の光重合を行なうことによって、導電性高分子を所望の3次元的な構造体として形成することができることを見出した。また、従来の光造形法に比較して、その形成速度が高速でありながら精度が高く、さらに、より低い照射エネルギーで構造体を形成することができることを見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、導電性高分子からなる微小立体構造物を製造する方法であって、光透過性の高分子膜に導電性高分子の酸化重合性モノマーと、酸化剤と、光増感分子とを含む光重合性組成物を含浸する工程と、前記高分子膜の内部であって膜厚方向をZ方向として定義する3次元的な領域に、焦点を移動させながらレーザー光を集光照射する工程とを含む製造方法が提供される。本発明においては、レーザー光の焦点を3次元的に移動させながら集光照射することができる。また、本発明においては、前記光重合性組成物を含浸する工程を、前記高分子膜に、前記酸化剤および前記光増感分子を含む組成物を含浸した後、前記酸化重合性モノマーを含む組成物を含浸する工程とすることが好ましい。さらに、本発明における前記高分子膜は、3次元細孔構造を備えることが好ましく、また、イオン交換膜とすることが好ましい。さらに加えて、本発明においては、前記レーザー光を、フェムト秒レーザーによって発振することが好ましい。
【0009】
本発明の別の構成によれば、光透過性の高分子膜と導電性高分子とを含む機能素子であって、前記高分子膜の内部であって膜厚方向をZ方向として定義する3次元的な領域に導電性高分子からなる微小構造物を含む機能素子が提供される。本発明においては、前記微小構造物を3次元的な構造物とすることができ、前記3次元的な構造物を、前記Z方向において空間的に離間した複数の構造物を含んで構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、導電性高分子を3次元的な構造体として形成する新規な微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む新規な機能素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の製造方法における光重合反応の反応場の断面図を示す図である。本発明における反応場は、基板12の上に積層された高分子厚膜14の上端面Uと下端面Bとの間であって、その膜厚方向をZ方向とした3次元的な領域として定義される。高分子厚膜14は、3次元細孔構造を備え、光透過性であり、後述するモノマーが重合する3次元的な反応場として機能するために充分な厚みを有している。高分子厚膜14の内部には、図示しない酸化重合性モノマー、光増感分子、酸化剤、および支持電解質等を含む光重合性組成物が含浸しており、XYZ方向に均一性をもって分散している。本発明の製造方法においては、上述した光重合性組成物を含む溶液を高分子厚膜14に含浸することによって高分子厚膜14の内部に光重合性組成物を含浸・分散させることができる。この際、雰囲気中の酸素との反応による酸化重合性モノマーの非選択的重合を防ぐため、上記光重合性組成物のうち酸化重合性モノマーを除いた成分を含む溶液を高分子厚膜14に含浸した後、事後的に、酸化重合性モノマーを含んだ溶液を高分子厚膜14に含浸することが好ましい。また、高分子厚膜14の膜厚が基板として機能するに足る充分な厚さを備えている場合には、必ずしも基板12を用いる必要はない。本発明の製造方法においては、基板12は、光造形法における析出基板として機能させるものではなく、その採用は任意である。
【0013】
本発明における光重合反応は、酸化重合性モノマーの直接紫外光励起による光酸化反応によるものではなく、光励起した光増感剤の酸化力を利用する。すなわち、本発明においては、酸化重合性モノマーを直接励起するのではなく、酸化重合性モノマーの励起を経由しない光増感分子を利用する。本発明の光重合反応系においては、多光子吸収過程で励起された光増感分子が強い電子供与体となり、電子受容分子としての酸化剤に電子を与える。その結果、光増感分子が強い酸化力を有する色素酸化体となり酸化重合性モノマーを酸化することによって重合反応が進行する。
【0014】
なお、本発明においては、上述した光増感分子の光励起を、光増感分子と酸化重合性モノマーに吸収されない波長を有するレーザー光によって行なうことが好ましく、また、高解像度を実現するために、極めて狭い範囲に対し極めて強いレーザー光を照射することができるフェムト秒レーザーを用いて行なうことが好ましい。
【0015】
本発明における酸化重合性モノマーは、色素酸化体に酸化されて重合し、導電性高分子を形成するものであればよく、例えば、ピロール、チオフェン、アニリンおよびこれらの誘導体を挙げることができる。また、本発明における光増感分子は、その酸化電位が上述した酸化重合性モノマーの酸化電位より高い色素であればよく、例えば、ピリジン系錯体、ポルフィリン、フタロシアニン、およびこれらの誘導体などの金属錯体系色素を挙げることができる。さらに、本発明における酸化剤は、酸化電位が上述した酸化重合性モノマーの酸化電位より低く、当該モノマーと直接反応しない電子受容分子であればよく、例えば、溶存酸素、メチルビオローゲンならびにその誘導体、コバルト錯体、ニッケル錯体などの金属錯体や、鉄や銅イオンなどの金属イオンを挙げることができる。
【0016】
図2は、本発明の製造方法の特徴を説明するための概念図である。従来の光造形法においては、ガラス板などを支持基板として、その上方向に重合した高分子を積層していたため、レーザー光をまず基板表面に集光させ、その焦点をXY方向に走査したのち、Z方向にその焦点を移動させ、その焦点を含む平面において引き続きXY方向を走査するという一連の工程の繰り返しによってなされていた。この点、本発明においては、図2に示すように、レーザー光Lの焦点(図2において●で示す)を、高分子厚膜14の上端面Uと下端面Bとの間であって、その膜厚方向をZ方向とした3次元的な領域内において移動させることによって光造形を行なう。高分子厚膜14は光透過性であるため、レーザー光Lを高分子厚膜14の内部で焦点を結ぶように集光照射することができる。
【0017】
図2に示されるように、本発明においては、従来法のように基板表面を起点としてレーザー光の照射を開始する必要がなく、高分子厚膜14の内部であれば、レーザー光の照射を所望の場所から開始し、また、所望の場所でそれを終了することができ、所望の立体形状をあたかも中空に浮くような形で形成することができる。これは、高分子厚膜14の3次元細孔構造が、形成された導電性高分子16を重力に逆らって支持する支持体として機能しているためであると思われる。すなわち、高分子厚膜14の内部の任意の位置にレーザー光Lの焦点を置いた場合、当該位置において光重合反応が起こり導電性高分子16が形成される。形成された導電性高分子16は、高分子厚膜14の3次元細孔構造に保持され、形成されたその位置に留まるものと考えられる。よって、本発明によれば、高分子の重合過程において振動等の影響を大きく受けることなく、高精度の造形が可能とする。すなわち、本発明の製造方法によれば、高分子厚膜14の上端面Uと下端面Bとの間であって、その膜厚方向をZ方向とした3次元的な領域内でレーザー光Lの焦点を3次元的に移動させることによって所望の立体的構造物を高精度で形成することができる。
【0018】
本発明における高分子厚膜14は、レーザー光を透過しうる光透過性の膜であって、上述した光重合性組成物が好適に浸透し、これを、均一性をもって分散することができる構造を備えていることが好ましく、さらに形成された導電性高分子を好適に支持することができる構造を備えていることが好ましい。このような構造としては、3次元細孔構造などを挙げることができる。本発明においては、高分子厚膜14として、ミクロ相分離による3次元細孔構造を備えるイオン交換膜を用いることが好ましく、例えば、パーフルオロスルホン酸系ポリマ、パーフルオロカルボン酸系ポリマ、エチレンテトラフルオロエチレン重合系ポリマなどを挙げることができる。
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、導電性高分子をより多彩なバリエーションをもって3次元的に展開することが可能になる。従来法においては、形成過程の高分子は基板に支持されていることが前提となっていたため、例えば、Z方向において空間的に離間した要素が3次元的に展開した構造を形成することは困難であり、また、仮にできたとしてもその位置関係を恒常的に保持することは不可能であった。この点、本発明によれば、複数の構成要素を、高分子厚膜14のZ方向において、空間的に互いに離間した状態で形成することが可能であり、さらにその形成後、お互いの3次元的な位置関係を維持することができる。図3は、本発明の製造方法によって、Z方向において空間的に離間した要素が3次元的に展開された構造を示す。図3に示す実施形態においては、高分子厚膜14内においてレーザー光Lの焦点を2次元的に移動させることによって2次元形状を有する構成要素18、19および20が形成されている。構成要素18、19および20は、Z方向において空間的に離間した状態で形成されており、これらの位置関係が維持されている。以上、説明したように、本発明の製造方法によれば、2次元パターンはもちろんのこと、複数の要素がZ方向において空間的に離間してなる3次元パターンなど、所望の微小構造を高い精度をもって形成することができる。すなわち、本発明によれば、光透過性の高分子膜と導電性高分子とから構成される新規な機能素子であって、高分子膜内部の3次元的な領域に所望の形状を備える導電性高分子が形成されてなる機能素子を製造することができる。
【0020】
上述した本発明の作用効果は、情報記録メディアとしての体積ホログラフィーやフォトニック結晶などの光学素子を、光造形法によって作製することの可能性について示唆するものであり、加えて、導電性高分子が備える導電性、色変化、伸縮性などの特性がこれに相乗的に作用することによる、より広い応用展開を期待させるものである。
【0021】
さらに、本発明の製造方法によれば、好適なことに、従来法に比べて、高速、高精度、および低照射エネルギーで光造形を行なうことができる。この理由については明らかではないが、本発明者は、高分子厚膜14が、導電性高分子の重合過程における核形成や重合に必要な原料物質の反応場への供給に対して寄与しているものと推測する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の導電性高分子からなる微小立体構造物の製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0023】
(光重合反応の反応場の作製)
光重合反応の反応場である露光セル30を図4に示す手順で作製した。光増感分子として1 mMのトリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム錯体塩化物6水和物(Ru(bpy)32+/アルドリッチ製)を、酸化剤として1 mMのメチルビオローゲン(MV2+/東京化成製)を、支持電解質として0.1 Mのテトラフルオロほう酸リチウム(LiBF4/東京化成製)を用い、これらを純水に溶かして溶液Aを調製した。調製した溶液Aに対し、電子供与分子として作用する光重合性モノマーとして、0.22 Mのピロール(和光純薬製)を溶かし、重合液Bを調製した。
【0024】
イオン交換シート32(厚み:0.15 mm)を縦横約1cm角に切り出し、上述した手順で調製した溶液Aに30分以上浸した後、ガラス板34の上に静置した。なお、本実施例においては、イオン交換シート32として、Nafion(登録商標)を用いた。次に、溶液Aが浸透したイオン交換シート32の上に0.5mm厚のシリコンオーリング36を重ね、シリコンオーリング36の内側に光重合性モノマーを含んだ重合液Bを50μl滴下した。最後に、シリコンオーリング36の上面をガラス板38でカバーし、図示しない手製の金属ケース内に固定化した。
【0025】
(光造形法による3次元構造体の形成)
図5に示す、専用設計の光造形装置40(フォトサイエンス製:MPF-130)を用いて、上述した手順で作製した露光セル30において光造形を行なった。光造形装置40は、ダイオード励起固体レーザー42(Millennia Pro/スペクトラフィジックス製)、モードロックチタンサファイヤレーザー44(Tsunami/スペクトラフィジックス製)、レーザーアッテネーター46、ならびに、スペーシャルフィルタ48、対物レンズ50等を含む集光光学系52、および試料ステージ54、ピエゾXYZ軸ステージ56を含んで構成した。露光セル30に入射するレーザー光の条件は、波長は800 nm、パルス幅は150 fs、繰り返し周波数は80 MHzとし、最終出力を対物レンズ50(N.A.0.8)下で130 mWとした。
【0026】
本実施例においては、対物レンズ50によってレーザースポットの大きさを回折限界の1.22μmまで絞り、入射光強度を11 mWとしてレーザー光を集光照射した。レーザー光の焦点の移動は、対物レンズ50を固定した状態で、露光セル30を移動させることによって行なった。具体的には、レーザー光の焦点を、イオン交換シート32の面方向として規定されるXY方向およびイオン交換シート32の膜厚方向として規定されるZ方向において、50μmの範囲で移動させ、その移動速度を2.5
μm/sとした。
【0027】
なお、露光セル30の移動は、試料ステージ54が搭載されたピエゾXYZ軸ステージ56によって行ない、再現したい立体構造を得るためのXYZピエゾステージ56の移動の実行データは、コンピュータ上の立体データ(STL : Stereolithography)を輪切り状に分割し、XYZ軸の座標データや露光条件を設定できる専用ソフト(アウトストラーダ製:AE-2000,E-Darts)を改良したものを用いて作成した。
【0028】
また、露光セル30が固定化された試料ステージ54(すなわち、XYZピエゾステージ56)の移動量および移動速度の制御、レーザー光のシャッター開閉の制御、および、レーザーアッテネーター46による入射光強度の制御は、10 nm精度で露光条件を設定できる専用ソフト(ランタイムインスツルメンツ製:MPF Ver2.1.0)で行った。
【0029】
上述した制御機構は、XYZ軸ステージ制御装置58、ピエゾドライバ60、電源ユニット62、パーソナルコンピュータ64を用いて実装した。また、立体構造の評価のために集光光学系52内に、CCDカメラ66、青色LED68、その他の光学系からなる試料観察ユニット70を設けた。
【0030】
(立体構造の評価)
光造形を行った後、露光セル30を青色LED68によって励起させ、露光セル30内に取り込まれたルテニウム錯体を発光させた。その結果、露光セル30内に、ピロールが重合してなるポリピロールがルテニウム錯体の発光を遮ることによって出現する陰が観察され、露光セル30の内部にポリピロールが形成されていることが確認された。なお、ポリピロールの3次元的構造体の透過平面像についてはシステム生物顕微鏡BX-60(オリンパス製)を、立体像については共焦点レーザ走査型顕微鏡FV1000-D(オリンパス製)をそれぞれ用いて観察した。
【0031】
図6は、スパイラル状に重合したポリピロールを示す。図6(a)は、コンピュータに入力したSTLデータを示す図であり、図6(b)は、露光後に実際に得られたポリピロールの透過平面像の光学顕微鏡写真を示す図である。図6(b)に示すように、線幅約1μmで、高さが40μmのスパイラル状のパターンが形成されていることが確認された。
【0032】
図7は、ウッドパイル状に重合したポリピロールを示す。図7(a)は、コンピュータに入力したSTLデータを示す図であり、図7(b)は、露光後に実際に得られたポリピロールの透過平面像の光学顕微鏡写真を示す図である。図7(b)に示すように、イオン交換シート32の膜厚方向において空間的に離間した要素が5段に積層されたパターンであって、その高さが合わせて20μmのパターンが形成されていることが確認された。
【0033】
なお、光学顕微鏡写真では、得られたポリピロールを真上から見た透過面像しか得られないため、本実施例によって形成されたポリピロールが3次元的に展開していることを検証すべく、図7(b)に示したポリピロールを蛍光共焦点顕微鏡で観察した。図8は、蛍光共焦点顕微鏡によって取得した、ウッドパイル状に重合したポリピロールの斜視画像を示す。なお、図8においては、理解のために画像の明暗を反転させて示した。図8に示されるように、本実施例によって形成されたポリピロール(反転画像の明るい部分)がイオン交換シート32の膜厚方向をZ方向として3次元的に展開していることが確認された。
【0034】
本実施例においては、より複雑な形状の再現性を検証すべく、図9(a)に示す、メビウスの輪状の立体的デザインを元にした光造形を試みた。図9(b)は、図9(a)に示したデザインを元にしたSTLデータを示す。このSTLデータの作成にあたっては、重合過程における減光の影響を考慮し、露光の順序を工夫した。図10は、露光後に実際に得られたポリピロールの透過平面像の光学顕微鏡写真を示す図である。図10に示されるように、真上から観察した状態ではあるが、画像からポリピロールの奥行き感が感じられ、本実施例によって形成されたポリピロールが反応場の膜厚方向をZ方向として3次元的に展開していることが充分に推認される結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上、説明したように、本発明によれば、導電性高分子を3次元的な構造体として形成する新規な微小立体構造物の製造方法及び導電性高分子からなる微小構造物を含む新規な機能素子が提供される。本発明によって、導電性高分子の更なる応用展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の製造方法における光重合反応の反応場の断面図を示す図。
【図2】本発明の製造方法の特徴を説明するための概念図。
【図3】Z方向において空間的に離間した複数の構成要素が形成された様子を示す図。
【図4】光重合反応の反応場である露光セルの作製手順を示す図。
【図5】光造形装置を示す図。
【図6】スパイラル状に重合したポリピロールの光学顕微鏡写真を示す図。
【図7】ウッドパイル状に重合したポリピロールの光学顕微鏡写真を示す図。
【図8】蛍光共焦点顕微鏡によって取得したウッドパイル状に重合したポリピロールの斜視画像を示す図。
【図9】メビウスの輪状のデザインおよびそのSTLデータを示す図。
【図10】メビウスの輪状に重合したポリピロールの光学顕微鏡写真を示す図。
【符号の説明】
【0037】
12…基板、14…高分子厚膜、16…導電性高分子、18…構成要素、19…構成要素、20…構成要素、30…露光セル、32…イオン交換シート、34…ガラス板、36…シリコンオーリング、38…ガラス板、40…光造形装置、42…ダイオード励起固体レーザー、44…モードロックチタンサファイヤレーザー、46…レーザーアッテネーター、48…スペーシャルフィルタ、50…対物レンズ、52…集光光学系、54…試料ステージ、56…ピエゾXYZ軸ステージ、58…XYZ軸ステージ制御装置、60…ピエゾドライバ、62…電源ユニット、64…パーソナルコンピュータ、66…CCDカメラ、68…青色LED、70…試料観察ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子からなる微小立体構造物を製造する方法であって、
光透過性の高分子膜に導電性高分子の酸化重合性モノマーと、酸化剤と、光増感分子とを含む光重合性組成物を含浸する工程と、
前記高分子膜の内部であって膜厚方向をZ方向として定義する3次元的な領域に、焦点を移動させながらレーザー光を集光照射する工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
前記集光照射する工程は、レーザー光の焦点を3次元的に移動させながら照射する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記光重合性組成物を含浸する工程は、前記高分子膜に、前記酸化剤および前記光増感分子を含む組成物を含浸した後、前記酸化重合性モノマーを含む組成物を含浸する工程である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記高分子膜は、3次元細孔構造を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記高分子膜は、イオン交換膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー光は、フェムト秒レーザーによって発振される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
光透過性の高分子膜と導電性高分子とを含む機能素子であって、
前記高分子膜の内部であって膜厚方向をZ方向として定義する3次元的な領域に導電性高分子からなる微小構造物を含む
機能素子。
【請求項8】
前記微小構造物は、3次元的な構造物である、請求項7に記載の機能素子。
【請求項9】
前記3次元的な構造物は、前記Z方向において空間的に離間した複数の構造物を含んで構成される、請求項8に記載の機能素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−108175(P2009−108175A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281152(P2007−281152)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【Fターム(参考)】