導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法
【課題】表面抵抗率や導電率等の電気特性に優れ、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際し、分散剤となるポリスチレンスルホン酸等を添加するので、当該ナノ微粒子が好適に分散される。加えて、溶液中でナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等が複合体を形成し、製膜された際にはナノ微粒子間の隙間の形成を抑制し、導電性・保水性向上溶媒による作用も相俟って、表面抵抗率等の電気特性や透明性に優れる。また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【解決手段】本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際し、分散剤となるポリスチレンスルホン酸等を添加するので、当該ナノ微粒子が好適に分散される。加えて、溶液中でナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等が複合体を形成し、製膜された際にはナノ微粒子間の隙間の形成を抑制し、導電性・保水性向上溶媒による作用も相俟って、表面抵抗率等の電気特性や透明性に優れる。また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、導電性、表面抵抗率等の電気特性に優れ、また、インクジェット印刷等による製膜も可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリチオフェン(Pth)類、ポリピロール(PPy)類、ポリアニリン類(PAn)等に代表されるπ−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなる導電性高分子は、電子センシングマテリアル(電子機能性材料)への応用が期待されている。
【0003】
また、これらの導電性高分子は、微粒子化された状態で所定の溶媒に分散された分散溶液ないしは塗料として用いられているが、溶媒への分散性、可溶性が悪いため、例えば、π−共役二重結合を有する導電性高分子に官能基を導入して可溶化する方法、バインダ樹脂に分散して可溶化する方法、ポリアニオンを添加して可溶化する方法が検討されている。このような方法も含め、近年、ポリチオフェンや3,4−ジアルコキシチオフェン等の水分散体及びその製造方法に関する技術が多数提供されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−153229号公報
【特許文献2】特開2006−28214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の導電性高分子微粒子を分散した分散溶液から得られた導電薄膜は、表面抵抗率や導電率等といった電気特性が必ずしも満足いくものではなかった。また、従来の分散溶液は、汎用塗布手段であるインクジェット印刷等の微細な印刷による製膜に対応することが難しかった。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、表面抵抗率や導電率等の電気特性に優れ、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法を提供する
ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、下記成分(A)〜(D)を含み、残部が水からなることを特徴とする。
(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子 0.1〜2.0質量%
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種 0.1〜4.0質量%
(C)低級アルコール 10.0〜70.0質量%
(D)導電性・保水性向上溶媒 2.0〜20.0質量%
【0008】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した本発明において、前記成分(D)導電性・保水性向上溶媒がジエチレングリコール(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSО)及びポリエチレングリコール(PEG)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した本発明において、前記成分(A)導電性高分子ナノ微粒子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る導電薄膜は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子を用いて得られることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明において、前記製膜の手段がインクジェット法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際して、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストラン、低級アルコール、導電性・保水性向上溶媒を必須成分として含有するので、表面抵抗率や導電率等の電気特性や透明性に優れ、また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【0014】
本発明に係る導電薄膜は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液から得られるので、ナノ微粒子間の隙間の形成が抑制された、表面抵抗率や導電率等の電気特性に優れ、透明性にも優れた導電薄膜となる。
【0015】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜してなるので、前記した効果を好適に奏する導電薄膜を効率よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】二酸化炭素の状態図である。
【図2】導電性高分子ナノ微粒子の製造方法を実施する製造装置の一態様を示した概略図である。
【図3】導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法のフローチャートを示した図である。
【図4A】実施例1についての印刷試験結果(印刷回数:1回)を示した図である。
【図4B】実施例1についての印刷試験結果(印刷回数:5回)を示した図である。
【図5】実施例1についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。
【図6】実施例1についての印刷試験結果を示した図である。
【図7A】比較例1の分散溶液をインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態のSEM画像を示した図である。
【図7B】実施例1の分散溶液をインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態のSEM画像を示した図である。
【図8】実施例6についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。
【図9】実施例3の分散溶液のインク吐出像を示した図である。
【図10】実施例3の分散溶液を1回印字した状態を示した図である。
【図11】実施例3の分散溶液についての印刷試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本発明の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmの導電性高分子ナノ微粒子、(B)ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種、(C)低級アルコール、(D)導電性・保水性向上溶媒、及び残部として水、を基本構成として含むものである。
【0018】
(A)導電性高分子ナノ微粒子:
本発明の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液(以下、単に「分散溶液」とする場合もある。)を構成する成分(A)導電性高分子ナノ微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーの重合体であり、使用できるモノマーとしては、例えば、チオフェン、3−アルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−アセチルチオフェン、3−フェニルチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体、ピロール、3−アルキルピロール(3−メチルピロール、3−ヘキシルピロール等)、3−メトキシピロール、3−アセチルピロール、3−フェニルピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−メチルアニリン及びm−メチルアニリン等のアニリン誘導体等を使用することができる。そして、これらの重合体として、例えば、ポリチオフェン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−アセチルチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)等のポリチオフェン類、ポリピロール、ポリ(3−アルキルピロール)(ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−ヘキシルピロール)等)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−アセチルピロール)、ポリ(3−フェニルピロール)等のポリピロール類、ポリアニリン、ポリ(o−メチルアニリン)及びポリ(m−メチルアニリン)等のポリアニリン類等を導電性高分子ナノ微粒子として提供することができる。
【0019】
また、本発明で使用する導電性高分子ナノ微粒子は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていないので、当該界面活性剤による導電率の低下を招くこともなく、例えば、ナノ微粒子の状態で当該導電率を10−6〜100S/cm−1となる導電性高分子ナノ微粒子を提供することができる。
【0020】
分散溶液に対する導電性高分子ナノ微粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.1〜2.0質量%(以下、単に「%」とする場合もある。)となる。当該ナノ微粒子の含有量がかかる範囲であれば、分散溶液中で適度に分散され、製膜した際にも導電性、表面抵抗率等に優れた導電薄膜となる。導電性高分子ナノ微粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.1〜1.5質量%とすることが好ましい。
【0021】
このような、界面活性剤が存在せず、導電性にも優れた導電性高分子ナノ微粒子は、例えば、π−共役二重結合を有するモノマーを酸化剤とともに超臨界状態の二酸化炭素と混合して重合することにより、簡便にかつ効率よく得ることができる。かかる製造方法では、重合に際して界面活性剤を用いないため、生成物である導電性高分子ナノ微粒子に界面活性剤が存在(残留)せず、非共役系の化合物の存在による導電性の低下もなく、導電率を10−6〜100S/cm−1となる導電性に優れたナノ微粒子となる。また、水や有機溶媒といった助溶媒を用いないので、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の排出がない環境調和型の合成プロセスとなるというメリットもある。そして、酸化剤を用いた酸化重合を実施するに当たって、溶媒として超臨界状態の二酸化炭素を使用するので、界面活性剤を使用した場合と同様に、平均粒子径が10〜1000nm(好ましくは20〜500nm)に揃った球状の導電性高分子ナノ微粒子を得ることができる。
【0022】
図1は、二酸化炭素の状態図である。二酸化炭素は、三重点(−56.6℃、0.52MPa)以上の温度と圧力条件下では液体化する場合があるが、温度と圧力が臨界点(31.1℃、7.38MPa)を超えると、液体と気体の特徴を兼ね備えた「超臨界流体」となる。一般に、超臨界状態の流体は速い物質移動や強い浸透性を有するため、溶解力を連続的に変化させることができ、特に、超臨界状態の二酸化炭素は、臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38MPaといった比較的穏和な条件で超臨界状態とすることが可能である。また、超臨界状態の二酸化炭素は、毒性もなく、化学的に不活性であり、高純度なものが安価で入手できるため、超臨界状態の二酸化炭素を溶媒として用いることは、安全面及びコスト面においても優れた手段であるといえる。
【0023】
二酸化炭素は、臨界点を超えた温度では、高密度に圧縮しても液化しない「非凝集性の高圧・高密度流体」となる。圧力と温度で分子間距離を調整でき、密度を希薄な状態から
液体に近いところまで変化させることができ、超臨界流体への溶質の溶解度等を変化させ
ることができる。π−共役二重結合を有するモノマーの重合に際して、超臨界状態の二酸
化炭素を溶媒として用いることにより、密度のゆらぎによりモノマーの溶解性に部分的な
差が生じる。これを反応系内で撹拌して混合することにより、微細な反応場を作ることが
でき、界面活性剤を使用しなくとも、界面活性剤を使用したと同様に粒子状(球状)の反
応生成物(導電性高分子ナノ微粒子)を得ることができる。
【0024】
また、前記したように、二酸化炭素は、臨界点を超えた温度では、高密度に圧縮しても液化しない「非凝集性の高圧・高密度流体」となるため、圧力と温度で分子間距離を調整でき、密度を希薄な状態から液体に近いところまで調整することにより、超臨界流体への溶質の溶解度等を変化させることができる。本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっては、超臨界状態の二酸化炭素の密度を制御することができるので、かかる二酸化炭素の密度の制御を利用して、生成される導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を制御することが可能となる。
【0025】
すなわち、重合における超臨界状態の二酸化炭素は、概ね0.5〜1.0g/cm3程度で推移し、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっても、かかる範囲の密度で実施することができ、平均粒子径が10〜2000nmの範囲の導電性高分子ナノ微粒子を得ることが可能となるが、二酸化炭素の密度を高くすると、導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を小さくすることができ、例えば、密度を0.75〜0.95g/cm3とすることにより、得られる導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を30〜200nm程度とすることができる。二酸化炭素の密度を高くすることで、モノマーが反応系内で安定に分散することができ、反応生成物である導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を小さくすることができる。
【0026】
臨界状態の二酸化炭素の密度は、二酸化炭素の温度と圧力により決定される。臨界状態の二酸化炭素の温度は、臨界点(31.1℃)以上の温度であればよいが、二酸化炭素の温度を高くするほど密度が低くなり、平均粒子径は大きくなる。また、臨界状態の二酸化炭素の圧力も、臨界点(7.38MPa)以上の圧力であればよいが、圧力を高くするほど密度は高くなり、平均粒子径は小さくなる。超臨界状態の二酸化炭素の温度は、概ね40〜80℃程度とすればよく、また、圧力は、15〜25MPa程度とすればよい。
【0027】
かかる導電性高分子ナノ微粒子の製造方法において、π−共役二重結合を有するモノマーとしては、導電性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ポリチオフェン類を製造するのであれば、チオフェン、3−アルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−アセチルチオフェン、3−フェニルチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体、ポリピロール類を製造するのであれば、ピロール、3−アルキルピロール(3−メチルピロール、3−ヘキシルピロール等)、3−メトキシピロール、3−アセチルピロール、3−フェニルピロール等のピロール誘導体、ポリアニリン類を製造するのであれば、アニリン、o−メチルアニリン及びm−メチルアニリン等のアニリン誘導体等を使用することができる。本発明にあっては、この中でも、好ましくは、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等に代表されるチオフェン誘導体、ピロール及びアニリン等が挙げられる。
【0028】
モノマーの濃度は、製造しようとするポリマー(導電性高分子ナノ微粒子)の種類、導電率や平均粒子径等により決定すればよいが、概ね1〜1000mM(0.001〜1M)の範囲内で選択することが好ましい。なお、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっては、モノマーの濃度は、反応生成物である導電性高分子ナノ微粒子に影響し、一般に、モノマーの濃度を高くするほど、導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径は大きくなる。
【0029】
また、使用できる酸化剤としては、超臨界状態の二酸化炭素に可溶であればよく、いわゆる「超原子価ヨウ素化合物」と呼ばれる化合物を酸化剤として使用することができる。超原子価ヨウ素化合物としては、例えば、(ペルフルオロ−n−オクチル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロヘキシル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロイソプロピル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロプロピル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、ヨードメシチレンジアセタート、フェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル]ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン、[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ペンタフルオロベンゼン等の酸化剤が挙げられる。これらの酸化剤は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0030】
なお、かかる超原子価ヨウ素化合物は、下記式(I)または下記式(II)で表される。ここで、式(I)または式(II)において、R1は、H、CH3またはF、R2は、フェニル、アルキル、パーフルオロアルキル、Aは、アルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、テトラフルオロボレートのようなアニオン、R2’、R3’は、アルキルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸、アルキルエステル、パーフルオロエステルの1つまたは2つで、上記が1つのものは他に1つ、アルキル、パーフルオロアルキル、あるいはフェニルを有する。
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
【0033】
これらの超原子価ヨウ素化合物は、超臨界状態の二酸化炭素に可溶であることに加え、化合物中に金属元素を含まないにもかかわらず、金属酸化剤と同等の反応性を示し、また、ドーピング剤としての性質も併せ待っているので、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子の製造方法に使用される酸化剤として好ましい。また、これらの超原子価ヨウ素化合物は、フッ素基を含むことにより、超臨界状態の二酸化炭素との親和性が高くなり可溶となる。一方、例えば塩化鉄(FeCl2)等の遷移金属を含む酸化剤の場合、超臨界状態の二酸化炭素に不溶となり、結果的に有機溶媒を添加しないといけないため、導電性高分子ナノ微粒子の製造法に使用される酸化剤としては好ましくない。
【0034】
使用する酸化剤の濃度は、モノマーの種類や濃度、また、使用する酸化剤の種類等に対応させて決定すればよく、概ね1〜1000mM(0.001〜1M)(あるいは、モノマー1Mに対して概ね0.05〜0.5M)程度とすればよい。
【0035】
前記の酸化剤を用いた酸化重合は、酸化剤、π−共役二重結合を有するモノマー、及び溶媒となる超臨界状態の二酸化炭素を混合するが、撹拌状態で実施することが好ましい。撹拌は、マグネットスターラー、ホモジナイザー、撹拌機等の公知の撹拌手段を用いて行うことができ、撹拌速度としては、例えば、100〜1000rpmとすることができる。
【0036】
重合時間は、使用されるモノマーの種類、濃度、及び量等によって適宜決定すればよいが、概ね30分以上とすればよく、30〜120分とすることが好ましい。なお、重合を過度に進行させると、高分子の鎖間での反応により粒子同士の凝集が起こり、平均粒子径の揃った導電性高分子ナノ微粒子が得られない場合があるため、例えば、収率が50〜75%(重合時間としては、概ね40〜80分程度)のところで重合を終了させると、粒子同士の凝集を防止することができ、平均粒子径の揃った反応生成物(導電性高分子ナノ微粒子)を得ることができる。
【0037】
なお、反応系には、前記のモノマー、酸化剤、及び超臨界状態の二酸化炭素といった必須成分のほか、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。添加剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリルといった有機溶剤等が挙げられる。
【0038】
また、反応促進剤として、パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)やテトラフルオロ酢酸(TFA)等のパーフルオロカルボン酸を添加するようにしてもよい。これらの添加により、生成物(導電性高分子ナノ微粒子)の収率を向上させることができる。添加量は、モノマー1Mに対して、0.2〜2.0Mとすることが好ましい。
【0039】
図2は、本発明の導電性高分子ナノ微粒子の製造方法を実施する製造装置の一態様を示した概略図である。図2に示す製造装置1において、高圧セル10は、原料を導入して重合反応を実施するものであり、高圧セル10の周囲には、高圧セル10を加熱するためのヒーター11(リボンヒーター)が配設され、また、高圧セル10の内部には、撹拌用のスターラー13が載置されている。高圧セル10の温度及び圧力は、設置される熱電対14及び圧力計15により確認することができる。なお、高圧セル10は、サファイアガラスからなる観察窓17を介して、外部から高圧セル10の内部の状態を確認することができる。
【0040】
重合の溶媒として使用される二酸化炭素は、二酸化炭素ボンベ21に貯蔵され、図2にあっては、経路Aを通過して高圧セル10の内部に導入される。また、原料となるπ−共役二重結合を有するモノマーは、図2の製造装置1にあっては経路Bに仕込まれ、二酸化炭素によって高圧セル10の内部に圧入される。ヒーター12(リボンヒーター)は、通過する二酸化炭素を加熱する。なお、高圧セル10の内部を含めた反応系内の圧力は、ポンプ22の駆動により調整され、系内の圧力は圧力計16により測定される。また、このポンプ22のポンプヘッドを冷却器23から送られる冷却水により冷却することで、二酸化炭素を液化させ、加圧送入することにより反応容器である高圧セル10内を高圧状態にすることができる。経路内及び高圧セル10にはバルブVが配設されている。
【0041】
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(B)は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種であり、これらは、溶液中では導電性高分子ナノ微粒子の分散剤として作用し、溶媒に対する当該ナノ微粒子の分散性が向上する。ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランは、それぞれを単独で使用してもよく、また、これらを組み合わせて使用するようにしてもよい。なお、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランは、分散剤となることに加えて、導電性高分子ナノ微粒子に対してのドーパントとなると考えられる。本発明に係る分散溶液にあっては、陽イオン形態となる導電性高分子ナノ微粒子と、陰イオン形態となるポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランとが静電結合により複合体を形成していると考えられる。これから、本発明の分散溶液は、導電性高分子ナノ微粒子と、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランとの複合体を含む分散溶液ともいえる。
【0042】
ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)やスルホン酸化デキストランの含有量は、これらの総量で、分散溶液全体に対して0.1〜4.0質量%となる。ポリスチレンスルホン酸等の含有量をかかる範囲とすることにより、分散溶液中で分散剤として良好に作用するとともに、導電性高分子ナノ微粒子と効率よく複合体を形成することができる。ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランの含有量は、これらの総量で、分散溶液全体に対して0.1〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0043】
前記したように、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストラン(ポリスチレンスルホン酸等)は、導電性高分子ナノ微粒子における分散剤としての作用に加え、当該ナノ微粒子と複合体を形成するため、ポリスチレンスルホン酸等の含有量は、導電性高分子ナノ微粒子の含有量に対応させて決定することが好ましい。導電性高分子ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等は、その比を、質量比でナノ微粒子/ポリスチレンスルホン酸等=2/1〜1/2とすることが好ましい。導電性高分子ナノ微粒子に対するポリスチレンスルホン酸等の比をかかる範囲とすることにより、当該ナノ微粒子と無駄なく効率よく複合体を形成することができる。
【0044】
(C)低級アルコール:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(C)低級アルコールは、分散溶液の表面張力を調整するために用いられ、具体的には、メチルアルコール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n−ブチルアルコール等の炭素数1〜4の低級アルコールを使用することができる。これらの低級アルコールは、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
分散溶液に対する低級アルコールの含有量は、その総量で、分散溶液全体に対して10.0〜70.0質量%となる。低級アルコールの含有量をかかる範囲とすることにより、分散溶液の表面張力も適度に調整される。低級アルコールの含有量は、分散溶液全体に対して10.0〜60.0質量%とすることが好ましい。
【0046】
(D)導電性・保水性向上溶媒:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(D)導電性・保水性向上溶媒は、得られる製膜の導電性や表面抵抗率等の電気特性を向上させ、さらにはインクジェットヘッドのノズル先端部でインクの増粘、乾固によるノズル詰まりや噴射曲がりを防いで分散溶液の保水性を維持するはたらきがあり、例えば、ジエチレングリコール(ジエチルグリコール)(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)等を使用することができる。これらの導電性・保水性向上溶媒は、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明に係る分散溶液を製膜した場合にあっては、導電性・保水性向上溶媒は、ナノ微粒子−ポリスチレンスルホン酸等の複合体に(極微量水分を含有して)作用する極微量成分として存在する。
【0047】
分散溶液に対する導電性・保水性向上溶媒の含有量は、その総量で、分散溶液全体に対して2.0〜20.0質量%となる。導電性・保水性向上溶媒の含有量をかかる範囲とすることにより、導電性高分子ナノ微粒子等の導電性の向上等に効率よく作用する。導電性・保水性向上溶媒の含有量は、分散溶液全体に対して2.0〜15.0質量%とすることが好ましい。
【0048】
なお、本発明に係る分散溶液には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、前記した必須成分以外の成分を任意成分として添加することができる。添加可能な任意成分としては、例えば、顔料、染料、消泡剤、架橋剤、安定剤、界面活性剤(基板とのぬれ性向上のために添加される。導電性高分子ナノ微粒子には存在せず、分散溶液に存在するだけで、分散溶液に存在するだけでは導電性の低下とはならない。)等や、セルロース誘導体、ラテックス、多糖類又はその誘導体、ポリシリコン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリアミド等の製膜性向上化合物等が挙げられる。
【0049】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液における前記した必須成分等以外の残部については、精製水等の水を残部として添加すればよい。なお、残部とは、前記した(A)〜(D)及び必要により添加される任意成分以外の部分をいう。水は、概ね、分散溶液全体に対して、40.0〜85.0質量%含有するようにすればよいが、この範囲に特に制限されない。
【0050】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した必須成分及び必要により添加される任意成分を混合することにより、簡便に得ることができる。
【0051】
図2に示した装置を用いて導電性高分子ナノ微粒子を製造し、得られた導電性高分子ナノ微粒子を使用した導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法の一態様を、図3を用いて説明する。図3は、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法のフローチャートを示した図である。なお、このうちS1(Sはステップ。以下同じ。)〜S8により、導電性高分子ナノ微粒子が製造される。
【0052】
まず、高圧セル10の内部に酸化剤を導入し(S1)、高圧セル10を密閉状態として臨界点以上の温度(例えば、40〜80℃)とする(S2)。次に、二酸化炭素ボンベ21から二酸化炭素を、経路Aを通過させてセル内に導入した後(S3)、高圧セル10を臨界点以上の圧力(例えば、15〜25MPa)として超臨界状態とし(S4)、暫く撹拌する。この際、系を安定させるため暫く(30〜120分程度)放置するようにしてもよい。なお、モノマーの導入時あるいは導入後に、モノマーと一緒あるいは別に二酸化炭素をさらに導入するようにしてもよい。
【0053】
経路Bにπ−共役二重結合を有するモノマーを仕込み、酸化剤と超臨界状態の二酸化炭素が混合された高圧セル10の内部にモノマーを、経路Bから高圧セル10内に導入した後(S5)、さらに撹拌、混合して重合を進行させる(S6)。重合終了後、高圧セル10の内部を減圧して(S7)、導電性高分子ナノ微粒子を得ることができる。得られた導電性高分子ナノ微粒子は、減圧後、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールといったアルコール類等で遠心分離等により洗浄して精製することが好ましい(S8)。
【0054】
このようにして得られた導電性高分子ナノ微粒子を、各成分と混合して(S9)、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液とする。ここで、成分(A)(導電性高分子ナノ微粒子)及び任意成分を水と混合した後、成分(B)(ポリスチレンスルホン酸等)、成分(C)(低級アルコール)、成分(D)導電性・保水性向上溶媒と混合するようにしてもよい。
【0055】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際し、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランを添加するので、かかるポリスチレンスルホン酸等が溶液中で分散剤となり、当該ナノ微粒子が好適に分散される。加えて、溶液中で導電性高分子ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等が複合体を形成し、製膜された際にはナノ微粒子間の隙間の形成を抑制し、(極微量の水分を含有する)導電性・保水性向上溶媒による作用も相俟って、表面抵抗率や導電率等の電気特性や透明性に優れ、また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【0056】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、所定の基板に塗布して製膜することにより、導電性高分子ナノ微粒子及びポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランからなる複合体を含み、導電性・保水性向上剤が(極微量の水分とともに)極微量存在した導電薄膜を提供することができる。かかる導電薄膜は、導電性や表面抵抗率等の電気特性に加え、透明性に優れた導電薄膜となり、例えば、半導体材料、ポリマー発光ダイオード、有機太陽光発電素子、導電性高分子センサー、薄膜トランジスタ素子、コンデンサ用電解質、有機EL素子(正孔輸送材、正孔注入層)、二次電池電極材料等の各種電極材料等に適用することができる。また、透明性にも優れるため、ITO薄膜の代替品としても使用することができる。
【0057】
導電薄膜の厚さは、導電薄膜を構成する導電性高分子ナノ微粒子等の種類や、適用される用途に応じて適宜決定されるが、概ね65〜2000nm程度とすればよく、100〜1000nm程度とすることが好ましい。
【0058】
導電薄膜が形成される基板としては、特に制限はないが、例えば、プラスチック基板、不織布からなる基板、ガラス基板、シリコン基板、紙基板等を使用することができる。また、これらの基板は、ITO、酸化スズ、酸化インジウム等でコーティングされていてもよい。また、基板の形状は、シート状、フィルム状、板状、円盤状等、特に制限はない。
【0059】
また、製膜方法としては、例えば、インクジェット法、キャスティング法(キャスト法)、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、ワイヤバーコート法、ロールコート法、アプリケータ法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷等の公知の製膜手段を用いて所定の基板上にコーティング、乾燥することにより、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液からなる薄膜を前記した基板の上に簡便に形成させることができる。
【0060】
本発明の分散溶液は、微細な印刷による製膜手段であるインクジェット法(インクジェット印刷)によっても、分散溶液の安定した吐出が可能であり、インクジェット法による微細なパターン形成も可能となる。得られる導電薄膜は、インクジェット法によっても、得られた製膜にかすれがなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができ、加えて、重ね塗りもでき、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化する。
【0061】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0062】
例えば、前記した実施形態では、本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を構成する導電性高分子ナノ微粒子を製造する方法として、図2に示した製造装置1を使用する例を示して説明したが、導電性高分子ナノ微粒子の製造方法の実施としてはこれには限定されず、π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子であれば、他の構成の製造装置を使用して当該製造方法を実施するようにしても問題はない。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何
ら限定されるものではない。
【0064】
[製造例1]
導電性高分子ナノ微粒子の調製:
下記の方法を用いて、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を調製した。
【0065】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(1))の重合:
図2に示した製造装置1を用いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の重合を行った。観察窓17付きのSUS316製高圧セル10(容量:50mL)中に酸化剤(重合開始剤)として、フッ素基を有した超原子価ヨウ素化合物であり、超臨界状態の二酸化炭素に可溶な[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)(濃度:0.05M)を導入し、高圧セル10を密封した後、スターラー13で撹拌しながら、経路Aより二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで上昇させ、二酸化炭素を超臨界状態として、系を安定させるため30分放置した。
【0066】
次に、経路Bの管内にπ−共役二重結合を有するモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(濃度:0.05M)及び反応促進剤としてのパーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)15mMを仕込み、バルブVにより経路を切り替え、その差圧を利用することで高圧セル10の内部に当該モノマー等を入れ、撹拌、混合した。高圧セル10の内部に3,4−エチレンジオキシチオフェンを導入した時を重合開始時間として、反応時間60分で重合して、重合体であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を得た。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。また、酸化剤として使用した[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)は、反応後CF3COO−となってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)に取り込まれ、ドープ材の一部として作用している。
【0067】
得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は、1時間で減圧して回収後、遠心分離(回転数:8500rpm)を行い、上澄みのエタノールを分取し、さらにエタノールを加えて、超音波洗浄を10分間行った。この操作を3回繰り返して、エタノールに分散された導電性高分子ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、80〜120nmであった。なお、平均粒子径は、動的光散乱測定あるいは走査型電子顕微鏡観察により所定の数(例えば、100個)の平均値をとることで行った(以下、平均粒子径について同じ。)。
【0068】
[製造例2]
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(2))の重合:
図2に示した製造装置1を用いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の重合を行った。観察窓17付きのSUS316製高圧セル10(容量:200mL)中に酸化剤(重合開始剤)として、フッ素基を有した超原子価ヨウ素化合物であり、超臨界状態の二酸化炭素に可溶な[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)(濃度:0.05M)を導入し、高圧セル10を密封した後、スターラー13で撹拌しながら、経路Aより二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで上昇させ、二酸化炭素を超臨界状態として、30分撹拌した。
【0069】
次に、経路Bの管内にπ−共役二重結合を有するモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(濃度:0.05M)及び反応促進剤としてのパーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)15mMを仕込み、バルブVにより経路を切り替え、その差圧を利用することで高圧セル10の内部に当該モノマー等を入れ、さらに二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで圧入して、撹拌、混合した。高圧セル10の内部に3,4−エチレンジオキシチオフェンを導入した時を重合開始時間として、反応時間60分で重合して、重合体であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を得た。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。また、酸化剤として使用した[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)は、反応後CF3COO−となってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)に取り込まれ、ドープ材の一部として作用している。
【0070】
得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は、1時間減圧して回収後、遠心分離(回転数:8500rpm)を行い、上澄みのエタノールを分取し、さらにエタノールを加えて、超音波洗浄を10分間行った。この操作を3回繰り返して、エタノールに分散された導電性高分子ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、180〜270nmであった。
【0071】
[製造例3]
ポリピロール(PPy(1))の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりにピロー
ル(Py)を用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例1に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリピロール(PPy)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は約65〜140nmであった。
【0072】
[製造例4]
ポリピロール(PPy(2))の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりにピロー
ル(Py)を用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例2に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリピロール(PPy)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は約135〜185nmであった。
【0073】
[製造例5]
ポリ(3−メチルピロール)(P3MPy)の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりに3−メチルピロールを用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例1に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリ(3−メチルピロール)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は、180〜235nmであった。
【0074】
[実施例1〜実施例6、比較例1〜比較例6]
導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の調製:
前記の製造例1及び製造例2で得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、製造例3及び製造例4で得られたポリピロール、製造例5で得られたポリ(3−メチルピロール)を用いて、表1の組成(単位:質量%)及び下記の製造方法を用いて、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を調製した。
【0075】
(分散溶液の組成)
【表1】
【0076】
(分散溶液の製造方法)
(1)遠心分離によりエタノールを取り除き、導電性高分子ナノ微粒子を採取した。
(2)(1)で得られた導電性高分子ナノ微粒子と水を混合・撹拌した。なお、界面活性剤(Triton X100)を使用する場合には、併せて混合・撹拌した。
(3)導電性・保水性向上溶媒、低級アルコールの順に入れ混合・撹拌し、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を得た。
【0077】
[試験例1]
インクジェット印刷試験(1):
実施例1及び比較例1で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインクジェットプリンターを用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0078】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がサーマル方式のインクジェットプリンター(BJ S530/キヤノン(株)製)のブラックカートリッジに充填した。
(2)インクジェットプリンターの印刷品質を設定した。本試験では、「きれい」、「標準」、「速い」の3種類を用いた。
(3)インクジェットプリンターのユーティリティより、クリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)文書作成ソフト「Microsoft Office Word(登録商標)」により、10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、インクジェット印刷用高品質紙及びOHPシートとして、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0079】
図4は、実施例1(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果を示した図である(図4Aは印刷回数=1回、図4Bは印刷回数=5回。)。なお、本試験は、フォントサイズは8、色調補正なし、印刷品質はインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」で実施した結果である。図4に示すように、実施例1の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出が可能であり、印字のかすれもなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができた。加えて、重ね塗りもでき、導電薄膜の製造方法として適用可能であることが確認できた。
【0080】
図5は、実施例1(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である(図5中の数字は印刷回数を示す。)。なお、本試験は、色調補正なし、印刷品質はインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」で実施した結果である。図5に示すように、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化することが確認できた。
【0081】
図6は、実施例1(基板:OHPシート)についての印刷試験結果を示した図である(図6中、(a)は印刷設定「きれい」、(b)は印刷設定「標準」、(c)は印刷設定「速い」。)。なお、本試験は、色調補正はなく、印刷回数は10回の結果である。また、本試験では、あらかじめ3本のカラーラインを引いたOHPシートを基板として、かかるカラーラインに重なるように印刷して、導電薄膜を形成して、導電薄膜の透過性も併せて評価した。図6に示すように、どの印刷設定にあっても、前記した効果を奏するとともに、カラーラインが明確に確認でき、透過性のある導電薄膜を形成可能であった。
【0082】
また、実施例1の分散溶液と比較例1の分散溶液(導電性高分子ナノ微粒子をエタノールに分散したもの)をOHPシートにインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態について、SEM画像を図7に示す(図7Aは比較例1、図7Bは実施例1、をそれぞれ示す。)。図7より、分散溶液の組成によりインクジェット印刷によって得られる薄膜の状態が大きく異なることがわかる。比較例1(図7(A))は、導電性高分子ナノ微粒子(PEDOTナノ微粒子)が基板上に点在し、また、微粒子が凝集しており、微粒子間に隙間が形成されて部分的に製膜が不完全となっている。一方、実施例1(図7(B))では、比較例1で抵抗としてはたらいていた粒子間の隙間が無くなっており、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸が基板上で膜を形成していることが確認できる。これらよりポリビニルスルホン酸を添加して分散溶液を形成すること、分散溶液調製時における導電性高分子ナノ微粒子の分散性向上に加えて、薄膜形成の点でも有効であることが確認できた。
【0083】
[試験例2]
インクジェット印刷試験(2)
実施例5、実施例6で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインクジェットプリンターを用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0084】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がサーマル方式のインクジェットプリンター(PIXUS 560i/キヤノン(株)製)のブラックカートリッジに充填した。
(2)インクジェットプリンターの印刷品質をインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」と設定した。
(3)インクジェットプリンターのユーティリティより、クリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)図表作成ソフト「Microsoft Office Word(登録商標)」により、10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、PETフィルム(G2P2シート/帝人デュポンフィルム(株)製)(実施例5)、インクジェット印刷用高品質紙(実施例6)として、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0085】
図8は、実施例6(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。なお、本試験は、色調補正なしで実施した結果である。図8に示すように、実施例6の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した実施例1の分散溶液と同様に、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出が可能であり、印字のかすれもなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができた。加えて、重ね塗りもでき、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化し、これからも、導電薄膜の製造方法として適用可能であることが確認できた。
【0086】
[試験例3]
インク吐出試験:
実施例3、実施例4で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインク吐出装置を用いて、下記の条件でインク吐出試験を行い、評価した。
【0087】
(インク吐出条件)
装置:Labo−Jet−500((株)マイクロジェット製)
ヘッド電圧:110V
1stパルス幅:200μs
休止パルス幅:0μs
2ndパルス幅:0μs
周波数:400Hz
ヘッド温度:30℃
【0088】
図9は、実施例3の分散溶液のインク吐出像を示した図、図10は、実施例3の分散溶液を1回印字した状態を示した図である(基板はPETシート(G2P2シート)とした。)。なお、図9及び図10は、いずれもCCDカメラで観察した結果である。図9に示すように、分散溶液がインクヘッドより適切な粘度であるためほぼ棒状の形態を保って吐出されており、正常に吐出されていることを確認した。また、図10に示すように、分散溶液の着弾・印字も適切な表面張力ならびに適切なぬれ性にかなった平板・半球状の広がりを示しており、正常に着弾・印字されていることを確認した。これらより、実施例3に示した分散溶液はインクジェット印刷用の優れた分散溶液であることが明らかとなった。
【0089】
[試験例4]
インクジェット印刷試験(3)
実施例3で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、前記したインクジェットプリンター(Labo−Jet−500、(株)マイクロジェット製)を用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0090】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がピエゾ方式のインクジェットプリンター(Labo−Jet−500、(株)マイクロジェット製)の液容器に充填し、さらに、液容器内に圧力を加えてヘッド内に導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を充填させた。
(2)インクジェットプリンターの印刷条件を下記のインク吐出条件に設定した。
(3)インクジェットプリンターのクリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)インクジェットプリンター付属のソフト(図表作成ソフト)により、幅2〜4mmの直線パターンあるいは10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、PETフィルム(G2P2シート/帝人デュポンフィルム(株)製)として、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0091】
(インク吐出条件)
ヘッド電圧:110V
1stパルス幅:200μs
休止パルス幅:0μs
2ndパルス幅:0μs
周波数:400Hz
ヘッド温度:30℃
【0092】
図11は、実施例3の分散溶液についての印刷試験結果を示した図(幅2〜4mmの直線パターン)である。図11に示すように、実施例3の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出及び製膜が可能であった。
【0093】
(導電率及び表面抵抗率の測定)
前記した実施例1、2、3、5の分散溶液を用いて得られた導電薄膜の導電率及び表面抵抗率を、四端子法(四探針測定器 K−705RS/(株)共和理研製)により測定した。なお、実施例2については、キャスティング法(導電率)及びスピンコート法(表面抵抗率)により製膜して得られた導電薄膜について測定した。
【0094】
(結果)
【表2】
【0095】
導電薄膜の導電率及び表面抵抗率を表2に示す。導電率はおよそ10−3〜10−6S/cm−1程度および表面抵抗率はおよそ105〜106Ω/□程度になった。特に、導電率および表面抵抗率の最高値は、各々、3.6×10−3S/cm−1および1.9×105Ω/□となり、帯電防止材料等に代表される電子機能性材料等への応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、電子機能性材料等として適用される導電薄膜を得る手段として有利に使用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 製造装置
10 高圧セル
11,12 ヒーター(リボンヒーター)
13 スターラー
14 熱電対
15,16 圧力計
17 観察窓
21 二酸化炭素ボンベ
22 ポンプ
23 冷却器
V バルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、導電性、表面抵抗率等の電気特性に優れ、また、インクジェット印刷等による製膜も可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリチオフェン(Pth)類、ポリピロール(PPy)類、ポリアニリン類(PAn)等に代表されるπ−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなる導電性高分子は、電子センシングマテリアル(電子機能性材料)への応用が期待されている。
【0003】
また、これらの導電性高分子は、微粒子化された状態で所定の溶媒に分散された分散溶液ないしは塗料として用いられているが、溶媒への分散性、可溶性が悪いため、例えば、π−共役二重結合を有する導電性高分子に官能基を導入して可溶化する方法、バインダ樹脂に分散して可溶化する方法、ポリアニオンを添加して可溶化する方法が検討されている。このような方法も含め、近年、ポリチオフェンや3,4−ジアルコキシチオフェン等の水分散体及びその製造方法に関する技術が多数提供されている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−153229号公報
【特許文献2】特開2006−28214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の導電性高分子微粒子を分散した分散溶液から得られた導電薄膜は、表面抵抗率や導電率等といった電気特性が必ずしも満足いくものではなかった。また、従来の分散溶液は、汎用塗布手段であるインクジェット印刷等の微細な印刷による製膜に対応することが難しかった。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、表面抵抗率や導電率等の電気特性に優れ、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液、当該分散溶液を用いた導電薄膜及び導電薄膜の製造方法を提供する
ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、下記成分(A)〜(D)を含み、残部が水からなることを特徴とする。
(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子 0.1〜2.0質量%
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種 0.1〜4.0質量%
(C)低級アルコール 10.0〜70.0質量%
(D)導電性・保水性向上溶媒 2.0〜20.0質量%
【0008】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した本発明において、前記成分(D)導電性・保水性向上溶媒がジエチレングリコール(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSО)及びポリエチレングリコール(PEG)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した本発明において、前記成分(A)導電性高分子ナノ微粒子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る導電薄膜は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子を用いて得られることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明において、前記製膜の手段がインクジェット法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際して、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストラン、低級アルコール、導電性・保水性向上溶媒を必須成分として含有するので、表面抵抗率や導電率等の電気特性や透明性に優れ、また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【0014】
本発明に係る導電薄膜は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液から得られるので、ナノ微粒子間の隙間の形成が抑制された、表面抵抗率や導電率等の電気特性に優れ、透明性にも優れた導電薄膜となる。
【0015】
本発明に係る導電薄膜の製造方法は、前記した本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜してなるので、前記した効果を好適に奏する導電薄膜を効率よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】二酸化炭素の状態図である。
【図2】導電性高分子ナノ微粒子の製造方法を実施する製造装置の一態様を示した概略図である。
【図3】導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法のフローチャートを示した図である。
【図4A】実施例1についての印刷試験結果(印刷回数:1回)を示した図である。
【図4B】実施例1についての印刷試験結果(印刷回数:5回)を示した図である。
【図5】実施例1についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。
【図6】実施例1についての印刷試験結果を示した図である。
【図7A】比較例1の分散溶液をインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態のSEM画像を示した図である。
【図7B】実施例1の分散溶液をインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態のSEM画像を示した図である。
【図8】実施例6についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。
【図9】実施例3の分散溶液のインク吐出像を示した図である。
【図10】実施例3の分散溶液を1回印字した状態を示した図である。
【図11】実施例3の分散溶液についての印刷試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本発明の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmの導電性高分子ナノ微粒子、(B)ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種、(C)低級アルコール、(D)導電性・保水性向上溶媒、及び残部として水、を基本構成として含むものである。
【0018】
(A)導電性高分子ナノ微粒子:
本発明の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液(以下、単に「分散溶液」とする場合もある。)を構成する成分(A)導電性高分子ナノ微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーの重合体であり、使用できるモノマーとしては、例えば、チオフェン、3−アルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−アセチルチオフェン、3−フェニルチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体、ピロール、3−アルキルピロール(3−メチルピロール、3−ヘキシルピロール等)、3−メトキシピロール、3−アセチルピロール、3−フェニルピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−メチルアニリン及びm−メチルアニリン等のアニリン誘導体等を使用することができる。そして、これらの重合体として、例えば、ポリチオフェン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−アセチルチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)等のポリチオフェン類、ポリピロール、ポリ(3−アルキルピロール)(ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−ヘキシルピロール)等)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−アセチルピロール)、ポリ(3−フェニルピロール)等のポリピロール類、ポリアニリン、ポリ(o−メチルアニリン)及びポリ(m−メチルアニリン)等のポリアニリン類等を導電性高分子ナノ微粒子として提供することができる。
【0019】
また、本発明で使用する導電性高分子ナノ微粒子は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていないので、当該界面活性剤による導電率の低下を招くこともなく、例えば、ナノ微粒子の状態で当該導電率を10−6〜100S/cm−1となる導電性高分子ナノ微粒子を提供することができる。
【0020】
分散溶液に対する導電性高分子ナノ微粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.1〜2.0質量%(以下、単に「%」とする場合もある。)となる。当該ナノ微粒子の含有量がかかる範囲であれば、分散溶液中で適度に分散され、製膜した際にも導電性、表面抵抗率等に優れた導電薄膜となる。導電性高分子ナノ微粒子の含有量は、分散溶液全体に対して0.1〜1.5質量%とすることが好ましい。
【0021】
このような、界面活性剤が存在せず、導電性にも優れた導電性高分子ナノ微粒子は、例えば、π−共役二重結合を有するモノマーを酸化剤とともに超臨界状態の二酸化炭素と混合して重合することにより、簡便にかつ効率よく得ることができる。かかる製造方法では、重合に際して界面活性剤を用いないため、生成物である導電性高分子ナノ微粒子に界面活性剤が存在(残留)せず、非共役系の化合物の存在による導電性の低下もなく、導電率を10−6〜100S/cm−1となる導電性に優れたナノ微粒子となる。また、水や有機溶媒といった助溶媒を用いないので、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の排出がない環境調和型の合成プロセスとなるというメリットもある。そして、酸化剤を用いた酸化重合を実施するに当たって、溶媒として超臨界状態の二酸化炭素を使用するので、界面活性剤を使用した場合と同様に、平均粒子径が10〜1000nm(好ましくは20〜500nm)に揃った球状の導電性高分子ナノ微粒子を得ることができる。
【0022】
図1は、二酸化炭素の状態図である。二酸化炭素は、三重点(−56.6℃、0.52MPa)以上の温度と圧力条件下では液体化する場合があるが、温度と圧力が臨界点(31.1℃、7.38MPa)を超えると、液体と気体の特徴を兼ね備えた「超臨界流体」となる。一般に、超臨界状態の流体は速い物質移動や強い浸透性を有するため、溶解力を連続的に変化させることができ、特に、超臨界状態の二酸化炭素は、臨界温度31.1℃、臨界圧力7.38MPaといった比較的穏和な条件で超臨界状態とすることが可能である。また、超臨界状態の二酸化炭素は、毒性もなく、化学的に不活性であり、高純度なものが安価で入手できるため、超臨界状態の二酸化炭素を溶媒として用いることは、安全面及びコスト面においても優れた手段であるといえる。
【0023】
二酸化炭素は、臨界点を超えた温度では、高密度に圧縮しても液化しない「非凝集性の高圧・高密度流体」となる。圧力と温度で分子間距離を調整でき、密度を希薄な状態から
液体に近いところまで変化させることができ、超臨界流体への溶質の溶解度等を変化させ
ることができる。π−共役二重結合を有するモノマーの重合に際して、超臨界状態の二酸
化炭素を溶媒として用いることにより、密度のゆらぎによりモノマーの溶解性に部分的な
差が生じる。これを反応系内で撹拌して混合することにより、微細な反応場を作ることが
でき、界面活性剤を使用しなくとも、界面活性剤を使用したと同様に粒子状(球状)の反
応生成物(導電性高分子ナノ微粒子)を得ることができる。
【0024】
また、前記したように、二酸化炭素は、臨界点を超えた温度では、高密度に圧縮しても液化しない「非凝集性の高圧・高密度流体」となるため、圧力と温度で分子間距離を調整でき、密度を希薄な状態から液体に近いところまで調整することにより、超臨界流体への溶質の溶解度等を変化させることができる。本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっては、超臨界状態の二酸化炭素の密度を制御することができるので、かかる二酸化炭素の密度の制御を利用して、生成される導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を制御することが可能となる。
【0025】
すなわち、重合における超臨界状態の二酸化炭素は、概ね0.5〜1.0g/cm3程度で推移し、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっても、かかる範囲の密度で実施することができ、平均粒子径が10〜2000nmの範囲の導電性高分子ナノ微粒子を得ることが可能となるが、二酸化炭素の密度を高くすると、導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を小さくすることができ、例えば、密度を0.75〜0.95g/cm3とすることにより、得られる導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を30〜200nm程度とすることができる。二酸化炭素の密度を高くすることで、モノマーが反応系内で安定に分散することができ、反応生成物である導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径を小さくすることができる。
【0026】
臨界状態の二酸化炭素の密度は、二酸化炭素の温度と圧力により決定される。臨界状態の二酸化炭素の温度は、臨界点(31.1℃)以上の温度であればよいが、二酸化炭素の温度を高くするほど密度が低くなり、平均粒子径は大きくなる。また、臨界状態の二酸化炭素の圧力も、臨界点(7.38MPa)以上の圧力であればよいが、圧力を高くするほど密度は高くなり、平均粒子径は小さくなる。超臨界状態の二酸化炭素の温度は、概ね40〜80℃程度とすればよく、また、圧力は、15〜25MPa程度とすればよい。
【0027】
かかる導電性高分子ナノ微粒子の製造方法において、π−共役二重結合を有するモノマーとしては、導電性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ポリチオフェン類を製造するのであれば、チオフェン、3−アルキルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−アセチルチオフェン、3−フェニルチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体、ポリピロール類を製造するのであれば、ピロール、3−アルキルピロール(3−メチルピロール、3−ヘキシルピロール等)、3−メトキシピロール、3−アセチルピロール、3−フェニルピロール等のピロール誘導体、ポリアニリン類を製造するのであれば、アニリン、o−メチルアニリン及びm−メチルアニリン等のアニリン誘導体等を使用することができる。本発明にあっては、この中でも、好ましくは、チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等に代表されるチオフェン誘導体、ピロール及びアニリン等が挙げられる。
【0028】
モノマーの濃度は、製造しようとするポリマー(導電性高分子ナノ微粒子)の種類、導電率や平均粒子径等により決定すればよいが、概ね1〜1000mM(0.001〜1M)の範囲内で選択することが好ましい。なお、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子にあっては、モノマーの濃度は、反応生成物である導電性高分子ナノ微粒子に影響し、一般に、モノマーの濃度を高くするほど、導電性高分子ナノ微粒子の平均粒子径は大きくなる。
【0029】
また、使用できる酸化剤としては、超臨界状態の二酸化炭素に可溶であればよく、いわゆる「超原子価ヨウ素化合物」と呼ばれる化合物を酸化剤として使用することができる。超原子価ヨウ素化合物としては、例えば、(ペルフルオロ−n−オクチル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロヘキシル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロイソプロピル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、(ペルフルオロプロピル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、ヨードメシチレンジアセタート、フェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル]ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン、[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ペンタフルオロベンゼン等の酸化剤が挙げられる。これらの酸化剤は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0030】
なお、かかる超原子価ヨウ素化合物は、下記式(I)または下記式(II)で表される。ここで、式(I)または式(II)において、R1は、H、CH3またはF、R2は、フェニル、アルキル、パーフルオロアルキル、Aは、アルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、テトラフルオロボレートのようなアニオン、R2’、R3’は、アルキルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸、アルキルエステル、パーフルオロエステルの1つまたは2つで、上記が1つのものは他に1つ、アルキル、パーフルオロアルキル、あるいはフェニルを有する。
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
【0033】
これらの超原子価ヨウ素化合物は、超臨界状態の二酸化炭素に可溶であることに加え、化合物中に金属元素を含まないにもかかわらず、金属酸化剤と同等の反応性を示し、また、ドーピング剤としての性質も併せ待っているので、本発明を構成する導電性高分子ナノ微粒子の製造方法に使用される酸化剤として好ましい。また、これらの超原子価ヨウ素化合物は、フッ素基を含むことにより、超臨界状態の二酸化炭素との親和性が高くなり可溶となる。一方、例えば塩化鉄(FeCl2)等の遷移金属を含む酸化剤の場合、超臨界状態の二酸化炭素に不溶となり、結果的に有機溶媒を添加しないといけないため、導電性高分子ナノ微粒子の製造法に使用される酸化剤としては好ましくない。
【0034】
使用する酸化剤の濃度は、モノマーの種類や濃度、また、使用する酸化剤の種類等に対応させて決定すればよく、概ね1〜1000mM(0.001〜1M)(あるいは、モノマー1Mに対して概ね0.05〜0.5M)程度とすればよい。
【0035】
前記の酸化剤を用いた酸化重合は、酸化剤、π−共役二重結合を有するモノマー、及び溶媒となる超臨界状態の二酸化炭素を混合するが、撹拌状態で実施することが好ましい。撹拌は、マグネットスターラー、ホモジナイザー、撹拌機等の公知の撹拌手段を用いて行うことができ、撹拌速度としては、例えば、100〜1000rpmとすることができる。
【0036】
重合時間は、使用されるモノマーの種類、濃度、及び量等によって適宜決定すればよいが、概ね30分以上とすればよく、30〜120分とすることが好ましい。なお、重合を過度に進行させると、高分子の鎖間での反応により粒子同士の凝集が起こり、平均粒子径の揃った導電性高分子ナノ微粒子が得られない場合があるため、例えば、収率が50〜75%(重合時間としては、概ね40〜80分程度)のところで重合を終了させると、粒子同士の凝集を防止することができ、平均粒子径の揃った反応生成物(導電性高分子ナノ微粒子)を得ることができる。
【0037】
なお、反応系には、前記のモノマー、酸化剤、及び超臨界状態の二酸化炭素といった必須成分のほか、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。添加剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリルといった有機溶剤等が挙げられる。
【0038】
また、反応促進剤として、パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)やテトラフルオロ酢酸(TFA)等のパーフルオロカルボン酸を添加するようにしてもよい。これらの添加により、生成物(導電性高分子ナノ微粒子)の収率を向上させることができる。添加量は、モノマー1Mに対して、0.2〜2.0Mとすることが好ましい。
【0039】
図2は、本発明の導電性高分子ナノ微粒子の製造方法を実施する製造装置の一態様を示した概略図である。図2に示す製造装置1において、高圧セル10は、原料を導入して重合反応を実施するものであり、高圧セル10の周囲には、高圧セル10を加熱するためのヒーター11(リボンヒーター)が配設され、また、高圧セル10の内部には、撹拌用のスターラー13が載置されている。高圧セル10の温度及び圧力は、設置される熱電対14及び圧力計15により確認することができる。なお、高圧セル10は、サファイアガラスからなる観察窓17を介して、外部から高圧セル10の内部の状態を確認することができる。
【0040】
重合の溶媒として使用される二酸化炭素は、二酸化炭素ボンベ21に貯蔵され、図2にあっては、経路Aを通過して高圧セル10の内部に導入される。また、原料となるπ−共役二重結合を有するモノマーは、図2の製造装置1にあっては経路Bに仕込まれ、二酸化炭素によって高圧セル10の内部に圧入される。ヒーター12(リボンヒーター)は、通過する二酸化炭素を加熱する。なお、高圧セル10の内部を含めた反応系内の圧力は、ポンプ22の駆動により調整され、系内の圧力は圧力計16により測定される。また、このポンプ22のポンプヘッドを冷却器23から送られる冷却水により冷却することで、二酸化炭素を液化させ、加圧送入することにより反応容器である高圧セル10内を高圧状態にすることができる。経路内及び高圧セル10にはバルブVが配設されている。
【0041】
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(B)は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種であり、これらは、溶液中では導電性高分子ナノ微粒子の分散剤として作用し、溶媒に対する当該ナノ微粒子の分散性が向上する。ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランは、それぞれを単独で使用してもよく、また、これらを組み合わせて使用するようにしてもよい。なお、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランは、分散剤となることに加えて、導電性高分子ナノ微粒子に対してのドーパントとなると考えられる。本発明に係る分散溶液にあっては、陽イオン形態となる導電性高分子ナノ微粒子と、陰イオン形態となるポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランとが静電結合により複合体を形成していると考えられる。これから、本発明の分散溶液は、導電性高分子ナノ微粒子と、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランとの複合体を含む分散溶液ともいえる。
【0042】
ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)やスルホン酸化デキストランの含有量は、これらの総量で、分散溶液全体に対して0.1〜4.0質量%となる。ポリスチレンスルホン酸等の含有量をかかる範囲とすることにより、分散溶液中で分散剤として良好に作用するとともに、導電性高分子ナノ微粒子と効率よく複合体を形成することができる。ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランの含有量は、これらの総量で、分散溶液全体に対して0.1〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0043】
前記したように、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストラン(ポリスチレンスルホン酸等)は、導電性高分子ナノ微粒子における分散剤としての作用に加え、当該ナノ微粒子と複合体を形成するため、ポリスチレンスルホン酸等の含有量は、導電性高分子ナノ微粒子の含有量に対応させて決定することが好ましい。導電性高分子ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等は、その比を、質量比でナノ微粒子/ポリスチレンスルホン酸等=2/1〜1/2とすることが好ましい。導電性高分子ナノ微粒子に対するポリスチレンスルホン酸等の比をかかる範囲とすることにより、当該ナノ微粒子と無駄なく効率よく複合体を形成することができる。
【0044】
(C)低級アルコール:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(C)低級アルコールは、分散溶液の表面張力を調整するために用いられ、具体的には、メチルアルコール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n−ブチルアルコール等の炭素数1〜4の低級アルコールを使用することができる。これらの低級アルコールは、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
分散溶液に対する低級アルコールの含有量は、その総量で、分散溶液全体に対して10.0〜70.0質量%となる。低級アルコールの含有量をかかる範囲とすることにより、分散溶液の表面張力も適度に調整される。低級アルコールの含有量は、分散溶液全体に対して10.0〜60.0質量%とすることが好ましい。
【0046】
(D)導電性・保水性向上溶媒:
本発明に係る分散溶液を構成する成分(D)導電性・保水性向上溶媒は、得られる製膜の導電性や表面抵抗率等の電気特性を向上させ、さらにはインクジェットヘッドのノズル先端部でインクの増粘、乾固によるノズル詰まりや噴射曲がりを防いで分散溶液の保水性を維持するはたらきがあり、例えば、ジエチレングリコール(ジエチルグリコール)(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)等を使用することができる。これらの導電性・保水性向上溶媒は、その1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本発明に係る分散溶液を製膜した場合にあっては、導電性・保水性向上溶媒は、ナノ微粒子−ポリスチレンスルホン酸等の複合体に(極微量水分を含有して)作用する極微量成分として存在する。
【0047】
分散溶液に対する導電性・保水性向上溶媒の含有量は、その総量で、分散溶液全体に対して2.0〜20.0質量%となる。導電性・保水性向上溶媒の含有量をかかる範囲とすることにより、導電性高分子ナノ微粒子等の導電性の向上等に効率よく作用する。導電性・保水性向上溶媒の含有量は、分散溶液全体に対して2.0〜15.0質量%とすることが好ましい。
【0048】
なお、本発明に係る分散溶液には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、前記した必須成分以外の成分を任意成分として添加することができる。添加可能な任意成分としては、例えば、顔料、染料、消泡剤、架橋剤、安定剤、界面活性剤(基板とのぬれ性向上のために添加される。導電性高分子ナノ微粒子には存在せず、分散溶液に存在するだけで、分散溶液に存在するだけでは導電性の低下とはならない。)等や、セルロース誘導体、ラテックス、多糖類又はその誘導体、ポリシリコン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリアミド等の製膜性向上化合物等が挙げられる。
【0049】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液における前記した必須成分等以外の残部については、精製水等の水を残部として添加すればよい。なお、残部とは、前記した(A)〜(D)及び必要により添加される任意成分以外の部分をいう。水は、概ね、分散溶液全体に対して、40.0〜85.0質量%含有するようにすればよいが、この範囲に特に制限されない。
【0050】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した必須成分及び必要により添加される任意成分を混合することにより、簡便に得ることができる。
【0051】
図2に示した装置を用いて導電性高分子ナノ微粒子を製造し、得られた導電性高分子ナノ微粒子を使用した導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法の一態様を、図3を用いて説明する。図3は、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の製造方法のフローチャートを示した図である。なお、このうちS1(Sはステップ。以下同じ。)〜S8により、導電性高分子ナノ微粒子が製造される。
【0052】
まず、高圧セル10の内部に酸化剤を導入し(S1)、高圧セル10を密閉状態として臨界点以上の温度(例えば、40〜80℃)とする(S2)。次に、二酸化炭素ボンベ21から二酸化炭素を、経路Aを通過させてセル内に導入した後(S3)、高圧セル10を臨界点以上の圧力(例えば、15〜25MPa)として超臨界状態とし(S4)、暫く撹拌する。この際、系を安定させるため暫く(30〜120分程度)放置するようにしてもよい。なお、モノマーの導入時あるいは導入後に、モノマーと一緒あるいは別に二酸化炭素をさらに導入するようにしてもよい。
【0053】
経路Bにπ−共役二重結合を有するモノマーを仕込み、酸化剤と超臨界状態の二酸化炭素が混合された高圧セル10の内部にモノマーを、経路Bから高圧セル10内に導入した後(S5)、さらに撹拌、混合して重合を進行させる(S6)。重合終了後、高圧セル10の内部を減圧して(S7)、導電性高分子ナノ微粒子を得ることができる。得られた導電性高分子ナノ微粒子は、減圧後、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールといったアルコール類等で遠心分離等により洗浄して精製することが好ましい(S8)。
【0054】
このようにして得られた導電性高分子ナノ微粒子を、各成分と混合して(S9)、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液とする。ここで、成分(A)(導電性高分子ナノ微粒子)及び任意成分を水と混合した後、成分(B)(ポリスチレンスルホン酸等)、成分(C)(低級アルコール)、成分(D)導電性・保水性向上溶媒と混合するようにしてもよい。
【0055】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、ナノ微粒子中に界面活性剤が取り込まれていない導電性高分子ナノ微粒子を溶媒中に分散させるに際し、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランを添加するので、かかるポリスチレンスルホン酸等が溶液中で分散剤となり、当該ナノ微粒子が好適に分散される。加えて、溶液中で導電性高分子ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸等が複合体を形成し、製膜された際にはナノ微粒子間の隙間の形成を抑制し、(極微量の水分を含有する)導電性・保水性向上溶媒による作用も相俟って、表面抵抗率や導電率等の電気特性や透明性に優れ、また、製膜性も良好であり、インクジェット印刷等の微細な印刷による製膜手段にも対応可能な導電性高分子ナノ微粒子分散溶液となる。
【0056】
本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、所定の基板に塗布して製膜することにより、導電性高分子ナノ微粒子及びポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸やスルホン酸化デキストランからなる複合体を含み、導電性・保水性向上剤が(極微量の水分とともに)極微量存在した導電薄膜を提供することができる。かかる導電薄膜は、導電性や表面抵抗率等の電気特性に加え、透明性に優れた導電薄膜となり、例えば、半導体材料、ポリマー発光ダイオード、有機太陽光発電素子、導電性高分子センサー、薄膜トランジスタ素子、コンデンサ用電解質、有機EL素子(正孔輸送材、正孔注入層)、二次電池電極材料等の各種電極材料等に適用することができる。また、透明性にも優れるため、ITO薄膜の代替品としても使用することができる。
【0057】
導電薄膜の厚さは、導電薄膜を構成する導電性高分子ナノ微粒子等の種類や、適用される用途に応じて適宜決定されるが、概ね65〜2000nm程度とすればよく、100〜1000nm程度とすることが好ましい。
【0058】
導電薄膜が形成される基板としては、特に制限はないが、例えば、プラスチック基板、不織布からなる基板、ガラス基板、シリコン基板、紙基板等を使用することができる。また、これらの基板は、ITO、酸化スズ、酸化インジウム等でコーティングされていてもよい。また、基板の形状は、シート状、フィルム状、板状、円盤状等、特に制限はない。
【0059】
また、製膜方法としては、例えば、インクジェット法、キャスティング法(キャスト法)、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、ワイヤバーコート法、ロールコート法、アプリケータ法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷等の公知の製膜手段を用いて所定の基板上にコーティング、乾燥することにより、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液からなる薄膜を前記した基板の上に簡便に形成させることができる。
【0060】
本発明の分散溶液は、微細な印刷による製膜手段であるインクジェット法(インクジェット印刷)によっても、分散溶液の安定した吐出が可能であり、インクジェット法による微細なパターン形成も可能となる。得られる導電薄膜は、インクジェット法によっても、得られた製膜にかすれがなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができ、加えて、重ね塗りもでき、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化する。
【0061】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0062】
例えば、前記した実施形態では、本発明に係る導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を構成する導電性高分子ナノ微粒子を製造する方法として、図2に示した製造装置1を使用する例を示して説明したが、導電性高分子ナノ微粒子の製造方法の実施としてはこれには限定されず、π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子であれば、他の構成の製造装置を使用して当該製造方法を実施するようにしても問題はない。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何
ら限定されるものではない。
【0064】
[製造例1]
導電性高分子ナノ微粒子の調製:
下記の方法を用いて、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を調製した。
【0065】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(1))の重合:
図2に示した製造装置1を用いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の重合を行った。観察窓17付きのSUS316製高圧セル10(容量:50mL)中に酸化剤(重合開始剤)として、フッ素基を有した超原子価ヨウ素化合物であり、超臨界状態の二酸化炭素に可溶な[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)(濃度:0.05M)を導入し、高圧セル10を密封した後、スターラー13で撹拌しながら、経路Aより二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで上昇させ、二酸化炭素を超臨界状態として、系を安定させるため30分放置した。
【0066】
次に、経路Bの管内にπ−共役二重結合を有するモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(濃度:0.05M)及び反応促進剤としてのパーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)15mMを仕込み、バルブVにより経路を切り替え、その差圧を利用することで高圧セル10の内部に当該モノマー等を入れ、撹拌、混合した。高圧セル10の内部に3,4−エチレンジオキシチオフェンを導入した時を重合開始時間として、反応時間60分で重合して、重合体であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を得た。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。また、酸化剤として使用した[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)は、反応後CF3COO−となってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)に取り込まれ、ドープ材の一部として作用している。
【0067】
得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は、1時間で減圧して回収後、遠心分離(回転数:8500rpm)を行い、上澄みのエタノールを分取し、さらにエタノールを加えて、超音波洗浄を10分間行った。この操作を3回繰り返して、エタノールに分散された導電性高分子ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、80〜120nmであった。なお、平均粒子径は、動的光散乱測定あるいは走査型電子顕微鏡観察により所定の数(例えば、100個)の平均値をとることで行った(以下、平均粒子径について同じ。)。
【0068】
[製造例2]
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT(2))の重合:
図2に示した製造装置1を用いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の重合を行った。観察窓17付きのSUS316製高圧セル10(容量:200mL)中に酸化剤(重合開始剤)として、フッ素基を有した超原子価ヨウ素化合物であり、超臨界状態の二酸化炭素に可溶な[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)(濃度:0.05M)を導入し、高圧セル10を密封した後、スターラー13で撹拌しながら、経路Aより二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで上昇させ、二酸化炭素を超臨界状態として、30分撹拌した。
【0069】
次に、経路Bの管内にπ−共役二重結合を有するモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(濃度:0.05M)及び反応促進剤としてのパーフルオロ−1−ブタンスルホン酸(PBSA)15mMを仕込み、バルブVにより経路を切り替え、その差圧を利用することで高圧セル10の内部に当該モノマー等を入れ、さらに二酸化炭素(CO2)を導入し、圧力を20MPa、温度を40℃まで圧入して、撹拌、混合した。高圧セル10の内部に3,4−エチレンジオキシチオフェンを導入した時を重合開始時間として、反応時間60分で重合して、重合体であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を得た。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。また、酸化剤として使用した[ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨード]ベンゼン(BTI)は、反応後CF3COO−となってポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)に取り込まれ、ドープ材の一部として作用している。
【0070】
得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)は、1時間減圧して回収後、遠心分離(回転数:8500rpm)を行い、上澄みのエタノールを分取し、さらにエタノールを加えて、超音波洗浄を10分間行った。この操作を3回繰り返して、エタノールに分散された導電性高分子ナノ微粒子を得た。平均粒子径は、180〜270nmであった。
【0071】
[製造例3]
ポリピロール(PPy(1))の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりにピロー
ル(Py)を用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例1に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリピロール(PPy)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は約65〜140nmであった。
【0072】
[製造例4]
ポリピロール(PPy(2))の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりにピロー
ル(Py)を用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例2に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリピロール(PPy)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は約135〜185nmであった。
【0073】
[製造例5]
ポリ(3−メチルピロール)(P3MPy)の重合:
モノマーとして、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の代わりに3−メチルピロールを用い、反応促進剤(パーフルオロ−1−ブタンスルホン酸)を使用しなかった以外は、製造例1に示した方法と同様な方法を用いて、重合体であるポリ(3−メチルピロール)を製造した。なお、得られた重合体には界面活性剤は存在しなかった。平均粒子径は、180〜235nmであった。
【0074】
[実施例1〜実施例6、比較例1〜比較例6]
導電性高分子ナノ微粒子分散溶液の調製:
前記の製造例1及び製造例2で得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、製造例3及び製造例4で得られたポリピロール、製造例5で得られたポリ(3−メチルピロール)を用いて、表1の組成(単位:質量%)及び下記の製造方法を用いて、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を調製した。
【0075】
(分散溶液の組成)
【表1】
【0076】
(分散溶液の製造方法)
(1)遠心分離によりエタノールを取り除き、導電性高分子ナノ微粒子を採取した。
(2)(1)で得られた導電性高分子ナノ微粒子と水を混合・撹拌した。なお、界面活性剤(Triton X100)を使用する場合には、併せて混合・撹拌した。
(3)導電性・保水性向上溶媒、低級アルコールの順に入れ混合・撹拌し、導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を得た。
【0077】
[試験例1]
インクジェット印刷試験(1):
実施例1及び比較例1で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインクジェットプリンターを用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0078】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がサーマル方式のインクジェットプリンター(BJ S530/キヤノン(株)製)のブラックカートリッジに充填した。
(2)インクジェットプリンターの印刷品質を設定した。本試験では、「きれい」、「標準」、「速い」の3種類を用いた。
(3)インクジェットプリンターのユーティリティより、クリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)文書作成ソフト「Microsoft Office Word(登録商標)」により、10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、インクジェット印刷用高品質紙及びOHPシートとして、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0079】
図4は、実施例1(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果を示した図である(図4Aは印刷回数=1回、図4Bは印刷回数=5回。)。なお、本試験は、フォントサイズは8、色調補正なし、印刷品質はインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」で実施した結果である。図4に示すように、実施例1の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出が可能であり、印字のかすれもなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができた。加えて、重ね塗りもでき、導電薄膜の製造方法として適用可能であることが確認できた。
【0080】
図5は、実施例1(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である(図5中の数字は印刷回数を示す。)。なお、本試験は、色調補正なし、印刷品質はインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」で実施した結果である。図5に示すように、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化することが確認できた。
【0081】
図6は、実施例1(基板:OHPシート)についての印刷試験結果を示した図である(図6中、(a)は印刷設定「きれい」、(b)は印刷設定「標準」、(c)は印刷設定「速い」。)。なお、本試験は、色調補正はなく、印刷回数は10回の結果である。また、本試験では、あらかじめ3本のカラーラインを引いたOHPシートを基板として、かかるカラーラインに重なるように印刷して、導電薄膜を形成して、導電薄膜の透過性も併せて評価した。図6に示すように、どの印刷設定にあっても、前記した効果を奏するとともに、カラーラインが明確に確認でき、透過性のある導電薄膜を形成可能であった。
【0082】
また、実施例1の分散溶液と比較例1の分散溶液(導電性高分子ナノ微粒子をエタノールに分散したもの)をOHPシートにインクジェット印刷して得られた導電薄膜の表面状態について、SEM画像を図7に示す(図7Aは比較例1、図7Bは実施例1、をそれぞれ示す。)。図7より、分散溶液の組成によりインクジェット印刷によって得られる薄膜の状態が大きく異なることがわかる。比較例1(図7(A))は、導電性高分子ナノ微粒子(PEDOTナノ微粒子)が基板上に点在し、また、微粒子が凝集しており、微粒子間に隙間が形成されて部分的に製膜が不完全となっている。一方、実施例1(図7(B))では、比較例1で抵抗としてはたらいていた粒子間の隙間が無くなっており、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ナノ微粒子とポリスチレンスルホン酸が基板上で膜を形成していることが確認できる。これらよりポリビニルスルホン酸を添加して分散溶液を形成すること、分散溶液調製時における導電性高分子ナノ微粒子の分散性向上に加えて、薄膜形成の点でも有効であることが確認できた。
【0083】
[試験例2]
インクジェット印刷試験(2)
実施例5、実施例6で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインクジェットプリンターを用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0084】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がサーマル方式のインクジェットプリンター(PIXUS 560i/キヤノン(株)製)のブラックカートリッジに充填した。
(2)インクジェットプリンターの印刷品質をインクジェットプリンターに設定されている条件である「標準」と設定した。
(3)インクジェットプリンターのユーティリティより、クリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)図表作成ソフト「Microsoft Office Word(登録商標)」により、10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、PETフィルム(G2P2シート/帝人デュポンフィルム(株)製)(実施例5)、インクジェット印刷用高品質紙(実施例6)として、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0085】
図8は、実施例6(基板:インクジェット印刷用高品質紙)についての印刷試験結果であり、印刷回数と形成された薄膜との関係を示した図である。なお、本試験は、色調補正なしで実施した結果である。図8に示すように、実施例6の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、前記した実施例1の分散溶液と同様に、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出が可能であり、印字のかすれもなく、対象パターン全体に印字が可能な製膜を形成することができた。加えて、重ね塗りもでき、印刷回数の増加(重ね塗り)に伴い、製膜パターンが鮮明化し、これからも、導電薄膜の製造方法として適用可能であることが確認できた。
【0086】
[試験例3]
インク吐出試験:
実施例3、実施例4で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、市販のインク吐出装置を用いて、下記の条件でインク吐出試験を行い、評価した。
【0087】
(インク吐出条件)
装置:Labo−Jet−500((株)マイクロジェット製)
ヘッド電圧:110V
1stパルス幅:200μs
休止パルス幅:0μs
2ndパルス幅:0μs
周波数:400Hz
ヘッド温度:30℃
【0088】
図9は、実施例3の分散溶液のインク吐出像を示した図、図10は、実施例3の分散溶液を1回印字した状態を示した図である(基板はPETシート(G2P2シート)とした。)。なお、図9及び図10は、いずれもCCDカメラで観察した結果である。図9に示すように、分散溶液がインクヘッドより適切な粘度であるためほぼ棒状の形態を保って吐出されており、正常に吐出されていることを確認した。また、図10に示すように、分散溶液の着弾・印字も適切な表面張力ならびに適切なぬれ性にかなった平板・半球状の広がりを示しており、正常に着弾・印字されていることを確認した。これらより、実施例3に示した分散溶液はインクジェット印刷用の優れた分散溶液であることが明らかとなった。
【0089】
[試験例4]
インクジェット印刷試験(3)
実施例3で得られた導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を、前記したインクジェットプリンター(Labo−Jet−500、(株)マイクロジェット製)を用いて、下記の方法を用いてインクジェット印刷を行い製膜し、導電薄膜として評価した。
【0090】
(インクジェット印刷方法)
(1)導電性高分子ナノ微粒子分散溶液に10分間超音波照射を行い再分散させた後、吐出方式がピエゾ方式のインクジェットプリンター(Labo−Jet−500、(株)マイクロジェット製)の液容器に充填し、さらに、液容器内に圧力を加えてヘッド内に導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を充填させた。
(2)インクジェットプリンターの印刷条件を下記のインク吐出条件に設定した。
(3)インクジェットプリンターのクリーニングを実行し、吐出可能な状態にした。
(4)インクジェットプリンター付属のソフト(図表作成ソフト)により、幅2〜4mmの直線パターンあるいは10mm×10mmの正方形パターンを作成した。
(5)インクジェット印刷対象の基板を、PETフィルム(G2P2シート/帝人デュポンフィルム(株)製)として、(4)で作成したパターンを印刷することで導電薄膜を作成した。
【0091】
(インク吐出条件)
ヘッド電圧:110V
1stパルス幅:200μs
休止パルス幅:0μs
2ndパルス幅:0μs
周波数:400Hz
ヘッド温度:30℃
【0092】
図11は、実施例3の分散溶液についての印刷試験結果を示した図(幅2〜4mmの直線パターン)である。図11に示すように、実施例3の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液は、インクジェット印刷により製膜した場合であっても、導電性分散溶液の安定した吐出及び製膜が可能であった。
【0093】
(導電率及び表面抵抗率の測定)
前記した実施例1、2、3、5の分散溶液を用いて得られた導電薄膜の導電率及び表面抵抗率を、四端子法(四探針測定器 K−705RS/(株)共和理研製)により測定した。なお、実施例2については、キャスティング法(導電率)及びスピンコート法(表面抵抗率)により製膜して得られた導電薄膜について測定した。
【0094】
(結果)
【表2】
【0095】
導電薄膜の導電率及び表面抵抗率を表2に示す。導電率はおよそ10−3〜10−6S/cm−1程度および表面抵抗率はおよそ105〜106Ω/□程度になった。特に、導電率および表面抵抗率の最高値は、各々、3.6×10−3S/cm−1および1.9×105Ω/□となり、帯電防止材料等に代表される電子機能性材料等への応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、電子機能性材料等として適用される導電薄膜を得る手段として有利に使用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 製造装置
10 高圧セル
11,12 ヒーター(リボンヒーター)
13 スターラー
14 熱電対
15,16 圧力計
17 観察窓
21 二酸化炭素ボンベ
22 ポンプ
23 冷却器
V バルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜(D)を含み、残部が水からなることを特徴とする導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子 0.1〜2.0質量%
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種 0.1〜4.0質量%
(C)低級アルコール 10.0〜70.0質量%
(D)導電性・保水性向上溶媒 2.0〜20.0質量%
【請求項2】
前記成分(D)導電性・保水性向上溶媒がジエチレングリコール(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSО)及びポリエチレングリコール(PEG)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
【請求項3】
前記成分(A)導電性高分子ナノ微粒子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
【請求項4】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性高分子ナノ微粒子を用いて得られることを特徴とする導電薄膜。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜することを特徴とする導電薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記製膜の手段がインクジェット法であることを特徴とする請求項5に記載の導電薄膜の製造方法。
【請求項1】
下記成分(A)〜(D)を含み、残部が水からなることを特徴とする導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
(A)π−共役二重結合を有するモノマーの重合体からなり、平均粒子径が10〜1000nmであり、界面活性剤が存在しない導電性高分子ナノ微粒子 0.1〜2.0質量%
(B)ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸(PVS)またはスルホン酸化デキストランの少なくとも1種 0.1〜4.0質量%
(C)低級アルコール 10.0〜70.0質量%
(D)導電性・保水性向上溶媒 2.0〜20.0質量%
【請求項2】
前記成分(D)導電性・保水性向上溶媒がジエチレングリコール(DEG)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール(EG)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSО)及びポリエチレングリコール(PEG)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
【請求項3】
前記成分(A)導電性高分子ナノ微粒子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液。
【請求項4】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性高分子ナノ微粒子を用いて得られることを特徴とする導電薄膜。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性高分子ナノ微粒子分散溶液を基板上に製膜することを特徴とする導電薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記製膜の手段がインクジェット法であることを特徴とする請求項5に記載の導電薄膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−97209(P2012−97209A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246706(P2010−246706)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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