説明

導電性高分子膜形成用の溶液及び導電性高分子膜の形成方法及び有機電界発光素子

【課題】平坦性、導電性に優れ、所望の厚さの導電性高分子膜の形成を実現する。
【解決手段】導電性高分子材料として、重量平均分子量が1000以上10000以下のポリアニリン又は誘導体の一方又は両方を用い、混合溶媒に溶解して薄膜形成用の溶液を得る。混合溶媒は、非プロトン性極性の第1溶媒と、ヒドロキシ基を含まず第1溶媒の沸点より低く、50℃以上120℃未満の沸点の第2溶媒を含む。第1、第2溶媒の混合重量比は1:3〜10:1である。溶液を乾燥して得た薄膜は、例えば有機EL素子のホール注入層に採用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリアニリン又はその誘導体を導電性高分子材料として用いた導電性高分子膜の成膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光(エレクトロルミネッセンス:以下EL)素子は通常、酸化インジウム錫(ITO)電極上に有機層が形成されるが、形成直後のITO電極表面は凹凸が大きい。このため、ITO電極上に形成された有機EL素子の有機層は、特に高温環境下で駆動中に短絡しやすく、素子の信頼性を低下させる原因となる。
【0003】
また、ITO電極上に小さなパーティクルが付着した場合、有機層が薄層であるため、有機層によるパーティクルの被覆が不十分となりがちで、断線やダークスポットの発生など、素子の信頼性を低下させてしまう。
【0004】
上記問題を解決するためにITO電極表面を研磨することで表面凹凸を小さくする手法が考えられる。しかし、新たに研磨痕や研磨剤残渣の問題が生じ、フレキシブルな基板を用いた場合には適用できないといった問題もあり、さらに付着パーティクルに対しては対応することができない。
【0005】
導電性高分子であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン):PSS(ポリスチレンスルフォン酸)を含む溶液を用い、ITO電極上に塗布法で正孔注入層を形成する手法が、非特許文献1等に提案されている。
【0006】
しかし、非特許文献1に提案されているPEDOT:PSSは、酸性材料であり、素子寿命を低下させてしまう。
【0007】
一方、非特許文献2等には、PEDOT:PSSではなく、ポリアニリンをホール注入層に用いた高分子有機EL素子が開示されている。市販の高導電性ポリアニリン溶液を用いて塗布用によって有機EL素子を形成した場合、素子寿命の点で改善が期待される。しかし、粒子分散系溶液を採用することとなり、塗布膜表面の平坦性が悪く、短絡しやすくなり、素子の信頼性を低下させる。
【0008】
特許文献1や特許文献2には、塗布に用いる上記市販のポリアニリン溶液の問題を解決するため、粒子分散系ではなく溶解型の新しいポリアニリン塗布液が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−151272号公報
【特許文献2】WO2003/071559
【非特許文献1】Synthetic metals 87,頁171−174(1997)
【非特許文献2】Nature 357,頁477−479(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記膜形成用の溶解型のポリアニリン溶液では、通常、ポリアニリンを1−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒に溶解させる。しかし、非プロトン性極性溶媒を用いた溶液は高粘度溶液になりにくいため、非プロトン性極性溶媒のみを用いて例えばガラス基板上に溶液膜をスピンコート法で形成した場合、短絡を防ぐために必要な膜厚、例えば100nmの膜厚の均一な膜が得られにくい。
【0011】
上記特許文献1や特許文献2では、エチルセロソルブやエチレングリコールなどの溶媒を添加することが示唆されている。ところがヒドロキシ基を含有するこれらの溶媒は、ポリアニリンのN原子に働きかけることで溶解度を低下させるように働いてしまう。
【0012】
ここで、ポリアニリンは、下記式(2)
【化1】

に示されるような構造を持ち、特許文献1では、式中のyで区切られたユニットを省略して溶解度を向上させている。しかし、このユニットyを省略するとポリアニリンとして安定した導電率が得られにくい。
【0013】
なお、特許文献2では、安定した導電率を得るために、上記化学式(2)のユニットyを酸素存在化での焼成により生成させる。したがって、グローブボックス中など、不活性ガス雰囲気中では焼成することができない。しかし、ポリアニリン以外の構造体、例えば金属層や、有機EL素子の他の有機層など、焼成に際して不活性ガス雰囲気であることが望まれることが多い。
【0014】
本発明では、平坦性、導電性に優れ、所望の厚さの導電性高分子膜の形成を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る導電性高分子膜形成用の溶液は、重量平均分子量が1000以上10000以下のポリアニリンおよびポリアニリン誘導体のいずれか又は両方を含む導電性高分子材料を、混合溶媒に溶解した導電性高分子膜形成用の溶液であり、前記混合溶媒は、非プロトン性極性の第1溶媒と、ヒドロキシ基を含まず、前記第1溶媒の沸点より低沸点の第2溶媒と、を含み、前記第2溶媒の沸点は、50℃以上120℃未満であり、前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合重量比が、1:3から10:1の間である。
【0016】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、前記ポリアニリン又は該ポリアニリンの誘導体は、下記式(1)で示される化合物であり、
【化2】

式(1)において、
R1、R2、R3、R4は、それぞれH、C2n+1(n=1〜8)、O、C2n+1(n=1,2)のいずれか、
Ra、Rbは、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基のいずれかであり、
式(1)において、xで区切られたユニットと、yで区切られたユニットと、zで区切られたユニットが、高分子中にランダム状又はブロック状のいずれか又は両方の混合状態で配置され、かつ、2z/(2x+y+2z)は、0.005から0.1の範囲にあり、y/(2x+y)は0.2から0.7の範囲にある。
【0017】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、前記第1溶媒は、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのいずれかを含む。
【0018】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、前記第2溶媒は、環状エーテル化合物を含む。
【0019】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、前記第2溶媒は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンのいずれかを含む。
【0020】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、上記式(1)中、Aで示されるドーピングアニオンは、有機スルホン酸若しくは有機リン酸である。
【0021】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜形成用の溶液において、該導電性高分子膜形成用の溶液を用い、絶縁性基板上に100nm形成した場合の該導電性高分子膜の導電率は、10−6S/cm以上10−4S/cm以下である。
【0022】
本発明の他の態様では、導電性高分子膜の形成方法であって、上述のいずれかの導電性高分子膜形成用の溶液を成膜対象上に配した後、加熱処理により前記混合溶媒を蒸発させ、前記成膜対象上に導電性高分子膜を形成する。
【0023】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜の形成方法において、前記導電性高分子膜形成用の溶液は、ウエットプロセスによって前記成膜対象上に配される。
【0024】
本発明の他の態様では、上記導電性高分子膜の形成方法において、上記乾燥処理として、真空乾燥処理、又は120℃以上、250℃以下の熱乾燥処理を行う。
【0025】
本発明の他の態様では、有機電界発光素子であって、電子注入電極とホール注入電極との間に、有機材料を含む発光層と、ホール輸送層と、ホール注入層と、を含む3層以上の有機層を有し、前記ホール注入層は、前記ホール注入電極上に直接形成されており、該ホール注入層は、上述の導電性高分子膜形成用の溶液を用いて形成され、かつ該ホール注入層の導電率が10−6S/cm以上10−4S/cm以下である。
【0026】
本発明の他の態様では、上記有機電界発光素子において、前記発光層は、低分子発光性もしくは高分子発光性有機材料のいずれかもしくは両方を含み、前記ホール輸送層は、低分子ホール輸送性の有機材料を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の導電性高分子膜形成用の溶液を用いることにより、ガラス基板やITO電極や樹脂基板等の種々の基板の上に、表面平坦性に優れ、所望の導電率を有する導電性高分子膜を形成することが可能となる。また、大気中や窒素ガス雰囲気中などあらゆる環境下において焼成可能となる。
【0028】
さらに、本発明のような導電性高分子膜を有機EL素子に適用することより、駆動時の短絡が少なく長寿命で信頼性の高い有機EL素子の形成が可能となる。このため、例えば、高信頼性であることが強く要求される車載用表示素子等への用途にも適用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態(以下、実施形態)について図面を参照して説明する。
【0030】
(導電性高分子膜及び薄膜形成用の溶液)
本実施形態に係る導電性高分子膜は、導電性高分子材料として、重量平均分子量1000以上10000以下のポリアニリンおよびポリアニリンの誘導体のいずれか又は両方を用いる。この導電性高分子材料を混合溶媒に溶解して得た溶液を成膜対象上(被形成面)に配して溶液層を形成した後、乾燥処理を施して混合溶媒を揮発させ、所望の厚さの導電性高分子膜を得ることができる。
【0031】
成膜対象面への溶液の付着方法としては、いわゆるウエットプロセス方法が採用可能であり、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などの塗布法や、インクジェット法、転写、LITI(laser-induced thermal imaging)法などの印刷法などが挙げられる。
【0032】
ポリアニリン又はポリアニリン誘導体を溶解させるために採用する上記混合溶媒は、非プロトン性極性の第1溶媒と、ヒドロキシ基を含まず、かつ、沸点が第1溶媒より低い第2溶媒と、を含む。
【0033】
ヒドロキシ基を含まない第2溶媒の沸点は、50℃以上120℃未満が好適である。60℃以上110℃以下とすればより望ましい。第2溶媒がこのような沸点であることにより、溶液層を塗布等によって成膜対象面上に形成した後の乾燥(焼成)時、第2溶媒を第1溶媒よりも速く、かつ、適度な速度で蒸発させることができる。このため、薄膜表面の平坦性を向上させつつ添加溶媒の薄膜中への残存を防ぐことができ、高密度の薄膜を形成することができる。
【0034】
ポリアニリン又は該ポリアニリンの誘導体は、下記式(1)で示される化合物であり、
【化3】

式(1)において、R1、R2、R3、R4は、それぞれH、C2n+1(n=1〜8)、O、C2n+1(n=1,2)のいずれかであり、互いに同じでも異なっていても良い。Ra、Rbは、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基のいずれかであり、互いには同じでも異なっていても良い。
【0035】
上記式(1)において、xで区切られたユニットと、yで区切られたユニットと、zで区切られたユニットは、ランダム若しくはブロック若しくは両者の混合状態で配置されている。また、式中、2z/(2x+y+2z)は、0.005から0.1の範囲にあり、y/(2x+y)は0.2から0.7の範囲である。
【0036】
上記のように、2z/(2x+y+2z)を、0.005から0.1の範囲とし、y/(2x+y)を0.2から0.7の範囲とすることで、溶液中でのポリアニリンの凝集を防ぐことができる。このため、ポリアニリンが溶解した溶液から薄膜を形成した場合に、平坦な膜表面を得ることができる。
【0037】
さらにポリアニリン又はその誘導体において、導電性発現に必要なyで示されるユニットを含みかつ、2z/(2x+y+2z)、y/(2x+y)が、上記条件を満たすことで、導電率が10−6S/cm以上、10−4S/cm以下の薄膜を安定して形成することができる。
【0038】
この範囲の導電率を達成することができれば、本実施形態に係る導電性高分子膜を、後述するように例えば有機EL素子に用いて適切な導電性等を発揮することができる。
【0039】
2z/(2x+y+2z)とy/(2x+y)が大きいほどポリアニリンの凝集が起こりやすくなる。しかし、両者は薄膜にした時の導電性に大きく関わるパラメータのために、本実施形態のような範囲とすることで、ポリアニリンの非凝集状態と導電率を得るために重要となる。また、2x=yで示される材料はエメラルディンと呼ばれ高い導電性を示すことができ、導電性薄膜として好適である。
【0040】
第1溶媒としては、非プロトン性極性である1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等があげられる。
【0041】
第2溶媒は、上記のようにヒドロキシ基がない溶媒であり、例えば、環状エーテル化合物溶媒を採用することができ、より具体的には、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンがあげられる。
【0042】
上記第1溶媒と第2溶媒との混合重量比は、1:3から10:1の間であることが好適である。ポリアニリン又はその誘導体材料の溶媒として、非プロトン性極性の第1溶媒だけを用いた場合、溶液の粘度が低いため十分な厚さで均一な膜を形成することが難しくなる。
【0043】
しかし、本実施形態では、上記重量混合比のように、少なくともヒドロキシ基がない第2溶媒を第1溶媒への添加溶媒として用いる。ヒドロキシ基は、ポリアニリン骨格のN原子に働き掛け、溶解度を低下させてしまうが、第2溶媒ではこのヒドロキシ基がないため、添加してもポリアニリンの溶解度を低下させることが無い。また、短絡を防ぐために必要な膜厚で、均一な膜を塗布法で得ることができる。
【0044】
特に、第2溶媒として上記環状エーテル化合物溶媒は、上述の特性に加えて、酸素原子を有し分子の面形状性が高いため、ITOやガラス基板との親和性が高く、非プロトン性極性溶媒(第1溶媒)との親和性も高い。したがって、例えばスピンコートによる塗布形成において、塗布溶液の粘度が低いにもかかわらず膜厚を厚くすることができる。基板への濡れ性の高さと塗布溶液の粘度の低さは、パーティクルや段差への被覆性を向上させる効果もあるために素子短絡防止効果も大きい。
【0045】
さらに、上記導電性高分子膜形成用の溶液には、式(1)にAで示すようなドーピングアニオン材料を含むことができる。このドーピングアニオンとしては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、ビス(2−エチルヘキシル)リン酸等の有機リン酸があげられる。化学式(1)のようなポリアニリン若しくはその誘導体材料を含む溶液に、ドーピングアニオンを適量添加することにより、ポリアニリン又はその誘導体の2z/(2x+y+2z)を、添加前の0から添加後に0.005から0.1の値に制御することができる。
【0046】
本実施形態に係る導電性高分子膜材料を溶かした溶液を利用した成膜方法としては、上述のように、塗布法や印刷法等のウエットプロセス法である。溶液層を形成した後、溶媒を揮発させるための乾燥処理は、熱乾燥処理や真空乾燥処理などの手法があげられる。
【0047】
熱乾燥処理は乾燥ガス雰囲気中で行われることが望ましいが、限定されるものではなく、大気中で行っても良い。熱処理温度は120℃以上250℃以下が望ましく、130℃以上200℃以下がより望ましい。このような熱処理温度とすれば、導電性高分子膜を形成する基板としてガラス基板など以外にも、耐熱性の低いプラスチック基板などを採用することできる。また、このような温度で乾燥させる際、上述のように第2溶媒が第1溶媒よりも先に蒸発し、膜の平坦性、膜の密度の向上が図られる。
【0048】
(素子構造)
次に、本実施形態に係る上記導電性高分子膜を利用した素子について説明する。図1は、この素子として、有機発光素子、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(以下、EL)素子を採用した場合の素子100の概略断面構造を示している。なお、以下、本実施形態の素子として有機EL素子を例に説明するが、有機EL素子に限定されるものではなく、電子デバイス、例えば有機電子デバイスなどにも利用することができる。
【0049】
本実施形態に係る有機EL素子100は、基板10の上に、陽極として機能するホール注入電極12と陰極として機能する電子注入電極14との間に、有機層を有する。この有機層は、本実施形態では、ホール注入電極12側から、ホール注入層20、ホール輸送層22、及び有機材料を含む発光層24とを備える3層構造を備えている。なお、3層構造には限られず、図1に示すように、発光層24と電子注入電極14との間に電子輸送層26を備えていても良い。さらに、より多くの層を有していても良い。
【0050】
図1に示すような有機EL素子100において、ホールは、ホール注入電極12からホール注入層20及びホール輸送層22を介して発光層24に注入され、電子は、電子注入電極14から電子輸送層26を介して発光層24に注入される。発光層24でホールと電子とが再結合し、再結合エネルギによって励起した電子が基底状態に戻る際に発光が起き、有機EL素子では、この光を素子外部に取り出すことで、光源や自発光型の表示装置などとして利用される。
【0051】
本実施形態では、ホール注入電極12に接して形成される上記ホール注入層20として、上述の導電性高分子膜形成用の溶液を用いて形成した導電性高分子層を採用する。このホール注入層20は、ホール注入電極12からのホールの注入効率を高め、かつ電子注入電極14から注入される電子がホール注入電極12に到達して消失してしまわないよう電子ブロック性を発揮する。
【0052】
基板10は、例えばガラスなどの透明基板であるが、ガラスには限られず、バリア膜付きの樹脂基板や金属基板等様々なものを用いることができる。
【0053】
ホール注入電極12は、透明又は半透明の電極を形成することのできる任意の導電性物質を採用できる。具体的には、酸化物として酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛アルミニウム、酸化亜鉛ガリウム、酸化チタンニオブ等を使用し、スパッタリングなどによって積層することができる。このうち、ITOは、特に、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性に優れていることなどの利点を有する材料である。
【0054】
ITOなどの導電性層の表面に、又は、基板10の上に、アルミニウム、金、銀等の金属材料を蒸着して半透明導電層を形成してホール注入電極12としても良い。また、更にその他の方法を用いてホール注入電極12としても良い。
【0055】
また、ホール注入電極12は、必要に応じて、成膜後にエッチングによってディスプレイなどにおいて要求される形状にパターニングしてもよい。例えば、画素毎の個別形状や、行毎又は列毎のストライプ形状などにすることができる。なお、UV処理やプラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0056】
ホール注入電極12の上に、ホール注入層20として、上記導電性高分子層を形成する。まず、上述のポリアニリン又はその誘導体のいずれか又は両方を混合溶媒に溶解させて薄膜形成用の溶液(以下、単にポリアニリン溶液という)を作成し、このポリアニリン溶液を塗布法や印刷法などのウエットプロセス法によってホール注入電極12の上に付着させる。
【0057】
例えば、塗布法の一種であるスピンコート法の場合、ホール注入電極12の上に所定量の薄膜形成用溶液を吐出し、その後、図示しないスピンコータによってホール注入電極12の上に溶液層を均一に広げることにより、ホール注入電極12の上にポリアニリン溶液層を形成する。その後、乾燥処理を施して溶液層から溶媒を蒸発させ、ポリアニリン又はその誘導体層を含む導電性高分子膜を得る。この導電性高分子膜は、例えば、100nm程度の厚さに形成することができる。
【0058】
また、乾燥処理法としては熱乾燥処理や真空乾燥処理などが採用可能である。熱乾燥処理の場合、乾燥ガス雰囲気中で行われることが望ましいがこれに限定されるものではなく、大気中で行っても良い。熱処理温度は120℃以上250℃以下が望ましく、130℃以上200℃以下がより望ましい。このような温度範囲であれば、有機EL素子を形成する基板10としてガラス基板の他、可撓性でより耐熱性の低いプラスチック基板を採用することができる。
【0059】
ホール注入層20の形成後、本実施形態では、有機層として、ホール輸送層22、発光層24及び電子輸送層26を順次形成する。また、電子輸送層26の上にはさらに、電子注入電極14を形成することができる。有機層及び電子注入電極14のいずれの層も真空蒸着法によって形成することができる。また、真空蒸着法以外の方法によって形成することも可能である。例えば高分子発光材料等、高分子材料などを用いる場合には、ウエットプロセス法を採用して形成することもできる。
【0060】
ホール注入層20は、積層構造を採用することも可能である。ホール注入電極12を覆う1層目のホール注入層としては、上記ポリアニリン層を採用し、その上に2層目のホール注入層として銅フタロシアニン(CuPc)層などを形成しても良い。なお、2層目のホール注入層を省略しても良い。
【0061】
ホール輸送層22としては、ホールの移動度の高い材料が好適であり、例えば、低分子有機材料であるトリフェニルアミン4量体(TPTE)等を採用することで高いホール移動度が実現される。また真空蒸着法によって形成したTPTE層は、平坦性に優れ、密度が高く、本実施形態のホール注入層20、上層の発光層24との密着性も良い。
【0062】
発光層24についても、低分子有機材料を採用することができ、例えば発光層と電子輸送層とを兼用する層としてキノリノールアルミ錯体(Alq)を用いて形成することができる。この場合、発光層24の領域にのみドーパント材料としてメチル化キナクリドン(MeQd)(ホスト材料は、例えば上記キノリノールアルミ錯体)を採用し、発光層24、電子輸送層26を連続的に形成することができる。発光層24と電子輸送層26をそれぞれ異なる材料で形成することもできる。
【0063】
なお、以上のホール輸送層22、発光層24、電子輸送層26についてこれらを高分子材料を用いて形成することも可能である。この場合、例えば上述のようなウエットプロセス法によって膜を形成することができる。
【0064】
電子注入電極14は、仕事関数の低い材料を用いること、特に、発光層24側の界面が低仕事関数であることが望まれる。そこで、電子注入電極14としては、金属電極層と、電子注入電極14との間に電子注入層を介在させた積層構造を採用することができる。例えば、電子注入層として、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等を用い、金属電極層としてアルミニウム等を用いた積層構造が採用可能である。あるいは、電子注入層として、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のハロゲン化物等を用い、金属電極層として、アルミニウム等を用いた積層構造を採用することができる。
【0065】
具体的には、Al/Ca(発光層側)、Al/Ba(発光層側)、Al/Li(発光層側)、Al/LiF(発光層側)、Al/CsF(発光層側)、Al/CaF(発光層側)、Al/Ca/LiF(発光層側)とする積層構造などが採用可能である。また、これらの積層構造は、例えば真空蒸着法などによって形成することができる。
【0066】
電子注入電極14の形成後、最後に乾燥窒素等の不活性ガス雰囲気中にて基板10の素子形成側に封止部材を貼り合わせ、素子を封止する。封止部材の貼り合わせによる封止工程は、グローブボックス中で行うことが望ましい。
【0067】
封止部材としては、例えば金属製の缶や、酸素や水の透過性の低いガラスや、バリア膜付きの樹脂基板や金属基板等様々なものを用いることができる。また、貼り合わせではなく、酸素や水素などの透過性の低い保護膜(バリア膜)を、電子注入電極14の上から素子全体を覆うように形成して素子を膜封止する方法を採用しても良い。
【0068】
なお、各層を形成するプロセスをそれぞれ異なる成膜室で行い、特に真空蒸着によって各層を形成する場合、工程間における搬送は、特に限定されるものではないが、乾燥雰囲気中での搬送であることが望ましい。
【0069】
ポリアニリン層20は、上述の導電性高分子膜及びその形成用の溶液の項目において説明したように、ポリアニリン若しくはその誘導体材料を、第1溶媒と第2溶媒とを含む混合溶媒に溶解させ、さらにドーピングアニオン材料を加えた溶液を用いて形成する。
【0070】
ポリアニリン若しくはその誘導体材料としては、上述の通り、混合溶媒への溶解性を向上させるために重量平均分子量1000以上10000以下であることが望ましい。出発材料であるポリアニリン若しくはその誘導体材料は、上記化学式(1)に示され、かつzが0でかつy/(2x+y)が0.2〜0.7の範囲にある材料が望ましく、y/(2x+y)が0.4〜0.6の範囲にある材料がより望ましい。中でも、高い導電性を示す2x=yの関係を有する材料(エメラルディン)は好適である。
【0071】
混合溶媒の第1溶媒は、非プロトン性極性溶媒であり、また、第2溶媒はヒドロキシ基を含まず第1溶媒より低融点の溶媒を用いる。両溶媒の混合比についても上述のとおり、1:3から10:1の間であることが好適である。
【0072】
溶液に添加するドーピングアニオン材料は、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、ビス(2−エチルヘキシル)リン酸等の有機リン酸が採用可能である。ポリアニリン溶液にドーピングアニオンを適量添加することにより、2z/(2x+y+2z)を、添加前の0から添加後に0.005から0.1の値に制御することができる。
【0073】
このように調製されたポリアニリン溶液を用いて形成したポリアニリン層は、導電率が10−6S/cm以上10−4S/cm以下となり、有機EL素子のホール注入層20として適切な導電率が実現される。
【0074】
このような導電率であれば、ポリアニリン層を用いた有機EL素子が高電圧化することを防止できる。また、基板面内に配置された極性の異なる電極間での面内漏れ電流による電力ロスを抑制することができる。基板面内の極性の異なる電極とは、例えば、画素毎に個別形状に形成される電極、あるいは行又は列毎にストライプ状に形成される電極であって、近接配置されている電極同士が、選択(電流供給)されている画素と、非選択(電流非供給)の画素との関係となって、電位差が生じている場合が該当する。
【0075】
有機EL素子において、ホール注入電極12と電子注入電極14との電位差、つまり印加電圧を高くしなければならない場合、必然的に、ホール注入電極12同士でも選択画素と非選択画素とで大きな電位差が発生する。しかし、本実施形態のようなポリアニリン層をホール注入層20に採用し、素子の高電圧化を抑制することで、基板面内での極性の異なる電極同士の電位差を小さくし、面内漏れ電流を抑制することが可能となる。
【0076】
なお、パッシブマトリクス型(パッシブ駆動ドットマトリックス型)のディスプレイでは、ホール注入電極12及び電子注入電極14を、互いに交差する方向にストライプ状に形成し、両電極の交点において、両電極と、電極間に挟まれた有機層とを含んで構成される。このパッシブマトリクス型ディスプレイは、各画素に有機EL素子で発光を個別に制御するためのトランジスタ素子などの能動素子が設けられたアクティブマトリクス型のディスプレイと比較して、構造は簡易であるが、各画素の有機EL素子に印加する電圧を高くする必要がある。よって、このパッシブマトリクス型ディスプレイでは、上記基板面内の電力ロスが問題になりやすいが、本実施形態であればこの電力ロスを抑制することができ、低コスト、低電圧駆動が可能であり、かつ信頼性の高い有機EL素子、有機EL表示装置を得ることが容易となる。
【0077】
また、膜表面の平滑性が高く、かつ、下層のホール注入電極12及びガラスなどの基板10との密着性にも優れるため、素子形成後の剥離を防ぎ、素子の信頼性向上に寄与できる。また、100nm程度と、十分な厚さの導電性高分子層を形成することが可能となる点も、素子の信頼性向上において非常に有利となる。
【実施例】
【0078】
以下、本実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0079】
(実施例1)
本実施形態に係る実施例1として、ポリアニリン溶液の調整法を示す。まず、アルドリッチ社製アンドープポリアニリン(エメラルディンベース、重量平均分子量5000) 10gを、第1溶媒の1−メチル−2−ピロリドン溶媒183gに加え、60℃にて超音波を印加して完全に溶解させた第1溶液を調製した。次に、ドーピングアニオン材料としてドデシルベンゼンスルホン酸1.34gと、第2溶媒のテトラヒドロフラン183gを混合させた第2溶液を調製した。
【0080】
ポリアニリン材料を第1溶媒に溶かした上記第1溶液に、滴下法にて、上記第2溶液であるドデシルベンゼンスルホン酸溶液を徐々に撹拌しながら添加し、60℃にて4時間の加熱処理を行い、3重量%ポリアニリンが溶解した第3溶液とした。
【0081】
最後にこの第3溶液に第1溶媒の1−メチル−2−ピロリドン溶媒378gと、第2溶媒のテトラヒドロフラン378gを加え、1重量%ポリアニリンが溶解したポリアニリン溶液(薄膜形成用のポリアニリン溶液)とした。
【0082】
上記ポリアニリン溶液中のポリアニリンの状態は、上記化学式(1)において、xが0.25、yが0.425、zが0.0375であり、2z/(2x+y+2z)が0.075、かつy/(2x+y)が0.46であった。
【0083】
ポリアニリン層の形成は、以下のようにして行った。即ち、上記ポリアニリン溶液を塗布液として用い、スピンコート法にて行った。UV/O処理を行ったITO/ガラス基板上に2000回転30秒の条件で上記ポリアニリン溶液を塗布した後、150℃、2時間の熱処理乾燥を行って、膜厚100nmのポリアニリン薄膜を得た。
【0084】
得られたポリアニリン層の上には、有機EL素子の第2ホール注入層として銅フタロシアニン(CuPc)層を形成した。また、ホール輸送層22としてトリフェニルアミン4量体(TPTE)層、発光層24として、メチル化キナクリドン(MeQd)を2%ドープしたキノリノールアルミ錯体(Alq)層、電子輸送層26としてキノリノールアルミ錯体を形成した。これら有機層は、いずれも真空蒸着法により、in−situで作製した。さらに、続けて、電子注入電極14の電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)、金属電極層としてアルミニウム(Al)をいずれも真空蒸着法により順に、in−situにより積層し素子構造を得た。最後に、素子構造を封止缶によって封止し、実施例1に係る有機EL素子を得た。
【0085】
各層の膜厚はITO:150nm、ポリアニリン:100nm、銅フタロシアニン:10nm、トリフェニルアミン4量体:50nm、メチル化キナクリドンドープキノリノールアルミ錯体:40nm、キノリノールアルミ錯体:20nm、フッ化リチウム0.5nm、Al:100nmとした。
【0086】
(比較例1−1)
比較例1−1として、ポリアニリン層の代わりにH.C.Starck社製PEDOT:PSS(CLEVIO P CH8000)溶液を用い、PEDOT:PSS層(膜厚100nm)をホール注入電極12の上に形成した。なお、他の構成、形成条件は、実施例1と同じとし、比較例1−1に係る有機EL素子を作製した。
【0087】
(比較例1−2)
比較例1−2として、アルドリッチ社製市販高導電性ポリアニリン塗布液(Emeraldine salt、0.5wt.%、伝導率〜1S/cm 薄膜として)を用いてポリアニリン層を形成した以外は実施例1と同様の構成の素子を作製した。
【0088】
(評価)
実施例1、比較例1−1、1−2の素子に対して、逆電圧を印加した場合の破壊電圧Vbr、素子に順電流を流し、室温にて初期輝度2400cd/mにて定電流駆動させた場合において、100時間後の初期に対する相対輝度(L/L)、電圧上昇率(dV/V)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例1及び比較例1ー1では高い破壊電圧を示したのに対して比較例1−2では低かった。破壊電圧が高いことは素子が短絡しにくいことを意味しており、実施例1及び比較例1は短絡しにくい素子であることがわかった。
【0091】
また、実施例1及び比較例1−2では相対輝度が高く電圧上昇率が低いのに対して比較例1では逆の結果となったことから、実施例1及び比較例1−2が長寿命素子であることがわかった。以上の結果より、全ての特性を満足しているのは実施例1のみであり、本実施形態に係る導電性高分子膜形成用の溶液の効果が示されている。
【0092】
(実施例2)
次に、実施例2として、上記実施例1において導電性高分子材料として用いたポリアニリンの重量平均分子量を変化させた場合の例を示す。上記実施例1においてアルドリッチ社製アンドープポリアニリン(エメラルディンベース)の重量平均分子量を1000、5000、10000、20000、65000と変化させ、それぞれポリアニリン溶液の調製を行った。
【0093】
得られたポリアニリン溶液をPTFE 0.45μmフィルタに通した結果、重量平均分子量が1000(実施例2−1)、5000(実施例2−2)、10000(実施例2-3)の場合は問題なく通すことが可能であった。しかし、重量平均分子量が20000(比較例2−1)の場合は通すのにかなりの抵抗を受け、重量平均分子量が65000(比較例2−2)の場合は全く通らなかった。
【0094】
フィルタの通りやすさは粒子の生成と相関があり、実施例2−1、2−2、2−3の結果から分かるように、重量平均分子量は、10000以下が望ましいことがわかる。また、重量平均分子量1000より小さいと薄膜を形成した時の結晶化が起こりやすくなった。以上より、重量平均分子量1000以上10000以下が粒子の生成のない適切な条件であることがわかった。
【0095】
(実施例3)
次に、実施例3として、第2溶媒に用いる環状エーテル化合物溶媒の沸点を変化させた場合の事例を示す。
【0096】
上記実施例1において示した第2溶媒の環状エーテル化合物溶媒として、フラン(沸点31℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、テトラヒドロピラン(沸点88℃)、ジオキサン(沸点101℃)、1−ベンゾフラン(沸点173℃)をそれぞれ用いたポリアニリン溶液を作成した。
【0097】
さらに、この溶液を用いてスピンコート法にてポリアニリン薄膜を形成した。この場合の膜表面の平坦性(算術平均粗さ)Raを原子間力顕微鏡にて評価した結果を図2に示す。各平坦性Raは、フランが1.56nm、テトラヒドロフランが0.52nm、テトラヒドロピランが0.63nm、ジオキサンが0.76nm、そして、1−ベンゾフランが1.12nmであった。平坦性Raは、高い破壊電圧を得るためには1nm以下であることが望ましく、図2の結果から、第2溶媒の沸点は、50℃から120℃の間が適切な条件であることが理解できる。
【0098】
(実施例4)
実施例4として、実施例1で第1溶媒として用いた非プロトン性極性溶媒と、第2溶媒として用いた環状エーテル化合物溶媒の混合重量比を変化させた場合の事例を示す。
【0099】
非プロトン性極性溶媒である1−メチル−2−ピロリドンと、環状エーテル化合物溶媒であるテトラヒドロフランの混合重量比を1:5から20:1の間で変化させた以外は実施例1と同じ条件でポリアニリン溶液を調製した。得られたポリアニリン溶液を用い、スピンコート法にてポリアニリン薄膜を形成した。
【0100】
ポリアニリン膜の形成の結果、混合重量比(第1溶媒:第2溶媒)が、1:5から1:4の間では、ポリアニリンの溶け残りが生じ、スピンコート等による塗布法や、インクジェット、転写などの印刷法に用いる溶液として、不適切であった。
【0101】
さらに、混合重量比が11:1から20:1の間では、スピンコート後の熱処理乾燥時にポリアニリンの凝集が起こって均一な薄膜が得られなかった。以上のことから、第1溶媒と第2溶媒の混合重量比は、1:3から10:1の間が適切な条件であること理解できる。
【0102】
(実施例5)
実施例5として、上記実施例1で用いた化学式(1)で示されるポリアニリン材料について、その2z/(2x+y+2z)の値を変化させた場合の事例を示す。
【0103】
ポリアニリン材料の2z/(2x+y+2z)を、0、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3と変化させ、他は上記実施例1と同一の条件でそれぞれ有機EL素子を作成した。
【0104】
図3は、各素子に50mA/cmの電流を流した時の素子駆動電圧を示している。図3に示されるように、2z/(2x+y+2z)が0.005未満の場合、導電率の低下に伴い、急激に素子の駆動電圧が上昇する。一方、0.2以上では塗布液中に粒子が生成されてしまい、均一なポリアニリン薄膜を形成することができなかった。
【0105】
以上の結果より、本実施形態のようにポリアニリン材料の2z/(2x+y+2z)は、0.005から0.1の範囲であることが適切な条件であることが理解できる。
【0106】
(実施例6)
実施例6として、上記実施例1で用いた化学式(1)で示されるポリアニリン材料のy/(2x+y)の値を変化させた場合の事例を示す。
【0107】
ポリアニリン材料のy/(2x+y)を0から1の間で変化させ、他は上記実施例1と同一条件としてポリアニリン薄膜を作成した。
【0108】
y/(2x+y)が0の場合(ポリアニリン薄膜を完全に還元させた状態)は、得られるポリアニリン薄膜の導電率が6×10−8 S/cmとなったため、素子が高電圧化し、y/(2x+y)が1の場合(ポリアニリン薄膜を完全に酸化させた状態)は粒子が生成されてしまった。
【0109】
一方、y/(2x+y)が0.2から0.7の場合は、粒子が生成されるというような問題は起こらなかった。すなわち、本実施形態のように、y/(2x+y)が0.2から0.7の範囲とすることが適切な条件であることが理解できる。
【0110】
(実施例7)
次に、実施例7として、ポリアニリン薄膜の導電率を変化させた場合の事例を示す。
【0111】
図3において、2z/(2x+y+2z)が0.005の時のポリアニリン薄膜の導電率が2×10−6S/cmである。これに対して、2z/(2x+y+2z)が0.001の時の導電率が5×10−8S/cmである。よって、導電率は、10−6S/cm以上であることが望ましいことがわかる。
【0112】
また、導電率が10−4S/cm以上になると、2型(2インチ型)サイズのパッシブマトリックス型ディスプレイにおいて、基板面内に配置された極性の異なる電極間での面内漏れ電流が1μA以上となり、電力ロスが増大することがわかった。
【0113】
以上のことから、ポリアニリン薄膜の導電率は、本実施形態のように10−6S/cm以上、10−4S/cm以下であることが適切な条件であることが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の概略構成を示す図である。
【図2】実施例3に係る表面平坦性と第2溶媒の沸点との関係を示す図である。
【図3】実施例5に係るポリアニリンの2z/(2x+y+2z)の値と、各ポリアニリンを用いて形成した有機EL素子に50mA/cmの電流を流した時の素子駆動電圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0115】
10 基板、12 ホール注入電極、14 電子注入電極、20 ホール注入層、22 ホール輸送層、24 発光層、26 電子輸送層、100 有機EL素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1000以上10000以下のポリアニリンおよびポリアニリン誘導体のいずれか又は両方を含む導電性高分子材料を、混合溶媒に溶解した導電性高分子膜形成用の溶液であり、
前記混合溶媒は、
非プロトン性極性の第1溶媒と、
ヒドロキシ基を含まず、前記第1溶媒の沸点より低沸点の第2溶媒と、
を含み、
前記第2溶媒の沸点は、50℃以上120℃未満であり、
前記第1溶媒と前記第2溶媒との混合重量比が、1:3から10:1の間であることを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
前記ポリアニリン又は該ポリアニリンの誘導体は、下記式(1)で示される化合物であり、
【化1】

式(1)において、
R1、R2、R3、R4は、それぞれH、C2n+1(n=1〜8)、O、C2n+1(n=1,2)のいずれか、
Ra、Rbは、それぞれ水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基のいずれかであり、
式(1)において、xで区切られたユニットと、yで区切られたユニットと、zで区切られたユニットが、高分子中にランダム状又はブロック状のいずれか又は両方の混合状態で配置され、かつ、2z/(2x+y+2z)は、0.005から0.1の範囲にあり、y/(2x+y)は0.2から0.7の範囲にあることを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
前記第1溶媒は、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのいずれかを含むことを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
前記第2溶媒は、環状エーテル化合物を含むことを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
前記第2溶媒は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンのいずれかを含むことを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
上記式(1)中、Aで示されるドーピングアニオンは、有機スルホン酸若しくは有機リン酸であることを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載の導電性高分子膜形成用の溶液において、
該導電性高分子膜形成用の溶液を用い、絶縁性基板上に100nm形成した場合の該導電性高分子膜の導電率は、10−6S/cm以上10−4S/cm以下であることを特徴とする導電性高分子膜形成用の溶液。
【請求項8】
導電性高分子膜の形成方法であって、
請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の導電性高分子膜形成用の溶液を成膜対象上に配した後、
乾燥処理により前記混合溶媒を蒸発させ、前記成膜対象上に導電性高分子膜を形成することを特徴とする導電性高分子膜の形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性高分子膜の形成方法において、
前記導電性高分子膜形成用の溶液は、ウエットプロセスによって前記成膜対象上に配されることを特徴とする導電性高分子膜の形成方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の導電性高分子膜の形成方法において、
前記乾燥処理として、真空乾燥処理、又は120℃以上、250℃以下の熱乾燥処理を行うことを特徴とする導電性高分子膜の形成方法。
【請求項11】
有機電界発光素子であって、
電子注入電極とホール注入電極との間に、
有機材料を含む発光層と、ホール輸送層と、ホール注入層と、を含む3層以上の有機層を有し、
前記ホール注入層は、前記ホール注入電極上に直接形成されており、
該ホール注入層は、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の導電性高分子膜形成用の溶液を用いて形成され、かつ該ホール注入層の導電率が10−6S/cm以上10−4S/cm以下であることを特徴とする有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−118488(P2010−118488A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290562(P2008−290562)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】