説明

導電性高分子製造用酸化剤およびその製造方法

【課題】 導電性高分子を酸化重合により製造するに際して酸化剤として有用性を有し、かつ電導度が高く、しかも耐熱性が優れた導電性高分子を製造するのに適した酸化剤と、その製造方法を提供する。
【解決手段】 有機スルホン酸第二鉄塩からなる導電性高分子製造用酸化剤であって、該有機スルホン酸第二鉄塩が化学量論的に第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有していて、上記有機スルホン酸塩と第二鉄塩との当量比が1:1.02〜1:1.5であることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤、および硫酸第二鉄と有機スルホン酸とを出発物質とし、有機スルホン酸1当量に対して第二鉄が1.02〜1.5当量になる比率で、溶媒中で反応させることによって前記有機スルホン酸第二鉄塩を合成する導電性高分子製造用酸化剤の製造方法により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子製造用酸化剤、すなわち、化学酸化重合により導電性高分子を製造する際に使用する酸化剤と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、アルミニウムコンデンサやタンタルコンデンサなどの固体電解質としても使用されている。
【0003】
これらの用途における導電性高分子は、ピロール、アニリン、チオフェン、それらの誘導体などをモノマーとして用いて化学酸化重合(以下、「酸化重合」と略記する)によって製造されている。
【0004】
そして、その酸化重合に際して酸化剤としては、有機スルホン酸の遷移金属塩が用いられており、それらの中でも、ベンゼン骨格やナフタレン骨格を有する芳香族スルホン酸の遷移金属塩が有用であると報告されている(例えば、特許文献1〜2)。
【0005】
しかしながら、芳香族スルホン酸遷移金属塩、例えば、p−トルエンスルホン酸第二鉄、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸第二鉄塩などを用いて、コンデンサーの陰極層となる導電性高分子を製造した場合でも、現状では充分な耐熱性が得られないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−94108号公報
【特許文献2】特開平11−297570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決し、導電性高分子を酸化重合により製造するに際して酸化剤として有用性を有し、かつ電導度が高く、しかも耐熱性が優れた導電性高分子を製造するのに適した酸化剤と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電性高分子製造用酸化剤を、有機スルホン酸と第二鉄との当量比が1:1.02〜1:1.5である化学量論的に第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有している有機スルホン酸第二鉄塩で構成することによって、上記課題を解決したものである。
【0009】
また、本発明は、本発明の有機スルホン酸第二鉄塩からなる導電性高分子製造用酸化剤を製造するにあたり、硫酸第二鉄と有機スルホン酸とを出発物質とし、有機スルホン酸1当量に対して第二鉄が1.02〜1.5当量になる比率で、溶媒中で反応させることによって、有機スルホン酸と第二鉄との当量比が1:1.02〜1:1.5と、化学量論的に第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有するように前記有機スルホン酸第二鉄塩を合成することによって、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明において、化学量論的に導電性高分子製造用酸化剤を構成する有機スルホン酸第二鉄塩が第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有していることによって、耐熱性の優れた導電性高分子が得られる理由は、現在のところ必ずしも明確ではないが、第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有していることによって、酸化重合時における過剰な反応を抑えることができるようになったことによるものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、導電性高分子を酸化重合により製造するに際して酸化剤として有用性を有し、かつ電導度が高く、しかも高温下での放置による電導度の低下が少ない耐熱性の優れた導電性高分子を製造することができる導電性高分子製造用酸化剤と、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、導電性高分子製造用酸化剤を構成する有機スルホン酸第二鉄塩の有機スルホン酸と第二鉄が当量比で1:1であれば化学量論的比率にあるが(これをモル比で表すと、第二鉄が3価であるので、有機スルホン酸と第二鉄との化学量論的モル比は3:1になる)、化学量論的に第二鉄が過剰であるということは、第二鉄が有機スルホン酸1当量に対して1当量より多いということであり、本発明においては、有機スルホン酸と第二鉄との当量比を1:1.02〜1:1.5にする。すなわち、有機スルホン酸と第二鉄との当量比を上記のように第二鉄を過剰にすることによって、耐熱性が優れた導電性高分子が得られるようにしつつ、有機スルホン酸の少なすぎによる極度な反応速度の低下を防止して実用的な反応速度に保ちうる。特に有機スルホン酸と第二鉄との当量比としては1:1.1〜1.3が好ましい。
【0013】
本発明において、有機スルホン酸第二鉄塩の一方の構成成分である有機スルホン酸としては、特に限定されることはないものの、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、イソプロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0014】
本発明において、導電性高分子製造用酸化剤を構成する有機スルホン酸第二鉄塩の製造方法について説明すると、まず、硫酸第二鉄を、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属で処理して水酸化第二鉄を調製した後、遠心分離、限外濾過、フィルター濾過などにより水溶性の不純物を取り除き、その不純物を取り除いた水酸化第二鉄を、有機スルホン酸1当量に対して鉄が1.02〜1.5当量になる比率で、有機スルホン酸と溶媒中で反応させることによって、導電性高分子製造用酸化剤となる有機スルホン酸と第二鉄との当量比が1:1.02〜1:1.5の有機スルホン酸第二鉄塩を製造することができる。
【0015】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤を用いて導電性高分子を製造するにあたり、その原料モノマーとしては、例えば、チオフェン、ピロール、アニリン、それらの誘導体などの複素五員環化合物を用いることが好ましく、特にチオフェンおよびその誘導体が好ましく、とりわけ、3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0016】
本発明の導電性高分子製造用酸化剤を用いて導電性高分子を製造するには、まず、上記特定の有機スルホン酸第二鉄塩からなる導電性高分子製造用酸化剤と、原料モノマーとを、それぞれ有機溶媒で特定濃度になるようにあらかじめ溶解しておき、それらの溶液同士を混合して原料モノマーを一定時間酸化重合させた後、洗浄、乾燥することによって、導電性高分子を製造することができる。上記重合にあたって用いる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどが挙げられ、洗浄の際にも上記溶媒のいずれかを用いればよい。上記導電性高分子の製造時、本発明の有機スルホン酸第二鉄塩からなる酸化剤は、原料モノマーを酸化重合させる酸化剤として作用するが、その有機スルホン酸第二鉄塩を構成する有機スルホン酸は、得られる高分子のマトリックス中にドーパントとして導入され、得られる高分子の導電性を高める作用をする。
【0017】
上記のようにして製造された導電性高分子は、導電度が高く、耐熱性が優れていて、例えば、コンデンサー、バッテリー、帯電防止シート、耐腐食用塗料などの用途において有用に使用できる。
【実施例】
【0018】
つぎに、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
実施例1〜3および比較例1〜3
室温下、1000mlの蒸留水にFe(SO・8HOを108.6g(0.2mol)溶解した溶液中に、この溶液を激しく攪拌しながら、濃度が5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと添加してpH7に調整した後、遠心分離により上澄みを取り除いて水酸化第二鉄の沈殿物を得た。そして、余分の水溶性塩を取り除くため、4000mlの蒸留水に上記水酸化第二鉄の沈殿物を分散させた後、遠心分離で上澄みを取り除く操作を2回繰り返した。得られた水酸化第二鉄の沈殿物を500gのノルマルブタノールに分散させた。
【0020】
上記とは別に、表1に示す各有機スルホン酸をあらかじめ500gのノルマルブタノールにそれぞれ溶解しておき、その溶液中に上記水酸化第二鉄の分散液を添加し、室温下、12時間かき混ぜて反応させた後、蒸留してそれぞれ濃度40質量%のスルホン酸第二鉄塩のノルマルブタノール溶液を得た。上記スルホン酸第二鉄塩における使用有機スルホン酸の種類および量、導電性高分子製造用酸化剤を構成する有機スルホン酸第二鉄塩における有機スルホン酸と3価の鉄との当量比を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
試験例1
前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られたそれぞれのスルホン酸第二鉄塩溶液と、3,4−エチレンジオキシチオフェンとを、あらかじめそれぞれノルマルブタノールに濃度が0.5mol/lになるように溶解させた。室温下、内容積5mlの密栓付きバイアル瓶中で、上記2種のノルマルブタノール溶液をそれぞれ250μlずつ混合し、充分にかき混ぜて、それぞれのスルホン酸第二鉄塩を酸化剤として、3,4−エチレンジオキシチオフェンの酸化重合を開始させ、それをそれぞれ直ちに3cm×5cmのセラミックプレート上に15μl滴下した。湿度約30%、温度20℃で48時間放置して酸化重合を進行させた後、エタノール中に上記プレートを入れ洗浄し、その後、50℃で30分間乾燥した。乾燥後、得られたポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンのシートについて、4探針方式の電導度測定器〔三菱化学社製のMCP−T600(商品名)〕で電導度を測定した。その結果を表2に使用した酸化剤(スルホン酸第二鉄塩)の実施例番号および比較例番号と共に示す。なお、実施例の酸化剤を用いて酸化重合して得られた試料(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン)はA系統で示し、比較例の酸化剤を用いて酸化重合して得られた試料(ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン)はB系統で示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示すように、実施例1〜3の酸化剤を用いて酸化重合することにより得られた試料記号A−1〜A−3のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンは、比較例1〜3の酸化剤を用いて酸化重合することにより得られた試料記号B−1〜B−3のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンより、電導度が高かった。すなわち、酸化剤を構成する有機スルホン酸第二鉄塩における有機スルホン酸と3価の鉄との当量比において、化学量論的に3価の鉄が有機スルホン酸に対して過剰の有機スルホン酸第二鉄塩からなる実施例1〜3の酸化剤を用いて製造したポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンは、有機スルホン酸と3価の鉄との当量比が化学量論的に等量の有機スルホン酸第二鉄塩からなる比較例1や比較例3の酸化剤を用いて製造したポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンや化学量論的に3価の鉄が有機スルホン酸より少ない有機スルホン酸第二鉄塩からなる比較例2の酸化剤を用いて製造したポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンより、高い電導度を有していた。
【0025】
試験例2
試験例1で得られたポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンのシートについて、それぞれ電導度を測定した後、各シートを130℃の高温槽中に放置し、経時的にシートを取り出して電導度を測定して、電導度の低下率を調べた。その結果を表3に示す。なお、電導度の低下率は、下記の式に示すように、初期電導度値(試験例1で測定した電導度値)から経時後の電導度値を引き、その電導度差を初期電導度値で割り、それをパーセント(%)表示したものである。
【数1】

【0026】
つまり、電導度の低下率は、それぞれのポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンシートの電導度が高温下での放置により初期電導度からどの程度低下したかを示すものである。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に示すように、実施例1〜3の酸化剤を用いて3,4−エチレンジオキシチオフェンを酸化重合することにより得られたポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンは、高温での耐経時性においても電導度の低下が少なく、耐熱性が優れていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機スルホン酸第二鉄塩からなる導電性高分子製造用酸化剤であって、該有機スルホン酸第二鉄塩が化学量論的に第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有していて、上記有機スルホン酸塩と第二鉄塩との当量比が1:1.02〜1:1.5であることを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤。
【請求項2】
導電性高分子を生成するための原料モノマーが、チオフェンおよびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の複素五員環化合物である請求項1記載の導電性高分子製造用酸化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機スルホン酸第二鉄塩からなる導電性高分子製造用酸化剤を製造する方法であって、
硫酸第二鉄と有機スルホン酸とを出発物質とし、有機スルホン酸1当量に対して第二鉄が1.02〜1.5当量になる比率で、溶媒中で反応させることによって、有機スルホン酸と第二鉄との当量比が1:1.02〜1:1.5と、化学量論的に第二鉄を有機スルホン酸より過剰に含有するように前記有機スルホン酸第二鉄塩を合成することを特徴とする導電性高分子製造用酸化剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−63585(P2008−63585A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288013(P2007−288013)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【分割の表示】特願2000−334145(P2000−334145)の分割
【原出願日】平成12年11月1日(2000.11.1)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】