説明

導電材料

【課題】本発明は、安定した抵抗比を維持しながら、機械的強度を向上させた抵抗線やセンサ等に使用する導電材料を得る。
【解決手段】PtにSrが、400〜10000ppmを含有、残部を不可避不純物とし、Pt中にPtとSrが金属間化合物相として分散、析出していることを特徴とする抵抗線やセンサ等に使用する導電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した抵抗比を維持しながら、機械的強度を向上させた抵抗体やセンサ等に使用する導電材料の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、一酸化炭素やブタン等の可燃性ガス用ガスセンサに使用される抵抗加熱により触媒を加熱しながら、抵抗の変化により検知する導電材料や、サーミスタや固体電解質を利用した酸素センサ、一酸化炭素や窒素酸化物等のガスセンサ用リード、半導体ガスセンサ用リードは、高温で安定した抵抗が求められ、PtやPt-Rh合金等の固溶による機械的強度の向上が図られた導電材料が使用されてきた。このような導電材料は高温大気中でも著しい酸化をせず安定した耐食性を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した用途で用いられる導電材料には、優れた耐食性および使用される温度での安定した抵抗が求められる。このような導電材料は、線材、蒸着やスパッタリング法等で作製された薄膜、ペースト等で印刷し焼成された膜などの形態で使用される。この中で、線材として使用される場合、一定以上の機械的強度が求められる。さらに用途によっては径がφ50μm以下の線材で使用されており、耐食性、耐熱性、耐酸化性のみならず、良好な加工性が求められる。これらの要求を満たすため、PtやPt-Rh合金等が使用されている。
【0004】
しかしながら、Ptは機械的強度が低く、また工程中に高温領域下での加熱がある場合、結晶粒が粗大化し、工程中で曲げ加工等が行われると、粒界から破断するといった問題がある。
またPtにRh等を添加し、機械的強度を上げる場合もあるが、蒸気圧の違いから、組成変動が生じ、抵抗が変わるといった現象があり、抵抗変化が重要視される用途では使用できないといった問題がある。
添加元素も酸化しにくいものに限られ、例えばRhといったPtよりも高価な元素を使用しなければならない。
また固溶強化の場合、結晶粒の粗大化を抑制する効果が小さく、工程中1500℃以上の高温に晒される場合、Ptとほとんど変わらない程度まで粗大化し、粒界から破壊する場合がある。
このため、酸化物等を分散させた材料も使用されているが、50μm以下の極細線加工が難しく、PtやPt合金と比べると延性が小さい等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、PtにSrを400〜10000ppm含有し、残部を不可避不純物とし、Ptマトリックス中にPtとSrとの金属間化合物を分散、析出させたことを特徴とする導電材料を見出した。
【0006】
なお、Srの添加量が400ppm未満だと、PtとSrが十分に金属間化合物として析出せず、機械的強度が弱くなる。また、Srの添加量が10000ppmを超えると、加工性が低下し、加工中に割れや破断が起き、極細線(線径が50μm以下)に加工できない。そこで、Srの添加量を400〜10000ppmとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電材料は、抵抗比が安定でなおかつ高温での機械的強度が高く、結晶粒の粗大化を抑制し、加工性に優れている。しかも、耐酸化性、耐食性を有しており、1500℃以上の高温に晒される場合でも表面が全面的に酸化膜で覆われることがない。
このような導電材料は、例えば、温度係数を利用した抵抗線や、酸素センサ等高温で安定した抵抗が求められるリード線等に使用することができる。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【0009】
表1に、実施例1〜4、比較例1〜2、従来例1〜2の各試料の成分組成を示す。
表1に示す各成分組成のPtおよびPt合金を、アルゴンガス雰囲気中にて溶融、鋳型に鋳造したインゴットを鍛造、伸線の加工を行い、加工性、機械的強度、抵抗比を調査した。
加工性および機械的強度の調査結果を表2に示す。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
表2に示すように、実施例はいずれもφ30μmの伸線が可能である。
また従来例1のPtと比較して、各実施例の引張強さは、室温で1.3倍以上、600℃では2倍以上の強さとなり、十分な引張強度を有している。
またSrが3000ppm以上(実施例3,4)だと、従来例2のPtRh合金と同程度以上の引張強度を有する。
【0013】
抵抗比 [R100/R0=100℃での抵抗/0℃での抵抗、以下略]
の安定性の確認のために、実施例1〜4を大気中600℃、500時間、熱処理し、熱処理前後の抵抗比の変化率を調査した。
抵抗比の変化率は式1から算出した。
【0014】
式1: 抵抗比の変化率(%)
= [熱処理前の抵抗比*2−熱処理後の抵抗比]/熱処理前の抵抗比×100
*2: 熱処理前条件 φ0.3mm×1000mm線、1100℃×1hr熱処理後測定
【0015】
結果を表3に示す。
【0016】
【表3】

【0017】
600℃はセンサで使用される温度域としては高温であるが、実施例1〜4ともに500時間熱処理を加えても大きな抵抗比変化はなく、良好な結果となった。
【0018】
導電材料を線材で使用する場合、結晶粒径が粗いと結晶粒界に沿って破壊することが多く、結晶粒は細かいものが求められている。
そこで、表1の試料の1550℃×1hr熱処理後の平均結晶粒径を調べた。試料はφ0.3mmの線とした。
平均結晶粒径の求め方は、式2に示す。
【0019】
式2: D=2×〔A/[π(μ1+(μ2/2))]〕0.5
D:平均結晶粒径
A:測定面積
μ1:測定面積内に存在する測定端部に接していない結晶粒の個数
μ2:測定面積内に存在する測定端部に接している結晶粒の個数
【0020】
結果を表4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
表4に示すように、実施例では、熱処理後の平均結晶粒径はいずれも100μm未満を示し、結晶粒の粗大化の抑制効果が認められた。
比較例1は、従来例よりも結晶粒の粗大化は抑制しているが、実施例ほどの効果は得られなかった。
従来例は、Rhの有無にかかわらず、粗大化しており、観察箇所によっては、線を貫通する粒界も存在していた。
【0023】
X線回折によりPt以外のピークを調査し、析出物の存在を確認した。
結果を表5に示す。
【0024】
【表5】

【0025】
実施例ではPt以外にPt5Sr等の金属間化合物のピークが確認でき、析出相の存在が確認できた。
比較例ではPt以外のピークが確認できなかった。
【0026】
図1に実施例3のEPMAによる面分析結果を示す。
図1に示すように、Srの面分析から1μm程度および数100nm程度のSr析出物の確認ができた。
【0027】
以上説明した本発明は、PtにSrを400〜10000ppm含有させたPt合金より構成されていることを特徴とし、またPt中にPtとSrの金属間化合物相が分散、析出していることを特徴とし、これにより、抵抗線やセンサ等に使用する導電材料であって、安定した抵抗比の温度係数を利用する導電材料を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る導電材料の用途は特に限定されないが、例えば、下記のヒーター、抵抗体、リードを構成する導電体用の材料として用いることができる。
(1)ヒーター
(2)測温抵抗体
(3)一酸化炭素および可燃性ガスセンサ用ヒーター及び測温抵抗体
(4)サーミスタ用リード
(5)固体電解質ガスセンサ用リード
(6)半導体ガスセンサ用リード
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例3のEPMAによる面分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PtにSrを400〜10000ppm含有し、残部を不可避不純物とし、Pt中にPtとSrが金属間化合物相として分散、析出していることを特徴とする導電材料。
【請求項2】
請求項1記載の導電材料から成ることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれか記載の導電体。
(1)ヒーター
(2)測温抵抗体
(3)一酸化炭素および可燃性ガスセンサ用ヒーター及び測温抵抗体
(4)サーミスタ用リード
(5)固体電解質ガスセンサ用リード
(6)半導体ガスセンサ用リード

【図1】
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