説明

小型エンジンの始動装置

【課題】組立工数とコストの削減が達成でき、信頼性も高い小型エンジンの始動装置
【解決手段】小型エンジンの始動装置において、ドライブギア8を、互いの側面に形成されたラチェット爪14、15を介して係脱するリコイルスタータ用ロープリール1に連結可能とする一方、減速歯車23、24を介してセルモータ3に連結可能とするとともに、減速歯車23、24のうち上記ドライブギア8に直接に噛合する減速歯車24を小径ギア部24aと大径ギア部24bとに分割して同軸上に配置し、小径ギア部と大径ギア部の向き合う側面に一方向にのみ係合する係合爪27、28を形成し、上記小径ギア部と大径ギア部の両側面が互いに当接するように付勢した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型エンジンの始動装置として用いられる電動のセルモータとロープリールに巻き付けたスタータロープを牽引するリコイルスタータを組み合わせた小型エンジンの始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルモータによる始動機構とロープリールによる始動機構とを組み合わせる場合、セルモータによる伝達系とロープリールによる伝達系とを選択的に切り替える必要がある。そこで、従来は、セルモータに連結される減速歯車のうちロープリールによる伝達系に最も近い減速歯車にワンウェイニードルベアリングによるワンウエイクラッチ付き減速歯車を採用したものが知られている。これにより、セルモータ始動の際にはエンジンの出力軸に回転力を伝達するように連結し、ロープリールによるリコイル始動の際にはリコイルロープの牽引による伝達系と遮断するものである。そして、上記ワンウエイクラッチ付き減速歯車は、ワンウェイニードルベアリングを減速歯車の軸孔に圧入して使用している。
【特許文献1】特許第2521096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ワンウェイニードルベアリングを減速歯車の軸孔に圧入する作業は、圧入する軸と圧入される軸孔とに高い寸法精度が要求され、また硬さが必要なので、場合によっては焼入れしなければならず、ベアリング自体のコストも高いという問題があった。さらに、ワンウェイニードルベアリングは、悪環境下では、トルク伝達の回転方向でも空転する場合が稀に発生する。例えば、ワンウェイニードルベアリングの使用許容温度の最低が−10℃であり、許容温度を超える低温では、ワンウェイニードルベアリングの滑りが発生し、力が伝達されなくなる現象が生じる。さらに、ワンウェイニードルベアリングでは傾いた状態で使用されると、ラジアル方向に荷重がかかり、力が局部に集中するため、壊れやすく、信頼性の点でも問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点を解消し、組立工数とコストの削減が達成でき、また信頼性も高い小型エンジンの始動装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、スタータケースの内部に、エンジンのクランクシャフトに固定されたプーリの遠心ラチェットと係合するカム爪を有する筒状カムと、該筒状カムにダンパスプリングを介して連結するドライブギアとを同軸上に配置した小型エンジンの始動装置において、上記ドライブギアを、互いの側面に形成されたラチェット爪を介して係脱するリコイルスタータ用ロープリールに連結可能とする一方、少なくとも2個の減速歯車を介してセルモータに連結可能とするとともに、上記減速歯車のうち上記ドライブギアに噛合する減速歯車を小径ギア部と大径ギア部とに分割して同軸上に配置し、小径ギア部と大径ギア部の向き合う側面に一方向にのみ係合する係合爪を形成し、上記小径ギア部と大径ギア部とを上記両側面が互いに当接するようにバネ付勢したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明によれば、セルモータを回転させるときはドライブギアに噛合する減速歯車の小径ギア部と大径ギア部の互いに向き合う側面に形成された係合凸部が係合するようにすれば、セルモータの回転はドライブギアに伝達され、さらに筒状カムを経てプーリに伝達されてエンジンが回転する。このとき、ドライブギアとロープリールとは互いのラチェット爪が係合しないように設定することにより、ロープリールにはセルモータの回転は伝達されない。
【0007】
これに対し、ロープリールを回転させるときはドライブギアとロープリールとは互いのラチェット爪が係合するので、ロープリールの回転はドライブギアに伝達され、さらに筒状カムを経てプーリに伝達されてエンジンが回転する。このとき、ドライブギアに噛合する減速歯車の小径ギア部に上記回転は伝達されるが、小径ギア部と大径ギア部の係合爪同士は係合しないように設定することにより、減速比の関係から、大径ギア部は、噛合する別の減速歯車を回転させることはできない。このため、大径ギア部は回転軸上を圧縮バネに抗して小径ギア部から離反するように移動する。したがって、ドライブギアの回転力は大径ギアには伝達されないから、セルモータにはロープリールの回転は伝達されない。
【0008】
このように、係合爪の係脱によってワンウエイ機構が構成されているとともに、減速歯車は少なくとも2個設けられており、そのうちドライブギアに噛合する減速歯車を小径ギア部と大径ギア部の2つに分割する構成としたため、大径ギア部は直接に噛合連結されるセルモータ側の減速歯車の小径ギアを回転させることになり、減速比が大きいので、大径ギア部は直接連結する小径ギアを回転するには大きなトルクが必要となり、大径ギア部は小径ギア部の係合爪に押し出されて小径ギア部から離反するので、小径ギア部は空転し、その回転力は大径ギア部には伝達されずに遮断される。したがって、回転は確実に伝達され又は遮断されるから、エンジンはセルモータ始動又はリコイル始動のいずれかに確実に切り替えられる。
【0009】
このように、上記小径ギア部と大径ギア部は安価であり、ともに支軸に回転自在に支持されていればよく、支軸を圧入する必要はないほか、寸法精度が要求されることもなく、また焼入れなどの必要もないので、組立工数とコストを削減することができる。
【0010】
また、低温時でも力が伝達されなくなるという現象は生じにくく、低温特性は向上した。さらに、上記小径ギア部と大径ギア部にラジアル方向に荷重がかかっても、トルクの伝達は十分に行われ、信頼性は格段に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。図1および図2において、小型エンジンの始動装置は、ロープリール1に巻き付けたスタータロープ2を牽引するリコイルスタータと電動のセルモータ3とを組み合わせたもので、スタータケース4の一側にはエンジンのクランクシャフトに固定されたプーリ5が取り付けられ、スタータケース4には、上記プーリ5と同軸上に支軸6が形成され、この支軸6には上記プーリ5と係合可能な筒状カム7と、該筒状カム7にダンパスプリング11(渦巻きバネ)を介して作動連結するドライブギア8とが回動自在に配置されている。
【0012】
カム7はドライブギア8のプーリ5側に配置され、カム7に形成されたカム爪10はプーリ5の側面に設けられた遠心ラチェット9と係止するように相対している。遠心ラチェット9はバネ12によって常にカム7と係止するように付勢されている。これにより、前述の特許文献1と同様に、カム7が一方向に回転するときは遠心ラチェット9がカム爪10と係合するのでプーリ5が回転し、反対方向に回転するときはカムは空転してプーリ5は回転しないようになっている。プーリ5が回転してエンジンが回転し、これによりプーリ5がエンジンにより回転されたときは、遠心力により遠心ラチェット9がカム爪10と離脱する方向に回動してエンジン側とカム7側との回転伝達が遮断されるように構成されている。
【0013】
また、ドライブギア8のギア部のカム7側には環状凹部13が形成され、該環状凹部13にはダンパスプリング11が配置されている。このダンパスプリング11の一端はドライブギア8に、他端はカム7に係止している。これにより、ドライブギア8が回転すると、ダンパスプリング11が巻き上げられて回転力はダンパスプリング11に蓄力され、蓄力が一定以上になるとカム7が回転するようになっている。なお、ドライブギア8のカム7と反対側の側面には爪14、15が形成されている。
【0014】
次に、リコイル始動とモータ始動はいずれも上記ドライブギア8を回転させるように構成されている。
【0015】
リコイル始動による回転の伝達機構は次のような構成になっている。すなわち、上記ドライブギア8の支軸6には、上記カム7と反対側にロープリール1が回転自在に支持されている。ロープリール1の外周側にはロープ収納溝16が形成され、内周側には円板収納部17が形成されている。ロープ収納溝16にはスタータロープ2が巻き回され、その一端2aはスタータケース4外へ引き出され、基部側の端部はロープリール1に抜けないように上記収納溝16の底部の穴(図示せず)から外に出て留められている。上記一端を引っ張ることによりスタータロープ2がロープリール1から引き出されてロープリール1がリール支軸6を中心として回転駆動される。円板収納部17には、上記ドライブギア8のラチェット爪14と係脱するラチェット爪15を備えた円板19が支軸6の軸方向に沿って移動可能に設けられ、圧縮バネ18によって常時ドライブギア8のラチェット爪14と係合するように付勢されている。円板19はロープリール1の内周側の筒部1aに沿って移動可能に設けられている。
【0016】
次に、セルモータ3によるドライブギア8への回転伝達機構は2個の減速歯車によって構成されている。すなわち、(バッテリで駆動される)セルモータ3の出力軸21のギア22には第1の減速歯車23が噛合連結され、第1の減速歯車23の小径ギア部23aには第2の減速歯車24が噛合連結され、さらに第2の減速歯車24はドライブギア8の外周のギア25に噛合している。そして、ドライブギア8に噛合する第2の減速歯車24は、小径ギア部24aと大径ギア部24bとに分割され、共通の回転軸26に回転自在に支持されている。小径ギア部24aはドライブギア8に噛合し、大径ギア部24bは第1の減速歯車23の小径ギア部23aに噛合している。なお、大径ギア部23bは上記回転軸26に沿って移動して小径ギア部23aに対して接離可能に配置されている。
【0017】
ところで、上記小径ギア部24aと大径ギア部24bの向き合う側面には、それぞれ3個の係合爪27、28が形成されている。これらの各係合爪27、28は図3(a)(b)および図4(a)(b)に示されるように、それぞれ円周方向の一方の面は傾斜し、他方の面は側面に対して垂直に形成されている。そして、図5に示されるように、両係合爪27、28は一方向に回転するときには垂直面同士が係合して両ギア部が回転し、反対側に回転するときは図6に示されるように、傾斜面同士の当りとなって係合せずに一方のギア部は空転するように形成されている。また、スタータケース4と大径ギア部24bとの間には圧縮バネ29が配置され、この圧縮バネ29により大径ギア部24bは小径ギア部24a側に押圧され、大径ギア部24bと小径ギア部24aの両側面は互いに当接するように付勢されている。
【0018】
次に、上記構成の始動装置の作動態様について説明する。
【0019】
リコイル始動をさせるときは、スタータロープ2を牽引してロープリール1を回転させると、図7に示されるように、圧縮バネ18により円板19のラチェット爪15とドライブギア8のラチェット爪14は係合するように付勢されているのでドライブギア8が回転する。ドライブギア8が回転するとエンジンの始動抵抗により回転負荷が増大してカム7の負荷が大きくなるので、ダンパスプリング11が巻き締まる。ダンパスプリング11が巻き上げられて回転力はダンパスプリング11に蓄力され、蓄力が一定以上になるとカム7が一気に回転する。カム7のカム爪10はプーリ5の遠心ラチェット9に常に係合するように付勢されているから、カム7の一方向の回転によってプーリ5が回転し、さらにプーリ5に連結されているエンジンが始動する。
【0020】
ところで、リコイル始動のとき、上記ドライブギア8が回転すると、この回転は上記第2の減速歯車24の小径ギア部24aにも伝達されるから、小径ギア部24aも回転する。しかしながら、この回転方向の場合は、図5および図7に示されるように、小径ギア部24aと大径ギア部24bの係合爪27、28同士は傾斜面同士が当って乗り越えてしまうので、互いに係合することができず、また減速比の関係から、大径ギア部24bを回転させるトルクは、圧縮バネ29のバネ力よりも大きいので、大径ギア部24bはロックされるとともに上記圧縮バネ29に抗して回転軸26上を小径ギア部24aから離反するように移動する。このため、小径ギア部24aのみが空転し、ドライブギア8の回転力は大径ギア部24bには伝達されない。
【0021】
なお、始動したエンジンによりプーリ5が回転されたときは、その回転に伴う遠心力により遠心ラチェット9がカム爪10と離脱する方向に回動してエンジン側とカム7側との回転伝達が遮断される。そして、円板19は圧縮バネ18の復元力によって図2に示す原位置に戻り、ラチェット爪14、15は離反する。
【0022】
次に、モータ始動するときは、バッテリからセルモータ3に給電する。これにより、その回転力は出力軸21に固定されたギア22から第1の減速歯車23を介して第2の減速歯車24の大径ギア部24bに伝達される。大径ギア部24bは圧縮バネ29によって小径ギア部24aに押し当てられており、また大径ギア部24bが回転すると、この回転方向では図2のように小径ギア部24aと大径ギア部24bの係合爪27、28同士が係合するので、小径ギア部24aも回転し、この回転力はドライブギア8に伝達される。ドライブギア8が回転するとエンジンの始動抵抗により回転負荷が増大してカム7の負荷が大きくなるので、ダンパスプリング11が巻き締まる。ダンパスプリング11が巻き上げられて回転力はダンパスプリング11に蓄力され、蓄力が一定以上になるとカム7が一気に回転する。カム7のカム爪10はプーリ5の遠心ラチェット9に常に係合するように付勢されているから、カム7の一方向の回転によってプーリ5が回転し、さらにプーリ5に連結されているエンジンが始動する。
【0023】
このように、モータ始動において、ドライブギア8が上述のように回転したときは、その回転方向では図2および図5に示されるように、ドライブギア8のラチェット爪14とロープリール1の円板19のラチェット爪15は傾斜面同士が当り、圧縮バネ18に抗して乗り越え、係合しないので切り離され、ドライブギア8の回転力はロープリール1には伝達されない。
【0024】
上述のように、係合爪27、28の係脱によってワンウエイ機構が構成されているので、ロープリール又はセルモータの回転は所定の伝達系に確実に伝達される。したがって、エンジンはセルモータ3始動又はリコイル始動のいずれかが選択的に行われることになる。
【0025】
また、上記小径ギア部24aと大径ギア部24bは安価であり、ともに支軸6に回転自在に支持されていればよく、支軸6を圧入する必要はないほか、寸法精度が要求されることもなく、また焼入れなどの必要もないので、組立工数とコストを削減することができる。
【0026】
また、低温時でも力が伝達されなくなるという現象は生じにくく、低温特性は向上した。さらに、上記小径ギア部24aと大径ギア部24bにラジアル方向に荷重がかかっても、トルクの伝達は十分に行われ、信頼性は格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るスタータの正面図である。
【図2】上記スタータの縦断側面図である。
【図3】(a)(b)はそれぞれ小径ギア部の正面図およびa−a線上の断面図である。
【図4】(a)(b)はそれぞれ小径ギア部の正面図およびb−b線上の断面図である。
【図5】小径ギア部と大径ギア部の係合爪同士が係合しない状態を示す断面図である。
【図6】小径ギア部と大径ギア部の係合爪同士が係合した状態を示す断面図である。
【図7】リコイル始動時のスタータの縦断側面図である。
【符号の説明】
【0028】
3 セルモータ
4 スタータケース
1 ロープリール
6 リール支軸
7 カム
23 第1の減速歯車
24 第2の減速歯車
27、28 係合爪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータケースの内部に、エンジンのクランクシャフトに固定されたプーリの遠心ラチェットと係合するカム爪を有する筒状カムと、該筒状カムにダンパスプリングを介して連結するドライブギアとを同軸上に配置した小型エンジンの始動装置において、
上記ドライブギアを、互いの側面に形成されたラチェット爪を介して係脱するリコイルスタータ用ロープリールに連結可能とする一方、少なくとも2個の減速歯車を介してセルモータに連結可能とするとともに、
上記減速歯車のうち上記ドライブギアに噛合する減速歯車を小径ギア部と大径ギア部とに分割して同軸上に配置し、小径ギア部と大径ギア部の向き合う側面に一方向にのみ係合する係合爪を形成し、上記小径ギア部と大径ギア部とを上記両側面が互いに当接するように付勢した
ことを特徴とする小型エンジンの始動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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