説明

小型船用推進性能向上装置

【課題】プロペラの前方域でプロペラ軸の略真横から上方域でボッシングから複数のフィンが放射状に張り出して構成され、該フィンにはプロペラの前進回転(船体が前進航海しているときのプロペラの回転方向)と同一方向若しくは逆方に水の流れを変えるべくひねりが施されてなる小型船用の船体振動低減装置において、上記フィンのひねりがプロペラ前進回転方向と逆向きに水の流れを変えるべくひねりが施された場合は推進性能も向上されるので特別な理由が無い限りこの方法で対処されるが、その場合において最適な推進性能向上装置を提供する。
【解決手段】小型船用推進性能向上装置において、プロペラ前進回転のとき翼が上昇する舷側と船体中心線上のみにフィン15,16を設置し、且つフィンの後端の背面側に楔型断面形状を有する後縁材を設け、更にフィンの直径をプロペラ直径の60%以上110%以内に限定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型船における推進性能向上装置関するものである。
【背景技術】
【0002】
(図1)に従来の小型船の船尾部側面図を示す。(図2)に(図1)におけるII−II断面矢図示している。従来考案されている小型船用の推進性能向上装置は(図1)及び(図2)に示す通り船体1の後端部にスターンフレーム2が設けられ、それの上下方向の略中央部にボッシング3が設けられおり、該ボッシング3を貫通してプロペラ軸5が回転可能に設けられ、その後端にプロペラ4が設けられている。尚、プロペラ軸4の前端は図示省略の船内設置の主機に連結されている。また、スターンフレーム2の上方部にはラダーホーン6が設けられ、該ラダーホーン6には舵7がもうけられている。またボッシング3において、プロペラ軸5の軸芯SLの略真横より上方域のみに放射状に突出してフィン8,9,10,11,12がそれぞれボッシング3に固着して設けられている。その際5枚の該フィン8,9,10,11,12はそれぞれ、プロペラ4の前進回転方向(船体が前進航海しているときの回転方向)と逆方向に水の流れを変更で出来るように、ひねりが施されている。尚5枚のフィンのひねり角の大きさは夫々異なって施されている。(図1)中のDPはプロペラ4の直径を表し、(図2)中CLは船体1の中心線を表しSLはプロペラ軸5の軸芯において船体中心線CLと直交する線を表し、DFはフィン8,9,10,11,12の直径(プロペラ軸5の芯を中心として該当フィンの先端を通る円弧RFの直径)を表す。
【0003】
従来考案されている小型船用の推進性能向上装置(実用新案第3093097号、船舶の振動低減装置)はプロペラ起振力を低減させて船体振動を軽減することを主目的に考案されていることから、フィン8,9,10,11,12のひねりの方向については特に限定されず、夫々プロペラ4の前進回転方向と同一方向、又は逆方向に水の流れを変更可能なるようなひねりで有れば何れでも良いが、一般に特別に限定されない場合はプロペラ4の前進回転方向と逆方向に水の流れを変えるべくひねりが施された場合の装置が採用される。その装置が設置された船体が前進航海している場合、船尾部の水の流れはフィン8,9,10,11,12の作用によってプロペラ4の回転方向と逆向きに変更されてプロペラ4に送り込まれる。その結果、推進性能向上のみについて述べれば、プロペラ4の後方に発生する回転流(プロペラ回転方向と同一方向の渦流)が減少されることから、その減少エネルギー分だけ推進効率が向上される。尚、就航船で所謂プロペラのピッチが過小で回り過ぎて軽い場合の対策としてプロペラ4の前進回転と同一方向に水の流れを変えるべくひねりが施された装置が採用されるが、この場合は推進性能が低下される。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来考案の小型船用推進性能向上装置は主として船体振動低減効果を得る目的の装置であり、上述の通り、フィンのひねりをプロペラ4の前進回転方向と逆方向に水の流れを変えるように施して推進性能向上効果も同時に得られる装置とした場合、推進性能向上効果を主として得るには必ずしも最適な装置とは言えない面がある。具体的には従来考案のフィン8,9,10,11,12は(図1)、(図2)に示しているようにフィン直径DFがプロペラ直径DPと略同一に構成されており、更にボッシング3の横から上方域に左右舷の夫々2枚、船体中心線CLに1枚設けられている。更に、該フィンの断面形状も略流線型の形状が採用されるなど、縷々配慮されてはいるが、必ずしも有効な装置の構成と言えない問題点を有している。
【問題を解決するための手段】
【0005】
そのため本発明は上記従来の装置における推進性能向上効果を主目的とした装置について、簡素な構成で従来並の推進性能向上効果を得るべく提案されたものであり、有効なフィン直径をはじめ、フィンの取付位置と数量、フィンの後縁の形状などについて提案され、上記フィン直径をプロペラ直径の60%以上110%以内に限定したことを特徴とし、且つフィンの取付位置は少なくともプロペラが前進回転しているときプロペラ翼が上昇する舷側と船体中心線に設置することを特徴とし、更にフィンの後縁の背面側に楔型断面を有する後縁材を設けたことを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面により本発明の第一実施例の小型船用推進性能向上装置について説明する。(図3)は船尾部の船体側面図であり、(図4)は(図3)におけるIV−IV断面矢視図である。図中従来のものと同一番号、符号のものは同一構成部材を示すので説明は省略する。フィン13,14はプロペラ4が前進回転しているとき、プロペラ翼が上昇する舷においてボッシング3から張り出して設置され、フィン16はその反対舷側に設置され、フィン15は船体中心線CL上に設置されている。その際、フィン13,14、15、16はプロペラ4の前進回転方向と逆向きの水の流れを変えるようなひねりが施されている。本案の場合は(図3)、(図4)に示す通りプロペラ4が前進回転しているときプロペラ翼が下降する舷側において、略真横に張り出すフィンが削除された構成となっている。
【0007】
上記第一実施例に示す装置を設置した船体1が前進航海しているとき、船尾部の水の流れはフィン13,14,15,16の作用によってプロペラ4回転方向と逆向きに変えられてプロペラ4に送り込まれるのでプロペラ4の後方に発生する回転と同一方向の回転渦流が減少される。その為に回転渦エネルギーが減少された分、推進効率が向上される。発明者が長さ約125mのタンカー船型において本案の装置を設置して模型における水槽試験で推進性能の調査を行った結果によれは、(図1)、(図2)に示す従来の装置に対して推進性能向上効果は僅か1%程度の低下に留まることが確認された。上述の通り従来の装置からプロペラが前進回転の際のプロペラ翼が下降する舷側の略真横に張り出すフィンは省略した場合においても従来のものと大差無い推進性能向上効果が得られており産業上有効な装置である。
【0008】
本発明の第二実施例として(図5)、(図6)により説明する。(図5)は船尾部の側面図であり、(図6)は(図5)におけるVI−VI断面矢視図を示す。図中、従来のものと同一番号、符号のものは同一構成部材である為に説明は省略する。フィン17、18、はプロペラ4が前進回転のときプロペラ翼が上昇する舷側においてボッシング3より張り出して設置され、フィン19は船体中心線CL上の設置されている。その際、フィン17,18,19はプロペラ4の前進回転方向と逆向きに水の流れを変えるようなひねりが施されている。上述の通り本案の場合は(図1)、(図2)に示す従来の装置に対してプロペラ4が前進回転のときプロペラ翼が下降する舷側においてはフィンが設けられない装置の構成となっている。
【0009】
本発明の第二実施例の装置を設置した船体1が航海しているとき、船尾部の水の流れはプロペラ4の回転方向と逆向きに変えられてプロペラ4に送り込まれる。その結果、プロペラ4の後方に発生する回転渦流が減少されて、その分に相当するエネルギーが減少することで推進効率は向上する。発明者が長さ約125mのタンカー船型において本案の装置を模型船に設置して水槽試験により推進性能向上効果の調査を実施した結果、従来の装置を設置した場合に比べて約2.5%の低下の留まる性能が示されて本案の有効性が示されており、産業上有効な装置である。
【0010】
本発明の第三実施例として(図7)、(図8)に示す。(図7)は本実施例の構成の相違を説明する為の図であり、(図2)のVII−VII断面矢視断面図を示し、(図8)も同様(図2)のVII−VII断面矢視断面図を示す。従来のフィン9の断面図を表す(図7)の図中、矢印は流れの方向を示し、迎角はフィン9に当たる流れの角度を表す。フィン9の背面、前面、前端、後端は夫々図中に表示している。また本発明の断面図を表す(図8)における矢印および名称表示は上記同様である。(図8)に示す通り、本案は従来のフィン9の後端部の背面側に後縁材20が設置された構成となっている。尚、後縁材20の断面形状は楔型を有してフィンの根元から先端まで通して設けられている。
尚、他のフィン8,10,11,12においてもフィン9の場合と同様に後縁材20が施されている。
【0011】
上記、後縁材20が設けられたフィンにより構成された装置が設置された船体1が前進航海しているとき、船尾部の流れは上記フィンの作用によりプロペラ4の回転方向と逆向きに変えられてプロペラ4に送り込まれる。その為にプロペラ4の後方に発生する回転渦流が減少されて、それに相当するエネルギー分だけ推進性能は向上される。本発明の小型船用推進性能向上装置における推進性能向上のメカニズムは、プロペラ後流の回転流を減少させることによるエネルギー減少効果分からフィン自体の固有抵抗増加によるエネルギー分を控除されたものとなるが、上記の後縁材20の作用によりフィンの固有抵抗が減少するので、その分、推進性能が向上されることになる。
【0012】
本発明の第四実施例としてはフィンの直径について限定したものである。(図2)に示すフィンの直系DFについては、従来のものは(図1)に示す通りプロペラ4の直径DPと略同一に構成されているが、フィンの直径DFとプロペラ直径DPの割合に対する推進性能向上効果の関係を表す性能曲線図を(図9)に示している。この性能図は発明者が長さ約125mのタンカー船型を対象とする小型船用推進性能向上装置を設置して模型船による水槽試験において、フィンの直径DFを順次小さくした場合の推進性能向上効果を調査した結果を示したものである。それによるとフィンの直径DFはプロペラ直径DPの約55%で推進性能向上効果は略ゼロとなり、フィン長さ110%程度以上域では推進性能向上効果の増加は殆んど見られないことが示されている。前述した通り、本装置による推進性能向上効果のメカニズムはプロペラ後流の回転渦流をフィンにより減少させることによる推進性能向上分から、フィンの固有抵抗増加分のエネルギーを控除したものであることから、フィンの直径DFが小さくなれば回転渦流減少効果は減少するがフィン固有抵抗も減少するので比較的フィンの直径DFは小さい域まで効果が得られている。またプロペラ直径DPより大きい域においては回転流減少効果の増加は殆んど見られなくなりフィン固有抵抗のみが増加する傾向となるので、(図9)に示されるような性能曲線となる。従って、本装置としての有効なフィンの直径DFはプロペラ直径DPの60%以上110%以下である。
【発明の効果】
【0013】
以上、詳述したように本発明の小型船用推進性能向上装置は従来の装置に比べて比較的簡素な構成とすることにより、従来と同等若しくは大きな性能低下の無い装置を提供し、更には後縁材を施せば同等以上の推進性能向上効果が得られる等メリットが大きくあり産業上、非常に有効な装置を提供することとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は従来の小型船用推進性能向上装置の船尾部の側面図である。
【図2】は(図1)のII−II断面矢視図である。
【図3】は本発明の第一実施例の船尾部の側面図である。
【図4】は(図3)のIV−IV断面矢視図である。
【図5】は本発明の第二実施例の船尾部の側面図である。
【図6】は(図5)のVI−VI断面矢視図である。
【図7】は従来のものを表す(図1)のVII−VII断面矢視図である。
【図8】は本発明の第三実施例を表す(図1)のVII−VII断面矢視図である。
【図9】は本発明の第四実施例に関する性能を表す曲線図である。
【符号の説明】
1 船体
2 スターンフレーム
3 ボッシング
4 プロペラ
5 プロペラ軸
6 ラダーホーン
7 舵
8 フィン
9 フィン
10 フィン
11 フィン
12 フィン
DP プロペラ直径
DF フィン直径
RF フィン先端の回転軌跡
13 フィン
14 フィン
15 フィン
16 フィン
17 フィン
18 フィン
19 フィン
20 後縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの前方でプロペラ軸芯の略真横から上方域にかけてボッシングから放射状に張り出す複数のフィンを設け、該フィンには船体が前進航走時のプロペラ回転方向である所謂プロペラ前進回転と逆向きに水の流れを変えるべくひねりが施されてなる小型船用推進性能向上装置において、少なくともプロペラ前進回転時に翼が上昇する舷側と船体中心線上にのみ上記フィンが設けられていることを特徴とし、且つ上記フィンの後端の背面側に楔形断面形状を有する後縁材を設けてなすことを特徴とし、更に上記フィンの直径をプロペラ直径の60%以上110%以内に限定したことを特徴する。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−347519(P2006−347519A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203615(P2005−203615)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(503307660)MHIマリンエンジニアリング株式会社 (2)
【出願人】(503279828)浅川造船株式会社 (3)
【出願人】(504281514)