説明

小型魚飼育用水槽および小型魚産卵回収方法

【課題】 本発明は、飼育下にある小型魚の産出卵を簡単に回収することができるとともに、簡易な構成にして製造コストを低減することができる小型魚飼育用水槽の提供を課題とする。
【解決手段】仕切部材2を水槽本体1から取り外し、回収部材3により小型魚Fを主室5から隔離室6に追い立て、再び仕切部材2を取り付けたあと、回収部材3を水槽本体1から引き上げれば、回収部材3に付着した小型魚Fの卵Eを簡単に回収することができる。しかも、従来から存在する水槽本体1に、所定の仕切部材2、回収部材3および押出部材4を設けるのみでよいので簡易な構成にして製造コストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近年医学や生物学の研究対象として脚光を浴びているメダカやゼブラフィシュなどの実験用の小型魚、あるいは愛玩ペットとして広く飼育されている観賞用の小型魚などを飼育・繁殖させるための小型魚飼育用水槽と、該水槽を使用した小型魚産卵回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、メダカやゼブラフィシュが、愛玩用だけでなく発生や遺伝の研究用として、最も親しまれ広く飼育されている。
【0003】
さらに近年になって、両種のゲノム解読が進み(メダカは2007年に完了)、その結果ヒトの遺伝子組成と非常に良く似ていることやヒトの遺伝病に関連するメダカやゼブラフィシュの遺伝子も数多くあることがわかった。また、遺伝子ノックアウト技術も確立され、最先端の医学・生物学研究材料としての地位を確立した。
【0004】
メダカやゼブラフィシュは、自身が産出した卵を、産卵直後から食べるという性質がある。従って、どのような目的であれメダカやゼブラフィシュでは、親魚が産卵した卵を親の影響が及ばない場所に置く必要がある。
【0005】
親の影響のない場所として、3つの方法が考えられる。
【0006】
第1の方法は、親魚を飼育する水槽をできるだけ大きくし、小石や砂、水草などを沢山入れ微細な生息環境を多数構成することで、もとの水槽内に親の影響の及びにくい場所を形成し、卵や稚魚がそのなかに隠れることで親からの捕食をまぬがれることである。この方法は、自然界における生存原理とおなじことであり、若干の生残しか可能でない。また、遺伝学研究のように「卵そのものを使う」場合は、この方法では卵は水槽内のあちこちに散在しており回収は困難である。
【0007】
第2の方法は、親魚が産出卵を付着させるための水草や繊維状のマトリックスを水槽内に投入して置き、産卵が確認されたら水草ごと別の水槽に移す方法である。メダカの場合、水草の側で水草に卵を付着させるという産卵生態をもつうえ、卵自身が付着糸を有して付着性が強いため、この方法でうまく卵を親とは異なる水槽に移すことが可能である。ただし、まったく付着性のない卵を生むゼブラフィシュにはこの方法は適用できないこと、またメダカでも付着に失敗して水底に沈む卵が少なからずあることが問題である。また、卵を回収するには、水草に付着した卵を引き離す作業が必要であるが、水草の形状が立体的で複雑であり(特にホテイアオイの根などは、微細な毛根が多数あるので)、その中に卵はばらばらに着いているので、回収には時間がかかる。また、水草には様々な細菌が付着しており、それを貴重な親魚の水槽に入れることは、病原菌を持ち込むこみ親魚の死亡につながる危険性がある。
【0008】
第3の方法は、親魚水槽水底の数センチ上部に「卵は通過できるが親魚は通過できない網状構造物」を形成しておき、産出された卵は網目をぬって水底に沈むが、網のために親は近づけず捕食できないようにすることである。この状態では卵は捕食されないが、その後孵化して浮上するとたちまち捕食されてしまう。仮に網目構造体の下に稚魚が留まったとしても、狭い領域ないで十分な飼料に恵まれず成長できる数は少ない。そこで、このように分離したのち、あらかじめ準備しておいた別の水槽に親魚を網で掬い取って移動させ、その後もとの水槽内の水をネットで濾しながらすべて捨ててしまい、その結果卵がネット内に全量回収される。この方法の問題点は、メダカ卵の付着性から、卵どうしが付着して塊となり、網状構造物の上部に残ってしまい捕食されることである。また回収した卵は、シャーレーなど小さな系で管理することが一般的であり、2のような方法で卵だけを回収すればシャーレーと少量の水しか必要でない。しかし本法によるならば、親魚用の新たな水槽と水さらに排水系を準備する必要があり、コストがかかることになる。
以上の3つの方法のうち、学校や家庭においてメダカを増やす場合は、主に第2の方法がとられる。ゼブラフィシュの場合は、第3の方法で水底に分離した卵を、ピペットで吸い込んで回収する方法がとられることが多い。一方、産卵された卵を確実に回収することが要求される研究機関では、第3の方法で回収されることが一般的である。
【0009】
以上の3つの方法の問題点を解決するために、いくつかの従来技術が考えられている。
例えば、特許文献1は、「水槽内に水平な卵は通過できるが親魚は通過できない仕切りを設け」「この仕切りを通り抜けた卵が水槽底の一箇所に集まるように、水槽の下部に傾斜を着け」「集まった卵を、二つのピンチコックの操作で、下部に連接したチューブ内に取り出す」ことからなっている。まず、この発明では、水槽下部に卵分離のために大きな領域を設けしかも傾斜をつけることになっているが、このことで水槽の容積が大きくなるばかりか形状が歪になるので、水槽を設置するための空間は親魚用の水量(それに対する容積)に比べ非常に大きくなってしまうことが大きな問題である。家庭でも研究施設でも、「水槽を置くための場所」と「水槽の重量に耐える台の強度」は最も大きな問題であり、容積が大きくなることは両方にかかわってくる。この技術では、卵の回収を容易にする反面、重大な2つの問題を引き起こすこととなる。また、指定されている程度の傾斜角で果たして卵(とくに付着性のメダカ卵)の大部分が底に集まるか疑わしい。また、水槽内の水を全部捨ててネットで濾して卵を回収する場合でも、実際には水がなくなってもかなりの卵が水底に残ってしまい、再度水を注水して水槽を揺らして卵を集めている。このことから、この装置で仮に卵が底に集まったとしても、わずかな採卵用通路への導水(圧力)だけで卵の多数が導水路内に収容されるとは到底考えられない。
【0010】
また、特許文献2は、「水槽内に垂直に、卵は通過できるが親魚は通過できない仕切りを設け」「水槽そのものにつけた傾斜と給水口からの給水の圧力、および排水口からの排水の引力により、卵を回収して排水口から取り出し回収する」ことからなっている。まず、傾斜を付けることにより無駄な空間を取ることになるが、前の発明に比べればたいしたことはない。明細書の記載からは、各水槽ごとに浄化装置を設けることになっており、水質に関しては一つ一つの水槽ごとに管理しなければならない。現在では、飼育や水質管理の容易さや多くの水槽をコンパクトにまとめる必要性から、個々の水槽に浄化装置や加温装置を設けず、特開平8−214726のようにユニット単位で管理することが一般化しており、ここであげた技術はそれに逆行している。さらに、空調システムでユニット内の温度をコントロールし、それにより水温を制御することを実現している。もし、水槽が閉鎖系であればこの方法も効率的かもしれないが、本技術では卵の回収のために別の系を介して注水を繰り返すことから水温変化が激しくおこるので、空調を介して温度管理は現実的でない。また水槽へ給水を行うための系を別に設けることが必要で、そのための装置の大型化やコストアップ、更にその水源をどうするのかなど様々な問題がある。
【0011】
もっとも大きな問題は、先ほどから度々述べているように、水底に付着あるいは落ちた卵の大部分をある特定の方向に移動させるには大きな水圧が必要であり、底面にこの程度の傾斜しかなく、上部から僅かな給水を短時間行ったくらいでは回収は困難である。相当量の給水とその分の排水を一日中行い続ければ、回収は可能かもしれないが、回収に要する時間が長くなる。
【0012】
また、特許文献3は、閉鎖密閉系において親魚の飼育室と卵回収室を設け、この間に卵は通過できるが親魚は通過できないメッシュを設け、親魚飼育室の側からの水圧により卵をメッシュを通過させて回収する方法である。このような密閉系でしかも宇宙空間での実験で耐えうるような精密な装置であれば、卵を卵回収室に集めることは容易であることが推測される。ただし、卵回収室に集まった卵を外部に取り出すためには、一端密閉系を解除せねばならず、再度密閉系を構成することと合わせ、大変な労力が必要である。また、一系統のためにこのように高価で精密かつ大掛かりな装置を準備することは、今までに述べてきたような目的(観賞用、遺伝実験用)には現実的でない。
【0013】
【特許文献1】特開2001−120110号公報
【特許文献2】特開2004−166553号公報
【特許文献3】特開2003−235395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、飼育下にある小型魚の産出卵を簡単に回収することができるとともに、簡易な構成にして製造コストを低減することができる小型魚飼育用水槽の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、実験用または観賞用のメダカやゼブラフィッシュなどの小型魚を飼育して卵を回収するための小型魚飼育用水槽であって、水と小型魚を収容する上面開口の水槽本体と、該水槽本体の内部を長さ方向に主室と隔離室に仕切る態様で設けられた着脱自在の仕切部材と、端部が回動自在に連結された底板と壁板とからなり、通常時には底板が水槽本体の底面部に当接され、かつ壁板が仕切板と対向する態様で配置され、底板が小型魚の卵を付着するものとなされた回収部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
これによれば仕切部材を水槽本体から取り外し、回収部材により小型魚を主室から隔離室に追い立て、再び仕切部材を取り付けたあと、回収部材を水槽本体から引き上げれば、回収部材に付着した小型魚の卵を簡単に回収することができる。しかも、従来から存在する水槽本体に、所定の仕切部材と回収部材を設けるのみでよいので簡易な構成にして製造コストを低減することができる。
【0017】
また、前記水槽本体の隔離室内に配置され、水槽本体の長さ方向に移動可能な押出部材を備えるのが好ましい。これによれば隔離室内の小型魚を主室に戻す場合、押出部材を水槽本体の長さ方向に移動させれば、小型魚を主室に容易に追い立てることができる。
【0018】
また、前記回収部材の底板は、多数の小孔が形成されるとともに、上面に繊維シートが設けられているのが好ましい。これによれば、底板に多数の孔が形成されることにより回収部材の移動時における水の抵抗を軽減することができる。また、繊維シートを設けることにより、小型魚の卵を容易に付着させることができる。
【0019】
また、前記回収部材の底板は、先端部に折り返し部が形成されているのが好ましい。これによれば、回収部材の移動時に底板が立設したときに、仮に底板に付着した小型魚の卵が下方に落下したとしても、折り返し部がそれらの卵を受け止めることができるため、小型魚の卵をもれなく回収することが可能となる。
【0020】
また、前記水槽本体の底面部は、回収部材の底板の先端部に対応する位置において凹部が形成されているのが好ましい。これによれば、回収部材の移動時において、水槽本体の底面部に設けられた凹部に回収部材の底板の先端部が嵌まることにより、該凹部を中心として底板が隔離室側に回転するので、底板をスムーズに隔離室側に寄せることができる。
【0021】
また、本発明に係る小型魚産卵回収方法は、 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の小型魚飼育用水槽を使用して小型魚の卵を回収する方法であって、仕切部材を水槽本体から取り外す第1のステップと、回収部材の壁板を斜め上方に持ち上げていき、該壁板に連結されている底板が垂直となるように隔離室側に寄せることによって小型魚を隔離室に追い立てる第2のステップと、その状態で再び仕切部材を水槽本体の元の位置に取り付けることによって小型魚を完全に隔離室に隔離する第3のステップと、回収部材を水槽本体から引き上げて、底板に付着した小型魚の卵を回収する第4のステップと、該回収部材を、底板が水槽本体内部の底部に当接され、かつ壁板が仕切板と対向する態様で主室に再び配置する第5のステップと、仕切部材を水槽本体から取り外して、隔離室内の小型魚を主室に戻す第6のステップと、小型魚が主室に完全に戻ったあと、該仕切部材を水槽本体の元の位置に再び取り付ける第7のステップとを備えることを特徴とする。
【0022】
また、前記第6のステップにおいて、仕切部材を水槽本体から取り外したあと、請求項2に記載の押出部材を主室側に並行に移動させることによって隔離室内の小型魚を主室に追い立ててもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、仕切部材を水槽本体から取り外し、回収部材により小型魚を主室から隔離室に追い立て、再び仕切部材を取り付けたあと、回収部材を水槽本体から引き上げれば、回収部材に付着した小型魚の卵を簡単に回収することができる。しかも、従来から存在する水槽本体に、所定の仕切部材と回収部材を設けるのみでよいので簡易な構成にして製造コストを低減することができる。
【0024】
而して、従来施設で使われてきた給水・水質管理・保温・照明系などはそのまま利用し、水槽のみを本発明の水槽に置き換えればよい。
【0025】
また、操作はだれにでも簡単に短時間行え、しかもメダカの付着卵もゼブラフィシュの非付着卵もすべて確実に回収できる。
【0026】
また、親魚を網で掬うなどの操作を行わないため、親魚に対する負担が少ない。また、親魚はもとの水槽内にとどまり続けるので、(別の水槽に移す場合のような)環境変化にさらされることもない。
【0027】
また、卵は、回収板上に装着した回収部材(ナイロンメッシュ・金網・あるいは炭素繊維メッシュなど)の上に乗った(あるいは付着した)状態で水槽外に出される。結局2次元平面内に卵が散らばった状態であるから、回収は非常に簡単である。特に、炭素繊維などのように回収部材が黒色であれば、その上にある卵が容易に識別できる。また、回収部材じたいに付着特性のある材質を使えば、非付着性のゼブラフィシュの卵を回収部材上に固定することも可能となる。
【0028】
また、回収部材を、使い捨てにすることにより、外部からの細菌の持込などを防ぐことができる。さらに、回収部材が卵とともに底に沈んだゴミを回収するので、水質浄化にもつながる。
【0029】
また、卵を回収させる必要がない場合は、水草などと同じく卵がついた回収部材をそのまま別の水槽に移してもよい。
【0030】
また、水槽本体の底面部に凹部を形成すれば、親を分離後水槽内の水の大部分をポンプで捨ててしまっても親魚は凹部に水とともに残る。その後注水して、仕切りを上げて親魚を解放すれば、親魚を分離することなく水替えが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に本発明の一実施形態に係る小型魚(F)飼育用水槽(以下、本水槽という)ついて図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0032】
図1は本水槽の縦方向の断面図、図2は本水槽の平面図、図3は本水槽に用いられる回収部材の斜視図である。
【0033】
なお、本説明において、本水槽の長さ方向は図1および図2の左右方向、幅方向は図2の上下方向、深さ方向は図1の上下方向のことをいうものとする。
【0034】
本水槽は、図1および図2に示すように、水槽本体(1)と、水槽本体(1)の内部に設けられた仕切部材(2)、回収部材(3)、および押出部材(4)を主要素として構成される。
【0035】
前記水槽本体(1)は、上面が開口された直方体状に形成され、合成樹脂製の透明部材からなる。この水槽本体(1)は、従来から存在するものであり、形状、材質、透明度合いは種々変更されてもよい。
【0036】
水槽本体(1)の開口部の周辺には鍔部(11)が設けられている。これは一般に水槽本体(1)に歪みを発生させないためのガイドの役割を有する。また、鍔部(11)を把持することにより簡単に持ち運ぶことができ便利である。
【0037】
また、水槽本体(1)の底面部(12)における長さ方向の一方端部(図1,図2の左端部)には段部(13)が設けられており、後述するように仕切部材(2)や押出部材(4)が上面に載置できるようになっている。
【0038】
また、水槽本体(1)の幅方向の両側面部(14)(14)であって、長さ方向の一方端部寄りの位置には、前記仕切部材(2)の両端部を挿入するための挿入溝(15)が深さ方向に沿って形成されている。
【0039】
さらに、底面部(12)における段部(13)以外の部分には底板(16)が設けられ、該底板(16)の端部と段部(13)との間に凹部(17)が形成されている。
【0040】
前記仕切部材(2)は、平面視矩形板状の合成樹脂製の透明部材からなり、前記水槽本体(1)の挿入溝(15)(15)に幅方向の両端部を挿入されることにより、水槽本体(1)の内部で垂直に立設されている。
【0041】
このように仕切部材(2)が水槽本体(1)の内部で垂直に立設することにより、水槽本体(1)の内部が長さ方向に分離され、容積の大きい一方側(図1,2の右側)が主室(5)、容積が小さい一方側(図1,2の左側)が隔離室(6)に仕切られている。
【0042】
なお、後述するように、通常時には小型魚(F)は主室(5)に収容されているが、回収時には隔離室(6)に収容されることになる。
【0043】
前記回収部材(3)は、図3に示すように、前記主室(5)の底面部(12)に対応する平面視矩形板状の底板(31)と、前記主室(5)の側面部に対応する平面視矩形状の壁板(32)とからなる。これら底板(31)と壁板(32)とは、両端部がヒンジ(33)を介して回動自在に連結され、互いに長さ方向に回転できるようになっている。
【0044】
そして、通常時には、通常時には底板(31)が水槽本体(1)の底板(16)に当接され、かつ壁板(32)が仕切板部材(2)と対向するように水槽本体(1)の側面部(18)に当接された態様で前記水槽本体(1)の主室(5)に配置される。
【0045】
また、前記回収部材(3)の底板(31)は、多数の小孔(31a)…が形成されるとともに、上面に繊維シート(34)が展設されている。これにより
【0046】
この繊維シート(34)としては例えば炭素繊維シートが挙げられる。これによると小型魚(F)は、水草を入れた場合であっても炭素繊維シートに選択的に産卵することが多い。また、水草の代わりとして使用した場合には産卵床としての効果がある。さらに、炭素繊維シートは黒色であるので、小型魚(F)の卵(E)を回収時に見つけやすいというメリットがある。
【0047】
また、前記回収部材(3)の底板(31)は、先端部に折り返し部(35)が形成されている。これにより、回収部材(3)の移動時に底板(31)が立設したときに、仮に底板(31)に付着した小型魚(F)の卵(E)が下方に落下したとしても、折り返し部(35)がそれらの卵(E)を受け止めることができるため、小型魚(F)の卵(E)をもれなく回収することが可能となる。
【0048】
前記押出部材(4)は、正面視矩形板状に形成された正面板(41)と、該正面板(41)の周縁部に設けられた4枚の側面板(42)…(42)とからなる合成樹脂製の透明部材である。通常時には、水槽本体(1)の隔離室(6)に配置され、回収時には水槽本体(1)の長さ方向に移動し得るものとなされている。
【0049】
なお、正面板(41)には複数の小孔(41a)…が形成されており、回収時において水の抵抗をできるだけ少なくしながら移動できるようになっている。
【0050】
次の本水槽を利用した小型魚(F)の卵(E)の回収方法について図4を参照しつつ説明する。
【0051】
図4は本水槽を利用した小型魚(F)の卵(E)の回収方法を示す遷移図である。
【0052】
(a)通常時の状態である。この状態では、水槽本体(1)が仕切部材(2)により主室(5)と隔離室(6)に分離され、主室(5)には回収部材(3)が、隔離室(6)には押出部材(4)がそれぞれ所定の位置に配置されている。また、小型魚(F)は水槽本体(1)の主室(5)において自由に泳ぎ回っており、適時に卵(E)を産むと、その卵(E)が回収部材(3)の底板(31)に落下する。このとき底板(31)の上面には繊維シート(34)が設けられているので、卵(E)が付着しやすくなっている。
【0053】
(b)回収部材(3)の底板(31)に小型魚(F)の卵(E)がある程度付着したときに、小型魚(F)の卵(E)の回収が実行される。回収に際しては、まず仕切部材(2)を水槽本体(1)から取り外して、主室(5)と隔離室(6)の分離状態を解除する。このとき小型魚(F)は隔離室(6)でも泳ぐことができるが、ほとんどの場合は容積が広い主室(5)で泳いでいる場合が多い。
【0054】
(c)次に、前記回収部材(3)の壁板(32)を斜め上方向に持ち上げていき、該壁板(32)に連結されている底板(31)が垂直となるように隔離室(6)側に寄せることによって小型魚(F)を隔離室(6)側に追い立てる。このとき、水槽本体(1)に形成された凹部(17)に回収部材(3)の底板(31)の先端部をは嵌まることにより、該凹部(17)を中心として底板(31)が隔離室(6)側に回転するので、底板(31)をスムーズに隔離室(6)側に寄せることができる。
【0055】
(d)こうして回収部材(3)が垂直となるように隔離室(6)側に寄せられると、回収部材(3)の壁板(32)が壁の機能を果たして小型魚(F)は隔離室(6)に追い立てられた状態となる。
【0056】
(e)次に、回収部材(3)の壁板(32)の立設状態を維持した状態において、再び前記仕切部材(2)を水槽本体(1)の元の位置に取り付けることによって小型魚(F)を完全に隔離室(6)に隔離する。そして、前記回収部材(3)を水槽本体(1)から引き上げて、該回収部材(3)における小型魚(F)の卵(E)を回収する。小型魚(F)の卵(E)の回収に際しては、回収部材(3)に設けた繊維シート(34)を取り外せば簡単に回収することができ、また新しい繊維シート(34)を回収部材(3)に取り付ければよい。
【0057】
(f)前記回収部材(3)を、底板(31)が水槽本体(1)の底板(16)に当接され、かつ壁板(32)が仕切部材(2)と対向するように水槽本体(1)の側面部(18)に当接された態様で主室(5)に再び配置する。このとき小型魚(F)は隔離室(6)に隔離しているために、主室(5)は空の状態となっている。
【0058】
(g)次に、前記仕切部材(2)を水槽から取り外したあと、前記押出部材(4)を主室(5)側に並行に移動させることによって小型魚(F)を主室(5)に追い立てる。一般に仕切部材(2)を水槽本体(1)から取り外しただけでは、すべての小型魚(F)が一律に主室(5)に行くことは少なく、場合によっては隔離室(6)に戻ってくることがある。そこで、押出部材(4)により小型魚(F)を追い立てれば、簡単かつ確実に主室(5)に戻すことができる。
【0059】
(h)そして、前記仕切部材(2)を水槽本体(1)の元の位置に取り付けるとともに、前記押出部材(4)を隔離室(6)に再び配置する。これにより小型魚(F)は主室(5)に完全に戻った状態となり、初期の状態と同様に再び主室(5)で産卵を行うことができる。
【0060】
なお、本実施形態に係る水槽本体(1)、仕切部材(2)、回収部材(3)、および押出部材(4)は上述の形状や材質に限定されるものではなく、種々に設計変更が可能である。
【0061】
また、押出部材(4)により小型魚(F)を主室(5)に追い立てるものとしたが、押出部材(4)を使用せずに小型魚(F)を主室(5)に自然に戻すものとしてもよい。
【0062】
また、回収部材(3)の底板(31)を水槽本体(1)の底板(16)を介して底面部(12)に当接するものとしたが、底面部(12)に直接当接するものとしてもよい。よって、本発明に言う当接とは必ずしも接している状態を言うのではなく、その他の部材が介在している場合も含むものとする。
【0063】
また、回収部材(3)の壁板(32)を水槽本体(1)の側面部(18)に当接するものとしたが、その他の部材が介在してもよいし、あるいは間隔が空いていてもよい。
【0064】
また、回収部材(3)の先端部の折り返し部(35)は鋭角的に形成したが、図5に示すように直角的に形成してもよい。
【0065】
また、回収部材(3)の先端部に折り返し部(35)を形成するものとしたが、その代わりに炭素繊維(34)の先端部を折り返すようにして落下した若干の卵を受けるものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、近年医学や生物学の小型魚(F)の研究、業務または個人における小型魚(F)の飼育・繁殖において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態に係る本水槽の縦方向の断面図である。
【図2】図1の本水槽の平面図である。
【図3】回収部材の斜視図である。
【図4】本水槽を利用した小型魚の卵の回収方法を示す遷移図である。
【図5】他の実施形態に係る回収部材の先端部の拡大図である。
【符号の説明】
【0068】
1…水槽本体
2…仕切部材
3…回収部材
4…押出部材
5…主室
6…隔離室
31…底板
32…壁板
34…繊維シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験用または観賞用のメダカやゼブラフィッシュなどの小型魚を飼育して卵を回収するための小型魚飼育用水槽であって、
水と小型魚を収容する上面開口の水槽本体と、
該水槽本体の内部を長さ方向に主室と隔離室に仕切る態様で設けられた着脱自在の仕切部材と、
端部が回動自在に連結された底板と壁板とからなり、通常時には底板が水槽本体の底面部に当接され、かつ壁板が仕切板と対向する態様で配置され、底板が小型魚の卵を付着するものとなされた回収部材とを備えることを特徴とする小型魚飼育用水槽。
【請求項2】
前記水槽本体の隔離室内に配置され、水槽本体の長さ方向に移動可能な押出部材を備える請求項1に記載の小型魚飼育用水槽。
【請求項3】
前記回収部材の底板は、多数の小孔が形成されるとともに、上面に繊維シートが設けられている請求項1または請求項2に記載の小型魚飼育用水槽。
【請求項4】
前記回収部材の底板は、先端部に折り返し部が形成されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の小型魚飼育用水槽。
【請求項5】
前記水槽本体の底面部は、回収部材の底板の先端部に対応する位置において凹部が形成されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の小型魚飼育用水槽。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の小型魚飼育用水槽を使用して小型魚の卵を回収する方法であって、
仕切部材を水槽本体から取り外す第1のステップと、
回収部材の壁板を斜め上方に持ち上げていき、該壁板に連結されている底板が垂直となるように隔離室側に寄せることによって小型魚を隔離室に追い立てる第2のステップと、
その状態で再び仕切部材を水槽本体の元の位置に取り付けることによって小型魚を完全に隔離室に隔離する第3のステップと、
回収部材を水槽本体から引き上げて、底板に付着した小型魚の卵を回収する第4のステップと、
該回収部材を、底板が水槽本体内部の底部に当接され、かつ壁板が仕切板と対向する態様で主室に再び配置する第5のステップと、
仕切部材を水槽本体から取り外して、隔離室内の小型魚を主室に戻す第6のステップと、
小型魚が主室に完全に戻ったあと、該仕切部材を水槽本体の元の位置に再び取り付ける第7のステップとを備えることを特徴とする小型魚産卵回収方法。
【請求項7】
前記第6のステップにおいて、仕切部材を水槽本体から取り外したあと、請求項2に記載の押出部材を主室側に並行に移動させることによって隔離室内の小型魚を主室に追い立てる請求項6に記載の小型魚産卵回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−261338(P2009−261338A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116167(P2008−116167)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(508128288)
【出願人】(508128299)
【出願人】(508128314)
【出願人】(508128347)
【出願人】(505053512)
【Fターム(参考)】