説明

小麦α−アミラーゼインヒビターに結合する抗ペプチド抗体及びそれを用いた小麦アレルゲンの検査方法

【課題】 小麦α−アミラーゼインヒビター(AI)のうち、単量体および二量体のエピトープに結合する抗ペプチド抗体を作製し、単量体および二量体小麦α−AIのエピトープの検出・定量法を開発すること。
【解決手段】 単量体および二量体小麦α−AIのエピトープを含むアミノ酸13個で構成されるペプチドを抗原に用いて作製した抗ペプチド抗体、これを用いて免疫反応を行なうことを特徴とする小麦アレルゲンの検査方法、及び前記抗体を含有するアレルゲン検査用キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦アレルゲンとして報告されている単量体および二量体小麦α−アミラーゼインヒビター(以下、α−AIという。)のエピトープの特異的検出に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦は主要な食物アレルギーの原因食品の一つでもあり、アレルゲンタンパク質としてグリアジンやα−AI等が報告されている(非特許文献1〜4参照)。小麦アレルゲンの検出方法は、現在は主に難水溶性アレルゲンのグリアジンを対象としているが、易水溶性アレルゲンであるα−AIを対象にしていない。
【0003】
小麦α−AIには、分子量が13〜15kDaのサブユニットで構成される単量体(0.28型)、二量体(0.19型および0.53型)、四量体(CM1〜3、CM16、CM17型)等が知られている(非特許文献5、6参照)。
【0004】
0.53型の二量体小麦α−AIに対するモノクローナル抗体(特許文献1参照)、および小麦α−AIに対する抗体を用いる小麦α−AIの定量方法はすでに報告されているが(特許文献2参照)、単量体および0.19型二量体の小麦α-AIに対する抗体は、未だ見出されていない。
【0005】
一般にアレルゲンタンパク質は、そのすべての構成アミノ酸がアレルギー反応に関与しているわけではなく、一部のアミノ酸配列がヒトのアレルギー反応に関与する抗体と特異的に結合することが知られており、その部分アミノ酸配列はエピトープと呼ばれている(非特許文献7参照)。
【0006】
しかし、特許文献1および2で用いられる抗体は、小麦α−AI全体を抗原として得られたものであり、小麦α−AIのエピトープに対して特異的に結合しているわけではないと考えられる。しかも、特許文献2の小麦α−AIの定量方法は、アレルゲンの検出を目的としておらず、小麦α−AI含有量が多い小麦粉の選択を目的としている。α−AI含有量が多いと、小麦種子に内在するα−アミラーゼ活性が抑制されるため、アミロ粘度が高く各種食品加工に適した小麦粉が得られるとのことである。
【0007】
また、小麦α−AIのうち、特に二量体が動物膵液のα-アミラーゼを阻害し(特許文献3参照)、内臓脂肪蓄積抑制効果を有することから(特許文献4参照)、二量体α−AIを添加した麺類(特許文献5参照)等の加工食品が知られているが、逆にα−AIを含まない小麦粉や小麦加工食品は未だ報告されていない。
【0008】
一方、小麦粉を微生物由来のプロテアーゼで処理すると、小麦アレルギー患者の血清との反応性が低下するが(非特許文献8参照)、それがα−AIのエピトープ分解によるものかどうか未だ不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平05−032034号公報
【特許文献2】特開昭63−247661号公報
【特許文献3】特許第3504719号明細書
【特許文献4】特許第3999825号明細書
【特許文献5】特許第3526361号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Armentia et al., Clin. Exp. Allergy, 23, p.410-415 (1993).
【非特許文献2】Sandiford et al., Clin. Exp. Allergy, 27, p.1120-1129 (1997).
【非特許文献3】Palosuo et al., Curr. Opin. Allergy Clin. Immunol., 3, p.205-209 (2003).
【非特許文献4】Pastorello et al., Int. Arch. Allergy Immunol., 144, p.10-22 (2007).
【非特許文献5】Sanchez-Monge et al., Theor. Appl. Genet. 72, p.108-113 (1986).
【非特許文献6】Gomez et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, p.3242-3246 (1989).
【非特許文献7】Walsh and Howden, J. Immunol. Methods, 121, p.275-280 (1989).
【非特許文献8】Watanabe et al., Biosci. Biotech. Biochem., 58, p.388-390 (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的に、食品加工の過程でアレルゲンタンパク質が部分分解されている場合でも、エピトープが分解されていなければ、ヒトのアレルギー反応に関与する抗体が結合するため、アレルギー反応性が残存している可能性がある。しかし、アレルゲンタンパク質全体を抗原として得られた抗体は、アレルゲンのエピトープ以外の部位に結合する確率が高いため、その抗体を用いて加工食品に含まれるアレルゲンの検出・定量を行った場合に、陰性を示す恐れがある。
【0012】
そこで、本発明は、単量体および二量体の小麦α−AIエピトープに特異的な抗ペプチド抗体を作製し、その抗体を用いて、より高精度なアレルゲンの検査法と検査キットを開発することを目的とする。さらに、その検査法や検査キットを用いることによって、小麦アレルギー発症リスクが低い小麦粉およびその加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
小麦単量体α−AIのエピトープとして報告されているAVLRDC(配列番号1、37番〜42番アミノ酸)は(非特許文献7参照)、小麦二量体α−AIにも含まれることから、本発明者は、このアミノ酸配列を含むアミノ酸13個で構成されるペプチドを合成し、これをキャリアタンパク質に結合させたものを動物に投与することにより、小麦の単量体と二量体のα−AIのエピトープに対して特異性が極めて高い抗体を得た。
【0014】
本抗体を用いて免疫反応を行うことにより、アレルゲンタンパク質のうち、ヒトのアレルギー反応に関与する抗体が結合する部位を特異的に検出・定量することが可能となり、アレルゲン検出の精度を高めることができる。
【0015】
さらに、小麦粉を微生物由来各種プロテアーゼ処理したものについて、本抗体によるα−AIの検出・定量検査を行うことにより、α−AIのエピトープの分解が確認され、アレルゲンエピトープが少ない小麦粉およびその加工食品の提供が可能となり、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本願請求項1に係る本発明は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗小麦α−アミラーゼインヒビター抗体である。
本願請求項2に係る本発明は、請求項1記載の抗体を用いて免疫反応を行うことを特徴とする、小麦アレルゲンに内在するエピトープの検査方法である。
本願請求項3に係る本発明は、請求項1記載の抗体を含有するアレルゲン検査用キットである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小麦アレルゲンの一種であるα−AIのうち、単量体と二量体のエピトープと特異的に結合する抗ペプチド抗体が初めて提供される。これにより、アレルゲンとしての単量体と二量体の小麦α−AIの高精度な検出・定量が可能となった。
【0018】
さらに、本発明のアレルゲンエピトープ検査法および検査キットを用いることにより、単量体と二量体の小麦α−AIのエピトープをほとんど含まず、小麦α−AIによるアレルギー発症リスクが低い小麦粉およびその加工食品の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】小麦種子抽出物のイムノブロッティングの結果を示す。図1中、Aは銀染色、Bは抗小麦α−AIエピトープペプチドIgGを用いた抗体反応(化学発光)の結果である。
【図2】小麦抽出物中に含まれる小麦α−AIエピトープをエライザ法により定量した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる抗小麦α−AI抗体は、例えば次のようにして調製することができる。
小麦単量体α−AIのエピトープとして報告されているAVLRDC(配列番号1、アミノ酸番号37〜42番)(非特許文献7参照)を含む各種小麦α−AIのアミノ酸配列を比較し(表1)、抗体の出来易さを考慮した結果、二量体の30番〜42番アミノ酸13個からなるペプチド(配列番号2:NGSQVPEAVLRDC)が、単量体と二量体の小麦α−AIエピトープに対するペプチド抗原として適していることが見出された。
【0021】
【表1】


網掛け:共通配列
なお、表中のアミノ酸配列情報は、Sanchez-Monge, et al., Eur. J. Biochem., 183, p.37-40 (1989).より引用。
【0022】
上記で選定した配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる抗原ペプチドを、全自動ペプチド合成機で合成した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で精製する。これをマレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド等の架橋剤を用いて、キャリアタンパク質と結合させ、免疫抗原とする。キャリアタンパク質の具体例としては、貝ヘモシアニン、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミン等が挙げられる。
【0023】
次いで、免疫抗原をアジュバントとよく混合して、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、トリ、ウマ等の動物に投与する。ウサギに投与する場合は、1週間以上の間隔を空けて3回以上行い、最初の投与から4週間以上後に全採血を行い、抗血清を得る。さらに、この抗血清から、硫安塩析やプロテイン−Aカラム等により精製し、抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体を得ることができる。
【0024】
モノクローナル抗体の場合は、動物に免疫抗原を投与してポリクローナル抗体を得る代りに、免疫抗原をマウスに免疫し、抗小麦α−AIエピトープ抗体を産生しているリンパ球として例えばマウス脾臓細胞と、ミエローマ細胞とをポリエチレングリコール存在下にて細胞融合させ、ハイブリドーマを得る。この中より、小麦α−AIエピトープに対する抗体を産生する細胞をスクリーニングし、その細胞を培養することによって、抗小麦α−AIエピトープモノクローナル抗体を得ることができる。
【0025】
以上のようにして作製した抗体の抗体価の検定は、酵素免疫測定(エライザ)法によって行なうことができる。
すなわち、キャリアタンパク質と結合していない所定量の上記抗原ペプチドを固相化したプレートのウェルに、抗小麦α−AIエピトープ抗体(一次抗体)溶液を添加して反応させる。次に、ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素などで標識した、一次抗体を抗原として認識する二次抗体溶液をウェルに添加して反応させる。ウェルを洗浄後、標識酵素の基質を添加して酵素反応を行い呈色させ、吸光度の測定値から抗体価を算出する。
【0026】
なお、抗原に用いた配列番号2のペプチドのN末端アミノ酸は、単量体α−AIでは、N(アスパラギン)ではなくV(バリン)であるが、抗体との結合性は、配列番号2のペプチドと単量体α−AIの部分ペプチドであるVGSQVPEAVLRDC(配列番号3)の間に差はない。一方、四量体α-AIの一種であるCM16の部分ペプチドCRIETPGSPYLAKQQ(配列番号4)に対する抗ペプチド抗体が報告されているが(老田、第60回日本生物工学会大会講演要旨、p.177 (2008).参照)、本発明の抗原に用いた配列番号2のペプチドとアミノ酸配列が大きく異なるため、抗CM16ペプチド抗体は、単量体および二量体の小麦α−AIエピトープには結合しない。
【0027】
また、配列番号2のN末端以外のアミノ酸1〜3個が別アミノ酸に置換されているペプチドを抗原に用いた場合、配列番号2よりも構成アミノ酸の数が1〜3個少ないか、もしくは1〜3個多いペプチドを抗原に用いた場合でも、得られた抗体が、単量体および二量体の小麦α-AIエピトープであるAVLRDC(配列番号1)に結合する性質を有していれば、本発明に含まれる。
【0028】
以上のようにして作製した本発明の抗体を用いる小麦アレルゲン(単量体及び二量体小麦α−AI)のエピトープの検査は、免疫反応を利用して、酵素免疫測定(エライザ)法やイムノブロット法などの常法によって行うことができる。被検試料としては、小麦を含有するものであれば良く、例えば醤油、味噌などの調味料、ビールなどの酒類、麺類、クッキーなどの菓子類といった、小麦を原料とする発酵・加工食品を使用することができる。
【0029】
エライザ法の場合、本発明の検査は例えば次のようにして行われる。
被検試料の抽出物をマイクロプレートのウェルに添加して一定時間静置後、本発明の抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体(一次抗体)溶液を添加して反応させる。次に、ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素などで標識した、一次抗体を抗原として認識する二次抗体溶液をウェルに添加して反応させる。ウェルを洗浄後、標識酵素の基質を添加して酵素反応を行い、呈色または発光させ、それらの測定値からα−AIエピトープ量を算出する。
【0030】
なお、上記において、酵素の代りに蛍光色素を用いて二次抗体を標識することもできる。蛍光色素の場合は、励起波長を当てて生じる蛍光を測定すればよい。さらに、一次抗体を直接ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素などで標識すれば、二次抗体を用いることなく、小麦α−AIエピトープ量を測定することができる。
【0031】
また、マイクロプレートのウェルに、小麦α−AIや小麦α−AIエピトープペプチドを固定化しておき、あらかじめ被検試料の抽出物と混合しておいた一次抗体を反応させる、競合エライザ法で検査することもできる。
【0032】
イムノブロット法の場合、本発明の検査は例えば次のようにして行なわれる。
被検試料の抽出物を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で展開後、ゲル中のタンパク質をポリフッ化ビニリデン(PVDF)やニトロセルロースなどの膜へ転写する。次に、その膜を本発明の抗α−AIエピトープペプチド抗体(一次抗体)と反応させた後、ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した、一次抗体を抗原として認識する二次抗体溶液に浸漬し、一次抗体と二次抗体を結合させる。さらに、その膜を洗浄した後、標識酵素の基質を添加して酵素反応を行ない、呈色または発光させ、小麦α−AIエピトープを包含するタンパク質を検出する。
【0033】
なお、上記において、酵素の代りに蛍光色素を用いて二次抗体を標識することもできる。蛍光色素の場合は、励起波長を当てて生じる蛍光を検出すればよい。さらに、一次抗体を直接ペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等の酵素などで標識すれば、二次抗体を用いることなく、小麦α−AIエピトープを検出することができる。
【0034】
以上に説明した本発明の小麦アレルゲンの検査方法は、本発明の抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体を含有するアレルゲン検査用キットを用いて容易に実施することができる。このアレルゲン検査用キットには、本発明の抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体の他に、標識した二次抗体や適切な酵素基質、洗浄用の緩衝液、ブロッキング用試薬などが含まれていても良い。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0036】
(小麦抽出物の調製とタンパク質の定量法)
以下の実施例において、小麦抽出物とα−AI画分の調製は以下のように行なった。
小麦(品種名「ゆきちから」)の全粒粉に5倍量(重量比)の0.5M食塩水を加えて懸濁し、4℃で1時間静置後の遠心(10,000×g、5分間)上清を小麦抽出物とした。小麦抽出物に含まれるタンパク質は、DCプロテインアッセイ(バイオラッド社)、および標準タンパク質にウシ血清アルブミンを用いて定量した。
【0037】
(タンパク質電気泳動法とイムノブロット法)
以下の実施例において、タンパク質電気泳動法は以下のように行なった。
試料を等容量の「トリスSDS−β−MEサンプル処理液」(コスモバイオ社)と混合後、95℃で5分間熱処理してから、10〜20%アクリルアミドゲル(オリエンタルインスツルメンツ社)、0.1%SDSを含む192mMトリス−25mMグリシンバッファーを用いて電気泳動し、「2D−銀染色試薬・II」(コスモバイオ社)によりタンパク質を染色検出した。
【0038】
以下の実施例において、イムノブロット法は以下のように行なった。
アトー社のマニュアルに従い,セミドライトランスファー装置(アトー社)を用いて、SDS-PAGEゲルからタンパク質をPVDF膜(アトー社)へ転写した。このPVDF膜を25mMトリス−塩酸緩衝液+0.15M食塩+0.1%Tween−20(TTBS)で10倍希釈したEzBlock(アトー社、ブロッキング液)に浸して、室温で30分間ゆっくり振とうしてブロッキング反応を行い、次にブロッキング液で1,000倍希釈した抗α−AIエピトープペプチド抗体溶液に室温で1時間浸した。さらにこのPVDF膜を、TTBSによる洗浄後に、ブロッキング液で3,000倍もしくは5,000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(免疫動物:ヒツジ、GEヘルスケアバイオサイエンス社)溶液に室温で1時間浸した。このPVDF膜を再度洗浄した後、EzWestBlue(アトー社)、SuperSignal West Femto(PIERCE社)、およびCCDカメラ内蔵のイメージングアナライザーLPR−140EX(アイシン精機社)を用いて、抗体結合タンパク質を発色および発光により検出した。
【0039】
(エライザ法)
以下の実施例において、エライザ法は以下のように行なった。
試料を96穴イムノプレート(Nunc社)の各ウェルに0.05mLずつ分注して、4℃で一晩静置後、0.25mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)+0.15M食塩(PBS)で3回洗浄してから、0.2%ウシ血清アルブミンを含むPBSを0.2mLずつ添加して、室温に1時間置いてブロッキングした。次に、0.25mLのPBSで3回洗浄した後、PBS+0.05%ツィーン20(PBST)で100倍〜1,000倍希釈した抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体を0.1mLずつ添加して、室温に1時間置いた後、0.25mLのPBSTで5回洗浄し、PBSTで3,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGを0.1mLずつ添加して、室温に1時間置いた。再び、0.25mLのPBSTで5回洗浄した後、TMBキットHYPER(ナカライテスク社)を用いて発色させ、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0040】
実施例1(抗小麦α−AIエピトープ抗体の作製と特異性の確認)
小麦単量体α−AIのエピトープとして報告されているAVLRDC(配列番号1、アミノ酸番号37〜42番)を含む各種小麦α−AIの配列を比較し(表1)、抗体の出来易すさを考慮した結果、30番〜42番アミノ酸13個からなるペプチド(配列番号2:NGSQVPEAVLRDC)を合成して、これを抗原にして抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体を作製した。
【0041】
抗小麦α−AIエピトープペプチド抗体の作製は以下のように行なった。
HPLCで精製した合成ペプチド1mgをMBS法(Liu et al., Biochemistry, 18,690-697 (1979)参照)で貝ヘモシアニンに結合した後、アジュバントを混合して、ウサギ1羽に6回に分けて皮内、静脈注射を行い、1回目の投与から42日後に全採血し、さらにProtein−Aカラムにより、血清から免疫グロブリンG(IgG)を精製した。Protein−Aカラム精製後のIgGは3.88mg/mL濃度で47mL得られた。
【0042】
次に、抗小麦α−AIエピトープ抗体の特異性を以下のイムノブロット法により確認した。
まず、上述の方法により得られた小麦抽出物をSDS−PAGEに供した後、上記で得られた抗小麦α−AIエピトープ抗体を用いて、上述の方法によりイムノブロットを行った。
銀染色及びイムノブロット法(二次抗体5,000倍希釈、発光検出)の結果を、それぞれ図1のA及びBに示す。
【0043】
図1Bにおいて、約13kDaの単量体および二量体小麦α−AIの位置に強い発光バンドが二本認められたが、小麦種子に含まれる他のタンパク質と抗小麦α−AIエピトープ抗体との結合は認められず、本抗体の特異性が極めて高いことが明らかになった(図1)。
【0044】
実施例2(エライザ法によるα−AIエピトープの検出・定量)
上述のイムノブロット法により、抗小麦α−AIエピトープ抗体は、単量体および二量体のα−AI以外の小麦タンパク質にはほとんど結合しないことから、抗小麦α−AIエピトープ抗体を用いたエライザ法により、単量体および二量体の小麦α−AIエピトープを定量することができる。
【0045】
上述の方法により得られた小麦抽出物をPBSで希釈し、マイクロプレートのウェルに添加し、上述のエライザ法(一次抗体:1,000倍希釈)を行った結果、図2において、ウェルあたり小麦タンパク質が0.1〜2.0μg添加された場合に、エライザ法による吸光度が、濃度依存的に上昇した。
【0046】
次に、小麦抽出物から単量体および二量体α−AI画分を調製するため、小麦抽出物に50%飽和硫安を加えて、室温に1時間静置後の遠心(10,000×g、5分間)沈殿物を、0.1M酢酸アンモニウムに溶解し、脱塩カラムPD-10(GEヘルスケアバイオサイエンス社)で脱塩した。タンパク質画分を、セントリプレップYM−10(日本ミリポア社、限外分子量10kDa)により濃縮後、ゲルろ過カラムSuperdex 200HR(GEヘルスケアバイオサイエンス社)で分画し、単量体と二量体のα−AIに相当する分子量の画分を回収した。
【0047】
この単量体および二量体の小麦α−AI画分を用いて同様にエライザ法を行った結果、ウェルあたり0.2μg添加した場合に、小麦抽出物を1.0μg添加した場合と同等の吸光度が得られた。また、単量体および二量体α−AIのエピトープであるAVLRDC(配列番号1)は、単量体および二量体α−AIの全アミノ酸配列中、1箇所しか存在しないため、本エライザ法により、試料中に含まれる単量体と二量体のα−AI、およびそれらのエピトープの定量が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、単量体および二量体の小麦α−AIのエピトープを検出・定量することにより、高精度な小麦アレルゲン検査が可能となり、食品加工業において、小麦アレルゲン混入確認やアレルゲン低減化小麦食品の開発などに有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチドに結合する抗小麦α−アミラーゼインヒビター抗体。
【請求項2】
請求項1記載の抗体を用いて免疫反応を行なうことを特徴とする小麦アレルゲンに内在するエピトープの検査方法。
【請求項3】
請求項1記載の抗体を含有するアレルゲン検査用キット。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−246393(P2011−246393A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121244(P2010−121244)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年12月5日 日本食品科学工学会東北支部発行の「日本食品科学工学会 平成21年度東北支部大会市民フォーラム 講演要旨集」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】