説明

少なくとも2種の化学的に互いに異なる流動性の媒体を塗被するための方法および装置

本発明は、少なくとも2種の、化学的に互い異なる流動性の媒体、特にポリマの水溶液、分散液またはこれらから成る組合せ物を接着剤、ラッカまたは被覆体として塗被するための方法に関する。マルチカスケードノズル(1)によって、少なくとも2種の化学的に互い異なる流動性の媒体(30,32)が、1回の作業工程で連続的に、ウェブ状の基板へ塗被される。多層状の塗被体(51)の全量が2g/m〜200g/mである。多層塗被体(51)内の個々の層(31,33)の相対比が0.1〜100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤およびラッカとして、または被覆体として使用され得る少なくとも2種の化学的に互いに異なる流動性の媒体、特にポリマの水溶液、分散液またはこれらから成る組合せ物を塗被するための方法および装置ならびにその使用に関する。
【0002】
米国特許第5665163号明細書に記載の発明は、空気吸込み部を備えたフィルム塗工装置に関する。たとえば抄紙機またはカレンダにおいて、均一の被覆フィルムが高い速度で基板に被着される。このためには、連続的に狭まる楔体が形成されており、さらに、連続的に変化する調節可能な楔体ならびに抽出通路が形成されている。この抽出通路は両楔形の区分の間に設けられている。このような解決手段によって、流体動力学的な不安定性が最小限に抑えられ、さらに、不均一な供給および動的な接触線と関連した可変流の影響も低減される。この被覆装置はさらに、封入された空気と過剰被覆剤とを塗工ゾーンから除去し、これにより塗工条件を安定化させ、かつ機械の運転条件を改善する。
【0003】
米国特許第5366551号明細書に記載の発明は、搬送されるウェブ状の材料のための被覆装置に関する。この被覆装置は、加圧下にある通路を有しており、この通路内では、被覆液の流れがまず基板と接触する。被覆したい流体は、前記通路に流入して基板を濡らす。この場合、この流体は、基板が搬送される方向と同じ方向に流れる。前記通路の流出部側には、ドクタエレメントが設けられており、このドクタエレメントでは通路内の過剰流体がドクタエレメントの輪郭に沿って通路から搬出される。この塗工装置の輪郭を制限する流線形の制限部のジオメトリは再循環する渦流およびこれに類するものの形成を阻止する。渦流の発生を阻止することにより、遠心力に基づいた不安定性の出現が減じられ、そして不均一な被覆体重量に現れる不都合な圧力変動が減じられる。再循環する渦流の発生を阻止することにより、さらに、被覆体の品質を著しく損ないかつ被覆体重量において不均一性および筋形成を招く恐れのある空気封入物または空気泡の形成も阻止される。
【0004】
米国特許第5735957号明細書に記載の発明は、オーバフロー装置を備えたフィルム状の被覆体を塗被するためのダブルチャンバ装置に関する。支持ロールの下方に塗被ヘッドが配置されており、この塗被ヘッドは3つのセクションに分割されたハウジングを有している。第1のセクションはオーバフロー制限部と第1の側壁との間に規定される。第1の壁と第2の壁との間には、収束プレートが延びており、この収束プレートは基板へ向かって収束している。第2のセクションは収束プレートと閉鎖壁との間に形成されている。被覆は2つのセクションの内部で行われる。収束プレートと第1の壁ならびに第2の壁との間には、低い圧力のゾーンが形成されている。キャビティは第2のセクションの方向に開いていて、第2のゾーンから空気ならびに過剰被覆剤を引き出す。被覆したい基板は第1のゾーンの通過時に前湿潤され、封入された空気容量を排除された被覆体が第2のゾーン内で基板へ被着される。こうして被覆体重量の均一性ならびに高められた機械速度が達成される。
【0005】
国際公開第00/20123号パンフレットに記載の発明は、運動させられた表面に流動性の媒体を塗被するための装置および方法に関する。リザーブチャンバから、当該装置に沿って運動させられた表面へ流動性の媒体を塗被するための装置ならびにこのような装置の使用が開示されている。リザーブチャンバはシールギャップならびに流出ギャップの形成下に前記表面を部分的にカバーしている。媒体中での空気泡および空気封入物の形成を回避するためには、リザーブチャンバをプリチャンバとメインチャンバとに分割することが提案されている。両チャンバの間には分離エレメントが配置されている。この分離エレメントはドクタエレメントとして形成されていてよい。このドクタエレメントは前記表面と共に分離ギャップを仕切っている。分離エレメントの種々の形が提案されている。当該装置は特に、運動させられた表面へ重合体分散液を塗被するために適している。さらに、このような装置を運転するための方法も記載されている。国際公開第00/20123号パンフレットで提案された方法では、プリチャンバ内の塗被したい媒体の圧力が、メインチャンバ内の同媒体の圧力よりも高く調節される。
【0006】
刊行物「Perspektiven fuer die Verarbeitung von Dispersionshaftklebstoffen」(Sonderdruck Ti/ET 1654 d, BASF Ludwigshafen在、1993年8月、J.Tuerk, H.Fietzeck, H.HesseおよびI.Voges著)には、接着剤をリザーブチャンバ内で適当な手段によって加圧下にもたらすことが記載されている。これにより、高いローラ回転速度においても、彫刻溝の完全な充填が保証される。調節された圧力に関連して、流出ギャップでは接着剤の種々異なる量が彫刻溝外のローラ表面においても塗工装置から搬出される。こうして、ローラに塗被された接着剤の量を、ひいては被覆したいウェブに塗被された接着剤の塗被重量を、圧力使用なしに広い範囲内で調節することができる。さらに、リザーブチャンバ内の、より高い圧力に基づき、シールギャップでは著しく減少された量の空気しかリザーブタンク内に搬入されなくなり、こうして過剰の泡形成が阻止され得るようになる。
【0007】
しかし、ローラ回転速度が高く設定されれればされるほど、接着剤中への空気の搬入を有効に阻止するためにリザーブチャンバ内の圧力はますます高く設定されなければならなくなる。しかし最大達成可能なローラ回転速度は、圧力が引き続き増大されると、接着剤が一方ではシールギャップを通じて、他方では流出ギャップを通じてリザーブタンクからコントロールされないまま押し出されてしまうことにより制限されている。シールギャップを通じた接着剤の流出はこのシールギャップの手前で接着剤の望ましくない溜まりを招き、このことは塗工装置周辺の汚染や、極端な場合には運転故障を招いてしまう恐れがある。流出ギャップを通じた接着剤の、コントロールされていない流出は、やはりこれによって被覆したいウェブへの不均一な層塗被を招いてしまう。
【0008】
刊行物「Trends in der Hftmaterialindustrie」(Dr.Ruediger Panzer著, Herma GmbH社, DE-Filderstadt在,第4頁、図10)からは、500m/minを越えるまでの速度で分散液感圧接着剤を被覆するためにカーテンコーティングを使用することが知られている。スリット状に形成されたノズルから流出する材料はカーテンの形で、定位置のノズルの傍らを通って運動する基板、たとえば紙へ塗被される。流出ノズルは、ノズルの傍らを通って運動する基板の上方で規定の高さのところに位置している。カーテンコーティングによって、高い被覆速度が実現可能となると同時に均一な被覆体塗被が実現可能となる。別の利点としては、被覆したい基板の僅かな機械的負荷しか生じないことが挙げられる。最大1500m/minの速度で水性接着剤の良好な乾燥を達成するためには、高出力乾燥器が使用されなければならない。刊行物「Silikon−Haftkleberanlage mit 1000m/min.,Herausforderungen an einen Lieferanten von Beschichtungsmaschinen」[Ernst Meier著, Bachofen +Meier AG社, CH-Buelach在、段落B6(Auftragswerk fuer Dispersionshaftkleber)]からは、ハイスピードカーテンコータが知られている。水平方向に走行する製品ウェブにおいて、数センチメートルの間隔を置いて、高精密に製作されたスリットノズルが設備される。ノズルの流出横断面からは、被覆材料が、自由に存在するカーテンとして流出する。これにより、水平方向に運動する製品ウェブ、つまり被覆したい基板に被着された、無構造の、閉じられた均一の被覆体を達成することができる。このような被覆法を用いて最高の横断面品質を達成することができる。一方では塗被量を最小限に抑えることができ、これにより乾燥出力を低減させることができる。このことは生産コストを著しく減少させる。さらに、卓越した被覆パターン、つまり極めて平滑な無構造の表面を達成することができる。さらに、フィルム破砕効果(Filmsplitteffekt)も生じない。さらに、この方法によってポンプ回転数の制御を介して塗被重量の簡単な変更も達成可能である。さらに、被覆材料の循環量は極めて小さく、そして汚染傾向も少ない。
【0009】
刊行物「Curtain Coating Technology」(Dr.Peter M.Schweizer, Polytype)からは、スリット付けされたカスケードノズルならびにマルチカスケードノズルが知られている。上記刊行物の図1aに図示されているスリット付けされたカスケードノズルを用いて、2つの流体を塗被することができる。両流体は流出通路の開口部において共通のフィルムとして基板へ塗被され得る。上記刊行物の図1bに図示されているスリット付けされた装置からは、3つの互いに異なる流体が流出し得る。これらの流体は、たとえば重力に基づき50〜300mmの高さから、ノズルの傍らを通って運動する材料、たとえば製品ウェブに衝突する。スリット状に形成された変化実施例を用いると、最大3つの層を同時に被着させることができる。それに対して上記刊行物の図1bに図示されている変化実施例を用いると、最大10個の層を1回の作業工程で被着させることができる。
【0010】
刊行物「Premetered and Simultaneous Multilayer Technologies」(Dr.Peter M. Schweizer,Polytype)には、マルチカスケードノズルの変化実施例が開示されている。このマルチカスケードノズルを用いると、回転する、湾曲されて形成された表面、たとえばローラ周面へ複数の層を同時に塗被することができる。
【0011】
上で挙げた公知先行技術に鑑み、本発明の根底を成す課題は、2種の流動性の、ただし化学的に互いに異なる媒体を、運動させられた表面に1回の作業ステップで塗被することである。この場合、前記媒体はとりわけ互いに反応し合うことができ、そしてウェブの形で提供される基板に対する高い被覆速度が実現されなければならず、すなわちたとえばラミネートを製造するための基板への分散液の塗被が実現されなければならない。
【0012】
この課題は本発明によれば請求項1の特徴部に記載の特徴、つまり以下の方法ステップ:
a) 少なくとも2種の化学的に互い異なる流動性の媒体を、マルチカスケードノズルによって1回の作業工程で連続的に、ウェブ状の基板へ塗被し、
b) 多層塗被体の全量が2g/m〜200g/mであり、
c) 多層塗被体内の個々の層の相対比が0.1〜100である、
より成ることにより解決される。
【0013】
少なくとも2つの流出部を有する多重カスケードノズルもしくはマルチカスケードノズルを用いて、少なくとも2種の化学的に互い異なる流動性の媒体、たとえばポリマの水溶液、分散液またはこれらから成る組合せ物を塗被する、本発明により提案された解決手段により、接着剤系およびラッカならびに被覆体を形成することができる。少なくとも2段式に形成されたマルチカスケードノズルから流出する媒体の全量は、2〜200g/mであり、この場合、個々の層の相対比は0.1〜100の間で変動され得る。これによって、たとえば支持層上に極めて薄い接着層を塗布することができる。この場合、両層は同時に二次元の層形態で上下に重なり合った状態で、少なくとも2段式に形成されたカスケードノズルから連続的に流出し、そして高い速度でマルチカスケードノズルの流出開口の傍らを通って運動するウェブ状の基板に載着する。
【0014】
本発明により提案された方法は、複合シートおよび光沢シートの貼り合わせのために、またはウェブ状の基板、特に紙またはシートまたはこれに類するものに自己接着系を塗被するために使用することができる。提案された方法はさらに、ウェブ状の基板、たとえば紙、プラスチックシートの被覆または金属被覆された表面の被覆のために使用することができる。この場合、表面に面した側の層は付着改善のために働くか、またはバリヤ層として働くこともできる。
【0015】
本発明により提案された方法により、基板にラッカ層を施与することができる。この場合、ラッカ層はマルチカスケードノズルに基づき多層状の層構造を有している。これによって、弾性的でかつ硬質の複数の層を1回の作業工程で基板へ塗被することができる。この場合、硬質の層は上側に位置する層、つまりカバー層を形成する。
【0016】
少なくとも2つの流出段を有するマルチカスケードノズルの構成に基づき、たとえば混合時に通常ではゲル化または凝集の傾向を示すカチオン性のポリマおよびアニオン性のポリマをも問題なく塗被することができる。
【0017】
さらに、本発明により提案された方法によって、多価の金属塩または金属錯体の溶液をポリマ分散液と共に1回の作業工程で塗被することができる。このことは、別個の層塗被によって行うことができる。
【0018】
化学的に互い異なる媒体、すなわちマルチカスケードノズルを介して塗被したい層のうちの一方の層で、ポリイソシアネート、ポリエポキシドまたはポリアシリジンを、分散液を含有する他方の層と共に1回の作業工程で塗被することができる。これらの媒体は、通常では架橋剤として使用される、上で挙げた反応性の生成物の溶液であってもよい。少なくとも2段式に形成されたカスケードノズルにより、S/B分散液(スチロール−ブタジエン分散液)、アクリレート、エチレン、ビニルアセテート分散液およびポリウレタン分散液、ワックスエマルジョンまたはたとえば剥離層(付着防止層)であるシリコーンエマルジョンのような化学的に互い異なる分散液を、個々の層として1回の作業工程で塗被することができる。剥離層は付着防止層として働く。
【0019】
図面
以下に、本発明により提案された解決手段を図面につき詳しく説明する。
【0020】
図1は、マルチカスケードノズルを示す概略図であり、
図2は、流動性で化学的に互い異なる2種の媒体のフィルムを、フィルム厚さを著しく拡大した状態で示す概略図であり、
図3は、2つの支持基板の間の接着層と遮断層とを備えた接着系を示す概略図であり、
図4.1は、湾曲させられて形成された、マルチカスケードノズルの傍らを通って運動する外周面へのフィルム塗被のためのマルチカスケードノズルを示す概略図であり、
図4.2は、多層状の注ぎフィルムが、水平方向に搬送される基板上への塗被の前に所定の落下高さを進むようなマルチカスケードノズルの変化実施例を示す概略図であり、
図4.3は、マルチカスケードノズルの下側に設けられた共通の出口で該マルチカスケードノズルから流出する2種の媒体を塗被するためのマルチカスケードノズルの別の変化実施例を示す概略図である。
【0021】
実施例
図1に示した多重カスケードノズルもしくはマルチカスケードノズル1は、容器部分2とホッパ部分3とを有するマルチカスケードノズルである。ホッパ部分3の下方には、図平面に対して垂直に全幅にわたって延びる、横断面で見て先細りにされた通路が続いている。この通路の下端部には、被覆材料のための第1の流出横断面4が続いている。図1に示した第1の流出横断面4は、以下のような流出横断面である。すなわち、この流出横断面では、ホッパ部分3から同時に流出した複数の被覆体流が1つにまとめられて、一緒になって第1の流出横断面4の下方でマルチカスケードノズル1の傍らを通って運動するウェブ状の基板(図1には図示しない)へ衝突する。
【0022】
図2には、2種の流動性の、ただし化学的には互いに異なる媒体が示されている。両媒体はマルチカスケードノズル1から同時に流出する。マルチカスケードノズル1の流出横断面からは第1の流動性の媒体30がフィルム厚さ31で流出する。第1の流動性の媒体30がマルチカスケードノズル1から流出する際の注ぎ方向は符号34で示されており、第1の流動性の媒体30の流動方向もしくは落下方向は符号35で示されている。流動方向35で見て、第1の流動性の媒体30は、マルチカスケードノズル1の下方で運動するウェブ状の基板、たとえば紙ウェブまたはシートウェブの上面に衝突する。
【0023】
第1の流動性の媒体30と同時に、マルチカスケードノズル1の流出横断面からは別の第2の流動性の媒体32が流出する。第2の流動性の媒体32がマルチカスケードノズル1から流出する際のフィルム厚さは符号33で示されている。このフィルム厚さ33は、第1の流動性の媒体30がマルチカスケードノズル1から流出する際のフィルム厚さ31よりも数オーダだけ下にある。
【0024】
第1の流動性の媒体30と、この第1の流動性の媒体30に関して化学的に異なる第2の流動性の媒体32とは、一緒になって注ぎ方向34でマルチカスケードノズル1の流出横断面から流出して、注ぎ方向もしくは落下方向35で見て、ウェブ状の基板(図2には図示しない)の上面に衝突する。
【0025】
図2に示した流動性の、ただし化学的に互い異なる媒体30;32は、特に接着剤、ラッカまたは被覆体として使用されるポリマの水溶液、分散液またはこれらから成る組合せ物である。第1の流動性の媒体30もしくは第2の流動性の媒体32の、図2において著しく拡大されて図示された両フィルム区分はマルチカスケードノズル1によって1回の作業ステップで連続的にウェブ状の基板へ塗被される。この場合、このような多層塗被体の全量は2g/m〜200g/mである。多層塗被体内でのフィルム厚さ31とフィルム厚さ33との比は0.1〜100であって、用途に関連している。
【0026】
流動性の、ただし化学的に互い異なる両媒体30,32によって、複合シートまたは光沢シートを貼り合わせるか、またはウェブ状の基板に接着特性もしくは付着特性を付与することができる。ウェブ状の基板は特に紙、シートまたは金属被覆された表面である。被覆したい基板の表面に面した層は、付着の改善のために働くか、またはバリヤ層として働く。
【0027】
図2に概略的に示した多層塗被により、基板をラッカ塗布するか、もしくは弾性的でかつ硬質の複数の層を一緒に1回の作業工程でウェブ状の基板へ塗被することができる。提案された方法を用いて、特に、成層時にゲル化または凝集の傾向を示す恐れのあるカチオン性またはアニオン性のポリマの2つの層を1回の作業工程で一緒に塗被することができる。これらの層は特にカチオン性のポリマ溶液とアニオン性の分散液との組合せ物である。多価の金属塩または金属錯体の溶液をポリマ分散液と共に1回の作業工程で多層塗被体の形でウェブ状の基板もしくは湾曲させられて形成された、マルチカスケードノズルに対して相対的に運動する円筒体外周面、たとえばローラ外周面に塗被することができる。化学的に互いに異なる媒体30;32のうちのいずれか一方の媒体において、ポリイソシアネート、ポリエポキシドまたはポリアシリジン(Polyacyridine)を、特に分散液を含有する別の層と組み合わせることができる。
【0028】
さらに、架橋された反応性の生成物の溶液をウェブ状の基板、たとえば紙ウェブまたはシートウェブの上面に塗被することができる。
【0029】
流動性であり、ただし化学的に互いに異なる媒体30;32は、1回の作業工程で塗布可能なS/B分散液、アクリレート、エチレン/VAc分散液ならびにポリウレタン分散液、剥離層であるワックスエマルジョンまたはシリコーンエマルジョンならびにこれらの相互組合せ物である。
【0030】
さらに、濡れ性を改善するために、第2の流動性の媒体32を、極めて薄いフィルム厚さで剥離層に塗布することができる(図2参照)。
【0031】
図3には、接着システムが図示されている。この接着システムは、たとえば紙ウェブとして提供される第1の支持基板40を有している。この第1の支持基板40に向かい合ってウェブ状の第2の支持基板41が位置している。この第2の支持基板41はやはり紙ウェブまたはシートウェブの形で提供され得る。第1の支持基板40と第2の支持基板41との間には、接着層42も遮断層43も存在している。
【0032】
図4.1には、多層の被覆材料をローラ外周表面に塗被するマルチカスケードノズルが図示されている。
【0033】
マルチカスケードノズル1は化学的に互いに異なる流動性の媒体を収容するための複数の貯え通路60を有している。これらの貯え通路60には、それぞれ専用の供給管路53を介して被覆材料が供給される。各被覆材料はマルチカスケードノズル1の平坦側57に設けられた第1の流出横断面4と、第2の流出横断面5と、第3の流出横断面50とにおいてマルチカスケードノズル1から流出して、多層状に形成されたフィルム(被膜)を形成する。このフィルムはマルチカスケードノズル1の平坦側57に沿って支持楔体52にまで運動する。この支持楔体52は図4.1の実施例では、回転する湾曲させられた面55に側方で当て付けられている。回転する湾曲させられた面55は、たとえば駆動されるローラのローラ外周面であってよい。回転方向56に回転する湾曲させられた面55は、マルチカスケードノズル1の平坦側57から流出した多層フィルム51を受け取って、この多層フィルム51を、回転方向56におけるその回転に基づいて引取り方向54に引き取る。
【0034】
マルチカスケードノズル1の構造に基づき、個々の貯え通路60は互いに分離されている。図4.1に示したマルチカスケードノズル1において処理可能となる被覆材料には、それぞれ専用の流出横断面4;5;50が対応しているので、個々の被覆材料はマルチカスケードノズル1の平坦側57において各流出横断面4;5;50から流出した後ではじめて一緒にされて1つの多層フィルム51を形成し、そして多層フィルム51として支持楔体52において引取り方向54に引き取られる。
【0035】
図4.2に示したマルチカスケードノズルの変化実施例からは、マルチカスケードノズル1がこの変化実施例の場合にも、互いに分離された複数の貯え通路60を有していることが判る。各貯え通路60には、それぞれ専用の供給管路53を介して被覆材料が供給される。供給管路53を介してマルチカスケードノズル1に流入する被覆材料は、接着剤、ラッカおよび被覆体を製造するためのポリマ分散液の水溶液またはこれらからの組合せ物であってよい。図4.1および図4.2に示したマルチカスケードノズル1の構成により、弾性的でかつ硬質の複数の層を1回の作業工程で一緒に塗被することができる。多層フィルム51の形で1回の作業工程で、湾曲させられた面55もしくは水平方向でマルチカスケードノズル1を通過する製品ウェブに塗被することのできる、製造可能な層の数は、これらの層を形成する個々の流動性の、ただし化学的に互い異なる媒体が流出する貯え通路60の数に関連している。図4.1もしくは図4.2に示したマルチカスケードノズル1を用いると、たとえば3つの層を備えた多層フィルム51を製造することができる。
【0036】
貯え通路60内にそれぞれ貯えられた、化学的に互い異なる、ただし流動性の媒体は、マルチカスケードノズル1の平坦側57に設けられた対応する各流出横断面4;5;50から流出して、1つにまとめられて多層フィルム51を形成する。この多層フィルム51は重力に基づいて図4.2に示したマルチカスケードノズル1の平坦側57に沿って流れ落ちて、支持丸み付け部58として形成された突出部によって変向される。支持丸み付け部58から多層フィルム51はフィルムカーテンとして流れ落ちて、重力に基づき落下高さ59の通過後に、マルチカスケードノズル1に対して相対的にマルチカスケードノズル1の傍らを通って運動する、被覆したい製品ウェブ55の上面へ落下する。製品ウェブ55は搬送方向56に運動するので、多層フィルム51は落下高さ59の通過後に連続的な製品ウェブ55によって引取り方向54に引き取られる。落下高さ59の通過後の多層フィルム51の引取り時では、搬送方向56に運動する製品ウェブ55の上面に、均一な、ただし多層状の被覆フィルムが形成される。層厚さ(図2参照)に応じて、個々の層、つまり多層フィルム51のフィルムは互いに混ざり合わず、したがって搬送方向56に運動する製品ウェブ55の上面へ、たしかに1回の作業工程で同時に塗被され得るが、しかしほとんど混合されずに塗被される。このことは一方ではコンパクトな構造の塗被組合せ、すなわちたとえばシリコーン塗工装置等を回避して接着系を製造するための塗被組合せを可能にする。公知先行技術に基づき公知の、構成スペースのかかる乾燥装置のサイズを、一層小型に設定することができる。
【0037】
図4.3には、マルチカスケードノズル1のさらに別の変化実施例が示されている。図4.3に示したマルチカスケードノズル1は、楔状に形成された中央部分62と、第1の側方部分63と、第2の側方部分64とを有している。第1の側方部分63もしくは第2の側方部分64は、マルチカスケードノズル1の楔状に形成された中央部分62の当付け面65に接触している。中央部分62の当付け面65と、側方部分63;64の、前記当付け面65に面した面との間には、一方では供給管路53が形成され、他方では貯え通路60から通路開口部61にまで延びる通路が形成される。
【0038】
図4.3に示したマルチカスケードノズル1の変化実施例を用いると、化学的に互いに異なる2種の、ただし流動性の媒体が、共通の流出横断面6を介して、搬送方向56に運動する製品ウェブ55の上面へフィルムとして塗被され得る。通路開口部61から、水平方向にマルチカスケードノズル1の傍らを通って運動する製品ウェブ55の上面にまでの落下高さ59の通過後に、2層状に形成された多層フィルム51は引取り方向54で製品ウェブ55の上面によって引き取られて、この上面に均一に形成された被覆体を形成する。
【0039】
図4.3に示したマルチカスケードノズル1を用いると、たとえば図2に示した第1の流動性の媒体30もしくは第2の流動性の媒体32を、互いに異なるフィルム厚さ31;33で製品ウェブ55の上面に塗被することができる。互いに異なるフィルム厚さ31;33で共通の流出横断面6から流出した流動性の媒体30;32は、注ぎ方向34でマルチカスケードノズル1の共通の流出横断面6から流出して、流動方向35において、水平方向でマルチカスケードノズル1の傍らを通って運動する製品ウェブ55の上面に供給される。第1の流動性の媒体30のフィルム厚さ31と、第2の流動性の媒体32のフィルム厚さ33との比は、0.2〜100の範囲内で変化することができ、そして必要に応じて調節され得る。図2に戻って付言しておくと、第1の流動性の媒体30はたとえば20μmのフィルム厚さで塗被され、そしてその面には、たとえば約2μmのフィルム厚さ33で塗被される第2の流動性の媒体32が支持される。両流動性の媒体30;32は、たとえば図4.3に示したマルチカスケードノズル1の通路開口部61の下側で、共通の流出横断面6から同時に流れ落ちて、水平方向で通路開口部61の傍らを通って運動する材料ウェブ55の上面に衝突する。この材料ウェブ55は、図2に示した、たとえば2層に形成された多層フィルム51を引取り方向54で引き取る。
【0040】
図4.1、図4.2もしくは図4.3に示したマルチカスケードノズル1の種々の変化実施例を用いると、複合シートおよび光沢シートを貼り合わせることができるか、またはウェブ状の基板、たとえばプラスチックウェブまたは紙ウェブ55に、接着剤系の塗被によって付着特性を付与することができる。特にウェブ状の基板、たとえば紙ウェブ、プラスチックシートまたは金属被覆された表面を被覆することができる。この場合、この表面に面した側の層は付着の改善のために作用するか、またはバリヤ層として作用する。
【0041】
少なくとも2種の流動性の、ただし化学的に互いに異なる媒体を処理することのできるマルチカスケードノズル1により、貯え通路60の数に応じて2種、3種、4種、5種または多種の互いに異なる被覆材料を多層フィルム51として、たとえばウェブ状の形状で提供される基板55に塗被することができる。弾性的でかつ硬質の層は、対応するコンポーネントによる貯え通路60の負荷に応じて1回の作業工程で基板55に塗被され得る。すなわち、成層時にゲル化または凝集の傾向を示す恐れのあるカチオン性のポリマおよびアニオン性のポリマの2つの層を、本発明により提案された解決手段によって1回の作業工程で、ウェブ状の基板55に塗被することができるので特に有利である。多層フィルム51の形成による多層塗被体の全量は、要件および所望の層厚さに応じて2g/m〜200g/mの範囲内で変動され得る。多層フィルム51内の個々の層の相互比が0.1〜100であると、特に択一した結果の比が得られる。たとえば図4.3に示したマルチカスケードノズル1を介してウェブ状の基板55に塗被可能な両流動性の媒体30;32は、たとえばアニオン性の分散液中のカチオン性のポリマ溶液から成る組合せであってよい。さらに、多価の金属塩または金属錯体の溶液をポリマ分散液と共に製造することができる。流動性である少なくとも2種の、化学的に互い異なる媒体は、互いに組み合わされた形で1回の作業工程で同時に塗被される、分散液を含有する別の層を有するポリイソシアネート、ポリエポキシドまたはポリアクリジンであってよい。また、架橋剤として使用される反応性の生成物の溶液を1回の作業工程で、マルチカスケードノズル1の図4.1、図4.2および図4.3に示した変化実施例によってウェブ状の支持基板に塗被することもできる。流動性であるが、ただし化学的に互い異なる少なくとも2種の媒体30;32では、個々の層として1回の作業工程で、たとえばS/B分散液(スチロール/ブタジエン分散液)、アクリレート(分散液)、エチレン、ビニルアセテート分散液、ポリウレタン分散液、剥離層であるワックスエマルジョン(Waschemulsion)またはシリコーンエマルジョンを互いに組み合わされた形で塗被することができる。こうして、本発明により提案された方法により、たとえば第1の薄い層を濡れ性の改善のために剥離層に塗被することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】マルチカスケードノズルを示す概略図である。
【図2】流動性で化学的に互い異なる2種の媒体のフィルムを、フィルム厚さを著しく拡大した状態で示す概略図である。
【図3】2つの支持基板の間の接着層と遮断層とを備えた接着系を示す概略図である。
【図4.1】湾曲させられて形成された、マルチカスケードノズルの傍らを通って運動する外周面へのフィルム塗被のためのマルチカスケードノズルを示す概略図である。
【図4.2】多層状の注ぎフィルムが、水平方向に搬送される基板上への塗被の前に所定の落下高さを進むようなマルチカスケードノズルの変化実施例を示す概略図である。
【図4.3】マルチカスケードノズルの下側に設けられた共通の出口で該マルチカスケードノズルから流出する2種の媒体を塗被するためのマルチカスケードノズルの別の変化実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1 マルチカスケードノズル
2 容器部分
3 ホッパ部分
4 第1の流出横断面
5 第2の流出横断面
6 共通の流出横断面
30 第1の流動性の媒体
31 第1の流動性の媒体のフィルム厚さ
32 第2の流動性の媒体
33 第2の流動性の媒体のフィルム厚さ
34 注ぎ方向
35 流動方向
40 第1の支持基板
41 第2の支持基板
42 接着層
43 遮断層
50 第3の流出横断面
51 多層フィルム
52 支持楔体
53 供給管路
54 引取り方向
55 回転する、湾曲させられた面
56 回転方向
57 平坦側
58 支持丸み付け部
59 落下高さ
60 貯え通路
61 通路開口部
62 中央部分
63 第1の側方部分
64 第2の側方部分
65 当付け面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の、化学的に互い異なる流動性の媒体、特にポリマの水溶液、分散液またはこれらから成る組合せ物を接着剤、ラッカまたは被覆体として塗被するための方法において、以下の方法ステップ:
a) 少なくとも2種の化学的に互い異なる流動性の媒体を、マルチカスケードノズル(1)によって1回の作業工程で連続的に、ウェブ状の基板へ塗被し、
b) 多層塗被体の全量が2g/m〜200g/mであり、
c) 多層塗被体内の個々の層の相対比が0.1〜100である、
より成ることを特徴とする、少なくとも2種の、化学的に互い異なる流動性の媒体を塗被するための方法。
【請求項2】
当該方法を、複合シートおよび光沢シートの貼り合わせのために、またはウェブ状の基板、特に紙またはシートの付着性付与のために使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該方法を、紙、プラスチックシートまたは金属被覆された表面のようなウェブ状の基板の被覆のために使用し、この場合、表面に面した側の層が、付着改善のために作用するか、またはバリヤ層として作用する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
当該方法を、基板のラッカ塗布のために、弾性的でかつ硬質の複数の層を1回の作業工程で基板へ一緒に塗被するために使用する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
成層時にゲル化または凝集の傾向を示すカチオン性のポリマおよびアニオン性のポリマの2つの層を塗被する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記両層が、カチオン性のポリマ溶液とアニオン性の分散液とからの組合せである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ポリマ分散液を有する多価の金属塩または金属錯体の溶液を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
化学的に互い異なる層のうちの一方の層で、ポリイソシアネート、ポリエポキシドまたはポリアシリジンを、分散液を含有する他方の層と組み合わせる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記層が、架橋剤として使用される反応性の生成物の溶液である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
スチロール−ブタジエン分散液、アクリレート、エチレン、ビニルアセテート分散液およびポリウレタン分散液、剥離層(付着防止層)であるワックスエマルジョンまたはシリコーンエマルジョンのような化学的に互い異なる分散液を、個々の層として1回の作業工程で塗被する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記剥離層における濡れ性を改善するために、第1の薄い層が働く、請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4.1】
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【図4.2】
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【図4.3】
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【公表番号】特表2007−534468(P2007−534468A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553525(P2006−553525)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001559
【国際公開番号】WO2005/092514
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】