説明

尿素主成分(based)肥料のためのN−(n−ブチル)チオリン酸トリアミド含有添加物

固形の尿素−ホルムアルデヒドポリマー(UFP)、N−(n−ブチル)チオリン酸トリアミド(NBPT)、および場合によってはジシアンジアミド(DCD)から製造される、水性尿素主成分(based)肥料のための乾燥した(a dry)、流動性のある(flowable)添加物であって、その添加物を含む液体肥料は、土壌からの窒素の損失を低減させる。場合によっては、その乾燥添加物を溶融または固形の尿素とさらにブレンドして、土壌からの窒素の損失の少ない固形の尿素系肥料を形成させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、尿素含有肥料(urea-containing fertilizers)である。さらに詳しくは、本発明は、N−(n−ブチル)チオリン酸トリアミド(NBPT)、固形の尿素−ホルムアルデヒドポリマー(UFP)、および場合によっては、ジシアンジアミド(DCD)を含む、乾燥した(a dry)、流動性のある(flowable)添加物を開示するものであって、それを尿素主成分(based)肥料と組み合わせることにより、土壌からの窒素の損失を低減させる肥料を調製することができる。
【背景技術】
【0002】
窒素は、植物の重要な栄養素である。リン、カリウム、およびその他の栄養素に加えて、窒素は、植物体の成長と発育を支えるために必要である。例えば、マメ科植物のような、いくつかの植物は、リゾビウム属細菌との共生関係を介することによって、空気中から元素状窒素を固定し、その窒素を土壌の中に固定する。しかしながら、成長させてヒトおよび動物の食料を生産するための植物のほとんどのものは、それらを農業生産物として維持するには窒素肥料を必要としている。
【0003】
最も広く使用され、農業において重要な必要養分を多量に含む窒素肥料は、尿素、CO(NH22である。現在製造されている尿素のほとんどは、その粒状の形態で肥料として使用されているが、尿素主成分(based)液状肥料もまた周知である。本明細書で使用するとき、「液状肥料(fluid fertilizer)」という用語には、液体肥料(liquid fertilizer)、すなわち、肥料の水溶液、ならびに懸濁液肥料(suspension fertilizer)すなわち、水および水溶性成分に加えて、懸濁剤例えばクレーによって懸濁状態に維持されている不溶性成分もまた含む肥料組成物が包含される。懸濁液肥料は、殺虫剤および微量養素のための優れた担体である。
【特許文献1】米国特許第5,364,438号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に最もよく知られた尿素主成分(based)液体肥料は、尿素および硝酸アンモニウムの水溶液であるが、このものは、肥料の業界では、UAN溶液と呼ばれている。それらの液状肥料は、各種の作物、例えばトウモロコシおよびコムギの場合に使用されている。湿潤土壌に適用した場合、その液状肥料の尿素成分が、各種の真菌および細菌により産生される酵素である、ウレアーゼの触媒作用によって加水分解された結果として、アンモニア源となる。その過程は、米国特許第5,364,438号明細書に詳しく開示されている(この特許を、参照することにより本明細書に取り入れたものとする)。残念ながら、そのウレアーゼの触媒作用(the urease-catalyzed hydrolysis)による加水分解は、多くの場合、尿素が土壌に吸収されるよりもずっと早くにアンモニアに転化してしまい、その結果、「揮発(volatilization)」と呼ばれるプロセスによって、大気中にアンモニアが失われるので好ましくない。
【0005】
ウレアーゼ抑制剤は、尿素からアンモニアへの転化を遅らせ、窒素放出の時間を長引かせる。ウレアーゼ抑制剤の一つが、N−(n−ブチル)チオリン酸トリアミド(NBPT)である。尿素主成分(based)肥料の中に組み入れた場合、NBPTは、尿素が加水分解されてアンモニアとなる速度を低下させる。このことによって、土壌および植物が栄養素の窒素を、より長い時間にわたって利用できるようになる。NBPTは、有効なウレアーゼ抑制剤であるとして広く認められているものの、NBPTは取扱いが困難であるということでも有名であるが、その理由は、工業グレードのNBPTは、ワックス状で、粘着性があり、熱および水分の影響を受けやすい物質であるからである。その結果として、米国特許第5,364,438号明細書には、溶媒系が開示されたが、それによって、NBPTの溶液がUANに適用することが可能となった。しかしながら、この溶液には安定性の問題、さらには液状肥料の中への送達および計量仕込みの問題が存在している。
【0006】
米国特許第5,352,265号明細書には、約90〜99%の尿素と、0.02〜0.5%のNBPTと、約0〜2.2%のDCDとを含む粒状肥料が開示されている(この特許を、参照することにより本明細書に取り入れたものとする)。NBPTは、アミド溶媒中の濃縮溶液として溶融尿素に添加されている。DCDは固形物として、尿素溶融物に添加される。この粒状製品は、農作物に直接適用するように製造される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の乾燥した流動性のある添加物は、液体溶媒、好ましくはアミド溶媒中のNBPTの溶液または懸濁液を用いて、固形の尿素−ホルムアルデヒドポリマー(UFP)にコーティングすることにより、調製される。場合によっては、そのコーティングされたUFPを固形のDCDとブレンドしてもよい。その肥料を農作物に散布する前に、その乾燥した流動性のある添加物を、UAN溶液もしくは水性尿素とブレンドして液状の尿素含有肥料組成物を形成させるか、または、固形もしくは溶融尿素とブレンドして固形の尿素系肥料を形成させる。本発明は、取扱いが容易で貯蔵したときに安定な、液状または固形の肥料組成物を提供する。
【0008】
特に断らない限り、パーセントはすべて重量基準である。本発明は、液状肥料組成物であって、UANもしくは尿素、NBPT、および場合によってはDCDの水溶液を含む。UANまたは水性尿素のための乾燥した流動性のある添加物は、液体溶媒中のNBPTの溶液または懸濁液を用いて固形のUFPをコーティングすることによって、調製される。NBPTはその乾燥添加物の中に、約0.40〜15.0%の量で存在させる。固形のUFPは、約3.0〜15.0%の範囲で存在させる。場合によっては、このコーティングされたUFPに、固形のDCDを40.0〜95.0%の範囲で、そして二酸化ケイ素を約0〜3%の範囲でブレンドすることもできる。UANまたは尿素を適用する前に、その乾燥添加物を水性のUANまたは尿素と約0.4〜2.5%添加物の範囲でブレンドして、液状の尿素含有肥料組成物を形成させる。別な方法として、その乾燥した流動性のある添加物を溶融尿素または固形尿素に添加し、粉砕した乾燥肥料を得ることも可能である。本発明の組成物は、農作物に適用することにより、硝酸塩窒素の溶脱および脱窒が原因の、望ましくない表面塗布尿素からのアンモニア態窒素の損失および土壌中の窒素の損失を最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書全体において使用されている「NBPT」という用語は、N−(n−ブチル)チオリン酸トリアミドの純粋な形態のみならず、工業グレードまたは最高で50%までの不純物を含んでいてもよいその他のグレードの物質をも指している。好適なNBPTは、少なくとも50%純度であり、最も好ましいNBPTは、純度が50%を超え、約51〜90%純度の範囲である。NBPTはその乾燥した流動性添加物の中に、約0.4〜15.0%の範囲で存在させる。
【0010】
アミド溶媒例えばN−アルキル2−ピロリドン中のNBPTの溶液または懸濁液を使用して、本発明の乾燥した流動性のある添加物を調製する。その溶液または懸濁液には、約30%と約80%との間のNBPT、好ましくは約50%と約75%との間のNBPTが含まれる。そのNBPT溶液は、液体アミドの群から選択される溶媒、例えばN−アルキル2−ピロリドンの中にNBPTを溶解または懸濁させることによるか、あるいは、NBPT製造系の中に、ワックス状のNBPT固形物を回収するよりも、N−アルキル2−ピロリドンを添加することによってNBPT溶液を製造することにより調製することができる。別な方法として、さらなる溶媒を使用することなく、溶融させたNBPTを使用して、本発明においてUFPをコーティングしてもよい。
【0011】
本発明の固形のUFPは、約0.6%の反応性メチロール基を含むポリメチル尿素樹脂であれば好ましい。そのものは、0.1〜0.15μmの一次粒子を有していて、平均直径3.5〜6.5μmの凝集物を形成する。好適な固形のUFPは、アルベマール・コーポレーション(Albemarle Corporation)の商標、ペルゴパックM(PERGOPAK M)(登録商標)2として市販されている。その固形のUFPは、約3〜15%の範囲で乾燥した流動性のある添加物の中に存在させる。最も好適な固形のUFPは、ペルゴパックM(PERGOPAK M)(登録商標)2製品か、またはペルゴパックM(PERGOPAK M)(登録商標)2のための未精製前駆体である。
【0012】
本発明の任意成分であるDCDは、約50〜350μmの粒子範囲を有しているのが好ましい。DCDは、乾燥した流動性のある添加物の中に、約40〜95%の範囲で存在させる。本発明のさらなる実施態様においては、その乾燥した流動性のある添加物には、約1.0〜30.0%の固形のUFPおよび約99.0〜70.0%のDCDを含んでいてよい。
【0013】
その組成の残りのものは、主として水からなるが、N−アルキルピロリドンが小量存在していてもよい。その組成物には、場合によってはさらに、懸濁剤、例えばクレー、さらにはその他の添加物、例えば、除草剤、染料、NBPT安定剤、もしくは微量養素などが含まれていてもよい。場合によっては、流動剤の二酸化ケイ素を、乾燥した流動性のある添加物の約3%までの量で存在させる。
【0014】
任意成分のDCDを加えずに調製した乾燥した、流動性のある添加物には、約1〜80%のNBPTおよび約99〜20%の固形のUFPが含まれる。
【0015】
その乾燥した流動性のある添加物を、UAN溶液、水性尿素、または固形もしくは溶融尿素に、最終製品中で約0.1〜5.0%の範囲の添加物となるように添加する。その乾燥した流動性のある添加物を、液状UANもしくは尿素溶液、またはそれらのブレンド物に約0.4〜2.5%の範囲で添加して、液状肥料を形成させるのが好ましい。本発明の液状尿素主成分(based)肥料には、約0.004〜1.50%のNBPTと、約0.040〜0.850%のDCDと、約0.030〜約0.30%のUFPと、約99.9〜98.0%の水性のUANとが含まれる。場合によっては、約0.03%までの二酸化ケイ素をその肥料に加えることができる。その水性のUANには、約15〜50%の濃度範囲の尿素および硝酸アンモニウムが含まれる。好適な範囲は約25〜40%である。
【0016】
本発明のUAN主成分(based)液状肥料組成物は、現在UANが使用されているすべての農業用途において使用することができる。それらの適用には、極めて広い範囲の作物および芝種、耕運系、および施肥方法が含まれる。
【0017】
以下の例を用いて本発明を説明するが、それはいかなる点においても、本発明および特許請求項を限定するために提供されている訳ではない。
【実施例】
【0018】
この実施例は、乾燥した流動性のある添加物の組成物を実験室的に調製するものである。
【0019】
200グラムの、N−アルキル2−ピロリドン中50%NBPT溶液を、73.4グラムの固形のUFP(ペルゴパックM(PERGOPAK M)(登録商標)2)および0.5グラムの青色染料(FD&Cブルー#1)に添加した。その混合物をブレンドして、その青色染料の分布から判断して、均一な混合物が得られるまでブレンドを続けた。その混合物を1270グラムのDCDとブレンドし、均質な色となるまでさらにブレンドして、乾燥した流動性のある添加物を形成させた。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1において調製した、乾燥した流動性のある添加物を、水性のUANと混合して、液状尿素主成分(based)肥料を形成させ、当業者には公知の揮発試験の試験方法を使用して、アンモニアの揮発の抑制剤としての効力を試験した。対照サンプルにはNBPTを含まず、本発明の3種のサンプルではその最終的な液状UAN肥料組成物中に、それぞれ0.013%、0.026%、および0.051%のレベルでNBPTを含んでいた。NBPTを含まない液状UAN肥料(対照)に比較した場合、NBPTが、特に0.026%および0.051%のレベルで存在すると、アンモニアの損失を抑制するのに有効であることが見出された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.約1〜80%の範囲のNBPTと、
b.約99〜20%の範囲の固形のUFPと
を含むことを特徴とする液状肥料組成物。
【請求項2】
前記組成物は、DCDを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
a.約0.40〜15.0%の範囲のNBPTと、
b.約40〜95%の範囲のジシアンジアミドと、
c.約0〜3%の範囲の二酸化ケイ素と、
d.約3〜15%の範囲の固形のUFPと
を含むことを特徴とする尿素含有液状肥料のための乾燥した、流動性のある添加物。
【請求項4】
前記添加物は、水性尿素溶液とブレンドされて液状肥料を形成することを特徴とする請求項3に記載の添加物。
【請求項5】
前記添加物は、溶融尿素とブレンドされて固形肥料を形成することを特徴とする請求項3に記載の添加物。
【請求項6】
a.約0.004〜1.5%の範囲のNBPTと、
b.約0.040〜0.85%の範囲のDCDと、
c.約0〜0.03%の範囲の二酸化ケイ素と、
d.約0.03〜0.30%の範囲の固形のUFPと、
e.約98.0〜99.9%の範囲のUAN溶液もしくは水性尿素、またはそれらの混合物と
を含むことを特徴とする液状肥料組成物。
【請求項7】
前記水性尿素は、UANであることを特徴とする請求項6に記載の液状肥料。
【請求項8】
a.NBPTを用いて固形のUFPをコーティングする工程であって、前記NBPTが溶融されているか、または懸濁液もしくは溶液状態にある工程と、
b.DCDを添加する工程と、
c.場合によっては二酸化ケイ素を添加する工程と
を含み、
前記成分の最終的な範囲が、約0.4〜15%の範囲のNBPTと、約40〜95%の範囲のDCDと、約0〜3%の範囲の二酸化ケイ素と、約3〜15%の範囲のUFPとであることを特徴とする
UAN主成分(based)液状肥料のための乾燥した、流動性のある添加物を調製する方法。
【請求項9】
前記添加物を水性尿素と混合して、以下の
a.約0.004〜1.5%の範囲のNBPTと、
b.約0.040〜0.85%の範囲のDCDと、
c.約0〜0.03%の範囲の二酸化ケイ素と、
d.約0.03〜0.30%の範囲の固形のUFPと、
e.約98〜99.5%の範囲の水性尿素と
の組成を有する液状尿素主成分(based)肥料を得ることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水性尿素は、UANであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
a.約1.0〜30%の固形のUFPと、
b.約99.0〜70%のDCDと
を含むことを特徴とする乾燥した流動性の添加物。
【請求項12】
前記添加物は、液体または固形の天然肥料、廃棄物または堆肥とさらにブレンドされることを特徴とする請求項3に記載の乾燥した流動性の添加物。
【請求項13】
a.NBPTを用いて固形のUFPをコーティングする工程であって、前記NBPTが溶融されているか、または懸濁液もしくは溶液状態にある工程と、
b.DCDおよびUFPをブレンドする工程と、
c.UFPとNBPTとを合わせて、UFPおよびDCDとブレンドする工程、および
d.場合によっては二酸化ケイ素を添加する工程と
を含み、
前記成分の最終的な範囲が、約0.4〜15%の範囲のNBPTと、約40〜95%の範囲のDCDと、約0〜3%の範囲の二酸化ケイ素と、約3〜15%の範囲のUFPとであることを特徴とする
UAN主成分(based)液状肥料のための乾燥した、流動性のある添加物を調製する方法。
【請求項14】
前記NBPTは、少なくとも50%純度であることを特徴とする請求項3に記載の添加物。
【請求項15】
前記NBPTは、アミド溶媒中の溶液または懸濁液であることを特徴とする請求項14に記載の添加物。
【請求項16】
前記UFPは、ポリメチル尿素樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の添加物。
【請求項17】
前記UFPは、未精製のポリメチル尿素樹脂であることを特徴とする請求項16に記載の添加物。
【請求項18】
前記添加物は、染料製品を含むことを特徴とする請求項3に記載の添加物。
【請求項19】
前記添加物は、水性尿素溶液とブレンドされて液状肥料を形成することを特徴とする請求項1に記載の添加物。
【請求項20】
前記添加物は、溶融尿素とブレンドされて固形肥料を形成することを特徴とする請求項1に記載の添加物。


【公表番号】特表2009−523686(P2009−523686A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550440(P2008−550440)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/000906
【国際公開番号】WO2007/087180
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508210376)アグロテイン インターナショナル、 エル.エル.シー (1)
【氏名又は名称原語表記】AGROTAIN INTERNATIONAL, L.L.C.
【住所又は居所原語表記】One Angelica Street, St. Louis, MO 63147 U.S.A.
【Fターム(参考)】