説明

局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー

【課題】酸素濃度の変化に迅速に応答し、10nm以下の厚みでも十分に表面酸素濃度を可視化することの出来る局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーを提供する。
【解決手段】高分子超薄膜中に発光性機能性分子を導入した機能性高分子超薄膜と、金属ナノ粒子とを組み合わせて形成されている。励起光入射により金属ナノ粒子近傍に局在表面プラズモンを発生させ、光の局在化により電界を増強することで、発光性機能性分子の励起効率を二次元平面内で均一に増強可能に構成されている。末端にアクリロイル基、あるいはメタクリロイル基を有する白金ポルフィリン錯体とN-ドデシルアクリルアミドとのコポリマーを、ラジカル共重合により合成し、厚さ1.7nmの超薄膜を形成する。この超薄膜を、金属ナノ粒子単粒子層と3.4nmの最小距離で近接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は局在表面プラズモン励起を利用した超薄膜発光型センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば酸素センサーとして知られている酸素感応塗料は、酸素消光性を有する光励起物質を、塩化ビニル、ポリスチレン等の酸素透過性高分子材料に溶かしたものであった(例えば、特許文献1参照)。この酸素感応塗料を母材に塗布して酸素センサーとするが、この酸素センサーは、厚さが数百ナノメートルの薄膜であり、100nm以下となると色素を均一に分散したり、物体を均一に被覆したりすることが困難であり、供試体の微小空間での酸素濃度分布を可視化することが出来なかった。
【0003】
この改善策として、自己組織化単分子膜法やLB(Langmuir-Blodgett)法や酸化アルミナ被膜上への酸素応答性発光色素の化学・物理吸着法などが提案されている(非特許文献1参照)。これにより、発光色素を均一に分散し、表面を被覆することが可能になる。しかしながら、色素の絶対量が不足するため発光強度が不足し、表面酸素濃度分布の可視化は困難である、また被覆される基板に自由度がなくなる、などの問題点があった。
【0004】
一方、粒径が数ナノメートル程度である金あるいは銀からなる金属ナノ粒子は、可視光領域において、光と金属ナノ粒子内の自由電子とが相互作用することにより、金属ナノ粒子表面上に表面プラズモンを発生することができる(非特許文献2参照)。固体基板上に固定された金属ナノ粒子と発光性色素とを組み合わせることで、発光性色素の発光強度が増大することが知られている(非特許文献3参照)。局在表面プラズモンは、金属ナノ粒子の粒径と同等の距離に発生しており、発光性色素を局在表面プラズモンの影響する距離内に配置することが重要である。
【0005】
本発明者等は、LB法により作製される高分子超薄膜の機能性発現に関する研究を行っている(非特許文献4参照)。最近では、酸素応答性機能性高分子超博膜の作製、および金属ナノ粒子単粒子層の作製方法について報告を行っている(非特許文献5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−249076号公報
【非特許文献1】C. W. Rogers, and M. O. Wolf,“Luminescent molecular sensors based on analyte coordination to transition-metal complexes”,Coord. Chem. Rev.,2002,233,p.341
【非特許文献2】U. Kreibig, M. Vollmer,“Opticcal Properties of Metal Clusters”,Springr-Verlag, Berlin,1995
【非特許文献3】S. Pen, L. J. Rothberg,“Enhancement of platinum octaethyl porphyrin phosphorescence near nanotextured silver surfaces”,J. Am. Chem. Soc.,2006,127,p.6087
【非特許文献4】T. Miyashita,“Recent studies on functional ultrathin poolymer-films prepared by the Langmuir-Blodgett technique”,Prog. Polym, Sci.,1993,18,p.263
【非特許文献5】H. Tanaka, M. Mitsuishi, T. Miyashita,“Tailored-control of gold nanoparticle adsorption onto polymer nanosheets”,Langmuir,2003,19,p.3103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸素消光性を有する発光性色素を導入したナノメートルサイズの厚さを有する超薄膜によって対象表面を均一に被覆することができ、高い酸素消光性を有し、かつ測定に十分な発光強度を得ることができる、高感度の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属ナノ粒子表面に発生する局在表面プラズモン励起を利用することを特徴とした超薄膜発光型センサーについて説明する。
【0009】
本発明に係る局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーは、高分子超薄膜中に発光性機能性分子を導入した機能性高分子超薄膜と金属ナノ粒子とを組み合わせて形成され、励起光入射により前記金属ナノ粒子近傍に局在表面プラズモンを発生させ、光の局在化により電界を増強することで、前記発光性機能性分子の励起効率を二次元平面内で均一に増強可能に構成されていることを、特徴とする。
【0010】
本発明に係る局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーは、前記発光性機能性分子は前記金属ナノ粒子近傍にナノスケールの精度で配置されていることが好ましい。また、前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子であることが好ましい。前記発光性機能性分子は、ポルフィリン系色素であることが好ましい。発光部位の膜厚が、1nm以上10nm以下であってもよい。表面酸素濃度を可視化することができるよう構成されていてもよい。流体の流速を可視化することができるよう構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、銀ナノ粒子によって銀ナノ粒子表面に発生する表面プラズモンが入射光強度を増強し、その近傍に存在する発光物質の発光効率を高めることが可能である。これにより、酸素センサー発光部の薄膜の厚さが10ナノメートル以下でも十分に酸素センシング能を有する超薄膜を作製することができる。このセンサー薄膜は、ファイバー、マイクロチャンネルなどの微小領域での表面との複合も可能であり、遠隔計測が容易に実現できる。
【0012】
さらにはこのようなナノスケールの積層体により、様々な発光色素の発光強度の増強が可能となり、有機ELデバイスや光電変換素子として利用することができる。
【0013】
本発明によれば、酸素消光性を有する発光性色素を導入したナノメートルサイズの厚さを有する超薄膜によって対象表面を均一に被覆することができ、高い酸素消光性を有し、かつ測定に十分な発光強度を得ることができる、高感度の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
白金ポルフィリン錯体を3mol%含むコポリマーp(DDA/PtTPP)を4層、および銀ナノ粒子単粒子層を組み合わせた系で、Stern-Volmerプロットから得られるI0/I100=22(I0およびI100は、酸素濃度0%、100%における発光強度)という非常に酸素濃度に対し、高感度かつ発光効率の高い局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーを実現することができた。
【実施例】
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0016】
図面に基づき、この発明の実施例について述べる。まず図1に示す白金ポルフィリン錯体を含むアクリルアミド系ポリマーの合成方法について述べる。末端にアクリロイル基、あるいはメタクリロイル基を有する白金ポルフィリン錯体とN-ドデシルアクリルアミドとのコポリマーp(DDA/PtTPP)をラジカル共重合により合成した。未反応のN-ドデシルアクリルアミドおよび白金ポルフィリン錯体は、再沈殿法により除去することができる。白金ポルフィリン錯体の導入率は、10mol%以下が望ましい。
【0017】
銀ナノ粒子はクエン酸を還元剤とし、硝酸銀との混合・撹拌による還元法により作製した。この場合、銀ナノ粒子は、表面が負に帯電されていることを特徴とする。
【0018】
次に、図2に基づいて表面プラズモン励起可能な超薄膜の作製方法を述べる。図2は、p(DDA/PtTPP)超薄膜の作製方法であり、Langmuirトラフ2を用いた垂直浸漬法により、p(DDA/PtTPP)を固体の積層用基板1上に移しとる。この方法により、厚さ1.7nmのp(DDA/PtTPP)薄膜を任意の層数で積層させることができる。銀ナノ粒子単粒子層の作製方法として、アミノ基やピリジル基を有するコポリマーをテンプレートとして銀ナノ粒子層を固定化する。これらのナノ薄膜の積層の順番は、どちらからでもかまわない。
【0019】
酸素濃度を0%から100%に変化させた酸素/アルゴン混合気体の表面吹き付けにより、酸素感度試験を行った。分光蛍光光度計(株式会社日立製作所社製、製品名「F-4500」)を用いた測定結果を図3に示す。図3は、白金ポルフィリン錯体を3mol%含むコポリマーp(DDA/PtTPP)LB膜4層と銀ナノ粒子層とを積層したサンプルの発光スペクトルである。サンプル全体の膜厚は、82nm(ただし銀ナノ粒子70nmを含む)である。p(DDA/PtTPP)LB膜からの発光が660nmを中心として観測され、酸素濃度とともに速やかに消光している。
【0020】
次に、図4に基づいて発光特性について述べる。図4は、図3の発光ピーク波長660nmでの発光強度より求めたStern-Volmerプロットである。酸素濃度に応じ単調に発光強度が変化していることが確認され、酸素センサーとして十分機能することが確認された。さらに図4では、酸素濃度の低い領域において傾きが急峻になっていることから、特に低酸素濃度側での精度が高いことがわかり、数%以上の分析精度が確認される。
【0021】
また比較例として、銀ナノ粒子層を用いず、p(DDA/PtTPP)のみで作製した薄膜との比較を行ったところ、酸素濃度0%での発光強度において、銀ナノ粒子層の挿入により、4.7倍の発光強度の増強が確認された。
【0022】
図5は、窒素気流を吹き付けた時の蛍光顕微鏡像である。窒素ガスは、0〜0.5L/minで基板表面に吹き付けている。サンプルは、図3および図4と同様である。p(DDA/PtTPP)LB膜4層と銀ナノ粒子単粒子層とを組み合わせると、窒素流量の違いにより生じる表面酸素濃度を、p(DDA/PtTPP)の発光強度の違いにより可視化できている。さらに、窒素流量に応じ発光量が変化していることから、流体の流量センサーとしての応用も可能である。
【0023】
さらに、白金ポルフィリン錯体を含んだコポリマーp(DDA/PtTPP)の代わりに、ルテニウム錯体を含んだコポリマーp(DDA/AA)-Ru(dpphen)32+を用いた局在表面プラズモン励起型超薄膜においても、同様に酸素濃度の増加に伴う消光が確認されている。この系でもI0/I100=2.5が達成されている。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーは、光機能性、電子機能性材料として使用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーの、特定発光物質の一例としての白金ポルフィリン錯体を有するポリマーを示す化学構造である。Rは、メチル基もしくは水素原子である。
【図2】本発明の実施の形態の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーの、LB膜を得るための装置を模式的に示した斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーの、酸素濃度に対する発光スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーの、酸素濃度に対するStern-Volmerプロットを示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサーの、異なる窒素流量下での使用状態を示す蛍光顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0026】
1 積層用基板
2 トラフ
3 バリア
4 表面圧検出装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子超薄膜中に発光性機能性分子を導入した機能性高分子超薄膜と金属ナノ粒子とを組み合わせて形成され、励起光入射により前記金属ナノ粒子近傍に局在表面プラズモンを発生させ、光の局在化により電界を増強することで、前記発光性機能性分子の励起効率を二次元平面内で均一に増強可能に構成されていることを、特徴とする局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項2】
前記発光性機能性分子は前記金属ナノ粒子近傍にナノスケールの精度で配置されていることを、特徴とする請求項1記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子は銀ナノ粒子であることを、特徴とする請求項1または2記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項4】
前記発光性機能性分子はポルフィリン系色素であることを、特徴とする請求項1、2または3記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項5】
発光部位の膜厚が1nm以上10nm以下であることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項6】
表面酸素濃度を可視化することができるよう構成されていることを、特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。
【請求項7】
流体の流速を可視化することができるよう構成されていることを、特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の局在表面プラズモン励起型超薄膜発光型センサー。


【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232853(P2008−232853A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73367(P2007−73367)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :KJF2006 Conference Chair Prof.Futao Kaneko 刊行物名 :KOREA−JAPAN JOINT FORUM 2006 Organic Materials for Electronics and Photonics 要旨集 発行年月日:2006年10月2日 発行者名 :東北大学 工学研究科 応用化学・化学工学・バイオ工学・生物工学専攻 環境科学研究科 環境化学・生態学コース 刊行物名 :平成18年度 博士論文本審査(研究発表)要旨集 発行年月日:平成19年2月1日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】