局所再生装置とフィルタ係数生成装置と、それらの方法とプログラム
【課題】再生領域を任意の場所に設定することが出来る局所再生装置と、その局所再生装置で用いるディジタルフィルタ係数を生成するフィルタ係数生成装置を提供する。
【解決手段】スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、GH=Cの線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出し、M=Nの場合はH=G−1C、M>Nの場合はH=(G†G)−1G†C、M<Nの場合はH=G†(GG†)−1Cとして求める(G†はGの複素共役転置行列)。
【解決手段】スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、GH=Cの線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出し、M=Nの場合はH=G−1C、M>Nの場合はH=(G†G)−1G†C、M<Nの場合はH=G†(GG†)−1Cとして求める(G†はGの複素共役転置行列)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特定の場所に居る人々にのみ音を伝えることが可能な局所再生装置とフィルタ係数生成装置と、それらの方法とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカを用いて音響信号を再生する場合、そのスピーカの指向特性の影響はあるものの、スピーカに対してほぼ全方向から再生音を聴取することが可能である。そのため、ある特定の領域(エリア)のみに音を再生するような局所音響再生方式の構築を目指した場合、スピーカなどの拡声装置や再生方式に工夫が必要である。
【0003】
特定の場所に居る人々にのみ音を伝えることが可能となれば、拡声による通信を行う際に、再生音が聴取者以外の人々にとって騒音とならない。また、通信内容が周囲に漏れないのでプライバシーの保護も可能になる。
【0004】
特定のエリアに音を閉じ込めるように工夫した再生方法としては、非特許文献1に開示された多点制御法が知られている。多点制御法とは、空間上に配置された複数の制御点において所望の音圧特性が得られるように、複数のスピーカとディジタルフィルタを用いて放射音の制御を行う手法である。あるスピーカnからある制御点mまでの伝達関数をGmn(ω)とすると、各スピーカの放射音を決めるフィルタ係数Hn(ω)は式(1)を満たすように求められる。
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)の右辺のベクトルは、各制御点における所望の音圧特性に対応する複素振幅の値を指定する。
【0007】
この考えに基づく局所再生装置900の機能構成例を図8に示す。局所再生装置900は、スピーカアレー91と92と、それぞれのスピーカに接続されるディジタルフィルタ93,94とで構成される。再生制御点aは、スピーカアレー91と92とがスピーカの放音側を対向して配置される中心(原点)に配置される。抑圧制御点cは、再生制御点aを中心として半径Rの半円の円周上に間隔を空けて複数箇所に配置される。減衰制御点bは、再生制御点aで直交するy軸上のRと−Rの位置からそれぞれ外側に複数個配置され、x軸のRの位置から原点から遠ざかる方向に複数個配置される。
【0008】
そして、各制御点の複素振幅値を指定する制御量を式(2)に示すように与える。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、L−sb*は原点から減衰制御点b*までの距離を表し、sは任意の定数とする。半径Rの内側の再生エリアの外側に減衰制御点b*を配置することで、再生エリア外の音圧の減衰特性を急峻に減衰させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】伊藤弘章、古屋賢一、羽田陽一、“エリア再生のための多点制御法による音波の減衰制御”電子情報通信学会2011年総合大会講演論文集、p.174, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の方法では、複数のスピーカを直線状に配置して構成したスピーカアレーを対向させて、その中間点(中心)を再生領域と指定しているので各スピーカからの音の指向特性はその中間点を中心とした同心円状に制御される。そのため、再生領域を任意の場所に設定することが出来ない課題があった。
【0013】
この発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、再生領域を任意の場所に設定することが可能な局所再生装置とフィルタ係数生成装置と、それらの方法とプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明のフィルタ係数生成装置は、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、次の線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成装置であって、
【0015】
【数3】
【0016】
スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係によって、複素行列Hを次式、
【0017】
【数4】
【0018】
で求める。
【0019】
また、この発明の局所再生装置は、2個以上のスピーカと、信号供給部とを備える。2個以上のスピーカは任意の位置に配置される。そして、任意の位置における複素振幅の値を0とする各スピーカからの距離がそれぞれ異なる位置に設けられる3個以上の抑圧制御点と、各スピーカと抑圧制御点との間の位置に複素振幅の値を1とする再生制御点とが設けられ、信号供給部内のディジタルフィルタのフィルタ係数は、上記したフィルタ係数生成装置で生成された値である。
【発明の効果】
【0020】
この発明のフィルタ係数生成装置によれば、スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係に基づいて、任意に配置されたスピーカにより任意の場所に再生領域を設定することができるフィルタ係数を生成することが出来る。また、この発明の局所再生装置は、この発明のフィルタ係数生成装置で求めたフィルタ係数を用いることで、2個以上のスピーカと3個以上の抑圧制御点との間の任意の位置に再生制御点を設けることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明のフィルタ係数決定装置100の機能構成例を示す図。
【図2】フィルタ係数決定装置100の動作フローを示す図。
【図3】この発明の局所再生装置200の機能構成例を示す図。
【図4】この発明の局所再生装置300の機能構成例を示す図。
【図5】この発明の局所再生装置400の機能構成例を示す図。
【図6】シミュレーションの条件を示す図。
【図7】シミュレーション結果を示す図。
【図8】非特許文献1に開示された局所再生装置900の機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。複数の図面中同一のものには
同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【実施例1】
【0023】
〔フィルタ係数生成装置〕
図1に、この発明のフィルタ係数生成装置100の機能構成例を示す。フィルタ係数生成装置100は、後述する局所再生装置が具備するディジタルフィルタのフィルタ係数を生成するものであり、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、各制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件の有無と、を入力として、スピーカの総数Nと制御点の総数Mに対応したフィルタ係数を自動的に生成する点で新しい。
【0024】
フィルタ係数生成装置100は、伝達関数算出部10と、フィルタ係数算出部20と、で構成される。伝達関数算出部10は、スピーカの位置Xn=[xn,yn,zn]と、制御点の位置Xm=[xm,ym,zm]を入力として、スピーカから各制御点までの伝達関数Gmn(ω)を次式によって求める。
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、‖Xm−Xn‖はスピーカnから制御点mまでのユークリッド距離を表す。cは音速である。ωは角周波数であり周波数fとの関係はω=2πfとして表される。
【0027】
フィルタ係数算出部20は、その伝達関数Gmn(ω)と、局所再生装置のスピーカの総数Nと、制御点の総数Mと、制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、拘束条件の有無を入力とする。拘束条件とは、制御点における観測音圧(複素振幅)が必ず制御量となる条件のことであり、再生音を必ず再生したい点と、音圧を抑圧したい点がある場合は、この拘束条件で設定する。
【0028】
フィルタ係数算出部20の動作を、拘束条件が無い場合で説明する。フィルタ係数算出部20では、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件の有無と、を入力とし、ディジタルフィルタに与えるフィルタ係数Hn(ω)を算出して出力する。制御量Cmは以下のように決定する。
【0029】
【数6】
【0030】
拘束条件が無い場合(ステップS21のNO)、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、式(5)の線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数Hn(ω)を算出する。
【0031】
【数7】
【0032】
そこで更に、スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係によって、複素行列Hを次式で求める。
【0033】
【数8】
【0034】
図2に示すフィルタ係数決定装置100の動作フローを参照してその動作を説明する。伝達関数算出部10は、スピーカの位置Xn=[xn,yn,zn]と、制御点の位置Xm=[xm,ym,zm]を入力として、各スピーカnと制御点mの位置情報から、スピーカと制御点間の距離‖Xm−Xn‖を算出する(ステップS11)。そして、スピーカから各制御点までの伝達関数Gmn(ω)を式(3)によって求める(ステップS12)。
【0035】
そして拘束条件の無い場合(ステップS21のNO)、フィルタ係数算出部20は、スピーカの総数Nと減衰制御点の総数Mとの数が等しい時(ステップS22のYES)、フィルタ係数Hn(ω)を、Hn(ω)=G−1C(式(6-1))として算出する(ステップS23)。
【0036】
減衰制御点の総数Mが、スピーカの総数Nよりも多い場合(ステップS24のYES)、フィルタ係数Hn(ω)は、最小二乗法による近似解として求められる。上記した式(5)の右辺と左辺の誤差の2乗をε(式(7))とし、
【0037】
【数9】
【0038】
この誤差の2乗εが最小となるようなHを求める。
【0039】
【数10】
【0040】
式(8)は∂ε/∂H=0とすることで解くことができる(式(6-2)ステップS25)。
【0041】
【数11】
【0042】
制御点の総数Mが、スピーカの総数Nよりも少ない場合(ステップS24のNO)、フィルタ係数Hn(ω)は、自身のノムル‖H‖が最小となるような解として求められる。上記した式(4)の解がH=G−Cと表されるとき、G−はGの一般逆行列として定義される。ノムル‖H‖が最小となるとき、Gは以下の式を満たす(ステップS26)。
【0043】
【数12】
【0044】
以上より、
【0045】
【数13】
【0046】
したがって、
【0047】
【数14】
【0048】
以上の処理は、全てのフィルタ係数Hn(ω)の算出が終了するまで(ステップS27のYES)繰り返される。
【0049】
拘束条件がある場合(ステップS21のYES)、制御点内の当該拘束条件を設けた制御点における制御量をC1=[1,0,0,…,0]Tと表し、当該制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【0050】
【数15】
【0051】
この拘束条件を設けた制御点以外の制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【0052】
【数16】
【0053】
とした時に、拘束制御点における上記拘束条件が成り立つ条件の下で、複素行列Hの複素共役転置行列をH†、空間相関行列KをK=G2G2Tとして、次式に示す最小二乗解を、
【0054】
【数17】
【0055】
フィルタ係数Hn(ω)に関して解いたフィルタ係数Hn(ω)を求める。このような条件付き最小化問題は、ラグランジェの未定定数法を用いることで解くことができる。そこで、この方法に基づいて最小化すべき評価関数Q(H)を次のように定義する。
【0056】
【数18】
【0057】
ここでΛはM個の未定係数からなる列ベクトルである。評価関数をHで微分した結果が零に等しいと置くことで、フィルタ係数を求めることができ。
【0058】
【数19】
【0059】
Λを決定するために、G1H=C1に代入すると、
【0060】
【数20】
【0061】
式(16)を式(15)に代入することで、フィルタ係数が以下のように与えられる(ステップS28)。
【0062】
【数21】
【0063】
なお、拘束条件がない場合に、スピーカの総数Nと制御点の数Mの大小関係によって、フィルタ係数Hn(ω)を要素とする複素行列Hを求める計算式を変更する例を説明したが、拘束条件がない場合、フィルタ係数を生成しないようにしても良い(ステップS21のNO〜終了の破線)。また、拘束条件がある場合にフィルタ係数を生成しないようにしたフィルタ係数生成装置としても良い(ステップS21のYES
〜終了の破線)。つまり、拘束条件の有無にそれぞれ対応する専用の装置として、この発明のフィルタ係数生成装置を構成しても良い。
【0064】
〔局所再生装置〕
図3に、局所再生装置200の機能構成例を示す。局所再生装置200は、任意の位置に配置される放音方向も任意である2個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは2以上の正数。各スピーカをanとする。)と、入力されたディジタル音響信号に各スピーカanに対応するディジタルフィルタ係数を時間領域に畳み込み各スピーカanに供給する供給信号を生成する信号供給部40とを備える。そして、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点であるその複素振幅の値を0とする各スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される3個以上の抑圧制御点×(図中の抑圧制御点は○付き)と、各スピーカanと抑圧制御点との間の任意の位置に複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点◎とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は、上記したフィルタ係数生成装置100で生成したフィルタ係数である。抑圧制御点×は、スピーカanと再生制御点◎を取り囲むように設けても良い。スピーカanは、2次元平面上の任意の位置に配置しても良いし、3次元空間上の任意の位置に配置しても良い。なお、スピーカanの数が2個の場合は、抑圧制御点の数は3個以上、スピーカanの数がN個の場合でも抑圧制御点は3個以上数を設ければ良い。
【0065】
信号供給部40は、各スピーカanに、それぞれ接続されるA/D変換器41nとディジタルフィルタ42nとD/A変換器43nとAMP44nの直列構成が、スピーカanの個数分並列に用意されて構成される。そして、複数のA/D変換器41nに一つの音響信号が入力される。ディジタルフィルタ42nのそれぞれには、上記したフィルタ係数生成装置100で算出されたディジタルフィルタ係数Hn(ω)が設定される。各ディジタルフィルタ42nは、入力されるディジタル音響信号にフィルタ係数Hn(ω)を畳み込むことで、各スピーカanを駆動するためのディジタル駆動信号Dn(ω)を生成し、この駆動信号に対応するD/A変換器43nに出力する。なお、駆動信号Dn(ω)は次式で表せる。
【0066】
【数22】
【0067】
ディジタルフィルタ係数Hn(ω)は、Q個の角周波数領域ω(q)毎に生成される。周波数の帯域分割数をQとし、q=0,1,…,Q−1とした場合、角周波数帯域は次式で表せる。
【0068】
【数23】
【0069】
ここでfsは、A/D変換器41nのサンプリング周波数である。
【0070】
フィルタ係数生成装置100は、角周波数帯域ω(q)におけるフィルタ係数Hn(ω(q))を算出し、それを逆フーリエ変換したものを各ディジタルフィルタ42nにおけるフィルタ係数として設定する。なお、周波数の帯域分割数Qの値を大きくとればフィルタとしての精度は高くなるが計算コストが大きくなる。分割数Qは任意に設定することができ、例えば数百程度の値とする。また、2のべき乗数に設定すると演算が高速化できる。なお、A/D変換器41nは、入力される音響信号がディジタル信号であれば無くても良い。また、周波数帯域は角周波数でなくても良い。
【実施例2】
【0071】
図4に、局所再生装置300の機能構成例を示す。3個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは3以上の正数。各スピーカをanとする。)は、直線で結ぶと平面が形成されるように配置される。3個以上のスピーカanが配置される座標系の原点αから所定の半径Rの円周上に4個以上の抑圧制御点×が設けられる。そして、3個以上のスピーカanと抑圧制御点との間に再生制御点◎が設けられる。4個以上の抑圧制御点×は、3次元空間上に配置される。抑圧制御点×は、スピーカanと再生制御点◎を取り囲むように設けられる。
【0072】
3個のスピーカanは、例えば図5に示すように3次元座標系のx-y平面の角に配置するようにしても良い。その場合の抑圧制御点×は、同一x-y平面上の原点αから所定半径r上の任意の位置に設けても良い。また、再生制御点◎は同一x-y平面上に設けられる。この例では、同一x-y平面上の再生制御点の音圧の制御精度を高めることが可能である。
【0073】
〔シミュレーション結果〕
この発明の局所再生装置の性能を確認する目的で、コンピュータシュミレーションを行った。実験条件を表1と図6に示す。
【0074】
【表1】
1組が12個のスピーカで構成されるスピーカユニットの中心は、x-y座標系の(0.4,0)、(−0.4,0)、(0,0.4)、(0,−0.4)の位置に放音方向を原点に向けた向きに配置される。そして、再生制御点◎は、(0.1,0.25)の位置に設けた。図7に、y=0.25上の音圧を測定した結果を示す。横軸はx軸上の位置、縦軸は音圧[dB]である。再生制御点◎のx座標:0.1上の音圧が0[dB]と最も高く制御されていることが分かる。
【0075】
このように、この発明の局所再生装置によれば音響信号の再生領域を特定エリア内に限定することが可能である。
なお、フィルタ係数生成装置100及び特定エリア音響再生装置200,300,400は、例えばROM、RAM、CPU等で構成されるコンピュータに所定のプログラムが読み込まれて、CPUがそのプログラムを実行することで実現されるように構成してもよい。
【0076】
その場合、その処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な任意の記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリがある。より具体的には、例えば、磁気記録装置として、ハードディスク装置、フレキシブルディスク、磁気テープ等を、光ディスクとして、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM(Random Access Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)等を、光磁気記録媒体として、MO(Magneto Optical disc)等を、半導体メモリとしてEEP-ROM(Electronically Erasable and Programmable-Read Only Memory)等を用いることができる。
【0077】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記録装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0078】
また、各手段は、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより構成することにしてもよいし、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアとして実現することとしてもよい。
【技術分野】
【0001】
この発明は、特定の場所に居る人々にのみ音を伝えることが可能な局所再生装置とフィルタ係数生成装置と、それらの方法とプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカを用いて音響信号を再生する場合、そのスピーカの指向特性の影響はあるものの、スピーカに対してほぼ全方向から再生音を聴取することが可能である。そのため、ある特定の領域(エリア)のみに音を再生するような局所音響再生方式の構築を目指した場合、スピーカなどの拡声装置や再生方式に工夫が必要である。
【0003】
特定の場所に居る人々にのみ音を伝えることが可能となれば、拡声による通信を行う際に、再生音が聴取者以外の人々にとって騒音とならない。また、通信内容が周囲に漏れないのでプライバシーの保護も可能になる。
【0004】
特定のエリアに音を閉じ込めるように工夫した再生方法としては、非特許文献1に開示された多点制御法が知られている。多点制御法とは、空間上に配置された複数の制御点において所望の音圧特性が得られるように、複数のスピーカとディジタルフィルタを用いて放射音の制御を行う手法である。あるスピーカnからある制御点mまでの伝達関数をGmn(ω)とすると、各スピーカの放射音を決めるフィルタ係数Hn(ω)は式(1)を満たすように求められる。
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)の右辺のベクトルは、各制御点における所望の音圧特性に対応する複素振幅の値を指定する。
【0007】
この考えに基づく局所再生装置900の機能構成例を図8に示す。局所再生装置900は、スピーカアレー91と92と、それぞれのスピーカに接続されるディジタルフィルタ93,94とで構成される。再生制御点aは、スピーカアレー91と92とがスピーカの放音側を対向して配置される中心(原点)に配置される。抑圧制御点cは、再生制御点aを中心として半径Rの半円の円周上に間隔を空けて複数箇所に配置される。減衰制御点bは、再生制御点aで直交するy軸上のRと−Rの位置からそれぞれ外側に複数個配置され、x軸のRの位置から原点から遠ざかる方向に複数個配置される。
【0008】
そして、各制御点の複素振幅値を指定する制御量を式(2)に示すように与える。
【0009】
【数2】
【0010】
ここで、L−sb*は原点から減衰制御点b*までの距離を表し、sは任意の定数とする。半径Rの内側の再生エリアの外側に減衰制御点b*を配置することで、再生エリア外の音圧の減衰特性を急峻に減衰させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】伊藤弘章、古屋賢一、羽田陽一、“エリア再生のための多点制御法による音波の減衰制御”電子情報通信学会2011年総合大会講演論文集、p.174, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の方法では、複数のスピーカを直線状に配置して構成したスピーカアレーを対向させて、その中間点(中心)を再生領域と指定しているので各スピーカからの音の指向特性はその中間点を中心とした同心円状に制御される。そのため、再生領域を任意の場所に設定することが出来ない課題があった。
【0013】
この発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、再生領域を任意の場所に設定することが可能な局所再生装置とフィルタ係数生成装置と、それらの方法とプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明のフィルタ係数生成装置は、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、次の線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成装置であって、
【0015】
【数3】
【0016】
スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係によって、複素行列Hを次式、
【0017】
【数4】
【0018】
で求める。
【0019】
また、この発明の局所再生装置は、2個以上のスピーカと、信号供給部とを備える。2個以上のスピーカは任意の位置に配置される。そして、任意の位置における複素振幅の値を0とする各スピーカからの距離がそれぞれ異なる位置に設けられる3個以上の抑圧制御点と、各スピーカと抑圧制御点との間の位置に複素振幅の値を1とする再生制御点とが設けられ、信号供給部内のディジタルフィルタのフィルタ係数は、上記したフィルタ係数生成装置で生成された値である。
【発明の効果】
【0020】
この発明のフィルタ係数生成装置によれば、スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係に基づいて、任意に配置されたスピーカにより任意の場所に再生領域を設定することができるフィルタ係数を生成することが出来る。また、この発明の局所再生装置は、この発明のフィルタ係数生成装置で求めたフィルタ係数を用いることで、2個以上のスピーカと3個以上の抑圧制御点との間の任意の位置に再生制御点を設けることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明のフィルタ係数決定装置100の機能構成例を示す図。
【図2】フィルタ係数決定装置100の動作フローを示す図。
【図3】この発明の局所再生装置200の機能構成例を示す図。
【図4】この発明の局所再生装置300の機能構成例を示す図。
【図5】この発明の局所再生装置400の機能構成例を示す図。
【図6】シミュレーションの条件を示す図。
【図7】シミュレーション結果を示す図。
【図8】非特許文献1に開示された局所再生装置900の機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。複数の図面中同一のものには
同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【実施例1】
【0023】
〔フィルタ係数生成装置〕
図1に、この発明のフィルタ係数生成装置100の機能構成例を示す。フィルタ係数生成装置100は、後述する局所再生装置が具備するディジタルフィルタのフィルタ係数を生成するものであり、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、各制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件の有無と、を入力として、スピーカの総数Nと制御点の総数Mに対応したフィルタ係数を自動的に生成する点で新しい。
【0024】
フィルタ係数生成装置100は、伝達関数算出部10と、フィルタ係数算出部20と、で構成される。伝達関数算出部10は、スピーカの位置Xn=[xn,yn,zn]と、制御点の位置Xm=[xm,ym,zm]を入力として、スピーカから各制御点までの伝達関数Gmn(ω)を次式によって求める。
【0025】
【数5】
【0026】
ここで、‖Xm−Xn‖はスピーカnから制御点mまでのユークリッド距離を表す。cは音速である。ωは角周波数であり周波数fとの関係はω=2πfとして表される。
【0027】
フィルタ係数算出部20は、その伝達関数Gmn(ω)と、局所再生装置のスピーカの総数Nと、制御点の総数Mと、制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、拘束条件の有無を入力とする。拘束条件とは、制御点における観測音圧(複素振幅)が必ず制御量となる条件のことであり、再生音を必ず再生したい点と、音圧を抑圧したい点がある場合は、この拘束条件で設定する。
【0028】
フィルタ係数算出部20の動作を、拘束条件が無い場合で説明する。フィルタ係数算出部20では、スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件の有無と、を入力とし、ディジタルフィルタに与えるフィルタ係数Hn(ω)を算出して出力する。制御量Cmは以下のように決定する。
【0029】
【数6】
【0030】
拘束条件が無い場合(ステップS21のNO)、フィルタ係数Hn(ω)を要素とするN行×1列の複素行列H、スピーカnから制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とするM行×N列の複素行列G、制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、式(5)の線形方程式を複素行列Hについて解くことでフィルタ係数Hn(ω)を算出する。
【0031】
【数7】
【0032】
そこで更に、スピーカの総数Nと制御点の総数Mの大小関係によって、複素行列Hを次式で求める。
【0033】
【数8】
【0034】
図2に示すフィルタ係数決定装置100の動作フローを参照してその動作を説明する。伝達関数算出部10は、スピーカの位置Xn=[xn,yn,zn]と、制御点の位置Xm=[xm,ym,zm]を入力として、各スピーカnと制御点mの位置情報から、スピーカと制御点間の距離‖Xm−Xn‖を算出する(ステップS11)。そして、スピーカから各制御点までの伝達関数Gmn(ω)を式(3)によって求める(ステップS12)。
【0035】
そして拘束条件の無い場合(ステップS21のNO)、フィルタ係数算出部20は、スピーカの総数Nと減衰制御点の総数Mとの数が等しい時(ステップS22のYES)、フィルタ係数Hn(ω)を、Hn(ω)=G−1C(式(6-1))として算出する(ステップS23)。
【0036】
減衰制御点の総数Mが、スピーカの総数Nよりも多い場合(ステップS24のYES)、フィルタ係数Hn(ω)は、最小二乗法による近似解として求められる。上記した式(5)の右辺と左辺の誤差の2乗をε(式(7))とし、
【0037】
【数9】
【0038】
この誤差の2乗εが最小となるようなHを求める。
【0039】
【数10】
【0040】
式(8)は∂ε/∂H=0とすることで解くことができる(式(6-2)ステップS25)。
【0041】
【数11】
【0042】
制御点の総数Mが、スピーカの総数Nよりも少ない場合(ステップS24のNO)、フィルタ係数Hn(ω)は、自身のノムル‖H‖が最小となるような解として求められる。上記した式(4)の解がH=G−Cと表されるとき、G−はGの一般逆行列として定義される。ノムル‖H‖が最小となるとき、Gは以下の式を満たす(ステップS26)。
【0043】
【数12】
【0044】
以上より、
【0045】
【数13】
【0046】
したがって、
【0047】
【数14】
【0048】
以上の処理は、全てのフィルタ係数Hn(ω)の算出が終了するまで(ステップS27のYES)繰り返される。
【0049】
拘束条件がある場合(ステップS21のYES)、制御点内の当該拘束条件を設けた制御点における制御量をC1=[1,0,0,…,0]Tと表し、当該制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【0050】
【数15】
【0051】
この拘束条件を設けた制御点以外の制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【0052】
【数16】
【0053】
とした時に、拘束制御点における上記拘束条件が成り立つ条件の下で、複素行列Hの複素共役転置行列をH†、空間相関行列KをK=G2G2Tとして、次式に示す最小二乗解を、
【0054】
【数17】
【0055】
フィルタ係数Hn(ω)に関して解いたフィルタ係数Hn(ω)を求める。このような条件付き最小化問題は、ラグランジェの未定定数法を用いることで解くことができる。そこで、この方法に基づいて最小化すべき評価関数Q(H)を次のように定義する。
【0056】
【数18】
【0057】
ここでΛはM個の未定係数からなる列ベクトルである。評価関数をHで微分した結果が零に等しいと置くことで、フィルタ係数を求めることができ。
【0058】
【数19】
【0059】
Λを決定するために、G1H=C1に代入すると、
【0060】
【数20】
【0061】
式(16)を式(15)に代入することで、フィルタ係数が以下のように与えられる(ステップS28)。
【0062】
【数21】
【0063】
なお、拘束条件がない場合に、スピーカの総数Nと制御点の数Mの大小関係によって、フィルタ係数Hn(ω)を要素とする複素行列Hを求める計算式を変更する例を説明したが、拘束条件がない場合、フィルタ係数を生成しないようにしても良い(ステップS21のNO〜終了の破線)。また、拘束条件がある場合にフィルタ係数を生成しないようにしたフィルタ係数生成装置としても良い(ステップS21のYES
〜終了の破線)。つまり、拘束条件の有無にそれぞれ対応する専用の装置として、この発明のフィルタ係数生成装置を構成しても良い。
【0064】
〔局所再生装置〕
図3に、局所再生装置200の機能構成例を示す。局所再生装置200は、任意の位置に配置される放音方向も任意である2個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは2以上の正数。各スピーカをanとする。)と、入力されたディジタル音響信号に各スピーカanに対応するディジタルフィルタ係数を時間領域に畳み込み各スピーカanに供給する供給信号を生成する信号供給部40とを備える。そして、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点であるその複素振幅の値を0とする各スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される3個以上の抑圧制御点×(図中の抑圧制御点は○付き)と、各スピーカanと抑圧制御点との間の任意の位置に複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点◎とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は、上記したフィルタ係数生成装置100で生成したフィルタ係数である。抑圧制御点×は、スピーカanと再生制御点◎を取り囲むように設けても良い。スピーカanは、2次元平面上の任意の位置に配置しても良いし、3次元空間上の任意の位置に配置しても良い。なお、スピーカanの数が2個の場合は、抑圧制御点の数は3個以上、スピーカanの数がN個の場合でも抑圧制御点は3個以上数を設ければ良い。
【0065】
信号供給部40は、各スピーカanに、それぞれ接続されるA/D変換器41nとディジタルフィルタ42nとD/A変換器43nとAMP44nの直列構成が、スピーカanの個数分並列に用意されて構成される。そして、複数のA/D変換器41nに一つの音響信号が入力される。ディジタルフィルタ42nのそれぞれには、上記したフィルタ係数生成装置100で算出されたディジタルフィルタ係数Hn(ω)が設定される。各ディジタルフィルタ42nは、入力されるディジタル音響信号にフィルタ係数Hn(ω)を畳み込むことで、各スピーカanを駆動するためのディジタル駆動信号Dn(ω)を生成し、この駆動信号に対応するD/A変換器43nに出力する。なお、駆動信号Dn(ω)は次式で表せる。
【0066】
【数22】
【0067】
ディジタルフィルタ係数Hn(ω)は、Q個の角周波数領域ω(q)毎に生成される。周波数の帯域分割数をQとし、q=0,1,…,Q−1とした場合、角周波数帯域は次式で表せる。
【0068】
【数23】
【0069】
ここでfsは、A/D変換器41nのサンプリング周波数である。
【0070】
フィルタ係数生成装置100は、角周波数帯域ω(q)におけるフィルタ係数Hn(ω(q))を算出し、それを逆フーリエ変換したものを各ディジタルフィルタ42nにおけるフィルタ係数として設定する。なお、周波数の帯域分割数Qの値を大きくとればフィルタとしての精度は高くなるが計算コストが大きくなる。分割数Qは任意に設定することができ、例えば数百程度の値とする。また、2のべき乗数に設定すると演算が高速化できる。なお、A/D変換器41nは、入力される音響信号がディジタル信号であれば無くても良い。また、周波数帯域は角周波数でなくても良い。
【実施例2】
【0071】
図4に、局所再生装置300の機能構成例を示す。3個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは3以上の正数。各スピーカをanとする。)は、直線で結ぶと平面が形成されるように配置される。3個以上のスピーカanが配置される座標系の原点αから所定の半径Rの円周上に4個以上の抑圧制御点×が設けられる。そして、3個以上のスピーカanと抑圧制御点との間に再生制御点◎が設けられる。4個以上の抑圧制御点×は、3次元空間上に配置される。抑圧制御点×は、スピーカanと再生制御点◎を取り囲むように設けられる。
【0072】
3個のスピーカanは、例えば図5に示すように3次元座標系のx-y平面の角に配置するようにしても良い。その場合の抑圧制御点×は、同一x-y平面上の原点αから所定半径r上の任意の位置に設けても良い。また、再生制御点◎は同一x-y平面上に設けられる。この例では、同一x-y平面上の再生制御点の音圧の制御精度を高めることが可能である。
【0073】
〔シミュレーション結果〕
この発明の局所再生装置の性能を確認する目的で、コンピュータシュミレーションを行った。実験条件を表1と図6に示す。
【0074】
【表1】
1組が12個のスピーカで構成されるスピーカユニットの中心は、x-y座標系の(0.4,0)、(−0.4,0)、(0,0.4)、(0,−0.4)の位置に放音方向を原点に向けた向きに配置される。そして、再生制御点◎は、(0.1,0.25)の位置に設けた。図7に、y=0.25上の音圧を測定した結果を示す。横軸はx軸上の位置、縦軸は音圧[dB]である。再生制御点◎のx座標:0.1上の音圧が0[dB]と最も高く制御されていることが分かる。
【0075】
このように、この発明の局所再生装置によれば音響信号の再生領域を特定エリア内に限定することが可能である。
なお、フィルタ係数生成装置100及び特定エリア音響再生装置200,300,400は、例えばROM、RAM、CPU等で構成されるコンピュータに所定のプログラムが読み込まれて、CPUがそのプログラムを実行することで実現されるように構成してもよい。
【0076】
その場合、その処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な任意の記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリがある。より具体的には、例えば、磁気記録装置として、ハードディスク装置、フレキシブルディスク、磁気テープ等を、光ディスクとして、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM(Random Access Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)等を、光磁気記録媒体として、MO(Magneto Optical disc)等を、半導体メモリとしてEEP-ROM(Electronically Erasable and Programmable-Read Only Memory)等を用いることができる。
【0077】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記録装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0078】
また、各手段は、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより構成することにしてもよいし、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアとして実現することとしてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、
フィルタ係数Hn(ω)を要素とする上記N行×1列の複素行列H、スピーカnから上記制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とする上記M行×上記N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、上記制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、
次の線形方程式を上記複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成方法であって、
【数24】
上記スピーカの総数Nと上記制御点の総数Mの大小関係によって、上記複素行列Hを次式、
【数25】
で求めることを特徴とするフィルタ係数生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載したフィルタ係数生成方法において、
さらに上記制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件を入力とし、
上記制御点内の当該拘束条件を設けた制御点における制御量をC1=[1,0,0,…,0]Tと表し、当該制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【数26】
上記拘束条件を設けた制御点以外の上記制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【数27】
とした時に、上記拘束制御点における上記拘束条件が成り立つ条件の下で、複素行列Hの複素共役転置行列をH†、空間相関行列KをK=G2G2Tとして、次式に示す最小二乗解を、
【数28】
フィルタ係数Hn(ω)に関して解いたフィルタ係数Hn(ω)を、
求めることを特徴とするフィルタ係数生成方法。
【請求項3】
入力されたディジタル音響信号に、任意の位置に配置される2個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは2以上の正数。各スピーカをanとする。)にそれぞれ対応するディジタルフィルタ係数を時間領域で畳み込み、上記各スピーカに供給する音声信号を生成する音声信号生成過程を含む局所再生方法であって、
上記スピーカa1,…,aNと、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点である上記複素振幅の値を0とする上記スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される3個以上の抑圧制御点と、上記スピーカと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法で生成された値であることを特徴とする局所再生方法。
【請求項4】
請求項3に記載した局所再生方法において、
上記スピーカa1,…,aNは、各スピーカanを直線で結ぶと平面が形成されるように配置された3個以上のスピーカであって、
任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点である上記複素振幅の値を0とする上記スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される4個以上の抑圧制御点と、上記スピーカanと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法で生成された値であることを特徴とする局所再生方法。
【請求項5】
請求項4に記載した局所再生方法において、
上記3個以上のスピーカa1,…,aNは、2次元平面上に配置され、上記制御点も当該2次元平面上に設けられることを特徴とする局所再生方法。
【請求項6】
スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、
フィルタ係数Hn(ω)を要素とする上記N行×1列の複素行列H、スピーカnから上記制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とする上記M行×上記N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、上記制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、
次の線形方程式を上記複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成装置であって、
【数29】
上記スピーカの総数Nと上記制御点の総数Mの大小関係によって、上記複素行列Hを次式、
【数30】
で求めることを特徴とするフィルタ係数生成装置。
【請求項7】
任意の位置に配置される2個以上のスピーカと、入力されたディジタル音響信号に上記各スピーカに対応するディジタルフィルタ係数を時間領域で畳み込み上記スピーカに供給する供給信号を生成する信号供給部と、を備えた局所再生装置であって、
上記スピーカと、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点であり上記複素振幅の値を0とする上記スピーカからの距離がそれぞれ異なる位置に設けられる3個以上の抑圧制御点と、上記スピーカと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成装置で生成された値であることを特徴とする局所再生装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法、又は請求項3乃至5の何れかに記載した局所再生方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項1】
スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、
フィルタ係数Hn(ω)を要素とする上記N行×1列の複素行列H、スピーカnから上記制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とする上記M行×上記N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、上記制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、
次の線形方程式を上記複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成方法であって、
【数24】
上記スピーカの総数Nと上記制御点の総数Mの大小関係によって、上記複素行列Hを次式、
【数25】
で求めることを特徴とするフィルタ係数生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載したフィルタ係数生成方法において、
さらに上記制御点における複素振幅の値を拘束する拘束条件を入力とし、
上記制御点内の当該拘束条件を設けた制御点における制御量をC1=[1,0,0,…,0]Tと表し、当該制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【数26】
上記拘束条件を設けた制御点以外の上記制御点において成り立つ線形方程式を次式、
【数27】
とした時に、上記拘束制御点における上記拘束条件が成り立つ条件の下で、複素行列Hの複素共役転置行列をH†、空間相関行列KをK=G2G2Tとして、次式に示す最小二乗解を、
【数28】
フィルタ係数Hn(ω)に関して解いたフィルタ係数Hn(ω)を、
求めることを特徴とするフィルタ係数生成方法。
【請求項3】
入力されたディジタル音響信号に、任意の位置に配置される2個以上のスピーカa1,…,aN(ただし、Nは2以上の正数。各スピーカをanとする。)にそれぞれ対応するディジタルフィルタ係数を時間領域で畳み込み、上記各スピーカに供給する音声信号を生成する音声信号生成過程を含む局所再生方法であって、
上記スピーカa1,…,aNと、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点である上記複素振幅の値を0とする上記スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される3個以上の抑圧制御点と、上記スピーカと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法で生成された値であることを特徴とする局所再生方法。
【請求項4】
請求項3に記載した局所再生方法において、
上記スピーカa1,…,aNは、各スピーカanを直線で結ぶと平面が形成されるように配置された3個以上のスピーカであって、
任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点である上記複素振幅の値を0とする上記スピーカanからの距離がそれぞれ異なる位置に配置される4個以上の抑圧制御点と、上記スピーカanと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法で生成された値であることを特徴とする局所再生方法。
【請求項5】
請求項4に記載した局所再生方法において、
上記3個以上のスピーカa1,…,aNは、2次元平面上に配置され、上記制御点も当該2次元平面上に設けられることを特徴とする局所再生方法。
【請求項6】
スピーカの位置とその総数Nと、制御点の位置とその総数Mと、上記制御点における複素振幅の値を指定する制御量Cmと、を入力とし、
フィルタ係数Hn(ω)を要素とする上記N行×1列の複素行列H、スピーカnから上記制御点mまでの伝達関数Gmn(ω)を要素とする上記M行×上記N列の複素行列G、その複素行列Gの複素共役転置行列をG†、上記制御量Cmを要素とするM行×1列の複素行列をCとしたときに、
次の線形方程式を上記複素行列Hについて解くことでフィルタ係数を算出するフィルタ係数生成装置であって、
【数29】
上記スピーカの総数Nと上記制御点の総数Mの大小関係によって、上記複素行列Hを次式、
【数30】
で求めることを特徴とするフィルタ係数生成装置。
【請求項7】
任意の位置に配置される2個以上のスピーカと、入力されたディジタル音響信号に上記各スピーカに対応するディジタルフィルタ係数を時間領域で畳み込み上記スピーカに供給する供給信号を生成する信号供給部と、を備えた局所再生装置であって、
上記スピーカと、任意の位置における複素振幅の値を指定する制御点であり上記複素振幅の値を0とする上記スピーカからの距離がそれぞれ異なる位置に設けられる3個以上の抑圧制御点と、上記スピーカと上記抑圧制御点との間の位置に上記複素振幅の値を1とする制御点である再生制御点とが設けられ、上記ディジタルフィルタ係数は請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成装置で生成された値であることを特徴とする局所再生装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載したフィルタ係数生成方法、又は請求項3乃至5の何れかに記載した局所再生方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−110495(P2013−110495A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252382(P2011−252382)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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