説明

局所的な作用物質放出系及びその製造方法

【課題】連続的に製造されることができ、熱的に不安定な抗生物質も組み込むことができる、局所的な作用物質放出系及びその製造方法。
【解決手段】系がポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム又は硫酸バリウム及び薬剤学的作用物質から本質的に構成され、ラジカル重合により製造される球状体からなり、10〜80℃の温度で有効なラジカル重合活性剤又はその残留物が含まれていない局所的な作用物質放出系であり、a)前記成分を混合することによりペーストを製造し、その場合にペーストは室温で重力の作用により変形されないような粘度を有し;b)ペーストを射出成形装置により加熱せずに室温でほぼ球状又は回転対称の物体中へ射出成形するか又はほぼ球状又は回転対称の物体をワイヤ上へ射出成形し;c)前記物体を重合開始剤が分解する温度に加熱することによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、局所的に有効な作用物質放出系であって、前記系がポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム又は硫酸バリウム及び1つ又はそれ以上の薬剤学的作用物質から本質的に構成されているほぼ球状又は回転対称の物体からなる。
【背景技術】
【0002】
骨外科学における最も困難な挑戦の1つは、今日でさえ、骨髄炎の処置により提起されている。骨髄炎は、血行性、外傷後性又は術後性でありうる。処置するのが特に困難であるのは、骨髄炎の慢性形であり、これらは、極端な場合には、四肢の損失及び敗血症ですらまねきうる。
【0003】
共通の方法は、根治的な外科的な挫滅組織除去法(debridement)による外科治療である。この手順の間に、炎症を起こした又は壊死性の骨は、広範囲にわたって切除される。その後に、骨小腔は、局所的な抗生物質キャリヤーで充填されるか又は繰り返されるリンス−吸引ドレナージにより処置される。大量の抗生物質の局所的な放出の結果として、隣接した骨領域中に残留している病原細菌はまた、十分に骨に到達可能な殺菌性抗生物質、例えば硫酸ゲンタマイシン及び塩酸クリンダマイシンを用いた場合に効率的に制御される。
【0004】
ポリメタクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム及び抗生物質から構成されている球状の局所的な作用物質放出系は、1975年にKlaus Klemmにより初めて記載された(独国特許出願公開(DE)第23 20 373号明細書)。この構想は基本的には成功することが証明されたけれども、前記球体中に含まれていた作用物質のごく僅かな部分のみが放出されるという欠点を有していた。
【0005】
この作用物質キャリヤーのさらなる開発として、Heuser及びDingeldeinにより1978年に抗生物質の放出を改善するためにグリシン又は他のアミノ酸を添加することが提案されていた(独国特許出願公開(DE)第26 51 441号明細書)。傷からの分泌物と接触した後に、配合されたアミノ酸は溶解され、かつ多孔系を形成し、これから作用物質は拡散することができる。このようにして作用物質の改善された放出は達成される。
【0006】
ポリメタクリル酸メチル、X線用の不透明化剤及び抗生物質から主に構成されている局所的な作用物質放出系は、特殊な射出成形方法(独国特許出願公開(DE)第 23 20 373号明細書)によるか又は特殊な型中での抗生物質を含有しているポリメタクリル酸メチル骨セメントの注型(欧州特許出願公開(EP)第796 712号明細書)によるいずれかで製造されることができる。射出成形は、ポリマーを溶融させるために>120℃の温度が必要とされるという決定的な欠点を有する。結果として、熱的に不安定な抗生物質又は他の熱的に不安定な作用物質をこれらの局所的な作用物質放出系に組み込むことは不可能である。結果として、常用の射出成形により製造されるゲンタマイシンの負荷された作用物質放出系が、Septopal(登録商標)の名称で市場で入手可能である唯一のものとなっている。ゲンタマイシンは、極度に熱的に安定である抗生物質である。しかしながら、耐性の、及び特に多剤耐性の細菌の蔓延が増大することを考慮して、別の抗生物質が局所的な作用物質放出系において望ましい。残念なことに、これらの抗生物質、例えばバンコマイシン及びテイコプラニンは熱的に不安定である。結果として、射出成形によりこれらの抗生物質を有する局所的な作用物質放出系を製造することはこれまで不可能であった。
【0007】
この点での選択肢は、欧州特許出願公開(EP)第796 712号明細書に提案されており、これに従い熱的に不安定な作用物質を用いるインプラント材料を製造することが可能である。この方法の間に、常用のPMMA骨セメントは1つ又は複数の抗生物質と混合され、かつ例えばプラスチック製の相応する型中へ移送される。常用のPMMA骨セメントは、粉末成分(ポリマー粉末、X線用の不透明化剤及び重合開始剤から構成されている)及びメタクリル酸メチル、安定剤及び重合活性剤を含有している液状モノマー成分からなる。双方の成分の混合後に、重合活性剤及び重合開始剤は互いに遭遇し、かつメタクリル酸メチルのラジカル重合が開始される。ほんの数分後にPMMA骨セメントは硬化されている。この硬化挙動の結果として、欧州特許出願公開(EP)第796 712号明細書に提案された型を用いて、バッチ法においてのみ常用のPMMA骨セメントを使用することにより鎖型の作用物質放出系を製造することが可能である。それゆえに工業的な条件下での連続製造は不可能である。この製造方法の場合に、N,N−ジメチル−p−トルイジンは、PMMA骨セメントにおける重合活性剤として使用される。
【特許文献1】独国特許出願公開(DE)第23 20 373号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開(DE)第26 51 441号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開(EP)第796 712号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、連続的に製造されることができる局所的に有効な作用物質放出系を開発するという課題に基づいている。前記製造方法は、熱的に不安定な抗生物質も前記作用物質放出系中へ組み込むことを可能にすべきである。独国特許出願公開(DE)第23 20 373号明細書及び欧州特許出願公開(EP)第796 712号明細書に記載された方法の欠点が克服されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、系がポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム又は硫酸バリウム及び薬剤学的作用物質から本質的に構成されており、かつラジカル重合により製造される球状体からなる局所的な作用物質放出系を開発することにより達成され、その場合に、10〜80℃の温度範囲内で有効なラジカル重合活性剤又は、そのような重合活性剤、特に芳香族アミン、重金属塩及びバルビツラートの群からの残留物が含まれていない。
【0010】
特に、本発明による作用物質放出系は、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N,−ビス−ヒドロキシエチル−p−トルイジン又はラジカル重合の開始の間に形成されたそれらの副次生成物を含有しない。
【0011】
本発明はまた、
a)メタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム及び/又は硫酸バリウム、1つ又はそれ以上の薬剤学的作用物質及び熱的に分解するラジカル開始剤を混合することによりペーストを製造し、その場合に前記ペーストは室温で重力の作用により変形されないような粘度を有し;
b)前記ペーストを、射出成形装置により加熱せずに室温でほぼ球状又は回転対称の物体中へ射出成形するか又はほぼ球状又は回転対称の物体をワイヤ上へ射出成形し;
c)前記物体を、重合開始剤が分解する温度に加熱する
ことによる、局所的な作用物質系の製造方法に関する。
【0012】
加熱は、例えば赤外線の作用によるか又は熱風の作用によるか又はマイクロ波の作用により行われることができる。
【0013】
硬化する前にペーストの固有質量の結果として重力の作用によりこれらが変形されないか又は、前記物体が糸上へ射出成形される際に、糸から剥離しない程度に機械的に安定であることは前記ペーストから製造される物体にとって重要である。
【0014】
専門家が通常使用されるとみなす熱的に分解するラジカル開始剤は、特に、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル及びアゾイソブチロジニトリルからなる群からのものである。
【0015】
工程b)において熱開始剤の分解温度の範囲内の温度に予熱したワイヤが好ましくは使用される。前記ワイヤの予熱により、硬化が赤外線、熱風の作用によるか又はマイクロ波により行われる前に射出成形された物体の内部で重合を開始することが可能である。結果として、前記物体は前記ワイヤ上に特に安定に接着する。
【0016】
射出成形工具は好ましくはテフロン又は他の不活性なプラスチック製である。
【0017】
本発明は、次の例により十分に説明されるが本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0018】
例1
ポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル570.0g(分子量約(〜)800,000g/mol)、メタクリル酸メチル285.0g、二酸化ジルコニウム89.0g、硫酸ゲンタマイシン42.0g(AK 600)、3:1の質量比の過酸化ジベンゾイル及び水の混合物8.8g及びグリシン15.0gのペーストを、激しく混合することにより製造する。この粘稠なペーストを用いて、7mmの直径を有するほぼ球状の物体を、射出成形装置を用いてポリフィラメントの外科用鋼線上へ射出成形する。前記射出成形方法を室温で行う。その後に、前記物体を、80℃の温度でトンネル乾燥器中で硬化させる。形成された物体は約(〜)240mgの質量を有する。
【0019】
例2
ポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル570.0g(分子量約(〜)800,000g/mol)、メタクリル酸メチル285.0g、二酸化ジルコニウム89.0g、塩酸バンコマイシン45.0g、3:1の質量比の過酸化ジベンゾイル及び水の混合物8.8g及びグリシン15.0gのペーストを、激しく混合することにより製造する。形成されたペーストを用いて、7mmの直径を有するほぼ球状の物体を、射出成形装置を用いてポリフィラメントの外科用鋼線上へ射出成形する。その直後に、前記物体を、輻射加熱器を用いて継続的に硬化させる一方で、射出成形した物体を赤外線の作用により60〜70℃に加熱し、かつ重合を開始させる。硬化した物体は約(〜)240mgの質量を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム又は硫酸バリウム及び1つ又はそれ以上の薬剤学的作用物質、特に抗生物質から本質的に構成されており、かつラジカル重合により製造される、ほぼ球状の又は回転対称の物体からなる局所的な作用物質放出系において、
10〜80℃の温度範囲内で有効なラジカル重合活性剤又は芳香族アミン、重金属塩及びバルビツラートの群からのこれらの重合活性剤の残留物が含まれていないことを特徴とする、局所的な作用物質放出系。
【請求項2】
N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N,−ビス−ヒドロキシエチル−p−トルイジン又はラジカル重合の開始の間に形成されたそれらの副次生成物が含まれていない、請求項1記載の局所的な作用物質放出系。
【請求項3】
請求項1又は2記載の局所的な作用物質放出系の製造方法において、
a)メタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチル−コ−アクリル酸メチル、二酸化ジルコニウム及び/又は硫酸バリウム、1つ又はそれ以上の薬剤学的作用物質及び熱的に分解するラジカル開始剤を混合することによりペーストを製造し、その場合に前記ペーストは、室温で重力の作用により変形されることができないような粘度を有し;
b)前記ペーストを、射出成形装置により加熱せずに室温でほぼ球状の又は回転対称の物体中へ射出成形するか又はほぼ球状の又は回転対称の物体をワイヤ上へ射出成形し;
c)前記物体を、重合開始剤が分解する温度に加熱する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の局所的な作用物質放出系の製造方法。
【請求項4】
工程c)において赤外線の作用によるか又は空気の作用によるか又はマイクロ波の作用によって加熱を行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル及びアゾイソブチロジニトリルの群からの1つ又はそれ以上の物質を、熱的に分解するラジカル開始剤として使用する、請求項3又は4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程b)において熱開始剤の分解温度の範囲内の温度に予熱したワイヤを使用する、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
射出成形工具がテフロン又は他の不活性なプラスチック製である、請求項3から6までのいずれか1項の方法。

【公開番号】特開2007−209763(P2007−209763A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30742(P2007−30742)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】