説明

屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンまたはチタン合金の表面の白色度および耐変色性を向上させる処理方法、およびそのチタンまたはチタン合金

【課題】 IT分野、AV機器、家電製品、家具のような、基本的に屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンに関して、チタン表面の白色度を向上させ、かつ製品の使用期間中に変色することを防ぐ処理方法、及びそれにより得られるチタンを提供する。
【解決手段】 結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下であるチタンまたはチタン合金を硝酸とフッ酸の混合の溶液中で酸洗し、しかる後にチタンまたはチタン合金を、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液に30秒以上180分以下の間、塗布または浸漬処理により浸し、その後洗浄することを特徴とする、屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンまたはチタン合金の表面の白色度、および製品使用時の耐変色性を向上させる処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラ、持ち運び可能なパーソナルコンピューター、ミュージックプレーヤー、携帯電話、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、炊飯器、ポット、電子レンジ、トースター、キッチンシンク、レンジフード、照明器具、家具のような、基本的に屋内で使用されるケースが多いIT分野、AV機器、家電製品等の部材(筐体として使用される場合が多い)に用いられるチタンまたはチタン合金(以降、これらを総称してチタンと記載する)の、表面の白色度を高め、かつ製品使用中に変色して意匠性が大きく損なわれることを防止する処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンは貴金属に近い耐食性を示すことから、塗装を省略して、金属本来の質感が好まれるような機器の素材として使用することができる。このような特徴から、デジタルカメラ、持ち運び可能なパーソナルコンピューター、ミュージックプレーヤー、携帯電話のようなIT分野およびAV機器の部材、あるいは冷蔵庫、掃除機、洗濯機、炊飯器、ポット、電子レンジ、トースター、キッチンシンク、レンジフード、照明器具、家具等のような、基本的に屋内の環境で使用される製品の部材への適用が検討あるいは実施されている。
【0003】
しかし上記製品は、白色度の高いものがユーザーに求められることが多いが、白色度の高い表面をチタンで作り出すことは容易ではない。
また、屋内環境で使用される製品の部材にチタンを使用することは、極めて優れた耐食性を有するチタンにとって厳しい腐食環境ではないが、長期間に亘って使用された時にチタン表面が黄色く変色し、本来の裸の金属が有する質感が大きく損なわれる場合がある。
【0004】
そこで、変色を防止する方法として、金属表面を無機系のクリアー塗装を用いる方法が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−148520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている様な、クリアー塗装することによって金属本来の表面質感が損なわれてしまい好ましくない。
また、このような機器へのチタンの適用がごく最近に開始されたことから、屋内環境で使用される製品の使用時に、変色しにくいチタン表面をいかに作り出すかについて有効な方法が開示されていない状況にある。
さらに、ユーザーに求められる様な白色度の高い表面をチタンでいかに作り出すかについても、有効な方法が開示されていない。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、デジタルカメラ、持ち運び可能なパーソナルコンピューター、ミュージックプレーヤー、携帯電話、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、炊飯器、ポット、電子レンジ、トースター、キッチンシンク、レンジフード、照明器具、家具のような、基本的に屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンに関して、チタン表面の白色度を向上させ、かつ製品の使用期間中に変色することを防ぐ処理方法、およびそれにより得られるチタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下であるチタンまたはチタン合金を硝酸とフッ酸の混合の溶液中で酸洗し、しかる後、チタンまたはチタン合金を、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液に30秒以上180分以下の間、塗布または浸漬処理により浸し、その後洗浄することを特徴とする、屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンまたはチタン合金の表面の白色度、および製品使用時の耐変色性を向上させる処理方法。
(2) 結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下であるチタンまたはチタン合金を硝酸とフッ酸の混合の溶液中で酸洗し、しかる後、チタンまたはチタン合金を、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液に30秒以上180分以下の間、塗布または浸漬処理により浸し、その後洗浄して得られることを特徴とする、白色度の高い表面を有し、耐変色性が良好な、屋内環境で使用される製品の部材用のチタンまたはチタン合金。
【発明の効果】
【0008】
本発明の処理方法を施したチタンまたはチタン合金は、極めて長期間に及ぶ屋内試験においても良好な白色度を維持しており、IT分野、AV機器、家電、家具、装飾品等のように、基本的に屋内環境で使用される製品の部材として適した白色度の高い表面を有し、かつ製品使用時の耐変色性が良好である。従って、屋内環境で使用される製品の部材用のチタンを提供する方法として極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、チタンの強度向上技術として用いられる結晶粒径の細粒化技術と、チタン表面のスケール除去に用いられる硝酸とフッ酸溶液中での酸洗技術を組み合わせたところ、チタン表面の白色度を飛躍的に高めることができ、さらに、酸洗後、所定の濃度、温度での硝酸溶液を塗布あるいは硝酸溶液中に浸漬することによって、使用中の変色も防止し得ることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。以下に詳細に説明する。
【0010】
IT分野、AV機器、家電、家具および装飾品等の部材として使用されるチタンは、寸法精度、加工の容易さ等の点で、冷延後、焼鈍されたチタンが用いられる。
本発明では、このような工程で製造されるチタンの焼鈍温度を560〜670℃の範囲で、また焼鈍の保定時間(左記温度)を4時間から6時間の範囲で調節することにより、チタン板の結晶粒径をJIS G0551に規定される粒度番号で、6以上11.5以下とする。
粒度番号が6未満では、結晶粒径が大きすぎるため、硝酸とフッ酸の混合溶液中で酸洗したときに十分な白色度を得ることができない。一方、粒度番号が11.5を超えるチタンでは、焼鈍温度を著しく低くする必要があるため、加工に十分な軟質化が達成できず、加工する場合に問題を発生するケースがある。なお、好ましい粒度番号の範囲は8以上11以下である。
【0011】
続いて、上記のごとく結晶粒径を制御したチタン板を、硝酸とフッ酸の混合溶液中で酸洗を実施する。酸洗では、チタン板表面が溶解し、表面に凹凸が形成され、十分な白色度を得られる時間、上記溶液を噴霧あるいは溶液中にチタン板を浸漬すればよい。
【0012】
硝酸とフッ酸の混合比について、特に規定するものではないが、酸洗中にチタン表面より水素が侵入しないために、一般的に酸化性の酸である硝酸濃度を高めにする。例えば硝酸(15〜40質量%)、フッ酸(1〜2質量%)、温度24〜60℃で、酸洗時間は1〜5分が例示される。なお酸洗温度は、より好ましくは45〜60℃である。
この様に、チタンの結晶粒度の調整と酸洗処理によって、白色度の高い表面を有するチタンを得ることができる。白色度としては、色彩測定(JIS Z8729法)のL* を指標として、69以上であれば良好な白色度であるとすることができる。
【0013】
しかしながら、上記の酸洗ままの状態で、屋内環境で使用される製品の部材として長期間使用された場合、白色度の高いチタン表面が黄色(あるいは赤みを帯びた黄色)に変色し、意匠性を著しく損なう場合がある。
そのため、上記の酸洗後、さらに硝酸をチタンに噴霧するか、硝酸溶液中に浸漬することで、耐変色性を良好にすることができる。
但し、硝酸処理の効果を発現させるには、硝酸濃度としては15質量%以上が必要となる。一方、硝酸濃度が71質量%を超えると、硝酸の酸化力が強すぎてチタンの溶出が促進されるため、71質量%を上限とする。なお、好ましい硝酸濃度は20〜40質量%である。
【0014】
また、硝酸溶液の温度については、40℃以上の溶液温度が必要となる。ただし100℃を超えると、硝酸濃度が高い場合と同じくチタンの溶解速度が増大する。従って、硝酸溶液の使用温度は40〜100℃とする。なお、好ましい硝酸溶液の使用温度は50〜80℃である。
【0015】
さらに、チタンを硝酸溶液に浸す時間(以下、浸漬時間という。)については、反応を十分進行するためには30秒以上は必要となる。ただし、180分を超えて浸しても耐変色性の改善効果はほぼ飽和してしまうことから、180分を上限とする。
尚、浸漬時間については、処理する硝酸濃度と温度との相関があることが考えられるが、本発明の硝酸濃度、温度の範囲内では、硝酸濃度、温度に依らず、浸漬時間は30秒以上180分以下で良い。
【0016】
また、上記の浸漬に代えて、硝酸溶液を酸洗後のチタン表面に塗布しても良いが、硝酸溶液の温度管理や蒸発の防止に注意が必要になる。すなわち、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液がチタン表面に塗布されている状態を、30秒以上180分以下の所望の時間保持できる様に、硝酸溶液の噴霧を適切に行うことが重要である。
また、硝酸溶液を用いた浸漬処理または塗布処理後は、硝酸がチタン表面に残存することを避けるために、純水、弱アルカリ水のような適切な水溶液でチタン表面を十分洗浄する。
【0017】
以上の通り本発明は、チタンの結晶粒径と酸洗とを適切に組み合わせることによってチタンの白色度を高める効果と、さらに酸洗後に硝酸処理を適用することによって、酸洗ままのチタンと比較して著しく耐変色性を向上し得ることを見出したものである。
硝酸処理による耐変色性の向上機構については未だ十分に解明されたわけではないが、本発明者らは、酸洗時、チタン表面に取り込まれたフッ化物が、硝酸処理によって溶解除去されると共に、極めて保護性に優れた不働態皮膜がチタン表面に形成されることによって、変色しにくくなると推定している。
【0018】
なお、本発明は、白色度の高いチタンが屋内環境において変色することを防止する方法を提供しているが、勿論、細粒化と酸洗の組み合わせを行わないことによる、白色度が高くないチタンに適用しても、変色の発生を防止することは可能である。
【0019】
部材として使用するためには、チタンを加工しやすいことが求められるため、通常、JIS 1種あるいは2種の工業用純チタンが用いられるが、本発明は、強度が必要とされるケースに用いられるJIS 3種から4種の工業用純チタンについても適用できる。
さらに本発明のチタンの処理方法は、チタン合金についても同様に適用できる。
ここでチタン合金とは、例えば耐食性を向上させるために微量の貴金属系の元素(パラジウム、白金、ルテニウム等)を添加したJIS 11種から23種等が挙げられる。
【0020】
なお、合金元素濃度を数質量%を超えて添加したチタン合金(高強度)では、合金元素によっては(例えばアルミニウム)、硝酸処理時に部分的に腐食、あるいは変色する場合もあるため、このようなチタン合金に本発明を適用する場合は、事前に合金元素の影響を調査しておくことが重要であり、それにより硝酸処理の濃度、温度、時間を、適宜調整することが推奨される。
【実施例】
【0021】
表1に示す様に、JIS1種の純チタンの冷延板(厚さ0.5mm)を用いて、真空焼鈍条件を変化させて、チタン板の結晶粒径を変化させ、続いて硝酸10質量%+フッ酸1質量%の混合水溶液中に、50℃で2分間浸漬させる酸洗処理を行った後、さらに各種濃度、温度の硝酸溶液中に浸漬または噴霧し、しかる後、純水でチタン表面を十分洗浄したチタン板を、屋内環境で1年間静置させる試験を行った。
【0022】
ここで、真空焼鈍条件としては、真空焼鈍温度、真空焼鈍時間を変化させたが、結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下とするには、真空焼鈍温度を560〜670℃、真空焼鈍時間を4〜6時間の範囲で変化させた。また、前記粒度番号で4とするには、真空焼鈍温度を710℃、真空焼鈍時間を3時間とした。
【0023】
試験前後の色差(ΔE)を下記式により、またチタンの白色度は、試験前のL* の値である、下記のL* 1 値で評価した。
ΔE={L* 2 −L* 1 2 +(a* 2 −a* 1 2 +(b* 2 −b* 1 2 1/2
によって耐変色性を評価した結果を示す。L* 1 ,a* 1 ,b* 1 は変色試験前の色彩の測定結果で、L* 2 ,a* 2 ,b* 2 は、変色試験後の色彩の測定結果で、JIS Z 8729法に規定されているL* * * 表色法に基づくものである。
【0024】
試験は、屋外での年間の平均気温が約15℃、平均相対湿度が約60%の条件の場所で、屋内環境で1年間試験を実施した。試験片は、処理面を上にして水平に保持した。試験環境は、屋外環境のように夜間結露する環境ではなく、また、勿論直接雨水が試験片にかかることはない。ただし、屋内の相対湿度を常に一定に保っているわけではなく、実際の使用条件を考え、外気は流入する条件で、かつ常時エアコンを稼働させてはいないため、外気の相対湿度の変化に応じて湿分が屋内に侵入し、室内の相対湿度も変化する環境である。
【0025】
表1から明らかなように、本発明に従い、前記粒度番号の6以上11.5以下のチタン板を用い、硝酸とフッ酸の混合溶液中で酸洗し、さらに硝酸溶液で処理したチタン板は69以上のL* 1 値を示すことから、良好な白色度を有し、かつ長期屋内試験後の色差が極めて低く、優れた耐変色性を有することが分かる。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下であるチタンまたはチタン合金を硝酸とフッ酸の混合の溶液中で酸洗し、しかる後、チタンまたはチタン合金を、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液に30秒以上180分以下の間、塗布または浸漬処理により浸し、その後洗浄することを特徴とする、屋内環境で使用される製品の部材に用いられるチタンまたはチタン合金の表面の白色度、および製品使用時の耐変色性を向上させる処理方法。
【請求項2】
結晶粒径がJIS G0551に規定される粒度番号で6以上11.5以下であるチタンまたはチタン合金を硝酸とフッ酸の混合の溶液中で酸洗し、しかる後、チタンまたはチタン合金を、濃度15〜71質量%、温度40〜100℃の硝酸溶液に30秒以上180分以下の間、塗布または浸漬処理により浸し、その後洗浄して得られることを特徴とする、白色度の高い表面を有し、耐変色性が良好な、屋内環境で使用される製品の部材用のチタンまたはチタン合金。


【公開番号】特開2006−249487(P2006−249487A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66524(P2005−66524)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】