説明

層状無機化合物フィルム

【課題】可撓性があり、耐熱性、寸法安定性に優れるフィルムを提供すること。
【解決手段】面内の少なくとも一方向のヤング率が6000MPa以上であり、面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLおよび150℃〜250℃の間の線膨張率αtHが各々15ppm/℃以下であり、200℃10分間の熱収縮率が縦方向および横方向のいずれも1.0%以下である層状無機化合物フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状無機化合物フィルムに関する。さらに詳しくは、薄膜太陽電池用の基板に適した層状無機化合物フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策および環境汚染対策の観点から、光エネルギーを直接電力に変換する光電変換素子として太陽電池が注目されている。この太陽電池には、一般的にガラスを基板材料とするリジットタイプと、フィルムを基板材料とするフレキシブルタイプとがある。
【0003】
そうした中で最近では、時計、あるいは携帯電話や携帯端末のような移動体通信機器の補助電源として、フレキシブルタイプの太陽電池が多く活用されるようになってきた。従来のリジットタイプは、フレキシブルタイプに比べると太陽電池セルでのエネルギーの変換効率は高いが、機器の薄型化や軽量化に限界があり、また衝撃を受けた場合には太陽電池モジュールが破損するケースも考えられる。このため、フレキシブルタイプの有用性は以前から注目されてきた。例えば特許文献1には、高分子フィルム基板上に変換素子としてアモルファスシリコン層を電極層で挟んだ構造の薄膜太陽電池が開示されており、その中でポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等が例示されている。また特許文献2〜4には、高分子フィルムからなる可撓性基板を用いた太陽電池モジュールが開示されている。
【0004】
太陽電池の基板フィルムとして使用する際に求められる特性としては、耐熱性、寸法安定性など多くの要求特性がある。また軽い、曲がる(フレキシブルである、可撓性が高い)というような点も、例えば宇宙用、軍用などで運搬が容易などの理由より重要視されている。太陽電池の基板として従来多く使用されているガラスは、耐熱性、寸法安定性は優れるが、重く、可撓性が低いという欠点がある。また、上記の如くの高分子フィルムを用いた場合には、軽く、可撓性があるという面ではよいが、耐熱性、寸法安定性の観点では不充分である。例えばCIS系(CIGS)太陽電池用の基板の場合では、CIS系膜を蒸着するあるいは焼成する工程で500〜550℃の熱がかかると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−198081号公報
【特許文献2】特開平2−260577号公報
【特許文献3】特公平6−5782号公報
【特許文献4】特開平6−350117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述のことより、可撓性があり、耐熱性、寸法安定性に優れるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の線膨張率を有する層状無機化合物フィルムが上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、面内の少なくとも一方向のヤング率が6000MPa以上であり、面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLおよび150℃〜250℃の間の線膨張率αtHが各々15ppm/℃以下であり、200℃10分間の熱収縮率が縦方向(製膜機械軸方向または塗布方向のことを示す。以下、長手方向と呼称する場合がある。)および横方向(面方向に縦方向と垂直な方向を示す。以下、幅方向と呼称する場合がある。)のいずれも1.0%以下である層状無機化合物フィルムである。
【0009】
さらに本発明は、面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLと150℃〜250℃の間の線膨張率αtHとの差が5ppm/℃以下であること、樹脂成分を0.1質量%以上40質量%以下含有すること、フィルムに成型された後、200℃以上で5秒以上熱処理されることのうち少なくとも1つの態様を具備することによって、さらに優れた層状無機化合物フィルムを得ることができる。
【0010】
また本発明は、太陽電池用に用いられることを好ましい態様とする。
さらに本発明は、本発明の層状無機化合物フィルムからなる基板上に金属裏面電極、光吸収層、窓層及び上部電極が積層された積層構造のCIS系化合物半導体薄膜太陽電池であって、前記光吸収層は、Cu(In1−yGa)(Se1−zからなる化合物でカルコパイライト型の構造を有し、且つその組成比が0.8≦x≦1.0、0.01≦y≦0.30、0≦z≦0.3である薄膜太陽電池を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可撓性があり、耐熱性、寸法安定性に優れるフィルムを提供することができる。かかるフィルムは、薄膜太陽電池用の材料として、とりわけ基板として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】CIS系化合物半導体薄膜太陽電池の基本構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[層状無機化合物フィルム]
本発明の層状無機化合物フィルムは、後述する層状無機化合物から主になるフィルムである。その他、可撓性を向上させたり、機械的強度を向上させたりする目的において樹脂成分や補強材などの添加剤を含有することができる。
【0014】
以下、本発明の層状無機化合物フィルムを構成する各成分について説明する。
(層状無機化合物)
本発明における層状無機化合物としては、好適には雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、薄片上チタンなどが挙げられる。フィルムとするには、これらのうちの少なくとも1種以上を用いることができる。これらの層状無機化合物は、天然物であっても合成物であってもよい。また、天然物を単独で用いてもよいし、あるいは合成物を単独で用いてもよいし、あるいは天然物と構成物との混合物を用いても良い。このとき、層状無機化合物フィルム(太陽電池においては基板となる。)に耐水性を付与するため、無機層状珪酸塩として、有機化粘土を用いることができ、好ましい。
【0015】
本発明における層状無機化合物の含有量は、層状無機化合物フィルムの全質量に対して、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。含有量を上記数値範囲とすることによって、耐熱性および寸法安定性に優れる。含有量が少なすぎると、耐熱性および寸法安定性に劣る傾向にある。
【0016】
(添加剤:樹脂成分)
本発明における添加剤としての樹脂成分は、透明なものであれば特に限定されるものではないが、好適には、ポリ(ε−イプシロンカプロラクタム)、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、キチン、キトサン、ポリ乳酸、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、安息香酸類化合物などが例示される。本発明においては、このうち少なくとも1種以上を用いることができる。
【0017】
(添加剤:補強材)
本発明における添加剤としての補強材は、層状無機化合物フィルムの強度を補強するものであれば特に限定されるものではないが、繊維状のものが好ましく、好適には、鉱物繊維、グラスウール、セラミック繊維、植物繊維、有機高分子繊維等が挙げられる。本発明においては、このうち少なくとも1種以上を用いることができる。
【0018】
本発明においては、上記の樹脂成分や補強材などの添加剤を加えないで、層状無機化合物のみでフィルムを形成する場合は、製膜時に層状無機化合物が乾燥収縮するため、内部にクラックが発生しやすくなり、ヘーズが高くなりやすくなる原因となり、結果として全光線透過率が下がりやすくなるという問題点がある。このような観点から、添加剤を加えることが好ましく、その含有量は、層状無機化合物フィルムの全質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。他方、添加剤の含有量が多くなりすぎると、耐熱性が低下してくるので好ましくなく、また加熱すると色がつくという問題点も出てくる。このような観点から、添加剤の含有量の上限は40質量%以下が好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0019】
[層状無機化合物フィルムの製造方法]
本発明の層状無機化合物フィルムは、層状無機化合物を、必要に応じて樹脂成分や補強材などの添加剤と共に、水、有機溶剤などの溶媒(分散媒)に分散させ、攪拌などによりダマを含まない均一な分散液を得た後、この分散液を表面が平坦な支持体に塗布し、層状無機化合物を沈積させるとともに、分散媒である溶媒を蒸発させるなどの適宜の固液分離方法で分離し、フィルム状に成形した後、これを支持体から剥離することにより得られる。このようにして得られた層状無機化合物フィルムにおいては、層状無機化合物が配向した態様となる。
【0020】
具体的には、層状無機化合物(必要に応じて、樹脂成分、補強材のごとく添加剤を含む)を、水、有機溶媒などよりなる分散媒に分散させて層状無機化合物ペーストを作成するペースト作成工程と、該層状無機化合物ペーストを支持体上に塗布し塗膜を形成する塗布工程と、必要に応じて該塗膜を平坦化する平坦化工程と、該塗膜から水、有機溶媒などを除去してフィルムとする乾燥工程と、さらには該支持体から得られたフィルムを剥離する剥離工程とを有する製造工程からなる。また、これらの工程は、その順序は適宜変更しても構わないし、一部同じ工程を複数回実施してもよい。本製造方法において、これらの工程を連続的に組み合わせて、支持体として長尺のものを用いることにより、層状無機化合物フィルムを連続的に製造することも可能である。
【0021】
本発明における層状無機化合物フィルムは、フィルムに成形されたあと、温度200℃以上で、5秒以上熱処理されて成ることが好ましい。これにより寸法安定性が向上し、本発明が規定する200℃10分間の熱収縮率をより達成しやすくなる。また、線膨張率αtLおよびαtHが低くなる傾向にあり、太陽電池を形成した際に光吸収層の線膨張率に近くなり、太陽熱による温度変化が起きた際の熱歪みが生じにくくなり、光変換効率も高くなり、好ましい。
【0022】
次に各工程について詳述する。
(ペースト作成工程)
本発明において、層状無機化合物ペーストとは、層状無機化合物と、必要に応じて添加剤を、水、有機溶剤などよりなる分散媒(水と有機溶剤との混合溶媒を含む)に分散させた分散液である。その固形分含有率(以下、「固液比」という場合がある。)は、0.1〜49質量%が好ましい。より好ましい固液比は、1〜30質量%である。固液比は、層状無機化合物の種類や溶媒の種類によって、また塗布や乾燥工程の条件によって上記の範囲で適宜最適な値が決定される。
【0023】
本発明において、層状無機化合物ペーストは、水系ペーストでもよいが、層状無機化合物を有機化して、疎水性にした層状無機化合物を、有機溶剤が主体(80体積%以上)の分散媒に分散した有機溶剤系ペーストとしても好適に用いることができる。
【0024】
層状無機化合物を有機化する方法としては、イオン交換により、層状無機化合物の層間に有機化剤を導入する方法があげられる。例えば、有機化剤として、ジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩や、ベンジル基やポリオキシエチレン基を有するアンモニウム塩を用いたり、フォスフォニウム塩やイミダゾリウム塩を用い、層状無機化合物のイオン交換性、例えば、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して有機化することができる。この有機化により、層状無機化合物の有機溶剤への分散が可能になる。
【0025】
本発明において、水、有機溶剤などよりなる分散媒には、少量の補助添加剤が添加されてもよい。補助添加剤を加える目的は、ペーストの分散性を変化させること、層状無機化合物ペーストの粘性を変化させること、塗膜の乾燥のし易さを変えること、塗膜やフィルムの均一性を向上させること等にある。補助添加剤としては、有機物質および塩、例えば、アセトアミド、エタノールなどが例示される。
【0026】
本発明において、有機溶剤は、1種類の有機溶剤よりなるものであっても、複数の有機溶剤の混合溶剤よりなるものであってもよい。用いる有機溶剤としては、層状無機化合物の有機化の状態によるが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素や、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、その他、アルコール類、ハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等をあげることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
層状無機化合物ペーストの調製法としては、例えば層状無機化合物と、必要に応じて添加剤などを分散媒に添加して、振とうにより分散させ、緩和な乾燥条件(例えば50℃)で分散媒をゆっくり蒸散させ、固液比を設定値まで高めていく方法が挙げられる。また、あらかじめ層状無機化合物と必要に応じて添加剤などの量を所定の固液比になるように調整して層状無機化合物分散液を作製し、それをペイントシェーカー、サンドミル、パールミル、ボールミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散機、ジェットミル、高速衝撃ミル、超音波分散機等によって分散処理する方法によってもよい。得られた層状無機化合物ペーストは、塗布前に、フィルターを通したり、こし網や金属金網等でろ過したり、遠心分離や沈殿法等の手段で、凝集物や異物を分離除去する処理を行うのが好ましい。
【0028】
(塗布工程)
層状無機化合物ペーストは、次いで支持体に塗布される。層状無機化合物ペーストを支持体に塗布する方法としては、均一に塗布することができれば特に限定されるものではないが、例えば、エアドクターコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、電着コーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング法、フレキソ印刷等の凸版印刷、ダイレクトグラビア印刷およびオフセットグラビア印刷等の凹版印刷、オフセット印刷等の平版印刷、スクリーン印刷等の孔版印刷等の印刷手法を用いることができる。また、ヘラや刷毛その他の道具を用いて気泡が入らないように、手作業で塗布することもできる。上記塗布手段で、層状無機化合物ペーストの塗布と同時に、得られた塗膜の表面を平坦にすることもできる。
【0029】
かかる工程で用いる支持体は、表面が平坦なシート状基材であればその材質や厚さは限定されるものではないが、厚さ50μm〜1mmのプラスチックシート基材が好ましい。また、支持体は長尺状のものが好ましい。プラスチックシート基材からなる支持体の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等を例示することができる。また、乾燥後に得られるフィルムとの剥離性向上の為に、これらのプラスチックシート基材表面に離型剤処理を施したり、層状無機化合物ペーストとの密着性や濡れ性改善の為に、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理や易接着処理を施したりすることもできる。支持体の表面平坦性は、作製される層状無機化合物フィルムの表面平坦性に影響を与えるので、表面粗さRaが100nm以下であることが望ましい。より好ましくは、50nm以下である。
【0030】
層状無機化合物ペーストの塗布厚(ウェット)は、一般には30μm〜10mmであり、好ましくは0.1mm〜1mmである。塗布厚が薄くなりすぎると、十分な機械的強度を有する層状無機化合物フィルムが得られない可能性がある。また、厚すぎると、後工程での乾燥時間が長くなるなど生産性に劣るので好ましくない。
【0031】
本発明の層状無機化合物フィルムの厚さは、層状無機化合物ペーストの固液比や塗布厚、分散媒の種類等を調整することによって、任意の厚さに制御することができるが、一般には、10μm〜2mmであり、好ましくは、50μm〜300μmである。層状無機化合物フィルムの厚さが薄くなりすぎると、膜の強度が低下し、十分な機械的強度を有することができなくなる可能性がある。また、厚すぎると、製造時の乾燥時間が長くなるなど、生産性に劣る傾向にある。
【0032】
(平坦化工程)
次に、必要に応じて平坦化工程を経る。平坦化工程においては、支持体上に作製された塗膜の平坦化が行われる。平坦化は、例えば、塗膜を加熱し、塗膜表面に圧力を負荷することによって行う方法、塗布後にスムージングロール処理を行う方法、乾燥過程で鏡面仕上げを行う方法(例えば、平坦化された多筒式ドライヤーロール又はヤンキードライヤーロールを通す処理方法)などの方法によって行うことができる。
【0033】
本発明においては、上記平坦化処理方法或いはその他の平坦化方法を組み合わせて使用することもできる。また、使用するロール材質、加圧圧力、加熱温度、搬送速度および回数、層状無機化合物ペースト粘度、分散媒の種類等の因子を任意に調整することより、任意の平坦性を付与することができる。
【0034】
(乾燥工程および剥離工程)
乾燥工程は、塗膜に含まれる分散媒などの液状成分を除くことができれば特に限定されるものではない。例えば、強制対流型オーブン中で乾燥させる場合、乾燥条件については、温度条件が30℃から100℃であり、好ましくは50℃から70℃である。また、周囲の熱源から熱を供給することにより、開放系でも乾燥させることができる。赤外線などの熱線により乾燥させることも可能である。また、平坦化処理工程で述べたように、ドライヤーロールと接触させることにより平坦化と乾燥を同時に行うこともできる。乾燥に際して、乾燥温度が低すぎると、乾燥時間が長くなる可能性がある。一方、乾燥温度が高すぎると、急激な乾燥により塗膜中の液状成分の対流などが促進され、膜の均一性が失われる可能性がある。
【0035】
剥離工程では、上記のように乾燥して得られるフィルムを基材から剥離する。かかるフィルムは、機械的なわずかな力で基材から容易に剥離できることが好ましい。
さらに本発明の層状無機化合物フィルムは、フィルムに成型された後に熱処理されることが好ましい。
【0036】
この熱処理により寸法安定性が向上し、また線膨張率の温度変化も小さくなり、太陽電池用としてより好ましい。熱処理温度は200℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましく、310℃以上が特に好ましい。熱処理温度の上限は特に限定はされないが、高すぎると添加剤等が劣化しやすくなる傾向にあり、550℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましく、350℃以下が特に好ましい。また、熱処理時間は5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、20秒以上がさらに好ましい。しかしあまり長くなりすぎると添加剤他の劣化が進んでしまい、機械的特性が悪くなる、耐熱性が低くなるなどの弊害が出てくる。そのような観点から、熱処理時間の上限は30分以下が好ましく、15分以下がより好ましく、8分以下がさらに好ましく、3分以下が特に好ましい。
【0037】
[層状無機化合物フィルムの特性]
(線膨張率)
本発明の層状無機化合物フィルムは、その面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLが15ppm/℃以下であり、同時に同方向において150℃〜250℃の間の線膨張率αtHが15ppm/℃以下であることを特徴としている。線膨張率αtLおよび/またはαtHが大きくなりすぎると、太陽電池の各部材、とりわけ光吸収層の熱膨張率αtとのずれが大きくなり、熱による歪が生じ、反り、変形が起きたり、各層の間で剥離しやすくなったり、光変換係数が悪くなったりして好ましくない。この観点から線膨張率αtLおよびαtHは、10ppm/℃以下が好ましく、8ppm/℃がより好ましく、6ppm/℃以下がさらに好ましい。また線膨張率αtLおよび/またはαtHが小さすぎる場合には、加熱斑、温度斑などにより、上記と逆側にカールする、剥離し易いなどの難点が出てきて好ましくない。この観点からは、線膨張率αtLおよびαtHは、0ppm/℃以上が好ましく、2ppm/℃以上がより好ましい。すなわち光吸収層の線膨張率と同等レベル(例えば3〜5ppm/℃など)であるのが特に好ましい。
【0038】
さらに、面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLと150℃〜250℃の間の線膨張率αtHとの差は小さい方が、加工時の加熱斑、温度斑などによる反り、カール、層間の剥離などが起き難く好ましい。この意味から、その差は5ppm以下が好ましく、3ppm/℃以下がより好ましく、1ppm/℃以下がさらに好ましい。
【0039】
上記のような線膨張率の態様は、従来公知の層状無機化合物フィルムの製造方法を用いたのみでは得ることができない。かかる線膨張率の態様とするためには、例えば層状無機化合物フィルムがフィルムに成形された後に、200℃以上で5秒以上の熱処理を施せば良い。また、線膨張率は、添加剤によっても調整することができる。たとえば樹脂成分の種類、添加量などにより調整することができ、樹脂成分の添加量が少ないと線膨張率は小さくなる傾向にある。また、補強剤の添加によっても調整することができ、かかる添加量が多いと線膨張率は小さくなる傾向にある。
【0040】
(ヤング率)
本発明の層状無機化合物フィルムは、その面内の少なくとも一方向のヤング率が6000MPa以上である。ヤング率が低くなると薄膜太陽電池を加工したり、使用したりする上での取り扱い時の破損が起きやすくなり好ましくない。この観点からヤング率は7000MPa以上がより好ましく、8000MPa以上がさらに好ましい。
【0041】
かかるヤング率の態様とするためには、例えば層状無機化合物フィルムがフィルムに成形された後に、200℃以上で5秒以上の熱処理を施せば良い。また、樹脂成分の種類、量を調整することにより調整することができる。また、補強材の種類、量を調整することにより調整することができる。さらに、これらの組み合わせにより、さらに達成しやすくなる。
【0042】
(全光線透過率)
本発明の層状無機化合物フィルムの全光線透過率は、85%以上であることが好ましい。ここで、全光線透過率とはJIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に定義されたものであり、太陽光線の何パーセントが材料を透過したかを評価する指標である。この値が100%に近ければ、材料の太陽光線の吸収・反射などがなく、太陽光を有効に使うことが可能になる。太陽電池用としての性能は太陽光を如何に有効に用いるかが重要であり、そのため全光線透過率は高ければ高いほどよく、全光線透過率が90%以上であることより好ましく、91%以上がさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
なおここでは、反射フィルムを設けて反射光も活用して効率を上げることも含んでいる。
【0043】
(熱収縮率)
本発明の層状無機化合物フィルムは、200℃10分間の熱収縮率が縦方向および横方向のいずれも1.0%以下である。熱収縮率が上記数値範囲にあると層状無機化合物フィルムが割れてしまうのを抑制することができる。また、層状無機化合物フィルムの完全性が高くなるため、発電効率をより高くすることができる。このような観点から、200℃10分間の熱収縮率は、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0044】
[薄膜太陽電池]
本発明において、薄膜太陽電池の基本構造、製造方法について、以下に説明する。
先ず、図1に示すように、CIS系化合物半導体薄膜太陽電池1の基本構造は、基板2の上に金属裏面電極3、光吸収層4、任意に形成してもよい界面層(バッフアー層)5、窓層6及び上部電極7が順次積層された積層構造である。金属裏面電極3は前記の層状無機化合物フィルムより成る基板2上に作製される1〜2μmの厚さのMo又はTi等の高耐蝕性で高融点の金属である。光吸収層4はp形の導電形を有する厚さ1〜3μmのCIS系化合物半導体薄膜、即ち、Cu−III−VI族カルコパイライト(型)半導体、例えば、2セレン化銅インジウム(CIS)、2セレン化銅インジウム・ガリウム(CIGS)、2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS)又はCIGSSを表面層とする薄膜層を有するCIGS等からなる。窓層6はn形の導電形を有する禁制帯幅が広く且つ透明で導電性を有する厚さ0.5〜3μmの酸化亜鉛からなる金属酸化物半導体透明導電膜薄膜である。なお、前記光吸収層4と窓層6とにより、太陽電池の光起電力効果を発生するためのp−n接合を形成するが、光吸収層(p形)4の表面部分は、Cu、Se等の含有率が高く半金属の性質を有する低抵抗部分が形成されるため、光吸収層4と窓層6との間で完全に絶縁されたp−n接合を形成することができにくくなる場合がある。これを防止するため、前記光吸収層(p形)4の表面部分の低抵抗部分を被覆するために、光吸収層(p形)4の上に透明で且つ高抵抗の界面層(バッフアー層)5を形成してもよい。この場合、界面層(バッフアー層)5は透明で且つ高抵抗で、水酸化物を含んでも良いII−VI族化合物半導体薄膜で形成されることが好ましい。また、太陽光が光吸収層4に到達し易くするために、光吸収層4の上に形成される界面層(バッフアー層)5、窓層6及び上部電極7を透明な材料とする。
【0045】
本発明における前記CIS系化合物半導体薄膜太陽電池の光吸収層の製造方法の詳細について、説明する。
基板上に、金属裏面電極を形成した後、特開平10−135495号公報又は特開平10−135498号公報に示すような低温焼成によるセレン化法により、前記Cu、In、Ga、Se、Sからなる光吸収層を製膜する。
【0046】
例えば、Cu−Ga合金層及びIn層からなる光吸収層の前駆体(プリカーサー膜)を下記組成比でスパッタリングにより作製し、これをセレン及び/又はイオウ含有ガスからなる雰囲気中で前記のような低温で熱処理することにより、前記組成の光吸収層を製膜する。なお、前記光吸収層の前駆体(プリカーサー膜)は、Cu、In1−y 、Gaの構成元素からなり、その組成比が、0.86≦x≦0.98(好ましい範囲は、0.90≦x≦0.96)、0.05≦y≦0.25、(0≦z≦0.3)で、且つ、x=αT+βで、α=0.015y−0.00025、β=−7.9y+1.105、但しT(℃)は焼成温度、xの許容範囲は±0.02である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
[実施例1]
無機層状化合物として、合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)3.6gを、400cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加剤(樹脂成分)として、市販のポリアクリル酸ナトリウム塩を0.4g加え、激しく振とうし、合成サポナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含む均一な分散液を得て層状無機化合物ペーストとした。
次に、真空脱泡装置により、この層状無機化合物ペーストの脱気を行った。次いで、脱気後の層状無機化合物ペーストを、表面粗さRa10nmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、均一厚みの塗膜を形成した。これを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で4時間乾燥することにより、厚さ約40μmの均一な層状無機化合物フィルムを得た。さらに得られた層状無機化合物フィルムをPETフィルムから剥離して得たものについて、木枠に固定し、熱風オーブン中で280℃10秒間熱処理をした。得られたフィルムは可撓性を有するものであった、また、その特性は次の通りであった。
【0049】
[特性]
・全光線透過率 :91%
・ヘーズ :0.9%
・破断強度 :41MPa
・ヤング率 :8200MPa
・線膨張率αtL:4ppm/℃ (50℃〜150℃)
・線膨張率αtH:5ppm/℃ (150℃〜250℃)
・熱収縮率 :縦方向0.4%、横方向0.3% (200℃×10分)
【0050】
[測定方法]
・全光線透過率(単位:%):JIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく。
・ヘーズ(単位:%):JIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に基づく。本発明においては、光線透過率を高くする観点と同様の観点から、ヘーズは低い方が好ましく、1.0%未満であることが好ましい。
・破断強度(単位:MPa)およびヤング率(単位:MPa):フィルムを縦方向に試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分にインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張る。得られる荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。またフィルムが破断する時点における強度を破断強度とした。本発明においては、破断強度が40MPa以上であることが好ましく、太陽電池用としての強度に優れる。
・熱膨張率(αtL、αtH、単位:ppm/℃):フィルムサンプルを縦方向に長さ15mm、幅5mmに切り出し、真空理工製 TMA3000にセットし、窒素雰囲気下、250℃で30分前処理し、その後室温まで降温させる。その後30℃から270℃まで2℃/分で昇温し、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt:ppm/℃)を算出した。
αt={(L−L)/(L×ΔT)}+0.5×10−6
ここで、
:基準温度でのサンプル長(mm)(50℃のとき、または150℃のとき)
:到達温度でのサンプル長(mm)(150℃のとき、または250℃のとき)
ΔT:100(=150−50℃)
0.5×10−6:石英ガラスの温度膨張係数である
・熱収縮率(単位:%):温度200℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、10分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式から縦方向および横方向の熱収縮率をそれぞれ求めた。
熱収縮率(%)=(ΔL/L)×100
【0051】
[太陽電池の作成]
まず、基板として、前記の層状無機化合物フィルムを用いた。次いでかかる基板上に、スパッタ法により、金属裏面電極層としてのMo膜を約0.4μmの厚さで堆積させた。スパッタは、Moをターゲットとして、Arガス雰囲気中でDC1kWを印加することにより行った。
光吸収層となる第1の半導体層として、CIGS膜を蒸着法により作製した。初めに、Ga/(In+Ga)比が約0.35、Cu/(In+Ga)比が約0.8になるように、Cu、In、Ga、Seの各蒸発源からの蒸着レートを制御して、基板温度500℃でCu不足のCIGS膜を作製した。次に、基板温度は一定とし、表面のGa/(In+Ga)比が約0.15、膜全体のCu/(In+Ga)比が約1.2になるように、Cu、In、Ga、Seの各蒸発源からの蒸着レートを制御して、Cu過剰のCIGS膜を形成した。これは、Cu過剰とすることにより、Cu−Se液相を析出させ、CIGS膜の結晶成長を促進するためである。最後に、基板温度を550℃に設定して、InとSeの蒸気を供給して、Cu不足のCIGS膜を形成した。その後、基板温度550℃に設定して、Alを蒸着し拡散させることにより、第2の半導体層としてのCu(In,Al)Se層を形成した。
【0052】
次に、窓層として、複層の半導体膜を形成した。まず、約70nmの厚さのCdS膜を化学析出法により堆積した。化学析出法は、硝酸Cd、チオ尿素およびアンモニアを含む水溶液を約80℃に温め、表層部にCIAS層が形成されたCIGS膜(要するにCIGAS膜)を上記水溶液に浸漬することにより行った。さらに、CdS膜の上に約80nmの厚さのZnO膜をスパッタ法で形成した。スパッタ法は、ZnO焼結体をターゲットとして、Arガス雰囲気中でRF400Wを印加することにより行った。
次に、上部電極として、スパッタ法により、透明導電膜として、約200nmの厚さのAl添加ZnO膜を堆積した。スパッタは、Alを2質量%含有したAl添加ZnO焼結体をターゲットに用い、Arの雰囲気中でRF400Wを印加することにより行った。
最後に、取り出し電極として、NiCrとAuの積層膜を電子ビーム蒸着法で形成した。NiCrとAuの膜厚は各々50nmと300nmであった。
以上の如くとして、基板として本発明の層状無機化合物フィルムを用い、光吸収層としてCIGAS膜を用いた薄膜太陽電池を製造した。
【0053】
[比較例1]
乾燥後に280℃10秒間の熱処理を施さない以外は、実施例1と同様にして層状無機化合物フィルムを得た。実施例1と同様の測定方法から求められた各特性は次の通りであった。
[特性]
・全光線透過率 :90%
・ヘーズ :1.0%
・破断強度 :37MPa
・ヤング率 :5800MPa
・線膨張率αtL:16ppm/℃ (50℃〜150℃)
・線膨張率αtH:23ppm/℃ (150℃〜250℃)
・熱収縮率 :縦方向1.3%、横方向1.2% (200℃×10分)
【0054】
また、基板として比較例1で得られた層状無機化合物フィルムを用いる以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作成した。
実施例1および比較例1により得られた太陽電池を、それぞれ150℃で1日保持したところ、実施例1により得られた太陽電池は、反り(カール)、変形、各層間の剥離、割れが全く生じないかほとんど生じず、太陽電池として良好であったが、比較例1により得られた太陽電池は、反り(カール)、変形、各層間の剥離。割れが生じ、太陽電池として問題であった。
【符号の説明】
【0055】
1 薄膜太陽電池
2 基板
3 金属裏面電極
4 光吸収層(p形)
5 界面層(バッフアー層)
6 窓層(n形)
7 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内の少なくとも一方向のヤング率が6000MPa以上であり、面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLおよび150℃〜250℃の間の線膨張率αtHが各々15ppm/℃以下であり、200℃10分間の熱収縮率が縦方向および横方向のいずれも1.0%以下である層状無機化合物フィルム。
【請求項2】
面内の少なくとも一方向において50℃〜150℃の間の線膨張率αtLと150℃〜250℃の間の線膨張率αtHとの差が5ppm/℃以下である請求項1に記載の層状無機化合物フィルム。
【請求項3】
樹脂成分を0.1質量%以上40質量%以下含有する請求項1または2に記載の層状無機化合物フィルム。
【請求項4】
フィルムに成形された後、200℃以上で5秒以上熱処理された請求項1〜3のいずれか1項に記載の層状無機化合物フィルム。
【請求項5】
太陽電池用に用いられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の層状無機化合物フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の層状無機化合物フィルムからなる基板上に金属裏面電極、光吸収層、窓層及び上部電極が積層された積層構造のCIS系化合物半導体薄膜太陽電池であって、前記光吸収層は、Cu(In1−yGa)(Se1−zからなる化合物でカルコパイライト型の構造を有し、且つその組成比が0.8≦x≦1.0、0.01≦y≦0.30、0≦z≦0.3である薄膜太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−114024(P2011−114024A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266413(P2009−266413)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】