説明

岩盤の透水性評価方法及び装置

【課題】岩盤内の個別の水みちの連続性を詳細に検出できる透水性評価方法及び装置を提供する。
【解決手段】岩盤1に一対のボーリング孔10、20を並列に穿ち、一方のボーリング孔10の所定深さにパッカー11で仕切られた注入区間Aを設けてトレーサPを注入し、他方のボーリング孔20において所定流量で孔内水を揚水しながらトレーサ検出子26を上昇又は下降させて深さ方向に連続したトレーサPの分布又はその経時的変化を検出し、トレーサPの注入深さとトレーサPの分布又はその変化とから岩盤1内の水みちの位置又は透水性を求める。好ましくは、一方のボーリング孔10の注入区間Aの深さを変えながら他方のボーリング孔20内におけるトレーサPの分布検出を繰り返し、トレーサPの注入深さに応じたトレーサPの分布又はその変化から岩盤1内の水みちの位置又は透水性を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は岩盤の透水性評価方法及び装置に関し、とくに岩盤内の水みちを詳細に解析するための透水性評価方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の設計・施工では、地下の地盤や岩盤(以下、岩盤という)の構造や特性を把握することが求められる。例えば原子力発電所から生じる高レベル放射性廃棄物(放射性核種を含む)を人間環境から隔離して処分するため、人間が容易に接近できない地下深部の安定した岩盤内に構築した坑道に放射性廃棄物を閉じ込める地層処分が計画されている。地下深部の岩盤は一般に安定であるが、放射性核種は千年を超える長期にわたり減衰しつつも存在し続けるため、地層処分では長期の信頼性・安全性を確保する必要がある。とくに放射性核種は地下水の流れによって移行し得るので、地層処分場周辺の岩盤内の地下水の経路や水理特性を詳細に解析することが重要な課題となっている。なお岩盤内の地下水の経路や水理特性の評価は、地層処分場以外の地下構造物を設計・施工する際にも必要となる場合がある。
【0003】
地下水は岩盤内の亀裂中を移行するが、全ての亀裂に均等に移行するのではなく、主として「水みち」と呼ばれる一部の亀裂(地下水流れが支配的な部分)を経路として移行する。このため従来から岩盤内の地下水経路を解析する場合は、パッカーシステムを用いた現場水理試験が実施されている(特許文献1及び2参照)。例えば特許文献1では、図5に示すように、岩盤1中に穿孔したボーリング孔41内に試験区間を閉塞するためのダブルパッカー42、42を設け、試験区間に圧力計44を設けると共に試験区間近傍に揚水ポンプ43を設け、地表部に設けた圧力計測機器45、揚水量計測機器46等で試験区間内の揚水量及び揚水圧力を測定して透水性(例えば透水量係数)を検出する。また、パッカー42、42をボーリング孔41内の異なる試験区間に移動させ、試験区間毎に揚水量及び揚水圧力を測定することにより、ボーリング孔41の全体的な水みちの透水性を解析する。
【0004】
しかし、特許文献1及び2のようにパッカーシステムを用いた水理試験は、パッカー42、42を設けたボーリング孔41内の離散的な試験区間毎の透水性しか検出することができず、ボーリング孔41内の深さ方向に連続的な透水性を把握できないので、ボーリング孔41に繋がる全ての水みちを抽出することが難しい。また、パッカー42、42で閉塞された試験区間は一定の大きさを有しており、その試験区間の平均的な透水性しか把握できないので、水みち毎の透水性を個別に把握することも困難である。
【0005】
これに対し、例えば非特許文献1のように、電気伝導度検層や温度検層等の流体検層技術を用いて岩盤内の水みちを解析する方法が提案されている。非特許文献1では、例えば図4に示すように、岩盤1に穿孔した垂直ボーリング孔30内に注入用チューブ32を孔底付近まで挿入し、チューブ32を介して本来の地下水(非特許文献1では古海水)と異なる電気伝導度の水(非特許文献1では脱イオン水)を注入してボーリング孔30内を置換したのち、孔上部に設置した揚水ポンプ35で所定量ずつ揚水しながら孔内壁に沿って地下水検出子33(電気伝導度計)を上昇させて孔沿いの電気伝導度のプロファイル(以下、分布という)を測定する。この方法によれば、ボーリング孔30内の深さ方向に連続した電気伝導度分布を測定することができ、地下水の流入箇所が電気伝導度の明瞭なピークとして現れることから、電気伝導度分布のピークとしてボーリング孔30内の全ての水みちの位置を個別に抽出することができる。
【0006】
また非特許文献1は、電気伝導度分布の測定を一定時間間隔(例えば1時間間隔)で繰り返し、分布の経時的変化を測定している。電気伝導度分布のピーク値は水みちの地下水流入量(流入塩分濃度)に応じて変化するので、電気伝導度分布のピーク値の経時的変化から各水みちの透水性(例えば地下水流量)を求めることができる。更に非特許文献1は、揚水ポンプ35の揚水流量を変更しながら電気伝導度の分布測定を繰り返し、異なる揚水流量での測定結果の整合性を確認することにより、地下水流量の異なる大小の水みちの検出精度を高めている。すなわち非特許文献1の方法によれば、パッカーシステムを用いた水理試験に比し、ボーリング孔41内の水みちの位置や透水性を個別に精度よく把握することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−294116号公報
【特許文献2】特開平6−294117号公報
【非特許文献1】竹内真司他「電気伝導度検層による深部花崗岩中の水みちの抽出と水理特性の評価」第33回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集、社団法人土木学会発行、2004年1月
【非特許文献2】核燃料サイクル開発機構「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性(地層処分研究開発第2次取りまとめ)報告書、分冊3 地層処分システムの安全評価」平成11年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし非特許文献1の方法は、岩盤内の本来の地下水の電気伝導度とボーリング孔30内の置換水の電気伝導度との差が小さいと、水みちの検出精度が低下する問題点がある。非特許文献1は孔内水を脱イオン水で置換することにより海水である地下水と2桁程度の電気伝導度の差異をつけているが、ボーリング孔40内の孔内水の電気伝導度は置換により調整できるものの、岩盤内の地下水の電気伝導度を調整することは困難であるため、地下水の種類によって置換水との電気伝導度の差異を大きくすることができない場合も考えられる。地下水の種類に拘らず、岩盤内の水みちを精度よく解析できる技術の開発が望まれている。
【0009】
また、非特許文献1の方法は単孔式であるため、ボーリング孔30の近傍の水みちを把握することしかできず、水みちの空間的な分布や繋がり(連続性)に関する評価が難しい問題点がある。岩盤内の水みちは、単一の亀裂として存在するだけでなく、複数の亀裂に複雑に広がっていると考えられる。とくに岩盤内における放射性核種の移行経路を解析するような場合は、亀裂の1本1本を流れる地下水(核種が含まれる地下水)の評価を行う必要があり、岩盤内に複雑に広がる水みちの連続性を解析することが望まれている(非特許文献2参照)。
【0010】
そこで本発明の目的は、岩盤内の個別の水みちの連続性を詳細に検出できる透水性評価方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明による岩盤の透水性評価方法は、岩盤1に一対のボーリング孔10、20を並列に穿ち、一方のボーリング孔10の所定深さの注入区画AにトレーサPを注入し、他方のボーリング孔20において所定流量で孔内水を揚水しながらトレーサ検出子26を上昇又は下降させて深さ方向に連続したトレーサPの分布又はその経時的変化を検出し、トレーサPの注入深さとトレーサPの分布又はその変化とから岩盤1内の水みちの位置又は透水性を求めてなるものである。
【0012】
また図1の実施例を参照するに、本発明による岩盤の透水性評価装置は、岩盤1に並列に穿ったボーリング孔対10、20の一方のボーリング孔10の所定深さ部位に注入区画Aを画成するパッカーシステム11、注入区画AにトレーサPを注入するトレーサ注入装置13、他方のボーリング孔20から所定流量で孔内水を揚水する揚水ポンプ24、他方のボーリング孔20内にトレーサ検出子26を上昇又は下降させて深さ方向に連続したトレーサPの分布又はその経時的変化を検出するトレーサ検出装置25、及びトレーサPの注入深さとトレーサPの分布又はその変化とから岩盤1内の水みちの位置又は透水性を算出する演算装置28を備えてなるものである。
【0013】
好ましくは、他方のボーリング孔20内に所定電気伝導度の液体Qを充填する充填装置21を設け、トレーサ注入装置13により注入区画Aに液体Qと異なる電気伝導度のトレーサPを注入し、トレーサ検出装置25により他方のボーリング孔20内の深さ方向に連続した電気伝導度の分布を検出する。または、充填装置21により他方のボーリング孔20内に所定温度の液体Qを充填し、トレーサ注入装置13により注入区画Aにその液体Qと異なる温度のトレーサPを注入し、トレーサ検出装置25により他方のボーリング孔20内の深さ方向に連続した温度の分布を検出してもよい。更に好ましくは、一方のポーリング孔20内をパッカーシステム11により3以上の注入区画A1、A2、A3、……に仕切り、トレーサ注入装置13にトレーサPを何れかの注入区画A1、A2、A3、……へ選択的に注入する注入区画選択手段15を含める。
【発明の効果】
【0014】
本発明による岩盤の透水性評価方法及び装置は、一方のボーリング孔10の所定深さ部位の注入区画AにトレーサPを注入し、他方のボーリング孔20において所定流量で孔内水を揚水しながらトレーサ検出子26を上昇又は下降させて深さ方向に連続したトレーサPの分布又はその経時的変化を検出し、トレーサPの注入深さとトレーサPの分布又はその変化とから岩盤1内の水みちの位置又は透水性を求めるので、次の顕著な効果を奏する。
【0015】
(イ)一方のボーリング孔10から注入したトレーサPの分布を他方のボーリング孔20において検出するので、地下水の種類に拘らず岩盤1内の水みちの位置及び/又は透水性を個別に解析することができる。
(ロ)また、個別に解析した各水みちについて、一方のボーリング孔10の注入区画Aと他方のボーリング孔20の流入位置との間の連続性を解析することができる。
(ハ)一方のボーリング孔の注入区画Aにおける水みちの流出位置及び透水性を予め把握しておくことにより、各水みちの両端の位置及び透水性を考慮して水みちの連続性を更に詳細に解析することができる。
(ニ)他方のボーリング孔20内の孔内水をトレーサPと識別容易な液体Qで置換することにより、岩盤内の水みちの位置及び/又は透水性の解析精度を更に高めることができる。
(ホ)一方のボーリング孔10における注入区画Aを深さに変えながら他方のボーリング孔20においてトレーサ分布の検出を繰り返すことにより、ボーリング孔10、20間に広がる水みちの連続性を更に詳細に解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、地層処分場等の地下坑道3の周囲岩盤1に適用した本発明の透水性評価装置の実施例を示す。一般に地中に掘削した坑道3の近傍には亀裂頻度が比較的高い掘削影響領域1aが存在し、その外側に地下水の飽和領域1bが分布していると想定される。図示例では、地下坑道3の内側から覆工コンクリート又は埋め戻し層4を介して周囲岩盤1内に、掘削影響領域1aを貫き飽和領域1bに至る一対のボーリング孔10、20を並列に穿ち、両ボーリング孔10、20を介して掘削影響領域1a及び飽和領域1bに複雑に広がる坑道3周囲の水みちを解析する。ボーリング孔10(以下、注入孔10ということがある)とボーリング孔20(以下、観測孔20ということがある)との間隔は、あまり離れると水みちの連続性の解析が難しくなるので、連続性が解析できる程度に近づけることが望ましい。ただし、本発明は地下坑道3への適用に限定されるものではなく、ボーリング孔10、20の深さや間隔は目的に応じて適宜に選択することができる。
【0017】
注入孔10には、その所定深さ部位に注入区画Aを画成するパッカーシステム11と、その注入区画AにトレーサPを注入するトレーサ注入装置13とを設ける。図示例のトレーサ注入装置13はトレーサ貯留槽14とトレーサ注入管12とを有し、貯留槽14に貯えたトレーサPを注入管12経由で注入区画Aへ注入する。トレーサPの注入範囲を限定するため、注入区画Aはできるだけ短区間とすることが望ましい。トレーサPとして、観測孔20において孔内水中のトレーサ濃度を検出できるように、後述するトレーサ検出装置25が検出すべき特定の属性値が観測孔20内の孔内水と異なる流体、例えば観測孔20内の孔内水と電気伝導度又は温度が異なる流体を用いることができる。
【0018】
好ましくは、図示例のように、パッカーシステム11に注入孔10の孔内を3以上(図示例では5つ)の注入区画A1、A2、A3、……に仕切るパッカー群を含め、トレーサ注入装置13にトレーサPの注入区画A1、A2、A3、……を選択する注入区画選択手段15を含める。注入区画選択手段15によってトレーサPの注入区画A1、A2、A3、……を順次切り替え、切り替えた注入区画にトレーサ注入装置13によってトレーサPを注入する。注入孔10と観測孔20との間に広がる水みちを詳細に解析するためには、できるだけ多くの注入区画Aを設けて切り替えることが望ましい。ただし、切り替えの迅速性が要求されない場合は、パッカーシステム11により単一の注入区画Aを画成し、特許文献1及び2と同様にパッカーシステム11を移動させることにより注入区画Aの深さを切り替えることも可能である。切り替えた注入区画Aの深さ(注入位置)は、後述する演算装置28に記憶しておく。
【0019】
なお、注入孔10にパッカーシステム11を設置する前に、例えば非特許文献1の電気伝導度検層その他の流体検層技術を用いて注入孔10内の水みちの位置及び透水性を把握しておくことが望ましい。本発明は、注入孔10の注入区画A1、A2、A3、……毎にそこから流出する水みちの観測孔20における流入位置及び透水性を求めるが、各注入区画A1、A2、A3、……における水みちの流出位置及び透水性を予め把握しておくことにより、各水みちの両端の位置及び透水性を考慮して水みちの連続性を詳細に解析することが可能である。更に望ましくは、各注入区画A1、A2、A3、……をそれぞれ単独の水みちが存在するような短区間とする。
【0020】
観測孔20には、流量制御装置23に接続された揚水ポンプ24と、孔内の深さ方向に連続したトレーサPの分布を検出するトレーサ検出装置25とを設ける。トレーサ検出装置25は、観測孔20の孔内水中のトレーサ濃度を検出するトレーサ検出子26を有し、観測孔20内にトレーサ検出子26を深さ方向に移動させる(図示例では上昇又は下降させる)ことにより、観測孔20内の深さ方向に連続的なトレーサPの分布を検出する。例えば観測孔20内の孔内水と電気伝導度又は温度が異なるトレーサPを用いる場合は、トレーサ検出子26を電気伝導度計又は感温体付きゾンデとすることができる。また、流量制御装置23により揚水ポンプ24の揚水量を一定に制御し、観測孔20内に一定の上昇流を形成しながらトレーサ検出装置25によるトレーサPの分布検出を所定時間間隔(例えば1時間間隔)で繰り返すことにより、トレーサPの経時的な分布変化を検出する。検出したトレーサPの分布及びその経時的変化を演算装置28に入力し、演算装置28においてトレーサPの注入深さとトレーサPの分布及びその変化とから岩盤1内の水みちの位置又は透水性を算出する。演算装置28の一例は、水みちの位置及び透水性の算出プログラムを内蔵したコンピュータである。
【0021】
好ましくは、図示例に示すように観測孔20に液体Qの充填装置21を設け、注入孔10からトレーサPを注入する前に、孔底付近まで挿入した注入用チューブ22を介して観測孔20内の孔内水を液体Qで置換する。液体Qとして、トレーサ検出装置25が検出すべき特定の属性値がトレーサPと大きく異なる流体、例えばトレーサPと電気伝導度又は温度の差(ギャップ)が大きな液体を用いることができる。観測孔20の孔内水を液体Qで置換することにより、トレーサ検出装置25によるトレーサPの分布検出を容易にし、水みちの解析精度を高めることが期待できる。ただし、トレーサPを用いる本発明では液体Qによる置換は必須のものではなく、トレーサPと観測孔20の孔内水との特定属性値の差が大きければ液体Qによる置き換えを省略してもよい。
【0022】
次に図1を参照して、高電気伝導度又は低電気伝導度のトレーサPを用いて岩盤1の透水性の解析する場合の本発明による評価方法を説明する。先ず、充填装置21により観測孔20内の孔内水を低電気伝導度又は高電気伝導度の液体(例えば真水又は塩水)Qで置換したのち、注入孔10のパッカーシステム11の最上部の注入区画A1から高電気伝導度又は低電気伝導度のトレーサP(例えば塩水又は真水)を注入する。次いで、観測孔20の孔底部までトレーサ検出装置25のトレーサ検出子26を挿入し、揚水ポンプ24による揚水開始直後(時刻=t1)にトレーサ検出子26を上昇させながら観測孔20内の深さ方向に連続したトレーサPの分布を検出する。更に、揚水ポンプ24による揚水を継続しつつ、所定時間間隔(時刻=t2、t3)でトレーサ検出子26を観測孔20内に繰り返し上昇又は下降させてトレーサPの分布を検出し、検出したトレーサPの分布をそれぞれ演算装置28に入力する。
【0023】
図2(A)は、トレーサ検出装置25で検出した時刻=t1、t2、t3におけるトレーサPの分布のグラフの一例を示す。非特許文献1を参照して上述したように、観測孔20におけるトレーサPの流入箇所が電気伝導度のピークとして現れることから、演算装置28において同図(A)の分布ピークが検出された深さL3〜L6を観測孔20の水みちの流入位置として算出することができる。また、トレーサPの流入量に応じて電気伝導度のピーク値が変化することから、揚水ポンプ24の揚水流量に対する各水みちの流入量を同図(A)の分布の経時的変化量と一致するように設定する数値解析により、演算装置28において同図(B)に示すように深さL3〜L6の水みちの透水量係数を算出することができる。更に演算装置28は、注入区画がA1であることから、この水みちが注入孔10の注入区画A1の深さ位置と観測孔20のL3〜L6の深さ位置との間に繋がっていること(連続性)を検知することができる。
【0024】
なお、同図は観測孔20内に注入区画A1と繋がる水みちが1つ存在する場合を示しているが、注入区画A1と繋がる複数の水みちが存在する場合はトレーサPの分布変化に複数のピークが現れるので、それらのピークの位置及び値から各水みちの流入位置及び透水量係数を演算装置28において個別に算出することができる。また、注入孔10において注入区画A1に存在する水みちの流出位置及び透水量係数を予め把握しておけば、注入孔10における水みちの透水量係数と観測孔20における複数の水みちの透水量係数とから、注入孔10と観測孔20との間の水みちの繋がりを詳細に解析することができる。
【0025】
例えば、注入区画A1の水みちの透水量係数(流出量)と観測孔20における各水みちの透水量係数の合計(流入量)とが等しい場合は、注入区画A1の水みちが分岐して観測孔20の複数位置に流入していると推定できる。また、注入区画A1の水みちの流出量が観測孔20における水みちの流入量より大きい場合は、その両者の間に観測孔20に至る以外の他の分岐が存在すると推定できる。逆に、注入区画A1の水みちの流出量が観測孔20の水みちの流入量より小さい場合は、注入区画A1からの水みち以外に観測孔20に至る他の水みちが存在する可能性が示唆される。
【0026】
更に本発明の評価方法では、注入孔10のパッカーシステム11を注入区画A2、A3、A4、……に切り替えながら、上述した観測孔20における所定時間間隔のトレーサ分布の検出を繰り返す。図3は、注入区画A1、A2、A3、A4への切り替え時に観測孔20で検出された水みちの位置及び透水量係数を表わしたグラフの一例である。同図(A1)は注入孔10の注入区画A1が観測孔20の深さL1〜L3と繋がっていることを示している。また同図(A2)及び(A3)は、注入孔10の注入区画A2及びA3が何れも観測孔20の深さL5〜L7と繋がっていること、すなわち注入区画A2及びA3の水みちが合流して観測孔20の深さL5〜L7に流入していることを示している。更に同図(A4)は、注入孔10の注入区画A4が観測孔20の深さL8〜L10と繋がっていることを示している。
【0027】
図3のように注入孔10の注入区画A1、A2、A3、……毎に観測孔20の水みちの流入位置及び透水量係数を求めることにより、注入孔10と観測孔20との間における各水みちの繋がりを詳細に解析することができる。また、注入孔10の各注入区画A1、A2、A3、……に存在する水みちの流出位置及び透水量係数を予め把握しておけば、例えば注入区画A1及びA2の水みちの流出量とその水みちの観測孔20の流入量とを比較することにより、各水みちの分岐や合流についても詳細に解析することができる。更に、注入孔10と観測孔20との間の水みちの繋がりだけでなく、注入孔10以外から観測孔20に繋がる水みちや、注入孔10から観測孔20に至る以外の水みちが存在する可能性を推定することもできる。そのような水みちの存在が推定された場合は、例えば注入孔10と観測孔20との間に新たなボーリング孔を並列に穿ち、注入孔10又は観測孔20と新たなボーリング孔との間に本発明を適用することにより、水みちを更に詳細に解析することができる。
【0028】
本発明は、観測孔20において深さ方向に連続したトレーサPの分布又はその変化を検出するので、観測孔20における全ての水みちの位置及び透水性を個別に解析することができると共に、抽出した水みち毎に注入孔10の注入位置Aとの間の連続性を解析することができる。また、注入孔10から注入したトレーサPの分布を観測孔20において検出するので、地下水の種類に拘らず精度の高い解析を行うことが期待できる。すなわち、岩盤1内に複雑に広がる1本1本の水みちの透水性を高い精度で詳細に解析することが可能である。例えば放射性核種は、岩盤1内の透水性が高い水みちを移行し、透水性が比較的高い場合には亀裂中だけでなく粒子間隙中にも移行することが知られている(非特許文献2参照)。本発明は、このような水みちの透水性に応じて変化する放射性核種の移行を詳細に検討する際に有効に利用することができる。
【0029】
こうして本発明の目的である「岩盤内の個別の水みちの連続性を詳細に検出できる透水性評価方法及び装置」の提供が達成できる。
【0030】
以上、岩盤1に一対のボーリング孔10、20を設けた実施例について説明したが、岩盤1に3以上のボーリング孔を並列に穿ち、隣接するボーリング孔にそれぞれ本発明を適用してボーリン孔間に広がる水みちの位置及び透水性を求めることにより、比較的広い岩盤1内における放射性核種の移行を評価することも可能である。
【0031】
また、高電気伝導度のトレーサPを用いた透水性の評価方法について上述したが、本発明では高温又は低温のトレーサP等を用いた他の流体検層技術を用いることも可能であり、高電気伝導度のトレーサPを用いた場合と同様の手順で透水性を評価することが可能である。ただし高温又は低温のトレーサP等を用いた場合は、図2のようにトレーサPの流入箇所がトレーサ分布のピークとして現れるのではなく、温度分布の傾きのズレ等として現れるので、そのズレを観測孔20の各水みちの流入位置として抽出し、そのズレと一致するように揚水ポンプ24の揚水流量に対する各水みちの流入量を数値解析で設定することにより各水みちの透水量係数を求めることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明によるトレーサ分布の検出結果の一例を示す説明図である。
【図3】本発明による岩盤内の水みち検出結果の一例を示す説明図である。
【図4】従来の岩盤に対する電気伝導度検層の一例の説明図である。
【図5】従来の岩盤に対する透水性評価方法の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1…岩盤 1a…掘削影響領域
1b…飽和領域 3…地下坑道
4…覆工コンクリート又は埋め戻し層
10…ボーリング孔(注入孔) 11…注入用パッカーシステム
12…トレーサ注入管 13…トレーサ注入装置
14…トレーサ貯留槽 15…注入区画選択手段
20…ボーリング孔(観測孔) 21…充填装置
22…チューブ 23…流量制御装置
24…揚水ポンプ 25…トレーサ検出装置
26…トレーサ検出子 27…ケーブル
28…演算装置(コンピュータ)
30…ボーリング孔 31…ケーシング
32…注入用チューブ 33…地下水検出子(電気伝導度計)
34…ケーブル 35…揚水ポンプ
41…ボーリング孔 42…パッカー
43…揚水ポンプ 44…圧力計
45…圧力計測器 46…揚水量計測器
47…給排気機器 48…水位計測機器
49…ポンプ制御機器 50…気体室
51…差圧計 52…フロートタイプチェック弁
P…トレーサ Q…液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤に一対のボーリング孔を並列に穿ち、一方のボーリング孔の所定深さの注入区画にトレーサを注入し、他方のボーリング孔において所定流量で孔内水を揚水しながらトレーサ検出子を上昇又は下降させて深さ方向に連続した前記トレーサの分布又はその経時的変化を検出し、前記トレーサの注入深さと前記トレーサの分布又はその変化とから岩盤内の水みちの位置又は透水性を求めてなる岩盤の透水性評価方法。
【請求項2】
請求項1の評価方法において、前記他方のボーリング孔内に所定電気伝導度の液体を充填し、前記一方のボーリング孔の注入区間に前記液体と異なる電気伝導度のトレーサを注入し、前記他方のボーリング孔内において深さ方向に連続した電気伝導度の分布を検出してなる岩盤の透水性評価方法。
【請求項3】
請求項1の評価方法において、前記他方のボーリング孔内に所定温度の液体を充填し、前記一方のボーリング孔の注入区間に前記液体と異なる温度のトレーサを注入し、前記他方のボーリング孔内において深さ方向に連続した温度の分布を検出してなる岩盤の透水性評価方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの評価方法において、前記一方のボーリング孔の注入区画の深さを変えながら前記他方のボーリング孔内におけるトレーサ分布の検出を繰り返し、前記トレーサの注入深さに応じた前記トレーサの分布又はその変化から前記岩盤内の水みちの位置又は透水性を求めてなる岩盤の透水性評価方法。
【請求項5】
岩盤に並列に穿ったボーリング孔対の一方のボーリング孔の所定深さ部位に注入区画を画成するパッカーシステム、前記注入区画にトレーサを注入するトレーサ注入装置、前記他方のボーリング孔から所定流量で孔内水を揚水する揚水ポンプ、前記他方のボーリング孔内にトレーサ検出子を上昇又は下降させて深さ方向に連続した前記トレーサの分布又はその経時的変化を検出するトレーサ検出装置、及び前記トレーサの注入深さと前記トレーサの分布又はその変化とから前記岩盤内の水みちの位置又は透水性を算出する演算装置を備えてなる岩盤の透水性評価装置。
【請求項6】
請求項5の評価装置において、前記他方のボーリング孔内に所定電気伝導度の液体を充填する充填装置を設け、前記トレーサ注入装置により注入区画に前記液体と異なる電気伝導度のトレーサを注入し、前記トレーサ検出装置により他方のボーリング孔内の深さ方向に連続した電気伝導度の分布を検出してなる岩盤の透水性評価装置。
【請求項7】
請求項5の評価装置において、前記他方のボーリング孔内に所定温度の液体を充填する充填装置を設け、前記トレーサ注入装置により注入区画に前記液体と異なる温度のトレーサを注入し、前記トレーサ検出装置により他方のボーリング孔内の深さ方向に連続した温度の分布を検出してなる岩盤の透水性評価装置。
【請求項8】
請求項5から7の何れかの評価装置において、前記一方のポーリング孔内をパッカーシステムにより3以上の注入区画に仕切り、前記トレーサ注入装置にトレーサを何れかの注入区画へ選択的に注入する注入区画選択手段を含めてなる岩盤の透水性評価装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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