説明

嵌合構造、トルク伝達部材、及び等速自在継手

【課題】有底筒状の連結部の内部の空気を外部に流通させながら、この有底筒状の連結部に軸状の連結部を嵌合してトルクを伝達するトルク伝達部材の強度を向上する。
【解決手段】第1のトルク伝達部材に設けられた軸状の連結部21と、第2のトルク伝達部材に設けられた有底筒状の連結部33とを嵌合するにあたり、連結部21及び連結部33のいずれか一方に複数の空間部21bを形成し、連結部21及び連結部33のいずれか他方に空間部21bへの係合により空間部21bの底部210cとの間に生じる隙間の径方向長さが異なる第1のスプライン歯331及び第2のスプライン歯332を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵌合構造、トルク伝達部材、及び等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動パワーステアリング装置のアシスト軸と電動モータの回転軸とをスプライン嵌合する嵌合部において、嵌合孔の内歯の少なくとも1山を欠除した内歯欠除部を形成することが記載されている。この内歯欠除部によって嵌合孔内部の空気を外部に連通させることで、嵌合孔内部の空気がグリースのシール作用により封止されるエアロック状態を回避している。
【0003】
また、特許文献2には、歯丈が均等に形成されたスプライン歯を有するスプライン嵌合部を備えた等速自在継手が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−114935号公報
【特許文献2】特開2002−200902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、等速自在継手の外側回転部材に有底筒状の連結部を形成し、この連結部に軸状の駆動軸をスプライン嵌合した複数の試作品を用いてトルクを伝達する試験を行ったところ、常に連結部の特定の部位で損傷が発生することを知得した。この損傷を回避するためには連結部の径を大きくしたり、肉厚を厚くする等の解決策が考えられるが、この場合には重量の増加又は大型化を招来することとなる。
【0006】
そこで、本発明は、連結部の係合突起の少なくとも1つを欠除した場合に比べ、連結部の強度を高めることが可能な嵌合構造、トルク伝達部材、及び等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、以下のように嵌合構造を構成する。すなわち、第1のトルク伝達部材に設けられた軸状の第1の連結部と、第2のトルク伝達部材に設けられた有底筒状の第2の連結部とを嵌合する嵌合構造を、前記第1及び第2の連結部のいずれか一方に複数の係合凹所を形成し、前記第1及び第2の連結部のいずれか他方に前記複数の係合凹所への係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起を形成して構成する。これにより、係合突起を欠除することなく、有底筒状の連結部の内部の空気を外部に流通させる。
【0008】
上記嵌合構造は、前記複数の係合凹所が周方向に等間隔で配置されると共にその深さが均等であり、前記複数の係合突起の少なくとも1つの係合突起は、隣接する他の係合突起よりも根元部から先端部までの距離が短くなるように形成するとよい。これにより、第1トルク伝達部材と第2トルク伝達部材の位相を管理することなく嵌合作業を行える。
【0009】
上記嵌合構造は、前記少なくとも1つの係合突起の根元部から先端部までの距離を、隣接する他の係合突起の根元部から先端部までの距離の80%以下にするとよい。これにより、空気の流通をより確実に確保できる。
【0010】
また、本発明の一態様では、以下のようにトルク伝達部材を構成する。すなわち、相手部材に形成された係合凹所への係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起が内周面に形成された有底筒状の連結部をトルク伝達部材に形成する。これにより、係合突起を欠除することなく、有底筒状の連結部の内部の空気を外部に流通させる。
【0011】
上記トルク伝達部材は、前記複数の係合突起のうち少なくとも1つの係合突起を、前記係合凹所の底部との間に形成される隙間の径方向長さが隣接する他の係合突起に比べて長くなるよう、その根元部から先端部までの距離を前記他の係合突起よりも短く形成するとよい。これにより、根元部から先端部までの距離に応じて隙間を形成する。
【0012】
また、本発明の一態様では、以下のように等速自在継手の外側回転部材を構成する。すなわち、等速自在継手を、内側回転部材と、前記内側回転部材を揺動可能かつ相対回転不能に収容する収容部、及び前記収容部の軸方向一側に形成された有底筒状の連結部を有し、前記連結部の内周面に、相手部材に形成された係合凹所との係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起を形成した外側回転部材とを備えて構成する。これにより、係合突起を欠除することなく、有底筒状の連結部の内部の空気を外部に流通させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有底筒状の連結部の底部の空気を外部に流通させる流路を係合突起の少なくとも一つを欠除することにより形成したものに比べて、連結部の強度を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る等速自在継手を備えた車両の駆動系の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態に係る等速自在継手の断面を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態に係る等速自在継手の連結部の断面を示す図である。
【図4】図4(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る等速自在継手の連結部の断面を拡大して示す図である。図4(b)は、第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332を特に拡大して示す断面図である。図4(c)は、スプライン歯210を特に拡大して示す断面図である。
【図5】図5は、比較例として示す等速自在継手の断面図である。
【図6】図6は、比較例として示す等速自在継手の連結部の断面図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施の形態に係る等速自在継手の連結部の断面を示す図である。
【図8A】図8Aは、本発明の変形例を示す図である。
【図8B】図8Bは、本発明の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る嵌合構造を適用した等速自在継手を備えた車両のトルク伝達系の一例を示す。
【0016】
このトルク伝達系は、ディファレンシャル装置1、駆動軸2、トリポード型等速自在継手3,8、ドライブシャフト4,4、ボール型等速自在継手5,5等から構成されている。なお、図1の左右方向が車両の左右方向にあたる。
【0017】
ディファレンシャル装置1は、デフケース10の外周に一体回転するように連結されたリングギヤ11と、デフケース10の内側に支持されたピニオンシャフト12と、第1ピニオンギヤ13及び第2ピニオンギヤ14と、第1サイドギヤ15及び第2サイドギヤ16とを備える。車両の駆動源の出力を変速する変速機(図略)の出力軸に連結されたピニオンギヤPGからリングギヤ11にトルクが入力されると、ピニオンシャフト12に軸支された第1ピニオンギヤ13及び第2ピニオンギヤ14が公転し、両ピニオンギヤ13,14に共に噛み合う第1サイドギヤ15及び第2サイドギヤ16にトルクが伝達される。
【0018】
第1サイドギヤ15には、その軸心部に貫通孔が形成され、この貫通孔には、ベアリングBに支持された駆動軸2の一端部が相対回転不能にスプライン嵌合されている。駆動軸2の他端に形成された連結部21は、トリポード型等速自在継手3の外側回転部材30の連結部33に相対回転不能に嵌合され、外側回転部材30にトルクが伝達される。この嵌合構造は、連結部33と連結部21との嵌合時に連結部33の内部の空気を外部に流通させる構造を有しており、この構造の詳細については後述する。
【0019】
トリポード型等速自在継手3は、連結部33に一体に形成された筒部31を備える。筒部31には、内側回転部材としてのトリポード部材36が揺動可能かつ相対回転不能に収容されている。トリポード部材36には、ドライブシャフト4の一端部がスプライン嵌合されている。筒部31の一端とドライブシャフト4との間には、グリースの漏れを防止するブーツ34が設けられている。
【0020】
ドライブシャフト4の他端部はボール型等速自在継手5の内側回転部材(図略)にスプライン嵌合されている。ボール型等速自在継手5の外側回転部材51は、その軸方向に立設された軸部51aによりハブ6に連結されており、ハブ6に固定されたホイール70を介してタイヤ71にトルクが伝達される。
【0021】
一方、第2サイドギヤ16には、トリポード型等速自在継手8の外側回転部材80の軸方向に形成された軸部80aがスプライン嵌合されている。トリポード型等速自在継手8のトリポード部材81にはドライブシャフト4が一体回転するように連結されている。このドライブシャフト4からタイヤ71に至る構成は上記と共通するので、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0022】
このように、本実施の形態に係る車両のトルク伝達系では、駆動軸2によって左右のドライブシャフト4,4の長さが等長になるように調整し、操縦性を向上させている。なお、車両の減速時には、上記とは逆方向に、タイヤ71,71からピニオンギヤPGに向かってトルクが伝達される。また、車両の前進時と後退時とでは、各部材の回転方向が逆転する。すなわち、上記の各嵌合部では、前進時及び後退時の両回転方向時において双方向にトルクが伝達される。
【0023】
図2は、トリポード型等速自在継手3及び駆動軸2の連結部の断面図を示す。外側回転部材30は、筒部31と底部32と連結部33とを一体に形成して構成されている。筒部31は、開口端面31a側に開口した中空部31bがその中心部に形成された筒状であり、中空部31bにはトリポード部材36が収容されている。筒部31は本発明の収容部に相当する。トリポード部材36の外周部には3本のトリポード軸部36aが放射状に形成され、各トリポード軸部36aには転動体としてのローラ部材37が外嵌されている。トリポード部材36のボス部36bには、ドライブシャフト4の一端に形成された連結部41が一体回転するように連結されている。
【0024】
筒部31の内面には、その軸方向に沿ってローラ部材37の転動を案内する円弧状の3対の案内溝31cが形成されている。トリポード部材36は、ローラ部材37の転動に伴って外側回転部材30の回転軸O1に沿って摺動可能である。また、ローラ部材37の外周面は球状であり、トリポード部材36は、ローラ部材37を介して外側回転部材30に対して揺動可能である。また、筒部31の外面にはブーツ34を係止する係止溝31dが形成されている。
【0025】
底部32は、筒部31の開口端面31a側とは反対側の端部に設けられている。底部32は、中空部31bの一端を塞ぐように形成されている。底部32の中心部には一端が中空部31bに開口した貫通孔320が形成されている。
【0026】
底部32の筒部31とは反対側の側面には、筒部31の軸方向に沿って突き出た連結部33が設けられている。連結部33は、軸心部に貫通孔320が形成された円筒状である。つまり、貫通孔320は、中空部31bから連結部33の先端側開放端33dまで貫通している。貫通孔320は、中空部31b側に形成された大径部322と、大径部322よりも内径が小さく、連結部33の先端側に形成された小径部321とを有する。
【0027】
大径部322には、閉塞部材としての円盤状のシールプレート35が圧入により嵌合されている。シールプレート35の一側面は大径部322と小径部321との段差部323に当接している。シールプレート35は、中空部31bを小径部321から液密に閉塞し、中空部31b内に塗布されるグリースが小径部321側に漏れ出すことを防止している。このシールプレート35により、小径部321は有底筒状に形成されている。
【0028】
図3は、図2における連結部33のA−A断面である。連結部33の内面、すなわち小径部321には、複数の第1スプライン歯331、及び第1スプライン歯331よりも歯丈が短い複数の第2スプライン歯332が形成されている。複数の第1スプライン歯331及び複数の第2スプライン歯332は、周方向に等間隔で配置され、スプライン嵌合部330を構成している。第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332は内方に突出し、筒部31の回転軸O1に沿って延びている。第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332は、本発明の係合突起に相当する。なお、係合突起とは、少なくともその一部が相手部材に係合してトルク伝達に寄与するものをいう。
【0029】
一方、駆動軸2に形成された軸状の連結部21の外周面には、複数のスプライン歯210が等間隔に形成されている。各スプライン歯210の周方向の幅及び根元部から先端部までの高さは均等である。スプライン歯210は駆動軸2の回転軸に沿って延びている。
【0030】
本実施の形態では、スプライン歯210の個数は20であり、第1スプライン歯331の個数は16、第2スプライン歯332の個数は4である。つまり、第1スプライン歯331と第2スプライン歯332の合計数はスプライン歯210の個数と同数である。また、第2スプライン歯332の個数は第1スプライン歯331の個数よりも少ない。さらに、第2スプライン歯332の周方向の両側には第1スプライン歯331が配置されており、第2スプライン歯332は周方向に連続しないように配置されている。トルク伝達時において、第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332は、スプライン歯210に接触してトルクを伝達する。
【0031】
連結部33の円筒状内面と連結部21との間にはグリースGが介在している。このグリースGは、主として連結部33と連結部21との嵌合作業を容易にするためのものであり、筒部31内に塗布されるグリースとは異なる種類のものである。
【0032】
ここで、連結部33と連結部21との嵌合構造の詳細を図4を参照して詳しく説明する。
図4(a)に拡大して示すように、第2スプライン歯332の先端部と連結部21の外周面との間には、隙間S1が形成されている。隙間S1の径方向長さ(ds)は、第1スプライン歯331と連結部21の外周面との間に形成される隙間S0の径方向長さ(dt)よりも長い。これにより、隙間S1の断面積は隙間S0の断面積よりも大きく形成されている。
【0033】
隙間S0は断面積が小さいためグリースGによって封止され、空気が流通しないが、隙間S1には空気の流通路Pが確保され、貫通孔320の小径部321の底部(シールプレート35側)と連結部33の開口側とを連通している。
【0034】
なお、仮に隙間S0にグリースGが充満したとしても、断面積が広いためグリースGが連結部33の開口側に流動して押し出され、空気の流通路が確保される。また、図3及び図4では、説明のために連結部33と連結部21との隙間を誇張して広く表現しているが、この隙間は隙間S1の部分以外ではほとんどなく、隙間S0の径方向長さ(dt)は実質的にはゼロに近い。
【0035】
図4(b)は、図4(a)の第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332をさらに拡大して示す図である。第2スプライン歯332の根元部332cの周方向の幅(w21)は、第1スプライン歯331の根元部331cの周方向の幅(w11)と同一である。また、第2スプライン歯332の先端部332dの周方向の幅(w22)は、第1スプライン歯331の先端部331dの周方向の幅(w12)よりも大きく形成されている。
【0036】
第2スプライン歯332の根元部332cから先端部332dまでの距離(d2)は、第1スプライン歯331の根元部331cから先端部331dまでの距離(d1)よりも小さく形成されている。第2スプライン歯332の根元部332cから先端部332dまでの距離(d2)は、第1スプライン歯331の根元部331cから先端部331dまでの距離(d1)の80%以下であれば、隙間S1を空気が流通可能に形成することができる。なお、d2は周方向の何れか一方に隣接するスプライン歯の根元部から先端部までの距離との比において80%以下であればよい。
【0037】
小径部321の底部の空気をより効率的に連結部33の開口側に流通させるためには、d2をd1の50%以下にすることが望ましく、本実施の形態では、d2がd1の40%に設定されている。この根元部から先端部までの距離の差に応じて、隙間S0と隙間S1の径方向長さの差異が生じる。
【0038】
第1スプライン歯331の側面331a,331b、及び第2スプライン歯332の側面332a,332bは、先端側ほど曲率の大きくなるインボリュート曲線で形成されている。第2スプライン歯332の側面332a,332bの曲率は、第1スプライン歯331の側面331a,331bの根元側の曲率と同じである。すなわち、第2スプライン歯332は、第1スプライン歯331の先端部側が切り取られた形状を有している。
【0039】
図4(c)は、図4(a)のスプライン歯210をさらに拡大して示す図である。スプライン歯210の周方向一側の側面210aは、第1スプライン歯331の側面331a又は第2スプライン歯332の側面332aと接触する。また、スプライン歯210の周方向他側の側面210bは、第1スプライン歯331の側面331b又は第2スプライン歯332の側面332bと接触する。スプライン歯210の側面210a,210bもまた、先端側ほど曲率の大きくなるインボリュート曲線で形成されている。
【0040】
周方向に隣接する2つのスプライン歯210の間には、底部210cが形成されている。側面210a,底部210c,及び側面210bによって空間部21bが形成されている。前述のように各スプライン歯210の周方向の幅及び根元部から先端部までの高さは均等であるので、各スプライン歯210の間に形成される各空間部21bの径方向の深さや周方向の幅も均等である。空間部21bは、本発明における係合凹所に相当する。
【0041】
連結部33と連結部21が嵌合される際、第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332は、連結部21に形成された空間部21bに係合する。第1スプライン歯331と第2スプライン歯332とでは、根元部から先端部までの距離が異なるので、空間部21bへの係合深さ(空間部21b内に位置する第1スプライン歯331又は第2スプライン歯332の回転軸O1に対する径方向の長さ)が異なる。
【0042】
次に、トリポード型等速自在継手3の外側回転部材30の製造方法について説明する。まず、S53C等の高炭素鋼からなる円筒状の素材を鍛造加工することにより、筒部31,底部32,及び連結部33を形成する。次に、ドリル加工によって連結部33の先端部から筒部31に貫通する貫通孔320を形成する。次に筒部31の開口端面31a側の開口部からブローチ刃を挿入し、このブローチ刃を筒部31の回転軸O1方向に沿って連結部33の先端部側に引き抜くブローチ加工を行う。このブローチ刃には、スプライン嵌合部330の形状に対応した形状を有する刃が形成されており、ブローチ加工によって各第1スプライン歯331及び各第2スプライン歯332が形成される。次に貫通孔320の筒部31側の部分をリーマ加工することにより円筒状の大径部322を形成する。次に大径部322にシールプレート35を圧入する。以上により外側回転部材30が形成される。
【0043】
外側回転部材30と駆動軸2とを連結する際には、作業者が連結部33の先端側開放端33d付近の小径部321の内部にグリースGを塗布し、連結部33の貫通孔320に駆動軸2の連結部21を回転軸O1の方向に沿って挿入して嵌合する。この際、貫通孔320の一端はシールプレート35によって閉塞されているので、貫通孔320の内部の空気は隙間S1に形成された流通路Pから外部に放出される。つまり、仮に流通路Pがないとすれば貫通孔320の内部の空気が逃げ場を失い、連結部33内に連結部21を挿入することが困難となるが、上記構成によれば空気の流路が確保されるため、連結部33と連結部21との嵌合が、流通路Pがない場合よりも容易になる。
【0044】
図5は、比較例として挙げるトリポード型等速自在継手100の回転軸に沿った断面及び駆動軸2の外観を示す図である。トリポード型等速自在継手100でも、上記説明したトリポード型等速自在継手3と同様に、外側回転部材101が連結部103を備え、連結部103を貫通する孔の一端がシールプレート102により閉塞されている。各部の寸法はトリポード型等速自在継手3と同じである。トリポード型等速自在継手100の連結部103にも、回転軸方向に延びる複数のスプライン歯103aが形成されているが、周方向の一部においてスプライン歯103aが形成されていない欠歯部が設けられている点で上記説明したトリポード型等速自在継手3とは異なっている。
【0045】
図6は、図5に示したトリポード型等速自在継手100のB−B断面である。この図に示すように、連結部103の内面には、スプライン歯103aが形成されていない欠歯部103bが2箇所設けられている。駆動軸2の嵌合時には、欠歯部103bの付近を空気が流通する。なお、スプライン歯103aは本発明の実施の形態に係るトリポード型等速自在継手3の第1スプライン歯331と同一の諸元を有し、連結部103の内外径等の寸法及び材質も本発明の実施の形態に係るトリポード型等速自在継手3の連結部33と同一である。
【0046】
このトリポード型等速自在継手100を使用して回転方向を反転させながら所定のトルクを伝達する試験を行ったところ、回転方向の反転回数が約10万回に達した時点で欠歯部103bの周方向に隣接するスプライン歯103aにて亀裂が認められたが、本実施の形態に係るトリポード型等速自在継手3では、30万回を超えても亀裂等の損傷が確認されなかった。
【0047】
[第1の実施の形態の作用効果]
第1の実施の形態によれば、以下の作用及び効果がある。
(1)スプライン嵌合部330に形成された全てのスプライン歯(第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332)が、いずれの方向への回転時にも相手部材としての駆動軸2の連結部に形成されたスプライン歯210の間の空間部21bに係合するので、各スプライン歯で受け持つ荷重が均等化される。つまり、比較例としてのトリポード型等速自在継手100で亀裂が発生した原因は、欠歯部103bの周方向に隣接するスプライン歯103aが受ける荷重が他のスプライン歯103aが受ける荷重よりも相当程度大きいことであると考えられるが、本実施の形態ではトルク伝達時の荷重を等間隔に配置された全てのスプライン歯で受けることにより強度が増し、耐久性が向上していると考えられる。
【0048】
(2)上記のように第1の実施の形態では、スプライン嵌合部330に形成された全てのスプライン歯が相手部材のスプライン歯(スプライン歯210)に係合しながら、隙間S1により空気が流通するように構成されているので、嵌合作業に支障が生じない。なお、有底筒状の内面に形成された各スプライン歯の歯丈(根元部から先端部の距離)を均等に小さくして各スプライン歯の先端部に隙間を形成した場合には、嵌合部のガタが大きくなると共に、噛み合いが浅くなるので強度の確保も困難となる。これに対し本実施の形態では、一部のスプライン歯の歯丈を小さくし、他のスプライン歯を深く噛み合わせることで、空気を流通させながら強度を確保できる。
【0049】
(3)第1の実施の形態では、連結部21に形成された空間部21bの径方向の深さや周方向の幅が均等であり、かつ各空間部21bが周方向に等間隔で形成されるので、連結部21を連結部33の貫通孔320に挿入する際に、両連結部の位相合わせを行う必要がない。すなわち、連結部21をどのような位相で貫通孔320に挿入したとしても、同じように隙間S1が形成される。このため、作業効率が向上する。
【0050】
(4)第1スプライン歯331及び第2スプライン歯332は、スプライン嵌合部330の形状に対応した形状のブローチ刃によるブローチ加工によって形成されるので、例えばスプライン歯部の先端部を削り取ることにより第2スプライン歯332を形成した場合に比べて工程が簡単であり、コストアップを招来しない。
【0051】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態とは連結部33と連結部21との嵌合構造が異なっている。その他の部分については共通するので、共通部分については説明を省略する。
【0052】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る連結部33と連結部21との嵌合部の径方向断面を示す図である。連結部33の内面には、歯丈及び歯幅が均等に形成された複数のスプライン歯333が周方向に等間隔に形成されている。
【0053】
一方、連結部21の外面には各スプライン歯の間にそれぞれ空間部(係合凹所)が形成されているが、この空間部の径方向の深さが均等ではなく、一部の空間部は他の空間部よりも径方向の深さが深くなっている。図7に示す例では、スプライン歯211とスプライン歯212との間に形成される空間部21cの径方向深さが、スプライン歯212とスプライン歯213との間に形成される空間部21dの径方向深さよりも深く形成されている。
【0054】
連結部33と連結部21とが嵌合された状態において、空間部21cには、スプライン歯333の先端部333aと空間部21cの底部211aとの間に径方向長さがds2の隙間S2が形成される。また、空間部21dには、スプライン歯333の先端部333aと空間部21dの底部212aとの間に径方向長さがdt2の隙間S3が形成される。
【0055】
隙間S2は隙間S3よりも広く、連結部33と連結部21との間にグリースが介在しても空気が流通する。
【0056】
[第2の実施の形態の作用効果]
上記第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態について述べた(1)から(3)と同様の効果がある。また、空気が流通する隙間S2が形成された部分のスプライン歯の高さを他の部分と共通にできるので、さらに強度が増す。
【0057】
[他の実施の形態]
以上、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0058】
(1)第1の実施の形態では、駆動軸2の連結部21側のスプライン歯の歯丈を均等にして外側回転部材30の連結部33側に歯丈の異なる複数のスプライン歯を形成したが、これとは逆に、連結部33側のスプライン歯の歯丈を均等にして駆動軸2の連結部21側に歯丈の異なる複数のスプライン歯を形成してもよい。この変形例を図8A(a)に示す。連結部33側に形成されたスプライン歯の歯丈は均等であり、スプライン歯の間に形成される空間部314a,314bの深さは均等である。一方、連結部21側に形成されたスプライン歯214aは、隣接するスプライン歯214bよりも歯丈が低くなっており、スプライン歯214aと空間部314aの底部との間には、スプライン歯214bと空間部314bの底部との間に形成される隙間よりも径方向長さが長い隙間が形成される。
【0059】
(2)第2の実施の形態では、連結部21側のスプライン歯の間に形成される一部の空間部の径方向の深さを他の空間部の径方向の深さよりも深くしたが、このような深さの異なる空間部を連結部33側に形成してもよい。図8A(b)に示す変形例では、連結部33側に形成された空間部315aの深さが空間部315bの深さよりも深くなっている。一方、連結部21側のスプライン歯215a,215bの歯丈は同じであり、空間部315aには、空間部315bよりも径方向長さの長い隙間が形成される。
【0060】
(3)連結部21及び連結部33の一方に他の空間部よりも深さが深い空間部を少なくとも1つ形成し、連結部21及び連結部33の他方に他のスプライン歯よりも歯丈が低いスプライン歯を少なくとも1つ形成し、上記少なくとも1つの空間部に上記少なくとも1つのスプライン歯を係合させてもよい。図8A(c)に示す変形例では、連結部33の空間部316aの深さを隣接する空間部316bよりも深くし、かつ連結部21のスプライン歯216aの高さをスプライン歯216bよりも低くして、スプライン歯216aを空間部316aに係合させている。このように嵌合部を形成することで、第1及び第2の実施の形態よりも隙間を大きくすることができる。
【0061】
(4)連結部21又は連結部33のスプライン歯の先端部に窪みを形成することで隙間を形成してもよい。図8A(d)に示す変形例では、連結部33のスプライン歯317aの先端部に窪みCを形成することで、空間部217aの底部との間に径方向長さがds3の隙間を形成している。この隙間の径方向長さds3は、スプライン歯317bと空間部217bとの間に形成される隙間の径方向長さdt3よりも長い。
【0062】
(5)連結部21又は連結部33に形成する空間部の底部の形状は、平坦なものに限らず、底部に凹凸を設けることで隙間を形成してもよい。図8B(e)に示す変形例では、連結部33の空間部318aの底部を、周方向の中心部で深さが浅く、その両側の部分で深くなるように形成している。空間部318aの中心部では連結部21のスプライン歯218aとの間に形成される隙間の径方向長さが短いが、この中心部の両側部分では隙間の径方向長さが長くなっており、両側部分における隙間の径方向長さds4は、空間部318bとスプライン歯218bとの間に形成される隙間の径方向長さdt4よりも長い。
【0063】
(6)図8B(e)に示す変形例をさらに変形し、空間部の底部における周方向の一側の深さを他側よりも深くしてもよい。図8B(f)に示す変形例では、空間部319aの周方向の一部において深さを深くし、連結部21のスプライン歯218aとの間に形成される隙間の径方向長さds5を、空間部319bとスプライン歯218bとの間に形成される隙間の径方向長さdt5よりも長くしている。
【0064】
(7)第1の実施の形態では、第2スプライン歯332を、第1スプライン歯331の先端部側が切り取られた形状に形成したが、これに限らず、第2スプライン歯332を相手部材のスプライン歯に係合させるべく、形状を変更してもよい。例えば、第2スプライン歯332の先端部の幅を、同位置における第1スプライン歯331の幅よりも拡げてもよい。この場合には、2スプライン歯332の先端部の幅が図4(b)に示した幅(w22)よりも大きくなる。
【0065】
(8)本発明の適用対象は、トリポード型等速自在継手の外側回転部材に限らず、ボール型等速自在継手の外側回転部材に適用してもよい。また、等速自在継手に限らず、車両のステアリングの操舵系のトルク伝達部位に適用することもできる。またさらに、車両用に限らず、例えば工作機械のトルク伝達部位に適用することも可能である。
【0066】
(9)上記各実施例では、連結部21と連結部33との間にグリースGを介在させたが、グリースを介在させないものにも本発明を適用できる。本発明により空気の流通路を広くできるため、嵌合作業を容易にすることができるからである。
【符号の説明】
【0067】
1・・・ディファレンシャル装置、2・・・駆動軸、3,8・・・トリポード型等速自在継手、4・・・ドライブシャフト、5・・・ボール型等速自在継手、6・・・ハブ、8・・・トリポード型等速自在継手、10・・・デフケース、11・・・リングギヤ、12・・・ピニオンシャフト、13・・・第1ピニオンギヤ、14・・・第2ピニオンギヤ、15・・・第1サイドギヤ、16・・・第2サイドギヤ、21・・・連結部、210・・・スプライン歯、210a,210b・・・側面、210c・・・底部、211,212,213・・・スプライン歯、211a,212a・・・底部、21c,21d・・・空間部、30・・・外側回転部材、31・・・筒部、31a・・・開口端面、31b・・・中空部、31c・・・案内溝、31d・・・係止溝、32・・・底部、320・・・貫通孔、322・・・大径部、321・・・小径部、323・・・段差部、33・・・連結部、33d・・・先端側開放端、330・・・スプライン嵌合部、331・・・第1スプライン歯、331a,331b・・・側面、331c・・・根元部、331d・・・先端部、332・・・第2スプライン歯、332a,332b・・・側面、332c・・・根元部、332d・・・先端部、333・・・スプライン歯、333a・・・先端部、34・・・ブーツ、35・・・シールプレート、36・・・トリポード部材、36a・・・トリポード軸部、36b・・・ボス部、37・・・ローラ部材、41・・・連結部、51・・・外側回転部材、51a・・・軸部、70・・・ホイール、71・・・タイヤ、80・・・外側回転部材、80a・・・軸部、100・・・トリポード型等速自在継手、103・・・連結部、103a・・・スプライン歯、103b・・・欠歯部、B・・・ベアリング、G・・・グリース、O1・・・回転軸、PG・・・ピニオンギヤ、P・・・流通路、S0,S1,S2,S3・・・隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のトルク伝達部材に設けられた軸状の第1の連結部と、第2のトルク伝達部材に設けられた有底筒状の第2の連結部とを嵌合する嵌合構造であり、
前記第1及び第2の連結部のいずれか一方に複数の係合凹所を形成し、
前記第1及び第2の連結部のいずれか他方に前記複数の係合凹所への係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起を形成した嵌合構造。
【請求項2】
前記複数の係合凹所は周方向に等間隔で配置されると共にその深さが均等であり、
前記複数の係合突起の少なくとも1つの係合突起は、隣接する他の係合突起よりも根元部から先端部までの距離が短い請求項1に記載の嵌合構造。
【請求項3】
前記少なくとも1つの係合突起の根元部から先端部までの距離が、隣接する他の係合突起の根元部から先端部までの距離の80%以下である請求項2に記載の嵌合構造。
【請求項4】
相手部材に形成された係合凹所への係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起が内周面に形成された有底筒状の連結部を有するトルク伝達部材。
【請求項5】
前記複数の係合突起のうち少なくとも1つの係合突起は、前記係合凹所の底部との間に形成される隙間の径方向長さが隣接する他の係合突起に比べて長くなるよう、その根元部から先端部までの距離が前記他の係合突起よりも短く形成されている請求項4に記載のトルク伝達部材。
【請求項6】
内側回転部材と、
前記内側回転部材を揺動可能かつ相対回転不能に収容する収容部、及び前記収容部の軸方向一側に形成された有底筒状の連結部を有し、前記連結部の内周面に、相手部材に形成された係合凹所との係合により前記係合凹所の底部との間に生じる隙間の径方向長さが異なる複数の係合突起を形成した外側回転部材と、
を備えた等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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