説明

嵩高清涼撚糸織物

【課題】適度な嵩高性と爽やかな清涼感に富んだ風合いや、絹様の高級感のある光沢、深みのある発色性に優れ、ムレ感や静電気の発生の少ない快適な着用感に優れた嵩高清涼撚糸織物を提供する。
【解決手段】嵩高清涼撚糸織物は、少なくとも公定水分率が8%以下で単繊維断面が多葉断面形状であるセルロース系フィラメント糸と合成繊維フィラメント糸とで構成される合撚糸を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フカツキ感の無い、撚糸織物にマッチした適度な嵩高性と、清涼感に優れた織物に関し、更に詳しくは爽やかな清涼感に富んだ風合いや絹様の高級感のある光沢、深みのある発色性に優れ、ムレ感や静電気の発生の少ない快適な着用感に優れた嵩高清涼撚糸織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
嵩高で軽量効果を謳った合成繊維フィラメント糸の織物は、特にポリエステルフィラメント糸を用いた製品が多く、ファッション性にも優れた多種な商品を開発し上市されている。しかし、これらの製品が嵩高性を強調するとフカツキ感が生じ、清涼感や撚糸織物としてのシャリ感やハリコシ感が損なわれ、高級感が得られ難く、フカツキ感の無い、撚糸織物にマッチした適度な嵩高性と、清涼感に優れた織物は得られない。しかもポリエステル系繊維は石油由来のワキシイな風合い、低吸湿性からくるムレ感や静電気発生、屈折率が高いことからくる金属感のある光沢、鮮明な発色性に欠けるなどの問題がある。また、ヤング率が高く多葉断面にしたものは硬くガリ感のある風合いとなる。
【0003】
一方、レーヨンのフィラメント糸やレーヨンのフィラメント糸と合繊の合撚複合糸を用いたものは、通常のレーヨンの水膨潤性による収縮が大きいため、合撚複合糸での膨らみ感表現が得難く、また、湿潤堅牢度が得難い、乾燥速度が遅い等の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は上記問題を解決し、適度な嵩高性と爽やかな清涼感に富んだ風合いや、絹様の高級感のある光沢、深みのある発色性に優れ、ムレ感や静電気の発生の少ない快適な着用感に優れた嵩高清涼撚糸織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の基本的構成は、公定水分率が8%以下で単繊維断面が多葉断面形状であるセルロース系フィラメント糸と合成繊維フィラメント糸との合撚糸を用いた織物にある。
【発明の効果】
【0006】
フカツキ感の無い、撚糸織物にマッチした適度な嵩高性と爽やかな清涼感に富んだ風合いや、絹様の高級感のある光沢、深みのある発色性に優れ、ムレ感や静電気の発生の少ない快適な着用感に優れた嵩高清涼撚糸織物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明で用いる多葉断面の形態例である。
【図2】本発明で用いるヘリンボン織物の織組織図である。
【図3】本発明で用いるブッチャー織物の織組織図である。
【図4】本発明で用いる経二重織物の織組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明におけるセルロース系フィラメント糸とは、セルロースを原料として、再生或いは半合成された繊維のフィラメント糸であればよく、再生繊維としては、例えばビスコースレーヨン、リヨセル等を挙げることができ、半合成繊維としては、例えばセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられるが、その製法や種類を特に限定するものではない。また該フィラメント糸は、艶、繊度などを特に限定するものではなく、得られる織物表現を考慮して任意に選定すればよい。
【0009】
本発明のセルロース系フィラメント糸は公定水分率が8%以下であることが必要である。セルロース系フィラメント糸の公定水分率が8%を超えると、水膨潤性による収縮が問題となり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度の問題や、保水性が高く速乾性に劣る等の問題が生じる。このため、ポリエステル系フィラメント糸の混率を高める必要があり、ポリエステル系フィラメント糸の欠点である金属光沢、発色性、ワキシイな硬い風合いが強調され、本発明の目的とする織物が得難い。また、セルロース系フィラメント糸が染色加工や洗濯等で水膨潤性により大きく収縮するため嵩高が得られ難い。
【0010】
本発明のセルロース系フィラメント糸は単繊維断面が図1に示すような多葉断面形状を有していることが必要である。通常の菊型断面や丸断面では単繊維間の空隙が少なく嵩高性を高める効果が小さい。単繊維断面を多葉断面とすることで単繊維間に空隙を生じさせ嵩高とすることが出来る。この嵩高性はエアー交絡や、仮撚加工等の糸加工技術で得られるものとは異なり、フカツキ感の無い、撚糸織物の表現を損なわない適度なものである。嵩高を付与する多葉断面形状としては三葉以上であればよく、特に限定するものではなく得られる織物表現を考慮して任意に選定すればよい。また、セルロース系フィラメント糸を多葉断面形状とすることにより、ガリ感の無い、ソフトで適度なシャリ感が得られ、撚糸との相乗効果で清涼感も向上するので好適である。
【0011】
本発明の合成繊維フィラメント糸はその種類や製法を特に限定するものではない。また該フィラメント糸は、単繊維断面や繊維の表面形状、艶、繊度、染色性などを特に限定するものではなく、得られる織物表現を考慮して任意に選定すればよい。中でもポリエステル系フィラメント糸は機能性に優れ、種類も豊富であり、本発明のセルロース系フィラメント糸との相性もよく、好ましく用いられる。
【0012】
本発明においては、セルロース系フィラメント糸と合成繊維フィラメント糸との合撚糸が用いられるが、合撚糸の撚数や合撚方法は特に限定するものではなく、得られる織物表現を考慮して任意に選定すればよい。撚数としては、例えば、高級感のある外観、風合い、深みのある発色等の観点から撚係数が7000〜24000のものが好ましく用いられる。また、同様の観点から本発明の合撚糸におけるセルロース系フィラメント糸の混用率は40%〜85%のものが好ましく用いられる。合撚方法としては、例えば一般的な双方の糸を引き揃え後に撚糸したり、双方の糸をエアー交絡後撚糸したり、また、双方の糸を引き揃え撚糸後、更に撚糸した糸2本を引き揃え撚糸する諸糸などが挙げられる。
【0013】
本発明の織物の組織や密度、形態などは特に限定されるものではなく、目的の織物風合い、意匠性等を考慮して任意に選択すればよい。例えば、本発明の織物の特長である発色性を活かしたブラックフォーマル用途では、カルゼやヘリンボン、ブッチャー等の組織が好ましく用いられる。また、本発明の合撚糸以外の糸種との交織や、経糸や緯糸に配列した織物としても何ら問題は無い。但し、本発明の目的を損なわないためには、織物におけるセルロース系フィラメント糸の混用率は40%以上とすることが好ましい。
【0014】
本発明の実施形態にあって、セルロース系フィラメント糸の多葉断面形状には六葉のものが特に好ましく用いられる。三葉や四葉の断面形状では六葉に比べて嵩高性は高いものが得られるものの、表面反射が大きくなり、セルロース系フィラメント糸としての優れた発色性が損なわれる傾向がある。一方、八葉断面形状では発色性は優れるが嵩高性が損なわれる傾向にある。六葉断面形状のものは嵩高性と発色性に優れるばかりでなく、適度なシャリ感も得られ、ソフトで爽やかな清涼感のある嵩高清涼撚糸織物が得られる。
【0015】
本発明における合成繊維フィラメント糸には、熱収縮性の異なる2成分のポリエステル系重合体が接合した複合構造を有し、繊維軸方向に太細斑を有する単繊維からなるマルチフィラメント糸が好ましく用いられる。該ポリエステル系複合繊維フィラメント糸と本発明のセルロース系フィラメント糸を合撚して用いることにより、多葉断面効果に加えて異収縮効果による嵩高性向上もあり、ストレッチ性やハリコシ、反発感、可縫性向上等が付与され、セルロース系フィラメント糸の特長も充分に発揮した、フカツキ感の無い適度な嵩高性と、ソフトで適度なシャリ感、爽やかな清涼感のある嵩高清涼撚糸織物が得られる。
【0016】
前記ポリエステル系複合繊維フィラメント糸は、その製法や種類、断面形状、表面形状、艶、単繊維繊度、全繊度などを特に限定するものではない。また、太細斑の形態としてはマルチフィラメント糸として太細斑の強調されたマルチフィラメントの各単繊維の太部と細部が繊維軸方向に比較的揃った強調型や、マルチフィラメント糸として太細斑の目立たないようにマルチフィラメント糸の各単繊維の太部と細部を繊維軸方向に比較的分散させた分散型等があるが、これらを特に限定するものではない。更にまた熱収縮性の異なる2成分のポリエステル系重合体の片方或いは両方がカチオン染料可染型であっても良い。もちろん熱収縮性の異なる2成分のポリエステル系重合体からなるポリエステル系複合繊維は加熱させるとコイル状になるいわゆる潜在捲縮糸でもよいし、パーンやチーズ等から解除したらコイル状になるいわゆる顕在捲縮糸でもよく特に限定するものではない。
【0017】
本発明のセルロース系フィラメント糸は公定水分率が8%以下で単繊維断面が多葉断面形状であればよく、その製法や種類を特に限定するものではないが、アセテート繊維がその低屈折率からくる鮮明性、発色性、高級感のある光沢、セルロース由来の清涼感、更には熱セット性、分散染料可染性などを有しており好ましく用いられる。因みに、ジアセテートの公定水分率は約6.5%、トリアセテートは約3.5%であり適度な吸湿性と速乾性を有している。また風合いや光沢の高級感の観点からトリアセテートの使用が更に好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。また、水分率はJIS L1013 化学繊維フィラメント糸試験方法に従って測定し、伸縮性や風合い、発色性等はハンドリングと目視によって評価した。
【0019】
〔実施例1〕
ブライト110dtex40f(dtexはデシテックスの略。以下、dtexで記載する。fはフィラメントの略。以下、fで記載する。)六葉断面の水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製)と分散型の太細斑を有する潜在捲縮型ポリエステル系複合繊維セミダル56dtex24f V714(三菱レイヨン社製、丸断面、水分率0.4%)とをインターレース混繊機で混繊後に1000回/ mで合撚加工し、S方向の撚を加えたもの(以下、S撚と記載する。)とZ方向の撚を加えたもの(以下、Z撚と記載する。)をそれぞれ作成した。該合撚複合糸を経糸及び緯糸にS撚とZ撚を2本交互に配列してヘリンボン組織(図2参照)の織物を作成した。この生機を常法に従って黒色に染色仕上加工して、経糸密度156本/ 2.54cm、緯糸密度88本/ 2.54cmの織物を得た。得られた織物はソフトで適度なシャリ感と嵩高感があり、爽やかな清涼感、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、深みのある優れた黒の発色性、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。
【0020】
〔比較例1〕
実施例1のセルローストリアセテートフィラメント糸の単繊維断面を菊型に変更した以外は、実施例1と同じ生機を作成し、染色条件も同様に実施例1と同じに実施し仕上げ密度も実施例1と同じにした。その結果、反発感やソフトで爽やかな清涼感に優れた、黒の発色性、高級感のある光沢の織物が得られた。しかし、実施例1に比べシャリ感や嵩高感が少なく、嵩高軽量性に劣り本発明の目的とする嵩高清涼撚糸織物は得られなかった。
【0021】
〔実施例2〕
ブライト110dtex40f六葉断面の水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製)と分散型の太細斑を有する潜在捲縮型ポリエステル系複合繊維セミダル56dtex24f V714(三菱レイヨン社製、丸断面、水分率0.4%)とを引き揃えて1000回/ mでS撚に合撚加工した合撚複合糸を作成した。該合撚複合糸を経糸及び緯糸に用いて、ブッチャー組織(図3参照)の織物を作成した。この生機を常法に従って黒色に染色仕上加工して、経糸密度133本/ 2.54cm、緯糸密度92本/ 2.54cmの織物を得た。得られた織物はソフトで適度なシャリ感と嵩高感があり、爽やかな清涼感、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、深みのある優れた黒の発色性、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。
【0022】
〔実施例3〕
実施例1のセルローストリアセテートフィラメント糸の単繊維断面を三葉断面に変更した以外は、実施例1と同じ生機を作成し、染色条件も同様に実施例1と同じに実施し、仕上げ密度も実施例1と同じにした。得られた織物は、表面反射が多く深みがやや劣るが深みのある優れた黒が得られ、良好な嵩高感と、シャリ感のある爽やかな清涼感、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。
【0023】
〔比較例2〕
実施例3のセルローストリアセテートフィラメント糸をポリエステルブライト110dtex24f A120(三菱レイヨン社製 三角断面 水分率0.4%)に変更した以外は実施例3と同じ生機を作成し、染色条件も同様にして実施例3と同じに実施し、仕上げ密度も実施例3と同じにした。得られた織物は、表面反射が多く深みに欠けた黒、高級感の無い金属光沢、嵩高感はあるもの硬いワキシイな風合いであり、清涼感や爽やかさ、高級感に欠けるものであった
【0024】
〔実施例4〕
ブライト62dtex20f六葉断面の水分率3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸(三菱レイヨン社製)とポリエステルセミダル33dtex24f A218(三菱レイヨン社製、丸断面、水分率0.4 %)に加撚方向S撚およびZ撚に仮撚加工を施したものをそれぞれ引き揃え後、加撚方向S撚との引き揃え糸には1600回/mのZ撚を、加撚方向Z撚との引き揃え糸には1600回/mのS撚を施した。該合撚複合糸を経糸及び緯糸にS撚とZ撚を2本交互に配列して経二重組織(図4参照)の織物を作成した。この生機を常法に従って黒色に染色仕上加工して、経糸密度210本/2.54cm、緯糸密度115本/2.54cmの織物を得た。得られた織物はソフトで適度なシャリ感と嵩高感があり、爽やかな清涼感、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、深みのある優れた黒の発色性、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。
【0025】
〔実施例5〕
実施例1の合撚数を1700回/mに変更した以外は、実施例1と同じ生機を作成し、染色条件も同様に実施例1と同じに実施し仕上げ密度も実施例1と同じにした。得られた織物は、深みのある優れた黒が得られ、適度な嵩高感と、合撚数を上げたことでよりシャリ感やドライ感が強調された清涼感があり、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。
【0026】
〔実施例6〕
実施例1の合撚数を600回/mに変更した以外は、実施例1と同じ生機を作成し、染色条件も同様に実施例1と同じに実施し仕上げ密度も実施例1と同じにした。得られた織物は、深みのある優れた黒が得られ、良好な嵩高感と、合撚数を下げたことによるソフトな肌触り感と適度なシャリ感のある風合いが得られ、良好なハリコシと反発感、伸縮性等を有していた。また、高級感のある絹様の光沢があり、ブラックフォーマルに好適のものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも公定水分率が8%以下で単繊維断面が多葉断面形状であるセルロース系フィラメント糸と合成繊維フィラメント糸で構成される合撚糸を用いることを特徴とする嵩高清涼撚糸織物。
【請求項2】
セルロース系フィラメント糸の単繊維断面が六葉である請求項1記載の嵩高清涼撚糸織物。
【請求項3】
合成繊維フィラメント糸が熱収縮性の異なる2成分のポリエステル系重合体が接合した複合構造を有し、繊維軸方向に太細斑を有する単繊維からなるフィラメント糸である請求項1又は2に記載の嵩高清涼撚糸織物。
【請求項4】
セルロース系フィラメント糸がセルロースアセテート繊維フィラメント糸である請求項1〜3のいずれかに記載の嵩高清涼撚糸織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174394(P2010−174394A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17055(P2009−17055)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】