説明

工作機械の主軸台装置

【課題】 この工作機械の主軸台装置は,クイルを主軸台にあたかも両持ち支持構造で支持し,ワークの加工においてビビリを発生させず,共振数,減衰性等の不利を防止する。【解決手段】 この主軸台装置を備えた工作機械は,主軸台50に回転可能に支持された中空部12を備えたクイル3,クイル3の端部51に固定されたプーリー6,及びプーリー6をベルト10を介して回転駆動するモータ4を備えている。主軸台50は,クイル3を軸受8,9を介して回転自在に支持したスピンドルケース2,スピンドルケース2のチャック側端部31に設けたフランジ部15がボルト16によって軸方向に締め付けて固定されたヘッドストック1,及びヘッドストック1に取付け取外し可能に固定されてスピンドルケース2を支持するすり割りリング5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,主軸台に回転自在に取り付けられた主軸を構成するスピンドルを主軸台とは別置きのモータによって回転駆動するNC旋盤や旋盤の工作機械の主軸台装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常,工作機械における主軸は,軸受メーカから供給されるユニット(クイル式主軸台)を使用して主軸を構成している。これらのクイル式主軸台は,ほとんどがチャックが装着される負荷側に主軸を構成するクイルを機械本体に取り付けるため,クイルを回転自在に支持するスピンドルケースにフランジ部を設け,該フランジ部を主軸台即ちヘッドストックにボルトで固定する構造を有している。言い換えれば,クイル式主軸台は,クイルを回転自在に支持するスピンドルケースを主軸台に対してフランジ部で固定した片持ち構造に構成されている。このようなクイル式主軸台は,利点として,主軸台に対する熱による変位(熱膨張差)を反負荷側(通常,駆動用ベルトの取り付ける側)に逃がせることである。
【0003】
また,アルミホイールのディスク部表面を切削加工によって鏡面状に仕上げることができるNC旋盤が知られている。該NC旋盤は,ベッド,主軸を有する主軸台,主軸を回転させる駆動モータ,主軸の前方端に装着されたチャック,主軸に対して往復動する往復台,及び往復台上で往復移動する刃物台を有し,主軸は駆動モータからの回転力をベルトを介して回転駆動される(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,工作機械の主軸装置として,ビルトインモータ式のものが多数知られている。該工作機械の主軸装置は,先端に工具が取り付けられる中空状の主軸,主軸内に主軸に対して回転しない軸方向に移動しうるように同軸上に配され,軸方向の移動により主軸先端への工具の着脱を行うドローバー,ドローバーを主軸に対して工具を掴む方向に付勢する皿ばねとを備えている。主軸は,その両端部が固定ハウジングに軸受を介して回転自在に取り付けられている。主軸を回転駆動するモータは,主軸と固定ハウジングとの間に配設されている。モータは,主軸に取り付けられたロータと固定ハウジングに取り付けられたステータとから構成されている(例えば,特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−197903号公報
【特許文献2】特開2001−269803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,上記のようなビルトインモータ式工作機械の主軸装置では,モータは,主軸の両端を固定ハウジングに回転自在にそれぞれ支持する軸受の間に位置しているので,モータによる回転駆動の運転状態では,主軸は回転駆動力によって共振や撓みを起こすことがなく,切削加工ではワークに対してビビリ等による不具合が発生することがない。
【0006】
しかしながら,上記のクイル式主軸台は,主軸台に対する熱による変位を反負荷側に逃がせるという利点が有るものの,スピンドルケースの主軸台への取付け構造が片持ち構造であるため,共振数,減衰性等の数値には不利に作用し,旋盤については,突っ切り加工,突っ切り刃物の幅,送り量,端面から加工する場所までの長さ等に対して不利に作用することになり,例えば,くし歯旋盤の加工では,突っ切りバイトの加工においてビビリが発生することになる。
【0007】
この発明の目的は,上記の問題を解決することであり,クイルを主軸台に片持ち構造で支持していた従来のクイル式主軸台において切削加工で発生していたビビリ等を防止し,共振数,減衰性等の数値の不利を排除するため,クイルをあたかも両持ち構造で支持したような支持構造に構成し,旋盤における突っ切り加工,突っ切り刃物の幅,送り量,端面から加工する場所までの長さ等に有利になるように改善したことを特徴とする工作機械の主軸台装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,主軸台に軸受を介して回転可能に支持された主軸を構成する中空状のクイル,前記クイルの一端部に取り付けられたワークを取り付けるためのチャック,前記クイルの他端部に設けられた動力伝達手段,前記動力伝達手段を回転駆動するモータ,及び前記ワークを加工するバイトを装着するためX軸方向とY軸方向に往復移動する刃物台を備えた工作機械において,
前記主軸台は,前記クイルを前記軸受を介して回転自在に支持する中空部を備えたスピンドルケース,前記スピンドルケースを中空部に挿通して前記スピンドルケースの端部に設けたフランジ部を第1ボルトによって軸方向に締め付けて固定したヘッドストック,及び前記ヘッドストックに取付け取外し可能に固定されるすり割りリングを備えており,前記ヘッドストックに固定された前記すり割りリングは,前記すり割りリングの内周面が前記スピンドルケースの他端部の外周面に接触状態で,前記スピンドルケースの前記他端部を支持することを特徴とする工作機械の主軸台装置に関する。
【0009】
この工作機械の主軸台装置において,前記すり割りリングは,前記クイルを運転状態にして,前記ヘッドストックに第2ボルトによって軸方向に締め付けられて前記ヘッドストックに固定される。
【0010】
更に,前記すり割りリングは,前記スピンドルケースの前記外周面に対して内径を縮径する第3ボルトを備えており,前記第3ボルトによって前記すり割りリングを前記スピンドルケースの前記外周面に締め上げた状態で前記第2ボルトによって前記ヘッドストックに固定される。
【0011】
また,前記すり割りリングは,前記クイルの運転状態において前記スピンドルケースと前記ヘッドストックとの間の熱膨張差に変動が発生する場合には,前記ヘッドストックから取り外される。
【0012】
また,前記モータの回転駆動力を前記クイルに伝達する前記動力伝達手段は,前記クイルの前記端部に取り付けたプーリー,前記モータの出力軸に取り付けたプーリー,及び前記両プーリーにかけられたベルトから構成されている。
【発明の効果】
【0013】
この工作機械の主軸台装置は,上記のように,クイルがその両端部がボルトとすり割りリングとによってヘッドストックに取り付けられる両持ち支持構造に構成されるので,モータによって回転駆動されるクイルは,撓んだり,振動を発生させることなく,ヘッドストックに安定して強固に支持され,クイルに装着されるワークがバイトによって切削加工される場合に加工精度にビビリ等が発生したり,共振数,減衰数の数値等が不利に作用することがなく,高精度にワークを切削加工することができ,例えば,旋盤において突っ切り加工の工具の幅を大きくすることができ,加工中の工具の送り量を大きく設定できた。また,従来のクイル式主軸台ではビビリ等が出て,チャック爪端面位置での突っ切りしか加工できなかったが,本発明の工作機械の主軸台装置は,例えば,φ60のSCM45材の外径において,幅4.5mm突っ切りバイトを爪端面から45mm離したところでもビビリ等が発生せず,良好に切削加工ができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,図1〜図5を参照して,この発明による工作機械の主軸台装置の実施例を説明する。この発明による主軸台装置が設けられた工作機械は,特に,NC旋盤や旋盤に適用して好ましいものであり,概して,ベース27にベッド14が配設されると共に,サーボモータ等のモータ4が配設されている。ベッド14には,ヘッドスペーサ21を介して主軸台50を構成するヘッドストック1,及びZ軸方向に往復動するZ軸スライド29が配設されている。Z軸スライド29には,サドル30が設置されている。サドル30には,X軸方向に往復移動するX軸スライド28が配設されている。X軸スライド28には,図示していないが,ワークを切削加工するバイトを取り付ける刃物台やタレットが設置されている。主軸台50は,主軸台50に設けられた基準ブロック25をヘッドスペーサ21に設けた調整ブロック24によって位置調整して,ベッド14に固定されたヘッドスペーサ21に高精度にセットされるように構成されている。この実施例では,モータ4の回転駆動力をクイル3に伝達する動力伝達手段は,クイル3に取り付けられたプーリー6とモータ4の出力軸53に取り付けられたプーリー7とにかけられたV型ベルト等のベルト10から構成されている。動力伝達手段は,ベルトに限らず,場合によっては,歯車伝達装置で構成することもできる。また,ヘッドストック1には,ウエイト23によってバランスが取られるように構成されている。
【0015】
この工作機械の主軸台装置は,主として,主軸台50に軸受8,9を介して回転可能に支持された主軸を構成する中空部12を備えたクイル3,クイル3の一方の端部52に取り付けられたワーク(図示せず)を取り付けルためのチャック47,クイル3の他方の端部51に固定されたプーリー6,及びプーリー6をVベルト等のベルト10を介して回転駆動するモータ4を備えており,特に,主軸台50の構成に特徴を有している。ベルト10は,モータ4の出力軸に取り付けられたプーリー7にかけられと共に,クイル3の端部に固定されたプーリー6にかけられている。従って,モータ4の回転駆動力は,プーリー7,ベルト10,及びプーリー6を通じてクイル3に伝達される。また,クイル3の端部に固定されたポジションプーリー58にはベルト49がかけられ,クイル3の回転情報は,ベルト49を通じてポジションコーダ26に入力されるように構成されている。クイル3の中空部12は,例えば,ワークを把持するチャックを開閉するためのドローバを通したり,冷却液を供給する通路として機能する。また,ドローバは,クイル3の端部51に取り付けられた回転シリンダ54等で作動されるように構成されている。
【0016】
この工作機械の主軸台装置において,主軸台50は,特に,クイル3を軸受8,9を介して回転自在に支持する中空部12を備えたスピンドルケース2,スピンドルケース2のチャック側の端部31に設けたフランジ部15がボルト16(第1ボルト)によって軸方向に締め付けて固定されたヘッドストック1,及びヘッドストック1に取付け取外し可能に固定されるすり割りリング5を備えており,ヘッドストック1に固定されたすり割りリング5は,すり割りリング5の内周面33がスピンドルケース2のプーリー側端部32の外周面34に接触状態で,スピンドルケース2のプーリー側端部32を支持することを特徴としている。
【0017】
この工作機械の主軸台装置において,すり割りリング5は,クイル3を運転状態にして,ヘッドストック1にボルト17(第2ボルト)によって軸方向に締め付けられてヘッドストック1に固定されている。更に,すり割りリング5は,図3又は図4に示すように,スピンドルケース2の外周面34に対して内径を縮径するボルト18(第3ボルト)を備えており,ボルト18によってすり割りリング5をスピンドルケース2の外周面34に締め上げた状態でボルト18によってヘッドストック1に固定されている。
【0018】
この工作機械の主軸台装置は,クイル3の運転状態において,スピンドルケース2の熱膨張とヘッドストック1の熱膨張とに差が無い場合,即ち,熱膨張差に変動が無い場合に,すり割りリング5をヘッドストック1に固定してスピンドルケース2の端部32を支持し,スピンドルケース2をすり割りリング5とフランジ部15に挿通したボルト16とで両持ち構造にし,ワークの加工にビビリ等が発生しないようにする。しかしながら,スピンドルケース2とヘッドストック1との間の熱膨張差が変動する場合には,すり割りリング5をヘッドストック1に固定すると,例えば,スピンドルケース2及び/又はヘッドストック1に撓み等が発生し,ワークの加工精度に悪影響を与えることになるので,スピンドルケース2とヘッドストック1との間の熱膨張差が変動する場合には,すり割りリング5をヘッドストック1から取り外すものである。
【0019】
また,この工作機械の主軸台装置について,クイル3をヘッドストック1に取り付ける組立の一例を,図5を参照して,説明する。クイル3のチャック側の端部52は,前カバー35によって係止するため係止用フランジ部38が設けられている。また,クイル3の端部52の端面には,ワーク取付け用チャックを装着する面板を取り付けるためのねじ穴40が形成されている。クイル3の端部52側の外周面にねじ55が形成され,クイル3の端部51側の外周面にねじ56が形成されている。クイル3には,軸受押さえ19を係止用フランジ部38に当接して嵌入し,そこで,一対の軸受8,スペーサ45をクイル3の外周面に嵌入し,端部52側のねじ55にナット43を螺入してセットねじ44で固定し,軸受8をクイル3に固定する。クイル3の外周面に軸受押さえ19,軸受8,スペーサ45,及びナット43を取り付けた後に,クイル3をスピンドルケース2の中空部13に挿通し,軸受押さえ19をボルト36によってスピンドルケース2の前端面に固定する。次いで,クイル3の外周面にスペーサ59,軸受9,及びスペーサ42を嵌入し,端部51側のねじ56にナット41を螺入して留めねじ46で固定し,それによって軸受9をクイル3に固定する。更に,ナット41とスペーサ42の外周面に後カバー20を嵌合し,後カバー20をボルト57によってスピンドルケース2の後端面に固定する。また,前カバー35をクイル3の負荷側の端部52の係止用フランジ部38に係止して,前カバー35をボルト37によって軸受押さえ19に固定する。次いで,クイル3に取り付けたスピンドルケース2を,ヘッドストック1の中空部11に挿通し,スピンドルケース2をボルト16によってヘッドストック1に固定する。そこで,ヘッドストック1とスピンドルケース2との後端面から後方へ突出しているクイル3の端部51に,プーリー6を取り付ける。また,クイル3の端部52の端面に形成されたねじ穴40には,スピンドルユニット22を構成する面板等を取り付けるものであり,ワークは,スピンドルユニット22を構成するチャック等に装着されることは勿論である。
【0020】
この工作機械の主軸台装置は,ヘッドストック1とスピンドルケース2とに熱膨張差が発生しないタイプでは,特に,ヘッドストック1にすり割りリング5を取り付けることになる。そこで,クイル3をヘッドストック1に取り付けた後に,ヘッドストック1にすり割りリング5を次のようにして固定する。まず,ヘッドストック1の後端面から突出しているスピンドルケース2の外周面34にすり割りリング5の内周面33を嵌合し,図3及び図4に示すように,すり割りリング5のすり割り部48が近接するように,ボルト18によってすり割りリング5をスピンドルケース2に締め付ける。次いで,すり割りリング5をボルト17によってヘッドストック1に固定する。この工作機械の主軸台装置は,上記のように構成されているので,スピンドルケース2は,フランジ部15に挿通したボルト16とすり割りリング5によって,ヘッドストック1に両持ち構造で支持され,それによって,クイル3がヘッドストック1に両持ち構造で支持されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この工作機械の主軸台装置は,例えば,工作物をバイトで切削加工する旋盤等の工作機械に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明による工作機械の主軸台装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の工作機械の主軸台装置を示す平面図である。
【図3】図1の工作機械の主軸台装置におけるモータとヘッドストックとの駆動状態を示す部分拡大の正面図である。
【図4】図3の工作機械の主軸台装置におけるモータとヘッドストックとの駆動状態を説明する側面図である。
【図5】この発明による工作機械の主軸台装置の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ヘッドストック(主軸台)
2 スピンドルケース(主軸台)
3 クイル(主軸)
4 モータ
5 すり割りリング
6,7 プーリー
8,9 軸受
10 ベルト
11,12,13 中空部
15 フランジ部
16 ボルト(第1ボルト)
17 ボルト(第2ボルト)
18 ボルト(第3ボルト)
33 内周面
34 外周面
51,52 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸台に軸受を介して回転可能に支持された主軸を構成する中空状のクイル,前記クイルの一端部に取り付けられたワークを取り付けるためのチャック,前記クイルの他端部に設けられた動力伝達手段,前記動力伝達手段を回転駆動するモータ,及び前記ワークを加工するバイトを装着するためX軸方向とY軸方向に往復移動する刃物台を備えた工作機械において,
前記主軸台は,前記クイルを前記軸受を介して回転自在に支持する中空部を備えたスピンドルケース,前記スピンドルケースを中空部に挿通して前記スピンドルケースの端部に設けたフランジ部を第1ボルトによって軸方向に締め付けて固定したヘッドストック,及び前記ヘッドストックに取付け取外し可能に固定されるすり割りリングを備えており,前記ヘッドストックに固定された前記すり割りリングは,前記すり割りリングの内周面が前記スピンドルケースの他端部の外周面に接触状態で,前記スピンドルケースの前記他端部を支持することを特徴とする工作機械の主軸台装置。
【請求項2】
前記すり割りリングは,前記クイルを運転状態にして,前記ヘッドストックに第2ボルトによって軸方向に締め付けられて前記ヘッドストックに固定されることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の主軸台装置。
【請求項3】
前記すり割りリングは,前記スピンドルケースの前記外周面に対して内径を縮径する第3ボルトを備えており,前記第3ボルトによって前記すり割りリングを前記スピンドルケースの前記外周面に締め上げた状態で前記第2ボルトによって前記ヘッドストックに固定されることを特徴とする請求項2に記載の工作機械の主軸台装置。
【請求項4】
前記すり割りリングは,前記クイルの運転状態において前記スピンドルケースと前記ヘッドストックとの間の熱膨張差に変動が発生する場合には,前記ヘッドストックから取り外されることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の主軸台装置。
【請求項5】
前記モータの回転駆動力を前記クイルに伝達する前記動力伝達手段は,前記クイルの前記端部に取り付けたプーリー,前記モータの出力軸に取り付けたプーリー,及び前記両プーリーにかけられたベルトから構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の工作機械の主軸台装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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