説明

工具とワークの接触検知機構を有する工作機械

【課題】可動軸が流体軸受で支持された超精密加工を行う工作機械において、加工開始位置を正確に検出できるようにする。
【解決手段】ワークはB軸の回転テーブルに取り付けられ、回転テーブルは直動軸のX軸上に取り付けられている。工具はY軸に取り付けられている。又、Y軸はZ軸に取り付けられている。Z軸を所定量移動させる毎にX軸を往復動させて、ワークの加工面を走査し、X、Y、B軸の位置偏差が基準値以上に達していないか判断する(S1,S3,S7,S8)。Y軸を駆動し工具をワークに所定量近づけ(S9.S10)、上記走査を行う。X、Y、B軸の位置偏差が基準値以上に達すると、工具とワークが接触したとして、この接触点を加工開始位置として記憶し、Y軸をスキップさせ、工具を所定量ワークから遠ざかる方向に移動させる。簡単に、ワークの加工面の最大に突出点を加工開始点として検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ単位の加工精度が要求される超精密加工を行う工作機械に関し、特に加工開始位置を正確に検出できる工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ単位の加工精度が要求される超精密加工を行う工作機械において、加工平面上に引き切り加工等を行う場合、その加工精度を向上させるためには、ワークに対する工具先端点を正確に決めて加工を開始する必要があり、ワークの加工開始点の座標位置をナノ単位の精度で決定する必要がある。
【0003】
従来は、センサなどの専用の工具検知装置や、マイクロスコープを用いて、工具先端位置を検出していた。又、ワーク位置を測定する方法として、回転アクチュエータの出力トルクを制限して工具をワーク方向に前進させて、トルクオーバとなった状態で、かつ位置偏差が設定したスキップ偏差量を超えたとき、スキップして以後の移動指令を停止するようにした発明が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−328707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークに対する工具位置を検出する方法として、従来から用いられていた工具検知装置では、工具の位置は検知できるが、正確なワークの位置がわからない。また、先端の鋭い工具では、本当の先端位置を検知できないという問題がある。
又、マイクロスコープで検出する場合は、刃先とワークの距離を測定し、工具をギリギリまで近づけるが、マイクロスコープの焦点距離の関係で、加工段取りによっては刃先が見えないことがあり、問題がある。
【0006】
又、特許文献1に記載された発明のように、工具を駆動するモータ等のアクチュエータの出力トルクを制限し工具をワーク方向に移動させ、トルクオーバとなった状態で、位置偏差がスキップ偏差量を超えたときの位置を求めて、工具に対するワーク位置を測定する場合は、トルクオーバになった状態のトルクが、工具及びワークにかかることになる。
ナノ単位に加工精度で超精密に加工する工作機械においては、各可動軸の軸受が空気軸受等の流体軸受で構成され、摩擦のない軸受とされている。そのため、可動軸に僅かな力がかかっても、可動軸は移動することから、特許文献1に記載された発明のようにトルクオーバ状態で、位置偏差が所定値異常になった状態を検出したときには、すでにワーク又は工具は、そのワークと工具の接触位置から移動している可能性が大きくなり、ナノ単位の精度でその位置を検出することは難しい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、流体軸受で支持し摩擦のない可動軸で構成される超精密加工を行う工作機械において、加工開始位置を正確に検出できるワークの接触検知機構を備えた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、各可動軸が流体軸受により支持され、該可動軸により工具とワークを相対移動させてワークに対して工具により加工を行う工作機械において、請求項1に係る発明は、各可動軸の位置を検出する位置検出器を備え、可動軸への指令位置と前記位置検出器で検出された位置との差の位置偏差を検出する位置偏差検出手段と、前記可動軸を駆動して工具をワーク加工面に相対移動させて走査し、位置偏差検出手段で検出された位置偏差に基づいてワークと工具の接触を検知し、該接触が検出されたときの各可動軸の位置を加工の開始点として自動的に設定記憶する接触点検出手段と、前記接触が検知されたとき工具の取り付けられた可動軸をワークから逃がす退避制御手段とを備えることを特徴とするものである。請求項2に係る発明は、この工作機械が有する可動軸は、直動軸と回転軸で構成され、前記直動軸の位置を検出する位置検出器は、検出分解能10nm以下のリニアスケールによって構成されているものとしている。さらに、請求項3に係る発明は、前記回転軸の位置を検出する位置検出器は、1万分の1°以下のパルスコーダによって構成され、該回転軸はモータに直接連結されダイレクトに駆動されるものとしている。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記接触点検出手段により、工具とワークを相対的に一定速で可動軸を移動させ、該移動させた可動軸の位置偏差の値から工具とワークの接触を感知するものとした。
又、請求項5に係る発明は、前記可動軸として、直動軸であるX軸と該X軸上にX軸と直交する回転軸であるB軸と、さらに前記X軸と直交し前記B軸と平行な直動軸であるY軸と、前記X軸及び前記Y軸に直交する直動軸であるZ軸とを備えたものとし、請求項6に係る発明は、工具の取り付けられた軸は、前記Y軸としたものである。
請求項7に係る発明は、工具を前記Y軸に取り付け、ワークを前記回転軸のB軸の回転テーブルに取り付け、前記接触点検出手段は、X軸を動かしてワークを直線移動させ、X軸、B軸又はY軸の位置偏差の変動により、工具とワークの接触を検知するようにした。
【0010】
請求項8に係る発明においては、加工開始時には、前記接触点検出手段により自動的に設定された各可動軸の位置に自動的に移動し加工を開始するものとした。
又、請求項9に係る発明においては、前記接触点検出手段は、前記工具が取り付けられたY軸及びB軸を停止させ、Z軸を所定量移動させる毎にX軸を往復移動させながら、ワークのX−Z平面を走査し、該走査を、Y軸を所定量ワークに近づける毎に行い、工具とワークの接触を検出し、該検出時の各可動軸の位置を加工の開始点として自動的に設定記憶するものとした。
【0011】
さらに、請求項10に係る発明は、Y軸上にX軸と平行に移動する付加直動軸が装着し、ワークを前記回転軸のB軸の回転テーブルに取り付けるものとし、前記接触点検出手段は、前記付加直動軸を動かして工具をX軸に平行な方向に往復運動させ、工具とワークの接触を検知するものとした。
請求項11に係る発明は、さらに、各可動軸を駆動制御するサーボ制御手段のサーボゲインを下げ、外乱の影響を受けやすい状態にすることによって、工具又はワークにかかるより微小な力で工具とワークの接触を検知するようにした。
【0012】
又、請求項12に係る発明は、位置偏差の異常増大を感知する手段を設け、該手段で位置偏差の異常増大を感知することにより、前記退避制御手段により工具をワークから逃がすようにした。又、請求項13に係る発明は、位置偏差の異常増大を感知したとき、その位置偏差の異常増大の軸を判別する信号をも発生するようにした。
【発明の効果】
【0013】
可動軸が流体軸受で構成されている超精密加工を行う工作機械では、各可動部に僅かな力が作用しても可動部がその力で移動する。これを利用して位置偏差の増大を検出することによって、簡単に、加工面の最大に突出する部位を工具とワークの接触で検出し、該接触点を加工開始点の位置として検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の超精密加工を行う工作機械の概略図である。この実施形態では、可動軸として3つの直動軸と1つの回動軸を備えている。回転テーブル10は、水平方向のX軸方向に駆動される直動軸のX軸部材11に取り付けられ、該回転テーブル10はX軸と直交する軸のB軸回りに回転する。この回転テーブル10に被加工物のワーク2が取り付けられる。工具1はX軸と直交し、回転軸のB軸と平行なY軸方向に移動する直動軸のY軸部材12に取り付けられ、かつこのY軸部材12は、X軸、Y軸と直交するZ軸方向に移動する直動軸のZ軸部材13に取り付けられている。これにより、ワーク2がX軸方向に直線移動すると共に、B軸回りに回転する。又、工具1は、Y軸方向、Z軸方向に直線移動するものとなり、これらX、Y、Z、B軸の移動により工具1によりワーク2は加工されるものとなる。
なお、この実施形態では、直動軸のX軸、Y軸、Z軸を駆動するモータは、リニアモータで構成され、回動軸のB軸を駆動するモータは、回転サーボモータで構成され、回転テーブル10と回転サーボモータはダイレクトに接続され、ダイレクトドライブを構成している。
又、X軸、Y軸、Z軸、B軸の各軸の軸受は、流体軸受(空気軸受)で構成されている。
【0015】
図2は、この工作機械を制御する制御装置である数値制御装置の要部ブロック図である。数値制御部21では、加工プログラムを読み出し実行し、各軸への移動指令を各軸サーボ制御手段22x〜22bに出力する。X軸のモータ24xを制御するX軸サーボ制御手段22xに記載されているように、各軸サーボ制御手段22x〜22bは、位置制御部221、速度制御部222、電流制御部223等で構成されており、Y軸、Z軸、B軸のサーボ制御手段22y、22z、22bもこのX軸サーボ制御手段22xの構成と同一である。
【0016】
各軸サーボ制御手段22x〜22bの位置制御部221では、エラーレジスタ221aとポジションゲインKの項221bで構成され、数値制御部21からそれぞれ指令された位置と、位置、速度を検出する位置・速度検出器25x〜25bからフィードバックされる位置との差である位置偏差εをエラーレジスタ221aで求め、該位置偏差εにポジションゲインKを乗じて、指令速度を求め、速度制御部222では、該指令速度から位置・速度検出器25x〜25bからフィードバックされる速度を減じて速度偏差を求め、比例・積分処理等の速度のフィードバック制御を行い電流指令(トルク指令)を求める。そして、電流制御部223では、この電流指令とアンプ23x〜23bからフィードバックされる電流とに基づいて電流フィードバック制御を行いアンプ23x〜23bを介して各軸モータ25x〜25bを駆動する。
【0017】
この実施形態では、直動軸のX軸、Y軸、Z軸のモータ24x、24y、24zはリニアモータで構成されている。また、回転軸のB軸を駆動するモータ24bは、回転サーボモータで構成され、上述したように回転テーブル10をダイレクトドライブするように構成されている。又、リニアモータで構成された直動軸のX軸、Y軸、Z軸のモータ24x、24y、24zで駆動される各可動部材の位置は、リニアスケールで構成された位置・速度検出器25x、25y、25zで検出している。本実施形態の工作機械は、超精密加工を実施するものであることから、このリニアスケールで構成される位置・速度検出器25x、25y、25zは10ナノメータ以下の検出分解能の高精度な検出器で構成されている。また、回転軸のB軸のサーボモータ24bに取り付けられる、パルスコーダ等の位置・速度検出器25bも、1万分の1度以下の分解能を有する高精度の分解能の位置・速度検出器25bで構成されている。
【0018】
上述した工作機械の構成、及び該工作機械を制御する制御部の構成は、従来の超精密加工用の工作機械及びその制御装置と同じである。本発明は、このような工作機械において、加工開始位置を高精度に検出できる工具とワークの接触検知機能を備えるようにした点にある。
【0019】
図3は、本実施形態における加工開始点の座標位置の検出動作を説明する説明図である。ワーク2を超精密の平面加工をする場合、平面加工をしようとする加工平面の凹凸に合わせ、工具の切り込み方向において工具先端に一番近い部分から平面加工を実行する必要がある。この実施形態においては、垂直方向のY軸方向が工具1の切り込み方向であり、水平面のX−Z平面が加工平面である。この場合、工具1をY軸方向に下降(ワーク2に近づく方向)させて所定の切り込みを与えて切削加工するとき、加工平面に突出する部分(Y軸方向に突出する部分)があり、この部分で必要以上の切り込みとなって工具に過大な負荷を掛けることになる。これを防止するためには、最大に突出した高い部分(Y軸方向で工具の方に突出している部分)を検出し、この部分から加工を開始する必要がある。
【0020】
そこで、図3(a)に示すように、工具1を所定位置に位置決めしワーク2をX軸方向に往復動させて、工具1の先端1aがワーク2と接触するか判別し、接触しなければ、Z軸方向に所定量だけ工具1を移動させ、その後、ワーク2をX軸方向に往復動させる動作を繰り返し実行し、ワーク2の加工平面領域を走査する。そして図3(b)のように、工具1の先端1aがワークの突出部の1番高いところで接触すると、この座標位置を加工開始位置とする。
【0021】
本実施形態は、この工具1とワーク2の接触を各軸の位置偏差の増大で検出するようにしている。
本実施形態の工作機械は前述したように、各直動軸のX軸、Y軸、Z軸及び及び回転軸のB軸は、流体軸受で構成されており、摩擦がほとんどない。そのため、工具1とワーク2が接触し、工具1又はワーク2に負荷がかかると、この負荷によりX軸、Y軸、B軸は移動する。この移動により指令位置と検出位置との位置偏差εが増大するから、この位置偏差εの増大を検出することによって、工具1とワーク2の接触を検出できる。
【0022】
図4(a)は、可動軸の軸受として流体軸受を用いず、従来のボールベアリング等の軸受を用いたときの可動軸(X軸、Y軸、Z軸、B軸)の移動時の位置偏差を測定したものである。可動軸の移動にともない発生する摩擦抵抗による位置偏差が発生している。一方、図4(b)は、可動軸の軸受として流体軸受を用い、可動部を移動させたときの位置偏差を測定したものであり、摩擦がほとんどないことから、位置偏差の変動は図4(a)と比較し格段と小さいものとなっている。なお、図4(b)において、符号Pで示す点は、工具1がワーク2に接触し、位置偏差が増大した点を示している。
【0023】
この4図(b)に示すように、流体軸受で支持された可動軸は位置偏差がほとんど現れず、これらの軸に僅かな負荷がかかったときでも位置偏差が発生し、負荷がかからないときと、かかったときでの位置偏差の差は大きなものとなっている。そのため、可動軸に負荷がかかったか否かを位置偏差で検出するための比較基準値の設定が容易にできる。
【0024】
図4(b)では、負荷がかからないときの位置偏差と負荷がかかったときの大きさとの中間程度の値を比較基準値として設定しておけば、この基準値より大きい位置偏差が生じたとき、可動軸に負荷がかかったものとして検出できる。しかし、この比較基準値を図4(a)に示すような流体軸受を使用していない通常の軸受で支持された可動軸の場合に適用すると、摩擦によって生じる位置偏差もこの比較基準値を超えることになり、摩擦により発生した位置偏差を工具とワークとの接触により発生した位置偏差として検出する恐れがあるが、本発明では、流体軸受を使用していることから、位置偏差が小さい状態で工具とワークの接触を検出できるものである。
【0025】
図5は、数値制御部21に設けられたプロセッサが実行する加工開始点検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
まず、ワーク2に対して平面加工を行うX−Z平面のX軸方向のストローク量とZ軸方向のストローク量を設定し、手動送りによって、ワーク2の加工平面である走査領域の一方の辺をX軸と平行になるように、回転軸Bを位置決めする。又、工具1を走査領域の走査開始点と一致する座標位置に位置決めする。さらに、Z軸も走査領域の走査開始点の座標位置に位置決めする。そして、加工開始点検出指令を、図示していないキーボード等の手動入力手段より入力すると、数値制御装置のプロセッサは図5に示す処理を開する。
【0026】
X軸のモータを所定の一定速度で駆動して設定ストローク量だけ往復動させ(ステップS1)、その往復動作中、X軸のエラーレジスタ221aで求められるX軸における指令位置と位置・速度検出器からフィードバックされる実際の位置との差である位置偏差が、異常を検出するための所定値以上の過大な位置偏差か判断する(ステップS2)。これは、設定値や操作ミス等によって、ワーク2と工具1が衝突したときを検出するものであり、この過大位置偏差が検出されたときには、X軸の位置偏差過大の異常信号を出力し、数値制御装置の表示装置等に表示し(ステップS6)、ステップS5に移行して、工具1が取り付けられたY軸をスキップさせる。すなわち、Y軸を予めスキップ量として指定されている量だけワーク2から遠ざかる方向に移動させ、工具1をワークから離す処理を行う。
【0027】
一方、ステップS2で、X軸の位置偏差が過大ではないと判断されたときには、X軸、Y軸、B軸のエラーレジスタ221aで求められているそれぞれの位置偏差εを読み取り、いずれかの位置偏差εが設定基準値以上か判断する。この基準値は、ワーク2と工具1の工具先端1aが接触したことを検出するために設定されているものであり、図4(b)に示したように、工具とワークが接触していないとき発生する位置偏差より少し大きな位置偏差量を基準値として設定している。
【0028】
X軸は一定速度で駆動され、ワーク2を一定速度で移動させているから、工具1がワーク2と接触すると、そのワーク2の移動が阻止され、位置偏差が増加することになる。よって、X軸の位置偏差が設定基準値以上になったことによって、工具1とワーク2の接触が検出される(ステップ3)。
【0029】
又、Y軸やB軸は、所定位置に位置決めされているものであるが、Y軸やB軸も流体軸受で支持されているものであるから、僅かな力がこれらの軸に加わっても、これらの軸は移動する。そのため、ワーク2と工具1が接触したとき、そのとき、工具1に対してY軸方向に力が加われば、Y軸のリニアモータは移動し、指令位置からずれ、位置偏差が発生する。又、同様に、ワーク2と工具1が接触したとき、ワーク2を回転させるような力が加われば、B軸のサーボモータは移動し、指令位置からずれ、位置偏差が発生する。よって、このY軸、B軸の位置偏差か基準値以上になったことを検出することによって、工具1とワーク2の接触を検出する。すなわち、X軸、Y軸、B軸のいずれかの位置偏差が基準値以上になったか否かで、工具1とワーク2の接触を検出する(ステップS3)。
ステップS3でX軸、Y軸、B軸の位置偏差が基準値以上に達しないと判断されたときは、Z軸の位置が走査終了位置か判断し(ステップS7)、走査終了位置でなければ、Z軸を所定量移動させて(ステップS8)、ステップS1に戻り前述した処理を行う。
【0030】
以下、工具1とワーク2が接触せず、ステップS3でX軸、Y軸、B軸の位置偏差が基準値以上となっていると判断されない限り、ステップS1、S2、S3、S7、S8の処理を繰り返し実行する。
そして、Z軸の位置が走査終了位置に達すると(ステップS7)、Z軸を走査開始位置に位置決めし(ステップS9)、Y軸を所定量降下(工具1をワーク2に近づける方向)させ、このとき、Y軸のエラーレジスタ221aで求められている位置偏差量が過大な量か判断し(ステップS11)、過大であると判別されると、Y軸の位置偏差過大の異常信号を出力し、数値制御装置の表示装置等に表示し(ステップS12)、ステップS5に移行して、工具が取り付けられたY軸をスキップさせる。すなわち、Y軸を予めスキップ量として指定されている量だけワーク2から遠ざかる方向に移動させ、工具1をワーク2から離す処理を行う。
【0031】
一方、ステップS11で、Y軸の位置偏差量が過大でないと判断されると、ステップS1に戻り、ステップS1以下の処理を実行する。すなわち、工具1をワーク2方向に所定量近づけて、走査範囲を走査することになる。
以下、Y軸を所定量だけ移動させて工具1をワーク2に所定量だけ順次近づけながら、走査範囲を走査する。そのうち、工具1の先端1aがワーク2の突出部と接触し、ステップS3でX軸、Y軸、B軸のいずれかの位置偏差が基準値以上になったと判別されると、工具1とワーク2が接触したとして、このときの各軸座標位置を加工開始点の座標位置として設定記憶すると共に、X軸の移動を停止させる(ステップS4)。そして、ステップS5に移行し、前述したスキップ処理を行い、Y軸をスキップ量だけワーク2から遠ざかる方向に移動させ、工具1をワーク2から離しこの加工開始点検出処理を終了する。
【0032】
こうして、加工開始点が検出され、この加工開始点の各可動軸位置、すなわち座標位置が、数値制御部21の記憶部に記憶された後、加工を開始するために加工開始指令が数値制御装置に入力されたとき、数値制御装置のプロセッサは、この記憶された各軸位置を読み出しこの読み出した位置に各軸を位置決めして、ワーク2への加工を開始する。
【0033】
上述した加工開始点検出処理において、ステップS2、ステップS11は、操作ミス等による工具1とワーク2の衝突により工具等が破損することを防止することを目的とするものであり、加工開始点検出処理としては本質的なものではなく、削除してもよいものである。
この場合には、ステップS2、S6、S11、S12の処理は必要なく、ステップS1からステップS3に移行し、ステップS11からステップS1に移行する処理となる。
【0034】
上述したように、本発明は、位置偏差の増大によって工具1とワーク2の接触を検出するものであるので、図5に示す加工開始点検出処理を行うときには、各軸サーボ制御手段の位置制御部221のポジションゲインKや速度制御部222の比例ゲイン、積分ゲイン等のサーボゲインを下げ、通常の加工時のときよりも小さいものとして実行させるとより効果的である。例えば、ポジションゲインKが通常より下げられ小さく設定されると、位置偏差に比例して出力される速度指令は小さくなり、電流指令(トルク指令)も小さくなる。そのため、工具1とワーク2が接触した時、この工具1とワーク2にかかる力が小さい状態で、位置偏差は大きくなり、この工具1とワーク2の接触検知を小さい負荷で検出できることになる。
【0035】
上述した実施形態では、ワーク2をX軸で駆動し移動させて加工する例を述べたが、X軸は設けず、もしくはX軸は駆動せず、Y軸上にX軸と平行に移動する付加軸を設けて、例えば、微細な直線溝を多量に加工するような引き切り加工等を行わせるような場合にも、本発明は適用できるものである。
図6は、Y軸部材12にと付けられる引き切り加工用の付加直動軸の一例である。
【0036】
2つの固定部材31a、31b間には、直線移動部材33をガイドするガイド部材32が配置されている。直線移動部材33は流体軸受(空気軸受)によって、ガイド部材32に支持されていると共に、このガイド部材32と直線移動部材33には、一方にコイルを他方に磁石が配置されリニアモータを構成している。固定部材31a、31bをY軸部材12に取り付ける。ガイド部材32は固定部材31a、31bに固定されてもよいが、この図6に示す例では、特願2005−325052で示されるように、ガイド部材32を固定部材31a、31bで流体軸受(空気軸受)で支持するようにしている。工具1が直線移動部材33にピエゾ素子34を介して取り付けられており、このピエゾ素子34を駆動してワーク2に対する切り込み量を工具1に与え、直線移動部材33を往動させて、溝加工を行い、ピエゾ素子34の駆動を停止し、切り込み量を戻し、直線移動部材33を復動させる。これを繰り返すことによって、引き切り加工による溝加工を行う。
【0037】
この付加直動軸を用いる場合でも、加工開始点を検出するときには、上述した実施形態と同様に、Y軸を順次所定量ワーク2に近づく方向に移動させて、リニアモータを駆動して直線移動部材33をX軸と平行に往復動させてワーク2の加工領域を走査し、この走査中に停止状態のX軸の位置偏差、又は上述した実施形態と同じように回転軸Bの位置偏差、さらには、Y軸の位置偏差が基準値以上に達したかを検出して、工具1とワーク2の一番突出している箇所との接触を検出して、その接触時の座標位置を、加工開始点位置とすればよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態の超精密加工を行う工作機械の概略図である。
【図2】同実施形態に工作機械を制御する制御装置の要部ブロック図である。
【図3】同実施形態における加工開始点の座標位置の検出動作を説明する説明図である。
【図4】流体軸受されていない可動軸と流体軸受けされた可動軸とを移動したときの検出される位置偏差を示す図である。
【図5】同実施形態における加工開始点検出処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図6】引き切り加工用に用いる付加直動軸の一例の概要図である。
【符号の説明】
【0039】
1 工具
2 ワーク
10 回転テーブル
11 X軸部材
12 Y軸部材
13 Z軸部材
21 数値制御部
22x X軸サーボ制御手段
22y Y軸サーボ制御手段
22z Z軸サーボ制御手段
22b B軸サーボ制御手段
24x X軸のモータ
24y Y軸のモータ
24z Z軸のモータ
24b B軸のモータ
25x X軸の位置・速度検出器
25y Y軸の位置・速度検出器
25z Z軸の位置・速度検出器
25b B軸の位置・速度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各可動軸が流体軸受により支持され、該可動軸により工具とワークを相対移動させてワークに対して工具により加工を行う工作機械において、各可動軸の位置を検出する位置検出器を備え、可動軸への指令位置と前記位置検出器で検出された位置との差の位置偏差を検出する位置偏差検出手段と、前記可動軸を駆動して工具をワーク加工面に相対移動させて走査し、位置偏差検出手段で検出された位置偏差に基づいてワークと工具の接触を検知し、該接触が検出されたときの各可動軸の位置を加工の開始点として自動的に設定記憶する接触点検出手段と、前記接触が検知されたとき工具の取り付けられた可動軸をワークから逃がす退避制御手段とを備えることを特徴とする工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項2】
工作機械が有する可動軸は、直動軸と回転軸で構成され、前記直動軸の位置を検出する位置検出器は、検出分解能10nm以下のリニアスケールによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項3】
前記回転軸の位置を検出する位置検出器は、1万分の1度以下のパルスコーダによって構成され、該回転軸はモータに直接連結されダイレクトに駆動されることを特徴とする請求項2に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項4】
前記接触点検出手段は、工具とワークを相対的に一定速で可動軸を移動させ、該移動させた可動軸の位置偏差から工具とワークの接触を感知する請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項5】
前記可動軸として、直動軸であるX軸と該X軸上にX軸と直交する回転軸であるB軸と、さらに前記X軸と直交し前記B軸と平行な直動軸であるY軸と、前記X軸及び前記Y軸と直交する直動軸であるZ軸とを備えた請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項6】
工具の取り付けられた軸は、前記Y軸であることを特徴とする請求項5に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項7】
工具は前記Y軸に取り付けられ、ワークは前記回転軸のB軸の回転テーブルに取り付けられ、前記接触点検出手段は、X軸を動かしてワークを直線移動させ、X軸、B軸又はY軸の位置偏差の変動により、工具とワークの接触を検知することを特徴とする請求項5に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項8】
加工開始時には、前記接触点検出手段により自動的に設定された各可動軸の位置に自動的に移動し加工を開始することを特徴とする請求項1乃至7の内いずれか1項に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項9】
前記接触点検出手段は、前記工具が取り付けられたY軸及びB軸を停止させ、Z軸を所定量移動させる毎にX軸を往復移動させながら、ワークのX−Z平面を走査し、該走査を、Y軸を所定量ワークに近づける毎に行い、工具とワークの接触を検出し、該検出時の各可動軸の位置を加工の開始点として自動的に設定記憶する請求項7に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項10】
Y軸上にX軸と平行に移動する付加直動軸が装着され、ワークは前記回転軸のB軸の回転テーブルに取り付けられ、前記接触点検出手段は、前記付加直動軸を動かして工具をX軸に平行な方向に往復運動させ、工具とワークの接触を検知することを特徴とする請求項5に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項11】
前記各可動軸を駆動制御するサーボ制御手段のサーボゲインを下げ、外乱の影響を受けやすい状態にすることによって、工具又はワークにかかるより微小な力で工具とワークの接触を検知することを特徴とする請求項1乃至10の内いずれか1項に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項12】
位置偏差の異常増大を感知する手段を設け、該手段で位置偏差の異常増大を感知することにより、前記退避制御手段により工具をワークから逃がすことを特徴とする請求項1乃至11の内いずれか1項に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。
【請求項13】
位置偏差の異常増大を感知したとき、その位置偏差の異常増大の軸を判別する信号をも発生するようにした請求項12に記載の工具とワークの接触検知機構を有する工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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