説明

工具タレットへの切削液供給装置

【課題】複数の工具ステーションごとの切削液通路を備えたタレットに切削液を供給する装置に関し、切削液配管に逃し弁や切換弁を設けることなく、高圧の切削液が供給された場合でもノズルのタレットからの後退動作を可能にする。
【解決手段】ハウジングに軸方向摺動自在に嵌挿されたノズルは、ハウジングに嵌挿された部分の中間部に小径部を備えている。ノズルを進出方向に付勢するばねが設けられている。ノズルをタレットから後退させる油圧力を作用させる作動油室が、ノズルの小径部と基端側大径部との間に形成されている。ノズルのノズル孔に切削液を導く切削液室は、ノズルの先端側大径部の小径部側端部にノズル挿通孔側を凹所にして設けられている。ノズルの小径部の先端側端部に、切削液室とノズル孔とを連通させる貫通孔が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の工具ステーションと各工具ステーションごとの切削液通路を備えたタレットに切削液を供給する装置に関するもので、タレットの割出回転によって選択された工具に対応する切削液通路の入口に切削液供給ノズルを押接して切削液を供給する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具でワークを切削加工するとき、その加工部に切削液が供給される。工具タレットは、その外周部に複数の工具ステーションを備えており、タレットに各工具ステーションごとの専用の切削液通路を設けて、ある工具ステーションに装着した工具で加工を行うとき、当該工具ステーションに対応する切削液通路に当該タレットに隣接して設けた切削液供給装置から切削液を供給することが行われている。
【0003】
図4は、そのような切削液供給装置を備えたタレット刃物台を模式的に示した図である。タレット21は、刃物台23に割出軸24回りに旋回割出可能(旋回可能かつ所定の割出位置で固定可能)に装着されている。タレット21の外周部には、複数の工具ステーション25が設けられ、各工具ステーションに工具26が装着されている。タレット21には、各工具ステーション25ごとに専用の切削液通路27が設けられている。この切削液通路27の出口は、それぞれが対応する工具ステーション25に開口し、入口22は、タレット21の背面(刃物台側の面)29の同一円周上に開口している。
【0004】
工具26には、その刃先に出口33が開口している切削液通路32が設けられている。工具26を工具ステーション25に装着すると、工具の切削液通路32の入口がタレットの切削液通路27の出口に連通され、タレットの切削液通路の入口22に供給された切削液が工具刃先の出口33から流出する構造となっている。
【0005】
刃物台23には、タレット21に向けて軸方向に進退するノズル1を備えた切削液供給装置20が固定されている。切削液供給装置のノズル1は、ある工具ステーション25がワーク加工位置に割出されたとき、当該工具ステーションに対応する切削液通路27の入口22に対向する位置に設けられている。タレット21が割出位置に固定されているとき、ノズル1はタレット21に向けて進出して、その切削液通路の入口22に押し付けられ、タレット21が割出軸24回りに旋回するときは、ノズル1は後退して、切削液通路の入口22から離れる。
【0006】
切削液は、図示しない切削液ポンプから切削液配管7を通って切削液供給装置20のハウジング10に流入し、切削液供給装置20内でハウジング10からノズル1のノズル孔へと導かれている。
【0007】
図5は、従来構造の切削液供給装置の一例を示す断面図である。ノズル1は、ハウジング10に嵌挿されている部分の中間部に、ドレン室17により左右に分割された大径部1gを備えている。この大径部1gが嵌合するハウジング側のノズル挿通孔3も当然大径孔部3gとなっている。ドレン室17は、ドレンポート18に連通している。左右の大径部1g、1gには、ぞれぞれシールリング(図示せず)が嵌挿され、図の右側の大径部1gの右側に作動油室11が形成され、左側の大径部1gの左側に切削液室5が形成されている。
【0008】
ノズル挿通孔3の基端側端部は、蓋板15で閉鎖されている。蓋板15は、ノズル1の基端側小径部2hと嵌合する小径孔部4hを備えたスリーブ35を備えている。ノズル1は、その基端とハウジングの蓋板15との間に設けた圧縮コイルばね16で進出方向に付勢されている。
【0009】
ノズル1の大径部1gの両側は小径部2g、2hとされ、ノズル挿通孔3は、大径孔部3gの両側にこれらの小径部と摺動自在に嵌合する小径孔部4g、4hを備えている。段差を有するノズル1とノズル挿通孔3との嵌合において、ノズル1の先端側大径部1gと小径部2gとの間に作動油室11が形成され、作動油ポート12を通して、この作動油室11に油圧を供給することにより、ノズル1が後退する。一方、ノズル挿通孔3の大径孔部3gと小径孔部4hとの間に切削液室5が形成され、この切削液室に切削液ポート6を通って流入した切削液がノズル1の当該部分に設けた直径方向の貫通孔8を通ってノズル孔9に導かれている。
【0010】
上記の構造において、タレット21を旋回するときは、作動油室11に油圧を供給してノズル1を後退させ、タレット21が新たな割出位置に固定された後、作動油室11の油圧を開放して、ばね16の付勢力によりノズル1の先端を新たに割出された工具ステーションに対応する切削液通路の入口22に押接する。この状態で切削液ポート6に切削液を供給することにより、当該切削液がタレット21の切削液通路27に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−245136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
通常の加工においては、切削液を高い供給圧で供給する必要はない。しかし、ドリルによる深孔加工の場合で、加工途中の孔からの切粉の速やかな排出を必要とする場合など、ドリルの先端に開口した切削液出口33(図4)から高圧の切削液を流出させたい場合がある。このような場合には、当然、切削液供給装置20に供給される切削液の圧力が高くなる。例えば具体的には、7メガパスカルの圧力で切削液が供給され、そのときにノズル1を後退させる作動油の油圧が3.5メガパスカルであるという状況が生じる。
【0013】
このように、切削液の供給圧が高圧になると、図5に示したような従来構造では、この切削液の圧力によってノズル1がタレット21側に押し付けられ、作動油室11に油圧を供給してもノズル1が後退しないということが起る。作動油室11に供給する作動油の圧力を高くすれば、この問題は解決できるが、作動油の圧力を高くすると、油圧装置のコスト上昇とランニングコストの上昇を招く。そこで、切削液の供給圧を高圧にする必要がある機械では、切削液供給配管の途中に逃し弁や切換弁を設けて、ノズル1の後退時に、当該逃し弁や切換弁を動作させて、切削液室5の圧力を開放するという構造が採用されていた。
【0014】
なお、特許文献1には、逃し弁や切換弁を設けることなく、タレットの旋回時に切削液の圧力を開放する技術が提案されている。しかし、特許文献1記載の構造は、タレット旋回時にノズルの進退動作を伴わない構造であり、タレット旋回時にノズル1を後退させて、ノズル先端とタレットとの摺擦を回避する構造の切削液供給装置には採用することができない。
【0015】
この発明は、切削液配管に逃し弁や切換弁を設けることなく、高圧の切削液が供給された場合でも作動油の圧力を高くすることなく、ノズル1のタレット21からの後退動作を行わせることが可能な、切削液供給装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明の切削液供給装置は、ハウジング10のノズル挿通孔3に軸方向摺動自在に嵌挿されたノズル1を備えている。ノズル1は、ハウジング10に嵌挿された部分の中間部に小径部2(2a、2b)を備え、先端がハウジング10から突出している。ノズル1は、進出時にその突出部の先端がタレット21の切削液通路27の入口22に押接され、後退時にタレット21から離れる。ハウジング10には、ノズル1を進出方向に付勢するばね16が設けられている。
【0017】
この発明の切削液供給装置では、ノズル1をタレット21から後退させる油圧力を作用させる作動油室11が、ノズルの小径部2と基端側大径部1bとの間に形成されている。ノズル1のノズル孔9に切削液を導く切削液室5は、ノズルの先端側大径部1aの小径部2側端部にノズル挿通孔側を凹所にして設けられている。ノズル1には、ノズルの先端側小径部2aの先端側端部に、切削液室5とノズルのノズル孔9とを連通させる直径方向の貫通孔8が設けられている。
【0018】
この発明の切削液供給装置では、ハウジング10のノズル挿通孔3に形成される切削液室5が、ノズル1がタレット21に押し付けられている図1の上半部に示す状態で、ノズルの小径部2aと先端側大径部1aとの間の空間に連通する。一方、ノズル1がタレット21から離隔する図1の下半部に示す状態では、ノズルの小径部2aと先端側大径部1aとの間の空間が、ノズルの先端側大径部1aの基端により、切削液室5から遮断される。
【0019】
ノズルの先端側小径部2aと先端側大径部1aとの面積差は、ノズル孔9の先端の受圧面積A(図2参照。ノズル孔とタレットケースに押し付けられる周縁部の面積の和)に等しい面積差とされている。
【0020】
切削液の供給圧は、ノズル先端の受圧面積Aにノズル1を押し戻す方向に作用すると同時に、ノズルの先端側大径部1aと小径部2aとの径差による軸直角方向の面にノズル1を進出させる方向に作用する。従って、受圧面積Aを、ノズルの先端側大径部1aと小径部2aとの径差によって生ずる面積に略等しい面積とすることにより、切削液の供給圧の変化がノズル1の軸方向力として作用しないようにできる。
【0021】
また、ノズル1の後退時に切削液室5がノズルの小径部2aと先端側大径部1aとの間の空間から遮断されるため、ノズル後退時には、ノズル孔9への切削液の流入が停止し、後退したノズル先端からの切削液の流出が防止される。
【発明の効果】
【0022】
この発明の切削液供給装置は、切削液の供給圧を高圧にしても、その圧力によってノズル1がタレット21に押し付けられるのを避けることができ、作動油の圧力を高くしたり、切削液の圧力を開放することなく、タレット旋回時にノズル1を退避させることができると共に、タレットへのノズル1の押圧力を切削液の供給圧に関わりなく、略一定とすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の切削液供給装置の一実施例を示す断面図
【図2】図1のノズルの断面図
【図3】図1のハウジングの断面図
【図4】切削液供給装置と工具タレットとの関係を示す側面図
【図5】従来構造の切削液供給装置の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜3は、この発明の切削液供給装置の一実施例を示す断面図である。図1のノズル1は、図の上半部にノズル進出状態、下半部にノズル後退状態が示されている。ノズル1は、ハウジング10のノズル挿通孔3に摺動自在に嵌挿されている部分に、先端側大径部1aと、中間の小径部2(2a、2b)と、基端側大径部1bとを備えている。このノズルの形状に対応して、ハウジング10のノズル挿通孔3も、先端側大径孔部3aと、中間の小径孔部4(4a、4b)と、基端側大径孔部3bとを備えている。ノズル1は、その組立の必要上、先端側と基端側に分割した2分割構造となっており、分割した両者は、雄ねじ1mと雌ねじ1fの螺合により一体化されている。
【0025】
ハウジング10の先端側大径孔部3aの小径孔部4(4a)に近い位置に、ノズル進出時にノズルの先端側大径部1aと小径部2(2a)との間に形成される空間と連通する位置に、切削液室5が、ノズル挿通孔側を凹所にして形成されている。この切削液室に切削液ポート6が連通しており、この切削液ポート6が、図4に示した切削液配管7に接続されている。また、ノズル1の先端側小径部2aの先端側端部に、直径方向の貫通孔8が設けられて、当該貫通孔8により、ノズル進出時に切削液室5とノズル孔9が連通するようになっている。ノズル孔9は、ノズル1の先端に開口している。ノズルの先端側大径部1aとハウジングの先端側大径孔部3aとの間にシールリング(図示せず)が装着されている。
【0026】
ノズル1の基端側大径部1bと小径部2(2b)との間の位置に、すなわち、ハウジングの基端側大径孔部3bと小径孔部4(4b)との間に、作動油室11が形成されている。この作動油室には作動油ポート12が連通しており、作動油ポート12は、図4に示した作動油配管13に接続されている。
【0027】
基端側大径孔部3bは、ハウジングの蓋板15で閉鎖され、このハウジングの蓋板15とノズル1の基端との間にノズル1に進出方向の付勢力を付与する圧縮コイルばね16が装架されている。ノズルの基端側大径部1bとハウジングの基端側大径孔部3bとの間には、シールリング(図示せず)が設けられている。
【0028】
ノズルの小径部2a、2bとハウジングの小径孔部4a、4bとの間には、それぞれシールリング(図示せず)が設けられ、この両シールリングの間のノズル1側に、ドレン室17が形成されている。このドレン室は、ドレンポート18に連通されている。
【0029】
ノズルの先端側大径部1aと基端側大径部1bは同径とし、小径部2には先端側2aと基端側2bとに径差を設けて、先端側小径部2aと先端側大径部1aとの間にノズルの先端の受圧面積Aに等しい面積差が生ずるようにしている。
【0030】
上記構造において、作動油室11に油圧を供給すると、ノズル1が後退してその先端がタレット21から離れ、ノズルの先端側大径部1aの基端が、切削液室5と貫通孔8との間の切削液通路を遮断する。作動油室11の圧力を開放すると、ノズル1は、ばね16の付勢力で進出して、その先端がタレット21の切削液通路の入口22に押し付けられ、切削液室5と貫通孔8とが連通して、切削液がノズル孔9に供給される。
【0031】
切削液ポート6から切削液室5に供給された切削液は、貫通孔8及びノズル孔9を通ってタレット21の切削液通路27に供給される。切削液の供給圧が高くなると、ノズルの先端側大径部1aと小径部2aの面積差に切削液室の圧力を乗じた力でノズル1がタレット21側に押されるが、ノズル先端の受圧面積Aに作用する切削液の供給圧がノズル1をタレット21から離す方向に作用するので、両者のバランスにより、ノズル1をタレット21に押し付ける力が増大するのを回避でき、作動油室11に供給する油圧を高くしなくても、ノズル1を後退させることができる。
【0032】
作動油室11部分の大径部1bと小径部2bとの面積差は、工作機械が備えている作動油の油圧力によりばね16の押接力に抗してノズル1を後退させるのに必要な面積差である。図の例では、ノズルの先端側大径部1aと小径部2aとの間の断面積のノズル先端の受圧面積Aに等しくなっており、先端側小径部2aの径が基端側小径部2bの径より大きい。従って、作動油室11部分の大径部1bと小径部2bとの面積差は、切削液室5部分での大径部1aと小径部2aとの面積差より大きい。これにより、比較的低い作動油の圧力でノズル1を後退させることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ノズル
1a ノズルの先端側大径部
1b ノズルの基端側大径部
2 ノズル中間の小径部
2a ノズルの先端側小径部
2b ノズルの基端側小径部
3 ノズル挿通孔
5 切削液室
8 貫通孔
9 ノズル孔
10 ハウジング
11 作動油室
16 ばね
21 タレット
A 受圧面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに嵌挿された中間部に小径部を備えて先端が当該ハウジングから突出しているノズルと、当該ノズルを進出方向に付勢しているばねと、前記小径部とノズル基端側大径部との間に形成された作動油室と、ノズル先端側大径部の前記小径部側端部のハウジング内周面に形成された切削液室と、前記ノズルの小径部の先端部に設けられてノズル進出時に前記切削液室とノズル孔とを連通する貫通孔とを備えている、工具タレットへの切削液供給装置。
【請求項2】
前記小径部とノズル先端側大径部との面積差がノズル先端の受圧面積に等しいことを特徴とする、請求項1記載の工具タレットへの切削液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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