説明

工具保持装置

【課題】工具の曲げ固有角周波数と工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数が異なる場合においても、同時に振動減衰効果が得られるようにする。
【解決手段】工具11の曲げ固有角周波数に対しては、工具11の中空孔11aに挿入された工具内蔵部材17と第1緩衝部材18が動吸振器として振動減衰効果を得る。さらに、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材17のフランジ部17aを介して工具11の後端部に押圧されている第2緩衝部材19が材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできる。このため、加工外乱による工具11の曲げ固有角周波数の振動と、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸に加工工具を取り付けるための工具保持装置に関し、特に、加工外乱による工具および工具ホルダからなる系の振動減衰を促進する必要のある工具保持装置に適用される。
【背景技術】
【0002】
従来の工具保持機構として、主軸の先端部に着脱自在なシャンク部と切削工具を保持する機構とを有するアーバ部からなる工具ホルダにおいて、アーバ部のフランジ部の端面にリング状の溝を設けて空洞部を形成し、この空洞部に、切削加工中の切削振動に対する減衰特性が得られるような充填率で振動減衰材料を封入して、空洞部の溝を蓋部材で閉じるようにした構成のものがある。このように構成したことにより、工具および工具ホルダからなる系全体を、1つの振動系とみなして振動減衰を図るようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は特許文献1に記載された従来の工具保持機構を示す一部断面図である。
【0004】
図5において、102は工具ホルダの本体を構成するアーバ部である。このアーバ部102の先端部には、工具取付部104が設けられており、切削工具106が工具取付部104に挿着されて図示しないボルトを用いて固定される。アーバ部102は、シャンク部107とフランジ部108を有しており、アーバ部102のフランジ部108の端面には、リング状の溝108aが形成されており、このリング状の溝108aを蓋110で密封することにより、砂などの振動減衰材料が封入される空洞部112が形成されている。
【0005】
切削工具106による切削の過程では、切削抵抗などにより振動が発生し、その振動は切削工具106からアーバ部102に伝達してアーバ部102を振動させる。この振動により空洞部112に封入された振動減衰材料である砂の粒子は、運動を始めて粒子同士衝突し合ったり、空洞部112の壁に衝突したりして、これにより振動エネルギーが熱エネルギーに変換されることにより振動減衰が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3998958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、工具および工具ホルダからなる系全体を1つの振動系とみなして、振動減衰材料や該振動減衰材料を封入する空洞部形状を決定するため、加工に問題となる1つの周波数に対しては効果的な振動減衰が可能である。
【0008】
しかし、工具の曲げ固有角周波数と工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数が異なる場合、同時に振動減衰効果を得て、加工面品位を向上するということが困難であるという課題を有している。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであって、工具の曲げ固有角周波数と工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数が異なる場合においても、同時に振動減衰効果を得て、加工面品位を向上させることができる工具保持機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の工具保持装置は、一方側に切刃を有し、他方側に円筒側面を有し、軸方向に中空孔が設けられた工具と、主軸の先端部に着脱自在なシャンク部を有し、前記工具の前記円筒側面を把持する工具取付部を有する工具ホルダと、前記工具の前記中空孔内に挿入され、かつ前記工具の後端部に当接するフランジ部を有する工具内蔵部材と、前記工具の前記中空孔内側と前記工具内蔵部材とに接触するように設置された第1緩衝部材と、前記工具内蔵部材の前記フランジ部に当接するように設置された第2緩衝部材と、前記工具ホルダ内に設けられて、前記第2緩衝部材を前記工具内蔵部材の前記フランジ部に押圧させる固定ネジとを備えた構成にしている。
【0011】
本構成によって、工具の曲げ固有角周波数に対しては、工具の中空孔に挿入された工具内蔵部材と第1緩衝部材が、動吸振器として振動減衰効果を得ることできる。さらに、工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材のフランジ部を介して工具の後端部に押圧される第2緩衝部材が、材料減衰部材として振動減衰効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の工具保持装置によれば、工具の曲げ固有角周波数に対しては、工具の中空孔に挿入された工具内蔵部材が、第1緩衝部材を介して工具と反共振することにより振動減衰効果を得ることでき、さらに、工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材のフランジ部を介して工具の後端部に押圧される第2緩衝部材が、材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできる。
【0013】
したがって、本発明の工具保持装置によれば、加工外乱による工具の曲げ固有角周波数の振動と、工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを両方共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の工具保持装置の実施形態1における要部を示す断面図
【図2】本発明の工具保持装置の実施形態2における動吸振器の力学モデル図
【図3】本発明の工具保持装置の実施形態3における要部を示す断面図
【図4】本発明の工具保持装置の実施形態4における要部を示す断面図
【図5】従来の工具保持装置における要部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施形態1)
図1は本発明の工具保持装置の実施形態1における要部を示す断面図である。
【0017】
図1において、工具11には、先端側に切刃が露出する切刃露出部21が設けられ、後端側に保持用の円筒側面22が設けられ、軸方向に中空孔11aが設けられている。該工具11の円筒側面22は工具ホルダ12の工具取付部13に焼き嵌め固定されている。
【0018】
工具ホルダ12のシャンク部14は、主軸15の先端部にテーパ結合され、かつ主軸15の内部に構成されたクランプ機構16により主軸15の後方に引き込み力が加えられている。
【0019】
前記工具11には中空孔11a内に工具内蔵部材17が挿入され、工具内蔵部材17のフランジ部17aが工具11の後端部に当接するように位置決めされている。
【0020】
工具11の中空孔11aと工具内蔵部材17との両方に接触するように第1緩衝部材18が工具内蔵部材17に設けられている。また、第2緩衝部材19が、工具内蔵部材17の後端部に対して固定ネジ20によって押圧されている。固定ネジ20は、工具ホルダ12の内部に設けられたメネジ部12aに螺合されている。
【0021】
かかる構成によれば、工具11の曲げ固有角周波数に対しては、工具11の中空孔11aに挿入された工具内蔵部材17が、第1緩衝部材18を介して工具11と反共振するため振動減衰効果を得ることできる。さらに、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材17のフランジ部17aを介して工具11の後端部に押圧されている第2緩衝部材19が、材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできる。このため加工外乱による工具11の曲げ固有角周波数の振動と、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを、両方共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。
【0022】
(実施形態2)
本発明の実施形態2の基本構成は、図1に示す実施形態1と同一である。しかし、実施形態2では、工具11の曲げ固有角周波数に対して、工具内蔵部材17の第1緩衝部材18を介した工具11との反共振を最も効果的に実現し、より大きな振動減衰効果を得ることができるような構成にしている。
【0023】
このため実施形態2では、工具内蔵部材17の1次曲げ固有角周波数を、工具11の切刃側露出部21、つまり工具ホルダ12の工具取付部13で把持されていない部位の1次曲げ固有角周波数近傍の周波数に設定し、第1緩衝部材18を減衰要素として、工具11の切刃側露出部21の1次曲げ固有角周波数における振動を減衰させるようにしている。
【0024】
図2は実施形態2における動吸振器の力学モデル図であり、工具11の切刃側露出部21を制御対象として、工具内蔵部材17の振動系を動吸振器として扱う方法を考える。
【0025】
まず、切刃露出部21の1次の曲げ固有角周波数ωは、工具11の材料や形状が決定されれば、有限要素法を用いた数値計算により求めることができる。工具内蔵部材17の振動系の1次の曲げ角周波数ωは、片持ち梁と考えると容易に計算することができる。
【0026】
工具11の切刃露出部21の質量をm、工具内蔵部材17の振動系の総質量をmとすれば、動吸振器の定点理論によって、
μ=m/m ・・・(1)
ζ=c/(2mω) ・・・(2)
ζ:減衰比、
:第1緩衝部材18の減衰係数
とした場合、
ω/ω=1/(1+μ) ・・・(3)
ζ=(3μ/(8(1+μ)))1/2 ・・・(4)
となるように、工具内蔵部材17の振動系の1次の曲げ角周波数ωと第1緩衝部材18の減衰比ζを決定することができる。
【0027】
かかる構成によれば、工具11の曲げ固有角周波数に対して、工具内蔵部材17を動吸振器として機能させ、第1緩衝部材18を介した工具11との反共振を最も効果的に実現して、より大きな振動減衰効果を得ることが可能となる。さらに、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材17のフランジを介して工具11の後端部に押圧されている第2緩衝部材19が材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできるため、加工外乱による工具11の曲げ固有角周波数の振動と、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化との両方を共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。
【0028】
(実施形態3)
図3は本発明の工具保持装置の実施形態3における要部を示す断面図である。
【0029】
図3において、図1に示す実施形態1の構成要素と同じ構成要素については同じ符号を用い、詳しい説明を省略する。
【0030】
実施形態3では、寸法や材料などの制約によって、工具11の曲げ固有角周波数に対して、式(3)および式(4)を十分には満足させることができず、工具内蔵部材17の第1緩衝部材18を介した工具11との反共振効果がやや小さい場合においても、工具11の曲げ固有角周波数に対する振動減衰効果を得ることができるような構成にしている。
【0031】
図3において、工具内蔵部材217は、工具11の中空孔11a内に挿入され、工具内蔵部材217のフランジ部217aは工具11の後端部に当接するよう位置決めされている。第1緩衝部材18は、工具11の中空孔11aと工具内蔵部材17との両方に接触するように構成されており、第2緩衝部材19は、工具内蔵部材17の後端部に固定ネジ20によって押圧されている。
【0032】
さらに、工具内蔵部材217は、工具11の先端側の端面から単一あるいは複数の微小幅のスリット223が設けられている。このスリット223は、工具内蔵部材217の半径方向に横断し、かつ軸方向には工具ホルダ12の工具取付部13付近まで延在している。
【0033】
このため、工具11による加工時に主軸15に回転力が付勢されて、図3に示した構成要素が全て回転するとき、工具内蔵部材217にスリット223が設けられているため、スリット223が設けられている工具内蔵部材217の部位は、遠心力によって半径方向に拡がり、工具11の中空孔の内周面に押圧される。工具内蔵部材217における工具11の中空孔11a内周面への押圧圧力は、回転数の2乗に比例して増大するため、回転数が高いほど、工具内蔵部材217と工具11間の摩擦力が増大することになる。
【0034】
かかる構成によれば、工具11の曲げ固有角周波数に対して、工具11と工具内蔵部材217との間には摩擦減衰が作用し、特に高速回転加工ほど、より大きな振動減衰効果を得ることが可能となる。さらに、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材217のフランジ部217aを介して工具11の後端部に押圧されている第2緩衝部材19が材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできるため、加工外乱による工具11の曲げ固有角周波数の振動と、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを、両方共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。
【0035】
(実施形態4)
図4は本発明の工具保持装置の実施形態4における要部を示す断面図である。
【0036】
図4において、図1に示す実施形態1の構成要素と同じ構成要素については同じ符号を用い、詳しい説明を省略する。
【0037】
実施形態4では、工具ホルダ12の内部における工具取付部13に隣接する位置に空洞部324を形成し、この空洞部324に少なくとも初期的には流動可能な振動減衰材料325を充填し、固定ネジ20が振動減衰材料325の封止部材として兼用される構成にしている。
【0038】
かかる構成によれば、まず、実施の形態1と同様に、工具11の曲げ固有角周波数に対しては、工具11の中空孔11aに挿入された工具内蔵部材17が、第1緩衝部材18を介して工具11と反共振するため振動減衰効果を得ることできる。さらに、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材17のフランジ部17aを介して工具11の後端部に押圧されている第2緩衝部材19が、材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできる。
【0039】
さらには、空洞部324内に、樹脂系材料や粉末材料や流動材料などの材料減衰効果の高い物質からなる振動減衰材料325を封入しているため、高周波数範囲において、より大きな振動減衰効果を得ることできる。このため加工外乱による工具11の曲げ固有角周波数の振動と、工具11および工具ホルダ12からなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを、両方共に高度に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、工具の曲げ固有角周波数に対しては、工具の中空孔に挿入された工具内蔵部材が、第1緩衝部材を介して工具と反共振するため振動減衰効果を得ることでき、さらに、工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数に対しては、工具内蔵部材のフランジを介して工具後端部に押圧されている第2緩衝部材が材料減衰部材として振動減衰効果を得ることできるため、加工外乱による工具の曲げ固有角周波数の振動と、工具および工具ホルダからなる系全体の固有角周波数の振動による加工面品位の劣化とを、両方共に防止することができ、加工面品位を良好な状態に安定維持できる工具保持装置として有効である。
【符号の説明】
【0041】
11 工具
11a 中空孔
12 工具ホルダ
13 工具取付部
14 シャンク部
15 主軸
16 クランプ機構
17,217 工具内蔵部材
17a,217a フランジ部
18 第1緩衝部材
19 第2緩衝部材
20 固定ネジ
21 切刃露出部
22 円筒側面
223 スリット
324 空洞部
325 振動減衰材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に切刃を有し、他方側に円筒側面を有し、軸方向に中空孔が設けられた工具と、
主軸の先端部に着脱自在なシャンク部を有し、前記工具の前記円筒側面を把持する工具取付部を有する工具ホルダと、
前記工具の前記中空孔内に挿入され、かつ前記工具の後端部に当接するフランジ部を有する工具内蔵部材と、
前記工具の前記中空孔内側と前記工具内蔵部材とに接触するように設置された第1緩衝部材と、
前記工具内蔵部材の前記フランジ部に当接するように設置された第2緩衝部材と、
前記工具ホルダ内に設けられて、前記第2緩衝部材を前記工具内蔵部材の前記フランジ部に押圧させる固定ネジと、
を備えたことを特徴とする工具保持装置。
【請求項2】
前記工具内蔵部材の1次曲げ固有角周波数を、前記工具ホルダの前記工具取付部により把持されていない前記工具の切刃側露出部における1次曲げ固有角周波数近傍の周波数に設定し、
前記第1緩衝部材を減衰要素として、前記工具の前記切刃側露出部の1次曲げ固有角周波数における振動を減衰させることを特徴とする請求項1記載の工具保持装置。
【請求項3】
前記工具内蔵部材に、前記工具の一方側に位置する端面から単一あるいは複数の微小幅のスリットを設け、
前記スリットは、前記工具内蔵部材を半径方向に横断させ、かつ前記工具内蔵部材の軸方向において前記工具ホルダの前記工具取付部付近まで延在させることを特徴とする請求項1記載の工具保持装置。
【請求項4】
前記工具ホルダの内部における前記工具取付部に隣接する位置に空洞部を形成し、
前記空洞部に少なくとも初期的には流動可能な振動減衰材料を充填し、
前記固定ネジを前記振動減衰材料の封止部材として兼用することを特徴とする請求項1記載の工具保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−121121(P2011−121121A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278476(P2009−278476)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】