説明

工業布帛用ポリアミドステープルおよび工業布帛

【課題】優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備え、工業布帛の構成素材として好適な工業布帛用ポリアミドステープルおよびそれを用いた工業布帛の提供。
【解決手段】ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤の特定量を含有するポリアミドステープルであって、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後の引張強度Aと、浸漬前の引張強度Bとから[(A/B)×100]で表される強度保持率が30%以上、かつ引張強度が3cN/dtex以上である工業布帛用ポリアミドステープルおよびそれを用いた工業布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のポリアミドステープルよりも優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を有し、抄紙用プレスフェルトを代表とする工業布帛の構成素材として有用な工業布帛用ポリアミドステープルおよびそれを用いた工業布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドステープルは、引張強度や屈曲耐久性、および圧縮回復性などの良好な物性を有しているため、抄紙用プレスフェルトを代表とする工業布帛の構成素材として広く使用されてきた。
【0003】
抄紙工程において漉き上げた紙を搾水するために使用される抄紙用プレスフェルトは、工業布帛用ポリアミドモノフィラメントを使用して製織された基布の片面または両面に、工業布帛用ポリアミドステープル層を配したものであり、この工業布帛用ポリアミドステープル層は、ニードルパンチを行うことにより、工業布帛用ポリアミドステープル同士を絡めるとともに押し固められて形成される。
【0004】
この抄紙用プレスフェルトは、実用時に高速・高圧条件下で圧縮・回復・吸引を繰り返し受けるため、フェルトの強度と形状を維持する上で優れた抗張力と耐摩耗性が要求されてきた。
【0005】
また、近年では、環境対策、特にダイオキシン対策に対応し、パルプの漂白剤として、従来の塩素系漂白剤に代えて酸素系漂白剤が使用されており、このために工業布帛用ポリアミドステープルには、耐過酸化水素性が強く要求されるようになった。
【0006】
一方、ポリアミド繊維に関する従来技術としては、ポリアミドを一定量以上含む混合ポリアミド100重量部に対し、銅化合物0.001〜0.1重量部、無機又は有機ハロゲン化物0.005〜1重量部、ヒンダードフェノール0.05〜3重量部および/またはヒンダ−ドアミン0.05〜3重量部、並びに有機リン系化合物0.05〜3重量部配合してなる耐熱性ポリアミド樹脂組成物および繊維(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術は、高強度、高弾性率および耐熱性の改善を目的としたものである。
【0007】
また、ポリアミド系繊維を溶融紡糸した後、ポリマが固化してから、未延伸糸に紡糸油剤を付与して捲き取るまでの間に、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、セミカルバジド系化合物の酸化防止剤のうちの1種以上を付与することを特徴とする耐熱性ポリアミド系繊維の製造方法(例えば、特許文献2参照)が知られているが、この技術は、ポリアミド系繊維編織物などの形態安定化のために行う熱処理工程において、ポリアミド系繊維編織物の耐熱性向上を目的としたものである。
【0008】
さらには、ヒンダードフェノール系および/またはヒンダードアミン系の有機化合物などのポリアミドの劣化抑制効果を持つ添加剤を含み、総添加物含有量が0.001〜1.0重量%、破断強度が6.2cN/dtex以上、沸騰水収縮率が18%以下、破断エネルギーが15mJ/dtex以上、結晶化度が35%以下、複屈折率が0.030〜0.045であることを特徴とするポリアミド繊維(例えば、特許文献3参照)が知られているが、この技術は、高強力、染色性、熱セット処理後の強度保持率の向上を目的とするものである。
【0009】
すなわち、上記従来技術は、いずれも耐熱性の改善を目的としたものであり、工業布帛用ポリアミドステープルに要求される耐過酸化水素性およびステープルの切れ落ち改善などの耐久性の向上を目的とするものではなかった。
【0010】
したがって、上記従来技術のポリアミド繊維を、抄紙用プレスフェルト基布に代表される工業布帛に使用した場合には、耐過酸化水素性が低く、ステープルの切れ落ちが発生しやすいなど、工業布帛として十分なものが得られにくかったため、その改善が求められていたのが実状である。
【特許文献1】特開平10−130497号公報
【特許文献2】特開2000−328357号公報
【特許文献3】特開2002−88577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における課題を改善するために検討した結果なされたものであり、従来の工業布帛用ポリアミドステープルよりも優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えた工業布帛用ポリアミドステープルおよびそれを用いた抄紙用プレスフェルトを代表とする工業布帛の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、ヒンダードアミン系光安定剤0.01〜5重量%およびフェノール系酸化防止剤0.01〜5重量%を含有するポリアミドからなるステープルであって、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後の引張強度Aと、過酸化水素水中に浸漬する前の引張強度Bとから式[(A/B)×100]で表される強度保持率が30%以上であり、かつJIS L1015:1999の8.7に準じて測定した引張強度が3cN/dtex以上であることを特徴とする工業布帛用ポリアミドステープルが提供される。
【0013】
なお、本発明の工業布帛用ポリアミドステープルにおいては、前記ポリアミドがナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい条件として挙げられる。
【0014】
また、本発明の工業布帛は、上記の工業布帛用ポリアミドステープルを少なくとも一部に使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
以下に説明するとおり、本発明の工業布帛用ポリアミドステープルは、優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えたものであり、特に抄紙用プレスフェルトを代表とする工業布帛の少なくとも一部に使用した場合には、優れた耐過酸化水素性と高い耐久性を十分発揮することから、抄紙産業などにおいて極めて利用価値の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
一般に工業布帛の構成素材として使用される工業布帛用ポリアミドステープルの引張強度は2.0cN/dtex以上が必要とされているが、抄紙工程でパルプ漂白剤として過酸化水素などに代表される酸素系漂白剤を使用する場合には、工業布帛が酸素系漂白剤により劣化を受けやすいことが問題視されていた。
【0018】
そこで、本発明が目的とする優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えた工業布帛用ポリアミドステープルを得るためには、ヒンダードアミン系光安定剤0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜2重量%およびフェノール系酸化防止剤0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜3重量%を含有するポリアミドからなるステープルであることが必要であり、さらには工業布帛として十分実用性のある工業布帛用ポリアミドステープルであるためには、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後の引張強度Aと、過酸化水素水中に浸漬する前の引張強度Bとから式[(A/B)×100]で表される強度保持率が30%以上であり、かつJIS L1015:1999の8.7に準じて測定した引張強度が3cN/dtex以上であることが必要である。
【0019】
上記の強度保持率が30%未満では、耐過酸化水素性が従来よりも向上したものとはいえず、また、引張強度が3cN/dtex未満では、抄紙用プレスフェルトを代表する工業布帛に使用した際に、ステープルの切れ落ちが生じやすくなり、十分な耐久性を発揮することができない。
【0020】
一方、工業布帛用ポリアミドステープル中に含有されるヒンダードアミン系光安定剤の量が上記の範囲を下回ると、耐過酸化水素性が不足しやすく、逆に上記の範囲を上回ると、製糸安定性が不安定となるばかりか、引張強度が低下するため好ましくない。
【0021】
また、工業布帛用ポリアミドステープル中に含有されるフェノール系酸化防止剤の量が上記の範囲を下回ると、耐過酸化水素性が不足し、逆に上記の範囲を上回ると、製糸安定性が不安定となるばかりか、引張強度が低下するため好ましくない。
【0022】
すなわち、ポリアミドに対し、ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤とを併用添加し、それらの含有量を最適の範囲に制御することにより、優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えた工業布帛用ポリアミドステープルが得られるのである。
【0023】
本発明の工業布帛用ポリアミドステープルが、優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備える理由については明確ではないが、ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤をそれぞれ単独で含有させた場合は、耐過酸化水素性の改善効果はほとんど認められず、またいずれか一方の含有量が規定の範囲を上回ると引張強度が低下するのに対し、両者を特定の含有量となるように併用添加することによって耐過酸化水素性の向上が得られるという事実からは、ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤との両者が何らかの相互作用を引き起こし、その相乗効果により特異的に優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を発現するものであると考えられる。
【0024】
なお、本発明の工業布帛用ポリアミドステープルの耐過酸化水素性の評価方法については、抄紙用プレスフェルトの使用条件下に近いことが最も適した評価になるという理由から、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後、その引張強度を測定し、過酸化水素水に浸漬する前の引張強度と比較する方法が採用される。
【0025】
そして、この評価方法により得られた過酸化水素水による浸漬処理後の強度保持率が上記範囲を下回ると、過酸化水素による劣化が大きく、抄紙用プレスフェルトとして十分な耐久性が得られにくくなる。
【0026】
本発明の工業布帛用ポリアミドステープルを構成するポリアミドは、各種ラクタム類の開環重合、各種ジアミン類と各種ジカルボン酸類との重縮合および各種アミノカルボン酸類の重縮合によって得られる各種ポリアミド類、およびこれらの重縮合と開環重合とを組み合わせた共重合ポリアミド類であり、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/12共重合体(ε−カプロラクタムとラウロラクタムとの共重合体)およびナイロン6/66共重合体(ε−カプロラクタムとヘキサメチレンジアミン・アジピン酸のナイロン塩との共重合体)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらのポリアミドを2種類以上混練して使用することもできる。
【0027】
上記ポリアミドの中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/12共重合体およびナイロン6/66共重合体から選ばれる少なくとも1種が抄紙用プレスフェルトを代表する工業布帛に好適であり、特に高い引張強度が得られやすいという理由から、ナイロン6/66共重合体が好ましく使用される。なお、ナイロン6/66の共重合比率は、ナイロン6成分70〜98重量%、ナイロン66成分30〜2重量%の範囲が、高い引張強度と、布帛とした場合に強固なポリアミドステープル層が得られるという理由からより好ましい。
【0028】
さらに、本発明で使用するポリアミドには、目的に応じて、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、カーボンブラックなどの各種無機粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類およびシリコーンオイルなどが添加されていてもよい。
【0029】
本発明で使用するヒンダードアミン系光安定剤は、下記の式で示されるヒンダードアミン骨格を有する化合物であれば特に限定はされず、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、N,N'−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ポリ[(6−モルフォリノ−S−トリアジン−2,4−ジイル)〔2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル〕イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]、1,6−ヘキサンジアミン,N,N'−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル4−ピペリジル)−,ポリマーズモルホリンー2,4,6−トリクロロー1,3,5ートリアジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−C12−21およびC18不飽和脂肪酸エステルなどが挙げられ、特にN,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)の市販品であるナイロスタッブS−EED(クラリアント ジャパン(株)社製)は、容易に入手できることから、好ましく使用することができる。
【0030】
【化1】

【0031】
また、本発明で使用するフェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードタイプ、セミヒンダードタイプ、レスヒンダードタイプの化合物があるが、中でもフェノールの−OH基の両側のオルト位に−C(CH基が2個付いたヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用が好ましい。このヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2, 2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールおよび2,6−ジ−t−ブチル−P−クレゾールなどが挙げられ、特にN,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)の市販品であるイルガノックス1098(チバ・スペシャルケミカルズ(株)社製、登録商標)は、容易に入手できることから、好ましく使用することができる。
【0032】
酸化防止剤には、この他にもホスファイト系やホスナイト系などのリン系酸化防止剤、チオエーテル系などのイオウ系酸化防止剤、ヨウ化銅や臭化銅などの銅塩が挙げられるが、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤の使用は、共に未添加のポリアミドステープルに比べ耐過酸化水素性の向上が認められず、一方、ヨウ化銅や臭化銅などの銅塩の使用は、未添加のポリアミドステープルに比べ、耐過酸化水素性が著しく低下するため好ましくない。
【0033】
次に、上記本発明の工業布帛用ポリアミドステープルの製造方法について説明する。
【0034】
本発明の工業布帛用ポリアミドステープルの製造方法には、特別な方法を用いる必要はなく、例えば、所定量のポリアミドペレット、ヒンダードアミン系光安定剤およびフェノール系酸化防止剤の混合物を1軸または2軸エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、溶融混練した後、エクストルーダー型溶融紡糸機の先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より溶融ポリマを押し出し、冷却した後、通常の方法で巻き取り、引き続き延伸、熱固定し、数十から数百万dtexのトウを得た後、さらに、このトウをギロチンカッターで10〜50mmの長さにカットする方法が挙げられる。ここで、トウを得る際には、必要に応じてギヤーニップなどを使用し、機械的方法でクリンプを掛けても良い。
【0035】
また、ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤をそれぞれ別々に所定濃度含有したポリアミドペレット(以後マスターバッチという)を作成し、ポリアミド、ヒンダードアミン系光安定剤のマスターバッチおよびフェノール系酸化防止剤のマスターバッチを混合して溶融紡糸し、または、ヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤を共に所定濃度含有したマスターバッチを作成し、ポリアミドとヒンダードアミン系光安定剤とフェノール系酸化防止剤を含有するマスターバッチを混合して溶融紡糸し、冷却、延伸、熱固化を経て、上記と同じ方法で工業布帛用ポリアミドステープルを製造する方法も挙げられる。
【0036】
本発明の工業布帛用ポリアミドステープルの繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)には、円、中空、扁平(楕円、長方形に近似した形状も含む)、正方形、T形、Y形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドッグボーン状、繭型などが挙げられ、特に限定するものではない。
【0037】
特に、本発明の工業布帛用ポリアミドステープルを工業布帛に使用する場合には、ニードルパンチにおいて、ステープル同士が絡まり易く、単糸が割れにくくなるとの理由から、その断面形状は円もしくは三角形が好ましい。
【0038】
かくして得られる本発明の工業布帛用ポリアミドステープルは、従来のポリアミドステープルに比べ優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えたものであることから、工業布帛、特に優れた耐過酸化水素性が要求される抄紙用プレスフェルトを代表する工業布帛の少なくとも一部に使用した場合は、優れた特性を発揮することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の工業布帛用ポリアミドステープルを、実施例を挙げてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記さない限り、次に示す方法によって測定したものである。
【0040】
〔繊度〕
JIS L1015:1999の8.5.1のa)A法に準じて測定した。
【0041】
〔耐過酸化水素性〕
得られた工業布帛用ポリアミドステープル試験片を、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後の引張強さ(N)をJIS L1015:1999の8.7に準じて30回測定し、その値をそれぞれ単位繊度当たりの強度に換算し、その引張強度の平均値をA(cN/dtex)とした。また、過酸化水素水中に浸漬する前のポリアミドステープル試験片の引張強度についても同じ方法で測定し、その平均値をB(cN/dtex)とした。そして、得られたそれぞれの引張強度から式[(A/B)×100]を用いて強度保持率(%)を求めた。強度保持率の値が高いほど耐過酸化水素性が高いことを示す。
【0042】
〔引張強度〕
JIS L1015:1999の8.7に準じて、試長20mm、引張速度20mm/分の条件で引張強さ(N)を測定した。そして、測定試料の単位繊度当たりの強度に換算し、引張強度(cN/dtex)を求めた。
【0043】
〔実施例1〜8、比較例1〜3〕
ナイロン6樹脂として東レ(株)社製ナイロン6樹脂“アミラン”ポリアミドCM1021チップ(以下、ナイロン6チップという)、ヒンダードアミン系光安定剤としてN,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)であるナイロスタッブS−EED(クラリアント ジャパン(株)社製)、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤としてイルガノックス1098(チバ・スペシャルケミカルズ(株)社製、登録商標)を使用した。
【0044】
ナイロン6チップとナイロスタッブS−EED、およびイルガノックス1098を表1に示す比率で混合した後、φ40mmの1軸エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、280℃で溶融混練した溶融ポリマをギアポンプで紡糸パックに送り込み、紡糸パック内の濾過層を通させた後、円形断面糸用の紡糸口金孔から押し出し、冷却固化し巻き取った。
【0045】
次いで、得られた未延伸糸を収束し、150万dtexのトウとして85℃の温水で3.5倍に延伸し、次いで、160℃の乾熱で熱固定した。さらに、得られたトウを、ギロチンカッターで40mmにカットして単繊維2.5dtexの円形断面ポリアミドステープルを得た。得られたポリアミドステープルの引張強度および耐過酸化水素性の試験結果を表1に示す。
【0046】
表1の結果から明らかなように、ヒンダードアミン系光安定剤を0.01〜5重量%およびフェノール系酸化防止剤を0.01〜5重量%含有するポリアミドステープルは、耐過酸化水素水処理後の強度保持率が30%以上と、耐過酸化水素性に優れ、引張強度が3cN/dtex以上と、高い強度を有するものであった。
【0047】
これに対して、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が0.01〜5重量%の範囲を満たさないポリアミドステープル(比較例1)およびフェノール系酸化防止剤の含有量が0.01〜5重量%の範囲を満たさないポリアミドステープル(比較例2)は、ヒンダードアミン系光安定剤およびフェノール系酸化防止剤の併用による耐過酸化水素性向上の相乗効果が認められず、また、ヒンダードアミン系光安定剤およびフェノール系酸化防止剤を含有しないポリアミドステープル(比較例3)は耐過酸化水素性の向上効果が全く得られなかった。
【0048】
〔比較例4〕
ナイロスタッブS−EEDの添加量を7重量%、イルガノックス1098の添加量を0.5重量%とした以外は、実施例1と同じ条件でポリアミドステープルを製糸したが、紡糸機内でポリマの押し出しが不安定となり、その結果、糸切れが多発したばかりか、得られたポリアミドステープル中にアーモワックスEBSの未溶解物が析出し、表1に示したように引張強度が極端に低下した。
【0049】
〔比較例5〕
ナイロスタッブS−EEDの添加量を0.5重量%、イルガノックス1098の添加量を8重量%とした以外は、実施例1と同じ条件でポリアミドステープルを製糸したが、紡糸機内でポリマの押し出しが不安定となり、その結果、糸切れが多発したばかりか、得られたポリアミドステープル中にイルガノックス1098の未溶解物が析出し、表1に示したように引張強度が極端に低下した。
【0050】
【表1】

【0051】
〔実施例9〜15〕
実施例4のナイロン6の代わりに、ナイロン66として東レ(株)社製“アミラン”ポリアミドCM3001、ナイロン610として東レ(株)社製“アミラン”ポリアミドCM2001、ナイロン612としてダイセルテグサ(株)社製“ダイアミド”D18、ナイロン11としてATOFINA社製“RILSANR”B、ナイロン12としてダイセルテグサ(株)製“ダイアミド”L1840、ナイロン6/66共重合体として東レ(株)社製“アミラン”ポリアミドCM6021、ナイロン6/12共重合体として(株)エムス昭和電工社製CR8を使用した。
【0052】
これらポリアミドチップとナイロスタッブS−EED、およびイルガノックス1098を、表2に示す比率で混合した後、φ40mmの1軸エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、280℃で溶融混練した溶融ポリマをギアポンプで紡糸パックに送り込み、紡糸パック内の濾過層を通させた後、円形断面糸用の紡糸口金孔から押し出し、冷却固化し巻き取った。次いで、得られた未延伸糸を収束し、150万dtexのトウとして85℃の温水で3.5倍に延伸し、次いで、160℃の乾熱で熱固定した。さらに、得られたトウを、ギロチンカッターで40mmにカットして単繊維2.5dtexの円形断面ポリアミドステープルを得た。得られたポリアミドステープルの引張強度および耐過酸化水素性の試験結果を表2に示す。
【0053】
表2の結果から明らかなように、ヒンダードアミン系光安定剤を0.01〜5重量%およびフェノール系酸化防止剤を0.01〜5重量%含有するポリアミドステープルは、強度保持率が30%以上と耐過酸化水素性に優れ、また引張強度も3cN/dtex以上と高いものであった。特にナイロン6/66共重合体を使用したポリアミドステープルは耐過酸化水素性が高く、抄紙用プレスフェルトを構成するポリアミドステープルとして有用性が極めて高いものであった。
【0054】
【表2】

【0055】
〔比較例6、7〕
イルガノックス1098の代わりに、リン系酸化防止剤である旭電化工業(株)社製“アデカスタブ”PEP−36(化学名:ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリロールジホスファイト)、およびイオウ系酸化防止剤である住友化学工業(株)社製“スミライザー”TSP(化学名:ジステアリル−3,3‘−チオジプロピオネート)を使用したこと以外は、実施例4と同じ条件でポリアミドステープルを得た。得られたポリアミドステープルの引張強度、および耐過酸化水素性の試験結果を表3に示す。
【0056】
表3から明らかなように、酸化防止剤にリン系酸化防止剤およびイオウ系酸化防止剤を使用したポリアミドステープルは、紡糸機内でポリマの押し出しが不安定となり、その結果、線径斑が見られ、引張強度や過酸化水素性が低いものであった。
【0057】
【表3】

【0058】
〔比較例8〕
イルガノックス1098の代わりに、銅塩系の酸化防止剤である日本化学産業(株)社製“TOC No.2”(化学名:ヨウ化第1銅:CuI)を0.01重量%使用したこと以外は、実施例4と同じ条件でポリアミドステープルを得た。得られたポリアミドステープルの引張強度は3.9cN/dtexであったが、過酸化水素による劣化が著しく、耐過酸化水素性の評価における引張強度の測定が不可能であった。
【0059】
〔実施例16、比較例9〕
比較例3で得られたポリアミドステープルを、ナイロン6モノフィラメントで平織りに製織された基布の両面に乗せてニードルパンチを行い、フェルト(A)(比較例9)を作成した。同じく実施例4で得られたポリアミドステープルを使用し、比較例9と同じ方法でフェルト(B)(実施例16)を作成した。
【0060】
これらのフェルトを抄紙機に掛け、酸素系漂白剤として過酸化水素を用いたパルプのプレス工程で使用し、フェルト(A)の性能を基準として比較評価を行った。その結果、実施例4のポリアミドステープルで製織されたフェルト(B)は、耐過酸化水素性優れ、ステープルの切れ落ちや摩耗などの発生もないことから、耐久性に優れたものであり、そのライフサイクルはフェルト(A)の1.7倍と高かった。
【0061】
〔比較例10〕
比較例1で得られたポリアミドステープルを使用したこと以外は、比較例9と同じ方法でフェルト(C)を作成し、同じパルプのプレス工程で使用した。その結果、フェルト(C)の耐過酸化水素性は低く、そのライフサイクルは実施例16のフェルト(B)に対して62%と低かった。
【0062】
〔比較例11〕
比較例4で得られたポリアミドステープルを使用したこと以外は、比較例9と同じ方法でフェルト(D)を作成し、同じパルプのプレス工程で使用した。その結果、フェルト(D)は耐過酸化水素性が高いものの、引張強度が低いため、ステープルの切れ落ちや摩耗などが発生しやすく、耐久性に欠け、比較例9のフェルト(A)のライフサイクルに対して4割に満たない短い時間で使用できなくなった。
【0063】
〔比較例12〕
比較例6で得られたポリアミドステープルを使用したこと以外は、比較例9と同じ方法でフェルト(E)を作成し、同じパルプのプレス工程で使用した。その結果、フェルト(E)は、過酸化水素による劣化と引張強度不足のため、ステープルの切れ落ちや摩耗などが発生しやすく、耐久性に欠け、比較例9のフェルト(A)のライフサイクルに対して3割に満たない短い時間で使用できなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の工業布帛用ポリアミドステープルは、優れた耐過酸化水素性と高い引張強度を兼ね備えたものであることから、抄紙用プレスフェルトを代表とする工業布帛の少なくとも一部に使用した場合には、従来よりも優れた耐過酸化水素性と耐久性が発揮され、抄紙産業などにおいて極めて利用価値の高いものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンダードアミン系光安定剤0.01〜5重量%およびフェノール系酸化防止剤0.01〜5重量%を含有するポリアミドからなるステープルであって、80℃に保温した濃度3%の過酸化水素水中に24時間浸漬し、さらに水洗して24時間風乾した後の引張強度Aと、過酸化水素水中に浸漬する前の引張強度Bとから式[(A/B)×100]で表される強度保持率が30%以上であり、かつJIS L1015:1999の8.7に準じて測定した引張強度が3cN/dtex以上であることを特徴とする工業布帛用ポリアミドステープル。
【請求項2】
前記ポリアミドがナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体およびナイロン6/12共重合体から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の工業布帛用ポリアミドステープル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の工業布帛用ポリアミドステープルを少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業布帛。

【公開番号】特開2006−265777(P2006−265777A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86255(P2005−86255)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】