説明

工業用防腐剤組成物

【課題】
ピリジン−2−チオール−N−オキシドのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む組成物が、鉄イオン存在下において生じる変色を防止、または減少させることを目的とする。
【解決手段】ピリジン−2−チオール−N−オキシドのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む組成物に対して、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアミン塩を加えることにより、鉄イオンの混入による変色を防止、あるいは減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピリジン−2−チオール−N−オキシドを使用する工業用防腐剤、特に金属加工油用の防腐剤に関し、さらには鉄イオン存在下でピリジン−2−チオール−N−オキシドの変色を減少または防止させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで工業用製品、特に水分を含有する液体製品に対する微生物汚染を防ぐ為にさまざまな防腐剤組成物が用いられてきたが、最近は特に安全性の高い薬剤が要求されている。これらの薬剤の中でピリジン−2−チオール−N−オキシド(以下ピリチオンと略す)のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩は上記要求を満足する優れた防腐剤であり、工業用製品中の防腐剤、殺生物剤及び保存料として使用されている。ピリチオン含有組成物はごくわずかな鉄イオンの存在下においても青色に変色し、沈殿を生じて効力が減少するという欠点があった。特に金属加工油用の防腐剤においては金属イオンの混入が起こりやすいために、着色する問題は大きな障害となっていた。この問題を解消するために金属イオンを封鎖するキレート剤を添加する方法が提案されている。例えば、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を加える方法が特許文献1に記載されているが、鉄イオンに対する変色防止効果は十分でなく、さらにピリチオンの含有率を高くするとピリチオンの結晶が析出するという製剤上の欠点があった。またホウ酸化合物を接触させる方法が特許文献2に記載されているが、変色防止効果は傑出したものでなく、より効果的に変色を解消する方法及び組成物が求められている。
工業用防腐防カビ剤に添加することができるアミンとしては特許文献3及び特許文献4にベンズイソチアゾリンの水溶化剤成分として金属加工油等の防腐剤として使用されている例があるが、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸と併用あるいはピリチオンと併用することについては知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特公平6−2645号公報
【特許文献2】特開2001−278863号公報
【特許文献3】特開平8−193015号公報
【特許文献4】特開2006−63039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は工業用材料、特に金属加工油剤に、防腐効力に優れたピリチオンを含有させ、しかも鉄イオン等の金属イオンによる着色が起こらない、あるいは起こりにくい防腐剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究した結果、防腐剤としてピリチオンを用い、さらに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアミン塩を共存させることにより、鉄イオン等の金属イオンが混入することによって着色が起こる問題が改良されることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明はピリジン−2−チオール−N−オキシドのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩、及び1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアミン塩を含有することを特徴とする工業用防腐剤組成物である。
ピリチオンはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩を用いることができ、例えばピリチオンのナトリウム塩やマグネシウム塩を使用することができる。例えばピリチオンのナトリウム塩ではSodium Omadine(アーチ・ケミカルズ・ジャパン株式会社製、ピリチオンのナトリウム塩40%水溶液)のような市販品が使用できる。また米国特許3159640号に記載されている方法で製造することも可能である。1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸については、DEQUEST2010(ソルーシア・ジャパン株式会社製、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の60%水溶液)のような市販品が使用できる。
【0006】
本発明の防腐剤組成物に含有されるピリチオンの濃度は特に限定されないが、組成物中に0.1〜30重量%となるように含有させるのが良く、1〜20重量%とするのがさらに好ましい。本発明の防腐剤組成物に含有される1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の濃度についても特に限定されないが、組成物中に0.1〜20重量%となるように含有させるのが良く、0.5〜10重量%とするのがさらに好ましい。アミンは1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を中和して塩を形成するのに用いられ、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸とアミンを混合、反応させてpHが7〜12、好ましくは9〜10の範囲に調整される。その量は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を10重量部に対して5〜30重量部となる。用いるアミンの種類については特に限定されないが、アルカノールアミンであることが好ましい。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等が挙げられ、これらのアミンを二種類以上混合して使用することも可能である。
【0007】
本発明の防腐剤組成物の製剤を行う上で、水を用いた水系の溶液とするのが好都合であるが、水以外の溶剤を適宜使用することも可能である。溶剤は特に限定されるものではなく、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等の水溶性溶剤、また、ジメチルナフタレン、ドデシルベンゼン、流動パラフィン、イソホロン、灯油、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレンカーボネート、椰子油、菜種油、綿実油、ヒマシ油、大豆油等の親油性溶剤が挙げられる。これらの水溶性溶剤、親油性溶剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0008】
本発明の防腐剤組成物の製剤を行う上で界面活性剤を配合することも可能である。界面活性剤には非イオン系またはアニオン系界面活性剤が用いられ、各々を単独で使用しても混合して使用しても差し支えない。非イオン界面活性剤にはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン系界面活性剤にはアルキルベンゼンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ジアルキルスルホサクシネート等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0009】
本発明の防腐剤組成物に配合するピリチオンに、他の防カビ剤または防腐剤を同時に併用することが可能である。防カビ剤または防腐剤の種類は、防カビまたは防腐効果を有するものであれば特に限定されないが、例えば、グルコン酸クロルヘキシジン、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルトフェニルフェノール、ポリリジン、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾリルカルバミン酸メチル、テトラクロロイソフタロニトリル、等のアルカリ性領域のpHにおいて分解することのない成分を用いることができる。
【0010】
本発明の防腐剤組成物は、金属イオン特に鉄イオンが混入しやすい金属加工油に対する防腐剤として有用であるが、それ以外の用途、例えば水性塗料、油性塗料、接着剤、ラテックスコンパウンド、樹脂エマルジョン、無機系スラリー、澱粉、繊維処理剤、製紙用サイズ剤、コンクリート混和剤、コーティングカラー等の一般的な工業用材料にも使用することができる。
【実施例】
【0011】
次に本発明の実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に示した配合は全て重量%である。
【0012】
実施例1〜3を表1に、比較例1〜3を表2に示す。これらの実施例及び比較例の1%希釈液5mLに対して1%塩化鉄水溶液を500μL加えたときの変色程度を目視で確認した。また、45℃の恒温室に保管し、外観の観察を行った。
【0013】
【表1】

40% Sodium OMADINE:ピリチオンのナトリウム塩40%水溶液
DEQUEST2010:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の60%水溶液
【0014】
【表2】

40% Sodium OMADINE:ピリチオンのナトリウム塩40%水溶液
DEQUEST2010:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸の60%水溶液
【0015】
試験結果を表3に示す。本発明の防腐剤組成物は、鉄イオンの混入による変色に対し優れた耐性を示し、組成物の安定性も高く、高濃度の製剤が可能であった。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の防腐剤組成物は、鉄イオンの混入による変色に対し優れた耐性を有する。また、効力減少の原因となる沈殿を生じにくいため、確実な効果を発揮することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピリジン−2−チオール−N−オキシドのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩、及び1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアミン塩を含有することを特徴とする工業用防腐剤組成物。
【請求項2】
1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸のアミン塩が、アルカノールアミン塩であることを特徴とする請求項1記載の工業用防腐剤組成物。
【請求項3】
金属加工油に用いることを特徴とする請求項1及び2記載の防腐剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3記載の防腐剤組成物を金属加工油に添加し、鉄イオンによる着色を減少または防止する方法。






【公開番号】特開2008−74812(P2008−74812A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258593(P2006−258593)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】