説明

差動ローラーねじ

差動ローラーねじは、外側ナットと、第一の溝を備えた第一のローラーのグループを含む転がり要素とを含み、第一のグループはねじ周囲の第一の円筒形リング内に配置される。ねじは第二の溝を備えた第二のローラーのグループを含む。第二のグループは第二の円筒形リング内に配置される。2つの円筒形リングは同軸である。中間の円筒要素が2組のローラーのグループ間に配置され、中間要素は、第一のピッチを用いて形成され第一の方向を有する第一のめねじと、第二のピッチを用いて形成され第一の方向とは反対の第二の方向を有する第二のおねじとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がりねじ、とりわけローラーねじの分野に関する。本発明は並進運動の調整において高い精度を提供しつつ、非常な高荷重を支えることが可能なローラーねじの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ローラーねじは、回転運動を直線変位に変換させ、直線変位を回転運動に変換させるために使用される。回転要素はねじとナットとの間に配置される、ねじ付きローラーである。ローラー同士は相隔てられ、ねじの周りの円筒形リング内に収容されている。それらはまた「人工衛星のローラーねじ(satellite roller screws)」とも呼ばれる。
【0003】
多数の接触点により、一般的に人工衛星のローラーねじが非常な高荷重を支えることが可能となる。
【0004】
ローラーねじは現在、幾つかの用途においてボールねじよりも好まれる。とりわけ、許容できる静的及び動的負荷容量がより大きいとき、それらはボールねじに比べて利点を有する。
【0005】
ねじ付きローラーはボールの代わりに転がり機能を実行し、荷重はより多数の接触点にわたり分布する。
【0006】
ローラーねじはまた整数又は実数に対応するピッチを有し得るが、これは力の低減を算定し、並進運動の距離を計算するのに有利である。ピッチは自由に選ばれてもよく、ナット又はねじの形状に対する特殊な変更なしに作られ得る。
【0007】
幾つかのタイプのローラーねじが存在する。特に、ローラーの再循環なしのローラーねじ、ローラーの再循環を伴うローラーねじ、及び別の配置、例えば逆ローラーねじがある。
【0008】
ローラーの再循環なしのローラーねじは、ねじのものと同一のめねじを有するナットを備える。
【0009】
ローラーはナットのものに対応する、ねじれ角を伴う一条ねじを有する。従ってナットとローラーとの間には軸方向変位がない。それゆえローラーの再循環は不必要である。
【0010】
ローラーの再循環を伴うローラーねじは、ねじ山を含む。ナットはねじのものと同一のねじ山を有する。ローラーはねじ切りされていないが、ねじの軸に直角に配置された溝を有する。溝間の距離はねじとナットの正面ピッチに対応する。
【0011】
ねじ又はナットが回転するとき、ローラーはナット内で軸方向に変位する。完全な1回転後に、各ローラーはナットの端部に固定された2つのカムによって出発位置に戻る。ローラーのこの再循環は、ナット内の長手方向の溝によって可能にされる。
【0012】
図1はそのようなローラーねじの一実施形態を示す。ローラーねじ100は、ローラー間の間隔を保ち、一方でローラー102とねじ100との間の接触と、他方でローラー102とめねじを有するナット101との間の接触を確実にしつつ、荷重が良好に分配されることを可能にする、構造体103の中に収容されている複数のローラー102を含む。構造体103、ローラー102、及びナット101によって形成されるユニットは、ローラーが完全な1回転後にそれらの出発位置に戻ることができるようにする、2つのカム104の間に保持されている。
【0013】
逆ローラーねじは、ねじ山を有する。ナットはねじと同一のねじ山を有する。運動学的な動きは、この場合、ねじの回転効果の下で並進運動するのがナットであるため逆にされる。
【0014】
現在、ねじの減速能力は、ピッチの形状によって制限される。例として、0.5mmは先行技術からのねじによって達成される並進運動の精度である。
【0015】
さらに、ねじ山は小さい断面を持つため、大きな減速に対する必要性と高い負荷吸収能力とは適合しない。この不適合のため、より大きいねじ直径、より大きいローラー長さ、及びより多数のローラーが必要とされる。従って大きな減速能力及び高い負荷吸収能力を提供する軸受用には、転がりねじは大きくなり過ぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上述の不都合を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
特に、本発明はローラーねじの減速能力を、その負荷吸収能力に悪影響を及ぼすことなく、向上させることを可能にする。これを行うために、差動方式で働く第二段の追加が必要とされる。第二段は、ねじの直径における増加なしに小さなサイズを保持できるようにする。
【0018】
本発明は従って、性能に悪影響を及ぼすことなく減速比を増加させる新たな配置を可能にする。
【0019】
差動ローラーねじは、外側ナットと、第一の溝を備えた第一のローラーのグループを含む転がり要素とを含み、第一のローラーのグループはねじ周囲の第一の円筒形リング内に配置される。それはまた第二の溝を備えた第二のローラーのグループを含み、第二のローラーのグループは第二の円筒形リング内に配置され、2つの円筒形リングは同軸である。中間の円筒要素が2組のローラーのグループ間に配置される。中間要素は、第一のピッチを用いて形成され第一の方向を有する第一のめねじと、第二のピッチを用いて形成され第一の方向とは反対の第二の方向を有する第二のおねじとを備える。
【0020】
ローラーは有利にはねじ切りされ、ねじ山は第一及び第二の溝により形成されている。
【0021】
言い換えれば、差動ローラーねじは、外側ナット、第一のねじ付きローラーのグループを含む転がり要素を備え、ねじ山は第一のピッチを用いて形成されて第一の方向を有し、第一のグループはねじ周囲の第一の円筒形リング内に配置されている。
【0022】
ねじは有利には第二のねじ切りされたグループを備え、ねじ山は第二のピッチを用いて形成されて第一の方向とは反対の第二の方向を有し、第二のグループは第二の円筒形リング内に配置され、2つの円筒形リングは同軸であり、円筒形の中間要素は2グループのローラー間に配置され、中間要素は第一のピッチに対応する第一のめねじと、第二のピッチに対応する第二のおねじとを含む。
【0023】
本発明の別の特徴によれば、第一及び第二の溝は円形である。
【0024】
1つの実施形態において、ローラーの溝の横断面は三角形が有利である。
【0025】
中間要素は有利には電動機により回転駆動され、中間要素は第一の方向に並進移動し、ナットは第二の方向に並進駆動され、ねじは固定される。
【0026】
中間要素は、有利には電動機により回転駆動され、中間要素は電動機に接続されて回転において電動機をガイドし、中間要素は第一の方向に並進移動し、ねじは第二の方向に並進駆動され、ナットは固定される。
【0027】
ナットはハブであることが有利である。
【0028】
ローラーは再循環ローラーであることが有利であり、ローラーはカム及び固定フィンガーを含む。
【0029】
ローラーは有利には2つのねじ切りされた円形部分をローラーの両端に備え、ローラーの中央部分はねじ切りされた部分よりも小さい半径を有する。
【0030】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図に関連してなされる以下の記述を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】1段のローラーを備える先行技術からのローラーねじを示す。
【図2】中間部品と2つのローラー段を備える、本発明による差動ねじを示す。
【図3】本発明の差動ねじの第一の詳細図を示す。
【図4】本発明の差動ねじの第二の詳細図を示す。
【図5】本発明の差動ねじの代替の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2は本発明によるローラーねじの2つの構成を示す。第一の構成は、「初期状態」と称される第一の状態におけるローラーねじを示す。第二の構成は、電動機Mがねじとナットとの間に並進運動を発生させたときのローラーねじを示す。ローラーねじは従って「最終状態」と称される第二の状態にある。
【0033】
これらの構成において、ねじ1は固定され、言い換えれば回転及び並進に際して固定部分6にロックされる。ナット2は回転において固定されている部分1により、回転に対してロックされるが、しかし並進においては変位可能である。中間部品7は電動機5により回転駆動され、並進において変位し得る。
【0034】
第一の構成において、ねじ3は固定部分6に固定される。中間部品7は管状で中空であり、ねじを取り囲む。本発明の中間部品7は、ピッチP2でその外径にわたってねじ切りされ、外径とは反対のピッチP1でその内径にわたって、ねじ穴加工されている。
【0035】
中間部品7は、ピッチP1の第一の周辺ローラーのグループ4を介して中央のねじに接続され、ピッチP2の第二の周辺ローラーのグループ4’を介して外側ナット2に接続されている。
【0036】
中間部品1が回転駆動されるとき、それは負の方向と呼ばれる第一の方向へのP1の直線運動/回転の分だけ変位する。外側ナットは、第一の方向に対して反対の、正の方向と呼ばれる方向にP2/回転分だけ変位する。
【0037】
ねじに対するナットの相対運動は、従って2つの相反する並進運動の合計である。従ってねじに対するナットの並進運動は、それがP1とP2の間のピッチの差から生じるため、大いに低減される。
【0038】
部品5は中間部品7への駆動エネルギーの移行を可能にする。
【0039】
当初は固定部品6から距離Lにある中間部品7は、電動機Mの推進力で並進移動する。中間部品7は1回転だけ変位し、固定部分6からL’=L−P1の新たな距離に位置する。
【0040】
固定部品6から距離Hにあるナット1は、中間部品の回転の推進力でローラー4’を介して回転する。中間部品7の完全な1回転後に、ナットは並進移動し、新たな距離H’=H+P2−P1に位置する。
【0041】
これは、P2−P1に等しい距離H’−H分の回転後に計算される、ナットとねじとの間の差動並進運動を与える。
【0042】
本発明は、とりわけ相互に近いピッチP1とP2を選ぶことにより、P1とP2間のピッチにおける非常に小さい差の選定を可能にする。減速比の精度は結果的に大いに改善される。
【0043】
1つの例示的実施形態は、1mmに等しいピッチP1を有するねじ3及び、0.9mmのめねじピッチを有するナットを含む。この構成は0.1mmのピッチの差を得ることを可能にする。すなわち、中間部品が完全に1回転した場合、ねじに対するナットの並進運動は0.1mmである。
【0044】
図3はねじ3と、一方でねじ3と接触し、他方でめねじピッチP1及びおねじピッチP2を有する管状で中空の中間部品7と接触している、ピッチP1を有する第一の周辺ローラーのグループ4とを備える、本発明の装置の横断面を示す。第二の周辺ローラーのグループ4’は、一方で中間部品7の外側部分と接触し、他方でナット2の内側部分と接触している。
【0045】
図4は図2の代替の実施形態の、詳細な横断面を示す。それはピッチP1を有するねじ3、ピッチP1を有する第一の周辺ローラーのグループ4、めねじピッチP1及びおねじピッチP2を有する中間部品7、ピッチP2を有する第二の周辺ローラーのグループ4’、及びめねじピッチP2を有するナット2を示す。
【0046】
一定の平均直径を有するローラーを用いた、図4に示す代替の実施形態は:
・一方で、第一の平均直径及び所定の幅を有する、周囲にねじ切りされた2つの円筒形部分41と、
・他方で、周辺部分よりも小さい半径を有する、中空のねじ切りされていない中央部分40と
を有するローラーの使用である。
【0047】
中空の中央部分40は、大きなトルク吸収に対する要求事項を満足する1つの解決策を提供できるようにする。この形状は、ねじのローラーの故障から生じる、負荷モーメントを低減できるようにする。
【0048】
周辺部分は他の部品、とりわけ中間部品7と接触している。それに反して、中空部分は中間部品7とは接触していない。
【0049】
これらのローラーは、並進の変位における精度を保ちつつ、良好な接触及び良好な力の伝達の確保を可能にする。
【0050】
図5は、本発明の代替の実施形態を示す。この代替の実施形態において、ねじ3は自由に並進移動でき、回転において固定されている。ハブ50により表わされているナットは、回転及び並進において固定され、中間部品7は回転及び自由に並進移動できる。
【0051】
電動機は、ハブにつながれた固定子である固定部分51、及び中間部品7を回転駆動する回転子である、取り外し可能な部分52を備える。
【0052】
ねじ3は、電動機の作用下においてP1−P2の差動運動を行う。ハブ50は固定されているため、ハブに対するねじの相対変位は、P1とP2との間のピッチにおける差に相当する。
【0053】
上述の実施形態において、ローラーはねじ切りされている。言い換えれば、第一のローラーのグループは、中間部品7の第一のめねじと係合する、ねじ山とも呼ばれる第一のらせん状溝を備える。第二のローラーのグループは、中間部品7の第二のおねじと係合する、ねじ山とも呼ばれる第二のらせん状溝を備える。
【0054】
代替の一実施形態において、ローラーはねじ切りされていないが、円形の溝を備える。第一のローラーのグループは、中間要素の第一のめねじと係合する第一の溝を含み、第二のローラーのグループは、中間要素の第二のおねじと係合する第二の溝を含む。溝は、ねじの軸に対して、すなわちローラーの軸に対して直角である。本発明は多くの利点を有する。本発明は、特に強度と剛性の性能を増すことを可能にする。特に、スタッキングはほとんどない。
【0055】
別の利点は大きい減速能力である。本発明は装置の小さい寸法を保持しつつ、高い強度、剛性、減速能力及び不可逆性能を得ることを可能にする。
【0056】
終わりに、最後の利点はローラーの存在による軸受の廃止の可能性である。このアプローチは、軸受を持たない電気式アクチュエーター又は完全な機構が製作され得ることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動ローラーねじであって、外側ナット(2)と、第一の溝を備えた第一のローラーのグループ(4)を含む転がり要素とを含み、前記第一のグループが前記ねじ周囲の第一の円筒形リング内に配置され、それが第二の溝を備えた第二のローラーのグループ(4’)を含み、前記第二のグループが第二の円筒形リング内に配置され、前記2つの円筒形リングが同軸であり、中間の円筒要素(7)が前記2組のローラーのグループ(4、4’)間に配置され、前記中間要素(7)が、第一のピッチを用いて形成され第一の方向を有する第一のめねじと、第二のピッチを用いて形成され前記第一の方向とは反対の第二の方向を有する第二のおねじとを備えることを特徴とする、差動ローラーねじ。
【請求項2】
ローラーがねじ切りされ、ねじ山が前記第一及び第二の溝により形成されることを特徴とする、請求項1に記載の差動ローラーねじ。
【請求項3】
前記第一及び第二の溝が円形であることを特徴とする、請求項1に記載の差動ローラーねじ。
【請求項4】
前記ローラーの前記溝の横断面が三角形であることを特徴とする、請求項2又は3のいずれかに記載の差動ローラーねじ。
【請求項5】
前記中間要素(7)が電動機(5)により回転駆動され、前記中間要素(7)が前記第一の方向に並進移動し、前記ナット(2)が前記第二の方向に並進駆動され、前記ねじ(3)が固定されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項6】
前記中間要素(7)が電動機(5)により回転駆動され、前記中間要素が前記電動機(5)に接続され、回転において前記電動機(5)をガイドし、前記中間要素(7)が前記第一の方向に並進移動し、前記ねじ(3)が前記第二の方向に並進駆動され、前記ナット(2)が固定されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項7】
前記ナットがハブ(50)であることを特徴とする、請求項1、5又は6のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項8】
前記ローラー(4、4’)が再循環ローラーであり、前記ローラー(4、4’)がカム及び固定フィンガーを含むことを特徴とする、請求項1、5又は6のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項9】
前記ローラーがその各端部に2つのねじ切りされた円形部分(41)を備え、前記ローラーの中央部分(40)が、前記ねじ切りされた部分よりも小さい半径を有することを特徴とする、請求項1、5又は6のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項10】
前記中間要素(7)が、前記第一の周辺ローラーのグループ(4)を介して中央ねじ(3)に接続され、前記第二の周辺ローラーのグループ(4’)を介して前記外側ナット(2)に接続されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。
【請求項11】
前記第一のピッチ(P1)が前記第二のピッチ(P2)と異なる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の差動ローラーねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−507593(P2013−507593A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533563(P2012−533563)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064490
【国際公開番号】WO2011/045182
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【Fターム(参考)】