説明

差動伝送回路及びプリント回路板

【課題】グラウンドに電気的に接続される第2及び第3コンデンサの静電容量の値のばらつきによって発生するコモンモード成分を抑制し、かつ、差動信号送信部に起因するコモンモード成分も低減する。
【解決手段】差動伝送回路100は、インダクタ11,12からなるインダクタ部8と、インダクタ部8の信号入力側に設けられた入力側コンデンサ部7と、インダクタ部8の信号出力側に設けられた出力側コンデンサ部9とを備える。入力側コンデンサ部7は、第1及び第2の信号線3,4間に設けられた第1のコンデンサ21と、第1の信号線3とグラウンドとの間に設けられた第2のコンデンサ22と、第2の信号線4とグラウンドとの間に設けられた第3のコンデンサ23とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器等のデジタルデータ伝送方式に適用される差動伝送回路及びプリント回路板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル複合機やデジタルカメラに代表されるような電気・電子機器は、高速化、高精彩化の要求が高まっており、大容量のデジタル信号の高速伝送が必要となっている。そのため、大容量データを高速に伝送することが可能な差動信号伝送方式が広く用いられるようになっている。
【0003】
差動信号伝送方式において、信号伝送に必要な基本信号は、一対の信号線のそれぞれに振幅がほぼ等しく、互いに極性が反転したノーマルモード成分により伝送される。また、ノーマルモード成分には、信号伝送に必要な基本信号の成分のほか、基本信号の周波数の高調波成分の信号も含まれている。しかしながらノーマルモード成分は、互いの電流が発生する磁束を打ち消し合うため、高調波成分に起因する差動伝送路からの放射ノイズを抑制することができる。
【0004】
一方、差動信号伝送方式では、ノーマルモード成分の他に、一対の信号線に互いの極性が同一なコモンモード成分の信号も伝送される。コモンモード成分は、差動信号送信部に起因するノーマルモード成分のアンバランス性や、一対の信号線でのアンバランスによって、ノーマルモード成分が変換されることによって発生する。また、このコモンモード成分は、一対の信号線上を互いに同一方向に電流が流れ、発生する磁束が強め合うため、差動伝送路からの放射ノイズが大きくなってしまう。
【0005】
このような放射ノイズを抑制する方法として、特許文献1には、差動信号受信部にてデータ再生に必要な周波数スペクトラムを通過させるローパスフィルタ(LPF)によって帯域制限を行ない、高域の不要なスペクトラムを除去することが記載されている。
【0006】
図7は、従来例の差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。この図7では、特許文献1におけるLPFを簡略化したものを図示している。図7に示すLPFの場合、ノーマルモード成分は、π型フィルタを構成するコンデンサ401、インダクタ201及びコンデンサ403と、コンデンサ402、インダクタ202及びコンデンサ404とにより、その高調波成分の透過量を低減させている。一方、コモンモード成分は、主にコンデンサ401,402を介してグラウンド(GND)に流すことで、コモンモード成分の透過量を低減させている。つまり、このような構成にすることによって、差動信号送信部に起因するコモンモード成分を低減し、一対の信号線からの放射ノイズを低減させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−372213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、通常市販されているコンデンサの静電容量値は、ある一定の規格には入っているものの、一致しているわけではない。通常、公称値に対して±10%程度の誤差を含んでいる。このコンデンサの静電容量値のばらつきは、伝送する信号の周波数が1GHz以上になるとその影響が大きくなる。
【0009】
上記特許文献1において、グラウンド(GND)に電気的に接続されるコンデンサ401,402,403,404の静電容量の値には、ばらつきが存在する。コンデンサ401,402,403,404の静電容量の値にばらつきがあると、一対の信号線にアンバランスが存在することになるため、ノーマルモード成分がコモンモード成分に変換されてしまい、コモンモード成分が発生してしまうことになる。したがって、従来のLPFではコモンモード成分の発生量が多く、放射ノイズの低減効果が低かったため、LPFでコモンモード成分が発生するのを抑制する必要があった。
【0010】
そこで、本発明は、コモンモード成分が発生するのを抑制することで、放射ノイズを低減できる差動伝送回路及びプリント回路板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、差動信号を送信する差動信号送信部と、差動信号を受信する差動信号受信部と、前記差動信号送信部と前記差動信号受信部とを電気的に接続する第1の信号線及び第2の信号線と、を備えた差動伝送回路において、前記第1の信号線に設けられた第1のインダクタ、前記第2の信号線に設けられた第2のインダクタを有するインダクタ部と、一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続された第1のコンデンサ、一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第2のコンデンサ、一端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第3のコンデンサを有する入力側コンデンサ部と、前記インダクタ部と前記差動信号受信部との間に設けられ、前記インダクタ部及び前記入力側コンデンサ部と協働して差動信号に含まれるノーマルモード成分を減衰させる出力側コンデンサ部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、入力側コンデンサ部の第2のコンデンサと第3のコンデンサとの静電容量の値のばらつきに起因して発生するコモンモード成分が抑制される。したがって、第1及び第2の信号線を伝搬する差動信号において、コモンモード成分が低減されるので、第1及び第2の信号線からの放射ノイズが低減する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。
【図2】第2実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。
【図3】第3実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。
【図4】CとCの比率に対する、コモンモード成分の発生量の最大値を示すグラフである。
【図5】CとCの比率に対する、コモンモード成分の透過量の最小値で表したグラフである。
【図6】比較例の差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。
【図7】従来例の差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。差動伝送回路100は、半導体素子で構成された差動信号送信部1と、半導体素子で構成された差動信号受信部2と、差動信号送信部1と差動信号受信部2とを電気的に接続する第1の信号線3及び第2の信号線4と、を有している。これら一対の信号線3,4により差動信号配線5が構成されている。
【0016】
第1の信号線3及び第2の信号線4は、プリント配線板501に形成された導体パターンである。差動信号送信部1は、プリント配線板501に実装されている。また、差動信号受信部2は、プリント配線板502に実装されている。
【0017】
差動信号送信部1は、第1の送信端である第1の送信端子1aと、第2の送信端である第2の送信端子1bとを有し、差動信号受信部2は、第1の受信端である第1の受信端子2aと、第2の受信端である第2の受信端子2bとを有している。
【0018】
プリント配線板501の各信号線3,4は、差動信号送信部1の各送信端子1a,1bに電気的に接続されている。プリント配線板502は、導体パターンからなる第3の信号線51及び第4の信号線52を有しており、各信号線51,52は、差動信号受信部2の各受信端子2a,2bに電気的に接続されている。そして、信号線3と信号線51とは、第1のケーブル41により電気的に接続されており、信号線4と信号線52とは、第2のケーブル42により電気的に接続されている。
【0019】
これにより、差動信号送信部1の第1送信端子1aと、差動信号受信部2の第1の受信端子2aとは、第1の信号線3により、第1のケーブル41及び第3の信号線51を介して電気的に接続されている。また、差動信号送信部1の第2の送信端子1bと差動信号受信部2の第2の受信端子2bとは、第2の信号線4により、第2のケーブル42及び第4の信号線52を介して電気的に接続されている。
【0020】
差動信号送信部1は、一対の信号線3,4に差動信号を出力することで、差動信号受信部2に差動信号を送信する。差動信号受信部2は、差動信号送信部1により送信された差動信号を受信する。差動信号はデジタル信号であり、データをシリアル化したシリアル信号である。そして、差動信号のうち、第1の信号線3を伝送する信号成分と第2の信号線4を伝送する信号成分とは互いに逆位相となっている。差動信号受信部2は、これら信号成分の電圧の差分から差動信号の電圧レベル(ハイレベル、ローレベル)を判別し、データを再生する。
【0021】
また、差動伝送回路100は、第1及び第2の信号線3,4に設けられたフィルタ回路としてのローパスフィルタ(以下、LPFという)6を備えている。LPF6は、差動信号送信部1近傍に設けられている。具体的には、LPF6は、プリント配線板501に実装されている。これらプリント配線板501、差動信号送信部1及びLPF6により、プリント回路板500が構成されている。以下、LPF6の具体的な構成について説明する。
【0022】
LPF6は、インダクタ部8と、インダクタ部8の入力側に設けられた入力側コンデンサ部7と、インダクタ部8の出力側、即ちインダクタ部8と差動信号受信部2との間に設けられた出力側コンデンサ部9とを有して構成されている。
【0023】
インダクタ部8は、第1の信号線3に設けられた第1のインダクタ11と、第2の信号線4に設けられた第2のインダクタ12とを有してなる。第1のインダクタ11は、2つの端子11a,11bを有し、第2のインダクタ12は、2つの端子12a,12bを有している。インダクタ11,12は、信号線3,4に直列に設けられており、インダクタ11,12の一方の端子(一端)11a,12aが信号入力端となり、他方の端子(他端)11b,12bが信号出力端となる。
【0024】
入力側コンデンサ部7は、第1、第2及び第3のコンデンサ21,22,23からなる。第1のコンデンサ21は、2つの端子21a,21bを有している。第2のコンデンサ22は、2つの端子22a,22bを有している。第3のコンデンサ23は、2つの端子23a,23bを有している。第1のコンデンサ21は、一方の端子(一端)21aが第1のインダクタ11の信号入力端である端子11aに電気的に接続され、他方の端子(他端)21bが第2のインダクタ12の信号入力端である端子12aに電気的に接続されている。つまり、第1のコンデンサ21は、信号線3,4間に設けられている。
【0025】
第2のコンデンサ22は、一方の端子(一端)22aが第1のインダクタ11の信号入力端である端子11aに電気的に接続され、他方の端子(他端)22bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。つまり、第2のコンデンサ22の端子22aが、第1の信号線3に電気的に接続されている。
【0026】
また、第3のコンデンサ23は、一方の端子(一端)23aが第2のインダクタ12の信号入力端である端子12aに電気的に接続され、他方の端子(他端)23bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。つまり、第3のコンデンサ23の端子23aが、第2の信号線4に電気的に接続されている。
【0027】
出力側コンデンサ部9は、インダクタ部8と差動信号受信部2との間に設けられた第4のコンデンサ31からなる。第4のコンデンサ31は、コンデンサ素子で構成されている。第4のコンデンサ31は、2つの端子31a,31bを有している。第4のコンデンサ31は、一方の端子(一端)31aが第1のインダクタ11の信号出力端である端子11bに電気的に接続され、他方の端子(他端)31bが第2のインダクタ12の信号出力端である端子12bに電気的に接続されている。
【0028】
入力側コンデンサ部7、インダクタ部8及び出力側コンデンサ部9は、ノーマルモード成分に対しては、π型フィルタとして機能する。従って、π型フィルタとして機能する入力側コンデンサ部7、インダクタ部8及び出力側コンデンサ部9が協働することにより、差動信号に含まれるノーマルモード成分(具体的には、第1エンベロープよりも高い周波数帯、即ち高調波成分)が減衰される。
【0029】
一方、差動信号送信部1から出力された差動信号に含まれるコモンモード成分は、主に入力側コンデンサ部7の第2及び第3のコンデンサ22,23を通過してグラウンド(GND)に流れる。したがって、差動信号送信部1から出力された差動信号に含まれるコモンモード成分はLPF6で効果的に減衰される。
【0030】
本第1実施形態では、第2のコンデンサ22と第3のコンデンサ23とは、静電容量の公称値が同一の値のコンデンサ素子を使用している。ここで、第1のコンデンサ21の静電容量の公称値をC、第2及び第3のコンデンサ22,23のそれぞれの静電容量の公称値をCとする。ノーマルモード成分の信号に対して、入力側コンデンサ部7の合成容量の値をCとすると、Cは、以下の式1で表される。
【0031】
【数1】

【0032】
一方、従来例である図7において、Cは以下の式2で表される。
【0033】
【数2】

【0034】
合成容量値Cは、LPF6を構成する素子の1つのため、その値は一意的に決定される。そのため、本第1実施形態の構成においては、公称値Cとする第1のコンデンサ21が挿入されていることにより、従来例よりも第2及び第3のコンデンサ22,23の公称値Cの値を小さくすることができる。
【0035】
ここで、同じ公称値のコンデンサであっても、許容差により実際の静電容量の値にはばらつきが存在する。このように、第2のコンデンサ22の静電容量の値と、第3のコンデンサ23の静電容量の値とにばらつきがあったとしても、従来よりも小さい値の公称値Cのコンデンサ素子を用いているため、静電容量のばらつきの大きさは、従来よりも小さくなる。つまり、合成容量値Cに対する誤差を小さくすることが可能となる。したがって、入力側コンデンサ部7において、ノーマルモード成分からコモンモード成分に変換される、即ち、コモンモード成分が発生するのを抑制することができる。
【0036】
よって、LPF6は、差動信号に含まれるコモンモード成分を減衰させると共に、コモンモード成分の発生も抑制しているので、第1及び第2の信号線3,4からの放射ノイズを低減させることができる。更に、本第1実施形態では、第1及び第2の信号線3,4にコモンモード成分が発生するのが低減されるので、第1及び第2のケーブル41,42を伝搬するコモンモード成分が低減される。したがって、第1及び第2のケーブル41,42からの放射ノイズも低減することができる。
【0037】
また、従来、2つのコンデンサ403,404(図7)の静電容量値のばらつきに起因してコモンモード成分が発生していた。これに対し、本第1実施形態では、コンデンサ403,404の代わりに、インダクタ11,12の信号出力端である端子11b,12b間に第4のコンデンサ31が電気的に接続されている。これにより、ノーマルモード成分に対しては、インダクタ11の端子11bと仮想的なグラウンドとの間に、第4のコンデンサ31の2倍の静電容量値のコンデンサが設けられているのと等価である。また、ノーマルモード成分に対しては、インダクタ12の端子12bと仮想的なグラウンドとの間に、第4のコンデンサ31の2倍の静電容量値のコンデンサが設けられているのと等価である。したがって、第4のコンデンサ31による、インダクタ11の端子11bと仮想グラウンドと間の静電容量値と、インダクタ12の端子12bと仮想グラウンドとの間の静電容量値とにばらつきはない。これにより、出力側コンデンサ部9における静電容量値のばらつきに起因するコモンモード成分の発生が防止される。
【0038】
本第1実施形態では、出力側コンデンサ部9においてコモンモード成分の発生を防止しているので、より効果的に第1及び第2の信号線3,4からの放射ノイズを低減させることができる。更には、第1及び第2のケーブル41,42に伝搬するコモンモード成分が効果的に低減されるので、第1及び第2のケーブル41,42からの放射ノイズも効果的に低減させることができる。
【0039】
[第2実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。なお、図2において図1と同じ部材には同じ符号を付し、その説明は省略する。上記第1実施形態では、出力側コンデンサ部9が、図1に示した第4のコンデンサ31のみからなる場合について説明したが、図2に示したように、第5のコンデンサ632及び第6のコンデンサ633からなる構成であっても構わない。
【0040】
図2において、差動伝送回路200は、上記第1実施形態と同様、差動信号送信部1と、差動信号受信部2と、第1の信号線3及び第2の信号線4からなる差動信号配線5と、を有している。
【0041】
更に、本第2実施形態では、差動伝送回路200は、上記第1実施形態とは異なる構成のフィルタ回路であるローパスフィルタ(LPF)606を備えている。LPF606は、プリント配線板501に実装されている。これらプリント配線板501、差動信号送信部1及びLPF606により、プリント回路板600が構成されている。
【0042】
LPF606は、上記第1実施形態と同様、入力側コンデンサ部7と、インダクタ部8と、を有している。本第2実施形態では、LPF606は、上記第1実施形態の出力側コンデンサ部9とは異なる構成の出力側コンデンサ部609を有している。
【0043】
出力側コンデンサ部609は、第5のコンデンサ632と、第6のコンデンサ633とを有している。各コンデンサ632,633は、コンデンサ素子で構成されている。第5のコンデンサ632は、2つの端子632a,632bを有している。第6のコンデンサ633は、2つの端子633a,633bを有している。
【0044】
第5のコンデンサ632は、一方の端子(一端)632aが第1のインダクタ11の信号出力端である端子11bに電気的に接続され、他方の端子(他端)632bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。つまり、第5のコンデンサ632の端子632aは、第1の信号線3に電気的に接続されている。
【0045】
また、第6のコンデンサ633は、一方の端子(一端)633aが第2のインダクタ12の信号出力端である端子12bに電気的に接続され、他方の端子(他端)633bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。つまり、第6のコンデンサ633の端子633aは、第2の信号線4に電気的に接続されている。
【0046】
以上、本第2実施形態によっても、上記第1実施形態と同様、第1及び第2の信号線3,4からの放射ノイズを低減させることができ、更には、第1及び第2のケーブル41,42からの放射ノイズを低減させることができる。
【0047】
[第3実施形態]
図3は、本発明の第3実施形態に係る差動伝送回路の概略構成を示す電気回路図である。なお、図3において図1と同じ部材には同じ符号を付し、その説明は省略する。上記第1実施形態では、出力側コンデンサ部9が、図1に示した第4のコンデンサ31のみからなる場合について説明したが、図3に示したように、更に、第5のコンデンサ732及び第6のコンデンサ733を設けた構成であっても構わない。
【0048】
図3において、差動伝送回路300は、上記第1実施形態と同様、差動信号送信部1と、差動信号受信部2と、第1の信号線3及び第2の信号線4からなる差動信号配線5と、を有している。
【0049】
更に、本第3実施形態では、差動伝送回路300は、上記第1及び第2実施形態とは異なる構成のフィルタ回路であるローパスフィルタ(LPF)706を備えている。LPF706は、プリント配線板501に実装されている。これらプリント配線板501、差動信号送信部1及びLPF706により、プリント回路板700が構成されている。
【0050】
LPF706は、上記第1実施形態と同様、入力側コンデンサ部7と、インダクタ部8と、を有している。本第3実施形態では、LPF706は、上記第1及び第2実施形態の出力側コンデンサ部9,609とは異なる構成の出力側コンデンサ部709を有している。
【0051】
出力側コンデンサ部709は、第4のコンデンサ731と、第5のコンデンサ732と、第6のコンデンサ733とを有している。各コンデンサ731,732,733は、コンデンサ素子で構成されている。第4のコンデンサ731は、2つの端子731a,731bを有している。第5のコンデンサ732は、2つの端子732a,732bを有している。第6のコンデンサ733は、2つの端子733a,733bを有している。
【0052】
第4のコンデンサ731は、一方の端子(一端)731aが第1のインダクタ11の信号出力端である端子11bに電気的に接続され、他方の端子(他端)731bが第2のインダクタ12の信号出力端である端子12bに電気的に接続されている。
【0053】
第5のコンデンサ732は、一方の端子(一端)732aが第1のインダクタ11の信号出力端である端子11bに電気的に接続され、他方の端子(他端)732bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。
【0054】
第6のコンデンサ733は、一方の端子(一端)733aが第2のインダクタ12の信号出力端である端子12bに電気的に接続され、他方の端子(他端)733bがグラウンド(GND)に電気的に接続されている。
【0055】
以上、本第3実施形態によっても、上記第1実施形態と同様、第1及び第2の信号線3,4からの放射ノイズを低減させることができ、更には、第1及び第2のケーブル41,42からの放射ノイズを低減させることができる。
【実施例】
【0056】
次に、図1に示した本発明の第1実施形態に係る差動伝送回路100の具体的な実施例について説明する。
【0057】
図1に示す差動伝送回路100において、第1及び第2のインダクタ11,12のインダクタンス値L,Lを39nH、第4のコンデンサ31の静電容量値Cを2.7pF、入力側コンデンサ部7における合成容量値Cを18pFとした。
【0058】
ここで、第2及び第3のコンデンサ22,23は公称値Cに対して±10%のばらつき(許容差)を有しているものとし、ばらつきの最大値として20%のばらつきをもつ状態でシミュレーションを行い、コモンモード成分の発生量を算出した。シミュレーションには、4ポートのSパラメータ計算を用い、各ポート(1a,2a,1b,2b)の基準インピーダンスを50Ω、計算する周波数範囲を1GHzに設定した。
【0059】
図4は、CとCの比率(C/C)に対する、LPF6において発生するコモンモード成分の発生量の最大値を示すグラフである。図4において、横軸をCとCの比率(C/C)、縦軸をコモンモード成分の発生量の最大値で表している。図4中、上記素子値の条件のLPF6から発生するコモンモード成分を実線で示している。
【0060】
たとえば(C/C)が1の場合、Cを18pFとするためには、コンデンサ21の容量の公称値Cは12pF、コンデンサ22,23の容量の公称値Cは12pFとなる。ただしCは20%のばらつきを持っているので、コンデンサ22を13.2pF、コンデンサ23を10.8pFとして計算した。
【0061】
また(C/C)が2の場合、Cを18pFとするためには、コンデンサ21の容量の公称値Cは14.4pF、コンデンサ22,23の容量の公称値Cは7.2pFとなる。ただしCは20%のばらつきを持っているので、コンデンサ22を6.48pF、コンデンサ23を7.92pFとして計算した。
【0062】
また、図7に示した従来例のLPFの構成において、インダクタ201,202のインダクタンス値を39nH、コンデンサ403,404の容量値Cを各々5.4pF、コンデンサ401,402の合成容量値Cを18pFとした。ここで、コンデンサ401,402の容量値Cと、コンデンサ403,404の容量値Cは、±10%のばらつきを有しているものとし、ばらつきの最大値として20%のばらつきをもつ状態でシミュレーションを行った。すなわち、コンデンサ401を32.4pF、コンデンサ402を39.6pF、コンデンサ403を5.94pF、コンデンサ404を4.86pFとして、コモンモード成分の発生量を算出した。従来例の結果を図4中、点線で示している。
【0063】
図4に示すように、CとCの比率の値が増加するに連れて、コモンモード成分の発生量が抑制されていくことが分かる。また、一般的に、放射ノイズが抑制されたという状態の指標値としては、低減効果として6dBあれば充分である。ここで、図4より、従来例と比較して6dB低減する、CとCの比率の値は0.75となる。つまり、CとCの比率の値が0.75以上であれば、LPF6におけるコモンモード成分の発生量を充分に抑制できる。
【0064】
次に、LPF6について、コモンモード成分に対する低減能力を明らかにするために、LPF6におけるコモンモード成分に対する透過量を算出した。その結果を図5に示す。図5は、CとCの比率(C/C)に対する、LPF6におけるコモンモード成分の透過量の最小値で表したグラフである。図5において、横軸をCとCの比率(C/C)、縦軸をコモンモード成分の透過量の最小値で表している。図5中、上記素子値の条件のLPF6から透過するコモンモード成分を実線で示している。
【0065】
なお、ここでいうコモンモード成分の透過量の最小値とは、放射ノイズ規格周波数帯域の範囲におけるものであり、ここでは、1GHzまでの周波数帯域について説明する。また、ここでいうコモンモード成分とは、差動信号送信部1に起因するコモンモード成分のことである。
【0066】
一方、比較例として、ノーマルモード成分に対してLPF6と同一の透過特性を持ち、LPFを構成するコンデンサ301,302が差動伝送路間にのみ接続されている差動伝送回路を図6に示す。図6に示すLPFは、2つのインダクタ201,202と、インダクタ201,202の信号入力端間に接続されたコンデンサ301と、インダクタ201、202の信号出力端間に接続されたコンデンサ302とを有している。図6に示した比較例のLPFの構成において、インダクタ201,202のインダクタンス値を39nH、コンデンサ301の容量値を18pF、コンデンサ302の容量値を2.7pFとした。この比較例のLPFについて、本実施例のLPF6と同様にコモンモード成分に対する透過量を算出した。比較例の結果を図5に点線で示している。
【0067】
図6に示すLPFのコンデンサ301,302は差動伝送路間に接続されているため、同一方向に流れるコモンモード成分に対しては影響を与えない。そのため、図5に示すように、コモンモード成分の透過量は、LPF6よりも大きい。
【0068】
これに対し、本実施例のLPF6では、差動信号送信部1からのコモンモード成分は、図1に示すコンデンサ22,23を介してグラウンド(GND)に流すことができる。そのため、図6に示す回路構成と比べて、コモンモード成分の透過量を小さくすることができる。
【0069】
また、図5より、CとCの比率の値が増加するに連れて、コモンモード成分の透過量も増加していくことが分かる。一般的に、放射ノイズが抑制されたという状態の指標値としては、低減効果として6dBあれば充分である。ここで、図5より、比較例と比べて透過量が6dB低減する、CとCの比率の値は2.25となる。つまり、CとCの比率の値が2.25以下であれば、差動信号送信部1に起因するコモンモード成分を充分低減することができる。
【0070】
以上まとめると、図4と図5より、コンデンサ22,23の静電容量の差が20%以内であり、CとCの比率の値が0.75以上2.25以下であれば、コンデンサ22,23の静電容量のばらつきによるコモンモード成分の発生を効果的に抑制できる。更に、LPF6は、CとCの比率の値が以上の条件であれば、差動信号送信部1に起因するコモンモード成分も効果的に低減することができる。
【0071】
なお、本発明は、以上説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0072】
上記第1〜第3実施形態では、差動信号送信部と差動信号受信部とが互いに異なるプリント配線板に実装されてケーブルで電気的に接続されている場合について説明したが、これに限定するものではない。差動信号送信部と差動信号受信部とが同一のプリント配線板に実装されている場合であっても同様の効果を奏するものである。この場合、プリント配線板と、プリント配線板に実装された差動信号送信部、差動信号受信部及びフィルタ回路とを有してプリント回路板が構成される。
【符号の説明】
【0073】
1…差動信号送信部、2…差動信号受信部、3…第1の信号線、4…第2の信号線、6…ローパスフィルタ(LPF)、7…入力側コンデンサ部、8…インダクタ部、9…出力側コンデンサ部、11…第1のインダクタ、12…第2のインダクタ、21…第1のコンデンサ、22…第2のコンデンサ、23…第3のコンデンサ、31…出力側コンデンサ、100…差動伝送回路、GND…グラウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号を送信する差動信号送信部と、差動信号を受信する差動信号受信部と、前記差動信号送信部と前記差動信号受信部とを電気的に接続する第1の信号線及び第2の信号線と、を備えた差動伝送回路において、
前記第1の信号線に設けられた第1のインダクタ、前記第2の信号線に設けられた第2のインダクタを有するインダクタ部と、
一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続された第1のコンデンサ、一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第2のコンデンサ、一端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第3のコンデンサを有する入力側コンデンサ部と、
前記インダクタ部と前記差動信号受信部との間に設けられ、前記インダクタ部及び前記入力側コンデンサ部と協働して差動信号に含まれるノーマルモード成分を減衰させる出力側コンデンサ部と、を備えたことを特徴とする差動伝送回路。
【請求項2】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続された第4のコンデンサであることを特徴とする請求項1に記載の差動伝送回路。
【請求項3】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第5のコンデンサと、一端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第6のコンデンサとからなることを特徴とする請求項1に記載の差動伝送回路。
【請求項4】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続された第4のコンデンサと、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第5のコンデンサと、一端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第6のコンデンサとからなることを特徴とする請求項1に記載の差動伝送回路。
【請求項5】
前記第2のコンデンサと前記第3のコンデンサとは静電容量の差が20%以内であり、前記第1のコンデンサの静電容量の公称値をC、前記第2及び第3のコンデンサのそれぞれの静電容量の公称値をCとしたとき、C/Cの値が、0.75以上2.25以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の差動伝送回路。
【請求項6】
差動信号を送信する半導体素子と、前記半導体素子が実装され、前記半導体素子に電気的に接続された第1の信号線及び第2の信号線からなる差動信号配線を有するプリント配線板と、を備えたプリント回路板において、
前記プリント配線板に実装されたフィルタ回路を備え、
前記フィルタ回路は、
前記第1の信号線に設けられた第1のインダクタと前記第2の信号線に設けられた第2のインダクタとからなるインダクタ部と、
一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続された第1のコンデンサと、一端が前記第1のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第2のコンデンサと、一端が前記第2のインダクタの信号入力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第3のコンデンサとからなる入力側コンデンサ部と、
前記インダクタ部の出力側に設けられ、前記インダクタ部及び前記入力側コンデンサ部と協働して差動信号に含まれるノーマルモード成分を減衰させる出力側コンデンサ部と、を有することを特徴とするプリント回路板。
【請求項7】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続された第4のコンデンサであることを特徴とする請求項6に記載のプリント回路板。
【請求項8】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第5のコンデンサと、一端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第6のコンデンサとからなることを特徴とする請求項6に記載のプリント回路板。
【請求項9】
前記出力側コンデンサ部は、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続されに接続された第4のコンデンサと、一端が前記第1のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第5のコンデンサと、一端が前記第2のインダクタの信号出力端に電気的に接続され、他端がグラウンドに電気的に接続された第6のコンデンサとからなることを特徴とする請求項6に記載のプリント回路板。
【請求項10】
前記第2のコンデンサと前記第3のコンデンサとは静電容量の差が20%以内であり、前記第1のコンデンサの静電容量の公称値をC、前記第2及び第3のコンデンサのそれぞれの静電容量の公称値をCとしたとき、C/Cの値が、0.75以上2.25以下であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載のプリント回路板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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